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2022年9月30日 (金)

コロナ前水準を回復した鉱工業生産指数(IIP)ほか商業販売統計と雇用統計をどう見るか?

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.7%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+4.1%増の12兆5210億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.4%増を記録しています。さらに、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.5%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.03ポイント上回って1.32倍に達しています。まず、とても長くなってしまいますが、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

8月の鉱工業生産2.7%上昇 コロナ前水準に回復
経済産業省が30日発表した8月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は99.5となり、前月比2.7%上がった。3カ月連続で改善し、新型コロナウイルス禍前の20年1月(99.1)を上回った。コロナ感染拡大を受けた中国・上海市でのロックダウン(都市封鎖)が6月に解除されて以降、生産の回復が続く。
経産省は基調判断を「生産は一進一退」から「生産は緩やかな持ち直しの動き」に引き上げた。QUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値は前月比0.2%上昇だった。
全15業種のうち10業種が上昇した。生産用機械工業は半導体製造装置などが伸びて6.1%上がった。鉄鋼・非鉄金属工業は3.6%、無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は2.7%それぞれ伸びた。上海のロックダウン解除を受け、部品などの供給制約が緩和された影響が大きい。
低下は5業種で、電子部品・デバイス工業が6.3%下がった。モス型半導体集積回路(メモリ)などの生産が鈍った。自動車工業は1.1%、無機・有機化学工業は1.6%のそれぞれマイナスだった。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は9月が前月比2.9%、10月は3.2%の上昇を見込む。ただ、エネルギー価格高騰といったコスト増によるインフレの進行や、米欧の利上げに伴う景気減速の懸念もあって先行きは不透明だ。経産省の担当者は「企業の生産マインドは弱気が続いている。海外景気の下振れの影響などを注視する必要がある」と説明した。
8月の小売販売額4.1%増 行動制限なく百貨店など好調
経済産業省が30日発表した8月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比4.1%増の12兆5210億円だった。6カ月連続で前年同月を上回った。3年ぶりに新型コロナウイルス禍での行動制限がない夏休みを迎え、外出機会の増加で百貨店などが好調だった。
百貨店は前年同月比24.7%増の3869億円だった。夏・秋物の衣料品に加え、高額商品も堅調だった。コンビニエンスストアは5.2%増の1兆720億円。スーパーは0.5%減の1兆2908億円だった。
家電大型専門店は1.7%減の3635億円だった。6月下旬に気温が急上昇した影響で、エアコンなどの季節家電の需要は8月に一服したとみられる。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると1.4%増加した。基調判断は「緩やかに持ち直している」で据え置いた。
8月の求人倍率1.32倍、8カ月連続上昇 失業率は2.5%
厚生労働省が30日発表した8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.32倍で、前月に比べて0.03ポイント上昇した。8カ月連続で前月を上回った。持ち直しの傾向が続くものの、新型コロナウイルス流行前の水準には届いていない。
総務省が同日発表した8月の完全失業率は2.5%で、前月比0.1ポイント低下した。4カ月ぶりに改善した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。コロナ禍で2020年9月に1.04倍まで落ち込み、その後は上昇傾向にある。感染拡大前の20年1月の1.49倍とは開きがある。
景気の先行指標とされる8月の新規求人数は83万8699人で、前年同月比15.1%増えた。3年ぶりの行動制限がない夏休みへの期待から宿泊・飲食サービスが51.1%増加した。生活関連サービス・娯楽も28.9%増だった。新規求人倍率(季節調整値)は2.32倍で、前月を0.08ポイント下回った。
8月の就業者数は6751万人と前年同月から12万人増えた。2カ月ぶりに増加した。

とてつもなく長くなりましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は前月と比べてわずかに増産という予想でしたが、実績の+2.7%増は予想レンジの上限である+2.0%増を超えて、少しサプライズだったかもしれません。ただし、引用した記事にもある通り、増産の主因は中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因が大きいとされています。経済産業省の解説サイトでは「部材供給不足の影響の緩和が継続」と明記しています。特に、6月からの上海のロックダウン解除に起因するペントアップであると考えるべきであり、どこまでサステイナブルな回復かは不透明です。しかしながら、それはそれなりに大きな増産でしたので、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「一進一退」から「緩やかな持ち直しの動き」に引き上げています。また、先行きに関しては、製造工業生産予測指数によれば9月も+2.9%の増産、10月も+3.2%の増産が、それぞれ、見込まれているのですが、上方バイアスを除去すると補正値では9月は▲1.2%の減産との試算を経済産業省で出しています。足元の9月は減産の可能性があるとはいえ、6~8月統計では3か月連続で増産に転じたわけですから、基調判断は上方改定しています。8月統計から産業別に生産の増加への寄与度を見ると見ると、プラス寄与では、生産用機械工業+0.59%、鉄鋼・非鉄金属工業+0.20%、などが上げられ、逆に、マイナス寄与では、電子部品・デバイス工業▲0.41%、自動車工業▲0.18%、などとなっています。先行きについては、ペントアップ生産のサステイナビリティとともに、加えて、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、ウクライナ危機も相まって外需の動向が懸念されます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の足元での感染拡大は落ち着きつつあるように見受けられますが、国内要因はともかく、生産に強い影響を及ぼす海外要因を考えると、生産の先行きは不透明といわざるを得ません。


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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。ということで、上海のロックダウン解除などを受けて生産が回復を示している一方で、小売販売額は新型コロナウィルス感染症(COVI D-19)の足元での新規感染が落ち着きつつある中で、8月の夏休みには行動制限もなく、外出する機会に恵まれて小売業販売額は堅調に推移しました。上のグラフを見ても理解できる通り、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びを高めてきています。そして、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で判断している経済産業省のリポートでは、8月までのトレンドで、この3か月後方移動平均が0.0%の横ばいで、基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」で据え置いています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。ですから、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響、さらに、足元での物価上昇の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、後者のインフレの影響については、7月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.0%に達しており、名目の小売業販売額の+4.1%増は物価上昇を上回っているとはいえ、単純にCPIでデフレートするのは適当ではありませんが、それでも、実質の小売業販売額はやや過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からわずかに改善して2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、前月から改善の1.30倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想より改善しています。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ただし、休業者について見ると、1月から3月にかけて、季節調整していない原系列の休業者数の前年同月差が、3か月連続で増加した一方で、逆に、4~6月には3か月連続で減少した後、直近で利用可能な7~8月統計では再び増加しています。産業別では特に医療・福祉で休業者が増加しており、詳細は把握しきれていませんが、ひとつの懸念材料である可能性は否定できません。また、一致指標の有効求人倍率や先行指標の新規求人数・新規求人倍率が改善を示している一方で、5~7月の3か月連続で2.6%で横ばいを記録していた失業率が8月統計では▲0.1%ポイントの低下とはいえ改善を示したことは、遅行指標の特徴なのかもしれない、と私は考えています。その意味からも、改善ペースは緩やかながらも、雇用は底堅いと評価すべきと受け止めています。

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最後に、本日、内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲1.7ポイント低下し30.8を記録しています。指数を構成する4指標すべてが低下を示しています。すなわち、「耐久消費財の買い時判断」が▲2.5ポイント低下し23.2、「暮らし向き」が▲2.1ポイント低下し29.0、「雇用環境」が▲1.7ポイント低下し35.4、「収入の増え方」が▲0.6ポイント低下し35.4となっています。最初の2項目の「耐久消費財の買い時判断」と「暮らし向き」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。ない、統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断を「弱含んでいる」で据え置いています。私は、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と考えていたのですが、さすがに、この9月統計では消費者マインドは物価上昇と連動性を高めつつある、と受け止めています。ということで、消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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2022年9月29日 (木)

食品値上げで家計負担はどれくらい増えるのか?

やや旧聞に属する話題なのですが、ちょうど1週間前の9月22日に帝国データバンクから「『食品主要105社』価格改定動向調査」の結果が明らかにされ、その中で、食品値上げに伴う家計負担額の推計がなされています。家計負担は平均で年額7万円、当然ながら、低収入世帯での負担感が高いと結論されています。pdfの全文リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、リポートから 食品値上げ 家計負担額推計 を引用しています。今秋の値上げ率は月平均で18%に達すると帝国データバンクでは推計していて、上のグラフを見れば明らかな通り、平均的な家計で、加工食品で2,560円、酒類・飲料で1,285円をはじめとして、月額で5,730円、年額では68,760円の負担増加になると試算しています。総務省統計局による家計調査では年間消費支出額が約333万円ですので、2%ほどの支出増になる計算です。

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次に、上のテーブルは、リポートから 収入階層別 食品値上げによる影響 を引用しています。これも見れば明らかな通り、低所得家計よりも高所得家計の方が負担額は大きい一方で、消費支出額に占める負担割合は低所得家計の方が高い、という結果となっています。すなわち、逆進的な効果があります。いわゆるエンゲル係数というのがあって、所得が低いほど食品に対する支出がすべての消費支出に占める割合は大きい、という経験則です。この点からして、当然と言えば当然の結果が示されています。

最後に、リポートでは「政府による物価高対策の恩恵を実感するには、しばらくの時間が必要」と、特に根拠なく結論しています。しかし、私は、繰り返し主張してきた通り、市場メカニズムに介入して供給企業に補助金を出して価格を抑制するのではなく、家計に対して所得に応じた必要な支援を行うべきだと考えています。この試算結果からも明らかな通り、企業に補助金を出して価格を抑制するのは高所得世帯に有利なだけで、むしろ、必要なのは低所得世帯への支援であるのは明らかです。

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2022年9月28日 (水)

9月調査の日銀短観予想やいかに?

来週月曜日10月3日の公表を控えて、シンクタンクから9月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は来年度2022年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックやウクライナ危機といった経済外要因の動向次第という面があり、シンクタンクにより大きく見方が異なることになってしまいました。それでも、景況感が低下するのは明らかだという予想です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
6月調査 (最近)+9
+13
<+14.1>
n.a.
日本総研+8
+12
<+13.9%>
先行き(12月調査)は、全規模・全産業で9月調査対比+3%ポイントの上昇を予想。供給制約の緩和により生産活動が正常化に向かうほか、国内の旅行支援策の実施や水際対策の緩和に伴い、サービス業を中心に景況感が改善する見込み。ただし、海外経済の減速や原材料価格の上昇が引き続き製造業の景況感の重石に。
大和総研+10
+12
<+14.9%>
大企業製造業では、半導体不足の緩和による生産拡大を見込む「自動車」の業況判断DI(先行き)が上昇するとみている。大企業非製造業については、「全国旅行支援」による旅行需要の回復の後押しや、水際対策の更なる緩和によるインバウンドの増加への期待感から、「対個人サービス」、「宿泊・飲食サービス」、「小売」といった業種で業況判断 DI(先行き)が上昇すると予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+10
+13
<+14.6%>
製造業・業況判断DIの先行きは、横ばいでの推移を予測する。自動車生産の回復が緩やかにとどまることに加えて、海外経済の減速や半導体市場の調整が重石となろう。(略) 一方、非製造業・業況判断DIの先行きは2ポイントの改善を見込む。対人接触型サービス消費持ち直しへの期待から、宿泊・飲食サービスや対個人サービス(遊園地・テーマパークや美容室等)中心に改善するだろう。
ニッセイ基礎研+11
+12
<+6.3%>
先行きの景況感は方向感にばらつきが出ると予想している。まず、製造業・非製造業ともに、原材料・エネルギー高の継続や値上げによる需要減少に対する懸念が燻る。さらに、製造業では利上げによる欧米の景気後退、中国での都市封鎖再発、国内での冬場の電力不足などへの懸念も加わり、先行きにかけて景況感の悪化が示されそうだ。一方、非製造業ではコロナの感染縮小や水際対策の緩和などに伴う人流のさらなる回復への期待が反映され、先行きにかけて、景況感の小幅な回復が示されると見ている。
第一生命経済研+12
+7
<大企業製造業+21.4%>
9月の短観は、大企業・製造業が前回比+3ポイントと小幅改善すると見込まれる。6月に上海ロックダウンが解除されて、需要のリバウンドが生産回復に寄与している。しかし、その先では米利上げが世界経済を減速させる懸念も控えている。2022年度計画全体の変化にも目配りをしておく必要がある。
三菱総研+12
+12
<+14.5%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業が9月時点から▲1%ポイント低下の+11%ポイント、非製造業は+2%ポイント上昇の+14%ポイントと予測する。製造業は、米欧の利上げ加速に伴う外需の減速懸念から悪化を見込む。一方、非製造業は、本格的な経済活動正常化への期待から改善を見込む。水際対策緩和等を背景にインバウンド需要回復が見込まれることも押し上げ要因となろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+11
+15
<大企業全産業+17.4%>
日銀短観(2022年9月調査)の業況判断DI(最近)は、大企業製造業で、前回調査(2022年6月調査)から2ポイント改善の11と、4四半期ぶりの改善が見込まれる。円安と資源価格高によるコスト上昇が多くの業種で企業収益を圧迫する一方、供給制約の緩和で自動車や機械類を中心に景況感の悪化に歯止めがかかり、改善に向かうとみられる。先行きは、加工業種を中心に供給制約の緩和継続が期待され、2ポイント改善の13となろう。
農林中金総研+12
+14
<+14.5%>
先行きに関しては、引き続き、一次産品価格の高騰による収益圧迫への警戒が強いほか、欧米諸国での利上げ加速による景気鈍化懸念やゼロコロナ政策を続ける中国経済の足踏み、欧州のエネルギー危機への警戒が不安材料ともみられるが、非製造業ではウィズコロナへの移行、インバウンド需要の回復などへの期待も根強いと思われる。以上から、製造業では大企業が10、中小企業が▲3と、今回予測からともに▲2ポイントの悪化予想と見込む。一方、非製造業では大企業が14、中小企業では1と、今回予測からともに+1ポイントと改善を予想する。

極めて大雑把に見て、6月調査からの変化として9月調査の短観では、大企業製造業・非製造業ともに業況判断DIは横ばい、ただ、直感的には製造業がわずかに改善、非製造業がわずかに悪化、加えて、設備投資計画もほぼ横ばいながら、やや上方修正、というように私は受け止めています。また、先行き業況判断は改善方向にある、といえそうです。ただし、設備投資計画については、6月調査から9月調査への修正幅は小さくても、昨年度からの設備投資の伸びは全規模全産業で+10%超とかなり大きいわけですから、ここ2年余り新型コロナウィルス感染症(COVID-19)もあって設備投資に積極的でなかった企業が、改めて、人手不足や先行きの将来見通しも明るくなり、旺盛な設備投資意欲を示している雰囲気が伝わってきます。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから業況判断DIの推移を引用しています。

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2022年9月27日 (火)

8月統計の企業向けサービス価格指数(SPPI)は+2%近い高い上昇率が続く!!!

本日、日銀から8月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.9%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、18カ月連続上昇 8月1.9% 日銀
日銀が27日発表した8月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.1と前年同月比1.9%上昇した。上昇幅は7月から縮小したものの、18カ月連続のプラスとなった。堅調な移動需要を背景に国内航空旅客輸送などが上昇した。
宿泊サービスや情報通信なども上昇した。宿泊サービスは新型コロナウイルス感染拡大のなかでも行動制限がなかったことが影響した。情報通信ではソフトウエア開発などでシステムエンジニア職の人件費上昇が押し上げ要因となった。
調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは100品目、下落したのは18品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年3月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+0.7%の上昇となった後、2021年4月には+1.1%に上昇率が高まり、本日公表された今年2022年8月統計まで、18か月連続の前年同期比プラス、17か月連続で+1%以上の上昇率を続けていて、6月統計と7月統計では+2%に乗せました。ただし、最新の8月統計では+1.9%とやや上昇幅を縮小させつつも、高止まりしている印象です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大もあります。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく8月統計のヘッドライン上昇率+1.9%への寄与度で見ると、石油価格の影響が強い運輸・郵便が+0.67%、土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+0.60%、リース・レンタルが+0.35%、損害保険や金融手数料などの金融・保険が+0.13%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+4.1%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.6%、広告の+1.8%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。
ただし、やや細かな点ですが、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率が6~7月の+2.0%から8月には+1.9%にやや上昇ペースが鈍っている一方で、石油価格の影響の強い国際運輸を除くコアSPPI上昇率は5~7月の+1.3%から8月には+1.5%に上昇ピッチが上がっています。単なる計測誤差である可能性が十分あるとは思いますが、インフレの主たる要因が、石油をはじめとする資源高から、その国内への波及によるホームメード・インフレに移ってきている可能性が無視できない、と私は考えています。

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最後に、企業向けサービス価格指数(SPPI)を離れると、昨日、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し中間報告」OECD Economic Outlook, Interim Report September 2022 が公表されています。副題は Paying the Price of War となっています。上のテーブルはOECDのサイトから Table 1. OECD Interim Economic Outlook GDP projections September 2022 を引用しています。今年2022年はそれほど大きな修正ではありませんが、来年2023年の成長率見通しは大きく下方修正されています。同じサイトには Summary が12点上げられているのですが、そのうちの3点目は、"Global growth is projected to slow from 3% in 2022 to 2¼ per cent in 2023, well below the pace foreseen prior to the war. In 2023, real global incomes could be around USD 2.8 trillion lower than expected a year ago (a shortfall of just over 2% of GDP in PPP terms)." と指摘しています。直接的な要因はインフレ抑制のための金融引締めなのですが、その大元の原因であるロシアのウクライナ侵攻が世界の経済減速をもたらしている、という主張です。

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2022年9月26日 (月)

今年2022年のノーベル経済学賞やいかに?

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ノーベル財団から今年のノーベル賞の授与日程がすでに明らかにされています。以下の通りです。

10月3日
生理学・医学賞
10月4日
物理学賞
10月5日
化学賞
10月6日
文学賞
10月7日
平和賞
10月10日
経済学賞

そして、10月のノーベル賞ウィークを前に、9月21日、クラリベイト引用栄誉賞 Cralivate Citation Laureates 2022 が明らかにされています。経済学分野は以下の通り8人となっています。レイヤード男爵とオズワルド教授が英国人であるほかは、すべて米国人となっています。分野としては、国家発展における政治経済制度の分析、幸福の経済学、互恵主義や利他主義などの社会的協力を含む経済行動の分析、です。

nameaffiliationmotivation
Daron AcemogluInstitute Professor, Department of Economics, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MassachusettsFor far-reaching analysis of the role of political and economic institutions in shaping national development
James A. RobinsonReverend Dr. Richard L. Pearson Professor of Global Conflict Studies, and Institute Director, The Pearson Institute for the Study and Resolution of Global Conflicts, Harris School of Public Policy, University of Chicago, Chicago, Illinois
Simon JohnsonRonald A. Kurtz (1954) Professor of Entrepreneurship of Economics and Professor, Global Economics and Management, MIT Sloan School of Management, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, Massachusetts
Richard A. EasterlinUniversity Professor Emeritus of Economics, University of Southern California, Los Angeles, CaliforniaFor pioneering contributions to the economics of happiness and subjective well-being
Richard Layard/LordCo-Director, Community Wellbeing Programme, Centre for Economic Performance, London School of Economics, London
Andrew J. OswaldProfessor of Economics and Behavioural Science, University of Warwick, Coventry
Samuel BowlesResearch Professor and Director of the Behavioral Sciences Program, Santa Fe Institute, Santa Fe, New Mexico; Professor Emeritus, Department of Economics, University of Massachusetts, Amherst, MassachusettsFor providing evidence and models that broaden our understanding of economic behavior to include not only self interest but also reciprocity, altruism, and other forms of social cooperation
Herbert GintisProfessor Emeritus, Department of Economics, University of Massachusetts, Amherst, Massachusetts; External Professor, Santa Fe Institute, Santa Fe, New Mexico

今年のノーベル経済学賞は誰でしょうか?

なお、本日、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し中間報告」OECD Economic Outlook, Interim Report が公表されるとアナウンスされています。10月早々にIMF・世銀総会があって、IMFの「世界経済見通し」が公表されるハズなので、それほど注目はしていませんが、何かの機会に取り上げるかもしれません。取り上げないかもしれません。

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2022年9月24日 (土)

今週の読書は経済所や歴史書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書、歴史書、教養書と新書の計4冊です。ややボリュームのある本が多かった気がします。ただし、いわゆるシルバー・ウィークでお休みが多かったので、新刊書読書だけでなく文庫本も何冊か読んでいて、葉室麟「いのちなりけり」のシリーズ、すなわち、『いのちなりけり』、『花や散るらん』、『影ぞ恋しき』上下を再読していたりします。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~8月で45冊、先週までの9月で16冊、今週が5冊ですので、今年に入ってから172冊となりました。

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まず、河野龍太郎『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)です。著者は、BNPパリバ証券のチーフエコノミストです。とても包括的に金融と経済について論じています。出版社から受ける印象ほど学術書ではありません。一般のビジネスパーソンでも十分読みこなせると思います。著者は、日銀の異次元緩和をはじめとする金融緩和の継続に疑問を呈したり、あるいは、財政では赤字財政を批判して財政再建を目指すべき議論を提起したりと、アベノミクスにはかなり批判的な意見を持っていたエコノミストであり、本書でも同様の議論が展開されています。特に、星・カシャップのラインに沿って、緩和的な金融制作や財政政策が日本のように長期にわたって継続されると、というか、正確には完全雇用を超えて緩和策が継続されると、本来は市場から淘汰されるべき企業がゾンビのように生き残ってしまったり、あるいは、企業単位でなくても本来は採算性の高くない設備投資が実行されたりして、逆に、生産性に悪影響を及ぼして不況が長引く可能性を指摘しています。ですから、日本経済の現状を人で手不足で完全雇用を達成している状態と考えていて、この状態ではむしろ構造政策により生産性を引き上げるべき、との見方が示されています。完全雇用なのに賃金が上がらない理由についてはやや根拠薄弱です。また、利子所得のために金利引上げなども志向しています。私も判らなくもないのですが、明らかにバックグラウンドとなるモデルに混乱を生じている気がします。例えば、自然利子率と潜在成長率の議論が少し判りにくかったりします。加えて、というか、何というか、政策提言がややアサッテの方向になってしまっています。すなわち、3年ごとに社会保障負担を減らすのと同時に消費税を+0.5%ポイントずつ引き上げる、というのが目を引く政策となっています。ゾンビ仮説に立つのであれば金利引上げも選択肢になりそうな気がするのですが、さすがに、日本経済の現状を考慮すれば現実的ではない、ということなのでしょう。そして、経済が停滞しているのは企業の成長期待が低いからであり、企業の成長期待が低いのは消費が伸び悩んでいるからであり、と、ここまでは私も著者に賛成します。そして、何人かの論者は、消費が伸び悩んでいるのは年金が少ないために老後に備えて貯蓄に励んでいるためである、という議論がある一方で、さすがに、著者はこの年金増額論は却下、というか、触れてもいません。私は消費が伸び悩んでいるひとつの要因は非正規雇用という不安定かつ低賃金な雇用にあると考えています。そして、この論点も著者は無視しているように見えます。いずれにせよ、経済に関する流行の議論が網羅されている一方で、日本経済のバックグラウンドにある構造、あるいは、モデルについての理解が少し私と違うと感じました。

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次に、アダム・トゥーズ『世界はコロナとどう闘ったのか?』(東洋経済)です。著者は、ロンドン生まれで、現在は米国のコロンビア大学の歴史学の研究者です。英語の原題は Shutdown であり、2021年の出版です。出版年からも理解できるように、それほど新しい情報が盛り込まれているわけではなく、むしろ、2020年のパンデミック当初の時期に、ワクチンはなく、特効薬もない段階で、隔離を含むソーシャル・ディスタンスを取るしか感染拡大防止の決め手がない段階で、外出禁止といったロックダウンだったり、対人接触の多いセクターごとシャットダウンしたりといった措置と経済活動との間のトレードオフについて、歴史研究者らしくたんねんにコロナ危機に見舞われた世界を経済の面に焦点を当てつつ俯瞰しています。その差異、どうしても国別とか、地域別の記述になっていて、トランプ政権下の米国、さまざまなアプローチを取った欧州、そして、何よりもパンデミックの発祥の地となった中国、加えて、インドやロシアなども加えられています。米国では、何といっても、科学的な見方に対して根拠なく独自路線を取るトランプ政権に対応が危機を拡大させていたと考えるべきです。欧州についてはスウェーデンのように社会的な集団免疫の獲得を目指しつつも、結局、通常対応にせざるを得なかった例もあれば、イタリアのように感染拡大に歯止めが効かなかった国もあります。そして、何よりも、経済活動との関係が焦点とされています。本書では、コロナ危機における経済問題を供給面からのショックと捉えており、対人接触の多いセクターが本書のタイトル通りに「シャットダウン」されることによる経済停滞、と考えています。ですから、日本の例を上げると飲食店とかとなりますが、感染拡大を防止するためにシャットダウンされたセクターの産業としての活動が停止し、経済的な活動が停滞する、というのをどのように解決するか、の観点からの記述が多くなっています。逆に、米国やブラジルのように、感染拡大防止を軽視して経済活動を継続し、危機を深めた例もあったりするわけですから、トレードオフの関係にある感染拡大防止と経済活動の両立が、米国、欧州、中国をはじめとするアジアで、どのように進んだか、に着目されています。そして、アジアについては、中国にもっとも大きな紙幅が割かれており、次いでインド、韓国についても初期段階ではコロナ封じ込めに成功した例として取り上げられていますが、我が日本は経済規模ほど言及がありません。日本国内では日本は感染者も死者も世界的な標準からすれば少なく、何か、xファクターがあるのではないか、という議論を見かけましたが、世界的な視野ではほとんど注目されていなかった、という事実が明らかになった気がします。まあ、そうなのかしれません。

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次に、平野啓一郎『死刑について』(岩波書店)です。著者は、我が母校の京都大学在学中に『日蝕』で芥川賞を受賞した小説家です。本書は、弁護士会での講演録をもとに加筆修正されて単行本として出版されています。そして、著者の基本的な立場は死刑反対、というか、死刑廃止論です。もちろん、被害者感情から死刑存置論にも十分配慮しながら、死刑に反対し廃止する議論を展開しています。その論拠は基本的に3点あります。私なりの言葉で表現すれば、第1に、冤罪があり得るからです。人間が裁判で判断する限り、事実の誤任はあり得ます。第2に、犯罪の結果について自己責任だけを問うことにムリがある可能性です。すなわち、死刑になる犯罪は、少なくとも日本では殺人だけであり、殺人といった重大犯罪に至る経緯については、加害者の生育環境などの考慮すべき事情があり、こういった事情を含めて犯罪の結果をすべて自己責任として負わせることに対する疑問です。第3に、基本的人権との関係で、自然人を殺すということの是非です。著者の主張によれば、人間としての存在を否定されることは絶対的にあるべきではなく、「xxの犯罪を犯した場合」といった相対的な基準で人間存在を抹消されることは許容できない、ということです。私は、ほぼほぼ、この著者の見方に賛成であり、死刑は廃止されるべきであると考えています。ただ、経験はありませんし、あまり考えたくもないですが、もしも、私の身近で大切に考えている人が、殺人事件の被害者として殺された場合、すなわち、私が被害者の遺族となった場合、いかなる心情に達するか、という点では、この死刑反対論を変更しない、という万全の自信があるわけではありません。その点はビミョーなところです。そして、講演録という観点からはムリあるものの、巻末の資料として世界各国での死刑制度の導入につて取りまとめてあります。どうして、世界の多くの国では死刑制度がないのか、についても私は知りたい気がします。最後に、さらに外れた感想で、本書からは完全にスコープ外となりますが、人が死ぬ、ないし、殺されるケース、しかも大量に死者が出るケースとしては戦争があります。戦争については、死刑以上に、というか、死刑と比較するのが論外であるくらいに、絶対に反対と私は考えています。おそらく、死刑存置論者でも、戦争だけは反対、という人が多いのではないか、と私は考えています。日本国憲法第9条はこれを体現している、と考えるべきです。

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次に、ミチオ・カク『神の方程式』(NHK出版)です。著者は、米国の物理学研究者であり、統一理論の有力候補であるひも理論の専門家であるとともに、ポピュラー・サイエンス・ライターとしても何冊かの科学書を出版しています。英語の原題は The God Equation であり、2021年の出版です。ということで、タイトル通りに、物理学の統一理論を物理学史もひも解きながら一般向けに判りやすく解説しています。ただ、統一理論だけでなく、その基礎をなす系の対称性にも焦点が当てられています。西洋の古典古代であるギリシア・ローマから始まる物理学史ですが、もちろん、主としてニュートンの古典力学から始まり、マクスウェルの電磁気学、アインシュタインの相対性理論、さらに量子力学などなど、専門外の私でも名前を聞いたことがある理論が並びます。そして、それらを統一する理論の筆頭としてあげられているのが10次元のひも理論です。宇宙の始まりとされるビッグバン、素粒子やブラックホールとワームホール、あるいは、未だに正体不明なダークエネルギーやダークマター、さらには、宇宙の始まりのビッグバンと最後の姿はどうなるのか、などなど、興味は尽きませんが、ともかく難解です。本書でも前半部分はニュートンやアインシュタインなど、知っている名前が並んで理解が進みますが、おそらく、私だけではなく、量子力学あたりから難解さが増します。ここが経済学とは違うところです。経済や経済学の場合、通常のビジネスパーソンであれば、経済活動に常時接していますし、そうでなくても、お金を払って買い物をするのは小学生でも体験します。しかし、物理学については日常の生活では意識することはありません。ただ、それだけにこういった専門書や教養書で読書する意義はあります。最後に、本書で指摘されている重要ポイントのひとつは、物理学の発展と経済活動が密接に関係しているということです。ニュートン力学の完成とともに産業革命の基礎が築かれ、ファラデーとマクスウェルによって電気力と磁気力をの研究が進むと電気の革命が幕を開け、アインシュタインの相対性理論や量子力学の発展から現在進行中のパソコンをはじめとするコンピュータや通信技術の革新が始まった、などが示されていて、ひょっとしたら、本書でいうところの「神の方程式」によって統一理論が解明されれば、またまた経済活動も新たな段階に進むのかもしれません。

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最後に、週刊文春[編]『少女漫画家「家」の履歴書』(文春新書)です。『週刊文春』に「新・家の履歴書」という連載があるらしいのですが、2004年から2021年までに掲載された連載の中から、少女漫画の黄金期である1970年代までにデビューした漫画家の「家」に関する記事を取りまとめています。もちろん、タイトル通りに「家」の履歴書をメインにしつつも、幼いころからの半生を振り返り、家とともに執筆していた漫画を振り返る形になっています。収録されているのは12人であり、掲載順に、水野英子、青池保子、一条ゆかり、美内すずえ、庄司陽子、山岸凉子、木原敏江、有吉京子、くらもちふさこ、魔夜峰央、池野恋、いくえみ綾となっています。ついつ、敬称略にしてしまいましたが、私なんかからすれば、それぞれに「先生」をつけたくなるような大御所ばかりです。魔夜峰央先生を除いてすべて女性であり、それなりのご年配の方々です。スポットを当てている「家」については、漫画家になる前に家族と暮らしていた家の場合もありますし、漫画家として油が乗り切っていて名作をモノにしていた時期の家、あるいは、現在住んでいる家、といったいくつかのバリエーションがあり、一定していません。しかし、漫画家ですので、間取りや何やをイラストで間取り図として、とても判りやすく美しく示してくれていて、その当時の生活や作品執筆作業などについて想像力をかき立てられます。少女漫画家に限らず、漫画家の「家」で有名なのは、何といっても、手塚治虫先生をはじめとするキラ星のような漫画家が住んでいた「トキワ荘」でしょうが、少女漫画家に限定しても萩尾望都先生と竹宮惠子先生が暮らしていた「大泉サロン」も有名です。収録された12人の中では水野英子先生が「トキワ荘」に住んでいたことがあるそうで、「トキワ荘にいるだけで絵が月ごとに上達しました」ということだそうです。そうかもしれません。単なる住まいとしてだけではなく、漫画執筆の作業、集合住宅での同業漫画家との切磋琢磨、あるいは、アシスタントたちとの共同作業などについても、とてもいきいきと活写されています。私自身はそれほどではありませんが、少女漫画ファンには大いに訴えかけるものがありそうな気がします。

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2022年9月23日 (金)

大学院修了式・学位授与式に出席する!!!

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今日は、大学院博士前期課程、すなわち、大学院修士課程の修了式・学位授与式に出席してきました。秋終了ですから、多くは留学生の諸君で、式の進行やスピーチなどの公用語は英語となります。私が修士論文指導した院生は、実は東京での就職が決まっており、今日のところはオンラインでの出席でした。
本学恒例で出席教員からはなむけのスピーチをします。私以外の先生方はキチンと何をしゃべるかについて準備しておられるようなのですが、私はいつも準備不足で適当なことをしゃべっています。今年は私の順番は3番めで、直前の先生が若者へのはなむけらしく「世界を征服しようぜ (conquer the world)」でスピーチを締めくくりましたので、"I do not believe you have to conquer the world." でお話を始めて、今日終了の学年は2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの年に大学院に入学しタイヘンだったろうから、学業を終えてとってもエライ、とか、私の指導院生が東京で就職することを念頭に、チャンスが有れば東京に行って仕事をしたり、勉強を進めたり出来ればいいし、私のように人生の晩年に差しかかっているわけではなく、君たちは rising sun なのだから、積極的にリスクがあってもチャレンジしなさい、なんてことを、エラそうにしゃべったりしました。
彼らの人生は前途洋々です。幸多かれと願っています。

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2022年9月22日 (木)

リクルートによる8月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週9月30日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる7月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、今年2022年4月+1.5%増、5月+2.8%増、6月+1.8%増、7月+1.2%増の後、8月も+2.3%増となっています。5月の+2.8%増がやや外れ値なのか、と考えないでもなかったのですが、8月も+2%超を記録しています。ただし、2020年1~4月のコロナ直前ないし初期には+3%を超える伸びを示したこともありましたので、この面からももう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しますので、その影響がどのように出るか見極めたいと思います。他方、派遣スタッフの方は今年2022年4月+1.3%増、5月は横ばい、6月+0.8%増、7月+1.5%増の後、8月は+3.4%増と、足元で伸びを高めています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、7月には+2.3%、+26円増加の1,134円を記録しています。職種別では、「営業系」(+82円、+6.7%)、「事務系」(+57円、+4.7%)、「フード系」(+46円、+4.5%)、、「専門職系」(+48円、+3.7%)、「製造・物流・清掃系」(+30円、+2.7%)、「販売・サービス系」(+2円、+0.2%)、とすべて職種で増加を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、7月には+1.5%、+23円増加の1,591円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+62円、+3.4%)、「製造・物流・清掃系」(+35円、+2.7%)、「営業・販売・サービス系」(+34円、+2.4%)、「オフィスワーク系」(+28円、+1.8%)、「医療介護・教育系」(+21円、+1.5%)、とすべてプラスとなっています。派遣スタッフの6つのカテゴリを詳しく見ると、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高くなっていて、全体と比べて伸びが小さくなっています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調であり、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の新規感染者数や死者数が増加しているものの、最近までの順調な景気回復に伴う人手不足の広がりを感じさせる内容となっています。ただ、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、また、国内でのCOVID-19の感染拡大も高止まりしており、今後の日本国内の雇用の先行きについては不透明であり、まだ下振れ懸念が残ります。

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2022年9月21日 (水)

帝国データバンク「企業の価格転嫁の動向アンケート」の結果やいかに?

先週木曜日の9月15日に帝国データバンクから「企業の価格転嫁の動向アンケート」の結果が明らかにされています。100円のコストアップに対して36.6円しか価格転嫁できていない、との結果が示されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨3点を引用すると以下の通りです。
調査結果
  1. 自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金に『多少なりとも転嫁できている』企業は70.6%となった。一方で、『全く価格転嫁できていない』企業は18.1%だった
  2. 「価格転嫁率 」は36.6%と4割未満にとどまった。これはコストが100円上昇した場合に36.6円しか販売価格に反映できていないことを示している。なかでも、「ソフト受託開発」などを含む「情報サービス」や「一般貨物自動車運送」などを含む「運輸・倉庫」の価格転嫁率が低水準にとどまっている
  3. これまでの政府の物価高騰対策について、「大いに効果を実感している」が0.7%、「ある程度効果を実感している」が11.1%となった。一方で、「あまり効果を実感していない」は38.9%、「ほとんど効果を実感していない」は34.3%だった
ということで、リポートからいくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
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まず、リポートから 価格転嫁の状況 のグラフを引用すると上の通りです。見れば判るように、「多少なりとも価格転嫁できている」企業は70%であった一方で、「全く価格転嫁できていない」企業は18%となっています。ただし、価格転嫁率が36.6%であることに現れているように、「多少なりとも価格転嫁できている」企業70%のうち、5割未満がほぼ40%に達しています。また、価格転嫁率が高い業種として、建材・家具、窯業・土石製品卸売、機械・器具卸売が50%を超えている一方で、運輸・倉庫(一般貨物自動車運送など)や情報サービス(ソフト受託開発などと情報サービス(ソフト受託開発など)では20%を下回っていたりします。
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続いて、リポートから 政府の物価高騰対策の効果 を引用すると上の通りです。これも見れば判る通り、「大いに効果を実感している」が0.7%、「ある程度効果を実感している」が11.1%にとどまっている一方で、「あまり効果を実感していない」が38.9%、「ほとんど効果を実感していない」も34.3%に上っています。企業の73.2%で「(あまり/ほとんど)効果を実感していない」という結果が示されています。 価格転嫁については、単純に独占とかマークアップとか、と考えるのは適当ではないと私は考えていますが、逆から見れば、日本経済は独占度が高くない、という見方もできなくはない、という気もします。そして、市場の価格メカニズムに応じた資源配分が、もしも効率的であるのであれば、現在のインフレに対応して、政府が企業に対していかなる経済政策を取るべきかは、補助金による価格操作ではなく、コストアップや価格転嫁できない部分に対する支援であろうと私は考えています。
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最後に、それほど注目はしていないのですが、アジア開発銀行(ADB)は「アジア開発見通し改定」Asian Development Outlook (ADO) 2022 Updateを本日9月21日に公表しています。プレスリリースのプレゼン資料から成長率見通しの総括表を引用すると上の通りです。今年2022年のアジア新興国・途上国の4月時点の+5.2%から+4.3%に下方修正されています。主因は中国であり、4月時点の+5.0%から+3.3%と大きく下方修正しています。他方、東南アジアではインドネシアやフィリピンについては今年の成長率を上方改定していたりします。国際機関の経済見通しについては、10月10日に予定されているIMF世銀総会に合わせてIMFから「世界経済見通し」が明らかにされると思いますので、改めて注目したいと思います。

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2022年9月20日 (火)

30年ぶりの上昇率を記録した消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から8月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.8%を記録しています。報道によれば、30年ぶりの高さの上昇率だそうです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+1.6%にとどまっています。なお、ヘッドライン上昇率は+3.0%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価8月2.8%上昇 30年11カ月ぶりの上昇率
総務省が20日発表した8月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が102.5となり、前年同月比2.8%上昇した。消費増税の影響を除くと1991年9月(2.8%)以来、30年11カ月ぶりの上昇率だった。5カ月連続で2%台となった。資源高や円安が、エネルギー関連、食料品の価格を押し上げた。
生鮮食品を含む総合指数は3.0%の上昇率で91年11月以来、30年9カ月ぶりの水準となった。海外との比較では米国やユーロ圏の総合指数は8~9%の上昇率で日本より高い水準にある。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.6%上昇した。
生鮮を除く総合指数はQUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(2.7%)を上回った。上昇は12カ月連続となった。522品目のうち、上昇した品目は372、変化なしが40、低下が110だった。上昇品目数は前月の376から微減だった。
エネルギー関連が16.9%上がり、2桁の伸びが続いた。発電所の燃料費の高騰を受けて電気代は21.5%と7月の19.6%を上回って上昇した。都市ガスは26.4%と、1981年3月(38.4%)以来、41年5カ月ぶりの上昇率となった。
政府の補助金による抑制効果があり、ガソリンは7月の8.3%から縮小し6.9%の伸びだった。エネルギー関連だけで指数を1.27ポイント押し上げた。
食料は4.7%上昇し、7月の4.4%を上回った。生鮮食品は8.1%(7月は8.3%)、生鮮食品を除いた食料は4.1%(同3.7%)の上昇で、いずれも高い上昇率が続く。
食パンは15.0%、チョコレートは9.3%上昇した。メーカーの値上げが相次ぐ食用油は39.3%伸びた。ウクライナ危機で輸送ルートの変更を余儀なくされているさけは28.0%、輸入品の牛肉は10.7%、梨は10.4%と購入頻度の高い商品で上昇が続く。
原材料高などの影響は外食にも波及し、ハンバーガー(11.2%)などの品目も上がった。
2021年8月に一部の事業者で値下げがあった影響で、携帯電話の通信料は下げ幅が縮んだ。7月のマイナス21.7%から、8月はマイナス14.4%になった。宿泊料の押し上げもあり、財・サービス別で、サービスが19年12月以来のプラスとなった。
日本経済研究センターが14日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では、消費者物価指数上昇率は、四半期ベースの前年同期比で22年7~9月期が2.49%、10~12月期が2.64%と2%台の上昇が続く。23年は1~3月期まで2%台で推移し、4~6月期に1%台になるとみている。
他の主要国の総合指数は米国は8月に前年同月比8.3%の上昇と、8.5%だった7月より低下したものの高水準にある。ユーロ圏は8月に9.1%と、7月(8.9%)からインフレが加速した。英国は8月に9.9%の上昇で、10.1%だった7月から下がった。11カ月ぶりに伸び率が縮んだ。

やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.7%の予想でしたので、ホンの少しだけ上振れた印象です。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドぷるによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、8月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は16.9%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.27%あります。このエネルギーの寄与度+1.27%のうち、電気代が半分超の+0.74%ともっとも大きく、次いで、都市ガス代の+0.24%、ガソリン代の+0.15%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、4月統計では+19.1%、5月統計では+17.1%、6月統計では+16.5%、7月統計では+16.2%、そして、直近で利用可能な8月統計では+16.9%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているように見えます。他方で、生鮮食品を除く食料の上昇率も4月統計+2.6%、5月統計+2.7%、6月統計+3.2%、7月統計+3.7%に続いて、8月も+4.1%の上昇を示しており、+0.92%の寄与となっています。ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は8月統計で、それぞれ、+3.0%と+2.8%ですから、ほぼほぼ+2.0%を超える部分はエネルギーと生鮮食品を除く食料による寄与と考えるべきです。そして、現状ではまだまだエネルギーの寄与度が大きいのですが、毎月の寄与度の差を考えれば、寄与度差という観点ではインフレの主因はエネルギーから食料に移りつつあるように見えます。

9月末までと予定されていたガソリン補助金は12月末まで延長されましたが、従来から私が主張しているように、化石燃料に補助金を出して消費を促すのは気候変動=地球温暖化に逆行しかねません。しかし、食料についてはもっとも基礎的な生活必需品と考えるべきです。経済政策で然るべき対応が求められます。

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2022年9月19日 (月)

台風14号の影響やいかに?

昨日9月18日の午後に九州に上陸した台風14号が東寄りに進路を変え、今朝の時点では九州北部にあります。現時点では、関西には雨も降っておらず、風も殆ど吹いていませんが、夕方から明日にかけて日本海側が直撃されそうな雰囲気です。どうも、三連休のお天気は思わしくありません。実は、明日の9月20日午後、まさに、台風14号が関西を通過し終えたころのタイミングで教授会が開催される予定となっています。日本気象協会のサイトの情報に従えば、明日午後は関西では雨も暴風もピークを超えているとのことですが、他方で、「西日本は影響が長引くおそれ」とも指摘しています。台風一過となっているでしょうか。下の画像はウェザーニュースのサイトから台風の進路予想を引用しています。

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今年度が明けて4月から教授会は、会議室に集まって原則対面で開催される回と、対面ではなくオンラインが原則あるいは可能とされる回に分かれているのですが、何と、明日の教授会は原則対面の回となっているようです。基礎疾患あったりする教員などはオンライン出席を認められるそうですが、私は該当しません。三連休は週後半にもう1回あるのでいいとしても、少なくとも私のようなヒラ教授には、教授会の日程は動かしようがありません。

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2022年9月18日 (日)

ウェザーニュースの「紅葉見頃予想」やいかに?

台風14号がタイヘンなことになっているのに、ナンですが、先週木曜日の9月15日に、ウェザーニュースから「紅葉見頃予想」が明らかにされています。そのサイトにある見頃予想マップは以下の通りです。

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見れば明らかなのですが、関西の代表として京都の嵐山が上げられており11月下旬からが見頃、との予想となっています。そのほぼ1か月前の10月22日に京都で時代祭が3年ぶりに行列が執り行われます。可能であれば、見に行きたいと予定しています。

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2022年9月17日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊!!!

今週の読書感想文は、大学の同僚教員からご恵投いただいた経済書、デジタル社会やAIに関する社会学の教養書、ミステり小説、宗教に関する新書など、以下の通り計6冊です。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~8月で45冊、先週までの9月で10冊、今週が6冊ですので、今年に入ってから167冊となりました。ほかに、新刊書ならざる読書も何冊かありますので、可能な範囲でFacebookでシェアしたいと予定しています。

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まず、松尾匡『コロナショック・ドクトリン』(論創社)です。著者は、私の勤務する大学の同僚教員であり、早くにご恵投いただいていたのですが、研究室に埋もれて発掘に時間がかかってしまいました。本書のタイトルはナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を踏まえており、いわゆる惨事便乗型資本主義という意味で、それに「コロナ」という形容詞が付け加わっているわけです。岸田政権前の菅政権下で押し進められた新自由主義的な政策を批判し、資本主義の最終段階である帝国主義と位置づけています。それにコロナが乗っかった惨事便乗型なわけです。ですから、それまでの円安誘導で「輸出で稼ぐ」から、円高誘導で「海外で稼ぐ」にビジネスモデルを転換し、雇用者はヘクシャー-オリーン定理に従って低賃金の海外労働者と競わせる「底辺への競争」を仕向け、安価な輸入品が国民生活を支える、という方向を志向すると指摘しています。この方向をコロナという惨事に便乗して一気に進める、というのが日本の支配層の意図であるわけです。私もかなりの程度には同意します。しかし、現在の岸田内閣の評価については、現状ではまだ時間が足りずに決定的な結論は得ていないようです。私は基本的に同様の新自由主義的な政策が志向されるものと考えていますが、ある程度の弥縫策、主として分配政策の適用などは考えられると想像しています。本書の分析で、人口減少社会で必然的に景気が停滞する、という前提が置かれているような気がしますが、それを別にしても、ひとつだけ疑問があるのは、雇用の非正規化をどのように位置づけるのが適当か、という点です。すなわち、自然人ベースでは多くの人数を雇用しつつ、各個人の労働時間は短時間雇用=パートだったり、あるいは未熟練労働に限定して低賃金で多くの国民を雇用する、というのは、新自由主義的な経済政策のような気もしますが、そうでない気もします。資本主義経済でいかなる意味があるのか、という点がもう少し深く分析されているとさらに良かった気がします。

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次に、アンソニー・エリオット『デジタル革命の社会学』(明石書店)です。著者は、オーストラリア出身の社会学研究者です。英語の原題は The Culture of AI であり、2019年の出版です。英語の原題から理解できるように、主としてAIに関する社会的な方向性を論じていますが、同時に幅広くデジタル化の文化についても展開しています。しかしながら、単なるオートメーションについても同様に当てはまる部分が少なくないような印象です。この点は著者も意識しているようで、デジタル化、AIやロボットの実用化、あるいは、そういった全般的な動向が今までのオートメーション化に対して、かなり根本的な変革をもたらすという意味で、変容的であるとの指摘を紹介する一方で、他方には変容に対する懐疑的な見方も両論併記的に示しています。この議論は、実は雇用に対して向けられるべき疑問であると私は考えています。すなわち、産業革命やラッダイト運動のころから始まって、21世紀初頭の現在くらいまで、各種の技術革新、オートメーションに限らない機械化は雇用を破壊するわけではなく、新たな高付加価値な雇用を生み出してきたのが歴史的な事実として認識されるべきです。しかし、AI活用やデジタル経済化が変容的であるとすれば、雇用が破壊され、人的労働がAIやロボットに従属する方向で「変容」する可能性が考慮されるべきです。私は、何人かの悲観論者はシンギュラリティでマシンの能力が人間を超えると、まさにその意味で、変容的に社会がすべて変わって、人間は現在のウマやウシのようにAIの家畜になる可能性がある、と考えています。本書はその根本的な問いに対しては、唯一の回答を用意しているわけではありません。経済学書ではないので、生産や消費ではなくついつい生活面での変化を追いがちなのですが、セックス・ロボットがそれほど重要とは私は思わないのですが...

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次に、未須本有生『天空の密室』(南雲堂)です。著者は、東京大学工学部航空学科卒で、大手メーカーで航空機の設計に携わり、本書のような航空機に関するミステリなどを書いている作家です。本書では、近未来の時代背景をもって、「空飛ぶクルマ」の開発を進めている自動車部品メーカーが、試作段階になったにもかかわらず、国土交通省航空局からテストのための飛行計画の許可が下りず、開発計画が頓挫しかけます。役所の表向きの理屈としては安全確保が不十分ということなのですが、さまざまな要因が絡んでどうしようもなくなった折に、その航空局の担当官が殺されて東京湾岸のヘリポートに死体が遺棄されます。千葉県警の刑事が捜査に当たるのですが、殺人犯も死体の運搬も一向に謎が解明されません。ということで、実は、読めば犯人が誰かはそれなりに想像がつきます。死体運送方法については私くらいの雑な頭では判りませんでしたが、ミステリファンであれば理解できるラインではないかという気がします。ただ、私が本書をミステリと呼ぶかどうか迷う点があります。というのは、名探偵が事件をさかのぼって謎を解明するのではなく、犯人自身が警察に自首して真相を明らかにするからです。倒叙ミステリというジャンルがあるのはよく知られたところですが、本書はそれでもないようです。何か、少し違和感を感じる読後感でした。もっとも、気にならない読者も多いかもしれません。

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次に、未須本有生『ミステリーは非日常とともに!』(南雲堂)です。同じ著者です。ただし、本書は前の『天空の密室』の前作となります。航空機に関するミステリではなく、別の乗り物、すなわち、クルーズ船とクラシックカーに関する短編、というよりはやや長い中編の2章を収録しています。登場人物はビミョーに重なっているので、連作中編集とみなす読者もいそうですが、私は独立した2編と考えています。少なくとも、最初の中編はタイトル通りの非日常なのですが、2編目はそれほどの非日常ではない気がします。ということで、最初のクルーズ船の方は、ミステリ作家の友人が主人公となり、ミステリ作家のファン80名ほどと数日の交流会を豪華クルーズ船で行う企画が舞台となります。完成されたミステリではなく、2社から依頼を受けた原稿のテーマを探すクルーズ旅行であり、ファンに対してミステリの謎を提供し、粗っぽく謎解きを解説する、という趣向です。ですから、本格的なミステリ小説の完成は本作の後段階になる、ということのようです。2編目は、映像作家が主人公で、30年くらい前のBMWのクラシックカーを入手し、頻度高い故障を修理してもらいつつ、友人の警察官僚から持ち込まれる車に関する謎を修理業者とともに解明する、というストーリです。私自身は、クルーズ船に乗ったこともなく、クラシックカーどころか、自動車の工学的な特性などもサッパリ理解できず、その意味でなかなかに難解なミステリでした。

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次に、松長有慶『空海』(岩波新書)です。著者は、高野山大学の学長や高野山真言宗管長を務めた経験ある碩学です。岩波新書から、1991年に『密教』、2014年に『高野山』をそれぞれ出版しており、三部作の完成かもしれません。ということで、空海=弘法大師から密教や、あるいは、さらに仏教全般の教義についても幅広く解説がなされています。いくつか対立的な存在、すなわち、無限と有限、対立と融合、自と他などのいわゆる不二に付いての簡単な解説があり、加えて、自然観について明らかにされた後、ズバリ、空海のいう仏性についての独自性が議論されます。すなわち、いわゆる「成仏」とは、人間が修行の上で、人間ではない仏になると考えられていたのに対して、自分が本来持っている仏性、自分が仏であるということに気づくことである、と定義し直されます。即身成仏なわけです。加えて、綜芸種智院式と呼ばれる教育理念、生死観、さらには、空海はまだ死んでいないとする入定信仰などまで含めて、かなり具体的で判りやすい解説が続いています。しかし、空海の教義そのものがもともとかなり難解であったわけですから、平易な解説といっても限界があります。そのあたりはそれなりの覚悟を持って、仏教や空海に深い関心ある向きにオススメする読書ではないか、と思います。

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最後に、道尾秀介『いけない』(文春文庫)です。著者は、売れっ子のミステリ作家であり、本書の短酵母は2019年に出版されています。実は、このブログでも2019年9月に読書感想文を取り上げています。文庫本で出版されましたので、まあ、2度読みなわけです。ということで、タイトル通りに「xxしてはいけない」という章が3章あり、ほかに最終章が置かれています。舞台はすべて蝦蟇倉市という設定なのですが、第1章だけは蝦蟇倉市のシリーズとして、他の作家の短編作品とともにアンソロジーに収録されています。第1章から第3章までは数年のタイムラグがあります。全体として、ややホラーがかった短編ミステリ、あるいは、連作短編集ですが、キチンとした論理的な推理、説明がなされています。その意味で、エドワード D. ホックの「サイモン・アーク」シリーズの短編と共通点があります。ホラーがかっているひとつの理由は、事件の裏側に十王還命会なる新興宗教団体が関係しているからです。ただ、もちろん、この作者の作風がもともと少しホラー気味なのも広く知られている通りです。第1章からして、読者をミスリードする仕掛けが随所に盛り込まれていて、短編ながら、すべてが殺人事件ではないとはいえ、各章で人が死にます。そして、最終章で、新興宗教団体の浸透ぶりが明らかにされます。(旧)統一協会みたいなものかもしれません。単純明快な謎解きではありませんが、私のようにこの作者のファンであれば、読んでおくべき作品だと思います。

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2022年9月16日 (金)

我が国の戦略物資の輸入は特定国に依存しているのか?

2022年度「通商白書」の解説ということで、経済産業研究所のサイトで「わが国の輸入はどの程度特定国に依存しているのか」というタイトルにより、「通商白書2022」の主として第Ⅱ部第2章第2節の解説がなされています。下のグラフは、「通商白書2022」p.283にある第Ⅱ-1-2-26図 輸入相手国・地域 そのままなのですが、経済産業研究所のサイトにある 図1: 重要品目等の輸入相手国・地域 を引用しています。

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私は、こういった地政学的な観点はトンと専門外な能天気なエコノミストなので、よく理解できない点がいくつかあります。第1に、上のグラフでは半導体関連品目に着目していて、「経済安全保障と密接に関連した戦略物資であり、幅広い産業で欠かせない」点を理由にあげています。しかし、エネルギーはどうなのでしょうか。昨日このブログで取り上げた8月の貿易統計では、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額の増加に従って貿易赤字が膨らんでいる実態がありました。エネルギーは「戦略物資」とは呼ばないのかもしれませんが、カロリーベースで40%を下回っている食料自給率とともに、考えるべき点はないのでしょうか。第2に、「通商白書2022」ではサプライチェーンの脆弱性の中で取り上げられていて、生産拠点の集中の問題と認識されているようです。ただし、経済学は伝統的に比較優位を重視し、素朴な比較優位説では生産の特化が生じます。例えば、リカードが示した英国とポルトガルの綿織物とぶどう酒の例では英国が綿織物に特化し、ポルトガルがぶどう酒に特化する可能性が示唆されています。調達先の多様化を図ることは、場合によっては、非効率を招きかねません。第3に、生産拠点の集中は量的な観点なのですが、「通商白書2022」p.285にある第Ⅱ-1-2-28図 主要な製造業のグローバルサプライチェーンのリスクポジション では、質的な脆弱性の観点として「中国の産業を経由する頻度」がリスクとして示されています。判らないでもないのですが、米国のような同盟国と何らかの価値観の相違を有する国とをどのように識別するのかは、私の理解は及びません。こういった3点以外にも、細かな点はいくつか疑問としてあるのですが、経済安全保障という名で経済活動に対する制約がどこまで許容されるのかは、その時々の国民の判断にもよりますし、私も少し勉強したいと思います。

その昔のトーマス・フリードマン『レクサスとオリーブの木』で人口に膾炙したフレーズとして「マクドナルドがチェーンを展開している国同士は戦争をしない」というのがありました。しかし、現実には、「戦争を始めた国からマクドナルドは撤退する」というのがロシアにおいて明らかになってしまいました。地政学だけではなく、地経学も応用分野を広げつつあるように見受けられます。可能な範囲で勉強を進めたく思います。

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2022年9月15日 (木)

過去最大の貿易赤字を記録した8月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から8月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+22.1%増の8兆619億円、輸入額は+49.9%増の10兆8792億円、差引き貿易収支は▲2兆8173億円の赤字となり、13か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、統計として比較可能な1979年以降で単月の過去最大の貿易赤字です。まず、やたらと長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字が過去最大2兆8173億円 8月、資源高・円安で
財務省が15日発表した8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8173億円の赤字だった。エネルギー価格の高騰や円安で輸入額が前年同月比49.9%増の10兆8792億円に膨らみ、輸出額の伸びを上回った。赤字額は東日本大震災の影響が大きかった2014年1月を上回り、比較可能な1979年以降で単月の過去最大となった。
14年1月は2兆7951億円の赤字だった。震災後の原子力発電所停止により火力発電所用の燃料輸入が増えていたほか、同年4月の消費増税を控えた駆け込み需要も輸入額を押し上げていた。22年8月は8年7カ月ぶりに当時を上回った。
貿易赤字は13カ月連続。15年2月までの32カ月に次ぐ過去2番目の長さとなっている。
22年8月の貿易赤字額はQUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値(2兆3981億円)を上回った。
輸入額が前年同月を上回るのは19カ月連続だ。アラブ首長国連邦(UAE)からを中心に原油を含む原粗油が90.3%増えた。オーストラリアからを中心とする液化天然ガス(LNG)は2.4倍となり、石炭は3.4倍に増えた。
原粗油の輸入は金額ベースで17カ月連続で増加し、数量ベースでも10カ月連続で増えた。通関での円建て輸入単価は1キロリットルあたり9万5608円で、前年同月から87.5%上昇した。ロシアのウクライナ侵攻で原油価格が上昇したほか、急速な円安が輸入額を押し上げた。
輸出額は22.1%増の8兆619億円だった。18カ月連続で前年同月を上回った。数量ベースでは1.2%減と6カ月連続の減少で、円安局面でも低迷する。部品などの供給制約が緩和されてきた自動車の輸出額は39.3%増え、中国向けなどの半導体等製造装置も22.4%増となった。
地域別では、対米国の黒字が20.7%増の4715億円と、2カ月ぶりの増加となった。自動車や自動車部品などが伸び、8月の輸出額としては過去最高となった。輸入額は単月で過去最大で、医薬品や原粗油が伸びた。
対アジアの輸入、輸出額はともに8月としては最高だった。このうち対中国もともに最高となった。中国からの輸入は衣類や通信機が増え、中国への輸出はハイブリッド車などが伸びた。対中国の貿易収支は5769億円の赤字だった。赤字は17カ月連続で、赤字額は2.7倍に増えた。
対ロシアの貿易収支は1091億円の赤字だった。日本政府の輸出禁止措置などにより輸出額は21.5%減の549億円だったが、輸入額は67.4%増の1641億円となった。原粗油の輸入額が103億円だった。主要7カ国(G7)は輸入禁止で合意しているが、通関手続きの関係で過去に到着したものが計上されたとみられる。
貿易統計上の8月の為替レートは1ドル=135円08銭で、前年同月に比べ22.9%の円安だった。足元の為替レートは143円前後まで円安が進んでいる。ロシアのウクライナ侵攻で拍車がかかった原油や小麦などの資源・食料価格の高騰は一服しているが、前年に比べれば高水準だ。貿易赤字の拡大傾向は続く可能性がある。

とてつもなく長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲.4兆円近い貿易赤字が見込まれていて、実績の▲2兆8173億円の貿易赤字はほぼほぼ予想レンジの下限といえます。加えて、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年8月までの13か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、1年を超えて17か月連続となります。しかも、貿易赤字額がだんだんと拡大しているのが見て取れます。繰り返しになりますが、統計として比較可能な1979年以降で単月の貿易赤字としては過去最大だそうです。グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。8月の貿易統計を品目別に少し詳しく輸入についてだけ見ると、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+1.5%増に過ぎませんが、金額ベースでは+90.3%増と大きく水増しされます。LNGも同じで数量ベースでは▲0.4%減と減少しているにもかかわらず、金額ベースでは+140.1%増となっています。加えて、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+30.0%増、金額ベースでも+7.6%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。

何度も繰り返しになりますが、輸出は世界経済の回復に従ってそこそこ伸びています。それ以上に資源高や円安で輸入額が増加しているのが貿易赤字の大きな要因です。私はエコノミストとして、そもそも、貿易赤字や経常赤字は経済政策による何らかの是正の対象ではないと考えていますし、輸出が伸びている現状は評価すべきと考えています。貿易赤字「是正」のための歪んだ経済政策の導入には反対の立場です。

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2022年9月14日 (水)

今日は私の誕生日!!!

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今日は私の誕生日です。64歳になりました。日本的な基準からすれば、来年からは高齢者となります。ですから、そうめでたくもないのかもしれませんが、世間一般では、誕生日はめでたい記念日と考えられています。
厚生労働省、特に、独立行政法人の高齢・障害・求職者雇用支援機構なんかが中心になって、年齢にかかわりなく働ける職場づくりなどをはじめとする「生涯現役社会」の実現を目指しているようですが、私は死ぬまで働く必要のある社会なんて反対です。いずれかの段階で私は現役を引退したいと希望しています。

遅くにポストしてしまいましたが、一応、ツイッタの画面で風船を飛ばしてもらうまでもなく、自分の誕生日くらいは把握しています。でも、独立した2人の子供達の誕生日は忘れがちで、8月29日は下の倅の誕生日だったのですが、東京出張も控えていて雑事に追われ、ついつい忘れてしまっていました。そのうちに、自分の誕生日も忘れるのかもしれません。

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予想に反して大きく伸びた7月統計の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から7月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+5.3%増の9660億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、7月5.3%増 2カ月連続プラス
内閣府が14日発表した7月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(季節調整済み、船舶・電力を除く)は前月比5.3%増の9660億円だった。非製造業からの受注が伸び、2カ月連続のプラスとなった。
QUICKがまとめた市場予想の中心値(0.8%減)から大きく上振れした。
単月のぶれを除くため算出する5~7月の3カ月移動平均は前期比0.1%増となり、4カ月連続のプラスとなった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
7月を業種別にみると、非製造業が15.1%増となり、2019年11月以来の増加幅になった。鉄道車両などの運輸業・郵便業が2.7倍となり、全体を大きく押し上げた。コンベヤーやエレベーターなどの運搬機械を含む不動産業からの受注も2.7倍となった。
製造業は5.4%減だった。半導体製造装置を含む電気機械が14.0%減少した。自動車・同付属品は9.9%減となった。どちらも前月は増加しており、7月は反動が出た。非鉄金属は2.6倍、繊維工業は68.3%増とそれぞれ大きな伸びになった。
内閣府は「製造業全体が上向いている姿に変化はない」とみている。中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)の影響が緩和され、サプライチェーン(供給網)の混乱で控えられていた設備投資への意欲は高まっている。
7~9月の民需の受注見通しは前期比1.8%減と小幅なマイナスになっている。4~6月期実績が当初の見通しを上回って高かった反動があるもようだ。
内閣府と財務省が13日に発表した法人企業景気予測調査では、22年度の設備投資は16.2%の増加見込みとなった。内閣府は機械受注の先行きについて「年間でならすと堅調に推移するのではないか」と予測する。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比マイナスの予想でしたし、予想レンジの上限でも+1.5%増でしたから、実績の+5.3%増は大きく上振れた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。今年に入って1~3月期のコア機械受注は前期比で▲3.6%減の後、4~6月期には+8.1%増の2兆7,888億円とリバウンドして、7~9月期には▲1.8%減と見込まれていましたが、出だしの7月統計では+5.3%増となっています。ただし、7月統計では製造業が前月比▲5.4%減となった一方で、非製造業は+15.1%増と、業種別に大きな跛行性が見られます。引用した記事でも、「鉄道車両などの運輸業・郵便業が2.7倍となり、全体を大きく押し上げた。コンベヤーやエレベーターなどの運搬機械を含む不動産業からの受注も2.7倍となった。」と指摘しています。これらは、一時的ないわゆる「大型受注」ではなく、運輸からは鉄道車両、不動産からは運搬機械の受注が増えているように私は聞き及んでいます。

7月統計の機械受注は、予想外の堅調な内容でした。昨日取り上げた法人企業景気予測調査でも今年2022年度の設備投資計画は大幅増でしたし、先月8月に公表された政策投資銀行の「全国設備投資計画調査」(2022年6月)でも2022年度の大企業の設備投資計画は前年度比+26.8%増となっていて、コロナ前の2019年度の投資水準を回復する可能性が示唆されていました。ひょっとしたら、2022年度の設備投資は順調に伸びる可能性があるのかもしれません。

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2022年9月13日 (火)

1980年以来の高インフレの続く企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から8月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+8.6%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価8月9.0%上昇、18カ月連続前年超え 円安が拍車
日銀が13日発表した8月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は115.1と、前年同月比9.0%上昇した。前年の水準を上回るのは18カ月連続。上昇率は7月から横ばいで、1980年12月以来の高い伸びが続く。外国為替市場で円安が続き、物価高に拍車をかけている。ロシアによるウクライナ侵攻に伴う供給制約への懸念から原材料価格も高止まりしている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。8月の指数は調査を開始した60年以降で最も高かった。上昇率は民間予測の中央値である8.9%を0.1ポイント上回った。7月の上昇率は8月発表時点の8.6%から9.0%に上方修正された。
品目別にみると、鉄鋼(26.1%)や石油・石炭製品(15.6%)、金属製品(12.3%)などの上昇が目立つ。飲食料品(5.6%)など消費者に近い商品も値上げが続く。公表している515品目のうち、上昇したのは8割にあたる431品目だった。ウクライナ危機の長期化に伴って資源価格の高騰を製品価格に転嫁する動きが広がっている。
円安の影響も続いている。8月の外為市場では円相場が一時1ドル=139円台まで下落した。円ベースの輸入物価の上昇率は42.5%と、ドルなど契約通貨ベースの21.7%を大幅に上回った。円ベースの輸出物価の上昇率は17.0%、契約通貨ベースでは3.5%だった。
円ベースの輸入品目では、石油・石炭・天然ガスが前年の2.1倍となり、木材・木製品・林産物が38.1%、飲食料品・食料用農水産物が27.9%上昇した。日本は輸入契約通貨の75%程度がドルなどの外貨建てとなっており、円安は円ベースの輸入物価上昇を通じて企業物価を押し上げる要因になる。
円相場は9月に一時1ドル=144円台まで下落し、8月からさらに円安が加速している。利上げを進める米国と大規模緩和を続ける日本の金融政策の違いを背景に金利が高いドルにマネーが流れ込んでいる。米連邦準備理事会(FRB)はインフレ対応でさらなる利上げを見込み、円安が企業物価を押し上げる構図が続きそうだ。
政府・日銀は急速な円安に警戒感を強めている。8日には財務省と金融庁、日銀が3者会合を開き、9日には日銀の黒田東彦総裁が岸田文雄首相と会談した。円安や資源高を受け、7月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は2.4%上昇した。賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、家計の実質所得への下押し圧力が強まっている。

とてつもなく長くなりましたが、いつもの通り、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+8.9%と見込まれていましたので、実績の+9.0%はやや上振れしたとはいえ、ほぼコンセンサスの範囲かという気がします。PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、為替レートが減価している円安要因です。また、少し前までの我が国製造業のサプライチェーンにおける半導体などの供給制約については、私も詳しくないのですが、報道では見かけなくなりましたので、後景に退いている気がします。品目別には、引用した記事の3パラめにあるように、鉄鋼+26.1%、木材・木製品+20.2%、石油・石炭製品+15.6%、金属製品+12.3%、化学製品+10.5%、非鉄金属+10.4%などとなっています。ただし、これらは国内物価における品目の動きであり、焦点のひとつとなっている原油について円建ての輸入物価で見ると、4月+88.5%、5月+93.3%、6月+104.5%、7月+99.0%、8月+85.9%と、ほぼ昨年から2倍の価格となっています。私はこの方面に詳しくないので、シンクタンクなどのリポートを見る限り、今年2022年3月上旬には、一時、バレル当たり120ドルを超えていたWTI原油先物価格が、9月上旬には80ドル台後半まで低下しており、日本総研の「原油市場展望」では「高値圏でボラタイルな展開」と分析し、また、みずほ証券「マーケット・フォーカス(商品:原油)」では「当面の原油価格の下値めどは1バレル=80ドル前後」と指摘しています。ご参考まで。石油などの商品市況の先行きは私には判りませんし、為替相場の予想はもっと理解不能です。悪しからず。

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また、本日、財務省から7~9月期の法人企業景気予測調査が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業の景況判断BSIのグラフは上の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。
そのヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)は足元7~9月期が+0.4と3四半期ぶりにプラスを記録し、続く10~12月期は+6.4、来年2023年1~3月期も+4.7と回復が続く見通しとなっています。見れば判る通り、2020年以降の企業マインドの動きは、ほぼほぼ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大と並行して動いているような気がします。ですから、足元7~9月期の大企業BSIの+0.4にしても、大企業製造業が+1.7であるのに対して、大企業非製造業はまだ▲0.2とマイナスから脱してはいません。また、私が気にしている今年2022年度の設備投資計画は、何と、+16.2%増となっています。2004年の調査開始以来の最高だそうです。製造業で+26.3%増、非製造業でも+11.2%増となっています。ちょっとびっくり?

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2022年9月12日 (月)

「国民生活基礎調査」にアベノミクスの効果は見られるか?

先週金曜日の9月9日に厚生労働省から「国民生活基礎調査」(2021年調査)の概況が公表されています。所得に関する部分だけ、プレスリリースのグラフを引用しつつ。簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、プレスリリースから、図8 各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移 を引用すると上の通りです。折れ線は上から順に、児童のいる世帯、高齢者世帯以外の世帯、全世帯、高齢者世帯、となっています。全世帯平均所得はバブル崩壊後の1994年に664.2万円でピークをつけてから低下を続け、約25年後の2020年には564.3万円まで、ほぼほぼ▲100万円減少しています。しかし、他方で、アベノミクスの始まった2013年528.9万円をボトムにして、2014年541.9万円、2015年545.4万円、2016年560.2万円、2017年551.6、2018年552.3万円、(2020年調査が中止されたため2019年所得は不明)、2020年564.3万円と、極めて緩やかなペースながらジワジワと上昇しているのも事実です。アベノミクスの成果のひとつはこういった雇用や所得の改善であり、いまだに特に若い世代から支持が強い点は見逃すべきではありません。

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次に、プレスリリースから、図9 所得金額階級別世帯数の相対度数分布 を引用すると上の通りです。このグラフにアベノミクスの弱点、すなわち、分配政策の欠如が見て取れます。平均所得は564.3万円である一方で、中央値は440万円にしか過ぎず、平均所得以下の割合は61.5%に達しています。しかも、100万円刻みの階級で見ると最頻値は300~400万円階級の13.4%であり、100~200万円階級と200~300万円階級もそれぞれ13%を超えていて、世帯当たり所得としては、さすがに200万年を下回ると生活が苦しい印象を受けます。従って、生活意識としては、大変苦しい23.3%、やや苦しい29.8%、普通41.8%、ややゆとりがある4.8%、大変ゆとりがある0.7%と、大きく「苦しい」の方に偏っています。

現在の岸田内閣は、当面の物価高に対して、住民税非課税世帯に対する5万円の給付とともに、まだ、マイクロに個別品目、ガソリンなどの価格を下げるために石油元売りなんかに対して補助金を継続する政策を取ろうとしているように報じられています。そろそろ、前者の分配政策に大きく舵を切るタイミングだと私は考えています。加えて、化石燃料に対する補助金は気候変動=地球温暖化を防止する努力をムダにしかねないリスクを持っている点は、十分考慮されるべきです。

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2022年9月11日 (日)

別目的のSNSアカウントはどれくらい使われているのか?

私は公務員のころは、守秘義務の関係もあって、それほど熱心にSNSは使っていませんでした。むしろ、読書感想文や経済指標解説のためにブログを今でも使っていたりします。もっとも、FacebookもTwitterも10年以上も前の2009年とか、2010年にアカウントは取得していたりしました。公務員を定年退職して大学の教員になって、学生諸君と非公式のLINEでのやり取りこそしませんが、別方面とはLINEでやり取りしますし、Facebookに読書感想文や経済指標解説をブログから引用したり、Twitterでは、いろいろとつぶやくよりも、むしろ情報収集をのために主として使ったりしています。
特に、私のブログの場合は読書案内代わりに見てくれている人がいることは十分自覚しており、FacebookやTwitterでも出来る限り読書感想文は発信しています。他方で、いわゆる「読書垢」なるアカウントで私の読書感想文を見てくれている人も多いと聞き及んでいます。私自身が、例えば、Facebookでは経済や読書の表アカウント、ポケモン・ウルトラマンや阪神タイガースといった趣味のアカウント、さらに、いろいろと雑多な方面の情報を得るための裏アカウント、と3つのアカウントを使い分けています。ついでながら、Twitterでもご同様に3つのアカウントを使い分けています。平均的には、私のように2~3のアカウントを使い分けている人が多かったりするのでしょうか。それとも、学生諸君のような若い年齢層の利用者はもっと持っていたりするんでしょうか?

私がフォローしているところでは、Twitterでローマ法王がPope Francisの英語アカウントとPapa Franciscoのスペイン語アカウントを使い分けています。私が理解できる外国語は英語とスペイン語だけですので、実はもっとあるのかもしれません。

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2022年9月10日 (土)

先週と今週の読書はいろいろ読んで計10冊!!!

先週と今週の2週間分の読書感想文は以下の通り計10冊です。
新刊書のほか、羽生飛鳥『蝶として死す』(東京創元社)と深木章子『極上の罠をあなたに』(KADOKAWA)も新幹線の車中で読んでいたりしますので、まあ、通常通りに週5-6冊、といったペースのような気がします。この2週間では、新書が多かった気がします。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7月23冊、8月に22冊、先週と今週の9月で10冊、従って、今年に入ってから161冊となりました。

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まず、長岡貞男『発明の経済学』(日本評論社)です。著者は、東京経済大学の研究者です。タイトル通りの内容であり、日米及び日米欧の独自データを基にした実証分析がなされています。いわゆる発明ですから、基礎研究よりは商品開発、ないし、本書でいうところの商業化に近い段階のイノベーションを対象としています。おそらく、本書でいうところの「サイエンス」となる基礎研究は公共財に近くて経済学の分析対象としては困難が伴うような気がします。本書で転回される発明については、私はKremerのO-ring理論くらいしか馴染みがなく、このように実証されるのかと勉強になりました。最終章のノードハウス教授の特許に関するトレードオフについては、やや疑問があります。というのは、このトレードオフとは、ライセンサーからライセンシーへの特許使用料が高ければ新たなイノベーションに対するインセンティブが高くなる一方で、特許の使用が限定的となり、逆は逆、というものです。マクロ経済学の失業率と賃金上昇率の間にあるフィリップス曲線のように経験的なトレードオフではなく、理論的には明らかにトレードオフがあるにもかかわらず、実証的に必ずしも必然ではない、というのは、それに続くもうひとつの結論、発明の貢献に合わせた権利画定によりトレードオフを小さくする、というのと、矛盾を来たしているような気がしないでもありません。最後に、繰り返しになりますが、基礎研究の公共財としての役目の研究にも注目したいと思います。

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次に、伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』(幻冬舎)です。著者は、日本でも有数の売れっ子のミステリ作家です。本書は、猪苗代湖で2015年から開催されている音楽フェス「オハラ✩ブレイク」のために、著者が毎年書き続けた短編「猪苗代湖の話」を基に編まれています。このフェス会場でしか手に入らなかった7年分の連作短編が書籍化されたわけです。ですから、各章は1年目から7年目と構成されていて、おまけで7年目から半年後があったりします。表題に関連して、エージェント・ハルトなどの登場人物もいて、スパイ気分が盛り上がるのですが、特に、私が印象的だった登場人物は、いつも謝ってばかりの門倉課長です。実際の社会、というか、組織の一員としての会社員として、スムーズにコトを運ぶのに重要なポイントがいくつか含まれているような気がします。

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次に、池田清彦『SDGsの大嘘』(宝島社新書)です。著者は、生物学の研究者であり、山梨大学や早稲田大学の研究者でした。本書では、誰も反対の出来ないSDGsについて逆から見た見解を展開していて、大きな疑問を呈しています。基本的には、私もSDGs推進派なのだろうと思いますし、SDGsの一部ながら地球環境や気候変動についてもそれなりの関心を持っていますので、こういった逆からの見方についても、十分な見識や常識を持って接しておきたいと従来から考えています。上の表紙画像にもあるように、本書では、脱炭素は欧州発の「ペテン」であり、環境ビジネスで利益を得ているグループについて、著者なりの見解を示しています。繰り返しになりますが、SDGsに限らず、正面切って反対できない世間一般の動向についても、盲目的に従うばかりではなく、それなりの批判的な見解に接しておくことは重要だと私は考えています。

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次に、坂本貴志『ほんとうの定年後』(講談社現代新書)です。著者は、リクルートワークス研究所の研究者であり、本書は定年後の生活、というか、雇用や労働の観点から定年後を分析しています。本日の朝日新聞に大きな宣伝が掲載されていました。統計的なマクロの分析とともに、マイクロな個別のケーススタディも豊富に収録されています。上の表紙画像にも見られる通り、定年前の「大きな仕事」ではなく、定年後は「小さな仕事」で低収入で十分OK、という考えが明らかにされています。私も十分に60歳オーバーですから、求人情報を見たりすると、定年後の求人はデスクワークではなく現場仕事となり、介護、警備、清掃といった職種が大きな比率を占めます。しかも低賃金です。しかし、60歳の定年と65歳の年金支給開始にややズレはあるものの、年収は300万円くらいで生活でき、年金を別にした収入は年100万円で十分、という主張にはそれなりに説得力があります。ですから、それくらいであれば、世間的に大きな貢献が求められる大プロジェクトに携わるのではなく、もっと限定的な「小さな仕事」で生活には十分であり、同時に、体力的なものも含めて、年齢的に何かしら衰えるわけですから、そういった「小さな仕事」でOKという考えも理解できます。私も役所を定年になり、さ来年には今の大学も定年になりますから、こういった定年後の仕事に関して理解が深まりつつあるような気がします。なお、本書は著者からご寄贈いただきました。感謝申し上げます。

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次に、勢古浩爾『定年後に見たい映画130本』(平凡社新書)です。著者は、私はよく知らないのですが、「洋書輸入会社に34年間勤務」と紹介されています。タイトル通りに、定年後に見たい映画のオススメ130本といくつかのオマケを収録しています。自由な時間が比較的多く取れる定年後の趣味には、手っ取り早く気軽に楽しめて、それなりの時間つぶしもできる映画とか、読書はオススメであると私も思います。ということで、面白く見られる作品から、いわゆる名画のたぐいまで、幅広く収録しています。ただ、こういった趣味の分野ですので、あくまで個人差はあることは承知の上で読み進む必要があると思います。邦画の収録がやや少ないという印象を持つ読者はかなりいそうな気がします。加えて、DVDで借りるという映画の見方になると思いますので、アベイラビリティにも注意する必要があります。

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次に、福田充『リスクコミュニケーション』(平凡社新書)です。著者は、日本大学の研究者です。少し前に、吉川肇子『リスクを考える』(ちくま新書)を読んで、このブログでも取り上げましたが、『リスクを考える』が心理学的なコミュニケーションであったのに対して、本書は危機管理上の手段として取り組んでいます。本書では、日本の危機管理の一環としてのリスクコミュニケーションは自然災害に由来する分野に偏りがあると指摘し、例えば、北朝鮮のミサイル発射とか、政治的あるいは地政学的なリスクに対応する必要性を強調しています。そして、これは多くの人が合意する点だと思いますが、リスクをゼロにすることを目指すのではなく、リスクが顕在化する確率を低下させ、同時に、顕在化した場合のダメージを小さくするリスク・マネージメントの必要を強調しています。巻末には対談を収録し、感染症パンデミック、自然災害、メディアに関してリスク・コミュニケーションのあり方を展開しています。

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次に、飯塚友道『認知症パンデミック』(ちくま新書)です。著者は、お医者さんであり、認知症や脳神経内科の専門医です。本書のタイトルは少し驚かされますが、著者の認識としては、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックによる「ステイホーム」によって認知症がパンデミックを引き起こしている、ということです。もちろん、行政からの行動制限だけではなく、高齢者による自発的な、というか、著者によれば過剰な反応による「自発的ロックダウン」もあって、認知症の発症を引き起こしている、という主張です。そうかもしれません。それに対して、生活習慣の改善、すなわち、いわゆる有酸素運動的な軽い運動と社会的な刺激を受ける環境整備を強調しています。後半は医学的な認知症や脳のメカニズムの解説で、私のような専門外に人間には少し難しいのですが、認知症に関する理解は深まったような気がします。

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次に、岩波明『増補改訂版 誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)です。著者は、発達障害専門外来を担当する昭和大学医学部の医師・研究者です。2019年尼出版された「増補改訂」前のバージョンから「増補改訂」されています。まあ、当たり前です。発達障害に関しては、私もシロートですので、本書で指摘するように「空気の読めない変わった人」と受け止めたり、あるいは、アスペルガー症候群、特に、サヴァン症候群のように、なにか傑出した能力がある可能性を考えたりと、ややバイアスのかかった見方を従来はしていたのかもしれないと反省し、どこまで理解が進むかは判らないものの、少し夏休みに勉強してみました。発達障害については、後天的に発症するのではなく、生まれつきのものであるとの理解以外は私は持ち合わせていませんでしたが、症状や診断基準などについて勉強になりました。本書でも紹介されている映画「レインマン」は私も見た記憶があり、ダスティン・ホフマンの役の自閉症と発達障害は別ものと思っていましたが、誤解は解消されつつあります。NHKドラマの「アストリッドとラファエル」の主人公の1人であるアストリッドが自閉スペトラム症(ASD)という設定なのですが、このドラマについても理解が深まった気がします。

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次に、ドナルド E. ウェストレイク『ギャンブラーが多すぎる』(新潮文庫)です。著者は、多作なことでも知られる米国のミステリ作家です。本書の英語の原題は、上の表紙画像にも見えるように、Somebody Owes Me Money であり、1970年ころの出版ではないかと思います。ということで、1960年代のニューヨークを舞台に、とても雰囲気のあるミステリです。タクシー運転手チェットは大のギャンブル好きで、客から入手した競馬の裏情報が的中します。その配当金を受け取りにノミ屋のトミーを訪ねるのですが、トミーは射殺されていて、第1発見者のチェットが警察から容疑者にされ、さらに、相対立する2つのギャング組織から追われることになります。その中で、チェットはトミーの妹と組んで真犯人を探すことになします。小説冒頭は競馬から始まりますが、ギャンブルについてはポーカーが中心に展開されます。こういった賭場を開いているのがギャング組織なわけです。二転三転する推理、手に汗握るサスペンスフルな脱出劇、男女間の時ならぬロマンス、その挙げ句の半身に関する謎解き、いろいろと楽しめるミステリです。

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最後に、桜井美奈『殺した夫が帰ってきました』(小学館文庫)です。著者は、小説家、ミステリ作家なんですが、私はよく知りません。本書の主人公である茉菜は都内のアパレル企業に勤務していて、取引先の中年男性から言い寄られ、帰宅した際にアパートに入ろうとされますが、茉菜の夫を名乗る男性に助けられます。しかし、この夫を茉菜は事故に見せかけて数年前に殺害したハズなので、極めて不審なスタートです。これがそのままタイトルにされているわけです。もちろん、殺したハズの夫について、妻であった茉菜が必ずしも的確に識別できなかったわけですから、妻であった主人公の茉菜の方にも読者は何らかの不信を感じざるをえないわけで、結局は、こういった謎が解明されるのですが、それほど奇抜なトリックではなく、ひとつひとつ順を追って明らかにされていくタイプのミステリです。

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2022年9月 9日 (金)

久々の東京の印象やいかに?

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2年半ぶりの東京でした。見れば判ると思いますが、上の写真は東京タワーです。
従来はどうしても、コロナ前の東京とコロナ後の関西を比べていたので、不正確になっていたのかもしれませんが、今回の印象は以下の通りです。
マスクについては、東京も関西も変わりありません。外を歩いている人は20%くらいがノーマスクで、電車や室内では10%以下のノーマスクという印象です。ただ、年齢層としては、明らかに私の住まいの周辺のほうが東京都心よりも高齢なので、年齢でコントロールすると関西の方がノーマスクの割合高いかもしれません。
物価も変わりありません。通常、公務員のお給料なんかを考えると、東京の方が地方圏よりも物価高なので調整手当などの上乗せがあるのですが、少なくともスーパーの食料品を見た限りでは大きな違いは感じられませんでした。
大きな違いを感じたのは自転車の歩道走行割合です。東京では、特にスポーツバイクは圧倒的に車道を走っていますが、関西ではロードバイクですら半分くらいは歩道走行のような気がします。いずれにせよ、東京でも関西でもママチャリまで含めると自転車の大部分は歩道走行なのですが、少なくとも、スポーツバイクに限っては、東京では車道の方が多く、関西ではスポーツバイクもママチャリも同じように歩道を走っている印象です。
今回の東京出張ではないのですが、知り合いと自転車走行についてお話をした際、謎解きがありました。すなわち、私の勤務する大学でも自転車置き場の登録の際には1億円以上の保険が義務付けられていて、東京での自転車保険義務化よりも京都府などの方が早くから義務化されていたわけですが、車道/歩道走行との関係で、東京よりも関西の方が自転車保険義務化の動きが早かったのはなぜか、に関する謎解きです。自転車が車道を走る場合、自動車が加害者となって自転車が被害を受けるケースが多いと考えられる一方で、自転車が歩道を走るとすれば、自転車は加害者になって歩行者に被害を及ぼす確率が高くなります。ですから、関西では、自転車の歩道走行の多さを追認する形で、自転車は歩道を走ってもいいので、その代償として、というか、自転車が歩道を走って歩行者にケガを負わるケースがもしあるといけないので、自転車保険が義務化されている一方で、東京では自転車、特にスピードの出そうなスポーツバイクは車道を走っているので、自転車保険義務化が遅れたのではないか、という見方です。経済学的には正しいように見えます。もちろん、政策立案者の意図までは判りかねます。

やっぱり、1年に1度くらいは東京の空気を吸いたい気がするのは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世の中で、ひょっとしたら、私だけかもしれません。

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2022年9月 8日 (木)

上方改定された4-6月期GDP統計速報2次QEはホントに高成長か?

本日、内閣府から4~6月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.9%、年率では+3.5%と、先月公表の1次QEの前期比+0.5%、前期比年率+2.2%から上方改定されています。また、実質GDPの実額は544兆円に達し、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期の541兆円を超えています。加えて、今年2022年1~3月期の成長率も+0.1%に上方改定されましたので、3四半期連続のプラス成長となりました。ただし、景気後退期に入る前の実質GDP実額のピークは2018年4~6月期の557兆円でしたので、このピークにはまだ到達していません。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率3.5%増に上方修正 4-6月、設備投資伸び反映
内閣府が8日発表した2022年4~6月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.9%増、年率3.5%増だった。8月に公表した速報値(前期比0.5%増、年率2.2%増)から上方修正した。企業の設備投資が上振れしたことなどが寄与した。個人消費も速報値(前期比1.1%増)を上方修正し、1.2%増だった。
QUICKが事前にまとめた民間エコノミスト予測の中心値(年率2.9%増)を上回った。
改定値は1日に財務省が発表した4~6月期の法人企業統計を反映した。設備投資は前期比2.0%増で、速報値(1.4%増)から上方修正した。企業がソフトウエアなどへの投資意欲を高めている。
民間在庫変動はGDP全体への押し下げ効果を、速報値のマイナス0.4ポイントからマイナス0.3ポイントに見直した。自動車など輸送機械を含む仕掛かり品の在庫でマイナス幅が縮んだ。公共投資は前期比1.0%増で、速報値(0.9%増)から上方修正した。
GDPの半分以上を占める個人消費は、自動車など耐久財のプラス幅が0.9%と、速報値(0.3%増)から拡大した。サービス消費は速報値(1.4%増)から横ばいだった。
海外からの所得や交易損失などを考慮した実質国民総所得(GNI)は0.2%増となった。資源高で交易損失は拡大したが、GDPが大きく上方修正されたことで、0.1%減だった速報値からプラスに転じた。
4~6月期の実質GDPは年換算の実額で544兆円となり、速報値(542.1兆円)から微増した。速報値時点での、新型コロナウイルス禍前の19年10~12月期(540.8兆円)超えを維持した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2021/4-62021/7-92021/10-122022/1-32022/4-6
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.4▲0.4+1.0+0.1+0.5+0.9
民間消費+0.4▲0.9+2.4+0.3+1.1+1.2
民間住宅+1.6▲1.8▲1.3▲1.4▲1.9▲1.9
民間設備+1.0▲2.0+0.2▲0.1+1.4+2.0
民間在庫 *(+0.1)(+0.2)(▲0.1)(+0.6)(▲0.4)(▲0.3)
公的需要+0.2+0.1▲1.0▲0.3+0.6+0.7
内需寄与度 *(+0.6)(▲0.6)(+0.9)(+0.6)(+0.5)(+0.8)
外需寄与度 *(▲0.2)(+0.2)(+0.0)(▲0.5)(+0.0)(+0.1)
輸出+3.0+0.0+0.6+0.9+0.9+0.9
輸入+4.4▲1.1+0.4+3.5+0.7+0.6
国内総所得 (GDI)▲0.2▲1.2+0.5▲0.3▲0.3▲0.0
国民総所得 (GNI)▲0.2▲1.2+0.7+0.0▲0.1+0.2
名目GDP▲0.3▲0.4+0.4+0.4+0.3+0.6
雇用者報酬+0.4▲0.5+0.3▲0.1▲0.9▲0.9
GDPデフレータ▲1.1▲1.1▲1.3▲0.5▲0.4▲0.3
内需デフレータ+0.3+0.6+1.1+1.8+2.6+2.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された今年2022年4~6月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤の消費や水色の設備投資がプラス寄与している一方で、灰色の在庫のマイナス寄与が目立っています。成長率にはマイナス寄与ながら、売残り在庫の解消が進んでいるとすれば、望ましい姿といえます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+2.9%でしたので、やや上振れた印象ながら、レンジの上限は前期比年率で+4.0%の成長率でしたので、大きなサプライズはありませんでした。先進国でインフレにより消費がダメージを受けている一方で、我が国ではデフレから完全に脱却できていないのが幸いした、というか、何というか、物価上昇が抑えられているのでプラス成長を記録した面がある、と考えるべきです。先進国では、例えば、米国では商務省経済分析局の統計によれば、前期比年率の実質GDP成長率で見て、2022年1~3月期▲1.6%、4~6月期▲0.6%と2四半期連続のマイナス成長で、テクニカルな景気後退に陥っています。それに比べて、我が国では3四半期連続のプラス成長を記録しているわけです。
ただし、3四半期連続でプラス成長を記録したとはいえ、資源高と円安による交易条件悪化=所得流出は継続しています。ですから、GDPと国内総所得(GDI)や国民総所得(GNI)を見ると、GDPがそれなりに成長している一方で、GDIやGNIはほぼ横ばいが続いています。すなわち、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まった2020年1~3月期、さらに、緊急事態宣言が出された2020年4~6月期の大きな経済の落ち込みの後、2020年7~9月期と本日公表された2022年4~6月期の実質でのGDPとGDIとGNIを見ると、GDPは2020年7~9月期の527.7兆円から直近2022年4~6月期には544.0兆円まで2年近くかけて+3.1%回復しましたが、GDIは同じ時期に531.3兆円から528.5兆円に▲0.5%減少していますし、GNIも549.5兆円から552.9兆円にわずかに+0.6%しか伸びていません。おそらく、国民の景気実感はGDPよりもGDIやGNIに近いと私は考えていますので、それほど経済が回復していない、という感覚につながっている可能性が十分あります。まあ、平たく表現すれば、GDPの実額がコロナ前を回復したとはいえ、手放しでは喜べない、あるいは、それほどめでたいわけでもない、とうことです。繰り返しになりますが、先進各国ほどではないとしても足元での物価上昇=インフレが進行していることに加えて、資源高と円安による交易条件の悪化、所得の流出により、国民の実感としては、実質GDP成長率ほどには景気の回復が感じられず、むしろ、景気が停滞、ないし、悪化していると受け止められている可能性があり、経済政策の策定においては十分考慮すべきです。

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GDP統計速報2次QEに加えて、本日、内閣府から8月の景気ウォッチャーが、また、財務省から7月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.7ポイント上昇の45.5、先行き判断DIも6.6ポイント上昇の49.4と、いずれも改善しています。しかし、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しに足踏みがみられる」で据え置いています。また、経常収支は、季節調整していない原系列で+2290億円の黒字を計上しています。資源価格の高騰などにより、貿易収支が▲1兆2122億円の赤字となったことから、経常黒字は大きく縮小しています。グラフだけ、いつもの通り、上に示しておきます。

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2022年9月 7日 (水)

ようやく100を超えた7月の景気動向指数CI一致指数をどう見るか?

本日、内閣府から7月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.7ポイント下降の99.6を示した一方で、CI一致指数は+1.4ポイント上昇の100.6を記録しています。まず、やや長くなりますが、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

7月景気動向指数、2カ月連続上昇 消費増税前の水準回復
内閣府が7日発表した7月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比1.4ポイント高い100.6だった。改善は2カ月連続。19年9月以来、2年10カ月ぶりの水準となり、消費増税前の水準を回復した。中国・上海市の都市封鎖(ロックダウン)が6月に解除され、自動車関連などで回復が続いた。
内閣府は指数をもとに機械的に作成する景気の基調判断を「改善を示している」のまま据え置いた。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目をみると7項目が上昇、1項目が下落要因となった。自動車を含む耐久消費財や、ボイラー、ショベルなど生産用機械を含む投資財の出荷がプラスに寄与した。電気機械が落ち込んだ卸売業の販売はマイナスに響いた。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は前月比0.7ポイント低い99.6だった。悪化は3カ月連続となる。新型コロナウイルスの感染拡大や、原材料価格の高騰が下振れリスクになる可能性がある。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、7月統計のCI一致指数については、まったく象徴的な意味合いしかありませんが、2019年9月統計以来の100超えとなっています。もっとも、景気の山だった2018年10月統計は105.3ですから、まだまだこの水準には達しません。景気動向指数CI一致指数は景気のボリューム感も表現しているハズですので、こういった比較は十分意味があります。ただ、100を超えるかどうかとういう絶対水準で評価するの意味は特にありません。基準年との比較だけのお話です。
CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与が大きい順に、耐久消費財出荷指数+0.61ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)+0.45ポイント、有効求人倍率(除学卒)+0.31ポイント、などとなっています。他方、マイナス寄与は商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.24ポイントと労働投入量指数(調査産業計)▲0.00ポイントだけとなっています。CI一致指数の3か月後方移動平均、7か月後方移動平均はともにプラスであり、引用した記事にもある通り、基調判断は「改善」で据え置かれています。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については楽観的に私は見ています。例えば、CI先行指数が前月から▲0.7ポイント下降しているのは、消費者態度指数の寄与度▲0.74ポイントが大きいのですが、国内要因としてはハードデータからは大きな懸念材料は少ないと私は感じています。もっとも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は何とも見通せませんし、円安も1ドル140円を突破してどこまで進むのかは不透明です。加えて、海外要因についても、ウクライナ危機は長引きそうだと報じられていますし、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。ですから、全体としては、リスクは下方に厚い可能性を否定するのは難しい気がします。

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2022年9月 1日 (木)

やっぱり今年も大都会に行く!!!

昨年8月にも大都会に行きましたが、やっぱり今年も今日から来週にかけて、大都会に出張します。昨年はヒミツのミッションでしたが、今年は研究に関しての出張です。ですので、勤務した経験のある役所とか、大学の研究者、シンクタンクのエコノミストなどにお会いする予定です。うまく日程が取れずに土日の週末が挟まってしまったので、適当に出歩くかもしれません。
スマートフォンは持って行きますが、PCは家に置いておきますので、ブログは当分お休みです。ひょっとしたら、気が乗ってテキストだけのエントリーをポストするかもしれませんが、たぶん、可能性は低いと思います。大都会から帰ってから、写真を含めてポストする予定です。

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