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2022年4月21日 (木)

東京商工リサーチ「価格転嫁に関するアンケート調査」の結果やいかに?

一昨日4月19日に東京商工リサーチから「価格転嫁に関するアンケート調査」の結果が明らかにされています。たった2問のアンケート調査なのですが、約7割の企業が「価格転嫁できていない」などの結果が示されています。まず、東京商工リサーチのサイトから問を2点引用すると以下の通りです。

価格転嫁に関するアンケート調査
Q1.貴社で使用する原油・原材料の価格動向について、原油・原材料の価格上昇に伴うコスト増加分のうち、何割を価格転嫁できていますか?
Q2.貴社で使用する原油・原材料について、現在から何%上昇すると貴社は赤字(営業利益ベース)となりますか?

とてもシンプルな問なのですが、各問に対応する回答のテーブルを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、東京商工リサーチのサイトから、「Q1.貴社で使用する原油・原材料の価格動向について、原油・原材料の価格上昇に伴うコスト増加分のうち、何割を価格転嫁できていますか?」の問いに対する回答のテーブルを引用しています。テーブルですから見ての通りで、「転嫁できていない」が68.6%(3,900社中、2,679社)の一方で、「10割」(=フル転嫁)は4.2%(165社)しかありません。企業規模の分類は粗くて大企業と中小企業だけなのですが、なぜか、「転嫁できていない」割合は大企業の方が大きくて、「10割」(=フル転嫁)は中小企業の方が高くなっています。価格支配力は大企業の方が大きいというのが一般的な見方のような気がしますが、この調査結果は逆になっているように見えます、少しだけ謎です。テーブルからは読み取れないのですが、「価格転嫁できていない」と回答した企業を業種別(ただし、業種中分類、回答母数20以上)で見ると、もっとも価格転嫁に苦戦しているのは、受託開発ソフトウェアや情報提供サービスが含まれる「情報サービス業」の90.7%(108社中、98社)、次いで、旅行やブライダルなどの「その他の生活関連サービス業」が90.4%(21社中、19社)などとなっていて、「サービス業が目立ち、無形サービスや役務を提供する業種では、価格転嫁が難しい」と東京商工リサーチでは分析しています。そうかもしれません。

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続いて、東京商工リサーチのサイトから、「Q2.貴社で使用する原油・原材料について、現在から何%上昇すると貴社は赤字(営業利益ベース)となりますか?」の問いに対する回答のテーブルを引用しています。これまた見ての通りで、「すでに赤字」が30%近くを占めていて、またまた、大企業の方が中小企業よりも割合が高くなっています。また、現状は黒字でも、「10%以下」の値上がりで赤字になる企業は16.9%(292社)に達ています。逆に、「51%以上」、すなわち、50%までの値上がりには耐えられる企業の割合は、大企業が9.0%(13社)に対して、中小企業が4.3%(69社)にしか過ぎず、大企業の方がコストアップに対して、それなりの対応策を持っている、という気がします。また、これもテーブルには示されていませんが、「すでに赤字」と回答した企業を業種別(ただし、業種中分類、回答母数20以上)で見ると、もっとも高い比率を示したのが、「繊維・衣服等卸売業」の46.4%(28社中、13社)、以下、「道路貨物運送業」の46.3%(69社中、32社)、「輸送用機械器具製造業」の43.7%(32社中、14社)、「印刷・同関連業」の38.4%(39社中、15社)と続きます。

このブログでは何度も繰り返して主張していますが、今回の物価上昇・コストアップは石油や天然ガスをはじめとする資源価格の上昇からの波及であり、気候変動や地球温暖化の防止の観点からも、化石エネルギー企業に補助金を出して価格を抑制するのではなく、家計や中小企業などの所得支援を政策の中心に据えるべきです。さすがに、日本のメディアなどもこの点に気づきつつあり、朝日新聞の4月18日付けの社説「ガソリン補助 価格介入拡充は疑問だ」では、「政府は、資源高で困窮するような家計や一部の事業者向けに的を絞った支援策を整えつつ、価格への介入は規模を徐々に縮小していくべきだ。脱炭素化に向けて、省エネやエネルギー利用の構造転換を加速させることも急務になる。」と、私のこのブログと同じラインの主張をしています。価格転嫁が難しいから、化石エネルギー供給企業に補助金を出して価格を抑制するのではなく、必要な所得支援を実行して価格転嫁を進めやすくする、という視点が必要です。そうでなければ、気候変動や地球温暖化の対策に逆行することになります。

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