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2022年6月18日 (土)

今週の読書は日本共産党国会議員による経済書をはじめ計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、大門実紀史『やさしく強い経済』(新日本出版社)は日本共産党の国会議員が新自由主義=ネオリベな現在の経済政策に代わるリベラルな経済政策を提言しています。私はほとんどの論点で賛成なのですが、金融政策運営と財政収支均衡に関して疑問を持っています。続いて、ジリアン・テット『ANTHRO VISION』(日本経済新聞出版)は英国「フィナンシャル・タイムズ」紙のジャーナリストが、経済や金融に人類学的な視点を導入する利点を強調しています。さらに、宮部みゆき『子宝船』(PHP研究所)は人気のミステリ作家の時代小説仕立ての謎解きです。「きたきた捕物帖」シリーズの第2巻です。そして、宮内悠介『かくして彼女は宴で語る』(幻冬舎)は、これも人気のミステリ・SF作家が実在の「パンの会」を舞台にした短編ミステリで、女給が安楽椅子探偵となって謎解きをします。最後に、おおたとしまさ『ルポ 名門校』(ちくま新書)では、日本各地の高校の名門校を取り上げて、単なる大学進学校とは違う顔を持つ名門校の取材結果を取りまとめています。
なお、今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計111冊となりました。6月半ばで軽く100冊を越えました。昨年は6月最後の土曜日で112冊でしたので、昨年を少し上回るペースです。ですので、少し余裕を持って、新刊書ならざる読書にも励みたいと思います。また、本日の読書感想文は、Facebookの然るべきグループでそのうちにシェアしたいと思います。

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まず、大門実紀史『やさしく強い経済』(新日本出版社)です。著者は、日本共産党の国会議員であり、経済問題の論客としても知られています。本書では、新自由主義=ネオリベな冷たく弱い経済から、より分配を重視した表題通りのやさしく強い経済を目指す経済政策のアウトラインを示す試みがなされています。ただ、150ページ余りのやや小振りな経済書ですので、足りない部分はいっぱいあります。2章構成で、第1章はネオリベ経済政策への批判に費やされており、第2章が私からすればメインとなります。その第2章では、第1章からの議論の続きで、極めて大雑把な私の理解ながら、冷たい=格差拡大、弱い=成長できない、から、結局、岸田内閣が腰砕けになってしまった分配の重視、ないし、成長から分配への経済の流れを戻す試みがいくつか提案されています。成長から分配へ、の「やさしい」方の大きな流れについては、私も従来から主張しているように、大企業を中心に内部留保利益=利益剰余金への課税、さらに、富裕層への課税強化、そして、消費税率の引下げを主張しています。まったくその通りです。そして、第2章後半の「強い」方の政策としては、賃上げと社会保障の充実による所得の底上げ、環境重視の気候変動抑止の政策による成長の強化、ジェンダー平等の達成による成長力の強化、個人情報保護を徹底したデジタル社会の発展の方向性、そして、教育や研究の自由を保証し中小企業を支援するなどの人的資本の重視の5点を上げています。私は諸手を挙げて賛成です。一応、というか、何というか、富裕層減税によるトリクルダウンが生じなかったという Hope and Linberg "The economic consequences of major tax cuts for the rich" キチンとした最新の学術文献も参照されています。その上で、あえて、その上で、3点、大きな2点とやや細かな1点について疑問を呈しておきます。まず、本書では、中央銀行の金融政策に関して何の言及もありません。大きく片手落ちだと私は感じています。私は現在の黒田総裁のもとでの異次元緩和は継続されるべきであり、金融政策が引締めに転じるのは間違った政策だと考えています。もっといえば、現在の水準くらいの円安は日本経済に決して大きなマイナスではなく、少なくとも政策的に、為替介入であれ、金融政策であれ、為替をターゲットにした政策によって「円安修正」を行うべきではないと考えています。加えて、物価についても、2013年には+2%のインフレ目標が政府と日銀で合意されており、現状のコアCPI上昇率+2%近傍の物価上昇は批判の対象にはならないと考えています。おそらく、私を含めた多くのエコノミストは、年内に+5%には遠く及ばずコアCPI上昇率はピークアウトするものと予想しています。その上で、黒田総裁の例の「物価上昇に対して家計の許容度が上昇している」発言に、たぶん、著者も批判を加えたのであろうと想像していますが、まさか、今さらながらに「中央銀行は政府から独立」なんてお題目で逃げを打つことなく、国民生活に大きな影響を及ぼす金融政策に関しても正面から発言することを期待します。もうひとつの大きな点は、財政政策における収支均衡の問題です。10年余前に当時の民主党を中心とする政権交代がありました。その差異、私はまだ総務省統計局に勤務していましたが、マニフェストに盛り込まれた政策を実行するための財源を確保するために、いわゆる「事業仕分け」が行われて、結局のところは緊縮財政に陥って国民の支持を失った記憶があります。そのあたりについても、例えば、プライマリ・バランスの黒字化達成目標なども何ら言及はありません。最近の岸田総理による軍事費拡大方針の表明についても、軍事費拡大とともに財源についても日本共産党の志位委員長がツイッタで疑問を呈しています。軍事費拡大は反対だが、国債による財源調達ならもっと反対、ということなのでしょうか。そうだとすれば、日本共産党が政権を取った際には国債ならざる財源で財政政策を運営するのか、という疑問もあります。もっと簡潔に、れいわ新選組と同じく「国債による財源調達もアリ」というのを大っぴらに認めるのも一案かと思わないでもありません。最後に、小さな点ですが、プライバシの確保についてです。私は市場との関わりにおけるプライバシがどこまで保護されるのかについては、それほど自信がありません。もちろん、他方で、市場との関わりのないベッドルームのプライバシについてはガッチリと保護されるべきであると考えますが、市場と個人の間の売買や資産購入や雇用と労働については、それほどプライバシはないものと覚悟しています。マネーロンダリングとまでいわないとしても、市場との取引情報はプライバシ保護の対象とすべきかどうか、かなりの程度にオープンにすべきではないのか、私は現時点でEUのGDPRのような規制はやややり過ぎのおそれがあると考えています。GAFAは、こういった市場との関係の個人情報を収集していますので、私自身はそれほど問題は大きくないし、少なくとも、現時点で国民が一方的に大きな損失を被っているのではない、と考えています。アマゾンのリコメンドなんかも、プライバシ侵害というよりは利便性の向上をもたらす部分も無視できない、と考えています。このプライバシの問題はやや別としても、中央銀行の金融政策と財政政策の大きな論点については、ぜひとも、正面から論じていただきたいと思います。

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次に、ジリアン・テット『ANTHRO VISION』(日本経済新聞出版)です。著者は、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のジャーナリストであり、ケンブリッジ大学から社会人類学の博士号を取得しています。FTは日経に買収されたとはいえ、ロンドンをベースにした経済紙であり、人類学とは関連薄い気もしますが、逆に、というか、それだけに、経済や金融に関する問題を読み解く際に、経済学や経営学ではなく人類学を応用する可能性を本書では議論しています。そして、その試みはハッキリいって失敗しています。そりゃあそうです。ムリがあります。確かに、感染症のパンデミックについては、まだ、人類学的な観点からのアプローチが可能だといえます。本書だけではなく、例えば、イタリア人はハグをするので感染が拡大した、なんて議論もありました。でも、金融などのデータがしっかりした分野ではモデルをキチンと組んで分析する学問体系が有利に決まっています。私は人類学はほとんど知りませんが、データのに基づくモデルを組んで分析する学問であるかどうかは疑問を持っています。もちろん、何らかの科学である限りはモデルを組んで分析をするわけですが、そのモデルがデータを基に組まれているとは限りません。経営学のケーススタディなんかは、観察結果をデータ化するのではなく、別の方法でモデル化しているようにしか私には見えません。ですから、ケーススタディでは良好な結果があ示されているとしても、確率的に失敗ケースがいっぱいありそうな気がしてなりません。失敗ケースに目を向けることなく、成功ケースだけを取り出してケーススタディしても、幅広い応用が可能であるかどうかは怪しいと思います。ただ、本書でも指摘しているように、将来の不確実性が大きく高まっている時代にあっては、経済学や経営学だけではない幅広い知見を総動員する必要が高まっていることも事実です。最も、他方で、AIがビッグデータを用いて問題解明に当たる時代なのですから、人類学の方法論から大きく遠ざかっているのも認めざるを得ません。加えて、著者自身が明らかにしているように、著者はリーマン・ブラザーズの破綻も、ケンブリッジ・アナリティカの暗躍も、実は、見逃していると明記しています。まあ、人類学の知見がそれらの対しては実践的には役に立たなかったわけです。当然のように、失敗ケースも成功ケースの裏側に数多くあるわけで、そのあたりのバランスを取りつつ読み進むのが吉かもしれません。

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次に、宮部みゆき『子宝船』(PHP研究所)です。著者は、我が国でももっとも売れているミステリ作家の1人です。本書のサブタイトルは「きたきた捕物帖(二)」となっていて、一昨年2020年9月26日に読書感想文をポストした『きたきた捕物帖』に続いてシリーズ第2弾となります。出版社の方でも力が入っているようで、特設サイトを開設していたりします。キャスティング、というか、人物相関図がとても判りやすくなっています。しかも、このシリーズに限定せず、同じ作者の他の作品とのリンケージも明らかにしてくれています。例えば、本書の主人公である北一が住んでいるのは、勘右衛門が差配する通称富勘長屋なのですが、『桜ほうさら』の主人公であった古橋笙之介も江戸では同じ富勘長屋に住んでいました。また、出版社は違いますが、政五郎親分やその配下だった記憶力抜群のおでこは「ぼんくら」シリーズにも登場します。おでこが記憶をたどるのは「ぼんくら」シリーズとまったく同じだったりします。ということで、この作品は3章構成なのですが、ストーリとしては2つの物語が詰め込まれています。第1章では、宝船の七福神の絵から子供を授かった家でありながら、子供が亡くなった後には弁財天が下船していた絵が見つかった事件が2件相次いで生じ、その絵を書いた酒屋で騒動が持ち上がって、町衆が解決するものの、北一は遅れて真相に気がつく、という軽い謎解きです。第2章と第3章が続き物で、弁当屋の親子3人がトリカブトの毒で死にます。そして、拷問により犯人が「自白」し、そのまま獄死して一件落着となるのですが、真犯人を北一が追いかけます。その北一を奉行所の検視役である栗山周五郎がバックアップします。この一家3人殺人事件で政五郎親分やおでこが登場します。実は、私は宮部みゆきの時代小説のシリーズの中では「ぼんくら」がもっとも好きで、出来もよかったと評価しているのですが、どうも、このままシリーズの続きは出ないようなウワサです。従って、というわけでもないのですが、出版社が違うにもかかわらず、ホンの少しだけリンケージをこの「きたきた捕物帖」シリーズに残しているのではないか、と私は想像しています。ひょっとしたら、この「きたきた捕物帖」は宮部みゆきの時代小説の集大成となるシリーズなのかもしれません。本書だけは大学の生協で買って読みました。1割引は有り難いです。

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次に、宮内悠介『かくして彼女は宴で語る』(幻冬舎)です。著者は、人気の若手ミステリ・SF作家であり、私はどちらかというとSF作家として評価していたりします。本書はサブタイトルに見えるように、明治期末から大正期にかけて活躍した作家や画家といった文人墨客が「牧神=パンの会」に集まって、各回ごとに謎解きをする、という趣向です。5話構成となっています。ホントは、それだけでなく、実は、最終話にちょっとしたサプライズが隠されていたりします。この作品の登場人物は、私もそう詳しくないのですが、ほぼほ実在していたようですし、「パンの会」そのものは確実に実在したもので、『スバル』系の詩人たちと『方寸』系の画家たちが語らって作ったロマン主義運動のサロンだったと、物の本には書かれていたりします。しかも、その第1回の集まりが「第一やまと」という料理屋で開催されたのも事実でそうです。そして、毎回謎解き、ということで、女給のあやのが安楽椅子探偵の役割を演じて解明をして、パンの会にご出席の上流階級の文人墨客を出し抜きます。ただ、ミステリに詳しい読者であれば、これがアシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズで給仕のヘンリーが謎解きをするのと同じ趣向であることは明確でしょうし、本書の第1章の最後の覚え書きでも作者自身がそう記しています。というか、この覚え書きを付すのもまた「黒後家蜘蛛の会」シリーズと同じといっていいかもしれません。そして、謎解きそのものは、ハッキリいって、凡庸です。しかも、「黒後家蜘蛛の会」と同じで、真相を確かめようがありませんから、まあ、言葉は悪いですが、出席者を納得させ説き伏せればそれで謎解きとして成立、ということになります。ただし、「頃後家蜘蛛の会」シリーズと異なる点がいくつかあります。まずは、「黒後家蜘蛛の会」シリーズの登場人物が、たぶん、上流階級ではあっても、まあ、一般ピープルと大きくは違わない人物像を前提としているのに対して、この作品では明治-大正期の実在の文人墨客を登場させていますし、それなりに、私のようなシロートからすれば、雰囲気ある会話をしているように見えます。ただ、登場人物に生気は感じられません。会話が面白いだけです。そして、「黒後家蜘蛛の会」シリーズと圧倒的に異なるのは、最終話でいくつかのとんでもない仕掛けがなされていることです。まず、ややネタバレかもしれませんが、謎を解く安楽椅子探偵役のあやの正体に驚かされる読者が多いと思います。そして、これもネタバレしてしまいそうなのですが、ある意味でメタ構造になっていて、最終5話で前の謎解きが振り返られるとともに、本書を離れた歴史のタイムトラベルめいた小説としての構造に驚かされます。いや、ミステリなのに、やや突っ込んだ感想文になってしまいました。少し反省しています。

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最後に、おおたとしまさ『ルポ 名門校』(ちくま新書)です。著者は、教育ジャーナリストであり、同種のものとして、私は同じ著者の『名門校とは何か?』(朝日新書)を2015年5月23日の読書感想文でポストしています。ということで、ここでいう「名門校」というのは、高校レベルの名門校です。ですから、大学ではありません。最後の方で明かされますが、著者の頭には、英国のパブリック・スクールのようなものがイメージされているようです。そして、決して大学進学一本槍ではないティーンエイジャーのころの高校生活の楽しさを満喫できる名門校が取りそろえて紹介されています。私も本書の見方には賛成です。というのも、学年が進むほど専門性が高くなり、高校というのは、ギリギリでその後の専門分野が入り乱れて学生間での異質性がかなり高いからです。異質性高くダイバーシティが進んでいる方が、ある意味で、友人関係というのは面白い可能性があります。一応、ここであからさまな自慢なのですが、私と2人の倅が卒業した高校は3校とも本書で取り上げていただいております。一応、我が母校は名門校の末席に連なっているという誇りは確認できました。ただ、男女比では圧倒的に男子校が多いような気がします。もちろん、公立校も数多く取り上げられていますし、私立高でも男女共学校は少なくないのですが、やっぱり、男子単学が多いのは、まさか、取材不足ではないのでしょうが、どうしても大学進学がひとつの名門高校の目安になるためであると私は理解しました。ただ、少なくとも、私の出身校は本書で言うところの自由とか、リベラルとよくマッチしています。バンカラで統制の行き届いた高校も、ある意味では魅力なのかもしれませんが、名門校とまでいわないとしても、特色ある教育という意味では自由な校風とリベラルな教育、ということになりそうです。ただ、本書では緩いという意味での自由ではない、と指摘していますが、私の出身校はハッキリいって緩かったような気がします。そして、自由な校風であるのは、言って悪いですが、そもそも大学受験に適した、というか、それなりの大学に合格するくらいの学力を持った生徒を集めているから、シャカリキになって詰め込む必要がない、というのもあります。生徒や学生ではなく、ある学校を名門校に育て上げていくためには、大学進学実績を作り上げるのが近道であることはいうまでもありませんし、実際にそういうコースを辿って名門校となった高校も少なくないと思いますが、その名門校といわれるステータスを得ることができれば、後は、自然といい生徒が集まっていい大学進学実績が残せる、という好循環に入るような気もします。ただ、そういった名門校入りすることがそもそも難しいのかもしれません。

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コメント

うちの息子も、この本に載ってるかどうかは不明ですが、当時は名門校と言われる中高一貫校に最下位で入学しました。成績は別にしても、楽しい6年間を送ったようです。公立より良い経験をしているような気がします。校長さんもキャラクターが際立っている方でした。

投稿: kincyan | 2022年6月18日 (土) 17時04分

>kincyanさん
>
>うちの息子も、この本に載ってるかどうかは不明ですが、当時は名門校と言われる中高一貫校に最下位で入学しました。成績は別にしても、楽しい6年間を送ったようです。公立より良い経験をしているような気がします。校長さんもキャラクターが際立っている方でした。

そうなんですよね。私も倅たちも男ばっかりの中高6年間だったんですが、とっても青春していたと思います。倅たちの場合はともかく、私の時は、1学年たった2クラス100人足らずの仲間でしたから、6年間もいっしょの学校に通えば、ほぼほぼ顔と名前が一致します。
私も定年退職してから関西に帰って来て、実は、幹事の1人は私と部活がいっしょで、しかも、神戸大学の教員という同業者なものですから、高校の同窓会をとても楽しみにしているのですが、コロナのためにずっと集まれずにいます。とっても残念。

投稿: ポケモンおとうさん | 2022年6月18日 (土) 17時15分

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