「経済財政白書」第1章を読む!!!
先週金曜日の7月29日に、内閣府から本年度2022年度の「経済財政白書」が閣議に提出されています。副題は「人への投資を原動力とする成長と分配の好循環実現へ」となっています。一昨年2020年が「コロナ危機: 日本経済変革のラストチャンス」、昨年2021年が「レジリエントな日本経済へ: 強さと柔軟性を持つ経済社会に向けた変革の加速」でしたので、少しずつ現在の岸田内閣の経済政策の方針が明らかにされている気がします。ということで、もう8月の夏休みも目前で、本日から3日間に渡って第1章から第3章までをごく簡単に図表とともに取り上げておきたいと思います。まず、本日は、第1章の現状分析編です。
まず、上のグラフは、「経済財政白書」 p.33 第1-1-12図 半導体の供給制約の影響 を引用しています。現在の我が国経済は景気の持ち直しの動きが続いており、物価上昇率も日銀の物価目標である+2%にほぼ沿った動きを示していますので、不況下のインフレというスタグフレーションの状態ではありません。しかし、生産については需要サイドの要因とともに供給サイドの要因、特に上のグラフに示されているような半導体の供給制約を受けた輸送機械(自動車)生産の停滞が目立っています。
続いて、上のグラフは、「経済財政白書」 p.57 コラム1-4図(1)過去の石油価格上昇時と比較したマクロ経済指標の動向 を引用しています。石油価格に起因する過去の激しい物価上昇の例として、第1次と第2次の石油危機、2007年からリーマン・ショック直前までの時期、そして、現在の足元2022年と4つの時期のマクロ経済指標を比較しています。最も物価上昇が激しく、しかも景気後退が生じたという意味で、第1次石油危機の時はスタグフレーションと考えられますが、現在の足元の経済は欧米主要先進国よりは物価上昇率も低く、失業率も上昇する兆しを見せていません。
続いて、上のグラフは、「経済財政白書」 pp.71-72 第1-2-11図 賃金上昇率と物価上昇率、労働生産性の関係 を引用しています。1990年代後半のデフレ突入を境にして物価上昇率と賃金上昇率の関係が逆転しています。加えて、生産性が伸びているほどには賃金が上がっていないことも確認できます。その大きな要因のひとつは、労働分配率の低下です。「経済財政白書」では、「2%程度の持続的・安定的な物価上昇率とそれに見合った賃金上昇率という新たな価格体系に円滑に移行していくことが必要である。こうしたマクロ経済面での課題に対処していくためには、賃金引上げの社会的雰囲気を醸成していくとともに、経済や物価動向等に関するデータやエビデンスを踏まえ、適正な賃上げの在り方を官民で共有していくことが必要である。」(p.73) と分析していますが、賃金水準は労使の間で決められるものであって政府が介入する余地が小さいことから、歯切れの悪い表現となっています。
ついでながら、最後の賃金と物価の新たな価格体系への移行については、明らかに、労使間の交渉力の差が障害となっています。中でも、ナショナル・センターのひとつである連合は、現在の会長になってから労働組合としては大きく劣化したと私は考えています。
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