とうとう上昇率が2ケタに達した企業物価指数(PPI)の先行きをどう見るか?
本日、日銀から4月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+10.0%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
4月の企業物価指数、前年比10.0%上昇 前月比1.2%上昇
日銀が16日発表した4月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は113.5で前年同月比で10.0%上昇、前月比で1.2%上昇だった。市場予想の中心は前年比9.4%の上昇だった。
円ベースで輸出物価は前年比17.3%上昇、前月比で5.6%上昇した。輸入物価は前年比44.6%上昇、前月比で10.8%上昇した。
とてもコンパクトながら、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価上昇の要因は主として3点あり、いずれも、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、第2に、我が国製造業のサプライチェーンにおける半導体などの供給制約の2点がコストプッシュの要因です。ただし、資源価格の高騰についてはウクライナ危機に段を発する供給要因だけではなく、一部のエコノミストから「中国要因」と呼ばれているように、新興国の景気回復による資源需要増という需要要因も同時に背景としています。とはいえ、あくまで我が国から見れば、という前提ですが、コストプッシュとみなすエコノミストも多いと考えられます。加えて、第3に、コストプッシュとデマンドプルの両面から、為替レートが減価している円安要因です。しかしながら、主としてコストプッシュ要因とはいえ、物価の上昇そのものは本格的なデフレ脱却には決して悪くない条件を提供している可能性があります。もちろん、円安は輸出増拡大による需要面からもデフレ脱却に寄与する可能性が十分あります。少なくとも供給面からの価格上昇に関しては、コストプッシュなのですから製品価格への転嫁を許容し、企業規模格差により価格転嫁が難しい中小企業に対する支援を強化し、さらに、消費者に対して生計費の上昇に対応した所得増を実現する、という企業行動や経済政策がデフレ脱却につながる可能性です。特に、最低賃金の引上げについては低所得者への影響が大きい上に、この先議論が本格化する季節ですし、何とか大幅な最低賃金引上げが実現することが必要です。逆に、コスト増で企業経営が苦しいからといって労働者が賃上げ抑制を押し付けられたり、中小企業からの納入単価が引き下げられたり、あるいは、現在の政府のガソリン補助金のようにコストプッシュの方を抑え込んで価格上昇を抑制しようとする方向は、価格シグナルに応じた市場メカニズムによる効率的な資源配分に歪みをもたらした上で、なかなか払拭できないデフレマインドをさらに強固に定着させかねない危険すらあります。価格転嫁が困難でお給料が上がらないことを前提に物価の方を抑え込む政策はデフレ脱却には逆行することは明らかです。中央銀行である日銀がデフレ脱却を目指した金融政策に取り組んでいる中で、政府が日銀と真逆の方向を向いていれば、日銀が「政府の子会社」であるかどうかはともかくとして、経済政策の有効性や整合性が低下するおそれが大きいと考えるべきです。
最後に、石油や天然ガスなどの化石燃料の価格上昇をある程度まで容認すれば、タバコ値上げと同様の効果があり、石油や天然ガスなどの消費を抑制して、地球温暖化や気候変動への対策にもつながる可能性が大きいと指摘しておきたいと思います。
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