10か月連続の赤字を記録した5月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から5月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+15.8%増の7兆2521億円、輸入額は何と+48.9%増の9兆6367億円、差引き貿易収支は▲2兆3847億円の赤字となり、10か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
貿易赤字2兆3847億円 5月、資源高で過去2番目
財務省が16日発表した5月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆3846億円の赤字だった。赤字額は比較可能な1979年以降で2番目に大きく、5月としては最大だった。エネルギー価格の高騰や円安の影響で輸入額は前年同月比48.9%増の9兆6367億円と、3カ月連続で過去最高を更新した。
赤字は10カ月連続。輸入はアラブ首長国連邦(UAE)やオーストラリアからを中心に、原油を含む原粗油と液化天然ガス(LNG)がそれぞれ2.5倍に増えた。石炭は3.7倍となった。原粗油の輸入額は14カ月連続で増加し、数量ベースでも7カ月連続で増えている。
貿易赤字が過去最大となったのは2014年1月の2兆7951億円で、11年の東日本大震災後の原子力発電所停止によりLNGなどの燃料輸入額が膨らんだ。14年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要をにらんだ輸入も増えていた。
22年5月の輸出額は15.8%増の7兆2520億円だった。鉄鋼が60.2%増、灯油など鉱物性燃料が5倍に増えた。
地域別にみると、対米国の貿易黒字は8.6%減の3278億円で3カ月ぶりに減少した。輸入が24.2%増の9268億円となり、液化石油ガスが79.3%増、航空機向けを含む原動機が58.5%増えた。自動車の輸出は15.6%減と落ち込んだ。新型コロナウイルスや世界的な半導体不足が響いている。
中国向けの自動車輸出も36.3%減った。中国との貿易収支は6077億円の赤字で、14カ月連続の赤字となった。スマートフォンを含む通信機の輸入が25.7%増、集積回路などの半導体等電子部品の輸入が54.9%増となり、赤字を拡大させる要因となった。
対ロシアの貿易収支は1469億円の赤字で、赤字額は2.7倍に膨らんだ。ウクライナ侵攻による物流網の混乱や日本政府の輸出禁止措置を背景に、輸出は57.1%減の263億円だった。一方、輸入はエネルギー価格の高騰で49.8%増の1732億円だった。原粗油と石炭はそれぞれ数量ベースで34.9%減、43.2%減となったが、価格高騰により輸入額としては31%増、2.2倍への増加となった。
やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲兆円を超える貿易赤字が見込まれていて、予想レンジで貿易赤字が最も大きいケースで▲2.5兆円でしたので、実績の▲2兆3847億円の貿易赤字はやや下振れた印象ながら、まあ、こんなもんという受止めかもしれません。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年5月までの10か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、1年を超えて14か月連続となります。しかも、貿易赤字学がだんだんと拡大しているのが見て取れます。輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字なのですが、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。
5月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、すべて季節調整していない原系列の統計の前年同月比で、輸出では自動車の輸出が金額ベースで▲7.9%減、台数ベースでも▲16.6%の大きな減少を示しています。その昔の1970年代の石油危機で石油価格が大きく上昇した際には、燃費のいい日本車が販売を大きく伸ばしており、足元でも同じように石油価格が上昇しているのですが、物流と部品供給の制約のために自動車輸出は明らかに停滞しています。ほかに金額ベースと数量ベースが比較できるもののうち、我が国の主力輸出品となっているものを見ると、半導体等電子部品のうちのICは金額ベースでは+25.8%増と大きく伸びましたが、数量ベースでは▲5.5%減となっていますし、電算機類(含周辺機器)も金額ベースで+1.0%増ながら、数量ベースでは▲32.7%減を記録しています。ほかにも、金額ベースでは伸びている一方で、数量ベースでは減少している輸出品が少なくありません。もちろん、金額ベースで増加しているのは為替の円安などの価格要因と考えるべきです。輸入では、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油の輸入額が大きく増加しています。これも前年同月比で見て数量ベースで+26.7%増が金額ベースで+147.2%増と大きく水増しされます。昨年5月から金額ベースで2.5倍の増加となっているわけです。液化天然ガス(LNG)も数量ベースでは+16.3%増であるにもかかわらず、金額ベースでは+154.7%増と、原油及び粗油と同様です。加えて、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+15.4%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は極めて少数派ではないかと考えられます。
足元の円安について、その昔のJカーブ効果を持ち出せば、タイムラグ少なく輸入価格を上昇させ輸入額を押し上げる一方で、輸出の価格競争力を高めて輸出増をもたらすのにはタイムラグがある程度あります。ただ、このタイムラグの差は最近では大きくない可能性も考慮しておかねばなりません。また別の面で、エネルギー価格高騰を受けて、日経新聞が「石油元売り、資源高で純利益最高に 22年3月」、あるいは、「7商社、資源高で最終最高益 三菱商事が22年3月期首位に」などと報じているように、石油元売り各社や総合商社などのエネルギー関連企業が大きな利益を上げている点は見逃すべきではありません。
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