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2022年7月 6日 (水)

三菱総研のリポート「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」やいかに?

一昨日の7月4日、三菱総研から「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」と題するリポートが明らかにされています。需要サイドと供給サイドで、需要側の行動変容の有無と供給側の技術革新の有無とで4つのシナリオを考えて、経済社会への影響を試算しています。試算に当たっては、国際エネルギー機関(IEA)で開発されたモデルフレームワークに沿って、TIMES (The Integrated MARKAL EFOM System)モデルなる名称のエネルギー需給モデルを開発しています。その上で、モデルを用いて各シナリオに沿った分析を試みています。

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まず、上のグラフは三菱総研のリポートから 各国研究機関・エネルギー企業の「ネットゼロシナリオ」 を引用しています。見れば判ると思いますが、横軸が1次エネルギー供給量、縦軸が再生可能エネルギーのシェアでプロットされており、2018年の現状から「エネルギー多消費ながら供給源の脱炭素化を目指すパス」、「極端に省エネしながらカーボン・ニュートラルに向かうパス」、「エネルギー消費と経済成長のバランスを取るパス」の3つの方向性が示されており、インプリシットに現状維持がありますので、合計で4つのシナリオが想定されています。

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続いて、上のグラフは三菱総研のリポートから 需要側行動変容と供給側技術革新の軸で4つの将来シナリオを想定 を引用しています。4つのシナリオのナンバリング順に、シナリオ1は需要側の行動変容も、供給側の技術革新のブレイクスルーも、ともに起こらず、現状延長のまま2050年に到達して縮小均衡の日本となるシナリオです。カーボン・ニュートラルは達成されません。シナリオ2は需要側における省エネルギー・省資源・省消費によってカーボン・ニュートラルを目指す一方で、大規模な技術革新は起こらないシナリオです。シナリオ3では供給側のイノベーションが実現するが、需要側の行動変容は起こらずに、大量消費のままカーボン・ニュートラルを目指すことになります。最後に、シナリオ4では需要側の行動変容に加えて、供給側の技術革新がともに達成され、両輪でカーボン・ニュートラルを実現する世界である。特に、シナリオ3とシナリオ4では、電力部門の早期ゼロエミッション化が実現した世界を想定しています。

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ということで、シナリオ1以外のシナリオ2-4ではカーボン・ニュートラルが実現されるのですが、それらのうちで、シナリオ3 技術革新: 3つのキーポイントの実現状況 を、三菱総研のリポートから引用すると上の通りです。繰り返しになりますが、シナリオ1ではカーボン・ニュートラルが実現されませんので別に考えるとして、シナリオ2では需要側の行動変容による経済へのダメージがかなりあって、2022年から2050年までの実質GDP成長率は▲0.13%のマイナス成長となります。シナリオ3では成長率平均は+0.10%となる一方で、シナリオ4では成長率平均が+0.06%にとどまりますので、一応、シナリオ3の例を引用してみました。ただし、いずれのシナリオでも、温室効果ガスのグロスのエミッションはプラスのママで一定は残りますから、何らかのネガティブ・エミッションで相殺する必要があるのはいうまでもありません。

モデルの試算結果とはいえ、かなり議論が誘導されていることは認めざるを得ませんが、需要サイドの行動変容により、成長を犠牲にする方法を取らなくても、供給サイドのイノベーションがあれば大きなムリなくカーボン・ニュートラルが実現される可能性がある、というのは主たるメッセージだろうと私は受け止めています。ただ、1点だけ確認しておきたいのは、原子力発電に関する想定です。この資産では、4つのシナリオに共通した前提が置かれています。すなわち、新規制基準合格したプラントのみ稼働し、新増設・リプレースはない、ということです。この先、どのように議論が進むのか、私は老い先短く、しかも、技術的な方面は詳しくないながら、大きな興味を持ってフォローしています。

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