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2022年8月15日 (月)

コロナ前を回復した4-6月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4~6月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.5%、年率では+2.2%とプラス成長を記録しています。3月下旬に新型コロナウィルス感染症(COVI D-19)の感染拡大防止のためのまん延防止等重点措置による行動制限が解除され、個人消費が伸びたことなどが要因です。また、実質GDPの実額は542兆円に達し、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期の540兆円を超えています。加えて、今年2022年1~3月期の成長率が+0.0%に上方改定されましたので、3四半期連続のプラス成長となりました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

4-6月GDP年率2.2%増、3期連続プラス コロナ前回復
内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.5%増、年率換算で2.2%増だった。新型コロナウイルス対策のまん延防止等重点措置の解除で、個人消費が回復して全体を押し上げた。設備投資も伸びた。実質GDPの実額は542.1兆円と、コロナ前の2019年10~12月期(540.8兆円)を超えた。
成長率はQUICKがまとめた事前の市場予測の中心値(2.5%)は下回った。今回の遡及改定で1~3月期のGDPを年率0.5%減から0.1%増と修正した。この結果、4~6月期まで3四半期連続のプラス成長となる。
4~6月期は内需が0.5ポイント、外需が0.0ポイントのプラス寄与だった。内需の柱でGDPの半分以上を占める個人消費は前期比1.1%伸びた。外食や宿泊などのサービス消費は1.4%、自動車などの耐久財は0.3%、衣服などの半耐久財は3.9%それぞれ増えた。
1~3月期は首都圏などでまん延防止等重点措置が出て、個人消費が鈍っていた。重点措置は3月下旬に全面解除となり、4月下旬からの大型連休も3年ぶりに行動制限がなかった。
内需のもう一つの柱である設備投資は1.4%増で2四半期ぶりにプラスとなった。企業収益の改善をうけ、デジタル化に向けたソフトウエア投資が増えた。
住宅投資は1.9%減で4四半期連続のマイナスだった。建築資材の高騰で前期(1.4%減)よりマイナス幅が拡大した。
公共投資は0.9%増で1年半ぶりにプラスに転じた。21年度補正予算の執行が進んだとみられる。コロナワクチンの接種費用などを含む政府消費は0.5%増で、2四半期連続のプラスだった。
輸出は0.9%増えた。中国のロックダウン(都市封鎖)による混乱がありながら対アジア全体では持ち直した。輸入は原油や天然ガスなどの増加で0.7%増だった。輸出から輸入を差し引いた外需は2四半期ぶりのプラス寄与となった。
名目GDPは前期比0.3%増、年率1.1%増だった。家計の収入の動きを示す雇用者報酬は名目で前年同期比1.7%増えた。
21年度の実質GDPは2.3%増え、3年ぶりのプラス成長となった。年度でみるとGDPの実額は536.8兆円にとどまり、コロナ前の19年度(549.8兆円)に遠く及ばない。
不正処理のあった国土交通省の「建設工事受注動態統計」の訂正を踏まえて、18年度以降のGDPを修正した。18、19年度はプラス0.0ポイント、20、21年度は0.1ポイントの上方修正要因となった。内閣府の担当者は「影響は小さかった」と説明した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2021/4-62021/7-92021/10-122022/1-32022/4-6
国内総生産GDP+0.5▲0.5+1.0+0.0+0.5
民間消費+0.4▲0.9+2.4+0.3+1.1
民間住宅+1.6▲1.8▲1.3▲1.4▲1.9
民間設備+1.2▲2.1+0.2▲0.3+1.4
民間在庫 *(+0.2)(+0.1)(▲0.1)(+0.5)(▲0.4)
公的需要+0.2+0.1▲1.0▲0.3+0.6
内需寄与度 *(+0.7)(▲0.7)(+0.9)(+0.5)(+0.5)
外需(純輸出)寄与度 *(▲0.2)(+0.2)(+0.0)(▲0.5)(+0.0)
輸出+3.0+0.0+0.6+0.9+0.9
輸入+4.4▲1.1+0.4+3.5+0.7
国内総所得 (GDI)▲0.1▲1.3+0.5▲0.4▲0.3
国民総所得 (GNI)▲0.1▲1.2+0.7▲0.0▲0.1
名目GDP▲0.2▲0.5+0.5+0.4+0.3
雇用者報酬 (実質)+0.4▲0.5+0.4▲0.1▲0.9
GDPデフレータ▲1.1▲1.1▲1.3▲0.5▲0.4
国内需要デフレータ+0.3+0.6+1.1+1.8+2.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された今年2022年4~6月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤の消費や水色の設備投資がプラス寄与している一方で、灰色の在庫のマイナス寄与が目立っています。在庫はマイナス寄与ながら、売残り在庫の解消が進んでいるとすれば、望ましい姿といえます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+2.5%でしたし、私のこのブログで先週金曜日に取りまとめたシンクタンクの1次QE予想でも年率+3%近い予想でしたので、実績である前期比+0.5%。前期比年率+2.2%の成長率というのは、プラス成長とはいえ少し物足りないと受け止める向きもありそうですが、先進国でインフレにより消費がダメージを受けている一方で、我が国ではデフレから完全に脱却できていないのが幸いした、というか、何というか、物価上昇が抑えられているのでプラス成長を記録した面がある、と考えるべきです。先進国では、例えば、米国では商務省経済分析局の統計によれば、前期比年率の実質GDP成長率で見て、2022年1~3月期▲0.9%、4~6月期▲1.6%と2四半期連続のマイナス成長で、テクニカルな景気後退に陥っています。それに比べて、我が国では3四半期連続のプラス成長を記録しているわけです。

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ただし、3四半期連続でプラス成長を記録したとはいえ、資源高と円安による交易条件悪化=所得流出は継続しています。上のグラフは、GDPと国民総所得(GNI)と交易利得をプロットしています。赤い折れ線のGDPと水色の折れ線の国民総所得(GNI)が左軸のスケールに対応し、黄緑の棒グラフの交易利得が右軸に対応します。注意すべきポイントは2点あります。第1に、確かに赤い折れ線のGDPはCOVID-19パンデミックに対して緊急事態宣言が出た2020年4~6月期を谷として、最近時点まで回復の右上がりを示していますが、水色のGNIは2020年10~12月期から横ばい、ないし、低下のトレンドを示しています。私が統計から確認したところでは、国内総所得(GDI)もGNIと同じような傾向を示しています。交易利得がマイナスとなっているのが原因です。そして、このGNIやGDIこそが国民生活の実感により近い指標であると考えるべきです。ですから、GDP成長率が3四半期連続でプラスながら、国民の実感としては経済は停滞ないしやや悪化していると受け止められている可能性が高いと私は考えています。第2に、引用した記事にあるように、確かに、今年2022年4~6月期の実質GDPの実額は542.1兆円で、COVID-19パンデミック直前である2019年10~12月期の540.8兆円を超えましたが、内閣府が明らかにしている景気基準日付に基づく第16循環の山であった2018年10~12月期の557.4兆円兆円にはまだ達していません。それが赤い折れ線で見て取れると思います。これまた、国民の実感としてそれほど経済が回復していない、という感覚につながっている可能性があります。まあ、平たく表現すれば、GDPの実額がコロナ前を回復したとはいえ、手放しでは喜べない、あるいは、それほどめでたいわけでもない、とうことです。繰り返しになりますが、この2点から考えて、資源高と円安による交易条件の悪化、所得の流出により国民の実感としては景気が停滞、ないし、悪化していると受け止められている可能性を経済政策の策定においては十分考慮すべきです。

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最後に、物価についてもう少し詳しく見ておくと、上のテーブルにある通り、GDPデフレータは低下している一方で、国内需要デフレータや民間消費デフレータは上昇しています。それをプロットしたのが上のグラフです。各デフレータの上昇率は季節調整していない原系列の前年同期比であり、凡例通り、赤い折れ線がGDPデフレータの前年同期比上昇率、水色が民間消費デフレータ、緑色が国内消費デフレータです。影をつけた期間は景気後退期です。見れば明らかな通り、GDPの控除項目である輸入の価格上昇に従ってGDPデフレータは低下する一方で、輸入価格の上昇が国内に波及してホームメード・インフレとなって民間消費デフレータや国内需要デフレータは上昇、となっているわけです。ここでも、GDPデフレータではなく、民間消費デフレータや国内需要デフレータの上昇が生活実感により近いインフレと国民の間で受け止められている、と考えるべきです。

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