海外ファンドは雇用を減らして賃金下落を招くのか?
日本における企業活動に関する大学の授業のために資料を整理していて、経済産業研究所のディスカッションペーパー "The Effect of Investment Funds on Employment and Wages" が検索にヒットし、やっぱり、投資ファンドからターゲットにされた企業では雇用減少と賃金への下方圧力が統計的に有意に確認される、ということが示されていました。このディスカッションペーパーのありかは以下の通りです。
まず、東証の資料「2020年度株式分布状況調査の調査結果」から、主要投資部門ごとの株式保有比率の推移のグラフを引用すると以下の通りです。昨年2021年7月の公表でして、もう2か月待てば新しくアップデートされた統計が入手できそうな気がするのですが、授業は待ってくれません。1990年のバブル崩壊から最近30年間の大きな変化は見ての通り、「都銀・地銀等、生・損保、その他金融」の保有比率が大きく低下し、逆に、「外国法人等」の比率が上昇しています。まあ、「事業法人等」の保有比率も低下して、いわゆる株式持合いが解消に向かいつつあるトレンドは確認できます。
そして、経産研のディスカッションペーパーでは、"The most important result is that both employment and wages decrease after acquisition by investment funds." と結論されています。ただし、私もよく認識していますが、投資ファンドがすべて外国人投資家だとは限りませんし、逆に、外国人投資家がすべて投資ファンドであると主張するつもりもありません。事実、経産研のディスカッションペーパーでは、" In particular, firms acquired by domestic funds are more likely to reduce wages and to make larger reductions in employee numbers." すなわち、国内資本のファンドに買収された企業ほど賃金を引き下げ、また、雇用者を大きく削減する蓋然性が高いと指摘されています。買収するファンドの "country of origin" も十分考慮する必要があるのは当然ですが、国内の投資ファンドであれ、海外の投資ファンドであれ、アクティビスト的な活動を主とする、というか、まあ、やや強引に別の表現をすれば、カギカッコ付きで「グローバル・スタンダード」に従った活動をする投資ファンドによる買収は、雇用と賃金にネガな影響を及ぼす、ということなのだろうと考えるべきです。
ですから、本日の記事のタイトルにはややごまかしがあるわけで、ついつい「海外ファンドは」で書き始めてしまいましたが、ホントは、「投資ファンドは」、あるいは、「アクティビスト・ファンドは」が主語にならないといけないのかもしれません。
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