経団連21世紀政策研究所リポート「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」を読む!!!
やや旧聞に属するトピックかもしれませんが、先週の6月2日に経団連21世紀政策研究所から「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」と題するリポートが明らかにされています。経団連のサイトにpdfでアップロードされているんですが、200ページ近いボリュームですので、私はお願いして印刷物を郵送していただきました。
本リポートでは、1990年のバブル崩壊以降、日本経済が需要不足とデフレに陥り、賃金が上昇しない中で企業の利益剰余金や配当だけが伸びていることから、家計が疲弊して中間層が没落した、という問題意識に立って、いくつかの分析と中間層復活に向けた政策提言を行っています。それらの中から、私の方で重要と考えるポイントをいくつか取り上げておきたいと思います。

まず、日本経済の現状は支出側で需要不足であり、分配側の中間層の衰退と悪循環をなしている、という認識が示されます。上の概念図はリポートp.2から 現状分析の全体イメージ を引用しています。ちょっとだけ話を逸れると、今週は日経ビジネス文庫で『ケインズ説得論集』を読みましたので、明後日の土曜日の読書感想文で取り上げる予定ですが、経済が停滞している際には、ケインズは明確に、需要の拡大もしくは生産費の引下げが必要であると指摘しています。当然、望ましいのは前者の需要の拡大なのですが、日銀こそ黒田総裁の下で拡張的な金融政策に転じたものの、アベノミクスの失敗は2014年から2度に渡って消費税率を引き上げたことであり、財政による需要のサポートがありませんでした。エグゼクティブサマリーに続く本リポート第2章では財政運営について、プライマリーバランスの黒字化目標と国際の60年償還ルールが緊縮財政の原因と指摘し、第3章では財政破綻論に対して反論を加えています。
この第2章と第3章で現状分析がなされた上で、第4章以降の政策提言が加えられています。すなわち、第4章では、私が必ずしも好まない観念論のようにも見えますが、デジタル化やグリーン化に対応しつつ、コロナなどによる意識変化や新たな価値観に沿った投資、2030年に向けて100兆円レベルの投資の必要性を提言しています。この第4章は、やや別として、第5章では高圧経済の下での労働力の流動化の必要性を明らかにしています。そうです、高圧経済ではなく需要不足の現状で労働力を流動化させても賃金の停滞に帰結するだけです。その上で、第6章では公的部門での賃上げと雇用拡大の必要性を提言しています。公務員もそうなのかもしれませんが、特に介護職員などの報酬引上げも視野に入れる必要があります。これは政策運営で十分可能な範囲です。最後に、第7章では地方からの資金流出をストップし、資金が地域内で投資される環境整備を提言しています。
経団連に関係するシンクタンクで、ここまでの議論がなされて立派なリポートが明らかにされた点については、ハッキリいって、私はビックリです。中央銀行は独立だとか、財政均衡を目指す、なんて、緊縮型の経済政策運営に基づく主張が多いのかと思っていたものですから、かなり驚いています。
私は大学院の授業で、いわゆるGDPの三面等価、すなわち、支出と生産と分配、ないし所得の3つの側面において、政府の役割を指摘しています。もちろん、ミクロ経済学的に独占や外部経済などの市場の失敗に対応することも重要ですが、マクロ経済学の観点からGDPの三面等価を例に出した政府の役割を簡単に説明しています。ただ、生産に政府が介入するのは社会主義的であると言い置いた後、支出面では政府支出を直接的にコントロールできるわけですし、アベノミクスではまったく無視されていた分配を岸田内閣ではもっと重視されるべきと期待しつつも、最近のいわゆる「骨太の方針」では、分配が軽視されて成長に重点が置かれており、失敗に終わったアベノミクスと変わるところは見受けられません。ぜひとも、分配面を重視して中間層を復活させ日本経済のさらなる活性化を目指してほしいものだと期待しています。
ちなみに蛇足ながら、GDPの三面等価に着目した政府介入について、私の大学院での授業では、支出における政府の役割を重視する向きは Keynesian state、生産に政府が介入するのは Socialist state、そして、分配に政府が積極的に介入するのは Welfare state、と説明することにしています。ひょっとしたら、少し違うかもしれませんが、大学院生の間で大雑把に理解されているような気がします。
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