IMF「経済見通し改定」はいかにして下方修正されたのか?
日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定(2022年7月)」World Economic Outlook Update, July 2022 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。ヘッドラインとなる世界経済の成長率は2021年実績の+6.1%から、今年2022年+3.2%、来年2023年+2.9%と大きくスローダウンすると見込まれています。4月の「世界経済見通し」から2022年は▲0.4%ポイント、2023年も▲0.7%ポイント下方修正されています。したがって、というか、何というか、見通しの副題は Gloomy and More Uncertain とされています。なお、日本の成長率見通しについても、2021~23年ともに+1.7%成長と低位ながら安定した見通しが示されていますが、これも4月時点の見通しと比較すれば、2022年▲0.7%ポイント、2023年▲0.6%ポイントのそれぞれ下方改定となっています。まず、IMFのサイトから経済成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。
リポート冒頭では、成長率減速の要因は3点上げられています。すなわち、(1) 米欧を中心に世界全体でインフレ率が高進し金融引締めが実施されており、(2) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のために中国がロックダウンに踏み切って景気が減速し、また、(3) ウクライナ危機によりさらなる負の波及効果が発生している、"higher-than-expected inflation worldwide-especially in the United States and major European economies-triggering tighter financial conditions; a worse-than-anticipated slowdown in China, reflecting COVID-19 outbreaks and lockdowns; and further negative spillovers from the war in Ukraine" と分析されています。その最大の要因のひとつであるインフレ見通しのグラフ Figture 1. Global Inflation Forecasts: Serial Upside Surprises (percent) をリポートから引用すると下の通りです。
そして、残る2つの要因、すなわち、中国のロックダウンとウクライナ危機に関しても、グラフの引用はしませんが、リポートでは、Figure 3. China: COVID-19 Outbreaks and SUpply Chain Disruptions 及び Figure 4. Higher Food and Energy Prices がそれぞれ示されています。
その上で、下方リスクとして、(1) 経済制裁の強化によりロシアの石油輸出がさらに▲30%減少 Russian oil exports to drop by a further 30 percent、(2) ロシアから欧州への天然ガス輸出が2022年末までに停止 Russian gas exports to Europe decline to zero by the end of 2022、(3) インフレ期待の高止まり Inflation expectations remain more persistently elevated、(4) 金融引締めによる国債と社債のリスクプレミアムとタームプレミアムの上昇 Financial conditions tighten, ..., pushing up sovereign and corporate risk and term premiums の4つのリスクによる景気の下振れとインフレの上振れを定量的に試算しています。リポートから、その試算結果を示すグラフ Figture 8. Global Alternative Senario を引用すると下の通りです。世界経済の成長率は、2022年でさらに▲0.5%ポイント超、2023年では▲1%近くの下振れの可能性が示唆されています。
最後に、リポートでは、以下の4点を政策における優先事項 Policy Priorities として上げています。
- 脆弱な状態にある人々を保護しつつ、物価安定を回復させる。
Restoring price stability while protecting the vulnerable: 信用の引締めと金融の不安定化に備える。 - 食料・エネルギー危機に取り組む。
Tackling the food and energy crises: - 経済的混乱を抑制しつつ、パンデミックのリスクを回避する
Warding off pandemic risks while limiting economic disruptions: - 低炭素経済への移行を促進する
Facilitating transition to a low-carbon economy:
Preparing for tighter credit and financial instability:
もちろん、政策対応は必要としても、リポートでは、米国のアトランタ連邦準備銀行の指標を引いて、米国で景気後退がすでに始まっている可能性を示唆するなど、"For the United States, some indicators, such as the Federal Reserve Bank of Atlanta's GDPNow forecasting model, suggest that a technical recession (defined as two consecutive quarters of negative growth) may already have started." 世界経済が景気後退の瀬戸際にあることが強調されていると私は受け止めています。
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