ロシアに対する経済制裁は世界と日本にどれくらいの影響があるのか?
ロシアによるウクライナ侵攻は連日メディアで報道されているところですが、我が国は欧米各国と協力してロシアに対する経済制裁を行っていることも広く報じられています。果たして、そういった経済制裁がどのような経済的な帰結となるのかについては、それほど議論が進んでいません。この点について、JETROアジア経済研究所から「ロシアに対する経済制裁の世界経済への影響 - IDE-GSMによる分析」と題するリポートが明らかにされています。参照先は以下の通りです。
一応、私も大学教授ですので、学術資料としての参考文献の形で示すと以下の通りです。
- 熊谷聡、早川和伸、後閑利隆、磯野生茂、ケオラ・スックニラン、坪田建明 (2022)「ロシアに対する経済制裁の世界経済への影響 - IDE-GSMによる分析」アジ研ポリシー・ブリーフ No.156、IDE-JETRO、2022年4月1日
IDE-GSMモデルとは、Institute of Developing Economies-Geographical Simulation Modelの略であり、産業としては、農業部門と製造業部門の自動車、電気機械、繊維製品・衣服、食料品・飲料・たばこ、その他製造業、そして、サービス業の3産業7部門、さらに、地域としては、東アジアの18の国・地域、すなわち、ASEAN10、日本、中国、韓国、台湾、香港、マカオ、インド、バングラデシュの約1800地域を中心に、東アジア以外の63か国のデータで構築されている空間経済学に基づいた一般均衡モデルです。途上国の地域レベルでの経済発展分析に応用されています。
まず、アジ研のサイトからテーブルの形で 1年間の「全面制裁」の影響 を引用すると上の通りです。今年2022年におけるベースラインとの比較、すなわち、deviation のパーセント表示で示されています国別かつ産業別です。当然、国別ではロシアへの影響が大きくなっていますが、ロシアの輸入、日本や経済制裁に参加している欧米各国から見た輸出が阻害されますので、ロシア国内の輸入比率の多い産業、例えば、テーブルから見る限り、電子・電機産業とか、繊維・衣料産業とかのロシア国内での生産は逆に大きく増加するという結果が示されています。ただし、ロシア経済に占めるこれらの産業のシェアは小さく、金額としては小さい点は留意する必要があります。
次に、アジ研のサイトから世界地図の形で 1年間の「全面制裁」の影響 を引用すると上の通りです。ロシアについては若干の濃淡はあるものの、当然、全域で大きなマイナスの影響が出ていることが見て取れます。また、モンゴルやカザフスタンなどの中央アジア諸国、ロシアに接する東欧諸国、中国の西部や北部などに比較的大きな影響が見られます。加えて、小さいとはいえアフリカ諸国にも影響が及んでいる点は見逃せません。
リポートでは、この全面制裁のほかに中国を除く制裁の影響も試算しています。上のテーブルのロシアのGDPへの影響▲15.8%が、中国が抜けるだけで▲4.6%と、大幅に縮小してしまいます。これも重要な情報だという気がします。
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