「経済財政白書」第2章を読む!!!
昨日に続いて、「経済財政白書」第2章からいくつかグラフを取り上げたいと思います。第2章では雇用が分析されています。
まず、上のグラフは、「経済財政白書」 p.107 第2-1-6図 1人当たり名目賃金の要因分解 を引用しています。日本経済がデフレに陥った1990年代後半からアベノミクスの始まる2012年位まで時給の伸びは確かに停滞していましたが、アベノミクスが始まった2013年からは時給の伸びが高まっていることが見て取れます。しかし、この時給の伸びを打ち消しているのが構成比と1人当たり労働時間です。すなわち、非正規雇用の拡大です。構成比というのは、賃金水準の低い非正規雇用者数が女性や高齢者を中心に増加していることが要因であり、労働時間は当然にパートタイムの増加が原因です。時給の伸びを雇用の非正規化が相殺しており、この賃金動向はまさにアベノミクスのひとつの特徴と考えるべきです。
続いて、上のグラフは、「経済財政白書」 p.183 第2-3-19図 全世帯の所得分布 (再分配前と再分配後の比較) を引用しています。同じ p.183 で左側の2019年度の所得分布を評価して、「再分配後は100万円未満や700万円以上の世帯の割合が低下する一方、100万円から600万円までの世帯の割合が上昇しており、再分配機能は引き続き機能している」と指摘していますが、私はこのグラフこそデフレの弊害を示していると受け止めています。すなわち、1994年度と2019年度の25年間のうちのほぼ20年間はデフレであったわけですが、再分配後の所得階層のピークが左に、すなわち、所得の低い方にシフトしていて、再分配後の所得の中央値は120万円あまりも低下しています。アベノミクスにおける分配政策の軽視ないし欠如がこれに拍車をかけている可能性があります。
最後に、最低賃金の議論が大詰めを迎えていますが、上のグラフは中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第2回)資料のうちの資料4 賃金分布に関する資料 から、滋賀県の一般労働者(上、p.16)と短時間労働者(下、p.29)を引用しています。見れば明らかですが、一般労働者の方は時給1,200~1,300円くらいのところに分布のピークがありますが、短時間労働者=パートタイマーは圧倒的に最低賃金に近いところにピークがあります。もちろん、新古典派的な経済学の理論から、限界生産性が最低賃金に達しない労働者の失業が発生するという可能性は否定できませんし、そういった実証結果もありますが、他方で、最低賃金が所得を増加させ、貧困解消や格差是正に有効であるという結果も少なくありません。最初のグラフで見たように、労働時間要因というのは明らかにパートターマー、非正規雇用の増加が一因となっています。従って、広く報じられている「30円」というのはいかにも小幅な気がしますが、賃金負担の厳しい中小企業への適切な支援を実施しつつ、最低賃金の大幅な上昇がなされることを私は期待しています。
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