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2022年9月30日 (金)

コロナ前水準を回復した鉱工業生産指数(IIP)ほか商業販売統計と雇用統計をどう見るか?

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.7%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+4.1%増の12兆5210億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.4%増を記録しています。さらに、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.5%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.03ポイント上回って1.32倍に達しています。まず、とても長くなってしまいますが、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

8月の鉱工業生産2.7%上昇 コロナ前水準に回復
経済産業省が30日発表した8月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は99.5となり、前月比2.7%上がった。3カ月連続で改善し、新型コロナウイルス禍前の20年1月(99.1)を上回った。コロナ感染拡大を受けた中国・上海市でのロックダウン(都市封鎖)が6月に解除されて以降、生産の回復が続く。
経産省は基調判断を「生産は一進一退」から「生産は緩やかな持ち直しの動き」に引き上げた。QUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値は前月比0.2%上昇だった。
全15業種のうち10業種が上昇した。生産用機械工業は半導体製造装置などが伸びて6.1%上がった。鉄鋼・非鉄金属工業は3.6%、無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は2.7%それぞれ伸びた。上海のロックダウン解除を受け、部品などの供給制約が緩和された影響が大きい。
低下は5業種で、電子部品・デバイス工業が6.3%下がった。モス型半導体集積回路(メモリ)などの生産が鈍った。自動車工業は1.1%、無機・有機化学工業は1.6%のそれぞれマイナスだった。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は9月が前月比2.9%、10月は3.2%の上昇を見込む。ただ、エネルギー価格高騰といったコスト増によるインフレの進行や、米欧の利上げに伴う景気減速の懸念もあって先行きは不透明だ。経産省の担当者は「企業の生産マインドは弱気が続いている。海外景気の下振れの影響などを注視する必要がある」と説明した。
8月の小売販売額4.1%増 行動制限なく百貨店など好調
経済産業省が30日発表した8月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比4.1%増の12兆5210億円だった。6カ月連続で前年同月を上回った。3年ぶりに新型コロナウイルス禍での行動制限がない夏休みを迎え、外出機会の増加で百貨店などが好調だった。
百貨店は前年同月比24.7%増の3869億円だった。夏・秋物の衣料品に加え、高額商品も堅調だった。コンビニエンスストアは5.2%増の1兆720億円。スーパーは0.5%減の1兆2908億円だった。
家電大型専門店は1.7%減の3635億円だった。6月下旬に気温が急上昇した影響で、エアコンなどの季節家電の需要は8月に一服したとみられる。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると1.4%増加した。基調判断は「緩やかに持ち直している」で据え置いた。
8月の求人倍率1.32倍、8カ月連続上昇 失業率は2.5%
厚生労働省が30日発表した8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.32倍で、前月に比べて0.03ポイント上昇した。8カ月連続で前月を上回った。持ち直しの傾向が続くものの、新型コロナウイルス流行前の水準には届いていない。
総務省が同日発表した8月の完全失業率は2.5%で、前月比0.1ポイント低下した。4カ月ぶりに改善した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。コロナ禍で2020年9月に1.04倍まで落ち込み、その後は上昇傾向にある。感染拡大前の20年1月の1.49倍とは開きがある。
景気の先行指標とされる8月の新規求人数は83万8699人で、前年同月比15.1%増えた。3年ぶりの行動制限がない夏休みへの期待から宿泊・飲食サービスが51.1%増加した。生活関連サービス・娯楽も28.9%増だった。新規求人倍率(季節調整値)は2.32倍で、前月を0.08ポイント下回った。
8月の就業者数は6751万人と前年同月から12万人増えた。2カ月ぶりに増加した。

とてつもなく長くなりましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は前月と比べてわずかに増産という予想でしたが、実績の+2.7%増は予想レンジの上限である+2.0%増を超えて、少しサプライズだったかもしれません。ただし、引用した記事にもある通り、増産の主因は中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因が大きいとされています。経済産業省の解説サイトでは「部材供給不足の影響の緩和が継続」と明記しています。特に、6月からの上海のロックダウン解除に起因するペントアップであると考えるべきであり、どこまでサステイナブルな回復かは不透明です。しかしながら、それはそれなりに大きな増産でしたので、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「一進一退」から「緩やかな持ち直しの動き」に引き上げています。また、先行きに関しては、製造工業生産予測指数によれば9月も+2.9%の増産、10月も+3.2%の増産が、それぞれ、見込まれているのですが、上方バイアスを除去すると補正値では9月は▲1.2%の減産との試算を経済産業省で出しています。足元の9月は減産の可能性があるとはいえ、6~8月統計では3か月連続で増産に転じたわけですから、基調判断は上方改定しています。8月統計から産業別に生産の増加への寄与度を見ると見ると、プラス寄与では、生産用機械工業+0.59%、鉄鋼・非鉄金属工業+0.20%、などが上げられ、逆に、マイナス寄与では、電子部品・デバイス工業▲0.41%、自動車工業▲0.18%、などとなっています。先行きについては、ペントアップ生産のサステイナビリティとともに、加えて、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、ウクライナ危機も相まって外需の動向が懸念されます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の足元での感染拡大は落ち着きつつあるように見受けられますが、国内要因はともかく、生産に強い影響を及ぼす海外要因を考えると、生産の先行きは不透明といわざるを得ません。


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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。ということで、上海のロックダウン解除などを受けて生産が回復を示している一方で、小売販売額は新型コロナウィルス感染症(COVI D-19)の足元での新規感染が落ち着きつつある中で、8月の夏休みには行動制限もなく、外出する機会に恵まれて小売業販売額は堅調に推移しました。上のグラフを見ても理解できる通り、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びを高めてきています。そして、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で判断している経済産業省のリポートでは、8月までのトレンドで、この3か月後方移動平均が0.0%の横ばいで、基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」で据え置いています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。ですから、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響、さらに、足元での物価上昇の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、後者のインフレの影響については、7月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.0%に達しており、名目の小売業販売額の+4.1%増は物価上昇を上回っているとはいえ、単純にCPIでデフレートするのは適当ではありませんが、それでも、実質の小売業販売額はやや過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からわずかに改善して2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、前月から改善の1.30倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想より改善しています。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ただし、休業者について見ると、1月から3月にかけて、季節調整していない原系列の休業者数の前年同月差が、3か月連続で増加した一方で、逆に、4~6月には3か月連続で減少した後、直近で利用可能な7~8月統計では再び増加しています。産業別では特に医療・福祉で休業者が増加しており、詳細は把握しきれていませんが、ひとつの懸念材料である可能性は否定できません。また、一致指標の有効求人倍率や先行指標の新規求人数・新規求人倍率が改善を示している一方で、5~7月の3か月連続で2.6%で横ばいを記録していた失業率が8月統計では▲0.1%ポイントの低下とはいえ改善を示したことは、遅行指標の特徴なのかもしれない、と私は考えています。その意味からも、改善ペースは緩やかながらも、雇用は底堅いと評価すべきと受け止めています。

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最後に、本日、内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲1.7ポイント低下し30.8を記録しています。指数を構成する4指標すべてが低下を示しています。すなわち、「耐久消費財の買い時判断」が▲2.5ポイント低下し23.2、「暮らし向き」が▲2.1ポイント低下し29.0、「雇用環境」が▲1.7ポイント低下し35.4、「収入の増え方」が▲0.6ポイント低下し35.4となっています。最初の2項目の「耐久消費財の買い時判断」と「暮らし向き」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。ない、統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断を「弱含んでいる」で据え置いています。私は、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と考えていたのですが、さすがに、この9月統計では消費者マインドは物価上昇と連動性を高めつつある、と受け止めています。ということで、消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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