日銀短観予想では景況感が悪化する、ではどこまで?
今週金曜日4月1日の公表を控えて、シンクタンクから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は来年度2022年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックやウクライナ危機といった経済外要因の動向次第という面があり、シンクタンクにより大きく見方が異なることになってしまいました。それでも、景況感が悪化するのは明らかだという予想です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。
機関名 | 大企業製造業 大企業非製造業 <設備投資計画> | ヘッドライン |
12月調査 (最近) | +17 +10 <n.a.> | n.a. |
日本総研 | +7 +2 <+1.9%> | 先行き(6月調査)は、全規模・全産業で3月調査対比+2%ポイントの改善を予想。活動制限の解除により、サービス消費を中心に個人消費が回復に向かうほか、供給制約の緩和に伴う製造業生産の回復が景況感を下支えする見通し。もっとも、ウクライナ問題が長期化すれば、資源価格の高止まりなどを通じて企業業績の悪化が避けられないことから、景況感が一段と冷え込むおそれも。 |
大和総研 | +11 +3 <▲1.0%> | 3月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+12%pt(最近からの変化幅: +1%pt)、大企業非製造業は+9%pt(同: +6%pt)といずれも改善を予想する。まん延防止等重点措置の解除が見込まれるなか、経済社会活動の活性化への期待感が高まっていることが「小売」、「対個人サービス」、「宿泊・飲食サービス」といった業種を中心に非製造業の業況判断DI(先行き)の改善に寄与するとみられる。 大企業製造業では、半導体不足の緩和によって生産拡大を見込む「自動車」の業況判断DI(先行き)が改善するとみている。さらに、同業種における増産が関連業種に波及することで「鉄鋼」の業況判断DI(先行き)も上昇を見込む。こうした好材料がある一方で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって資源価格の見通しに不確実性が強まっており、資源価格高騰に伴う投入コストの増加が収益を押し下げるリスクへの警戒が高まっている。このため、大企業製造業における業況判断DI(先行き)の改善幅は非製造業よりも小さくなるとみている。 |
みずほリサーチ&テクノロジーズ | +13 +7 <+0.9%> | 製造業・業況判断DIの先行きは2ポイントの悪化を予測する。半導体不足が引き続き自動車生産の重石になるほか、早期のウクライナ情勢沈静化は見込めず、資源価格の高止まりが製造業の業況を全般的に下押しするだろう。 非製造業・業況判断DIの先行きは2ポイントの改善を見込む。3回目のワクチン接種や経口治療薬の普及を背景に感染者数の減少が続くと予想される中、対人接触型サービス消費持ち直しへの期待から宿泊・飲食サービスや対個人サービスは改善が見込まれる。ただし、一部の消費者に慎重さが残っているほか、インバウンド回復も見込めないことから、これらの業種のDIはマイナス圏(「悪い」超)での推移が続く見通しだ。 |
ニッセイ基礎研 | +10 +4 <+0.3%> | 先行きの景況感も大幅な改善は見込めない。ウクライナ情勢の緊迫化を受けて資源価格の上昇圧力が強い状況が続くと見られることから、先々の原材料・燃料価格上昇に対する企業の懸念は強いはずだ。さらに製造業では、インフレ加速に伴う海外経済の減速や供給網の混乱に対する懸念も燻っているとみられることから、先行きにかけての景況感改善は示されないと見込んでいる。一方、非製造業ではワクチン接種の進行もあり、オミクロン株の感染縮小とそれに伴うまん延防止等重点措置の解除への期待が追い風となるものの、製造業同様、原材料・燃料価格上昇に対する懸念が重荷となり、先行きにかけての景況感改善が小幅に留まると見ている。なお、中小企業非製造業については、もともと先行きを慎重に見る傾向が強く、先行きにかけて景況感の改善が示されることが稀であるだけに、今回も小幅な悪化が示されると予想している。 |
第一生命経済研 | +6 +5 <大企業製造業+3.5%> | これまで業種全般が2020年6月をボトムにして、緩やかな回復過程にあったが、その流れは下向きに変わろうとしている。中小企業は、製造業・非製造業がともに水面上(「良い」超)に浮上することなく、悪化方向に変化した。コロナ感染が和らぎそうな局面で、ウクライナ侵攻が起こったことは、まさしく回復の流れに「冷や水」を浴びせたかたちである。現時点で、楽観的な材料は見つけにくいのが実情である。ロシアが停戦合意に向けて動き出し、欧米日の経済制裁が早期に解除させることが復活の鍵になる。 |
三菱総研 | +9 +5 <+1.5%> | 先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業が3月時点から▲2%ポイント低下の+7%ポイント、非製造業は3月時点から横ばいの+5%ポイントと予測する。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇や、資源の供給不足懸念、世界経済の減速は、製造業・非製造業ともに業況の下押し要因となる。ただし、非製造業は防疫措置の段階的解除により、外出関連を中心に消費回復が予想されることから、横ばいを見込む。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | +15 +6 <大企業全産業+102%> | (大企業製造業)先行きは、ウクライナ危機による資源価格上昇や海外経済悪化への警戒感が幅広い業種の業況を悪化させる一方、部品不足解消で、挽回生産が期待される自動車や、自動車に部材を供給する鉄鋼などで改善が見込まれ、2ポイント悪化の13と、悪化は軽微にとどまろう。 (大企業非製造業)先行きは、2月中旬以降、オミクロン株の拡大が鈍化していることもあり、経済活動の正常化が期待され、1ポイント改善の7と、ウクライナ危機への警戒感がある中でも改善が見込まれる。 |
農林中金総研 | +14 +6 <▲0.5%> | 先行きに関しては、足元の感染「第6波」の収束や3回目のワクチン接種の進展によってコロナ禍の影響が弱まり、非製造業を中心に経済活動再開への期待が高まる半面、コスト高に伴う業績圧迫懸念やウクライナ情勢を巡る不透明感も高まっている。大企業・製造業は13、中小企業・製造業は▲8と、今回予測からそれぞれ▲1ポイント、▲2ポイントの悪化予想を見込む。一方、大企業・非製造業は8と今回予測から+2ポイントの改善、中小企業・非製造業は▲8で今回予測と変わらずと予想する。 |
ということで、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは+12と、12月調査の+18から悪化するものの、まだまだプラス領域であり、しかも、+10を上回る、と予想しています。私の実感としては+10を上回るほどではないと考えていますが、まあ、プラスはプラスなのでしょう。総理大臣官邸のサイトによれば、足元で3回目のワクチン接種の進捗は全国民の⅓を少し超えたところですし、新たな変異株による第6波の感染拡大のリスクは、エコノミストの私からすれば未知としかいいようがありません。加えて、ロシアのウクライナ侵攻は資源価格の上昇となって先進各国におけるインフレを招いていて、我が国の消費者物価指数(CPI)上昇率も、3月統計までは携帯電話料金の引下げによって低い水準を維持すると見られるものの、その効果が剥落する4月統計からは+2%に達し、「22年中は2%前後の推移が続く」と、ニッセイ基礎研のリポートでは予測しています。ただし、コロナの感染拡大が落ち着きを取り戻せば、資源価格の上昇はコストプッシュによる物価上昇につながるとはいえ、そのインパクトは産業や企業ごとに異なるわけですし、コストの上昇を抑え込むのか、それとも、消費税率の引上げの時のように製品価格へのスムーズな転嫁を図るのか、といった対応策によっても左右されます。何度も繰り返しているように、私はコストプッシュによる価格上昇を抑え込もうとするのではなく、価格上昇を受け入れられるような企業売上や家計所得の増加を目指す政策が必要と考えますが、現在の岸田内閣の方向感は違っているようです。加えて、化石燃料価格の上昇は2050年カーボン・ニュートラルにとっては大きなチャンスとなる可能性もあります。例えば、先週3月23日の経済財政諮問会議には有識者議員から「現下のエネルギー価格上昇を脱炭素社会構築に向けた突破口に」と題するメモが提出されています。化石燃料価格を引き下げるために企業に補助金を出すような政策は大きな疑問が残ります。
下のグラフは業況判断DIの推移を日本総研のリポートから引用しています。
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