第一生命経済研リポート「『アベノミクス』を振り返る」を読む!!!
やや旧聞に属する話題ながら、一昨日の7月13日に第一生命経済研から「『アベノミクス』を振り返る」と題するリポートが明らかにされています。私はエコノミストとしてアベノミクスは一定の評価をしています。もちろん、分配政策がなくて格差拡大を招いたとか、決して、すべてを好意的に評価しているわけではありませんし、改憲を志向したりする右派の政治姿勢には反対で同意できる部分はまったくないのですが、それでも、当初の「3本の矢」のアベノミクス、特に、金融政策は高く評価しています。このリポートは、基本的に、私の評価とかなりの程度に似通っていますので、簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポートから 円安・株高で雇用増 と題するグラフを引用しています。前の白川日銀総裁のもとで円高が進んだ後、安倍総理就任前から円高修正が進み、現在の足元まで円安が進行しています。この参議院選挙では円安バッシングの意見を多く聞きましたが、私は基本的に現在位の水準の円安であれば輸入物価の上昇というコストを差し引いても輸出などの需要拡大のベネフィットの方が大きいと考えています。このリポートでも同様の主張であり、アベノミクス第1の矢に基づく金融政策によって、円安と株高がもたらされ、その結果として雇用が拡大した点を強調しています。もちろん、雇用拡大の一定部分が非正規雇用で占められていることは事実ですが、いわゆる「不本意非正規」の割合は低下していますし、雇用拡大は素直に評価すべきであると私は考えています。おそらく、今回の参議院選挙の結果を受けて先行き、(1)改憲、(2)軍拡、(3)増税=緊縮財政、(4)金融引締め、の4点セットが進められると私は予想していますが、いずれも私は大いに反対しています。
次に、リポートから 実質個人消費と実質公共投資 と題するグラフを引用しています。リポートでは、第2の矢の財政政策については、公共投資の拡大を評価しつつも、2014年の消費税率引上げがデフレ脱却への「逆風」と評価しています。私も基本的に同じ考えです。その後の8%から10%への引上げに関しては何度か延期されましたが、2014年の5%から8%への引上げに関しては、いわゆる「3党合意」に沿ってスケジュール通りの消費税率引上げが実施されました。金融政策で好循環が始まった途端に緊縮財政に立ち戻ってしまい、その後に好循環が行き渡らない大きな要因のひとつとなってしまった点は批判されて然るべきです。そして、金融政策では分配政策に踏み込むことは難しく、格差是正のための分配政策は財政政策によって実行されるべきでしたが、格差是正の観点は財政政策運営にまったく見られませんでした。岸田総理のいう「新しい資本主義」には格差是正のための分配政策が正しい形で盛り込まれることを期待しています。
最後に、リポートから 主要国のFTAカバー率 と題するグラフを引用しています。第3の矢の成長戦略については、私はもともと政府がイノベーションを促進する政策の有効性には疑問を持っていて、むしろ、TPPをはじめとする自由貿易協定(FTA)の推進を重視していたのですが、結局、米国が加わらないままの発効となったとはいえ、貿易政策はそれなりに進んだと評価しています。安倍政権を終えた後もこの貿易自由化の流れが続いており、RCEPが署名されて発効したことは広く報じられた通りです。
経済政策の面では、私はアベノミクスがかなりの成果を上げていて、従って、選挙で連戦連勝だったのではないか、と受け止めています。繰り返しになりますが、この参議院選挙の結果を受けて、(1)改憲、(2)軍拡、(3)増税=緊縮財政、(4)金融引締め、の4点セットが進められることを私は強く危惧しています。
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