大企業製造業の景況感が2期連続で悪化下6月調査の日銀短観をどう見るか?
本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から▲3ポイント悪化し+14となりました。悪化は2020年6月調査以来、実に7四半期ぶりです。また、本年度2022年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+0.8%の増加が見込まれています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、2期連続悪化 6月日銀短観
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は前回の3月調査から5ポイント悪化し、プラス9となった。2四半期連続で悪化した。原材料コストの高止まりと中国のロックダウン(都市封鎖)による供給制約の強まりが景況感を押し下げた。大企業非製造業は新型コロナウイルスの感染状況の落ち着きを背景に、2期ぶりに改善しプラス13となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値だ。6月調査の回答期間は5月30日~6月30日。回答基準日の6月13日までに企業の7割台半ばが答えた。
大企業製造業の業況判断DIはプラス9と、QUICKが集計した市場予想の中央値(プラス12)を下回った。ロシアのウクライナ侵攻後初の短観だった前回3月調査で7期ぶりの悪化に転じたが、今回も低下し2期連続の悪化となった。
エネルギーを中心とした資源高と円安の進行による原材料コストの増加が、企業の収益を下押しする要因になっている。ただ、価格転嫁の動きも広がってきており、大企業製造業の販売価格判断DIはプラス34と、1980年5月以来およそ42年ぶりの高水準だ。企業の消費者物価見通しも上振れてきており、大企業製造業の1年後の見通し平均は前年比2.0%上昇、全規模全産業は2.4%上昇となっている。どちらも調査を始めた2014年以降で過去最高だ。
6月調査では中国のロックダウンで生産や物流が停滞した影響もあり、自動車や生産用機械などの景況感の悪化が目立った。自動車はマイナス19と3月調査から4ポイント悪化、生産用機械はプラス34と9ポイント悪化した。供給制約の影響については一時的との見方が多く、大企業製造業の先行きの業況判断DIはプラス10と、足元から小幅に改善すると想定している。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス13と市場予想(プラス13)と同じ水準だった。3月下旬にまん延防止等重点措置が全面解除されたことで、対個人サービスや宿泊・飲食サービスが改善した。先行きはプラス13と足元から横ばいが続く見通しだ。
企業の事業計画の前提となる2022年度の想定為替レートは全規模全産業で1㌦=118円96銭と、3月調査(111円93銭)から円安方向に修正された。ただ、足元の円相場は1㌦=135円台で推移しており、修正された想定レートよりも大幅な円安水準にある。
22年度の経常利益の計画は全規模全産業で前年度比3.6%減になる見通しだ。設備投資計画は14.1%増と3月調査(0.8%増)から上方修正した。
とても長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
まず今週月曜日の6月27日付けのこのブログでも、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは悪化するとはいえ、逆に、大企業非製造業は改善する、という方向感覚でしたので、何らサプライズはありません。ただ、大企業製造業の悪化幅がやや大きいかな、という気はします。ということで、一般に報じられている通り、製造業についてはウクライナ危機に伴うエネルギーや原材料価格の高騰と円安が相まって価格的なコストアップに加えて、上海のロックダウンなどに起因して需要低迷と供給制約の深刻化が同時に、さらに、物流制約も加わって発生するという数量的な面からも企業マインドが悪化していることが伺えます。他方、非製造業については新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染防止のための行動制限が撤廃され、実際に、新規感染者数も低位にあることから人出が回復してマインドは改善を示しています。企業マインドの背景にある資源高や円安によるコストアップと外需低迷と供給制約、そして、COVID-19の感染状況が、バラバラの方向から製造業と非製造業に影響を及ぼしている印象です。ただ、先行きに関しては、企業規模別に特徴が出ていて、大企業は製造業・非製造業ともにほぼ横ばいないし改善の方向にあるのに対して、中堅企業と中小企業は製造業・非製造業ともに悪化の方向感が示されています。また、業種別には、製造業では供給制約の厳しい自動車が先行きの改善に対する期待感が大きいく、非製造業でも宿泊・飲食サービスで同じように先行きの改善期待が高まっているように見受けられます。逆から見て、これらの業種では現状が想定外に厳しい、ということなのだろうと受け止めています。また、引用した記事にもある通り、為替レートの水準が現状の円安にまったく追いついていません。これは、企業がこの先円高を予想しているのか、それとも、単に日本企業らしく決断や方向修正が遅いだけなのか、私には謎です。
続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも不足感が広がる傾向にあります。DIの水準として、設備については、昨年2021年年央の+10前後の過剰感はほぼほぼ解消され、不足感が広がる段階には達したといえます。他方、雇用人員についてはプラスに転ずることなく反転し、足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があると私は考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。加えて、コロナの感染拡大に起因する不透明感は設備と雇用についても同様です。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。その意味で、本日公表の6月調査では2022年度の設備投資計画は+14.1%増と、大きく上方修正されました。ただし、昨年度の2021年度設備投資計画が大きく下方改定されていて、そのリバウンドという面も考慮する必要があります。いずれにせよ、全体としての印象では、人手不足もあって、設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、これまた、COVID-19とウクライナ危機の動向に照らして不透明です。
最後に、本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも5月の統計です。失業率は前月か+0.1%ポイント上昇して2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.24倍に達しています。失業率こそ上昇しましたが、基本的に、緩やかながら雇用の改善が続いています。グラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。
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