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2022年7月31日 (日)

理化学研究所などの研究者の雇止めに関する海外学術誌の記事やいかに?

少し前から、理研の非正規雇用の研究者の雇止めが世界的に話題になっています。なぜか、日本国内ではほとんど報道されないのですが、世界的にも著名な科学誌2誌が今月になって相次いで取り上げています。かの Science 誌と Nature 誌です。いずれも世界最高峰の科学誌のひとつといえます。私の専門分野である経済学とはかなり違うのですが、日本のイノベーション力に大いに関係することと考えますので、簡単にリンクだけメモしておきたいと思います。なお、以下にリンクを掲げる Science 誌のサイトには、私も訪れたことがある SPring8 の航空写真が、"SPring 8, one of the world's most powerful synchrotrons, is among the cutting-edge facilities RIKEN brought online during 3 decades of growth" との説明とともに掲載されています。

特に、Nature 誌の方では、理化学研究所だけでなく、ほかの国立研究所や国立大学でも、2023年に雇止めになる可能性がある研究者が合わせて3000人近くに上ることを報じています。繰り返しになりますが、我が国のイノベーションにとって重要な戦力ではないのでしょうか? これでいいのでしょうか?

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2022年7月30日 (土)

今週の読書は経済学の学術書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7月に入ってから先週までに19冊、今週の4冊と合わせて7月は23冊ですから、今年に入ってから129冊となりました。年間200冊のペースを少し超えています。また、新刊書ならざる読書もしているのですが、Facebookのアカウントが不明な理由で停止されていてシェアできません。

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まず、ロバート・スキデルスキー『経済学のどこが問題なのか』(名古屋大学出版会)です。著者は、ケインズ研究、特に全3巻の『ケインズ伝』で有名なエコノミストであり、もう80歳を超えているハズですが、ウォリック大学の研究者です。英語の原題は What's Wrong with Economics? であり、2020年の出版です。なお、出版社から考えても明らかに学術書であり、一般ビジネス・パーソンを読者に想定しているわけではないような気がします。ということで、序文にもある通り、1980年前後における新自由主義=ネオリベの経済政策の導入、すなわち、英国のサッチャー内閣や米国のレーガン政権のあたりからの不平等の拡大を経て、日本ではリーマン・ショックと呼ばれている金融危機までの約30年間をあとづけています。そして、その間の主流派経済学はネオリベの「共犯者」とされています。私もそう思います。そして、主流派経済学、主として、新古典派経済学がケインズ的なマクロ経済学のミクロ的基礎づけを試みようとする動きを完全に否定しています。このミクロ的基礎づけというのは、合理的な経済人=ホモ・エコノミカスによる合理的な選択という観点からあらゆる経済的帰結、すなわち、マクロ経済学的な景気循環まで含めた経済的帰結を説明しようと試みるものです。ですから、本書の例でいえば、景気の悪化による失業の発生というマクロ経済現象について、賃金低下に応じて各個人がミクロ的に労働時間を短縮しようとする合理的判断の集計量である、というようなものであって、まったく馬鹿げた試みであることは、私も強く同意します。その上で、昨今のビッグデータ、もっと昔には経済計算論争のようなものを持ち出して、十分なデータと計算能力があれば経済学は自然科学、あるいは、ハードサイエンスになることができる、という考えにも本書は疑問を呈します。ひとつはケインズ的なアニマル・スピリットや期待などのマインドが経済に果たす役割を強調しつつ、もうひとつはツベルスキー=カーネマンのような経済心理学などの知見から、人間の合理性が限定的であることも指摘しています。ただ、私はいくつか付け加えるべき点があるように感じています。第1に、先々週に取り上げた清水和巳『経済学と合理性』でも同様にマクロ経済学のミクロ的基礎づけを目指していて、私が疑問視した重要なポイントのひとつとして、社会的な推移率が成り立たない点を忘れるべきではありません。完備性と推移律と独立性と決定性が合理性の条件であるとされる場合が多いのですが、個人の選好であればまだしも、社会的には推移率は成り立ちません。大学の授業なんかでは、教育的見地から推移率を前提する場合がありますが、それは例外です。もうひとつは合成の誤謬です。みんなで貯蓄を増やそうとして貯蓄率を上げれば、貯蓄総額は減少してしまうわけです。そして、これは私だけのやや特殊な主張かもしれませんが、ハードサイエンスでも経済学でもモデルを分析対象とすることは同じである一方で、物理学などの自然科学の場合、モデルで説明できない観察結果が得られるとモデルの方を修正しようとするのに対して、経済学では厚生経済学に従って現実の経済社会の方を政策的にモデルに近づけようとする試みが可能であり、ネオリベ的な政策はまさにそれをやろうとしています。この3点が本書に付け加えられるべき点だと私は考えます。

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次に、エリオット・ヒギンズ『ベリングキャット』(筑摩書房)です。著者は英国出身であり、オープンソース調査集団「ベリングキャット」の創設者です。「ベリングキャット」とはその名のごとく、ネコに鈴をつけるという意味であり、この場合のネコとは国家ないし政府と考えて差し支えないのですが、ただ、自国というよりはほぼほぼロシアに限定されているような気がします。英語の原題は we are bellingcat であり、2021年の出版です。ということで、お話はロシア軍情報局の大佐であり、英国の二重スパイであった人物が家族とともに毒殺されかけた時点から始まり、より人口に膾炙したナワリヌイ氏、ロシアのプーチン大統領の政敵であったナワリヌイ氏の放射性毒物による暗殺未遂に進みます。そして、そのロシアの公然たる支援を受けたシリア国軍の内戦などにも事実関係の調査の手が伸びます。ということで、冒頭に書いたようにオープンソース、すなわち、ネット上にある何らかのソースを基にした調査活動により、ロシア政府のフェイクを暴く、という活動を詳しく紹介しています。内線やテロに関して兵器の特定などを多く取り上げていて、私の専門外ですので理解ははかどりませんでしたが、ロシア政府が虚偽情報を流している事実をオープンソースにより明らかにする活動のようです。ということで、広く認識されているように、いわゆる旧来型のジャーナリズム、新聞とか放送メディアの取材についてはオープンソースではありません。逆に、ニュースソースの秘匿が許されますし、場合によっては、秘匿されるべきケースも少なくないのではないか、と私なんかは想像しています。ですから、ニュースソースについての扱いは真逆なわけです。ですから、ニュースソースがオープンであることに関して私なんかが懸念するのは、第1に、ニュース提供者の安全です。ただし、この点については、提供者が自主的な判断によってネットに情報をポストしているわけですので、自己責任と考えるべきかもしれません。そして、第2に、もっと懸念が強いのは、ニュース提供者がこういった団体などのニュースソースになることを承知の上でフェイクを流すことです。当然ながら、ネット上にソースがあるという事実は、その情報が真実であることを保証しません。ソースを秘匿しようと、オープンであろうと、その情報が真実であるかどうかはジャーナリストの側の責任で保証せねばならない、と私は考えています。国民一般がメディアの情報を正確であると考えるのは、特に、ニュースソースを秘匿された情報を正確であると受け止めるのは、特定の新聞社や特定の放送局を信頼しているからであって、ニュースソースを信頼しているからではありません。ですから、べリングキャットのようなグループの情報については、情報を提供するべリングキャットに対する信頼に加えて、ソースの信頼性についても情報の受け手の側で一定のリテラシーを磨いておく必要があるのではないかと私は思います。個別具体的にべリングキャットが掘り起こした情報に関する興味は、私自身はそれほど持ち合わせませんでしたが、現在の情報あふれるネット社会での信頼性の置き方を深く考えさせられました。その意味で、とても面白い読書でした。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー『魔の山』(文藝春秋)です。著者は、世界で最も人気あるミステリ作家の1人だと思います。私はこの著者の作品の中では、ニューヨークを舞台にしたリンカーン・ライムのシリーズがもっとも好きなのですが、カリフォルニアの事件に取り組むキャサリン・ダンスのシリーズも見逃せません。本書はコルター・ショウを主人公とするシリーズであり、『ネヴァー・ゲーム』に続く第2弾で、すでに、第3弾の『ファイナル・ツイスト』の邦訳が出版されています。そして、この第3話で完結らしいと聞き及んでいます。この作者の作品は結構なハードボイルドなんですが、このコルター・ショウを主人公とするシリーズは特にハードボイルドの色彩月容器がします。タフガイです。なお、『ネヴァー・ゲーム』は昨年2021年1月末に読書感想文をこのブログにポストしています。英語の原題は The Goodby Man であり、2020年の出版です。邦訳は昨年2022年9月に出ていますので、まあ、1年以内ですので新刊書読書と考えています。ということで、本書ではコルター・ショウがカルト教団オシリスに潜入します。実に、安倍元総理の暗殺事件の後に、旧統一協会として知られる世界平和統一家庭連合のカルト振りが広く報じられるようになりましたが、本書でもカルト教団を取り上げています。本書の主人公のコルター・ショウは、同じ作者の作り出したリンカーン・ライムやキャサリン・ダンスと同じでスーパーマンなのですが、同時にサバイバル術に長けたタフガイでもあります。というか、そのタフガイ振りがスーパーマンであるわけです。ただ、本書についてはカルト教団潜入の動機がかなり弱いと言わざるを得ません。主人公であるコルター・ショウは懸賞金ハンターであり、もちろん、私立探偵のような働きもするのですが、何の懸賞金もかかっていない、もっといえば、何の稼ぎにもならないカルト教団への潜入を実行するいわれがないような気がします。でも、それはいっても仕方ないので、まあ、タフガイの主人公がカルト教団に潜入するわけです。そして、サスペンス的にハラハラドキドキはするものの、さして面白みはありません。ただ、タフガイの主人公がワンマンアーミーよろしく1人で活躍するだけではなく、同じような目的を持ってカルト教団に潜入しているタフな人々と協力してカルト教団と対決するわけです。ただし、カルト教団の創設者が少し物足りないキャラです。この創設者を取り巻く側近の造形にも物足りなさが残ります。新興カルト教団の活動については、まあ、想像される通りであって、多額の金銭的な献金、これは旧統一教会と同じ、というか、かなり多くの新興宗教にも当てはまりそうな気がします。そして、セックスです。こちらはどこまで当てはまるか、私は情報を持ち合わせません。そして、ジェフリー・ディーヴァーらしからぬ結末、というか、特に何のツイストもなくカルト教団が壊滅させられます。大味なストーリーであるものの、映画化されればアクションシーンはそれなりに話題になりそうな気もします。しかし、重要なのはカルト教団潜入ではなく、父親の死、あるいは、行方不明となっている兄にまつわる真相究明というポイントが残ります。それがすでに邦訳が出版されている『ファイナル・ツイスト』で解明されるのだろうと楽しみにしつつ図書館に予約を入れました。

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次に、神山典士『トカイナカに生きる』(文春新書)です。著者は、ノンフィクション作家であり、埼玉県のご出身ですので、「トカイナカ」の中でもやや埼玉県にスポットが当たっているような気がしました。ということで、広く知られたように「トカイナカ」という表現は経済評論家の森永卓郎氏の造語であり、森永氏が居住している埼玉県所沢市のようなロケーションを念頭に置いているのではないか、と私は想像しています。私も2年前に関西に引越してくる前は、東京23区内ながら5分も歩けば埼玉県、という土地に住んでいましたので、かなり雰囲気は理解できるつもりです。トカイナカが注目されているひとつの理由は、2020年からの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のためのテレワークとか、リモートワークといわれる在宅勤務の普及にあります。ですから、トカイナカに住みつつ、リモートワークで主要な仕事を遂行するとしても、週に1日や2日は東京都心のオフィスに出向く、という仕事スタイルが念頭に置かれているのだろうと想像します。その割には、まったく都心に出ない地方、すなわち、トカイナカではないイナカ一色の生活も大いに取り上げられている気がしなくもありません。すなわち、地方新興的な色彩の強い部分も大いに含まれています。ただ、トカイナカについては今後の方向性としてはいいと私も考えますが、現時点で花まだ未成熟な部分が少なくないと思います。ですから、19世紀後半の米国におけるゴールドラッシュのような状態で、何がいいたいかというと、ホントに金を掘り当てて大金持ちになったのは、いわゆる49ersの中の極めて少数の例外的な存在で、幅広く儲けたのは49ersに対して金を掘るツルハシなどの道具や衣食をはじめとする生活に必要な日用品を売りさばいた人々であった、という事実は忘れられるべきではありません。すなわち、本書でも東大卒の財務省経験者や総務省から出向の副市長などがクローズアップされていますが、こういったトカイナカ推進のコンサルタント的な人物がトカイナカで利益を上げている段階だと私は考えています。もちろん、この先、トカイナカがもっと成熟してホントのトカイナカ生活で大きなゆとりを手に入れる人々が出現することを私自身は願っていますが、他方で、米国のゴールドラッシュの歴史的経験が教えているのは、多くの49ersは夢に見たように金を掘り当てることによってではなく、カリフォルニアに移住してその地で別の産業に従事してより豊かな生活ができるようになったわけです。ですから、トカイナカ生活についても、あくまで東京を標準にしてトカイナカでテレワークに従事し、時折東京のオフィスに出向く、という以外の方法でより豊かな生活に移行する可能性があるように思われてなりません。その別の方法が現時点で私には不明なのは事実なのですが...

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最後に、和田秀樹『老いの品格』(PHP新書)です。著者は、灘高-東大医学部という超高偏差値コースをたどったことで著名な精神科医です。本書では、上の表紙画像に見られるように、老いてゆく私のような人に対して、上品、賢明、洒脱の3点をオススメしてくれています。誠に、私も同意できる点がいっぱいです。過去に、何かで書いたような記憶があるのですが、高齢になるに従って頑固で不機嫌になるのは、私が考える限り2点理由があります。第1に所得が減少するからです。第2に従来出来ていたことができなくなるからです。ですから、自分で勝手に頑固で不機嫌にしているだけならまだしも、大昔の「いじわるばあさん」、長谷川町子さんの4コマ漫画でも、それを原作にしたテレビドラマでも、どちらも同じことですが、周囲の人に意地悪で仇なしてストレス解消を図ったりする場合もあったりするんだろうと思います。ですから、本書では第4章でお金や肩書に対する執着を捨てることをオススメしています。私は60歳で公務員を定年した後、再就職したので65歳でもう一度大学教員を定年退職しますが、その後は、特任教授でサラリーマンでいうところの定年後嘱託みたいに働くとしてもお給料はガクンと落ちるのではないかと想像していますし、さらに、最終的には年金生活に入ればもっと収入は減ります。ただし、経済学的にいえば、フローとしての年々の収入は減る一方で、ストックとしてはかなり蓄積されるだろう、というか、蓄積せねばならない、と考えています。ここで、ストックというのは衣類のようなハードなモノもあれば、知識やノウハウといったソフトなものも両方です。この蓄積が本書の副題の「品よく、賢く、おもしろく」をカバーしているような気がします。そして、第2章で加齢を怖がる必要はないと主張して、以前は出来ていたことができなくなる、という点にも言及しています。特に、加齢のひとつの結果としての認知症までOKという幅広い寛容度を示しています。私も実は大いに賛同するところがあります。やや差別的な表現を含んでいるかもしれませんが、その昔は、というか、今でも「ボケたもん勝ち」くらいに考えています。すなわち、現時点で認知症を怖がるのはムリないのですが、認知症になったら、それはそれで決して不幸でもないような気がします。こういった議論を知り合いとしてたところ、その知り合いから「認知症になったら食生活が大きく乱れて、残り寿命が短くなる」との反論を受けたのですが、まあ、それはそれでいいのではないか、という気もします。最後に、ケインズ卿が言及した血気=アニマル・スピリットというのは、じっとしていられなくて何かに取り組むという意味で、ハッキリいって、「落ち着きのなさ」の一種だと私は理解しているんですが、老いるに従って、というか、私の場合はこういったアニマル・スピリットをいうものを若いころから持ち合わせません。起業しても失敗するだけだということは大学生になる前から認識していました。ですから、私自身はムリをしない、がんばらない、そして、子供達や学生諸君にもがんばるとしてもムリはしない、というのを教えてきたつもりです。年齢を経るに従ってますますこの傾向が強まるような気がします。そして、私の場合だけかもしれませんが、最後は認知症、のような気がします。強くします。

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2022年7月29日 (金)

大きくリバウンドした鉱工業生産指数(IIP)と減速する商業販売統計と底堅い雇用統計と基調判断が下方修正された消費者態度指数!!!

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+8.9%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.5%増の12兆4800億円でしたが、季節調整済み指数では前月から▲1.4%減を記録しています。続いて、失業率は前月から横ばいの2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.03ポイント上回って1.27倍に達しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

6月の鉱工業生産指数8.9%上げ 3カ月ぶり上昇
経済産業省が29日発表した6月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は95.8となり、前月比8.9%上がった。上昇は3カ月ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた中国・上海市での都市封鎖(ロックダウン)が解除され、生産が回復した。
自動車工業、電気・情報通信機械工業、電子部品・デバイス工業などが上昇した。生産の基調判断は「弱含み」から「生産は一進一退」に引き上げた。
同日発表した4~6月の指数は前期比2.8%マイナスの93.0だった。
6月の小売販売額、1.5%増
経済産業省が29日発表した6月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比1.5%増の12兆4800億円だった。増加は4カ月連続。季節調整済みの前月比は1.4%減だった。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計が1.9%増の1兆6731億円だった。既存店ベースでは1.3%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は4.2%増の1兆142億円だった。
有効求人倍率6カ月連続上昇 6月1.27倍、失業率は横ばい
厚生労働省が29日発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.27倍と前月に比べて0.03ポイント上昇した。6カ月連続で前月を上回った。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の水準には届いていない。総務省が同日発表した完全失業率は2.6%で前月と同率だった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。コロナ感染が広がり始めた後の底だった2020年秋の1.04倍からは持ち直しの傾向が続いているが、拡大が本格化する前の20年1月は1.49倍に達しており、まだ開きがある。
景気の先行指標とされる新規求人数は前月比1.7%減り、新規求人倍率は2.24倍と前月から0.03ポイント下がった。コロナの感染拡大が本格化する前の20年2月に並ぶ水準には達している。業種別では観光需要の持ち直しを見込んだ宿泊、飲食サービスの伸びが特に大きい。
完全失業率は20年8月から21年1月にかけて3%台に達することが多かったが、その後は2%台が続いている。就業者数は6759万人と前年同月比で21万人増えた。増加は3カ月連続。正規の職員・従業員が3602万人と5万人減ったが、非正規は2105万人で18万人増えた。

まあ、どうしても、数多くの統計を取り上げていますので長くなってしまいます。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月と比べて+3.7%の増産という予想でしたが、実績の+8.9%増は予想レンジの上限である+7.2%増を超えていて、かなり大きな増産だと私は受け止めています。ただし、引用した記事にもある通り、増産の主因は海外需要の回復、特に、上海のロックダウン解除に起因するペントアップであると考えるべきであり、逆に、現時点の足元で新型コロナウィルス感染症(COVI D-19)の新規感染者数が大きく増加しているわけですので、どこまでサステイナブルな回復かは不透明です。また、先行きに関しては、引用した記事にもある通り、製造工業生産予測指数によれば7月の増産も+3.8%増産が見込まれているのですが、経済産業省では上方バイアスを除去すると補正値では▲0.9%の減産との試算を出しています。足元は原産の可能性があるとはいえ、6月統計では大きく増産に転じたわけですし、何よりも、産業別に生産の増加への寄与度を見ると、自動車工業+1.88%、電気・情報通信機械工業+0.87%、電子部品・デバイス工業+0.81%などと我が国のリーディング・インダストリーが並んでいますので、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「弱含み」から「一進一退」に引き上げています。ただし、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、ウクライナ危機も相まって外需の動向が懸念されます。もっとも、かつての1950-60年代の高度成長期には、「米国がくしゃみをすれば日本が風邪をひく」といわれたくらい米国頼み、外需依存の強い経済でしたが、、今では、外需の依存先は中国になっているのかもしれません。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。ということで、上海のロックダウン解除などを受けて生産が回復を示している一方で、小売販売額は新型コロナウィルス感染症(COVI D-19)の新規感染が大きく増加している中で、前年同月比増加率のプラス幅は4~5月の+3%台から減速し、季節調整済みの系列では4か月ぶりに前月比マイナスを記録しています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均で判断している経済産業省のリポートでは、6月までのトレンドで、この3か月後方移動平均が+0.1%と何とかプラスを維持しており、基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」で据え置いています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。ですから、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響、さらに、足元での物価上昇の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。すなわち、物販よりも飲食や宿泊のような対人接触型のサービスがCOVID-19の感染拡大で受けるネガティブな影響が大きいのですが、商業販売統計には十分には現れていない、と考えるべきです。加えて、燃料小売業の販売額は前年同月比で+11.5%増なのですが、かなりの部分は物価上昇に基づいていると考えられ、売上数量が伸びているというよりも、販売単価、すなわちインフレ部分が大きいのではないかと私は想像しています。この2点を考え合わせると、実際の日本経済の現状についてはこの統計のバイアスを考慮する必要が十分あります。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下の2.5%と見込まれ、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、有効求人倍率も前月から0.01ポイント改善の2.5%と見込まれていました。実績では、失業率は前月から横ばいで、有効求人倍率は市場予想より改善しています。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。例えば、1月から3月にかけては、季節調整していない原系列の休業者数の前年同月差が、3か月連続で増加していましたが、4~6月には3か月連続で休業者数は前年から減少しています。引用した記事の最後にあるように、正規雇用が減少する一方で非正規雇用が増加している、というのは事実であり、非正規雇用の増加に関しては、いろいろな見方があるでしょうが、ジワジワと雇用の裾野が広がっているという見方もできると私は受け止めています。

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それから、本日、内閣府から7月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲1.9ポイント低下して30.2を記録しています。指数を構成する4指標のうち、「雇用環境」が▲3.1ポイント上昇し34.3と、特に大きく前月から低下しています。ほかの3指標も前月から低下しています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断を「下げ止まりの動き」から「弱含んでいる」に下方修正しています。消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

最後の最後に、本日、内閣府から本年度の「経済財政白書」が閣議に提出されています。まだ、詳細は不明なのですが、日経新聞のサイトでは、「物価上昇の裾野広く、脱デフレ『賃上げ重要』 経財白書」と題して、物価動向、需要の動き、生産性に比較して賃金の伸びが低い、などが報じられています。何かの機会があれば、このブログでも取り上げたいと思います。

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2022年7月28日 (木)

リクルートによる6月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明日7月29日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる4月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響ありながら底堅い印象で、前年同月比で見て、今年2022年4月+1.5%増、5月+2.8%増の後、6月も+1.8%増となっています。ただし、2020年1~4月のコロナ直前ないし初期には+3%を超える伸びを示したこともありましたので、やや物足りない気もしますが、時給を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフの方は今年2022年4月+1.3%増、5月は横ばいの後、6月は+0.8%増となっています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、6月には+1.8%、+20円増加の1,127円を記録しています。職種別では、「フード系」(+46円、+4.5%)、「専門職系」(+39円、+3.0%)、「製造・物流・清掃系」(+32円、+2.9%)、「事務系」(+31円、+2.6%)、「営業系」(+21円、+1.7%)、「販売・サービス系」(+7円、+0.6%)、とすべての職種で増加を示しています。地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、6月には+0.8%、+13円増加の1,581円になりました。職種別では、「医療介護・教育系」(+56円、+4.0%)、「クリエイティブ系」(+47円、+2.6%)、「製造・物流・清掃系」(+37円、+2.9%)、「オフィスワーク系」(+20円、+1.3%)、「営業・販売・サービス系」(+13円、+0.9%)、はプラスとなっている一方で、「IT・技術系」(▲14円、▲0.6%)だけがマイナスを記録しています。派遣スタッフの6つのカテゴリを詳しく見ると、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高くなっていて、全体の平均を押し下げています。なお、地域別には、東海だけが前年からマイナスで、関東と関西はわずかながらプラスを記録しています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調であり、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が増加しているものの、6月までの順調な景気回復に伴う人手不足の広がりを感じさせる内容となっています。ただ、昨日のブログでも取り上げたように、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、また、国内でのCOVID-19の感染拡大もすごいので、今後の日本国内の雇用については下振れ懸念が残ります。

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2022年7月27日 (水)

IMF「経済見通し改定」はいかにして下方修正されたのか?

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定(2022年7月)」World Economic Outlook Update, July 2022 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。ヘッドラインとなる世界経済の成長率は2021年実績の+6.1%から、今年2022年+3.2%、来年2023年+2.9%と大きくスローダウンすると見込まれています。4月の「世界経済見通し」から2022年は▲0.4%ポイント、2023年も▲0.7%ポイント下方修正されています。したがって、というか、何というか、見通しの副題は Gloomy and More Uncertain とされています。なお、日本の成長率見通しについても、2021~23年ともに+1.7%成長と低位ながら安定した見通しが示されていますが、これも4月時点の見通しと比較すれば、2022年▲0.7%ポイント、2023年▲0.6%ポイントのそれぞれ下方改定となっています。まず、IMFのサイトから経済成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。

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リポート冒頭では、成長率減速の要因は3点上げられています。すなわち、(1) 米欧を中心に世界全体でインフレ率が高進し金融引締めが実施されており、(2) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のために中国がロックダウンに踏み切って景気が減速し、また、(3) ウクライナ危機によりさらなる負の波及効果が発生している、"higher-than-expected inflation worldwide-especially in the United States and major European economies-triggering tighter financial conditions; a worse-than-anticipated slowdown in China, reflecting COVID-19 outbreaks and lockdowns; and further negative spillovers from the war in Ukraine" と分析されています。その最大の要因のひとつであるインフレ見通しのグラフ Figture 1. Global Inflation Forecasts: Serial Upside Surprises (percent) をリポートから引用すると下の通りです。

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そして、残る2つの要因、すなわち、中国のロックダウンとウクライナ危機に関しても、グラフの引用はしませんが、リポートでは、Figure 3. China: COVID-19 Outbreaks and SUpply Chain Disruptions 及び Figure 4. Higher Food and Energy Prices がそれぞれ示されています。
その上で、下方リスクとして、(1) 経済制裁の強化によりロシアの石油輸出がさらに▲30%減少 Russian oil exports to drop by a further 30 percent、(2) ロシアから欧州への天然ガス輸出が2022年末までに停止 Russian gas exports to Europe decline to zero by the end of 2022、(3) インフレ期待の高止まり Inflation expectations remain more persistently elevated、(4) 金融引締めによる国債と社債のリスクプレミアムとタームプレミアムの上昇 Financial conditions tighten, ..., pushing up sovereign and corporate risk and term premiums の4つのリスクによる景気の下振れとインフレの上振れを定量的に試算しています。リポートから、その試算結果を示すグラフ Figture 8. Global Alternative Senario を引用すると下の通りです。世界経済の成長率は、2022年でさらに▲0.5%ポイント超、2023年では▲1%近くの下振れの可能性が示唆されています。

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最後に、リポートでは、以下の4点を政策における優先事項 Policy Priorities として上げています。

  1. 脆弱な状態にある人々を保護しつつ、物価安定を回復させる。
    Restoring price stability while protecting the vulnerable:
  2. 信用の引締めと金融の不安定化に備える。
    Preparing for tighter credit and financial instability:
  3. 食料・エネルギー危機に取り組む。
    Tackling the food and energy crises:
  4. 経済的混乱を抑制しつつ、パンデミックのリスクを回避する
    Warding off pandemic risks while limiting economic disruptions:
  5. 低炭素経済への移行を促進する
    Facilitating transition to a low-carbon economy:

もちろん、政策対応は必要としても、リポートでは、米国のアトランタ連邦準備銀行の指標を引いて、米国で景気後退がすでに始まっている可能性を示唆するなど、"For the United States, some indicators, such as the Federal Reserve Bank of Atlanta's GDPNow forecasting model, suggest that a technical recession (defined as two consecutive quarters of negative growth) may already have started." 世界経済が景気後退の瀬戸際にあることが強調されていると私は受け止めています。

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2022年7月26日 (火)

+2%に達した企業向けサービス価格指数(SPPI)について考える!!!

本日、日銀から5月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+2.0%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.2%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

6月の企業向けサービス価格、2%上昇 20年2月以来
日銀が26日発表した6月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は106.9と、前年同月比で2.0%上昇した。伸び率が2%台となるのは20年2月以来2年4カ月ぶり。16カ月連続のプラスとなり上昇幅は5月(1.9%)から拡大した。燃料費の高騰や円安が影響し運輸・郵便が全体を押し上げた。
運輸・郵便のほか、宿泊サービスや情報通信なども上昇した。宿泊サービスは新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き人出が回復したことが影響した。情報通信では、IT(情報技術)人材の需給逼迫を背景に人件費の上昇がみられた。日銀は資源高や国内の需要増加がサービス価格を押し上げているとした上で、「技術者などを中心に人件費の上昇がサービス価格に転嫁される動きもみられている」と述べた。
調査の対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは100品目、下落は19品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年4月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+1.0%の上昇となった後、本日公表された今年2022年6月統計まで15か月連続で+1%以上の上昇率を続けていて、直近で利用可能な6月統計ではとうとう+2%に乗せました。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大もあります。もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく6月統計のヘッドライン上昇率+2.0%への寄与度で見ると、石油価格の影響が強い運輸・郵便が+0.84%、土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+0.53%、リース・レンタルが+0.20%、景気に敏感なインターネット広告やテレビ広告をはじめとする広告が+0.15%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便は+5.3%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、人材系や金融系の需要が拡大したインターネット広告をはじめとする広告の+3.1%、金融・保険の+2.5%の上昇などは、需要の盛り上がりによるデマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

こういった物価の動きを背景に、現在、中央最低賃金審議会では最低賃金に関する議論が進められています。同時に、「骨太の方針」とも略称される「経済財政運営と改革の基本方針2022」はすでに6月7日に閣議決定されていますが、「できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が1000円以上となることを目指し、引上げに取り組む。」(p.6)とされています。果たして、現在の岸田内閣の進める「新しい資本主義」はどちらに進むのでしょうか?

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2022年7月25日 (月)

体調がすぐれず大学の「健康ハンドブック」をながめる!!!

このところ、全般的に体調がすぐれず、特にお腹の調子がよくなくて、今日は下痢したものですから、健康について考えるところがありました。ということで、私の勤務する大学では保健センターというのがあって、毎年「健康ハンドブック」を出版しています。

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上の画像は、本年度版の「2022年度 健康ハンドブック」のp.14を引用しています。2019年度の健康診断結果なのですが、私と比較するために男子学生の体格に着目すると、身長が171.83㎝で、体重が64.11㎏となっていて、私はホンの少しだけ平均的な学生諸君より背が高くて体重が軽い、ということのようです。ちなみに、上の画像にはカッコ内で全国平均が示されていて、本学の男子学生は身長体重ともに全国平均を上回っていますが、その差は小さいものです。ただし、サンプル数が大きいでしょうから統計的に有意に異なっている可能性はあります。どうでもいいことながら、女子学生と私のカミさんの体格を比較すると、おそらく、あくまでおそらくですが、身長・体重ともにカミさんが上回っているのではないか、と私は見なしています。

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2022年7月24日 (日)

大山選手の犠飛による得点を守り切って前半戦を5割でターン!!!

  RHE
横  浜000000000 070
阪  神00010000x 160

先発ガンケル投手から、浜地投手、湯浅投手、、そして、クローザーの岩崎投手と必死の投手リレーで横浜打線を完封、大山選手の犠飛による虎の子の得点を守り切って、前半戦を5割でターンでした。
それにしても、開幕からの長い長い連敗は何だったのでしょうか。開幕前から「今季限り」といった矢野監督の軽率な発言が大いに影響したと考えています。せめて、あの連敗が半分であれば、今ごろは貯金10くらいあって、ヤクルトと首位争いをしていた可能性もあるわけです。「ベンチがアホやから...」といった当時の江本投手の気持ちも理解できるような気がします。

オールスター明けの後半戦も、
がんばれタイガース!

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2022年7月23日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして新書3冊を含めて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計126冊となりました。年間200冊のペースを少し超えているような気がします。

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まず、福田慎一[編]『コロナ時代の日本経済』(東京大学出版会)です。編者は、東京大学経済学部の研究者であり、日本におけるマクロ経済研究の第一人者の1人といえます。編者や出版社からして学術書なのでしょうが、それほど小難しげな内容ではなく、幅広い読者にオススメできます。序章と終章を編者が執筆していて、それ以外は2部構成となっています。第Ⅰ部では経済政策を取り上げて、財政政策、競争政策、地域金融の3章を置いていて、第Ⅱ部では日本経済の現状分析というのか、サプライチェーン、雇用とリカレント教育、そして、気候変動やサステイナビリティの3章となっています。第2章の競争政策については、確かにコロナ禍で在宅勤務が進むなどのデジタル化が加速したとはいうものの、ややコロナにこじつけた感がないでもありませんが、ほかの5章については、確かにコロナによって新たに提起された諸問題であろうと私は受け止めています。中でも、私が注目したのは、やっぱり、第Ⅱ部のいくつかの章です。悪いのですが、第Ⅰ部の初っ端の財政政策では、いかにも主流派エコノミストの観点から財政赤字削減を論じ立てられると、やや方向性が違いすぎると感じていしまいました。加えて、終章では福田教授の従来からの主張なのでしょうが、コロナ禍で傷んだ日本経済になお「痛みを伴う構造改革の必要」を主張しています。そこまで財政赤字削減や緊縮財政が重要なのでしょうか。私の経済に対する見方とはかなり方向性が異なるとしかいいようがありません。ということで、第Ⅱ部に着目し、まず、サプライチェーンにおけるリスク管理なのですが、これについては決定打はありえません。コロナに限らず気候変動の下で天災や異常気象によるリスクも大きくなってきている印象があり、雇サプライチェーンの維持管理のみならず、自社の生産や流通のマネジメントにもプランBによるカバーなども考えられるべきなのでしょう。そして、私がもっとも注目したのが、雇用とリカレント教育です。もっとも重要なコロナの経済的帰結のひとつは産業構造の変化です。付加価値ベースの産業構造とともに、雇用構造も大きく変化しました。高校でも教えているペティ-クラークの法則に沿って、農林水産といった第1次産業から、製造業などの第2次産業、そして非製造業、というか、サービス業の第3次産業へと付加価値生産や雇用者が時とともにシフトします。そして、最先端産業のひとつが極めて労働集約的な対人サービス、典型的には、ホテルやレストランなどのサービス業であり、コロナによるダメージがもっとも大きかった分野のひとつです。しかし、ホテルやレストランで対人サービスに従事していた人材を、人手不足だからといってデジタル産業で活躍してもらう、というのは簡単ではありません。ミスマッチが大き過ぎます。いわゆる職業訓練も重要なのですが、何らかの大規模な実践的な教育過程が必要になります。しかし、現状ではリカレント教育とは、あくまで私が見る範囲ですが、かなり実践的な色彩が薄い気がします。私が知る限り、もっとも早くからリカレント教育に取り組んだのは日本女子大学で、現状でももっとも進んでいる気がしますが、日本女子大学クラスの実践的なリカレント教育に取り組んでいる大学はとても少ない、という印象を私は持っています。私の単なる「印象」が間違っていることを願います。

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次に、福田ますみ『ポリコレの正体』(方丈社)です。著者は、ノンフィクション・ライターだそうです。タイトル通りに、PC、とか、「ポリコレ」と略称されるポリティカル・コレクトネス、すなわち、政治的に正しい言葉の使い方、に関して、大きな疑問を提起しつつ、ポリコレ以外のリベラルな運動全体を疑問視しています。構成は実に巧みで、確かに大きな疑問を生じる可能性の高いトランスジェンダー女性の運動能力から始めています。トランスジェンダー女性ですから元は男性であったわけです。オリンピックをはじめとしてさまざまな運動競技が男女別に分かれて競っているのは、男性の方が運動能力が高いと一般には考えられているからであって、男性からトランスジェンダーした女性の方が運動能力が高い可能性があるわけで、そのトランスジェンダー女性を女性枠で競技させることの是非から説き始めています。それから、LGBT一般にお話を拡大し、かつての誰かさんのように、著者の気に食わないポリコレを重視する人達を「反日」のレッテルを貼って、それでお仕舞です。その中に、チラリとブラック・ライブズ・マター(BLM)も忍び込ませたりしています。加えて、日本では少し反応の薄い宗教も含めていたりします。例えば、米国のオバマ元大統領は「メリー・クリスマス」とはいわずに、「ハッピー・ホリデイ」のカードを送っていたとかで、ポリコレだとメリー・クリスマスと言えなくなる、というような示唆をしています。私自身は宗教にはそれなりに敏感で、私が死んだ後には「冥福」という言葉は使って欲しくないと考えています。私は浄土真宗の門徒ですので、死んだ瞬間に浄土に生まれ変わるわけで、冥土の幸福なんて言及しないで欲しいと考えています。ということで、話を本題に戻すと、本書はかなりお粗末なリポートだと私は受け止めました。要するに、ポリコレを重視する向きとか、LGBTに寛容な人とか、BLMを支持する人達に、左翼、リベラル、マルクス主義などのレッテルを貼って、それで著者は満足しているようです。著者と考えを同じくして、さらに、同じ論証のレベルで満足できる読者であればOKなんでしょうが、私には疑問だらけでした。そして、ノンフィクション・ライターらしく、何人かにインタビューしているようなのですが、左翼とか、マルクス主義のレッテルを主張するうちの1人は、今話題の統一協会、現在は名称変更して、世界平和統一家庭連合の機関紙である「世界日報」の編集者だったりします。もう1人は私のよく知らない大学の外国人研究者です。この2人にインタビューした結果を著者の主張のバックグラウンドに置いています。統一協会の関係者が「ポリコレは左翼だ、共産党だ、マルクス主義だ」といったインタビュー結果を引いた主張にどれだけ信頼を置けるのかは疑問です。ただ、私はこういった私自身の方向性の反対を主張する本は、可能な範囲で読んでおくべきかと考えています。本書の他には、例えば、2019年10月に読書感想文をポストしたマーク・モラノ『「地球温暖化」の不都合な真実』なんかもそうです。私自身の主張は極めてクリアなのですが、一応、反対意見にも目配りが必要です。本書はそういう意味の読書でした。

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次に、永濱利廣『日本病』(講談社現代新書)です。著者は、第一生命経済研のエコノミストです。その昔に「英国病」というのがあって、かなり先進国病に近いニュアンスで使われていたようなところがありました。すなわち、キャッチアップ型の成長が難しい段階に経済社会の発展段階が達した、というものです。しかし、本書では「日本病」とは、低所得・低物価・低金利・低成長の4低をもって「日本病」の特徴としています。そして、この4低を解き明かして、現在の金融緩和を継続扨せつつ、新たに財政支出の拡大をもって、言葉としては出現しませんが、「高圧経済」を実現し、「日本病」の克服を目指しています。まず、そもそも論で、1990年代初頭のバブル崩壊後の政策対応で、もっともマズかったのは金融機関の不良債権処理を再優先課題として取り組んでしまって、大規模な金融緩和が遅れた点を指摘しています。まったく、その通りだと思います。金融緩和による景気対策がなく、加えて、財政政策による需要拡大も大きく遅れて1990年代後半になり、結局、プルーデンス政策としての不良債権処理が最重要課題とされてしまい、しかも、政府による公的資金投入ではなく、不良債権の切離しによる処理が優先されましたので、いわゆる貸し渋りや貸し剥がしが横行したわけです。それに対して、リーマン・ショック後の米国では当時のバーナンキ議長の指導力の賜か、大規模な金融緩和を素早く実施し、かなりの程度に景気回復を軌道に乗せました。もちろん、サマーズ教授らによる「長期不況論」は根強く残っており、さらに、2020年からは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が経済社会に大きなダメージを及ぼしましたから、低成長が継続しているという見方は根強く残っています。また、所得という点に関しては、本書では韓国における最低賃金の引上げを例に上げています(p.20-21)。最低賃金については、ムリに引き上げれば負担力ない中小企業の倒産が増えたり、生産性低い労働者の間で失業が発生したりという伝統的な見方もあって、議論のあるところですが、不平等や貧困の解決には有効という実証結果も出てきており、日本でも議論が深まることを期待しています。特に、本書の結論では一定の留保が必要と私は考えます。第1に、欧米での格差の拡大が高所得層のさらなる所得増によってもたらされている一方で、日本では逆に低所得層の所得の伸び悩みから格差が拡大し貧困が深刻化しています。本書では日本の「総貧困化」を強調するあまり、この点が軽視されています。ですから、本書での主張、すなわち、アベノミクスでは金融政策は成功したが、財政政策が緊縮に運営されたのでデフレ脱却には力不足だった、という点は私も同意しますが、財政政策の中でも闇雲な財政支出拡大ではなく所得の再分配に十分配慮した財政政策が必要と私は考えています。アベノミクスが失敗したのは財政政策が緊縮だったからというのは否定しないものの、財政政策の中でも分配政策が欠けていたから、というのが最大の要因だと私は考えています。第2に、本書の結論のひとつになっている雇用の流動化の促進については疑問があります。この雇用流動化は、本日つけの朝日新聞のインタビューでも著者は繰り返して主張しています。しかし、雇用の流動化は、現時点までの経験でいえば、本書で主張されているように、高生産性労働者が高賃金職へ移動することを容易にする道を開くわけではなく、逆に現在まで一貫して賃金切下げという結果をもたらしてきました。加えて、雇用の流動化が進めば、いわゆるデスキリング deskilling = 熟練崩壊にもつながりかねません。従って、ここまで非正規雇用の割合が拡大した中で、雇用の流動化をさらに進めるべきかどうか、私は大きな疑問を持っています。

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次に、保坂俊司『インド宗教興亡史』(ちくま新書)です。著者は、中央大学の研究者であり、専門は比較宗教学、比較文明論、インド思想だそうです。私は仏教徒です。それも、浄土真宗の門徒です。仏教はインドに由来することは多くの日本人が知っていることと思いますが、同時に、英国の植民地となったときのインドはムガル帝国というイスラム国家でしたし、現在はヒンズー教徒が多い、というのもかなりの程度に知られているのではないかと思います。すなわち、何がいいたいのかというと、インドでは宗教的な変遷がそれなりに繰り返されてきた、ということです。それはそれで、産業革命以前の先進国であった、という意味なのかもしれませんが、同時に産業革命以前の先進国であった中国はインドほどの宗教的な変遷はなく、中国に由来する大規模な宗教も、せいぜいが道教くらいではないか、それも、世界的なレベルでの宗教には達していない、という気がします。世界的な大宗教といえば、欧米先進国のキリスト教、南アジアから東南アジア、さらに、東アジアにかけての仏教、中東や北アフリカ諸国、あるいは、インドネシアとマレーシアのようなイスラム教、の3宗教があり、ディアスポラで世界に拡散したユダヤ教も4番目に入れる人がいるかも知れません。本書におけるインド宗教概念はp.37の図に明確に示されています。そして、私のような専門外のものからすれば、とても新鮮だったのは、インドに由来する仏教はインドでは実はバラモン教化し、バラモン教に教義や儀礼とともに吸収され、そのバラモン教はヒンズー教に進化発展した、という見方です。それらとは独立に、イスラム教のシク教、さらに別に、ジャイナ教などについても不勉強にして、本書で改めて教義について知ったくらい、私は宗教に関してはシロートですので、実に新鮮なインドにおける宗教の変遷を勉強した気になりました。私が宗教に関して不勉強なのは、圧倒的に他力本願の浄土宗の門徒であるからです。「南無阿弥陀仏」と念仏すれば、それだけで輪廻転生から解脱して極楽浄土に生まれ変われる、というお気楽な宗教ですのでそれ以外の宗教には目が向きません。ですから、子供達が大学に入学した際には3点だけ「ヤメておいた方がいい活動」に関して注意を垂れています。すなわち、第1に宗教については手を出すべきではなく、浄土真宗の門徒で満足しておいた方がいい、ということです。もちろん、子供達の信教の自由を侵害しようとする気はありませんが、安倍元総理の暗殺で話題になっている統一協会なんてのが、今でも大学では活動していたりします。第2に、マルチ商法の勧誘が来たら、逃げられると自信があれば手を染めてもいいが、友達を失うだろうからヤメておいた方がいい、第3に、学生運動は信念を持って取り組むのであれば反対はしない、ということです。宗教については、私はその程度の知識ですので、インドの宗教に関してとても勉強になった読書でした。最後に、例の安倍元総理の暗殺に関する報道などで「統一教会」という書き方を見かけますが、私は統一協会だと考えています。というのは、下村文部科学大臣の時に名称変更を許可された世界平和統一家庭連合の旧称は、世界基督教統一神霊協会であり、略称にするのであれば最後の2文字はカルトならざるキリスト教と紛らわしい「教会」ではなく、「協会」とすべきと考えています。なお、日本基督教団の「統一協会に関するご相談について」と題するサイトでも「統一協会」と表記されていることを付け加えておきます。

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最後に、笹山敬輔『ドリフターズとその時代』(文春新書)です。著者は、たぶんオーバードクターの演劇研究者です。タイトル通りに、ドリフターズ(ドリフ)に関して論じています。何といっても、1970年代から80年代はじめにかけてのテレビ番組「全員集合」が圧倒的な記憶にあります。そして、本書で論じるところでは、少なくとも志村けんが加入する前までは、ドリフは明らかに音楽バンドであり、私でも知っているところですが、ビートルズが初来日した際に武道館で前座バンドのひとつを務めています。ただ、志村けんはミュージシャンではありません。ということで、コミック・バンドとしては、ドリフの前の高度成長期に活躍したクレイジー・キャッツがあまりにも有名で、まさに、そのラインでドリフも活動を始めています。戦前・戦中には敵性音楽として禁止されていたジャズやハワイアンなどの米国の音楽なのですが、戦後米軍が進駐してきて、ダンスホールやナイトクラブなどで一気に需要が高まります。そして、日本でもこういったバンドが活動を始め、その中で音楽とともにコミカルなコントなども入れた活動も見られ、日本国内でも人気を博するわけです。時はちょうど映画、さらにテレビといった映像が音声だけのラジオに代わって前面に出た時代です。そして、ドリフと同じ時代にコント55号が出現し、お茶の間の人気となります。萩本欽一なわけです。そして、本書では、コント55号や萩本欽一は浅草的なアドリブで進めるコント、ドリフはきっちりと計算され尽くしたアレンジに基づくコント、と見なしています。加えて、ドリフではリーダーたるいかりや長介の絶対的・独裁者的な存在にも着目しています。そして時代が流れて、1980年代には土曜日の8時という同じ枠でドリフの「全員集合」と北野武や明石家さんまなどの「ひょうきん族」が視聴率を競って激突するわけです。「ひょうきん族」がコスチュームにも工夫したコントを繰り広げたのに対し、ドリフの「全員集合」では生活や学校・職場などに密着したコントが展開されます。このあたりの本書の対比も見事です。そして、荒井注に代わって加入した志村けんがドリフの新たな時代を切り開き、いかりや長介に取って代わって21世紀には「喜劇王」の立場に上り詰めた、と評価しています。もちろん、2020年のコロナ感染拡大の初期に志村けんは亡くなります。我が家の子供達は「バカ殿様」が大好きでした。私もDVDを買ったりして、大いに楽しみました。まったく、惜しい人物が亡くなったものだと私も思います。

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2022年7月22日 (金)

3か月連続で+2%超の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から6月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.2%を記録しています。物価上昇は10か月連続です。7年ぶりの+2%超の物価上昇が4月から続いています。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+1.0%にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

6月の消費者物価2.2%上昇 3カ月連続2%超え
総務省が22日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.7となり、前年同月比2.2%上昇した。上昇は10カ月連続で、3カ月連続で2%を超えた。資源高によりエネルギー関連の上昇が続いた。小麦などの原材料価格が高止まりし、食料品も引き続き上昇した。エアコンなど家庭用耐久財も上がった。生鮮食品を含む総合指数は2.4%、エネルギーと生鮮食品を除いた総合指数は1.0%、それぞれ上昇した。

長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.2%の予想でしたので、ジャストミートしました。基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀金融政策による需要面からの物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、6月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は16.5%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.23%あります。この寄与度のうち、電気代がほぼほぼ半分の+0.62%ともっとも大きく、次いで、ガソリン代の+0.25%、都市ガス代の+0.20%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、4月統計では+19.1%、5月統計では+17.1%、そして、直近で利用可能な6月統計では+16.5%と、高止まりしつつも、ホンのちょっぴりながら上昇率は縮小しているように見えます。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も4月統計+2.6%、5月統計+2.7%に続いて、6月も+3.2%の上昇を示しており、+0.72%の寄与となっています。

最後に、昨日のこのブログでも取り上げましたが、日銀は金融政策決定会合を開催し、「展望リポート」で2022年度のコアCPI上昇率が物価目標である+2%を超えると見込みながらも、金融政策の現状維持を決めています。票決を見る限り、さらに金融緩和をするべきという片岡委員の反対票があっただけで、金融引締めに転じるべきという反対票はなかったように報じられています。私は現時点ではこの政策判断は正しいと考えています。理由は主として2点あり、第1に+2%インフレはもともとの目標であり、第2にしかしこの目標達成はそれほど長続きしない、ということです。まず、従来から主張している通り、昨年暮れくらいまでのメディアでの日銀批判は主として「インフレ目標が達成されない」という点でした。しかし、実際にインフレ目標が達成されて、計測誤差の範囲で+0.1%ポイントとか、+0.2%ポイントくらい上振れたからといって批判されていたのでは、日銀当局も立つ瀬がありません。現時点で日銀を批判するのであれば、2013年に政府とアコードを結んだ当時の白川総裁に対してなされるべきであって、現在の黒田総裁は目標達成に邁進してきただけ、という見方も成り立ちます。まあ、コトはそれほど単純ではないのですが、そういう見方もできる、ということです。そして、何よりも、昨日のブログでも強調しておきましたが、日銀はもちろんのこと、多くのエコノミストは現在の物価高はそれほど長続きしない、と考えています。どうしてかというと、資源高はいかにもロシアのウクライナ侵攻によってもたらされたように見えますが、その背景としては、大幅な金融緩和により通貨供給が増加している一方で、通常のフローの財の価格はそれほど上昇せず、ストックの資産価格が上昇するという形の経済に変化してきているため、石油や穀物などの商品価格上昇は地政学的要因も否定しないものの、根本的には、通貨供給の増加という金融政策によってもたらされている、と考えるべきです。ですから、もはや小国に近くなった日本が金融引締めに転じなくても、ドル通貨の米国やユーロ通貨の欧州の金融引締めが資産価格としての石油や穀物などの商品価格の引下げに影響するのを待つ、という手もあろうかと思います。ウクライナ危機が続いていたとしても、欧米での金融引締めによって商品価格の上昇がストップする可能性が十分ある、と私は考えています。もちろん、それも程度問題であり、現状のインフレが+2%を少々上回るくらい、円安がまだまだ140円を挟んだ動き、という段階でのお話であることは事実です。インフレが欧米のように+10%のフタ桁に近づいたり、円安が150円を大きく突破して200円に近づいたりすれば、何らかの政策対応が必要、という意見が大きく強まるであろう点には同意します。

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2022年7月21日 (木)

10か月連続で貿易赤字を計上した6月の貿易統計と日銀「展望リポート」を考える!!!

本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+19.4%増の8兆6284億円、輸入額は+46.1%増の10兆122億円、差引き貿易収支は▲1兆3838億円の赤字となり、11か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、年半期の統計を散りばめて、やたらと長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字、1-6月過去最大7.9兆円 資源高響く
財務省が21日発表した2022年上期(1~6月)の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7兆9241億円の赤字だった。資源高が響き、赤字額は比較可能な1979年以降で半期として過去最大となった。中国経済の減速などで円安でも輸出数量が停滞し、輸入の伸びに追いつかない。
半期としての赤字額は過去最大だった2014年1~6月の7兆6281億円を超えた。輸入額は前年同期比37.9%増の53兆8619億円に膨らんだ。半期で50兆円を超えるのは初めて。
ロシアのウクライナ侵攻は資源価格の高騰に拍車をかけた。原油を含む原粗油の円建て単価は1キロリットル当たり7万5501円と、半期として最も高くなった。輸入額は原粗油や液化天然ガス(LNG)がそれぞれ約2倍、石炭が3倍以上に膨らんだ。サウジアラビアやオーストラリアからが多かった。
輸出は鉄鋼や電子部品が伸び、金額は15.2%増の45兆9378億円だった。数量は2.0%減り、円安局面でも伸び悩んだ。特に中国向けが13.4%の大幅な落ち込みとなった。ゼロコロナ政策による上海市などの都市封鎖(ロックダウン)が影を落とした。
中国との貿易収支は2兆4625億円の赤字だった。赤字額は半期として過去7番目の大きさ。ハイブリッド車(HV)など自動車やエンジンの輸出が落ち込んだ。輸入は16.9%増の11兆3862億円と過去最高だった。半導体電子部品が増えた。
対米国は2兆8950億円の黒字、対アジアは1兆8606億円の黒字だった。豪州やフィリピン向け鉱物性燃料と韓国向け鉄鋼製品の輸出が伸びた。対EUは1兆1569億円の赤字で、赤字額は前年同期より58.7%膨らんだ。
6月単月の全体の貿易収支は1兆3838億円の赤字だった。11カ月連続の赤字で、額は6月として過去最高になった。円安も寄与して輸出、輸入ともに単月として過去最高だった。
輸入は前年同月比46.1%増の10兆122億円で、4カ月連続で過去最高を更新した。10兆円を超えるのは初めて。原粗油が1兆1598億円と、15カ月連続で増加している。
ロシアからの輸入は原粗油が06年7月以来約16年ぶりにゼロとなった。LNGや石炭は増えており、ロシアとの貿易収支は計1141億円の赤字となった。赤字額は前年同月の2.5倍に膨らんだ。石炭の輸入数量は59.5%減った。単価の上昇が大きく、金額は65.3%増えた。輸入額全体は22.9%増の1539億円だった。
貿易統計上の為替レートは上期が1ドル=121.36円、6月は130.35円だった。足元では24年ぶりの水準となる138~139円前後まで円安が進んでいる。この流れが続くと7月以降も貿易赤字の拡大基調が定着する可能性がある。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱.5兆円を超える貿易赤字が見込まれていて、予想レンジで貿易赤字が最も小さいケースで▲1.2兆円ほどでしたので、実績の▲1兆3838億円の貿易赤字はやや下振れた印象ながら、まあ、こんなもんという受止めかもしれません。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年6月までの11か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、1年を超えて15か月連続となります。しかも、貿易赤字額がだんだんと拡大しているのが見て取れます。これも、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。
6月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、すべて季節調整していない原系列の統計の前年同月比で、輸出では自動車の輸出が金額ベースで+0.4%増にとどまりました。これは、台数に基づく数量ベースで▲10.1%減となったからで、半導体などの部品不足が原因です。その昔の1970年代の石油危機で石油価格が大きく上昇した際には、燃費のいい日本車が販売を大きく伸ばしており、足元でも同じように石油価格が上昇しているのですが、物流と部品供給の制約のために自動車輸出は明らかに停滞しています。ほかに金額ベースと数量ベースが比較できるもののうち、我が国の主力輸出品となっているものを見ると、半導体等電子部品のうちのICは金額ベースでは+41.2%増と大きく伸びましたが、数量ベースでは▲3.1%減となっていますし、電算機類(含周辺機器)も金額ベースで+3.5%増ながら、数量ベースでは▲32.6%減を記録しています。ほかにも、金額ベースでは伸びている一方で、数量ベースでは減少している輸出品がいくつかあります。もちろん、数量ベースを上回って金額ベースで増加しているのは為替の円安などの価格要因と考えるべきです。輸入では、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油の輸入額が大きく増加しています。これも前年同月比で見て数量ベースで+22.1%増が金額ベースで+145.9%増と大きく水増しされます。1年前の昨年2021年6月から金額ベースで2.5倍に近い増加となっているわけです。ただし、引用した記事にある通り、ウクライナ侵攻に対する経済制裁のためにロシアからの原祖油の輸入はゼロになっています。ほかの化石燃料については、液化天然ガス(LNG)も数量ベースでは+1.7%増に過ぎないにもかかわらず、金額ベースでは+98.9%増と、お支払いの方はほぼほぼ倍増しています。加えて、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+26.4%増、金額ベースでも+25.2%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないかと考えられます。

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最後に、本日、日銀で開催されていた金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。政策委員の大勢見通しのテーブルは上の通りです。前回4月の「展望リポート」から生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率の欄が一番右に見えます。ということで、基も注目された物価見通しは、生鮮食品を除くコアCPIで+2.3%と物価目標の+2%を超えるという結果が示されています。しかし、よりいっそうの金融緩和を実施すべきと片岡委員だけが反対票を投じたものの、金融政策は現状維持の判断が示されています。コアインフレが目標値を超えたにもかかわらず、金融政策は引締めに方向転換することなく現状維持で、すなわち、アベノミクスの第1の矢はまだ飛んでいるわけです。もちろん、広く報じられている通り、米国では連邦準備制度理事会(FED)が、また、英国でもイングランド銀行が、それぞれ、すでに金利引上げを開始しています。加えて、欧州中央銀行(ECB)も本日開催する定例理事会で利上げに踏み切るとの見方が、日経新聞時事通信ロイターなどで示されています。にもかかわらず、大規模な金融緩和を継続するのは、第1に国内景気減速の可能性です。上のテーブルにも見られる通り、2022年度の成長率見通しは4月時点から引き下げられており、しかも、この先、2023~24年度にかけて成長率が低下するとの見通しが出ています。第2に現在のインフレ高騰は一時的との見方があります。「展望リポート」では物価上昇率に関して、「本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。」と見込んでいます。ただし、さらに、物価上昇率が高まって、さらに、円安が進めば、何らかのアクションを要求する意見が日銀内外から出てくる可能性は否定できません。最後に、「展望リポート」では、物価のリスク要因として「企業の価格・賃金設定行動」を上げています。バブル崩壊後、世界標準とはかなり異なるビヘイビアを示してきた日本の家計や企業が、現下の経済情勢にどのように反応するかについては、私はマクロエコノミストながら、それなりの興味をもって観察しています。ただし、1点だけ強調しておきたいのは、日銀の重視する「企業の価格・賃金設定行動」のバックグラウンドには企業の雇用慣行が強い影響力を持って控えている点は忘れるべきではありません。

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2022年7月20日 (水)

JTBによる「2022年夏休みの旅行動向」やいかに?

はなはだ旧聞に属するトピックながら、先々週の7月7日にJTBから「2022年夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向」に関する調査結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。なお、ここでいう「夏休み」とは7月15日~8月31日となっています。まず、JTBのサイトから調査結果の概要を4点引用すると以下の通りです。

2022年夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向
  • 国内旅行者数は7,000万人、対前年175%(対2019年96.7%)
  • 近場旅行が減少、日数を増やし遠方への旅行が増加
  • 大都市圏への旅行が回復傾向
  • 同行者が近しい家族中心から友人・知人などに拡大傾向に

ということで、いかにも2020年のコロナ・ショックで激減した旅行需要がコロナ以前に戻りつつあるような印象を受けます。次に、リポート p.9 のテーブル「夏休みの旅行動向」推計数値の推移 のうちの旅行人数総数と総消費額をグラフにすると下の通りです。

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繰り返しになりますが、いかにも2020年のコロナ・ショックで激減した旅行需要がコロナ以前に戻りつつあるような印象がありますが、やっぱり、旅行需要は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大次第であろうと私は受け止めています。今年の調査は2022年6月22~24日に実施されており、足元での新規感染拡大がどこまで反映されているかは不明です。例えば、インテージによる夏休みシーズンの予定に関する調査などを見る限り、旅行に限らず帰省や行楽なども含めた夏休みの計画については、約半数の49.5%が「予定は決まっていない」と回答しており、流動的な部分も残されている気がします。

大学教員のように長期の夏休みがある一部の例外を除いて、夏休みで何らかの活動を行う可能性高いのは、8月11日(木)の山の日あたりから、13日(土)と14日(日)の週末を中心に、いわゆる盂蘭盆の8月15日(月)や16日(火)くらいではないかと思います。お盆の帰省がもしも近場であれば、さらに、それほど交通機関の予約などが重要でなければ、かなり直近になってから決める向きも少なくないものと想像しています。

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2022年7月19日 (火)

内閣府による「生産側系列の四半期速報 (生産QNA)」やいかに?

先週金曜日の7月15日に、内閣府から生産側系列の四半期速報(生産QNA)が公表されています。従来のQEは"E"で示されているように支出額 expenditure を基にした推計だったのですが、生産側、すなわち、産業別の四半期GDPが、支出側からかなり遅れるとはいえ公表の運びとなりました。興味津々で簡単に取り上げてみたいと思います。

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まず、上のグラフは生産側のQNAの産業別寄与度の推移です。緑色の細い折れ線がQNAの前期比成長率で、それに対して産業別寄与度のうち、製造業と卸売・小売業だけを抜き出しています。2008年から2009年にかけてのリーマン・ショック時、さらに、2011年の東日本大震災福島第一原発のメルトダウンの際の産業別寄与度の推移を、やや、私の主観に依存するのですが、絶対値で大きなものを抜き出したつもりです。リーマン・ショックの際には為替が大きく円高に触れて製造業がダメージを受け、同時に、マインドの面から卸売・小売業もマイナス寄与が大きかったです。震災時も自動車部品の供給制約などから製造業のマイナス寄与が目立っています。これらが四半期データで確認できるわけです。

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続いて、上のグラフは同じく2020年からのコロナ・ショックの際の産業別寄与度のうち、運輸・郵便業と宿泊・飲食サービス業だけを抜き出しています。2020年4~6月期の大きなマイナス成長に対して、それなりの寄与をもっている点が見て取れます。

ということで、長い歴史ある支出側のQEに比較して、生産側統計のQNAの利用に関しては、私もまだまだ未経験な部分が多く、今後の活用については考えたいと思います。何らかの学術論文に利用できるのではないか、と期待していますが、毎年夏休みに執筆している紀要論文については、今年の分はもう決まっていますので、世間一般の利用状況なんぞを確認しつつ、今後の活用について考えたいと思います。最後の最後に、GDPについてはいわゆる三面等価が成り立って、QEの支出、QNAの生産、そして、所得=分配が一致します。QEに加えてQNAの公表が始まりましたので、所得=分配側の四半期GDP統計の公表も待ち遠しいところです。

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2022年7月18日 (月)

ニッセイ基礎研のリポート「世帯属性別にみた物価高の負担と過剰貯蓄」やいかに?

先週金曜日の7月15日にニッセイ基礎研から「世帯属性別にみた物価高の負担と過剰貯蓄」と題するリポートが明らかにされています。今週金曜日にも総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が公表されますが、最近にない物価上昇が続いているところ、物価高の負担については私も興味あるところです。今日は、大学の授業ベースでは平日授業日なのですが、世間一般では海の日の3連休最終日ですので、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、グラフは引用しませんが、消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除くコアCPIの上昇率が2%に達した一方で、家計が直面している「持家の帰属家賃を除く総合」は前年比+
3%程度の上昇率となっているという事実を示した後で、上のグラフは 世帯属性・所得階層別の物価高による負担額(2人以上世帯) を示しています。勤労者世帯と無職世帯、さらに、勤労者世帯は所得階層により5分位別で示されています。凡例に明らかなのですが、水色の棒グラフが物価高による負担額、そして、白抜きのドットは、その負担額の可処分所得比です。なお、世帯属性の下の< >内の数字は各属性ごとの平均年収です。ということで、あまりにも明らかなのですが、勤労者世帯と無職世帯では勤労者整世帯の方が物価高による負担額が大きい一方で、無職世帯の方が可処分所得に占める割合が高く、勤労者世帯の中では、収入が多いほど物価高による負担額が大きい一方で、逆に、可処分所得に占める割合は年収が少ないほど大きい、ということになります。あまりにも理論通りで当然なのですが、キチンとフォーマルに統計で確認することはとても重要です。

なお、どうでもいいことながら、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置といった行動制限に起因する過剰貯蓄に関しても世帯属性・所得階層別の過剰貯蓄額とその物価高負担比率を算出しているのですが、ソチラはそれほどきれいに所得階層別にはなっていません。まあ、無職世帯は貯蓄率はマイナスですので、それほど単純ではありません。何ら、ご参考まで。

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2022年7月17日 (日)

留学生を連れて夫婦で祇園祭の山鉾巡行を見に行く!!!

一昨年昨年と新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のために山鉾巡行が中止されていた祇園祭なんですが、今年は3年ぶりに山鉾巡行が復活しました。外国人留学生が日本文化に接するという触れ込みで我が大学からも繰り出すと同僚教員から聞き及んで、私もカミさんといっしょに見に行きました。下の写真は河原町三条下るにて山鉾を待っているところです。

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本日7月17日の前祭の山鉾巡行の順番は、長刀鉾、孟宗山、保昌山、郭巨山、函谷鉾、白楽天山、四条傘鉾、油天神山、月鉾、蟷螂山、山伏山、霰天神山、鶏鉾、木賊山、綾傘鉾、占出山、菊水鉾、芦刈山、伯牙山、太子山、放下鉾、岩戸山、船鉾、となっています。当然、というか、何というか、長刀鉾はいわゆるくじ取らず、で常に先頭です。お稚児さんがしめ縄を断ち切って結界を解く必要があるわけです。あと、5番めの函谷鉾と最後の3つの放下鉾と岩戸山と船鉾もくじ取らずで決まっています。私は月鉾もくじ取らずだと思っていたのですが、違うようです。

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上の写真は、山鉾巡行を代表して長刀鉾です。本日の前祭では山鉾は四条烏丸を出発して四条通りを東に向かい、四条河原町で辻回しして河原町通りを北上し、さらに河原町御池でもう一度辻回しがあって御池通りを西に進み、新町御池までです。来週7月24日の後祭では、このルートが逆になり、もちろん、別の山鉾が巡行します。今日は、留学生たちが貴船に行くとか、三々五々抜け出し始めて、11時過ぎに現地解散になって、私とカミさんも月鉾を見終えたあたりで河原町通りを後にしました。留学生は「キフネ」というのですが、それが「キブネ」だと理解するのに少し時間がかかってしまいました。カミさんから何しに行くのだろうか、と問われて、流しそうめんを食うのではないか、と答えておきました。

私は40年余り前の学生時代に祇園祭を見に行った経験があるものの、超久し振りでした。40年前の当時は、前祭と後祭には分かれていませんでした。というか、後祭というものはなくて、山鉾巡行は1回だけでした。さらに、私は東山四条で辻回しを見たように覚えています。四条通りを東に向かった山鉾が河原町通りを通り過ぎて、東山四条、すなわち、祇園交差点で左折して東山通を北上したのを見たように記憶しています。ただ、もしそうだとすると、御池通りは鴨川を渡って川端通りでお仕舞いで、東山通から御池通りには出られませんから、丸太町通りで辻回しがあったのか、それとも、私が完全に記憶違いをしているのか、今となってはハッキリしません。まあ、何と申しましょうかで、葵祭の斎王代が祇園祭に関連していると、つい昨日まで考えていたくらいですから、私の記憶違いの可能性が高いような気がします。

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2022年7月16日 (土)

今週の読書はやや疑問の残る経済書など計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りの計4冊です。
まず、チャールズ・グッドハート & マノジ・プラダン『人口大逆転』(日本経済新聞出版)では、人口の高齢化に従ってディスインフレないしデフレに終止符が打たれてインフレと金利上昇局面が始まり、平均で見た国別の格差が縮小する、と主張しますが、人口高齢化で世界をリードしている日本の現状をうまく説明し切れていないと私は考えます。清水和巳『経済学と合理性』(岩波書店)は、マクロ経済学のミクロ的基礎付に挑戦していますが、私の目からすれば疑問が残ります。エマニュエル・トッド『第3次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)では、ウクライナ支持とロシア非難に大きく偏っている日本や欧米の論調に対して別の視点を提供しています。最後に、まさきとしか『彼女が最後に見たものは』(小学館文庫)は複雑な殺人事件の背景を三ツ矢刑事が解き明かします。
なお、今週の4冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計125冊となりました。新刊書読書だけでなく、太田愛『犯罪者』上下(角川文庫)、山田宗樹『聖者は海に還る』(幻冬舎文庫)、松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱』(新潮文庫)も読みました。できれば、Facebookでシェアしたかったのですが、コミュニティ規定違反だそうでアカウントが制限されてダメでした。

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まず、チャールズ・グッドハート & マノジ・プラダン『人口大逆転』(日本経済新聞出版)です。著者は、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの名誉教授であるエコノミストと投資銀行の実務家です。英語の原題は The Great Demographic Reversal であり、邦題はそのまんまだという気がします。2020年の出版です。ということで、人口の高齢化により現在までのディスインフレないしデフレ、さらに、不平等の拡大などの経済動向が逆転する、という点に主眼をおいた経済書です。キトンと学術文献を抑えていて、なおかつ、文章が判りやすい良書です。まず、今週に入ってから、7月11日の世界人口デイに合わせて国連から World Population Prospects 2022 が公表され、例えば、来年2023年にはインドの人口が中国を抜くとか、今年2022年11月15日には世界人口が80億人に達する、などの見込みが広く報じられています。そして、平均寿命の延伸も同時に見込まれています。経済学的には人口の高齢化が進むと、本書の主張のようにインフレ圧力が高まり、同時に、不平等が緩和される、ということになります。まず、簡単な方はディスインフレないしデフレが、人口の高齢化に伴って、インフレの方に転換します。同時に、インフレ圧力とともに金利にも上昇圧力がかかります。これは明らかです。本書でも指摘しているように、退職年齢がかなり固定的であるのに対して平均寿命の延伸が進みますから、引退期間が長くなります。引退期間では生産をせずに消費だけをしますから、供給の伸びに比べて需要の伸びの方が大きくなる傾向があります。ですから、経済学的な需要と供給の関係に従って価格は上昇する方向に転換します。加えて、医療費などの高級サービスへの需要も引退期間には一段と高まります。ただし、本書の著者も気づいているのですが、世界の先進国の中でもっとも高齢化が進んでいる日本で、もっともデフレが深刻となっていて、一向にインフレ圧力が高まらないのも事実です。本書では9章を章ごとこの問題の解明に当てています。海外直接投資などの資本の流出、失業率に見えるほど労働のスラックは少なくない、などを上げていますが、私の目から見て、インフレ圧力や金利上昇に関する日本例外論の論証は明らかに失敗しています。他方、やや判りにくいのは不平等の緩和です。というのは、本書でいう「不平等の縮小」というのはあくまで国別で見た inter-nation な不平等の縮小であって、別の表現をすれば成長の収束 convergence という意味です。ですから、国の中で見た intra-nation な不平等は拡大すると本書でも考えています。ピケティ教授と同じで資本収益率が成長率や賃金上昇率を上回るとともに、教育で代理される人的資本の収益率が上昇するからです。高学歴者が有利になるわけです。加えて、市場集中度=独占が進んできているのも労働との交渉力に影響を及ぼして格差拡大の一因となることを本書では示唆しています。そして、最終的には、この人口の高齢化の影響に対する政策対応として、土地課税をはじめとする税制、マクロ経済政策などを上げていますが、これまた、それほど説得力ありません。最後に、繰り返しとなりますが、人口の高齢化に伴ってインフレ圧力の高まりと金利上昇が見込まれるのは、経済理論的にまったく間違っていません。しかし、人口高齢化の先頭に立っている日本でそうなっていないというパズルがあるわけですから、日本例外論をキチンと成り立たせるか、あるいは、この先、日本もこのインフレ圧力の増大というトレンドに乗ることを論証して欲しかった気がします。

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次に、清水和巳『経済学と合理性』(岩波書店)です。著者は、早稲田大学の研究者であり、本書は岩波書店のシリーズ ソーシャル・サイエンスの中の1冊として発行されています。ということで、本書は200ページに満たないコンパクトな本ながら、いわゆるマクロ経済学のミクロ的基礎づけ、しかのも、合理性に基づくミクロ的基礎づけを目指しています。まず、合理性については、6月25日付けの読書感想文で取り上げたダニエル・ハウスマン『経済学の哲学入門』とかなり似通ったマイクロな見方を示しています。すなわち、『経済学の哲学入門』では、すべての選択肢の間で効用の順序付けが出来るという意味での完備性と順番が逆転することがない推移性を満たすと合理的な選択、ということになり、加えて文脈からの独立性と選択の決定性を4条件としているのですが、本書では決定性は含めておらず、完備性と推移性と独立性の3条件を持って合理的と見なしています。ただ、マイクロな経済学における合理性とマクロ経済の合理性で決定的に異なるのは、マクロ経済では推移律が成り立たないことです。例えば、熊谷尚夫先生の「経済学の範囲と方法」においては、p.8において「個人の場合には選好順位についての推移性(transitivity)を想定してよい理由があるのに反して、社会的厚生関数が社会状態に対する個々人の任意の選好から合成されるべきものと考えるかぎり、独裁や全員一致のような例外を別にすれば、社会的厚生関数が推移性をもちえないであろうということはむしろ明白であるように思う」と指摘しています。アローの不可能性定理からして、マクロ経済分野においては合理的な選択は成り立たないわけですので、本書でも指摘している通り、マクロエコノミストとして私はマクロ経済学のミクロ的基礎付は、可能であればそれに越したことはないが、少なくとも必要不可欠とは考えませんし、基礎付けができなくても仕方がない、くらいに受け止めています。私の受け止めで考えるべきもうひとつの要因は、いわゆるルーカス批判です。マクロ経済においては、ひょっとしたら、マイクロ経済もそうなのかもしれませんが、政策変更によるパラメータの変化がついて回ります。そして、ルーカス批判はマクロ経済学のミクロ的基礎付の根拠ともされるわけですが、はたして、カリブレーションによってルーカス批判がクリアできるのかどうか、本書では言及ありません。最後に、予測を考える場合、基本は何らかの微分方程式体系があってパラメータが頑健であるとすれば、初期値が決まれば先行きは決まってしまう可能性があります。経済学ではありませんが、物理学におけるラプラスの悪魔なんかがそうです。ただ、物理学では不確定性定理により、ラプラスの悪魔は存在しないことが明確になった一方で、経済学においてはルーカス批判で指摘されたようにパラメータが必ずしも頑健ではないわけです。従って、本書でも指摘しているように、解析的にエレガントに微分方程式体系が解けないのであれば、リカーシブに、というか、本書ではシミュレーションに縒りと表現していますが、同じで、先行きを考える必要がありますが、パラメータが確定しないシミュレーション二どこまで信頼性を置くべきか、カリブレーションでどこまで補えるか、についても考える必要があります。マクロ経済学をミクロ的に基礎づけるというのは、大きなチャレンジなのですが、必要性が疑わしい上にムリスジな気すらします。

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次に、エマニュエル・トッド『第3次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)です。著者は、フランスの歴史人口学者・家族人類学者です。そして、EUによる統合は欧州のドイツ化であり明確に反対の姿勢を示しています。ということで、本書は『文藝春秋』2022年5月号の「日本核武装のすすめ」を中心にいくつかの論考を収録しています。そして、日本を始めとして欧米などのメディアではロシアのウクライナ侵攻を強く避難し、ロシアに対する批判が極めて優勢となっている中で、別の角度からの視点を提供するものとなっています。すなわち、2014年のウクライナにおけるユーロマイダン革命は民主主義的な方法によらずに親EU派が政権をクーデタにより掌握したと主張し、ロシアによるクリミア編入に対する理解を示しています。加えて、その前に欧米から繰り返し主張された「NATOは東方に拡大しない」という方針が保護にされた点を重視し、これまた、ロシア寄りの見方を示しています。このあたりはミアシャイマー教授の見方を支持する形で示されています。そして、ミアシャイマー教授とは違う見方を示しているのが、「死活問題」意識であり、ミアシャイマー教授はウクライナ危機はロシアにとって死活問題である一方で、米国から見れば遠い国の問題であり、いかなる犠牲を払っってでも勝利を目指すロシアの方が優位に立っている、との見込みを示していますが、本書では米国にとっても死活問題であり、ミアシャイマー教授の説は成り立たない、と主張しています。私ははなはだ専門外であって、何ともいえません。ただ、本書の結論で、「核の共有」も「核の傘」も幻想にすぎないから、日本も核武装すべし、という結論には同意できかねます。同意できるのは、ウクライナ危機の現状を見るにつけ、英米から軍事支援を受けているとはいえ、ウクライナを制圧できないロシアの軍事力が、実は、大したことなかった、という軍事力の見方、さらに、中国などの一部の例外を除いて世界各国から経済制裁を受けているにもかかわらず、ロシアの経済が崩壊していないという意味で、ロシア経済の底力を認めざるをえない、という経済面での事実関係の2点です。いずれにせよ、日本や欧米ではメディアの主張はかなり一方的で、ウクライナに対する同情を引き立てて、難民受け入れなんかで極めて異例の措置を大きく報じる一方で、ロシアに対する非難一辺倒であるように私には見えます。それはそれで理解しますが、本書のような逆の視点を提供するジャーナリズムの必要性も理解すべきではないか、と考えています。

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最後に、まさきとしか『彼女が最後に見たものは』(小学館文庫)です。著者は、ミステリ作家であり、私は前作の『あの日、君は何をした』も読みました。前作と同じく警視庁捜査1課の三ツ矢秀平と戸塚警察署の田所岳斗がコンビを組んで事件解明に当たります。前作では、何ともいえないジョーカーがいて、事件をややこしくしていたのですが、本作品はそういったジョーカーはいません。ただ、事件が入り組んでいて複雑な点においては、前作を上回っている気がします。ということで、まず、クリスマスイブの夜に新宿の空きビルの1階で50代女性の遺体が発見されます。そして、その女性の指紋が、千葉で男性が刺殺された未解決事件の現場で採取された指紋と一致します。女性はホームレスでした。そして、千葉で殺された男性は公務員であり、この女性が生活保護を申請した際の窓口担当者として、いわゆる悪名高き「水際作戦」で生活保護申請を受け付けない仕事ぶりでした。さらに、この女性の夫がトラックにひかれて死んでいたのですが、実は、ひかれる直前にクモ膜下出血で死んでいて、ただ、ひいたトラックの運転手もこの一連の事件に関係してきたりします。生活保護申請でも判る通り、警察官を別にすれば、生活が苦しい登場人物が多い気もして、また、そうでない生活保護担当で役所の公務員だった男性は殺されたりしています。かなり複雑に絡み合った人間関係を解きほぐして、三ツ矢が全貌を解明します。ただし、ケーサツ的に物証があるわけではない点は、やや弱点と受け止める読者もいるかも知れません。他方で、その昔の警察ミステリ的に動機を重視し、やや行ったり来たりは当然あるものの、時系列的な事実関係の進行を解き明かす手法は魅力的です。特に、巻末の解説にもあるように、この作品は決して「イヤミス」ではなく、人間のいやらしさをえぐり出しつつも、本来人が持つ人間性に対する前向きかつ肯定的な暖かさを感じます。人間にとって幸福とは何か、について考えさせられるところがありました。続巻があれば、また読みたいと思います。

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2022年7月15日 (金)

第一生命経済研リポート「『アベノミクス』を振り返る」を読む!!!

やや旧聞に属する話題ながら、一昨日の7月13日に第一生命経済研から「『アベノミクス』を振り返る」と題するリポートが明らかにされています。私はエコノミストとしてアベノミクスは一定の評価をしています。もちろん、分配政策がなくて格差拡大を招いたとか、決して、すべてを好意的に評価しているわけではありませんし、改憲を志向したりする右派の政治姿勢には反対で同意できる部分はまったくないのですが、それでも、当初の「3本の矢」のアベノミクス、特に、金融政策は高く評価しています。このリポートは、基本的に、私の評価とかなりの程度に似通っていますので、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 円安・株高で雇用増 と題するグラフを引用しています。前の白川日銀総裁のもとで円高が進んだ後、安倍総理就任前から円高修正が進み、現在の足元まで円安が進行しています。この参議院選挙では円安バッシングの意見を多く聞きましたが、私は基本的に現在位の水準の円安であれば輸入物価の上昇というコストを差し引いても輸出などの需要拡大のベネフィットの方が大きいと考えています。このリポートでも同様の主張であり、アベノミクス第1の矢に基づく金融政策によって、円安と株高がもたらされ、その結果として雇用が拡大した点を強調しています。もちろん、雇用拡大の一定部分が非正規雇用で占められていることは事実ですが、いわゆる「不本意非正規」の割合は低下していますし、雇用拡大は素直に評価すべきであると私は考えています。おそらく、今回の参議院選挙の結果を受けて先行き、(1)改憲、(2)軍拡、(3)増税=緊縮財政、(4)金融引締め、の4点セットが進められると私は予想していますが、いずれも私は大いに反対しています。

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次に、リポートから 実質個人消費と実質公共投資 と題するグラフを引用しています。リポートでは、第2の矢の財政政策については、公共投資の拡大を評価しつつも、2014年の消費税率引上げがデフレ脱却への「逆風」と評価しています。私も基本的に同じ考えです。その後の8%から10%への引上げに関しては何度か延期されましたが、2014年の5%から8%への引上げに関しては、いわゆる「3党合意」に沿ってスケジュール通りの消費税率引上げが実施されました。金融政策で好循環が始まった途端に緊縮財政に立ち戻ってしまい、その後に好循環が行き渡らない大きな要因のひとつとなってしまった点は批判されて然るべきです。そして、金融政策では分配政策に踏み込むことは難しく、格差是正のための分配政策は財政政策によって実行されるべきでしたが、格差是正の観点は財政政策運営にまったく見られませんでした。岸田総理のいう「新しい資本主義」には格差是正のための分配政策が正しい形で盛り込まれることを期待しています。

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最後に、リポートから 主要国のFTAカバー率 と題するグラフを引用しています。第3の矢の成長戦略については、私はもともと政府がイノベーションを促進する政策の有効性には疑問を持っていて、むしろ、TPPをはじめとする自由貿易協定(FTA)の推進を重視していたのですが、結局、米国が加わらないままの発効となったとはいえ、貿易政策はそれなりに進んだと評価しています。安倍政権を終えた後もこの貿易自由化の流れが続いており、RCEPが署名されて発効したことは広く報じられた通りです。

経済政策の面では、私はアベノミクスがかなりの成果を上げていて、従って、選挙で連戦連勝だったのではないか、と受け止めています。繰り返しになりますが、この参議院選挙の結果を受けて、(1)改憲、(2)軍拡、(3)増税=緊縮財政、(4)金融引締め、の4点セットが進められることを私は強く危惧しています。

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2022年7月14日 (木)

世界経済フォーラムによる「世界ジェンダーギャップ報告書 2022」やいかに?

一昨日7月12日、世界経済フォーラム(WEF)から「世界ジェンダーギャップ報告書 2022」Global Gender Gap Report 2022 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。こういった期間の英文リポートに着目するのは私のこのブログの大きな特徴のひとつですので、グラフなどとともに簡単に取り上げておきたいと思います。

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最新版の2022年版では世界の146か国を対象として、経済 Economic Participation and Opportunity、教育 Educational Attainment、健康 Health and Survival、政治 Political Empowerment の4分野において、労働参加率 Labour-force participation rate、男女賃金格差 Wage equality for similar work、識字率 Literacy rate、健康寿命 Healthy life expectancy、女性国会議員 Women in parliament、女性閣僚 Women in ministerial positions などを基に男女の平等を指数化しています。なお、完全に男女平等 parity であれば指数は1となります。ということで、世界経済フォーラムのサイトから世界の国々のトップテンを引用すると上の画像の通りです。北欧を中心とする欧州諸国のほかに、ニュージーランド、あるいは、アフリカや南米からもランクインしています。ちなみに、我が日本は大きくランク外で、116位と主要先進国の中では最下位であり、何とか、昨年の120位からは順位を上げたものの、男女平等がほとんど進んでいない現状が明らかになっています。
最後に、下の画像は、リポート p.208 の Economy Profile Japan の一部を取り出しています。経済、教育、健康、政治の4分野の中で、教育では男女平等が達成されていて、健康でもかなり高いスコアをマークしている一方で、経済分野のスコアは低く、政治に至ってはほぼゼロとすらいえます。

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2022年7月13日 (水)

日銀「さくらリポート」(2022年7月)に見る地域経済やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、日銀支店長会議において、今週月曜日の7月11日に「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」(2022年7月)が明らかにされています。日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
各地域の景気の総括判断をみると、中国でのロックダウンもあって供給制約の影響がみられているものの、個人消費への感染症の影響が和らぐもとで、多くの地域で「緩やかに持ち直している」などとしている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2022年4月判断】前回との比較【2022年7月判断】
北海道新型コロナウイルス感染症の影響から下押し圧力が強い状態にあり、持ち直しの動きが一服している新型コロナウイルス感染症の影響がみられているものの、緩やかに持ち直している
東北持ち直しの動きが一服している緩やかに持ち直している
北陸持ち直しの動きが一服している基調としては持ち直している
関東甲信越感染症の影響などから弱い動きがみられるものの、基調としては持ち直している供給制約の影響が強まっているものの、個人消費への感染症の影響が和らぐもとで、基調としては持ち直している
東海持ち直しの動きが一服している持ち直しの動きが一服している
近畿消費への新型コロナウイルス感染症の影響がみられているものの、全体として持ち直し基調にある中国におけるロックダウン等の影響が残るものの、消費への感染症の影響が和らぐもとで、全体として持ち直している
中国サービス消費を中心に下押し圧力が続いているものの、緩やかな持ち直し基調にある下押し圧力は残るものの、緩やかに持ち直している
四国緩やかに持ち直しているものの、一部に新型コロナウイルス感染症等による下押しの影響がみられる一部に供給制約の影響がみられるものの、全体としては緩やかに持ち直している
九州・沖縄持ち直しのペースが鈍化している緩やかに持ち直している

見ての通りで、「各地域の景気の総括判断」に引用した通り、全国多くの地域で景気の総括判断が引き上げられています。関東甲信越と東海だけが4月から横ばいですが、ほかの7ブロックは景気判断が引き上げられています。まん延防止等重点措置といった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止にための行動制限が3月21日に完全撤廃されたものの、4月の時点ではまだその影響が残っていた一方で、7月判断では中国のロックダウンも6月からは解除されていて、内需も外需もそれなりの回復を見せた結果であると私は受け止めています。ただ、一部にまだ供給制約の影響は残っているようです。加えて、足元で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の新規感染が拡大しており、夏休みに向けて予断を許さないところです。さらに、石油をはじめとする資源価格は高止まりしており、企業経営や国民生活への影響がどこまで続くのかも不透明です。私は基本的に物価高については、世間一般よりは楽観しているのですが、参議院選挙も終わってしまい、政府の動きが鈍くなる点は懸念しています。キツい表現をすれば、国民生活や中小企業経営は「見殺し」にされて、増税や改憲に突っ走る素地が選挙結果によって出来たわけですので、それはそれで危惧しています。

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2022年7月12日 (火)

企業物価指数(PPI)に見る物価高の原因は何なのか?

本日、日銀から6月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+9.2%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価、6月9.2%上昇 民間予測上回る
日銀が12日発表した6月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は113.8と、前年同月比9.2%上昇した。前年の水準を上回るのは16カ月連続。ロシアによるウクライナ侵攻に伴う供給制約への懸念から、エネルギーなどの資源価格が高止まりしている。24年ぶりの円安も物価高に拍車をかけた。
上昇率は民間予測の中央値である8.9%を0.3ポイント上回った。6月の指数は調査を開始した1960年以降で最も高かった。5月の上昇率は先月発表時点の9.1%から9.3%に、4月の上昇率も9.8%から9.9%に上方修正された。
国内ではエネルギー価格の高止まりを背景に、企業物価の上昇が続く。指数の5%以上の上昇は12カ月連続で、10.4%の上昇率を記録した1980年12月以来の高い伸びを維持している。前回の上昇局面では1970年代に2度発生した石油危機の影響で、高い企業物価の伸びを記録していた。
公表した515品目のうち、上昇したのは8割にあたる409品目だった。上昇率を品目別に見ると、原油価格上昇の影響を受けやすい石油・石炭製品(22.2%)や化学製品(12.5%)、電力・都市ガス・水道(28.2%)などが水準を押し上げた。飲食料品(4.6%)など、消費者に近い品目にも値上げが波及している。
6月には外国為替市場で円が一時、1ドル=137円に達し、24年ぶりの円安水準を記録した。円ベースの輸入物価の上昇率は46.3%と、ドルなど契約通貨ベースの25.8%を上回った。足元の円安が企業の物価を押し上げている。一方、円ベースの輸出物価の上昇率は19.1%、契約通貨ベースは5.9%にとどまった。
外国為替市場で円は足元で1ドル=137円前後で推移する。利上げを進める米国と大規模緩和を続ける日本の金融政策の違いで金利差が広がり、金利の高いドルにマネーが流れ込んでいる。米連邦準備理事会(FRB)はインフレ対応でさらなる利上げを見据えており、円安が企業物価を押し上げる構図が続きそうだ。
2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は長期化しており、エネルギー価格は当面、高止まりが見込まれる。元売り会社への補助金支給など、政府の「激変緩和措置」はエネルギー価格の押し下げに作用したが、前年同月比では上昇分を補えなかった。
5月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年同月比2.1%上昇するなど、企業の物価高騰の影響が家計にも及びつつある。日銀が掲げる物価2%の物価安定目標に達しているが、インフレは一時的として現在の金融緩和方針を堅持する構え。
物価変動の影響を除いた5月の実質賃金は、前年同月比1.8%減と物価上昇による賃金の目減りが鮮明になっている。春季労使交渉(春闘)での平均賃上げ率も2%程度にとどまっており、景気後退の懸念が高まっている。

とても長くなりましたが、いつもの通り、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+8.9%と見込まれていましたので、実績の+9.2%はやや上振れしています。PPI上昇の要因は主として3点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、第2に、我が国製造業のサプライチェーンにおける半導体などの供給制約が上げられます。第3に、コストプッシュとデマンドプルの両面から、為替レートが減価している円安要因です。
実は、先月、大学で開催された講演会でマルクス主義経済学から見た金融政策の量的緩和について、大きな発見がありました。すなわち、石油をはじめとする資源価格高騰は、直接にはロシアによるウクライナ侵攻が目立っている一方で、バックグラウンドで大きく緩和が進んだ金融政策が資産としての一次産品価格の上昇を引き起こしている、という見方です。これに従えば、金融緩和による通貨供給増が一般国民の家計から通常の財・サービスに向かうのではなく、資産市場に流れ込んで資産価格を引き上げているわけです。株式や債券をはじめとする金融資産、地価に支えられたマンション価格、そして、石油をはじめとする一次産品価格も同様、ということです。ですから、逆に、石油をはじめとする資源価格、すなわち、一次産品価格を引き下げようとすれば金融政策を引き締めることが必要になりますが、問題はどの国の金融政策を引き締める必要があるか、という点です。直感的に、日本ではなく米国だろうと私は考えています。何とも、評価の難しいところですが、米国が金融引締めを続ければドル供給が伸び悩み、結果として、石油という資産の価格が低下する可能性が十分あります。少なくとも、世界的に石油需要が大きく増加しているというわけではありませんから、ドル供給を引き締めることによって石油という資産に流れるドルを縮小させれば、おそらく、通常の財・サービスよりも資産価格はボラタイルでしょうから、一気に石油価格が低下する可能性もあります。ヨソの引締めによって日本が石油価格低下という恩恵を受ける可能性もあったりするかもしれません。

私は決してマルクス主義経済学に詳しいわけではなく、官庁出身のエコノミストとして主流はど真ん中だと考えているのですが、石油を資産と考えれば金融緩和によるマネーが資産である石油価格を押し上げた、という視点は成り立つような気がします。う~ん、マルクス主義経済学って、こういう考え方をするんだっけ、と改めて知らされました。

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2022年7月11日 (月)

3か月ぶりの前月比マイナスを記録した5月統計の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から5月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲5.6%減の9088億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の機械受注、前月比5.6%減 市場予想は5.3%減
内閣府が11日発表した5月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比5.6%減の9088億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は5.3%減だった。
製造業は9.8%減、非製造業は4.1%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は7.4%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で▲5.3%減の予想でしたし、実績の▲5.6%減はやや下振れた印象あるものの、まあ、想定の範囲内というところです。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。今年に入って1~3月期のコア機械受注は前期比で▲3.6%減でしたし、4~6月期の見通しも▲8.1%減の2兆3,706億円と、さらに落ち込む予想であったのですが、実績では、3月統計の+7.1%増に続いて、4月統計でも+10.8%増を記録した後、5月統計にはさすがに反動減が出て▲5.6%減ですから、基調判断は基本的に正しいかのように私には見えます。5月統計では、季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲9.8%減、船舶と電力を除く非製造業が▲4.1%減と、製造業のマイナス幅の方が大きくなっています。5月までは中国の上海でロックダウンが続いていたことが理由のひとつかと考えられますので、「こんなもん」という気もします。

最後に、機械受注や設備投資の先行きについては、引き続き、緩やかな増加を示すものと私は考えています。大きな理由のひとつは、7月1日に公表された6月調査の日銀短観における設備投資計画です。2021年度実績が下方修正されたリバウンドもあるのでしょうが、2022年度の設備投資計画はかなり強気だと私は受け止めています。

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2022年7月10日 (日)

7月10日ウルトラマンの日の雑感やいかに?

今週と来週で大学の授業が終わる予定で、もう授業準備に追われることもないので、ややのんびり過ごしています。そんな7月10日(日)のウルトラマンの日の雑感です。
まず、第1に、選挙と安倍元総理の暗殺について。いろいろと思うところあります。一応、私は小泉内閣の最後の方、正確には郵政選挙の際の「政治空白」めいた時期の2005年8月に、内閣官房に人事異動しています。官邸詰めではなかったのですが、官邸スタッフの一員とみなされます。その結果、おそらく、平均的な日本人よりは安倍元総理を、官房長官のころから身近に感じられるポジションにありました。繰り返しになりますが、ですから、いろいろと思うところがあります。まず、エコノミストとしては、少なくとも金融政策については評価されるべきですし、財政政策についても第2次内閣発足直後の2013年度についてはOKだと思います。しかし、2014年度の消費税率引上げあたりから財政政策は緊縮化したと受け止めています。マクロ経済政策で決定的に欠落していたのは分配政策です。ですから、経済格差が拡大したのは事実だろうと思います。それでも、全体としては経済政策は十分に評価されるべきです。アベノミクスの成果が国政選挙の連戦連勝につながっている点は、見逃すべきではありません。ただ、経済政策を離れれば、集団的自衛権に関する「解釈改憲」、特定秘密保護法などの安全保障政策については、私は専門外ながら、まったく評価しません。
第2に、今回の暗殺は言論の封殺という意味では許しがたい暴挙ですが、安倍元総理が国会で100回を超える虚偽答弁を行ったというのも忘れるべきではありません。もちろん、暗殺というのは、人間として生命を断つ行為ですから、同列に論ずることが出来ないのは理解しています。でも、暗殺されたからといって、虚偽答弁をはじめとする森友学園・加計学園、あるいは、桜を見る会などの疑惑が消えてなくなるわけではありません。キチンとした解明がなされるべきです。
第3に、安倍元総理の疑惑を考える際に、辞任を表明した英国のジョンソン首相との比較で、日本の民主主義が未成熟である点を改めて思い知らされました。ただし、これは国民のリテラシーに大いに相関しているのだと私は理解しています。どうじに、暗殺の容疑者の周辺情報を報じる際に、「宗教団体」としか報じられないメディアのリテラシーの低さも併せて考えるべきです。「報道の自由」や「国民の知る権利」に基づいて、犯罪加害者、というか、その家族などにはあれほどの取材姿勢を見せる一方で、今回の「宗教団体」報道では及び腰だと考えるのは私だけではないと思います。
最後に、メディアや国民のリテラシーの低さに大きな「貢献」をしてしまったひとつの要因は教育の質の低さだと、教員として反省しています。

国民、メディア、そして、政治のリテラシーが低い、というのが3すくみで進行していて、国全体として劣化が進んでいる可能性があります。教育にたずさわる身として、何とかしたいという意欲がある一方で、自分自身に大した能力もないという現実もあり、悩ましいところです。

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2022年7月 9日 (土)

今週の読書は経済に関する専門書と新書と小説を合わせて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、大澤真幸『経済の起源』(岩波書店)は、社会学の観点から経済の起源についての議論を展開しています。ただ、生産と交換からなると私が考えている経済を交換の方に重点を置き過ぎているきらいはあります。続いて、小沼宗一『経済思想史入門』(創成社)は、タイトル通りに経済思想をアダム・スミスから始めて、ケインズとシュンペーターまで、代表的な6人のエコノミストの思想を取り上げています。続いて、桑木野幸司『ルネサンス情報革命の時代』(ちくま新書)は、活版印刷によって大量の情報が溢れ出てきたルネサンス期の文化を紹介するとともに、DXによるコモンプレイス化についても視野に入れています。最後の2冊は小説であり、あさのあつこ『飛雲のごとく』(文春文庫)は小舞藩シリーズの第2作であり、主人公の元服式からストーリが始まります。そして、最後の最後の山口恵以子『トコとミコ』(文春文庫)は、大正生まれの2人の女性、伯爵家のご令嬢と伯爵に使える家臣の娘が、戦中戦後を経て没落する特権階級とのし上がる実業家を代表しつつも、強い絆で結ばれあう90年に渡る長い長いストーリーです。
なお、今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計121冊となりました。年間200冊のペースを少し超えていますので、少し余裕を持って新刊書ならざる読書にも励みたいと思い、小説とマンガを読みました。すなわち、小舞藩シリーズ第1作であるあさのあつこ『火群のごとく』は『飛雲のごとく』の前日譚であり、『日出処の天子』の作者として著名な山岸凉子の短編マンガ集『天人唐草』(ともに、文春文庫)を読みました。いずれもFacebookの然るべきグループでシェアしてあります。もちろん、本日の新刊書の読書感想文も、適当なタイミングで個別にシェアしたいと予定しております。

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まず、大澤真幸『経済の起源』(岩波書店)です。著者は、社会学の研究者であり、本書も経済学の学術書ではなく、岩波書店の「クリティーク社会学」のシリーズとして出版されています。ですから、経済を交換の側面から捉えています。一応、交換と生産を考えているのですが、生産はまったく注目されていません。もっぱら交換に焦点を当てていると考えるべきです。そして、広く認められているように、最初に「物々交換」ありきではなく、贈与を置いています。もちろん、貨幣、ないし、貨幣的な目的で使われる貴金属などの商品貨幣も含めて、貨幣が導入されて現在に至っているわけですが、贈与を交換の前に置いているのは注目すべきかもしれません。そして、贈与については、贈る義務と受け取る義務とお返しをする義務の3つの側面を考えます。重要なのは、贈与の場合には購入や交換による所有ではなく、保有として処分に何らかの制約が加わる点です。すなわち、交換により入手した財については所有が適用されて、処分は意のままです。少し前の読書感想文で稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を取り上げ、私はサブスクであろうと何であろうと映画やドラマを早送りで観るのは消費の方法としてOKであり、芸術の鑑賞だけではなく、そういった早送りの消費も受容される旨を書きましたが、まさにそのような意味です。他方で、贈与されたものは勝手に処分することは憚られる、と本書では指摘します。本書では言及ありませんが、白い象がこれに当たりそうな気がして、私は読み込みました。よく知られた伝説で、その昔、タイの王が自分の嫌いな家臣に白い象を贈与し、維持費のかかる無用の長物として持て余す、という昔話があります。まさに、こういったことだろうと私は受け止めています。そして、貨幣が普及する中でヒエラルキーが形成され、逆に、分配の重視といった考えも生まれ、最終的には現在のような資本主義経済で商品として交換されるに至る、という歴史観が展開されています。私はエコノミストとして、本書で対象になっているような経済の歴史について、おおむね一致した歴史観をもっているつもりなのですが、唯一、生産をここまで軽視するのはどうか、という気がしています。すなわち、交換、あるいは、贈与については本書では一方的な経済行為であるとはみなしておらず、一種の交換、あるいは、少なくとも交換に先立つ経済行為と考えているようですから、贈与も含めた経済的な交換を考える場合、生産力が一定段階以上に発達して生産物に余裕があるとともに、社会的に分業が成立しているという条件が必要です。日本の昔話ではありませんが、海彦と山彦の間で、分業が成立していて、さらに、生産物を交換に回す余裕が生産力あって、その上で初めて贈与を含む交換が成り立ちます。その意味で、贈与を始めとする好感のバックグラウンドにある生産力の増大、そして、その生産力の拡大に伴う分業の進展も、出来ることであれば、経済の歴史でしっかりと見据えて欲しかった気がします。

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次に、小沼宗一『経済思想史入門』(創成社)です。著者は、東北学院大学の研究者であり、専門は経済思想史です。本書は6章構成となっており、アダム・スミス、リカードウ、J.S. ミル、マーシャル、ケインズ、シュンペーターを、それぞれ取り上げています。タイトルに「入門」がついているだけに、比較的入門編の経済思想史といえます。逆に、本書の各章は大学の紀要論文が基になっているようなのですが、紀要論文のレベルがやや心配になったりします。それはともかく、スミスについては経済学の主著である『国富論』だけでなく、『道徳感情論』における共感の働きも含めて、平易にその経済思想を解説しています。ただ、いかにも古典派的な、というか、その後にケインズに批判された「節約の美徳」については、これも交易の重視から生じている点を見逃している気がします。リカードウやJ.S.ミルも同じ古典派と考えるべきなのですが、リカードウの比較生産費説も基本は同じで、分業に基づく交換、あるいは、交易の利益を強調しています。現在の用語で言い換えれば、ダイバーシティといっていいかもしれません。みんながバラバラであってもいろんなものを生産していて、それを交換すれば豊かな生活が送れる、という基本認識です。たとえ、バラバラに個人が勝手に生産をしていても、ある程度の期間があれば、市場の「見えざる手」が調整してくれる、という考えです。そして、その交換に出すためには、すべての生産物を自家消費していては交換が成り立ちませんから、生産力を伸ばすか、自家消費を節約するか、どちらかで交換、あるいは、言葉を変えれば、市場に出る生産物が増えるわけです。本書では、この意味を正しく把握していないのではないか、と私は危惧しています。いずれにせよ、ケインズが正しく批判したように、生活が苦しかったり、景気がっ悪かったり、あるいは、今のように物価が高かったりする時は、古典派的に家計レベルでコストを切り詰めるのではなく、ケイジアン的に政府のレベルで収入を増やすような政策を取るべき、というのがマクロエコノミストの結論ではないか、と私は受け止めています。本書では、マルクスは取り上げられていませんが、古典派が活躍した英国の時代背景として、土地持ちの地主と産業資本家の階級対立があった点は、本書でもしっかりと把握されています。エンゲルスの編集にして正しければ、マルクスの『資本論』第3巻は三大階級の章で締めくくられています。そして、これも有名なことながら、マルサスが地主の利益を代表して人口抑制を説いた一方で、ケインズが新興の産業資本家、マルクス的にいえばブルジョワジー、の立場に立って、マクロ経済学を展開していたのは広く知られているところです。最後に、ミルのような古典派では、いわゆる定常状態、本書では「停止状態」とされている定常状態に、いつかは、達するかどうか、について、イノベーションにより定常状態にはならない、というか、かなり先まで定常状態は来ない、と主張したシュンペーターの章で締めくくられています。

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次に、桑木野幸司『ルネサンス情報革命の時代』(ちくま新書)です。著者は、大阪大学の研究者であり、専門は西洋美術・建築・都市史・ルネサンス思想史となっています。タイトル通りであれば、ルネサンスとは活版印刷に代表されるように情報革命が生じた時期、という議論が展開されていることを期待するのですが、ルネサンス期のさまざまな文化の紹介がほとんどを占めます。私はそれはそれでOKです。ルネサンスの文化といえば、そのものズバリで、ブルクハルトの『イタリア・ルネサンスの文化』があまりにも有名で、私も読んだことがあります。本書はさすがに並べて称するには引けを取ります。まあ、当然です。構成としては、ルネサンス期の地図から始まって、ルネサンスのひとつの大きな特徴であるエンサイクロペディックな百学連環、私の日本語変換では「百學連環」が出てきてしまいますが、まさに、さまざまな学問分野での知の進歩を概観し、本題の活版印刷に焦点を当てます。従って、その流れで、「書物は知の貯蔵庫から、情報伝達のメディアへと変容を遂げた」(p.106)といった主張も盛り込まれています。さらに、活版印刷で文字情報の洪水が現れた中で、コモンプレイス化=情報の固定化や典型化が進み、さらに、文字情報だけでなくイメージ情報も普及し、イメージとして記憶術も注目されるようになります。そして、文字情報とイメージを総合したものとして博物学が進歩し、世界の目録が作成される、ということになります。本書では、明るく肯定的なイメージのルネサンス文化の光に対して、逆に影を対地するでもなく、極めてニュートラルにルネサンス文化を考えています。21世紀のゲン菜も、ある意味では、ルネサンス期と同じような「情報の洪水」を我々は体験しているわけであり、ルネサンス期に開発された活版印刷の成果物としての書物に対応して、通信技術の進歩に伴ってサーバに蓄積される文字のテキスト情報とイメージの画像情報のどちらもが激増している、という点ではルネサンス期と同じです。本書のタイトルで「情報革命の時代」に我々は生きているのかもしれません。従って、溢れ出る情報をどのように整理するかを考える重要性が明らかで、まあ、流行りのキーワードでいえばデジタル・トランスフォーメーション(DX)なわけです。そして、そのDXの後に、というか、同時に考えるべき方向は、ひとつは、本書では何の言及もありませんが、GAFAのようにビジネスにDXされた情報を活かす、という方向性は考えられます。もうひとつは、私の属する業界である教育にいかに活かす、という方向性も考慮されるべきであると私は考えています。もちろん、特定の業界や方向性に従うだけではなく、それぞれの部署での作業効率の向上に活かす、というのも一般的かもしれません。ルネサンス期とは技術特性がまったく異なりますから、大量の情報処理に関しては、直接の応用は難しいと考えるべきですが、情報をいかに整理してコモンプレイス化するか、という観点では、ひょっとしたら、ルネサンス期から何か参考になる視点が得られるかもしれません。

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次に、あさのあつこ『飛雲のごとく』(文春文庫)です。著者は、とても売れている小説家であり、「バッテリー」のシリーズのような現代小説とともに、本書の「小舞藩」シリーズや私も新作を熱心に追いかけている「弥勒」シリーズのような時代小説の作品もあります。どうでもいいことながら、「弥勒」シリーズは光文社ですが、この「小舞藩」シリーズは文藝春秋だったりします。ということで、本書は「小舞藩」シリーズの第2作であり、第1作の『火群のごとく』から4年を経過しています。主人公の新里林弥の元服の儀からストーリーが始まります。元服の儀における烏帽子親を務めるのは先の大目付である小和田正近です。この烏帽子親について詳述すると、第1作の『火群のごとく』のネタバレになってしまいます。なお、以下、本書では特段の謎解きなんかがないと思いますので、ストーリーを少していねいに追いますが、あるいは、解釈によってはネタバレを含むかもしれません。未読の方はご注意ください。元服して新里家の当主となりましたので、林弥は兄の名であった「結之丞」を名乗ることを小和田正近から示唆されますが、林弥は今しばらく「結之丞」の名乗りを控えます。さらに、元服して一家の当主となってもお役には就けません。ですから、まあ、ヒマにして引き続き道場に通ったりしているわけです。樫井透馬は傷の手当のために江戸に去り、そして、同じ道場に通う友人であった上村源吾は前作で亡くなっていますし、山坂和次郎はすでに普請方の勤めに出ていたりします。しかし、当然のように、樫井透馬が小舞藩に戻って来て、まずは、前作と同じように新里家に居候します。そして、この『飛雲のごとく』では、前作の『火群のごとく』と違って、かなり淡々とストーリーが進みます。しかし、樫井透馬が居候している新里の家が刺客によって襲われます。山坂和次郎の助太刀もあって、樫井透馬と新里林弥はこの襲撃を退けます。そして、樫井透馬と新里林弥は樫井の家老宅に乗り込みます。樫井透馬はすでに父親で家老である信右衛門から跡継ぎに指名され藩からも認められています。その代償として新里林弥と山坂和次郎を樫井透馬の近習とすることが決まります。最後に、新里林弥の兄嫁の七緒が落飾します。というストーリーなのですが、私が気にかかっているのはただ1点です。すなわち、新里林弥と山坂和次郎は下士とはいえ、藩主の直接の家臣である一方で、この作品では家老の家柄とはいえ樫井透馬の近習、すなわち、藩主の家臣の家臣、陪臣となるのですが、それはどのように考えるべきなのでしょうか。封建時代の昔にあっては、やや不名誉な雇われ方、と受け止められないのか、やや心配です。むしろ、現代的に実質を取って、藩政への影響力という点では下士でいるよりも、陪臣とはいえ家老の家臣になる方がいいのでしょうか。まあ、私はこの「小舞藩」シリーズの第1作と第2作の本書はともに新刊された文庫本で読んでいて、単行本ではすでに第3作の『舞風のごとく』も出ていますので、私の疑問への回答は明らかになっているのかもしれません。第3作は昨年2021年10月の出版ですから、新刊書読書の範囲でしょうし、読み進みたいと思います。

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最後に、山口恵以子『トコとミコ』(文春文庫)です。著者は、当然に小説家なのですが、この作品よりも「食堂のおばちゃん」シリーズで有名なのではないか、と私は受け止めています。これまたどうでもいいことながら、本書は文藝春秋から出版されていて、私の勤務大学は文春文庫をシッカリと所蔵してくれているのですが、「食堂のおばちゃん」シリーズはハルキ文庫ではなかったかと記憶しています。なぜか、大学の図書館では所蔵されていません。ということで、本書は大正から昭和、平成に渡る2人の女性の6歳から96歳までの90年間の人生を描き出しています。トコこと六苑塔子は大名華族の伯爵家のご令嬢であり、ミコこと寺井美桜子はその伯爵家の家扶として資産運用にあたっている旧家臣の家の娘です。伯爵のお屋敷の敷地内にある御小屋で両親とともに暮らしています。六苑伯爵は外交官としてロンドン勤務で、トコも英国生まれなんですが、トコとミコが小学校に上る直前の昭和2年に帰国します。そして、ミコがトコの御学友に指名されて、お屋敷でトコと遊ぶことになるわけです。小学校は学習院と地元の区立小学校に分かれますが、学校から帰ってからはミコがお屋敷に向かう、ということになります。そして、英国帰りのトコからミコは英語や英国刺繍(イングリッシュ・ニードルポイント)を習います。戦後に華族制度は廃止されるわけですが、まだ、終戦まで間のある時期に1人娘のトコは婿養子をもらうのですが、その際の伯爵家のお国入りが、ちゃんと取材されているとはいえ、やたらと豪華でびっくりさせられます。講座派の歴史家が戦前の日本では封建制の残滓がいっぱい残っていて、社会主義革命の前に民主主義を徹底するために前段階の革命が必要である、と二段階革命論を論じた理由がよく理解できます。それはともかく、戦後、当然にして、六苑伯爵家はお屋敷を占領軍に接収されたりして大いに没落するわけです。それを実業家として支えるのが、日本女子大を卒業したミコなわけです。占領軍将校と渡り合って、六苑伯爵家のお屋敷に併設されていた離れでナイト・クラブを営むことから始めて、旧伯爵家が経済的に困窮しないように働きまわるわけです。独立を回復してからは、旧伯爵のお屋敷を買い取って結婚式場として、団塊の世代がその昔の「適齢期」に達する時期を見計らって事業展開したりして、ミコは女性実業家としても頭角を現します。他方で、トコは旧華族の肩書もあって、マナーの専門家としてテレビで活躍したりします。しかし、バブルの波に襲われて旧伯爵家のお屋敷は地上げにあってしまい、ミコの事業も結婚式から葬式に転換を失敗し、ミコは行方不明となります。しかし最後に、英国刺繍(イングリッシュ・ニードルポイント)の縁で2人は20年ぶりに96歳で再会する、というストーリーです。かなりスッ飛ばしましたが、トコとミコの関係は決してベッタリではありませんし、もちろん、旧藩主と家臣ではありえません。実に、ビミョーな関係です。そのうちに、大河ドラマには苦しいでしょうが、NHKの朝ドラになることを願っています。

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2022年7月 8日 (金)

引き続き堅調な米国雇用統計の先行きを考える!!!

日本時間の今夜、米国労働省から6月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の6月統計では+372千人増となり、失業率は前月から横ばいの3.6%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を5パラだけ引用すると以下の通りです。

June jobs report shows strong gain of 372,000. Unemployment unchanged at 3.6% as the economy slows.
Employers added 372,000 jobs in June as the sizzling labor market shrugged off a slowing economy, high inflation and rising interest rates.
The unemployment rate held at 3.6% for the fourth straight month, just above a 50-year low, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that about 270,000 jobs were added last month.
Payroll gains for April and May were revised down by a total of 74,000, revealing a modestly softer job market than believed.
As a result, employment growth moderated to a still-robust average of 383,000 jobs a month in the spring from about 600,000 the prior three months as the nation drew closer to recovering all 22 million jobs lost in the pandemic. It has now recouped 21.5 million, or 97.6%, and could reclaim the rest in the next couple of months.

コンパクトによく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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米国の雇用は、非農業部門雇用者数から見ても、失業率から見ても、引き続き堅調と考えるべきです。しかし、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかっています。このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。特に、いくつかの報道を見る限り、一部の新興テクノロジー企業ではレイオフが始まっており、半導体などの供給制約に直面している自動車産業も同様の模様です。一方で、人手不足に起因する労働需要は旺盛であり、レイオフされたところで直ぐに職が見つかる、とも報じられています。人手不足のひとつの要因は、労働市場への再参入の動きの鈍さです。すなわち、女性や高齢者などの縁辺労働力では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって職を離れた後、そのまま非労働力化するケースがめずらしくないといわれています。通常、米国に限らず日本などでも、こういった縁辺労働力は景気の悪化とともに労働市場を離れるものの、景気が回復し求人が増加すれば再び労働市場に参入する、と考えられていたのですが、COVID-19後の労働市場のニューノーマルは少し違うようです。したがって、金融政策でインフレを抑制するためには、さらなる強力な引締めが必要とされる可能性があります。ひょっとしたら、このまま米国経済がリセッションに陥るのかもしれません。

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先行き不安な景気ウォッチャーと資源高で黒字が大きく縮小した経常収支を考える!!!

本日、内閣府から6月の景気ウォッチャーが、また、財務省から5月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+2.6ポイント上昇の50.4と改善し、先行き判断DIも+0.2ポイント上昇の50.3となっています。また、経常収支では、季節調整していない原系列で+1284億円の黒字を計上しています。まず、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、昨年2021年12月まで上昇を示し、2021年12月には57.5に達した後、オミクロン型変異株の感染拡大などを背景に、今年2022年1月統計では前月差▲19.6ポイントと大きく低下して37.9の水準を記録し、2月統計でも37.7と引き続き低い水準で推移した後、3月統計では+10.1ポイント上昇の47.8と大きく上昇し、4月統計では+2.6ポイント上昇して50超の水準まで回復を示した後、5月統計でも+3.6ポイント続伸し、54.0を記録しています。しかし、足元の6月統計では▲1.1ポイント低下の52.9となっています。まだ水準はかなり高くて50を超えているとはいえ、6月の先行き判断DIが前月から▲4.9ポイント低下し、50を割り込んだ47.6を記録していますので、先行きについては不安が示された、と私は受け止めています。企業部門では昨年から業績の回復が著しい一方で、家計や消費者のサイドではインフレの影響で実質所得が目減りしています。この国民生活の軽視はずっと続いてきているのですが、何度も繰り返してきたように、そろそろ、インフレに見合った所得の増加がないと日本経済はサステイナビリティを失いかねないような気がして、私はとても怖い気がします。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、5月統計では4か月連続で経常黒字を記録していますが、国際商品市況における資源価格の高騰などを受けて、貿易収支が▲1兆9512億円の赤字、サービスと合わせて貿易・サービス収支が▲2兆1097億円の赤字を計上しています。同時に、季節調整済みの系列でも経常収支は+82億円の黒字と、黒字幅が大きく縮小しています。何度も繰り返しますが、ロシアのウクライナ侵攻などを受けて、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしていますので、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然であり、消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、貿易赤字は何の問題もない、と私は考えています。

昼前に大きな銃撃事件が起こって、ニュースは経済指標なんか軽視されてしまって、銃撃事件一色になっています。言論を暴力で封殺するような動きは一切容認することが出来ません。私は短いながら、官房長官から第1次内閣のころは内閣官房勤務でした。もう10年余前のことです。当時の政策がよろしくなかったと考えるのでしたら、暴力ではなく民意で審判を下すべきです。犯罪行為があったのなら裁判で結論を得るべきです。
なお、今日は、日本時間の夜に米国雇用統計が公表される予定ですので、もうひとつ記事を書くつもりです。

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2022年7月 7日 (木)

5月統計の景気動向指数の基調判断は「改善」続くも先行きはニュートラル!!!

本日、内閣府から5月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲1.5ポイント下降の101.4を示し、CI一致指数も▲1.3ポイント低下の95.5を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

5月の景気一致指数、1.3ポイント低下 基調判断は据え置き
内閣府が7日発表した5月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.3ポイント低下の95.5となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は1.3ポイント低下だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.5ポイント低下の101.4だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、5月統計についてCI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、耐久消費財出荷指数▲0.66ポイント、鉱工業用生産財出荷指数▲0.50ポイント、 生産指数(鉱工業)▲0.49ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.41ポイント、などとなっています。他方、プラス寄与が大きいのは、商業販売額(卸売業)(前年同月比)+0.31ポイント、輸出数量指数+0.18ポイント、有効求人倍率(除学卒)+0.16ポイント、などが目立っています。CI一致指数は前月から低下しましたが、基調判断は「改善」で据え置かれています。
景気動向については、先月の4月統計公表時には、上海のロックダウンなどにより輸出が足を引っ張ってCI一致指数は前月から横ばいで、5月統計では輸出の影響もあって出荷や生産がマイナスに転じました。ただ、景気の先行きに関しては、私自身は割合と楽観しています。すなわち、輸出は中国でのロックダウンが6月から解除されたことにより回復に転じると見込まれますし、足元で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の国内新規感染者数が拡大しているとはいえ、まだ行動制限を伴う措置が取られているわけではありません。他方で、ウクライナ危機は長引きそうだと報じられています。ただし、私自身は国内のインフレや円安には楽観的ですが、参議院議員選挙結果がどうなるかにもよりますが、メディアの報道などからマインドに悪影響を及ぼす可能性もなしとはしません。特に、与党が勝利した時こそ、メディアの批判が高まる可能性があります。ですから、景気の先行きリスクはニュートラルと私は見込んでいます。

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2022年7月 6日 (水)

三菱総研のリポート「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」やいかに?

一昨日の7月4日、三菱総研から「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」と題するリポートが明らかにされています。需要サイドと供給サイドで、需要側の行動変容の有無と供給側の技術革新の有無とで4つのシナリオを考えて、経済社会への影響を試算しています。試算に当たっては、国際エネルギー機関(IEA)で開発されたモデルフレームワークに沿って、TIMES (The Integrated MARKAL EFOM System)モデルなる名称のエネルギー需給モデルを開発しています。その上で、モデルを用いて各シナリオに沿った分析を試みています。

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まず、上のグラフは三菱総研のリポートから 各国研究機関・エネルギー企業の「ネットゼロシナリオ」 を引用しています。見れば判ると思いますが、横軸が1次エネルギー供給量、縦軸が再生可能エネルギーのシェアでプロットされており、2018年の現状から「エネルギー多消費ながら供給源の脱炭素化を目指すパス」、「極端に省エネしながらカーボン・ニュートラルに向かうパス」、「エネルギー消費と経済成長のバランスを取るパス」の3つの方向性が示されており、インプリシットに現状維持がありますので、合計で4つのシナリオが想定されています。

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続いて、上のグラフは三菱総研のリポートから 需要側行動変容と供給側技術革新の軸で4つの将来シナリオを想定 を引用しています。4つのシナリオのナンバリング順に、シナリオ1は需要側の行動変容も、供給側の技術革新のブレイクスルーも、ともに起こらず、現状延長のまま2050年に到達して縮小均衡の日本となるシナリオです。カーボン・ニュートラルは達成されません。シナリオ2は需要側における省エネルギー・省資源・省消費によってカーボン・ニュートラルを目指す一方で、大規模な技術革新は起こらないシナリオです。シナリオ3では供給側のイノベーションが実現するが、需要側の行動変容は起こらずに、大量消費のままカーボン・ニュートラルを目指すことになります。最後に、シナリオ4では需要側の行動変容に加えて、供給側の技術革新がともに達成され、両輪でカーボン・ニュートラルを実現する世界である。特に、シナリオ3とシナリオ4では、電力部門の早期ゼロエミッション化が実現した世界を想定しています。

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ということで、シナリオ1以外のシナリオ2-4ではカーボン・ニュートラルが実現されるのですが、それらのうちで、シナリオ3 技術革新: 3つのキーポイントの実現状況 を、三菱総研のリポートから引用すると上の通りです。繰り返しになりますが、シナリオ1ではカーボン・ニュートラルが実現されませんので別に考えるとして、シナリオ2では需要側の行動変容による経済へのダメージがかなりあって、2022年から2050年までの実質GDP成長率は▲0.13%のマイナス成長となります。シナリオ3では成長率平均は+0.10%となる一方で、シナリオ4では成長率平均が+0.06%にとどまりますので、一応、シナリオ3の例を引用してみました。ただし、いずれのシナリオでも、温室効果ガスのグロスのエミッションはプラスのママで一定は残りますから、何らかのネガティブ・エミッションで相殺する必要があるのはいうまでもありません。

モデルの試算結果とはいえ、かなり議論が誘導されていることは認めざるを得ませんが、需要サイドの行動変容により、成長を犠牲にする方法を取らなくても、供給サイドのイノベーションがあれば大きなムリなくカーボン・ニュートラルが実現される可能性がある、というのは主たるメッセージだろうと私は受け止めています。ただ、1点だけ確認しておきたいのは、原子力発電に関する想定です。この資産では、4つのシナリオに共通した前提が置かれています。すなわち、新規制基準合格したプラントのみ稼働し、新増設・リプレースはない、ということです。この先、どのように議論が進むのか、私は老い先短く、しかも、技術的な方面は詳しくないながら、大きな興味を持ってフォローしています。

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2022年7月 5日 (火)

SOMPOインスティチュート・プラスのリポート「参院選の公約比較」やいかに?

かなり旧聞に属する話題ながら、6月30日に、SOMPOインスティチュート・プラスから「参院選の公約比較」と題するリポートが明らかにされています。主張に差があって争点となる可能性の高い政策、すなわち、①物価高対策、②賃上げに代表される「成長と分配」に関わる政策、③防衛費、の3つのポイントについて簡潔にリポートしています。

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まず、最初の物価高については、与党である自民党と公明党が石油元売り会社に支給するガソリン補助金の拡充などの事業者支援を中心に据えているのに対して、野党は家計への直接的な支援策を打ち出していると分析しています。特に、消費税については、すべての野党が減税や廃止を訴えています。しかし、私が見た限りでは、時事通信の報道で、自民党の茂木幹事長が消費税減税なら年金などの社会保障を「3割カット」と発言し、野党が反発している、というのがありました。そして、上のグラフは、リポートから 各党の「成長・分配」と防衛政策に関する立場 を引用しています。かなりクリアに分かれるという分析です。私は少なくとも、防衛費をさらにGDP比で1%、すなわち、5兆円も増額して日米の防衛産業を支援するのであれば、ほかに有益な使い道があるハズ、と考えています。

最後に、私は野党が「物価高」を批判するのは、かなりマズいやり方ではないか、と危惧しています。すなわち、物価高ではなく生活苦を全面に押し出すべきであると考えています。もちろん、物価を下げるのも結構、特に消費税減税で下げるのは大いに結構なのですが、成長と分配のコンテクストで考えると、物価を抑制する消極政策よりも、むしろ所得を増加させる積極的な政策、あるいは、分配政策を追求した方がいいと考えています。「物価高」でもって与党を攻撃しても、ロシアのウクライナ侵攻で石油価格高騰なのだから、で逃げられるおそれもあります。

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2022年7月 4日 (月)

第一生命経済研リポート「日次データでみる暑すぎる夏と消費の関係」やいかに?

昨日くらいまで、連日、最高気温35度超えの猛暑が続いていましたが、本日、第一生命経済研から「日次データでみる暑すぎる夏と消費の関係」と題するリポートが明らかにされています。総務省の「家計調査」の日別消費支出のデータと、気象庁の東京都の最高気温データを使っています。ただし、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を除くために、2017~19年の7月と8月のデータをプロットして、以下のグラフを得ています。

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グラフの(注)にもある通り、黄色が真夏日(30~35度)、赤が猛暑日(35度~)です。そして、このグラフから、最高気温が35度近辺までは気温が上がると消費が増えるが、それ以上になると気温が上がると消費が減る可能性を指摘しています。そうなのかもしれません。

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2022年7月 3日 (日)

3年ぶりの復帰登板で勝利した才木投手おめでとう!!!

  RHE
阪  神021000000 350
中  日000000000 080

3年ぶりの才木投手の復帰登板を完封リレーで、中日に連勝でした。
投手陣では、先発の才木投手が5回を無失点に抑えた後、細かいリレーで最後は岩崎投手が締めて完封リレーでした。8回にセットアッパーとして登場したケラー投手は安定感が増している気がします。開幕当初は調整不足だったのかもしれません。場合によっては、岩崎投手に代わって最終回を任せてもいいような気すらします。投手だけの評価ではなく、キャッチャーの梅野捕手も評価されるべきだと私は考えます。打者陣では、ようやく大山選手に100号2ランが出て先制し、中野選手にもホームランが飛び出し、その後の追加点なかったものの、投手陣の踏ん張りで何とか逃げ切りました。3番近本選手が連続試合安打を続けている一方で、4番に座っている佐藤輝選手の当たりが止まっているのが少し懸念されます。

次の広島戦は、
がんばれタイガース!

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2022年7月 2日 (土)

今週の読書は雇用形態感の格差を分析した経済学術書をはじめ計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、禿あや美『雇用形態別格差の制度分析』(ミネルヴァ書房)は、正規と非正規の雇用形態別の格差、特に正規職員とパート職員の間の格差について、電機製造業と小売業の実態をかなり長い期間にわたってケーススタディしています。続いて、亀田達也『連帯のための実験社会科学』(岩波書店)では、社会科学における実験を活用して人間の行動や人間の集合体である社会をどこまで探究できるのか、にスポットを当てています。森永康平『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)では、用語としては「高圧経済」とはいっていないものの、需要が供給を超過する「高圧経済」の必要性を論じています。石川幹人『だからフェイクにだまされる』(ちくま新書)では、進化心理学の観点からフェイクに騙されるバイアスを指摘しています。最後に、鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人』(宝島社文庫)は、第20回『このミステリーがすごい! 』大賞の文庫グランプリを受賞した作品であり、6ケースの密室殺人の謎を解き明かしています。
なお、今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計121冊となりました。年間200冊のペースを少し超えていますので、少し余裕を持って新刊書ならざる読書にも励みたいと思い、あさのあつこ『火群のごとく』(文春文庫)を読み、Facebookの然るべきグループでシェアしてあります。本日の新刊書の読書感想文も、適当なタイミングで個別にシェアしたいと予定しております。

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まず、禿あや美『雇用形態別格差の制度分析』(ミネルヴァ書房)です。著者は、跡見学園女子大学の研究者で、職務評価の専門家のようです。ですから、私のようなマクロエコノミストと違って、マイクロな雇用や労働を専門にしているように受け止めています。本書は3部構成となっており、第Ⅰ部で電機製造業、第Ⅱ部で小売業の、それぞれのパートタイム労働者の歴史を詳細にケーススタディした後、第Ⅲ部で職務評価などに基づいて人事や処遇の分析を試みています。出版社から見ても、完全な学術書であり、一般の学生やビジネスパーソンにはオススメしません。読み進むには、ある程度の専門性が必要です。ということで、まず、第Ⅰ部と第Ⅱ部のケーススタディは極めて詳細に渡っており、1950年代や60年代のいわゆる高度成長期、作れば売れる、商品があれば売れるという需要超過の時期に、特に電機製造業などで人手不足を埋めるために主婦を中心とする臨時工や、小売業でのパートが、縁辺労働者として雇用され、男性正規職員で構成される中核雇用者の穴埋めをする形から始まっている歴史を明らかにしています。しかし、特に電機製造業の臨時工は労働組合運動の後押しもあって正規職員に変換したり、小売業のパートも基幹パートと補完パートのうちの前者は一定割合で正社員化しています。ですから、この初期のころから、臨時工やパートは中核雇用者に対して、景気の調整弁や低賃金を生かしたコスト削減の役割を果たしていると指摘しています。加えて、1970年代の2度の石油危機や1980年代からのグローバル化、そして、1990年代初頭のバブル崩壊が決定的な契機となって、非正規雇用はさまざまな給与や人事処遇の観点からも景気の調整弁やコスト削減の目的で活用が拡大しています。第Ⅰ部と第Ⅱ部のケーススタディは大雑把に2000年までの20世紀を対象に歴史を振り返っていますが、第Ⅲ部での職務評価は2010年以降も分析対象としており、人事評価における能力評価や仕事の評価、すなわち、分業に基づく賃金では決してなく、むしろ、勤務地=転勤や正規職員に対する生活給の保証などという「職務内容に見合った賃金を拒絶する障壁」(p.303)を設けた上で、賃金という処遇ありきで分業を逆から決める、という少し歪な職務分担になっている点を指摘しています。ですから、よく話題になるメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用に当てはめれば、本書では後者のジョブ型雇用という用語しか見当たりませんが、正規職員が生活給≈年功賃金を支給され、非正規職員が職務給を支給される、ということになる理解なのかもしれません。ただし、本書では正規職員は内部労働市場、非正規職員は外部労働市場という単純な分類には懐疑的です。とてもていねいに臨時工やパートといった非正規雇用のケーススタディを積み重ね、結局のところ、男性正規職員という中核雇用者と主婦パートという縁辺雇用者、ただし、「縁辺雇用者」という用語は使いっていませんが、の対比を浮き彫りにし、後者の非正規雇用者が景気の調整弁として好況期に雇用され、逆に、不況期に職を失う、という景気循環に応じた役割を果たすとともに、景気循環からは独立にトレンドとして低賃金をテコとしてコスト削減の役目を果たす、といった姿を明らかにすることに成功しています。マイクロな雇用・労働に関する分析としてはこれで十分なのですが、私自身の感想として2点コメントしたいと思います。第1に、雇用形態論として臨時工やパートなどの非正規雇用を取り上げるとすれば、1993年のパート労働法についてはその後の改正・改悪も含めて独立した章を設けて、キチンとフォローするべきです。本書では第5章のダイエーを取り上げた章で、ホンの少しだけ触れているに過ぎません。まあ、博士学位請求論文を基にしているのですから、仕方ない面はあるとしても、一般読者への配慮も欲しかった気がします。第2に、データがどこまで利用可能なのかが不明なのですが、雇用や労働に関する分析なのですから、ケーススタディでデータを2次元のカーテシアン座標にプロットするだけではなく、フォーマルな定量分析を加えて欲しかったと思います。最後に第3に、マクロ経済学の立場から、非正規職員の役割のひとつとして「雇用の調整弁」を重視するのであれば、単に、好況期に雇用され、不況期に職を失う、というだけではなく、不況が継続していれば就労意欲を減退させて労働市場には再参入せず非労働力化してしまう傾向も指摘して欲しかったと思います。それが、バブル崩壊以前に日本の失業率を2%程度の低率に抑えた主因であることは明らかです。ただ、この点も事業所データを中心とした分析ですので、家計のデータの利用可能性が低い点から止むを得ないのかもしれません。

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次に、亀田達也『連帯のための実験社会科学』(岩波書店)です。著者は、東大人文研の研究者であり、専門は社会心理学です。ちなみに、私の知る限りでは、心理学は経済学と同じようにマイクロとマクロがあり、臨床心理学がマイクロな心理学、そして、著者の専門である社会心理学がマクロの心理学と私は認識しています。本書は岩波書店のシリーズ ソーシャル・サイエンス全8巻の第3巻に当たり、実は、第4巻が私の専門分野にさらに近くて『経済学と合理性』とのタイトルで、私はすでに生協に発注して昨日入手しています。たぶん、このシリーズはマイクロな経済学ですので、私のようなマクロ経済学を専門とする研究者には難しいかもしれませんが、出来るだけ早く読みたいと考えています。ということで、本書では自然科学ならざる社会科学における実験を用いることにより、人間の行動や社会をどこまで探究できるのか、にスポットを当てています。ただし、このテーマは余りにも広すぎますので、特に、タイトルの通り、連帯に絞って議論しています。もっといえば、連帯をもたらす共感=empathyを呼び起こす作用について実験的な手法を用いて解明を試みています。笑顔を見せれば笑顔で返されるような身体的模倣から始まって、エモーショナルな共感、さらに、エコノミストにとって気になるところの分配の公平性に対する一種の正義感までお話は進みます。ただし、エモーショナルな点については、やっぱりオキシトシンの働きが出て来てしまいます。私は従来から経済政策の目的は主観的な幸福感の増進ではない、と主張していて、もっとハードデータとして把握可能な指標を経済政策の目標にすべき、と考えていますが、やっぱり、主観的な幸福感を目標とすれば、国民の間にオキシトシンを配布すればいいのか、ということになってしまいそうな気がして、少し怖いことを改めて認識させられました。分配の公平性に関しては、オマキザルでの実験が紹介されていて、トークンとの交換でもらえるのがキュウリとブドウでは、オマキザルの間ですら不公平感を生じるとの実験結果が示されています。同じトークンとの交換でキュウリしかもらえないオマキザルは、そのもらったキュウリを投げつけて不満を表明するそうです。これだけの経済的社会的格差の拡大に耐えている日本人の従順性に疑問を感じさせられてしまいました。そして、その公平性の原点としてロールズ的なマキシミン戦略、すなわち、もっとも恵まれない階層に手厚く分配する方法を論じています。私はこれを外国人大学院留学生に対して、貧困指標の計算問題として宿題を出したりしています。それはともかく、本書では「ロールズ実験」の結果を取り上げて、格差に注目した不平等回避傾向が実験における選択を繰り返すうちにロールズ的なマキシミン的配慮に置き換わる点を強調しています。この不平等や格差に関する議論に私は一番思い入れがありますから、ほかは軽く流しますが、公共財への拠出に関するフリーライダーに対するサンクション(賞罰)に関する議論なども興味深く読みました。ただ、最終章の実験社会科学の将来のあり方については、技術的な面を強調する本書と違って、私はより倫理的な面が強調されるべきであると考えています。すなわち、例えば、開発経済学で実験を行う際に、カギカッコ付きで「流行」となっているRCT(ランダム化比較実験)については、貧困状態にある集団を処置群と対照群に分けて効果を図る方法が、ホントに開発経済学目的に照らして望ましい方法であるのか、については私は強い疑問を持っています。その昔の心臓移植なんかについて、先進的な医学の臨床実験が医学者の名声のためと批判されたこともありますし、エコノミストも心して実験に取り組む必要があるように、私には思えてなりません。

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次に、森永康平『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)です。著者は、エコノミスト・実業家であり、少し前までは「森永卓郎の倅」という紹介も有効だったかもしれませんが、今では立派に父親から独立した存在だと思います。私は同じ作者で同じく宝島社新書で出ている『MMTが日本を救う』を読んだ記憶があるのですが、なぜか、ブログの読書感想文の過去ログを見ても出現しませんでした。謎です。ということで、本書も前著と同じ基本的なスタンスであり、デフレが日本経済を蝕んでおり、明らかにマイルド・インフレの方が望ましく、財政出動などの高圧経済が必要、という私の政策論と方向性を同じくする議論に依って立っています。ただし、ロシアのウクライナ侵攻のホンの少し前から始まっているインフレを的確に捉えて、スタグフレーションを論じています。はい。その通りです。というのは、2021年4月から今年2022年3月まで、当時の菅内閣の強引な手法により携帯電話通信料が大きく引き下げられ、消費者物価(CPI)上昇率に対しておおよそ▲1.5%近いマイナス寄与を持っていたため、CPI上昇率はいかにも低く抑えられているように見えていましたが、じつは、この携帯電話通信料を別にすれば、すでに+2%近いインフレが始まっていました。その後、ウクライナ危機にともなって石油を始めとする資源価格や食料価格が大きく高騰したり、米国金融政策が引締めモードに入って金利差が広がって円安が進んだりして、さらにインフレ率が拡大したのは広く報じられている通りです。そして、本書公刊以降に値上げが幅広く拡大して現在に至っているわけです。ですから、本書では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)がインフレを引き起こした側面が強調されています。それはそれで真実です。そして、そのインフレに対して、デフレマインドが根強く残っているために資源価格や食料品価格の高騰にもかかわらず価格転嫁が進まず、加えて、従来からの緊縮財政によって需要が伸び悩んでいるために、日本経済が一向に活性化しない現状を実に的確に分析しています。本書でも何度か繰り返されているように、経済へのダメージが大きいのはインフレではなくデフレであり、こういった経済へのダメージが通り魔的な無差別殺人を引き起こしているひとつの要因である、と鋭く指摘しています。そして、現在の萎縮した日本経済への処方箋として、緊縮財政の放棄、具体的には、消費税率の引下げ財政政策と金融政策による高圧経済の実現、などを上げています。もっとも、「高圧経済」というのは著者の意を汲んだ私の解釈であって、著者自身はそういった表現はしていません。繰り返しになりますが、基本的な方向性については、私とまったく同じと受け止めています。

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次に、石川幹人『だからフェイクにだまされる』(ちくま新書)です。著者は、明治大学情報コミュニケーション学部の研究者であり、専門は認知科学だそうです。本書では、フェイク時代にふさわしい道しるべは進化心理学である、という観点から議論が進みます。やや、私には意外でした。というのは、私の偏った知識によれば、「進化心理学」とは子孫を残す重要性を強調するあまり、もっぱら、異性とセックスするためには何が必要か、を、各個体は考えている、という認識のもとに発達した学問体系だと思っていたからです。そうではなくて、本書によれば、原始時代、というか、狩猟採集時代から協力集団と運命をともにし、単独ではなく協力して狩りを行うという利点を認識した上で、こういった集団を形成して信頼し合うことが出発点となっている、ということのようです。ですから、逆に、フェイクに騙されやすいのが人間の進化上の「欠陥」といえるかもしれません。従って、本書の構成でいえば、他人のお話を信じるバイアスを持つがために共感に訴えるフェイクから始まり、さらに似たような言葉から言語がフェイクを助長するケースがあります。本書では蛾の「モス」と「マンモス」による行き違いを例示しています。承認欲求が暴走して自己欺瞞がフェイクのきっかけとなることについては、宗教的な演出が行き過ぎるきらいを本書では指摘します。同時に、SNSがここまで広く行き渡ると、承認欲求が暴走する可能性も高まると危惧するのは私だけではない気がします。また、科学の信頼性を利用したフェイクもあると本書では指摘しており、例えば、実体験に基づくとはいえ、やや過剰に科学的な装いをまとった健康法なんかがこれに当たるかもしれません。また、ツベルスキー=カーネマンのプロスペクト理論で明らかにされた損失回避のバイアス、確率に関する誤解、あるいは、移民に犯罪者が多いといった単なる偏った思い込みなどの語階からフェイクが生まれる可能性もあります。最後に、結束を高めるために集団の外部に敵を作るなど、部族意識からフェイクによって結束が高まってしまう、ということになります。最後のフェイクはナチスのユダヤ人攻撃に見られるフェイクだということは容易に理解できるのではないでしょうか。フェイクというよりはバイアスに基づく事実の誤認なのかもしれませんが、それを悪用されればフェイクと考えるべきです。しかも、私が恐れているのはそういった誤解を意図的に生じさせるやり方が、行動科学と称して研究されていることです。ナチスまでさかのぼらなくても、ケンブリッジ・アナリティカが2016年の米国大統領選挙で悪名をはせたことは記憶に新しいと思います。こういった行動科学の研究については、大学や然るべき研究機関でしっかりとした倫理基準を作成・運用する必要を指摘しておきたいと思います。

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最後に、鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人』(宝島社文庫)です。著者は、新進のミステリ作家であり、本作品で第20回『このミステリーがすごい! 』大賞の文庫グランプリを受賞しデビューしています。タイトルから明らかなように、不可能犯罪の中でも密室ミステリに挑戦しています。ということで、この作品では連続して密室殺人事件が起こるという実際にはありえない設定で、いかにも本格ミステリの大がかりな舞台が用意されています。その舞台は、著名なミステリ作家である雪城白夜が亡くなった後に遺した雪白館です。この雪白館に通じる橋が落とされ、Wi-Fiや携帯電話も通じない陸の孤島がクローズドサークルになる、という本格ミステリのお約束の展開です。そして、6つの密室殺人が盛り込まれています。主人公は高校2年生のノーマルな存在ですが、3歳年上の大学2年生と雪白館に行きます。そうすると、その雪白館に主人公のかつての部活仲間がやって来て、「光速探偵ピエロ」として謎解きに当たります。その他の登場人物は、雪白館のメイドと支配人、国民的アイドルとマネージャー、貿易会社社長、医師、密室探偵、日本語が流暢英国人少女、そして、極めつけで怪しい宗教団体の幹部などなどです。これらの登場人物のキャラ立てがかなり独特で、しかも、ネーミングが常識外れでおかしいのですが、それは別としても、6つもあるのですから、やや的外れに見えるものも含まれていますが、本格ミステリとしてはかなりいいセンいっていると思います。特に、当然かもしれませんが、最後のトリックが一番よかったように私は感じました。なお、やや軽いネタバレながら、主人公とその連れの大学生とかつての部活仲間の3人は殺人犯ではありませんが、プロの殺し屋が混じっていたり、恨みを持たれていて殺人の標的にされる可能性を自覚していて逃走しようとする人物がいたり、怪しげな新興宗教の幹部が含まれていたり、キャラの点でもいろんな仕掛けがあります。その中で、私が個人的に評価している点は、明るいタッチでストーリーを進めていることです。繰り返しになりますが、ネーミングも含めてコミカルな表現といってもいいかもしれません。加えて、ストーリー展開以上に表現がよく練られており、読みやすく仕上がっています。私なんかはスラスラと進み過ぎて、作者の仕掛けを見逃しているポイントがいくつもありそうで、やや怖い気すらします。独特の文体である点も新人作家としてはよく考えているような気がします。ただし、最後に、トランプに「十戒」、すなわち、ミステリ的なノックスの十戒とユダヤ教のモーセの十戒、の両方が重ねられている点、というか、十戒に見立てた殺人、というのは、評価する読者もいるかも知れませんが、私にはちょっとやり過ぎに感じました。やや無理やり感がありました。もちろん、ハナからリアリティは一切無視して謎解きに特化していることは理解しますし、それだけに、何らかのストーリーとして読者を引き付ける要素として「見立て殺人」が欲しかったのだろうという点は理解します。

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2022年7月 1日 (金)

大企業製造業の景況感が2期連続で悪化下6月調査の日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から▲3ポイント悪化し+14となりました。悪化は2020年6月調査以来、実に7四半期ぶりです。また、本年度2022年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+0.8%の増加が見込まれています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、2期連続悪化 6月日銀短観
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は前回の3月調査から5ポイント悪化し、プラス9となった。2四半期連続で悪化した。原材料コストの高止まりと中国のロックダウン(都市封鎖)による供給制約の強まりが景況感を押し下げた。大企業非製造業は新型コロナウイルスの感染状況の落ち着きを背景に、2期ぶりに改善しプラス13となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値だ。6月調査の回答期間は5月30日~6月30日。回答基準日の6月13日までに企業の7割台半ばが答えた。
大企業製造業の業況判断DIはプラス9と、QUICKが集計した市場予想の中央値(プラス12)を下回った。ロシアのウクライナ侵攻後初の短観だった前回3月調査で7期ぶりの悪化に転じたが、今回も低下し2期連続の悪化となった。
エネルギーを中心とした資源高と円安の進行による原材料コストの増加が、企業の収益を下押しする要因になっている。ただ、価格転嫁の動きも広がってきており、大企業製造業の販売価格判断DIはプラス34と、1980年5月以来およそ42年ぶりの高水準だ。企業の消費者物価見通しも上振れてきており、大企業製造業の1年後の見通し平均は前年比2.0%上昇、全規模全産業は2.4%上昇となっている。どちらも調査を始めた2014年以降で過去最高だ。
6月調査では中国のロックダウンで生産や物流が停滞した影響もあり、自動車や生産用機械などの景況感の悪化が目立った。自動車はマイナス19と3月調査から4ポイント悪化、生産用機械はプラス34と9ポイント悪化した。供給制約の影響については一時的との見方が多く、大企業製造業の先行きの業況判断DIはプラス10と、足元から小幅に改善すると想定している。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス13と市場予想(プラス13)と同じ水準だった。3月下旬にまん延防止等重点措置が全面解除されたことで、対個人サービスや宿泊・飲食サービスが改善した。先行きはプラス13と足元から横ばいが続く見通しだ。
企業の事業計画の前提となる2022年度の想定為替レートは全規模全産業で1㌦=118円96銭と、3月調査(111円93銭)から円安方向に修正された。ただ、足元の円相場は1㌦=135円台で推移しており、修正された想定レートよりも大幅な円安水準にある。
22年度の経常利益の計画は全規模全産業で前年度比3.6%減になる見通しだ。設備投資計画は14.1%増と3月調査(0.8%増)から上方修正した。

とても長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず今週月曜日の6月27日付けのこのブログでも、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは悪化するとはいえ、逆に、大企業非製造業は改善する、という方向感覚でしたので、何らサプライズはありません。ただ、大企業製造業の悪化幅がやや大きいかな、という気はします。ということで、一般に報じられている通り、製造業についてはウクライナ危機に伴うエネルギーや原材料価格の高騰と円安が相まって価格的なコストアップに加えて、上海のロックダウンなどに起因して需要低迷と供給制約の深刻化が同時に、さらに、物流制約も加わって発生するという数量的な面からも企業マインドが悪化していることが伺えます。他方、非製造業については新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染防止のための行動制限が撤廃され、実際に、新規感染者数も低位にあることから人出が回復してマインドは改善を示しています。企業マインドの背景にある資源高や円安によるコストアップと外需低迷と供給制約、そして、COVID-19の感染状況が、バラバラの方向から製造業と非製造業に影響を及ぼしている印象です。ただ、先行きに関しては、企業規模別に特徴が出ていて、大企業は製造業・非製造業ともにほぼ横ばいないし改善の方向にあるのに対して、中堅企業と中小企業は製造業・非製造業ともに悪化の方向感が示されています。また、業種別には、製造業では供給制約の厳しい自動車が先行きの改善に対する期待感が大きいく、非製造業でも宿泊・飲食サービスで同じように先行きの改善期待が高まっているように見受けられます。逆から見て、これらの業種では現状が想定外に厳しい、ということなのだろうと受け止めています。また、引用した記事にもある通り、為替レートの水準が現状の円安にまったく追いついていません。これは、企業がこの先円高を予想しているのか、それとも、単に日本企業らしく決断や方向修正が遅いだけなのか、私には謎です。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも不足感が広がる傾向にあります。DIの水準として、設備については、昨年2021年年央の+10前後の過剰感はほぼほぼ解消され、不足感が広がる段階には達したといえます。他方、雇用人員についてはプラスに転ずることなく反転し、足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があると私は考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。加えて、コロナの感染拡大に起因する不透明感は設備と雇用についても同様です。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。その意味で、本日公表の6月調査では2022年度の設備投資計画は+14.1%増と、大きく上方修正されました。ただし、昨年度の2021年度設備投資計画が大きく下方改定されていて、そのリバウンドという面も考慮する必要があります。いずれにせよ、全体としての印象では、人手不足もあって、設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、これまた、COVID-19とウクライナ危機の動向に照らして不透明です。

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最後に、本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも5月の統計です。失業率は前月か+0.1%ポイント上昇して2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.24倍に達しています。失業率こそ上昇しましたが、基本的に、緩やかながら雇用の改善が続いています。グラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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