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2022年9月16日 (金)

我が国の戦略物資の輸入は特定国に依存しているのか?

2022年度「通商白書」の解説ということで、経済産業研究所のサイトで「わが国の輸入はどの程度特定国に依存しているのか」というタイトルにより、「通商白書2022」の主として第Ⅱ部第2章第2節の解説がなされています。下のグラフは、「通商白書2022」p.283にある第Ⅱ-1-2-26図 輸入相手国・地域 そのままなのですが、経済産業研究所のサイトにある 図1: 重要品目等の輸入相手国・地域 を引用しています。

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私は、こういった地政学的な観点はトンと専門外な能天気なエコノミストなので、よく理解できない点がいくつかあります。第1に、上のグラフでは半導体関連品目に着目していて、「経済安全保障と密接に関連した戦略物資であり、幅広い産業で欠かせない」点を理由にあげています。しかし、エネルギーはどうなのでしょうか。昨日このブログで取り上げた8月の貿易統計では、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額の増加に従って貿易赤字が膨らんでいる実態がありました。エネルギーは「戦略物資」とは呼ばないのかもしれませんが、カロリーベースで40%を下回っている食料自給率とともに、考えるべき点はないのでしょうか。第2に、「通商白書2022」ではサプライチェーンの脆弱性の中で取り上げられていて、生産拠点の集中の問題と認識されているようです。ただし、経済学は伝統的に比較優位を重視し、素朴な比較優位説では生産の特化が生じます。例えば、リカードが示した英国とポルトガルの綿織物とぶどう酒の例では英国が綿織物に特化し、ポルトガルがぶどう酒に特化する可能性が示唆されています。調達先の多様化を図ることは、場合によっては、非効率を招きかねません。第3に、生産拠点の集中は量的な観点なのですが、「通商白書2022」p.285にある第Ⅱ-1-2-28図 主要な製造業のグローバルサプライチェーンのリスクポジション では、質的な脆弱性の観点として「中国の産業を経由する頻度」がリスクとして示されています。判らないでもないのですが、米国のような同盟国と何らかの価値観の相違を有する国とをどのように識別するのかは、私の理解は及びません。こういった3点以外にも、細かな点はいくつか疑問としてあるのですが、経済安全保障という名で経済活動に対する制約がどこまで許容されるのかは、その時々の国民の判断にもよりますし、私も少し勉強したいと思います。

その昔のトーマス・フリードマン『レクサスとオリーブの木』で人口に膾炙したフレーズとして「マクドナルドがチェーンを展開している国同士は戦争をしない」というのがありました。しかし、現実には、「戦争を始めた国からマクドナルドは撤退する」というのがロシアにおいて明らかになってしまいました。地政学だけではなく、地経学も応用分野を広げつつあるように見受けられます。可能な範囲で勉強を進めたく思います。

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