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2022年10月31日 (月)

4か月ぶりに減産に転じた鉱工業生産指数(IIP)と小売業販売額の増加続く商業販売統計と低迷続く消費者態度指数をどう見るか?

本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。いずれも9月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.6%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+4.5%増の12兆5910億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.1%増を記録しています。まず、とても長くなってしまいますが、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

7-9月鉱工業生産5.9%上昇、上海封鎖解除で 9月は低下
経済産業省が31日発表した7~9月期の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は98.6と、前期比5.9%上昇した。中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)が6月に解除されて、自動車などが伸びた。新型コロナウイルス禍前の2020年1~3月期(98.0)の水準上回った。米利上げによる外需の失速懸念などで先行きは不透明だ。
9月単月の指数は98.6で、前月から1.6%下がった。低下は4カ月ぶりだった。経産省は基調判断を「生産は緩やかな持ち直しの動き」のまま据え置いた。
9月は全15業種のうち11業種が低下した。自動車工業は12.4%のマイナスだった。6月以降、部品などの供給制約の緩和で回復基調が続いた反動が出た。無機・有機化学工業は6.3%、生産用機械工業は1.8%のマイナスだった。
上昇は4業種だった。最も伸びが大きかったのは無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業で6.8%のプラスだった。行動制限の緩和で外出する人が増え、化粧品などが増えた。鉄鋼・非鉄金属工業は1.1%、電子部品・デバイス工業は0.4%伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は10月に0.4%の低下を見込む。生産用機械工業や化学工業などが落ち込む。11月の生産予測指数は全体で0.8%の上昇になる見通しだ。
経産省の担当者は今後の見通しについて「(中国での)ロックダウン解消に伴う部材の供給制約の緩和のプラス効果は続くものの、米国の金利上昇に伴う需要減少も予測される」と説明した。
小売販売額4.5%増 9月、7カ月連続プラス
経済産業省が31日発表した9月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比4.5%増の12兆5910億円だった。7カ月連続で前年同月を上回った。販売額の季節調整済み指数は前月比1.1%の上昇で、3カ月連続のプラス。経産省は基調判断を「緩やかに持ち直している」から「持ち直している」に引き上げた。
業態別でみると、家電大型専門店は前年同月比7.1%増の3801億円だった。増加は3カ月ぶり。ゲーム機の供給が安定してきたことに加え、スマートフォンの新製品も好調だった。パソコン本体の値上がりも影響したようだ。
コンビニエンスストアは 2.3%増の1兆206億円だった。レジャー需要が高まり、おにぎりやファーストフードがけん引した。百貨店は19.1%増の4217億円、スーパーは0.5%増の1兆2088億円、ホームセンターは3.1%減の2571億円だった。
業種別では自動車小売業が10.3%増と13カ月ぶりに上向いた。新型コロナウイルス禍による供給制約が解消されつつあるとみられる。

長くなりましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲1.0%の減産という予想でしたが、実績の▲1.6%減はやや下振れた印象ですが、予想レンジの範囲内という意味では「こんなもん」という受け止めが多いような気がします。ただし、引用した記事にもある通り、9月単月では減産ながら、7~9月期の四半期で見れば大幅な増産でした。もちろん、この増産の主因は中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因が大きいとされています。9月の減産はこの反動という面もあります。さらに、製造工業生産予測指数を見ると、足元の10月▲0.4%減、11月+0.8%増と、やや停滞気味の動きが予想されていて、7~9月の上海ロックダウン明けの反動が長引く予想となっています。経済産業省の解説サイトでは「これまでの上昇の反動」と明記しています。他方で、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」で据え置いています。反動として特に大きな影響が9月統計に現れたのは自動車工業であり、前月比で▲12.4%の減産、寄与度も▲1.85%と大きくなっています。先行きについては、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、ウクライナ危機も相まって外需の動向が懸念されます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大も冬を迎えれば第8波を予想する向きもあり、生産の先行きは不透明といわざるを得ません。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。ということで、上海のロックダウン解除などを受けて7~9月期の生産が回復を示している一方で、小売販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて小売業販売額は堅調に推移しました。上のグラフを見ても明らかな通り、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びを高めてきています。そして、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で判断している経済産業省のリポートでは、9月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+1.1%増となり、基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」から半ノッチ引き上げて「持ち直している」と上方修正しています。産業別では、特に、自動車小売業が前年同月比で+10.3%増となっています。7~9月期に供給制約を脱して生産が回復したことが大きな要因であろうと私は受け止めています。ただし、他方で、燃料小売業も+7.1%増を記録していて、コチラは販売好調というよりは価格の上昇に、いくぶんなりとも、起因しているのではないか、と考えざるを得ません。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、燃料小売業の販売増に見られるように、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、9月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.0%に達しており、名目の小売業販売額の+4.5%増は物価上昇を上回っているとはいえ、単純にCPIでデフレートするのは適当ではありませんが、それでも、実質の小売業販売額はやや過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

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最後に、本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲0.9ポイント低下し29.9を記録しています。指数を構成する4指標すべてが低下を示しています。すなわち、「暮らし向き」が▲1.7ポイント低下し27.3、「雇用環境」が▲1.1ポイント低下し34.3、「耐久消費財の買い時判断」が▲0.7ポイント低下し22.5、「収入の増え方」が▲0.1ポイント低下し35.3となっています。最初の「暮らし向き」と「耐久消費財の買い時判断」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。ない、統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断を「弱含んでいる」から「弱い動きが見られる」と下方修正しています。私は、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と分析していたのですが、さすがに、この9~10月統計から消費者マインドは物価上昇と一定の連動性を高めつつある、と考え始めています。ということで、消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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2022年10月30日 (日)

Happy Halloween!!!

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Happy Halloween!!!
¡Feliz Día de Brujas!

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2022年10月29日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済学ではなく社会学的に消費を分析した学術書、ダニエル・ミラー『消費はなにを変えるのか』(法政大学出版局)をはじめとして計6冊です。水越康介『応援消費』(岩波新書)は消費の関連で読み、岡崎守恭『大名左遷』(文春新書)と浅田次郎『大名倒産』上下(文春文庫)は、廣岡家文書をひも解いた先週の読書『豪商の金融史』に触発されて読んでみました。リサ・ガードナー『噤みの家』(小学館文庫)は海外ミステリです。
今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~9月の夏休みに66冊、10月に入って先週までで19冊、今週が6冊ですので、今年に入ってから197冊となりました。200冊に達するのにカウントダウンに入った気がします。カウントダウンに入ったから、というわけでもないのですが、少し経済書をお休みして、ミステリを中心とした小説が図書館の予約で届き始めています。少しコチラの方の読書も進めたいと思います。

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まず、ダニエル・ミラー『消費はなにを変えるのか』(法政大学出版局)です。著者は、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の人類学の研究者です。英語の原題は Consumption and Its Consequences であり、2012年の出版です。出版社から受ける印象ほどには学術書ではありません。ビジネスパーソンにも十分理解できると私は考えています。ということで、繰り返しになりますが、著者は人類学者であって、エコノミスト=経済学者ではありません。ですから、消費について考えるにしても、経済学的な観点よりも、人類学的な観点から分析しているのはいうまでもありません。経済学的には、おそらく、マイクロな経済学では個人ないし家計が予算制約下で効用を最大化するように市場において消費財を選択する、というだけで終わりかもしれません。しかし、実際に、一般的に「消費」という用語を用いる際には、市場での選択ではなく、辞書的な意味で、「費やしてなくすること。つかいつくすこと。」といった使い方をするのではないでしょうか。本書では、まさにそういった消費を考えています。実は、経済学でも基本は同じです。家計は効用を最大化し、企業は利潤を最大化するという目的で行動しています。他方で、政府の経済運営の目的はマクロ経済の安定化だったりするわけですが、マイクロな経済においては、将来に渡る消費の現在割引価値を最大化することがひとつの目的とされています。迂回生産のための投資は、あくまで、その後の消費の最大化のためです。ただ、この消費の中身を経済学がややおろそかに扱ってきたという批判は、まあ、あり得るような気がします。私が読んだ限りでは、最初と最後のクリス、グレース、マイクの3人による会話、特に、最後の気候変動=地球環境問題と消費に関する議論については、ほとんど理解できなかったのですが、フィールドワークから得られたトリニダード島の消費社会、著者のホームグラウンドであるロンドンでのショッピング、ブルージーンズが消費者に好んで買われる理由の考察など、とても示唆に富んでいます。購入した後の使用についての文化的、あるいは、人類学的な分析、もちろん、購入する前の検討段階での経済学的ならざる分析などなど、加えて、購入されたものがマイクロに使われるだけではなく、マクロ社会の中でいかに文化を作り出してゆくものなのか、私のような底の浅いエコノミストにはとても勉強になりました。経済学では、あくまで市場における交換、あるいは、取引を考えるのですが、その背景にある何らかの財に対する欲求とか、そして、その購入された財がどのように使われるのか、そして、その使われ方の理由は何なのか、興味は尽きません。ただ、2点だけ指摘しておくと、経済学的な観点からは消費財は耐久性に応じて3分類されます。すなわち、食料などのすぐに使い尽くす非耐久財、衣類など一定期間はもつ半耐久財、かなり長期にわたる効用をもたらす耐久財の3累計です。この分類は人類学的に有効な分類なのかどうか、知りたかった気がします。加えて、同じことのように見えますが、財だけではなくサービスについての消費をどうみるべきなのか、本書ではスコープ外に置いているような気がします。実は、この著者の前作は『モノ』 Stuff であり、サービスがどこまで考慮されているかが不安な気がします。すなわち、現代社会の消費であれば、モノを買うよりもサービスに費やす比率の方が高いケースも少なくなく、また、古典的なサービスである理美容とかはファッションとの関係で文化的行動であると私は考えます。でも、こういった点を別にしても、消費に対するとても有益な読書でした。

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次に、水越康介『応援消費』(岩波新書)です。著者は、東京都立大学の研究者であり、専門はマーケティング論です。ですから、本書では消費についてマーケティングの観点から分析していますが、その消費の中で、応援消費に付いて焦点を当てています。ということで、応援消費は本書によれば2011年の東日本大震災の後に東北地方に対する応援目的で始まった、と指摘しています。逆に、1995年の阪神・淡路大震災においては応援消費は生まれなかった、ということです。この応援消費の対象は、震災の被災地から始まって、好きなブランドはもちろん、推しのアイドルなどに及びます。『推し、燃ゆ』の世界かもしれません。また、本書のスコープ外ながら、私が時折チェックしているニッセイ基礎研究所のリポートでも、「おひさしぶり消費」とか、「はじめまして消費」といった耳慣れない消費が現れているようです。このリポートでは「推し活とステイホームは相性が良かった」と分析していたりします。こういった新しい、かどうかは別にして、消費の中でも、本書では応援消費が個人の購買力の向かう先のひとつとして注目しているわけです。そして、本書では、まあ、データがないので仕方ないとは思いますが、実際の市場における消費の中の応援消費ではなく、地方自治体に対する「ふるさと納税」を主として分析しています。ちょっと違う気がするのは、私だけではないと思います。でも、著者の専門分野らしく、マーケティングをいかに応援消費に結びつけるか、特に、欧米的な寄付文化が十分に育っていない日本社会における応援消費を、倫理的な意味でも、マーケティング手法を用いつつ広げることは決して理由のないことではない、と私も思います。特に、推しのアイドルなどではなく社会的責任を果たそうという消費は何らかの推進力が必要な場合がありそうな気がします。いわゆるボイコットの反対概念である「バイコット」も同じです。日本におけるバイコットについてネット調査をしている分析も本書に収録されています。最後の方で、マーケティングの統治性を持ち出して、英米的な新自由主義=ネオリベとドイツ的なオルド民主主義を対比させているのは、私の理解が及びませんが、決してマーケティングの対象にはならないものの、新自由主義=ネオリベとオルド民主主義を対比させるのではなく、消費に対比するに投資を考えるのも理解がはかどるような気がします。すなわち、投資の分野では、すでに明らなように、ESG投資という概念がかなりの程度に確立していて、すかも、ESG投資はパフォーマンスがいいという実証分析結果もいくつか出始めています。応援消費の場合は、まあ、印象だけかもしれませんが、やや価格競争力の面からは劣位にある可能性ある商品を「応援」の目的で効用が追加されて消費につながる、という結果が生まれるわけで、したがって、何らかのマーケティングによるプッシュが必要となる一方で、投資については、純粋に経済合理的にリターンがいいのでESG投資を選択する、という経済行動が現れているわけです。応援消費がESG投資のように、むしろコスパがいい、という時代が近づいているのかもしれません。

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次に、岡崎守恭『大名左遷』(文春新書)です。著者は、日経新聞のジャーナリストなのですが、歴史エッセイストとしても江戸期を中心にいくつかの出版物を上梓しています。本書では、まさに、タイトル通りに、織豊政権期から江戸期における大名の改易=取潰しを含めた転封について焦点を当てています。ただ、転封ですから、必ずしも「左遷」ばかりではなく、当然に、「栄転」も含まれています。もちろん、大名ですから上は老中や大老までのそれなりのお役目もあって、ソチラの左遷や栄転を取り上げているのではなく、あくまで所領地の交代や変遷といった改易・転封を取り上げています。8章省構成であり、最初の章の棚倉に着目した章だけが所領地の地理的な位置を軸にしていり、2章以降は大名の家を軸にしています。第2章以下では、高取藩植村家、津山藩森家、福知山藩稲葉家、松本藩水野家、松平大和守家、堀江藩大沢家、そして、最後は明治維新とともに将軍家から一大名に大きく格下げされた静岡藩徳川家、となります。水野家と田沼家の失脚からの失地回復のストーリーなどは、まあ、サラリーマン社会に近いものがあるかもしれませんが、やっぱり、私が定年までお勤めしたサラリーマン社会とは大きく異なります。当然です。一代の間に5回も転封されて映画の「引っ越し大名!」の元ネタにもなった実例も面白かったです。タイトルからして、大名や大名家を中心にお話が進みますが、お引越しですから、お殿様が直接に引越し準備や作業をしたわけでもないと思います。家老以下の家臣の苦労もしのばれます。

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次に、リサ・ガードナー『噤みの家』(小学館文庫)です。著者は、米国のミステリ作家です。英語の原題は Never Tell であり、2019年の出版です。本書は、ボストン市警のD.D.ウォレン部長刑事が主役となる『棺の女』と『完璧な家族』のシリーズの続編であり、私の知る限り、邦訳は3冊なのですが、米国内では1ダース近く出版されていると聞き及んでいます。なお、本書は、ミステリというよりはサスペンス小説と米国内で評価されているようです。小説の舞台はボストンで、銃声に気づいた地域住民からの通報により警察が駆けつけると、部屋には頭を撃ち抜かれた男性の遺体と大量の弾丸を受けたラップトップ、そして銃を手にした被害者男性の妻イーヴィ、という状況でした。拳銃から発射された15発の弾丸のうち、3発が男性に、12発がラップトップに打ち込まれています。当然、D.D.ウォレン部長刑事が捜査に当たります。銃を手にしていた女性イーヴィは32歳なのですが、16年前にも銃の暴発により自分の父親を撃って死なせています。その際は事故ということで罪には問われていません。その16年前と同じ刑事弁護士が今回の事件でも弁護に当たります。父親は数学の天才といわれてハーバード大学教授を務めていて、弁護にあたった刑事弁護士は古くからのイーヴィの両親の友人でした。捜査が進むと、射殺された男性の偽造された身分証明書が数種類見つかります。さらに、D.D.ウォレン部長刑事に対する秘密情報提供者のフローラからの情報が寄せられたりします。フローラは6年前に472日間にわたる誘拐・監禁から生還者した女性なのですが、その犯人に連れられて行ったバーで、一度だけイーヴィの夫、すなわち、被害者の男性に会っていました。この射殺された男性は、一体、何者なのか。また、今回の事件は16年前の銃の暴発事故とどんな関係があるのか。いろんな謎が解き明かされます。謎自体はかなりシンプルで、決して、凝ったミステリに見られるような難解な謎解きではないのですが、人間関係がやや入り組んでいる印象でした。

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最後に、浅田次郎『大名倒産』上下(文春文庫)です。著者は、著名な小説家です。私もいくつか作品を読んだ記憶があります。本書では、幕末期第13大将軍徳川家定のころの江戸と越後を舞台にした時代小説です。主人公は丹生山松平家13代当主であり、次男三男を飛び越えて庶子の四男から21歳独身のまま大名となります。しかし、その裏では、先代第12代の当主がタイトル通りに大名倒産を企んでいるわけです。というのは、天下泰平260年の間に借金が累積して合計25万両に膨れ上がり、その利払いだけでも年3万両となることから、3万石の領地で年間1万両の収入しかない藩財政は借金の返済のしようもなく、いわゆる「雪だるま式」に借金が増える構造となっています。しかるに、事情をよく理解していない第13代当主を藩主に立てて、先代第12代藩主は計画的に蓄財を進めて、最後は藩財政が悪化して幕府から取潰しになることを覚悟の上、第13代藩主の切腹をもって藩を倒産させるというムチャな策に出ます。しかし、9歳になるまで足軽の下士の倅として育てられていた第13代藩主は融通がきかない真面目一辺倒で、襲封後に初のお国入りをし、倹約に継ぐ倹約、名物の鮭を使った殖産興業、国家老や大商人を巻き込んでの金策、などなど藩財政の立て直しにこれ努めます。そこに、何と、この作者らしくファンタジーで神様が絡んできます。貧乏神が、また、七福神が、はたまた、間接的ながら薬師如来が、この藩財政の立て直しに助力し始めるわけです。最後の結末までなかなか面白く読めたエンタメ時代小説でした。それにしても、神頼みは別にして、巨額の債務を残して後世代に負担を押し付けようとするのは、まさに、現在の日本の財政の姿をそのまま引き写しているような気すらしました。

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2022年10月28日 (金)

底堅い動きが続く9月の雇用統計をどう見るか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも9月の統計です。失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.02ポイント上回って1.34倍に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の求人倍率1.34倍、9カ月連続上昇 失業率は2.6%
厚生労働省が28日発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.34倍と、前月に比べて0.02ポイント上昇した。9カ月連続で前月を上回った。新型コロナウイルス禍前の水準には届いていない。総務省が同日発表した完全失業率は2.6%で、前月から0.1ポイント上昇した。上昇は4カ月ぶり。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。コロナの感染が広がり始めた後の底だった2020年秋の1.04倍から持ち直しの動きが続く。感染拡大前のピークだった20年1月の1.49倍とはまだ開きがある。
景気の先行指標とされる新規求人数は前年同月比9.8%増えた。業種別では観光需要などの持ち直しで宿泊・飲食サービス(29.5%増)の伸びが大きかった。生活関連サービス・娯楽(22.3%増)や卸・小売り(12.7%増)も堅調だった。新規求人倍率は2.27倍と前月を0.05ポイント下回った。
就業者数は6766万人と前年同月比で40万人増えた。2カ月連続で増加した。コロナの感染者数が前月に比べて落ち着き、飲食店の営業などが活発になっていることを映す。
完全失業者数は前月から8万人増えて183万人となった。「自発的な離職(自己都合)」が増えており、より待遇のよい仕事を求める動きが広がっているとみられる。

続いて、雇用統計のグラフは以下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月からやや改善の1.33倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスから下振れし、有効求人倍率は市場予想から上振れしています。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ですので、休業者も9月統計では減少しました。すなわち、季節調整していない原系列の休業者の前年同月差が、7~8月には2か月連続で増加していたのですが、9月には減少しています。単月の動きながら、実数として7~8月ともに250万人を超えていた休業者が9月には194万人にまで減少していることも事実です。他方で、引用した記事の最後のパラにもあるように、有利な転職先を探すために自発的に離職する人が増加しています。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に見ると、宿泊業・飲食サービス業(29.5%増)、生活関連サービス業・娯楽業(22.3%増)、卸売業・小売業(12.7%増)での増加が大きく、明らかに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が回復しているのが確認できます。

私は足元では量的には明らかに人手不足であると考えていますが、質的、すなわち、賃金の上昇が見られないのも事実です。したがって、欧米諸国から比べてインフレ率もそうムチャな水準には達していません。かなり上昇幅が拡大したとはいえ、本日、総務省統計局から公表された生鮮食品を除く東京都区部の10月中旬の消費者物価指数、すなわち、東京都区部コアCPIの上昇率は+3.4%でした。ひょっとしたら、現在のインフレに見合う賃金上昇を勝ち取れていない労働組合の問題なのかもしれない、と考えないでもありません。

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2022年10月27日 (木)

日本政策投資銀行リポート「高まるインバウンドへの期待と課題」やいかに?

今週火曜日の10月25日に日本政策投資銀行から「高まるインバウンドへの期待と課題」と題するリポートが明らかにされています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大から長らく下火になっていたインバウンド観光客の訪日とインバウンド消費なのですが、ウィルスの弱毒化が進んだかどうかは専門外の私には不明ながら、COVID-19の感染拡大の抑制に応じて、徐々に国際的な観光客の移動が制限が緩和され始めているのも事実です。こういった動きに合わせてのリポートですので、簡単に図表を引用しつつ取り上げておきたいと思います。まず、リポートの要旨を3点引用すると以下の通りです。

要旨
  • コロナ禍で世界的に国際移動が制限されたが、足元では各国で緩和が進む。日本も、2022年10月11日に水際対策を大幅に緩和した。
  • 観光客数の回復はアジアで鈍く、特に日本の回復が遅れていた。円安は訪日外客数の押し上げ要因となるため、円安や水際対策緩和による訪日外客の増加が期待できる。
  • コロナ前の訪日外国人消費において大きな割合を占める中国が今後のインバウンド回復のカギとなるが、ゼロコロナ政策の緩和は23年中頃との見方が多く、訪日外客の本格的な持ち直しは23年後半以降となると考えられる。それまでは、日本人の国内旅行消費の回復が補うほか、単価向上などの取り組みも検討されることとなろう。

私は、COVID-19の感染拡大が抑制されているからといって、ポストコロナの観光事情がプレコロナにそうそう簡単に戻るとは考えていませんが、関西ではかなりの程度にインバウンド需要に依存していた部分もあり、また、私も月一くらいで京都に行くのですが、確かに、直近10月中旬以降では、少なくとも京都には欧米人観光客がチラホラながら見受けるようになったのも実感として持っています。いずれにせよ、過大な評価は禁物ながら、インバウンド消費の今後の動向については大きな興味あるところです、

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まず、上のテーブルは、日本の水際対策緩和状況 のテーブルをリポートから引用しています。10月11日から、入国者数の上限は撤廃され、ワクチン接種証明があれば陰性証明は不要とされ、短期のVISAは従来と同じように不要とされ、個人旅行も解禁されています。ですから、水際規制はほぼほぼなくなった、と考えてよさそうです。また、諸外国でも、ゼロコロナ政策を取っている中国で観光目的は不可とする入国制限を設けいているほかは、かなりの程度に入国規制は緩和が進んでいるようです。

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続いて、上のテーブルは、入国者数と出国者数 のグラフをリポートから引用しています。こういった水際規制の緩和などに従って、米国では入国者数についてはコロナ前の60%、出国者については80%超の水準まで回復してきていますし、トルコの入国者数についてはコロナ前の水準を上回っていたりします。他方で、日本については入国者数・出国者数ともに、コロナ前と比較して、まだまだ低い水準にとどまっています。逆から考えれば、どちらもこれから回復する余地が大井にある、ということなのだろうと私は受け止めています。

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続いて、上のテーブルは、訪日外客数と12年からの増加要因 のグラフをリポートから引用しています。私も一昨年の紀要論文でインバウンド消費の決定要因を分析したりしましたが、基本的に出国地域の所得水準の上昇を主因に我が国のインバウンド需要が増加します。リポートでは、加えて、為替や物価差、渡航費用に影響する原油価格の影響を受けると想定して、入国者数のモデルを考え、足元の円安などを考慮すれば、国内外の行動制限がなかった場合、潜在的には年率3,400万人程度の潜在訪日外客があった、との推計結果を示しています。

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最後に、上のグラフは、全国中小企業団体中央会「9月の中小企業月次景況調査」から 前年同月比DIの推移 を引用しています。インバウンド消費の恩恵を受けるのは中小企業が少なくなく、まだまだ本格的な景気回復が望めず、、電力料金などエネルギーや原材料価格の高騰、急激な円安の影響により先行き不透明感も残る中小企業には、インバウンド消費の拡大も中小企業には起爆剤のひとつにならないものか、と考えないでもありません。

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2022年10月26日 (水)

+2%台の上昇を続ける9月統計の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から9月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+2.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.6%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、19カ月連続上昇 9月2.1%
日銀が26日発表した9月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.3と前年同月比2.1%上昇した。上昇幅は6月(2.1%)以来の高水準で、19カ月連続でプラスだった。上昇が目立ったのは宿泊サービスで、感染症対策と経済活動の両立が進み、観光需要が底堅かった。
広告や情報通信なども押し上げ要因になった。広告は昨年の東京五輪の反動に伴う押し下げの影響がなくなった。インターネット広告への出稿需要が引き続き強かった。情報通信は人手不足を背景に人件費がゆるやかに上がっており、サービス価格に転嫁する傾向が続く。
調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは99品目、下落したのは17品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年3月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+0.7%の上昇となった後、2021年4月には+1.1%に上昇率が高まり、本日公表された今年2022年9月統計まで、19か月連続の前年同期比プラス、18か月連続で+1%以上の上昇率を続けていて、6月統計以降では4か月連続で+2%以上となっています。上昇率がグングン加速するというわけではありませんが、高止まりしている印象です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因無無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく9月統計のヘッドライン上昇率+2.1%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.67%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送や国際航空貨物輸送や内航貨物輸送などの運輸・郵便も+0.67%、インターネット広告やテレビ広告やその他の広告など景気に敏感な広告が+0.14%、リース・レンタルが+0.35%、損害保険や金融手数料などの金融・保険が+0.13%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+4.2%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.7%、広告の+2.0%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

ただし、やや細かな点ですが、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率が6~9月の+2.0%から+2.1%で高止まりしているとはいえ、上昇率に加速が見られない一方で、石油価格の影響の強い国際運輸を除くコアSPPI上昇率は6月+1.3%、7月+1.4%、8月+1.5%から、直近で利用な最新統計である9月統計では+1.6%と、ジワジワと上昇ピッチが上がっています。単なる計測誤差である可能性が十分あるとは思いますが、インフレの主たる要因が、石油をはじめとする資源高から、それらの国内への波及によるホームメード・インフレに移ってきている可能性が無視できない、と私は考えています。もしもそうであるならば、エコノミストとしては、評価の難しいところかもしれません。

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2022年10月25日 (火)

リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

今週金曜日10月28日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、今年2022年7月+1.2%増、8月+2.3%増の後、9月も+2.8%増となっています。7月の伸び率から考えれば、8~9月の足元で伸びを高めています。ただし、2020年1~4月のコロナ直前ないし初期には+3%を超える伸びを示したこともありましたので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月からは最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しますので、その影響がどのように出るか見極めたいと思います。他方、派遣スタッフの方は今年2022年7月+1.5%増、8月+3.4%増の後、9月は+1.4%増と、着実な伸びを示しています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、9月には+2.8%、+31円増加の1,141円を記録しています。職種別では、「専門職系」(+96円、+7.5%)、「営業系」(+87円、+7.2%)、「フード系」(+51円、+5.0%)、「事務系」(+36円、+2.9%)、「製造・物流・清掃系」(+29円、+2.6%)、「販売・サービス系」(+1円、+0.1%)、とすべて職種で増加を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、9月には+1.4%、+22円増加の1,612円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+57円、+3.1%)、「製造・物流・清掃系」(+38円、+2.9%)、「オフィスワーク系」(+23円、+1.5%)、「営業・販売・サービス系」(+20円、+1.4%)、「IT・技術系」(+4円、+0.2%)、「医療介護・教育系」(+2円、+0.1%)、とすべてプラスとなっています。派遣スタッフの6つのカテゴリを詳しく見ると、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高くなっていて、全体と比べて伸びが小さくなっています。また、「医療介護・教育系」では介護スタッフ・介護福祉士とその他医療関連が前年同月比マイナスとなっています。なお、三大都市圏の中の地域別では関東・関西がプラスとなっている一方で、東海は前年同月から下落しています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調であり、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向が不透明であるものの、全国旅行支援も10月20日には東京都でも始まって全国すべての都道府県で実施されており、非正規雇用の比率の高い業種をはじめとして、最近までの順調な景気回復に伴う人手不足の広がりを感じさせる内容となっています。ただ、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては不透明であり、まだ下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。

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2022年10月24日 (月)

日本総研リポート「円安による貿易収支の黒字効果は消失」やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週火曜日10月18日に日本総研から「円安による貿易収支の黒字効果は消失」と題するリポートが明らかにされています。その昔は、円安の進行とともに、Jカーブ効果などのラグを伴いつつも、貿易収支は黒字が増加する方向に動くと考えられていましたが、現下の円安局面では貿易赤字が膨らんでいるもの事実です。すなわち、円安が貿易赤字を促進し、その貿易赤字がさらに円安につばがるという正のフィードバック効果が観察されています。リポートでは、価格面からも数量面からも、為替から輸出数量への影響が限定的になっていると指摘しています。

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上のグラフは、リポートから 1%の円安による輸出入数量の変化率 を引用しています。私も授業で教えているのですが、通常、円安は外貨建ての輸出価格を引き下げる効果があり、当然ながら、価格が安くなった輸出品が競争力を増しますので輸出数量は増加します。輸入品にはこの逆のことが生じます。すなわち、国内通貨だけの輸入品価格が上昇して価格競争力が低下し輸入数量が減少します。輸出画像化して輸入が減少しますので、当然ながら、その結果として、貿易黒字の方向に均衡が移動します。しかし、上のグラフで示されているように、2000-09年の期間に比べて2010-19年の期間では、この輸出と輸入のどちらの円安効果もかなり低下しています。リポートからでは、この要因について、「低付加価値品の生産拠点の海外シフトとともに、わが国で生産する輸出財の高付加価値化が進展した」と指摘しています。まあ、そうなのかもしれませんが、直感的には前者の生産拠点の海外シフトではなかろうか、という気がします。ただ、これは短期的な減少であって、円安がそれなりの長期に継続されれば、生産拠点は国内復帰する可能性が十分ある、と考えられます。

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上のグラフは、リポートから 1%の円安に対する輸出数量の反応 を引用しています。見れば明らかな通り、産業別に輸出数量の反応を見ていて、繊維、一般機械、電気機器といった産業で2010-19年の輸出数量の反応が鈍くなっています。逆から見れば、これらの産業がかなり積極的に生産拠点の海外シフトを進めた、ということです。そして、円安が長期に継続すれば、これらの産業の生産拠点が国内回帰する可能性も十分ある、と考えるべきです。

3変数VARモデルのインパルス応答関数からの試算となっていますが、5%信頼区間などがどうなっているのかの詳細についても知りたいところだったりします。でも、結果はおおむね多くのエコノミストが受け入れられるものとなっている気がします。

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2022年10月23日 (日)

東京では自転車の取締りが強化されるのか?

やや旧聞に属する話題ながら、10月20日付けの東京新聞で「自転車で信号無視、警察官に『青だった』と反論も…警視庁の取り締まり現場で見た悪質運転」と題して、警視庁では自転車の取締りを強化する旨の記事が掲載されています。まず、東京新聞のサイトから記事の最初のパラを引用すると以下の通りです。

警視庁の取り締まり現場で見た悪質運転
自転車による交通事故が後を絶たないため、警視庁は今月下旬から、違反運転の取り締まりを強化する。従来は指導に当たる「警告」のケースでも、信号無視など重大事故につながりかねない4類型は、悪質であれば刑事罰対象の「赤切符」(交通切符)を切られる。取り締まりの現場を取材すると、歩行者の間をぬうように走る自転車にヒヤリとする場面もあった。

ということで、同じ東京新聞のサイトから「信号無視など重大事故につながりかねない4類型」のイラストを引用すると以下の通りです。

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ということで、記事では「警視庁は今後、信号無視、一時不停止、右側通行、徐行(すぐに止まれる速さの走行)をせずに歩道通行 - の4類型の違反をした場合、刑事罰の対象となる赤切符を積極的に切ることにした」ということで、4類型についても明示しています。私のちょうど昨日の土曜日に、何と我が国屈指の幹線道路である国道1号線の車道をロードバイクで走っていると、逆走して来た自転車に遭遇しました。とても怖かったです。ノーヘルながらマスクはしている若い女性で、まったく自分からは私の自転車を避けようとする意志は見られず必死の形相でしたので、何らかの事情あるものとは想像しますが、私の方でもセンターライン寄りに逆走自転車を避ければ自動車との接触事故の可能性が生じるわけで、しかも、それなりの交通量ある国道1号線ですから、なかなか緊張感高まる状況でした。ただし、私が経験する範囲では、関西では東京と違って信号無視はとても少ない印象です。逆に、ロードバイクをはじめとするスポーツバイクも車道を走ることはなく、ほぼほぼ、歩道走行ですから歩道での徐行が励行されているとはとても思えません。一時停止が守られていないのは、東京も関西も変わりないような気がします。というか、関西では一時停止せずにサッサと運転するのが、自転車だけでなく自動車であっても「上手な運転」とみなされているような気すらします。私の勘違いかもしれませんが、そういう気もするということです。
私は定年まで長く公務員をしてきて、公務員にはいわゆる「告発義務」があり、すなわち、刑事訴訟法第239条第2項により、「官吏または公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と定められています。あくまで「職務を行う」ということですので、一般の国民生活を送る上で見知った犯罪の告発義務があるわけではありませんが、まあ、それなりに遵法精神が高くあるべき職業といえなくもありません。他方で、私自身は、基本は交通安全であって、その交通安全という目的を達成するために、先に上げられていた4類型の信号や一時停止の励行などの手段があるわけですので、場合によっては、あくまで場合によっては、交通安全=危険回避という目的のために手段が犠牲になるケースは容認される可能性は否定できない、と考えていたりします。交通安全ではないのですが、手段と目的を取り違えるケースをよく見かけるからです。

それにしても、東京の警視庁の方針が関西の各府県警に到達するには、どれくらいの期間がかかるものなんでしょうか?

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2022年10月22日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、純粋な経済書はないものの、いくつかの学術書をはじめとして、ミステリや新書まで合わせて計5冊です。
今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~9月の夏休みに66冊、10月に入って先週までで14冊、今週が5冊ですので、今年に入ってから191冊となりました。200冊に達するのにカウントダウンに入った気がします。それから、新刊書読書ではありませんから、このブログの読書感想文には取り上げませんが、第164回芥川賞を授賞された『推し、燃ゆ』を読みました。そのうちに、Facebookあたりでシェアしたいと思っています。

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まず、ダニー・ドーリング『Slowdown 減速する素晴らしき世界』(東洋経済)です。著者は、英国オックスフォード大学の研究者です。専門分野は地理学です。英語の原題も Slowdown であり、2020年の出版です。振幅と位相をもった独特の時系列図で、およそあらゆる減速をオンパレードで示しています。すなわち、人口、経済成長、情報、債務、などなど、これでもかこれでもか、というくらいに、いっぱいデータを示して実証しています。注を入れれば軽く500ページを超えるボリュームです。もちろん、世界の中で減速の先頭に立っている国は日本です。もちろん、科学的な減速の証明は十分ではありません。しかも、将来時点で仮置きされているのは2222年だったりします。ですから、気候変動=地球温暖化が十分進んで、海水面が数メートルも上昇した後だったりします。私から見ても、スローダウン=減速の原因が何かについては本書でも明確にされていません。その意味で、科学的な主張とは見なさない向きもあるかもしれません。ただ、いわうる経験則というのはマラゆる科学にあるのではないかと思いますし、とりわけ、経済や経営分野には「ジンクス」も含めた理由の不明な経験則がいっぱいあります。日本に住んでいて日本人をしているからというわけでもなく、私もスローダウン=減速は進んでいるのではないか、と思わないでもありません。特に、経済学に関しては、サマーズ教授が長期停滞論を主張し始めたり、ロバート・ゴードン教授の『アメリカ経済 成長の終焉』にあったように、イノベーションの先行きに不安があったりと、停滞色が強くて成長鈍化あるいは成長停止の議論がある一方で、生産力は加速しないまでも、もっと長期にわたって伸び続ける、とする見方も少なくありません。本書でも指摘されているように、気候変動=地球温暖化をはじめとするサステイナビリティの議論との関係も重要ですが、本書で仮置きされているように、2222年までに地球はすでにサステイナビリティを失ってしまっているという可能性もゼロではないと、私は危惧しています。いずれにせよ、一見して悲観論に見える減速を持って楽観的な将来を語っている点は評価すべきか、と考えています。最後に1点だけ、本書で世代の呼び方に、X世代とか、Y世代とかありますが、通常の世代の時代区分と異なっています。米国と英国の違いかもしれませんが、十分気をつけて読み進む必要があります。

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次に、高槻泰郎[編著]『豪商の金融史』(慶應義塾大学出版会)です。編者は、神戸大学の研究者であり、専門分野は日本経済史です。本書は、数年前のNHKの朝ドラで放送された「あさが来た」で注目された廣岡家の古文書発見により、その研究成果として公開されています。ですから、タイトルのように広く豪商一般というわけではなく、あくまで、現在の大同生命の創業家である廣岡家の歴史をひも解いています。そして、出版社から受ける印象ほど、カッチリした学術書ではありません。江戸期の大坂における先物市場、デリバティブ市場などについては、それ相応の金融に関する知識が必要ですが、経営者としての廣岡家の歴史ですから、広く一般ビジネスパーソンが楽しめる読書ではなかろうかと思います。ということで、廣岡家の創業の地である大阪からお話が始まります。「天下の台所」大坂で米市場が開かれ、堂島の米市場で先物やデリバティブが取引されるようになった歴史をひも解くとともに、同時に、廣岡家が加島屋久兵衛=加久として、こういった世界でも稀に見る先進的な金融業に乗り出したことが明らかにされます。堂島米市場におけるデリバティブ取引から、三井家家訓では「博打」として否定された大名貸しに乗り出し、巧みにリスクをコントロールしながら業績を伸ばしてゆく様子が伺えます。そして、明治維新とともに大名貸しという事業形態ではなくなって、近代的な金融業を始め、加島銀行は昭和金融恐慌で破綻した一方で、大同生命は長らく生き残る、という歴史が実証的に分析されています。しかも、学術書ではないという意味で、適度にコラムを設けて、廣岡家の邸宅とか、節句飾りとか、西本願寺への信仰とか、いろいろなテーマで断片的な情報ながら、廣岡家の事業活動以外の側面を浮き彫りにしようと試みています。今となっては、岩崎家の三菱は明治維新直前の成立とはいえ、三井、住友などの財閥の家系からすれば廣岡家の加島屋はすっかり歴史に霞んだ気がするのですが、こういった古い文書の発見とともに、まあ、NHKの朝ドラに起因する発見であり、かなり気を使って加島屋の廣岡家を持ち上げている提灯本とはいえ、我が国の経済史の新たな発見があるのは決して悪くないと私は考えています。

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次に、莫理斯(トレヴァー・モリス)『辮髪のシャーロック・ホームズ』(文藝春秋)です。著者は、香港出身で、英国のケンブリッジ大学を卒業後、香港に戻り、映像業界で活躍中ということです。いわゆるホームズもののパスティーシュであり、ホームズ役が福邇、満洲旗人であり、ワトソン役が華笙、武科挙の進士であり、負傷して現役を退くと香港で医師をやっています。この2人は下宿しているわけではなく、ホームズ役の福邇が立派な住まいを所有し、そこにワトソン役の華笙が下宿しています。ハドソン夫人の役割をこなすのは鶴心という名の小間使です。なお、依頼のうちいくつかは差館(警察)から寄せられ、英国人の養子となった中国生まれのクインシー警部やインド人のグージャー・シン警部がスコットランド・ヤードのレストレイド警部やグレグスン刑事、ということになるのかもしれません。舞台はもちろん香港で、主人公たちは荷李活道(ハリウッド・ロード)221乙に暮らしています。時代は1880年代のホームズと同時期のビクトリア女王のころです。ということで、前置きが長くなりましたが、収録されている短編は6編で、「血文字の謎」、「紅毛嬌街」、「黄色い顔のねじれた男」、「親王府の醜聞」、「ベトナム語通訳」、「買弁の書記」となります。冒頭短編の「血文字の謎」でホームズ役の福邇とワトソン役の華笙が出会います。ついでながら、正典ではベイカー街イレギュラーズとして登場するストリート・チルドレンのグループが本書でも登場し、この「血文字の謎」で荷李活道義勇隊として活躍します。また、「ベトナム語通訳」はタイトルからして「ギリシア語通訳」を思い起こさせるのですが、ストーリーは大きく違います。でも、何と、シャーロックの兄のマイクロフトが登場した短編ですから、この短編でも福邇の兄の福邁が登場します。やっぱり、政府機関にお勤めだったりします。中でも私が最も高く評価するのは「親王府の醜聞」であり、コナン・ドイルの正典の「ボヘミアの醜聞」に当たります。正典と違うのは、ホームズ役の福邇とワトソン役の華笙が最高級ホテルの一室に呼び出されて、京劇の面をつけた依頼者+ボディガードの計5人と会って依頼される点などです。ひょっとしたら、ミステリ・ファンの中には正典の「ボヘミアの醜聞」よりも、出来がいいと感じる人もいそうな気がします。実は、私もそうです。私は詳しくないのですが、ミステリとして上質であるだけでなく、当時の香港に関する歴史小説としても読めるかと思います。なお、訳者あとがきによれば、このシリーズは全4巻が予定されており、最後の4巻ラストは1911年の辛亥革命だそうです。本書出版時点では「第2巻を完成させつつある」ということだったのですが、すでに出版されているという情報にも接しました。邦訳されたなら、私はまた読みたいと思います。

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次に、中野剛志『奇跡の社会科学』(PHP新書)です。著者は、経済産業省にお勤めで、MMTに近い財政政策観を持っている方であると、私は認識しています。ということで、本書では古典的な社会科学者8人が取り上げられています。順に、官僚制に関してマックス・ウェーバー、保守主義に関してエドマンド・バーク、民主主義が生み出す専制制についてアレクシス・ド・トクヴィル、市場経済を「悪魔の挽き臼」と称したカール・ポランニー、自殺についての考察を進めたエミール・デュルケーム、戦争の起こる機器を歴史的に見ようとしたE.H.カー、リアリズムの極致ともされるニコロ・マキアヴェッリ、そして、マクロ経済学の創始者であるJ.M.ケインズです。現在からの視点としては、すべて、それなりにリベラルな社会科学者に注目した、といえそうです。私のようなエコノミストからすれば、最後のケインズ卿がもっとも親しみあるのですが、不況の世の中にあふれる失業者に思いを致し、生活に困窮する失業者に職をもたらすべく、古典派的な自由放任から政府による雇用創出を理論的に解明した功績はとても大きいと思います。ほかの7人にしても、活躍した当時だけでなく、21世紀の現在に至るまで理論的な正当性はいささかも失われていません。私は大学のゼミで「古典を学ぶ」と称してケインズを学生に読ませていますが、こういった古典的名著を振り返る余裕も欲しいものだと改めて感じました。

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最後に、野田隆『にっぽんの鉄道150年』(平凡社新書)です。著者は、都立高校の教員ご出身で、鉄道に関するノンフィクションのライターです。ということで、今年は広く知られているように、新橋~横浜間で1872年10月14日に鉄道が開業してから150年という記念の年であり、さまざまなイベントなどもありましたが、本書もそれを記念する意味で出版されています。まずは、走る車両の歴史ということで、蒸気機関車から始まって、何と、高速鉄道に飛んで新幹線となり、私鉄で走っている電車、ブルートレインの寝台車や豪華列車・観光列車、その間に、青函トンネルや瀬戸大橋などの本州と北海道・四国を結ぶ線路の拡充が語られ、最後の方は、廃止された路線、もうすっかり廃れた切符、鉄道ミュージアムが取り上げられています。私は決して鉄道ファンではありません。でも、鉄道唱歌で「線路は続くよ、どこまでも」というのがありますが、私は長崎大学に出向した折に、長崎駅では線路が終わっていて「続かない」のを目にして、ある種の衝撃を受けた記憶があります。中学校の通学から電車に乗り始め、ほぼほぼ私鉄の通学が多く、東京に出てからも私鉄や地下鉄を使う通勤が多かったのですが、関西に戻って、今では主としてJRに乗っています。20歳前後の今の学生諸君と話をしていても、「国鉄』というのは、まったく死語になったと感じています。中曽根内閣の1980年代後半に、国鉄だけでなく、専売公社や電電公社の3公社が民営化される法案審議の際には、私はすでに国家公務員として働いていたのですから、年を取るはずです。最後に、本書は300ページを超えるボリュームで、新書としては分厚い本なのですが、モノクロながら写真が多数収録されていて、写真を眺めるだけでも楽しい気分にさせてくれます。

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2022年10月21日 (金)

31年ぶりに+3%に達した消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.0%を記録しています。報道によれば、1991年8月以来31年ぶりに高い上昇率だそうです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+1.8%にとどまっています。なお、ヘッドライン上昇率も+3.0%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月消費者物価3.0%上昇 31年ぶり3%台、円安響く
総務省が21日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が102.9となり、前年同月比で3.0%上昇した。消費増税の影響を除くと1991年8月(3.0%)以来、31年1カ月ぶりの上昇率となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目の値上がりが続く。
QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.0%)と同じだった。上昇は13カ月連続。調査対象の522品目のうち、前年同月に比べて上昇した品目は385、変化なしは46、低下は91だった。上昇品目数は8月の372から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は前年同月比3.0%の上昇で、8月と同水準の伸びだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.8%上がった。
生鮮食品を除く食料は前年同月に比べて4.6%上昇した。食料全体では4.2%上がった。食パンが14.6%、チョコレートが8.6%それぞれ上昇した。ロシアによるウクライナ侵攻以降、輸送ルートを変えたサケは26.8%上がった。円安による輸入コストもかさんでいる。
円安や原材料高といった影響は外食にも波及し、ハンバーガーは11.2%上がった。生鮮魚介の値上がりで、すしも9.4%上昇した。
エネルギー関連は16.9%上がり、8月と同水準の伸びだった。電気代が21.5%、都市ガスが25.5%ともに上昇した。灯油は8月の18.0%を上回る18.4%の上昇率だった。ガソリンも7.0%上昇と、8月の6.9%をわずかに上回った。
家庭用耐久財は11.3%上昇した。8月の6.3%から伸びが加速し、1975年3月(12.8%)以来、47年6カ月ぶりの上昇率だった。メーカーによる製品のリニューアルで、ルームエアコン(14.4%)などが値上がりした。宿泊料は6.6%上昇し、8月(2.9%)の伸びを上回った。
生鮮食品を含む総合指数で比較すると、他の主要国は日本と比べて高い上昇を続けている。米国は9月に前年同月比で8.2%上がった。8月(8.3%)から低下したものの、高水準の上昇が続く。ユーロ圏は9.9%上がり、9.1%だった8月からインフレが加速した。英国は10.1%上昇で、8月(9.9%)を上回った。
日本経済研究センターが11日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均は、消費者物価指数の上昇率が四半期ベースの前年同期比で2022年10~12月期が2.84%と見込む。23年1~3月期は2.47%と2%台の上昇が続き、同4~6月期に1%台の上昇になるとみている。

やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3%の予想でしたので、ホンの少しだけ上振れた印象です。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、9月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は8月統計と同じ16.9%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.28%あります。このエネルギーの寄与度+1.28%のうち、電気代が半分超の+0.75%ともっとも大きく、次いで、都市ガス代の+0.24%、ガソリン代の+0.15%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、4月統計では+19.1%、5月統計では+17.1%、6月統計では+16.5%、7月統計では+16.2%、そして、直近で利用可能な8~9月統計では+16.9%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているように見えます。他方で、生鮮食品を除く食料の上昇率も4月統計+2.6%、5月統計+2.7%、6月統計+3.2%、7月統計+3.7%、8月統計+4.1%に続いて、9月も+4.6%の上昇を示しており、+1.03%の寄与となっています。ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は9月統計で、どちらも+3.0%ですから、ほぼ+2.3%の部分はエネルギーと生鮮食品を除く食料による寄与と考えるべきです。そして、現状ではまだまだエネルギーの寄与度が大きいのですが、毎月の寄与度の差を考えれば、寄与度差という観点ではインフレの主因はエネルギーから食料に移りつつあるように見えます。

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上のグラフは基礎的・選択的支出別と購入頻度別のそれぞれの消費者物価指数上昇率の推移を上下のパネルにプロットしています。現在のエネルギーや食料の値上がりがもたらしたインフレについて、その国民生活への影響を物価指数の観点から少し詳しく見ると、まず、上のパネルから、選択的な財・サービスよりも選択の余地の小さい基礎的・必需的な財・サービスに値上がりの方が大きくなっている点が見て取れます。加えて、下のパネルから、頻度高く購入する財・サービスの価格上昇の方が最近時点では高くなっています。上のパネルから、基礎的・必需的な財・サービスの購入割合の高い家計、往々にして、所得がそう高くない家計が高インフレの実感を持っている可能性が指摘できます。そして、所得とは直接関係ないにしても、購入頻度高い財・サービスの方が値上がりしているわけですから、国民の実感するインフレは平均的な物価上昇率よりも高い可能性があります。

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さらに、上のグラフは家計の所得階級別に、第I分位家計と第V分位家計の物価上昇率の乖離、すなわち、単純に5分位所得のもっとも所得の低い第I分位と、逆に、もっとも所得の高い第V分位の消費構成バスケットに合わせた物価上昇率の乖離です。2019年10月からの消費税率の引上げの際には食料品などの一部品目に軽減税率が適用されましたので、その後、しばらくは低所得家計の物価上昇率のほうが低かったのですが、この反動の時期はとっくに終わっているにもかかわらず、今では、低所得家計の物価上昇率のほうが大きくなっています。すなわち、現在のインフレは高所得家計よりも、低所得家計に厳しくなっている可能性があります。

9月末までと予定されていたガソリン補助金は12月末まで延長され、加えて、電気料金抑制のために電力会社への補助金が検討されていると報じられています。従来から私が主張しているように、化石燃料に補助金を出して消費を促すのは気候変動=地球温暖化に逆行しかねません。ハッキリとSDGsに逆行しています。食料についてはもっとも基礎的な生活必需品と考えるべきですから、低所得家計などに然るべき支援は必要です。ただ、もっともシンプルには、時限的な措置であっても、消費税率を引き下げる政策ではないでしょうか?

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2022年10月20日 (木)

大きな赤字を記録した9月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+28.9%増の8兆8187億円、輸入額は+45.9%増の10兆9126億円、差引き貿易収支は▲2兆940億円の赤字となり、昨年2021年8月から14か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、9月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字、4-9月過去最大の11兆円 資源高・円安響く
財務省が20日発表した2022年度上期(4~9月)の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は11兆74億円の赤字だった。資源高と円安が響き、赤字額は比較可能な1979年度以降の半期で最大になった。
これまで最大だった2013年度下期の8兆7600億円の赤字を超えた。
22年度上期の輸入額は60兆5837億円で、前年同期比で44.5%増えた。中東からの原油のほか、オーストラリアの液化天然ガス(LNG)や石炭などの輸入額が国際価格の上昇と円安によって膨らんだ。原油やLNGといった鉱物性燃料の輸入額は2.2倍の17兆7145億円となり、全体の3割近くを占めた。
原油の輸入単価は1キロリットルあたり9万3106円と前年同期比で91.8%上がった。ドル建て価格の上昇率は59.1%で、円安が単価上昇に拍車をかけた。
輸出額は19.6%増の49兆5762億円だった。米国向けの自動車やアジア向けの鉄鋼などが増えた。
輸出入とも半期で最高額となったが、輸入の増加に比べて輸出は勢いを欠く。輸出の荷動きを示す数量指数(15年=100)は対世界全体で前年同期比で1.5%下がった。低下は新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した20年度上期以来となる。感染対策のための都市封鎖や不動産不況で経済が減速した中国向けは13.8%の大きな落ち込みとなった。世界からの輸入数量指数もわずかに下がり、2年ぶりの低下となった。
ウクライナに侵攻したロシア向けの輸出は前年同期比で46.9%減の2323億円だった。電子部品や通信機などの電気機器は経済制裁の影響でほぼゼロになった。輸入は36.0%増の9822億円だった。LNGの単価上昇が押し上げた。
9月単月の貿易収支は2兆939億円の赤字だった。9月として最大の赤字額となった。原油やLNGなどの値上がりと円安が響いた。

4~9月の2022年度上半期の記述が多くて、かなり長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲兆円超の貿易赤字が見込まれていて、実績の▲2兆940億円の貿易赤字はほぼほぼジャストミートしたといえます。加えて、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年9月までの14か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、16か月連続となります。しかも、少なくとも先月8月までは貿易赤字額がだんだんと拡大しているのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。
9月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+5.1%増に過ぎませんが、金額ベースでは+100.8%増と大きく水増しされて、輸入金額は倍増という結果になっています。LNGも同じで数量ベースでは▲1.6%減と減少しているにもかかわらず、金額ベースでは+164.2%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では▲15.2%減と減少しているにもかかわらず、金額ベースでは+32.2%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+41.3%増、金額ベースでも+31.6%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。さらに、輸出についても、輸送用機器の中の自動車は部品の供給制約が緩和されて輸出金額は季節調整していない原系列の前年同月比で+122.2%増と大きく伸びています。また、一般機械+28.3%増、電気機械+19.5%増と、我が国リーディング・インダストリーが高い輸出の伸びを示しています。

何度も繰り返しになりますが、輸出は世界経済の回復や半導体を始めとする部品の供給制約の緩和などが進んでそこそこ伸びています。それ以上に資源高や円安で輸入額が増加しているのが貿易赤字の大きな要因です。私はエコノミストとして、そもそも、貿易赤字や経常赤字は経済政策による何らかの是正の対象ではないと考えていますし、輸出が伸びている現状は評価すべきと考えています。ですから、貿易赤字「是正」のための経済政策、特に、金融引締めを含めて、円高を志向するような政策にはハッキリと反対です。もちろん、日銀もご同様のお考えのようで、例えば、日銀審議委員の安達誠司氏の最近における「富山県金融経済懇談会における挨拶要旨」(10月19日)では、極めて明解に「そもそも為替相場は金融政策が直接コントロールする対象ではありません」と指摘し、加えて、「金融政策を引き締め方向に修正することはマイナスの効果が大きい」との結論を示しています。もちろん、こういった判断は経済情勢により変化するものですが、少なくとも現時点では私の見方は日銀と大きく異なっていなと考えています。

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2022年10月19日 (水)

マイナンバーカードに保険証機能を登録すると解除できない?

とても旧聞に属する話題で、9月23日付けの京都新聞で報じられていたのですが、我が家からもほど近い滋賀県栗東市役所で住民のマイナンバーカードを誤って健康保険証として使える「マイナ保険証」に登録していたところ、マイナンバーカードへの保険証機能の登録は解除できないそうです。まず、京都新聞のサイトから記事全文を引用します。

住民のマイナカードに誤って保険証機能を登録
滋賀・栗東市、「想定外」解除できず

滋賀県栗東市が、住民女性(50)のマイナンバーカードを誤って健康保険証として使える「マイナ保険証」に登録していたことが22日分かった。市は女性に謝罪した。国によると、登録は解除できないという。
女性の話では8月18日、マイナポイントが付与される公的給付金の受取口座をカードに登録しようと市役所を訪問。保険証機能は登録したくないと考え、窓口職員に意思を伝えたが、誤登録されたという。
市によると、職員は本来、タブレット端末の登録画面を本人に確認してもらい登録を進めるが、保険証のひも付けに関する職員の記憶が定かでない、という。
いったん登録したマイナ保険証が削除できないことに関し、厚生労働省は「削除手順を整備していない。ひも付けによる不利益がなく、こうした(削除)要望が出ると想定していなかった」とした上で「削除の要望が来ており、検討しているが、健康保険組合など保険者の協力が必要になる」と説明している。
女性は「職員から一言確認があれば防げたはず」と憤る。栗東市総合窓口課は「申し訳ない。申請手続きを進めるに当たり確認を確実に取るように周知している」と話す。

先週くらいの報道で、政府デジタル庁では、健康保険証を2024年に廃止した上でマイナンバーカードへ一本化するとの方針のようです。以下はいくつかの大手メディアの報道です。

なお、政府デジタル庁における「マイナンバーカードの普及と健康保険証利用に関する関係府省庁会議」の第8回会議で厚生労働省から提出された資料「医療機関・薬局におけるオンライン資格確認の導入状況」によれば、マイナカードへの健康保険証の利用の登録は22,762,935件であり、6000万枚余りのマイナンバーカード交付枚数に対する割合は37.5%に上っているそうです。でも、大丈夫だろうか、と不安に受け止める国民は私だけなんでしょうか?

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ナンジャモはポケモンではなくジムリーダー!!!

今週に入ってから、キャンパスでの学生の会話で「アノ先生、ナンジャモはジムリーダーじゃなくて、ポケモンだと思ってるらしい」という会話を聞くともなく、小耳に挟みました。そうです。ポケモンSV(スカーレット/バイオレット)に先週から登場したナンジャモは、パルデア地方有数の都市であるハッコウシティのジムリーダーで、でんきタイプのポケモンの使い手です。サトシにとってのピカチュウのような相棒はハラバリーです。下の動画の中ほどに登場します。「エレキトリカル★ストリーマー」として知られていて、「ドンナモンジャTV」から動画を配信するインフルエンサーでもあるようです。

しかしながら、一考するに、「先生」が教員を指しているかどうかには100パーセントの自信はないものの、もしも教員であるなら、私以外の本学教員がナンジャモについて、間違った知識にせよ、何らかの情報を得ていることは、私にとって驚愕の事実でした。とってもびっくりです。

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2022年10月18日 (火)

アジア経済にはこれからも逆風が続くのか?

先週10月13日付けのIMF Blogで、Asia Sails Into Headwinds From Rate Hikes, War, and China Slowdown と題して、アジア経済の減速に焦点を当てています。簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、IMF Blogのサイトから Economic forecast: Asia and the Pacific を引用すると上の通りです。いうまでもなく、World Economic Outlook, October 2022 からの抜粋であり、特に、アジア経済の下方修正幅が大きいという気はしませんが、逆風の要因として3点上げています。タイトル通り、利上げ、戦争、中国の減速、です。ですから、結論を先取りすれば、"Strong international cooperation is needed to prevent greater geoeconomic fragmentation and to ensure that trade aids growth. There is an urgent need for ambitious structural changes to boost the region's productive potential and address the climate crisis." ということになります。

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続いて、IMF Blogのサイトから Above and below を引用すると上の通りです。やや拡張されたフィリップス曲線と考えるべきです。すなわち、通常は、フィリップス曲線とは縦軸に賃金上昇率/物価上昇率を取り、横軸に失業率を取って、マイナスの傾きある曲線から縦軸変数と横軸変数の間のトレードオフを明らかにするわけですが、上のグラフでは、縦軸はほぼほぼそのままな一方で、横軸にはGDPギャップを取っていますので、失業率とは正負の符号が逆でトレード・オフではなく、両者の関係は正の相関で示されています。赤丸が利上げ済み、灰色が利上げ未実施です。大雑把に右上の諸国は利上げに踏み切り、左下の日中2国だけは利上げしていません。中国はいわゆるゼロコロナ政策で経済が停滞しており、我が国もインフレ率の水準からして利上げは間違った政策対応だと私は考えています。

すでに、アジアのみならず、世界に於ける経済的なウェイトとして、日本ではなく中国の方が重要性高いのは判りきった事実なのですが、それでも、順調な成長を実現して最終需要の一部なりとも引き受けるという形で、日本としてのアジア経済への貢献は必要ではないか、と考えています。

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2022年10月17日 (月)

円安なのかドル高なのか、金融政策は引締めに転じるべきか?

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世間では、私以外のエコノミストをはじめとして、円ドル為替相場に大きな関心が集まっており、メディアでも円安に関して大きく広く報じられています。今年に入ってからの円ドル為替相場の推移は日次データで見て上の通りです。
為替相場については、極超短期にはランダムウォークしそうな気がするのですが、基本的には、短期には金利差に反応して外貨市場の需給で決まり、長期には物価上昇率の差に反応して購買力平価が成り立つ、とされています。そこで、10月14日つけIMF blogの記事 How Countries Should Respond to the Strong Dollar から Dollar surge と題する今年に入ってからの米ドルと各国通貨の為替相場の減価率のグラフを引用すると下の通りです。

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日本は政策金利がゼロに張り付いたままですので、米国との金利差も大きく、したがって、円の減価率が先進国の中でも最大を記録しています。しかし、逆から見て、購買力平価の観点からは、ほかの先進各国と比較すれば相対的に物価が安定しており、長期的には円高要因となる可能性は否定できません。もちろん、それほど期待ができるわけではありません。

目先の為替相場次第では、カッコ付きで「激変緩和」のためのスムージング・オペレーションとして為替介入の必要性が生じる可能性は否定しませんが、少なくとも、現在の+3%程度の物価上昇率で金融政策を引締めに転じるのはハッキリと間違いだと私は思います。

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2022年10月16日 (日)

安定の体重管理!!!

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今年に入ってからのボディマス・インデックス(BMI)の推移のグラフです。
BMIは22が標準といわれていますが、私の場合は21周辺でかなり安定しています。年齢とともに量を食べられなくなったので、それほど体重は気になりませんが、お酒を飲むとカロリーオーバーになる可能性はあります。食事よりもアルコールの方が体重に影響する年齢に達したのかもしれません。

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2022年10月15日 (土)

今週の読書は金融危機に関する経済書のほか計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、日銀前副総裁による金融危機対応の経済書のほか、ミステリが2冊と新書の計4冊です。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~9月の夏休みに66冊、10月に入って先週までで10冊、今週が4冊ですので、今年に入ってから186冊となりました。まもなく200冊に達することと思います。

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まず、中曽宏『最後の防衛線』(日本経済新聞出版)です。著者は、日銀前副総裁であり、現在は大和総研理事長です。エコノミストというよりは、金融危機対応の中央銀行実務家という印象で、本書もそういった視点から書かれています。ということで、本書でも指摘されている通り、金融政策の大きな特徴として、私も大学で教えているように、金融政策とは市中の民間金融機関、主として銀行に働きかけるわけですから、市場が正常に機能していて、金融機関が経済合理的に反応してくれることが前提条件となります。財政政策はそうではありません。すなわち、政府支出や徴税やで直接に家計や企業といった経済主体の購買力を操作することが出来ます。でも、金融政策は市場における通常の経済合理的な反応が必要ですので、金融危機に陥っては正常な効果を期待できなくなるおそれがあるわけです。その意味で、本書で具体的に取り上げられているのは1997-98年の日本国内の金融危機、すなわち、三洋証券、山一證券、拓銀、長銀、日債銀などの破綻、さらに、2008年のリーマン証券の破綻です。特に前者については、著者が最前線で活躍してたようですので、とてもリアルに描写されています。リーマン・ショックに際しても、その直前に担当者にドルオペのフィージビリティ調査を命じたりしていたのはやや驚きましたが、まあ、自慢話の類かもしれません。加えて、1997-98年の金融危機の際には、「日本発の世界金融危機」とならないように腐心した一方で、リーマン・ショックに関しては、そういった観点があったのかどうか疑問を呈しています。そして、直後のAIGの救済に関してはリーマン証券破綻の影響に驚いて方針変更した可能性すら示唆しています。まあ、ややアサッテの批判かもしれません。さらに、本書でも自ら指摘しているように、日銀は金融危機に際しても、もちろん、通常の「平時」でも、金融緩和に消極的な中央銀行とみなされていて、特に、1990年代初頭のバブル崩壊、さらに、1997-98年の金融危機の際の日銀の危機対応は世界から中央銀行の失敗例とされているのも事実です。ですから、著者が、失敗の典型と世界から指摘されつつも、「現場でがんばっていたのだ」といくら主張したところで、少なくとも私は共感は覚えませんでした。不首尾に終わって、なお「よくがんばった」と誉められるのは高校生までであり、いい年齢に達した公務員や中央銀行員が結果を無視して、「ボクたち、がんばったもんね」と、自らに評価を下すのは、やや見苦しい気がします。

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次に、東川篤哉『スクイッド荘の殺人』(光文社)です。著者は、『謎解きはディナーのあとで』などのヒット作のあるユーモア・ミステリ作家です。そして、この作品も烏賊川市シリーズ最新作であり、出版社の宣伝文句によれば、シリーズの中では13年ぶりの長編作品だそうです。烏賊川市シリーズですから、探偵事務所署長の鵜飼杜夫と調査員の戸村流平が主人公となります。ただ、探偵事務所の入居しているビルオーナーの二宮朱美はほとんど、あるいは、まったく登場しません。スミマセン。私は読み飛ばしていますので、詳細不明です。なお、烏賊川警察署の砂川警部と志木刑事も登場しますが、ほぼほぼ謎解きの終わった最終盤での登場となります。ということで、本作品では、閑古鳥が鳴きまくってヒマヒマしている鵜飼探偵事務所に久しぶりに依頼人が訪れます。しかも、烏賊川市のパチ・スロやボウリング場などの遊戯施設を運営する有力企業の社長が依頼人だったりします。依頼内容は、脅迫状が来たのでクリスマスの旅行にボディガードとして同行するよう、ということです。そのクリスマスを過ごす宿泊施設がタイトルのスクイッド荘なわけです。ロケーションとしては、烏賊川市のゲソ岬の断崖絶壁にあり、しかも、クリスマスのシーズンですので大雪が降って孤立します。ミステリによくあるクローズド・サークルなわけです。謎解きはかなり複雑で本格的なのですが、動機がかなり薄弱だったりします。この作者らしく、ユーモアたっぷりのミステリなのですが、謎解きは本格的でかなり複雑です。この作者の、あるいは、特に烏賊川市シリーズのファンであれば、是非とも押さえておくべき1冊です。

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次に、シヴォーン・ダウド『ロンドン・アイの謎』(東京創元社)です。著者は、ロンドン生まれの英国の作家です。2007年に乳癌のため47歳で亡くなっています。英語の原題は The London Eye Mistery であり、2007年の出版ですが、その出版年に作者は亡くなっているわけです。本書はジュブナイル向けのミステリなのですが、かなり本格的です。ということで、ロンドンに住む12歳のテッドが主人公です。ご本人は「症候群」と称しているのですが、現在でいえば自閉スペクトラム症、当時の表現ではアスペルガー症候群ではなかろうかと推測されます。サヴァンに近いのかもしれません。両親と姉のカット(カトリーナ)と4人家族でロンドンで暮らしています。タイトルの「ロンドン・アイ」とは、大きな観覧車であり、30分で1周します。テッドの母親の妹、テッドからすれば叔母に当たるグロリアがその息子のサリムとともに、テッドの家を訪れます。マンチェスターに住んでいたグロリアとサリムはニューヨークに引越す途中にロンドンに立ち寄るわけです。そして、子供3人、すなわち、テッドとカットとサリムがその観覧車のロンドン・アイに乗りに行きます。チケット売り場に並んでいると、無精髭の男からチケットが余っているからと11時30分のチケットを1枚だけ無料でわけてもらいます。そして、サリムが1人でロンドン・アイに乗ることになるわけですが、観覧車が30分かけて回っている間にサリムが消えます。下りて来ないわけです。その謎をテッドが解き明かします。とっても本格的な謎解きです。決して、ジュブナイル小説と軽く考えて読むのはオススメできません。

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最後に、都留康『お酒はこれからどうなるか』(平凡社新書)です。著者は、一橋大学の名誉教授であり、したがって、というか、何というか、経済学者です。ですから、本書は酒作りの醸造技術なども、もちろん、取り上げていますが、主として経済学的な観点から「酒」に取り組んでいます。なお、同じ著者の前著に『お酒の経済学』(中公新書)というのがあるのですが、不勉強にして未読です。ということで、前半の第1章から4章までがお酒の種類別に、日本酒、ワイン、梅酒、ジンという順で国内における製造の歴史や消費・普及を跡づけ、後半の第5章から9章ではもっとお酒に関する飲み方や場所などのソフトな情報について取り上げています。すなわち、家飲み、居酒屋、醸造所・蒸溜所が併設された飲食店、ノンアルコール市場の拡大、となっています。一見して、ビールが無視されているように感じてしまい、ジンよりもビールじゃないの、という気がしますが、後半の第6章とか第7章で触れられています。私はビールか、ワインか、といった感じで、特に50代も後半に入ってからお酒をよく飲むようになった気がします。年齢とともに、ヒゲが濃くなり、サケを飲む量が増えた、といったところです。日本酒については吟醸酒などの最近の高級酒の解説が多く、別の機会に明らかにされているのかもしれませんが、私は清酒の開発についても取り上げてほしかった気がします。どぶろくなどのにごり酒から透明の清酒になったのは、その昔の造り酒屋でお給料の引上げがかなわなかった杜氏さんが、お酒の醸造樽に火鉢の灰を投げ込んだところ、翌朝には透明の酒になっていた、という伝説を聞いたことがあります。ホントか、どうか、は知りません。いずれにせよ、日本のワインや梅酒、あるいは酒にまつわる文化などについてよく取りまとめられている教養書だと思います。オススメです。

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2022年10月14日 (金)

OECD Education at a Glance 2022 の日本カントリーノートを読む!!!

今月に入って、10月3日に経済開発協力機構(OECD)から Education at a Glance 2022 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされていますが、私の大学の研究室からは読めるものの、誠に残念ながら、一般にはダウンロードできないようです。その Education at a Glance 2022 の日本カントリーノートがあります。日本の教育、特に高等教育について少しだけ感想を書き留めておきたいと思います。

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まず、リポートから Figure 1. Trends in the share of tertiary-educated 25-34 year-olds (2000 and 2021) を引用すると上の通りです。25-34歳に占める大学卒業者の割合は2000年から2021年のほぼほぼ20年間で一定の伸びを示していて、70%近くに達しています。基準となる2000年時点での大卒者割合がもともと高かったので、伸びの幅は決して大きくないのですが、先進国ばかりのOECD)加盟国の中でも大卒者割合は高い方に属しているのは明らかです。我が国教育のひとつの成果と考えるべきです。

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しかしながら、リポートから上のグラフの Figure 2. Composition of total public expenditure on education as a percentage of total government expenditure (2019) を引用すると政策評価は一変します。政府支出に占める教育への支出がかなりお粗末なわけです。OECD加盟国の平均が10%をラクに超えている一方で、日本では大きく下回っています。先進国間というわけながら、下から数えたほうが断然早いわけです。特に高等教育への政府支出が小さいように見えるのは、大学教員のひがみとしても、政府が教育、すなわち、人材育成や人的資本形成を軽視していることの現れであるとしか考えられません。石油元売り会社や電力会社などの大企業にホイホイと巨額補助金を出すくらいであれば、消費税率引下げや教育費支出の増加にもっと財源を振り向けるべく取り組んでいただきたいと考えます。

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2022年10月13日 (木)

企業物価指数(PPI)の上昇を見るにつけインフレ対策としての消費税率引下げを検討すべき!!!

本日、日銀から9月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+8.6%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数9.7%上昇 9月、民間予想を大きく上回る
日銀が13日発表した9月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は116.3と、前年同月比9.7%上昇した。前年の水準を上回るのは19カ月連続で、民間予想を大きく上回った。ロシアのウクライナ侵攻を受け、電力やガスなどの資源価格が高騰している。円安も物価高に拍車をかけ、石油危機の影響が残っていた1980年以来となる高い伸びが続く。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。9月の指数は調査を開始した1960年以降で最も高かった。
上昇率は民間予測の中央値である8.8%を0.9ポイントと大きく上回った。8月の上昇率は9月発表時点の9.0%から9.4%に上方修正された。
品目別にみると、電力・都市ガス・水道(38.8%)、鉱産物(26.2%)、鉄鋼(26.1%)など資源価格の上昇が目立つ。飲食料品(6.4%)など消費者に近い商品も高止まりが続いている。
円安の影響も続く。9月の外為市場では円相場が一時1ドル=145円台後半まで下落した。円ベースの輸入物価の上昇率は48.0%と、ドルなど契約通貨ベースの21.0%を大幅に上回った。円ベースの輸出物価の上昇率は20.1%、契約通貨ベースでは2.9%だった。

いつもの通り、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+8.8%と見込まれていましたので、実績の+9.7%は大きく上振れし、予想レンジの上限である+9.1%も上回りました。何度も繰り返していますが、PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、為替レートが減価している円安要因です。また、少し前までの我が国製造業のサプライチェーンにおける半導体などの供給制約については、私も詳しくないのですが、報道ではそれほど見かけなくなりましたので、後景に退いている気がします。品目別には、引用した記事の4パラめにあるように、鉄鋼+26.1%、石油・石炭製品+14.7%、金属製品+12.3%、非鉄金属+11.8%、化学製品+10.4%が2ケタ上昇となっています。消費者の国民生活に強く関連する飲食料品+6.4%も高止まりしています。

そして、こういった物価高に対する経済対策として、政府では電力料金の激変緩和のために電力会社に巨額の補助金を出すことを検討していると、朝日新聞日経新聞などで報じられています。ただし、まったく同じ趣旨で石油元売り各社に投じられた「燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金」などについて、今年2022年10月の財務省による「予算執行調査」によれば、3~7月分の推計で補助総額の2%に当たる110億円分が価格に反映されておらず、その差額は販売店の経営改善に使われていたのではないか、と指摘されています。
電力会社への補助金でも同様に価格へ反映されない部分が生じる可能性が充分あると考えるエコノミストは私だけではないと思います。そもそも、こういった大企業への補助金は市場における価格メカニズムに歪みを生じて、化石燃料価格の上昇による地球温暖化=気候変動の緩和効果を大きく減殺します。SDGsに反した政策であると考えるべきです。ですから、消費者や中小企業への所得支援が代替策として考えられるのですが、ここはもっとシンプルに、時限措置でもOKかと思いますので、インフレ対策としての消費税率の引下げが検討されて然るべき、と私は考えています。

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2022年10月12日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」をどう読むか?

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昨夜のエントリーからの再掲ですが、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economc Outlook が公表されています。上の画像はIMFのサイトから成長率見通しの総括表 Latest World Economc Outlook Growth Projections を引用しています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。その書き出しの1センテンスだけ引用すると以下の通りです。

Inflation and Uncertainty
The world is in a volatile period: economic, geopolitical, and ecological changes all impact the global outlook. Inflation has soared to multidecade highs, prompting rapid monetary policy tightening and squeezing household budgets, just as COVID-19-pandemic-related fiscal support is waning.

IMF Blog のサイトから、いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはIMF Blog のサイトから Broad slowdown を引用しています。左のパネルを見れば理解できるように、2000-21年の平均成長率よりもおおむね今年2022年7月の「世界経済見通し改定」では成長率見通しが低くなっていて、この10月の「世界経済見通し」ではさらに下方改定されています。すなわち、世界経済は失速 slowdown しているわけです。ただ、我が日本だけは、一番最初に再掲した世界成長率見通しに総括表を見ても判るように、2020-21-22年の3年で成長率には大きな変化ありません。要するに、日本ではインフレが更新しておらず金融引締めでインフレを抑制する必要がない、という事実がインプリシットに示されています。ただ、右のパネルのファンチャートを見ても判るように、この見通しには大きな不確実性がある点には注意が必要です。

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この世界経済の失速の大きな要因はインフレ抑制のための金融引締めです。そして、現在のインフレは今年2022年後半に+10%弱でピークとなり、2023年中には+4%近くまで抑制される、と見込まれています。ただし、ダウンサイドのリスクがいくつか上げられています。以下の通りです。

  • The risk of monetary, fiscal, or financial policy miscalibration has risen sharply amid high uncertainty and growing fragilities.
  • Global financial conditions could deteriorate, and the dollar strengthen further, should turmoil in financial markets erupt, pushing investors towards safe assets. This would add significantly to inflation pressures and financial fragilities in the rest of the world, especially emerging markets and developing economies.
  • Inflation could, yet again, prove more persistent, especially if labor markets remain extremely tight.
  • Finally, the war in Ukraine is still raging and further escalation can exacerbate the energy crisis.

最初の点は政策の誤謬の可能性です。不確実性が高いわけですので、政策が間違う可能性も充分あると考えられます。いわゆる景気のオーバーキルも含めて、ということなのですが、もちろん、逆サイドのリスクとして、政策が間違って、あるいは、不十分に終わってインフレが抑制されない、というリスクもあります。2番めから4番目はそういう方向です。すなわち、2番めはドル高の継続により途上国のインフレ圧力が高まる可能性を指摘しています。3番めは労働市場で人手不足が続いてインフレが低下しないリスクです。そして、最後の4番目はウクライナ危機が継続していることから、エネルギー価格がそれほど低下しないリスクです。そして、ここでは触れられていませんが、もちろん、小麦をはじめとして食料価格がそれほど低下しない可能性もあります。

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IMF「世界経済見通し」の最後に、リポート p.9 の Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections を引用すると上の通りです。テーブルの下の方で見にくいのですが、商品価格のうちの石油価格については、2021年に+65.9%の価格上昇があった後、今年2022年にも+41.4%値上がりするものの、来年2023年には▲12.9%低下する、と見込まれているようです。

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最後の最後に、目を国内に転じると、本日、内閣府から8月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲5.8%減の9,098億円となっています。いつのもグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。

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2022年10月11日 (火)

3か月連続で改善した9月の景気ウォッチャーと黒字が大きく縮小した8月の経常収支をどう見るか?

本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+2.9ポイント上昇の48.4となった一方で、先行き判断DIは▲0.2ポイント低下の49.2を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+589億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。ただし、経常収支については最初の3ラだけを引用しています。

街角景気「持ち直しの動き」 9月、2カ月連続改善
内閣府が11日発表した9月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、3カ月前と比べた現状判断指数(DI、季節調整値)は48.4と、前月比2.9ポイント上昇した。上昇は2カ月連続。新型コロナウイルスの新規感染者数が減少し、飲食など外出関連で景況感が改善した。
調査期間は9月25~30日。好不況の分かれ目となる50は下回った。内閣府は現状の景気の基調判断を前月の「持ち直しに足踏みがみられる」から、「持ち直しの動きがみられる」に引き上げた。
家計動向関連は48.8と5.0ポイント上がった。飲食関連は前月の37.1から、19.6ポイントの大幅上昇で56.7となった。企業動向関連は45.5と2.0ポイント下落した。
調査対象者からは「週末は例年の8割ほどまで回復している」(沖縄の居酒屋)、「1組あたりの人数が増えており、団体予約も増えてきている」(北関東のレストラン)といったコメントがあった。
物価高への懸念の声も多く上がった。「継続的な円安に加えて値上げラッシュで、先行き不安でしかない」(東海の製造業)、「物価上昇により明らかに買い上げ点数が落ちている」(九州のスーパー)などの声が聞かれた。
2~3カ月後の先行き判断指数は49.2で0.2ポイント下がった。「10月からさらに値上げが進むため、状況はかなり厳しい」(近畿のスーパー)といった懸念の声が出た。
経常黒字96%減589億円 8月で最小、円安・資源高響く
財務省が11日発表した8月の国際収支統計(速報)によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は589億円の黒字だった。黒字額は前年同月から96.1%減り、8月としては比較可能な1985年以降で最小となった。単月で黒字になるのは2カ月連続となる。円安や資源高でエネルギー関連の輸入額が膨らんだ。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。
貿易収支の赤字が過去最大の2兆4906億円となり、全体を押し下げた。輸入額が10兆5502億円と52.9%増えた。単月で10兆円を超えるのは初めてだ。原油と石炭、液化天然ガス(LNG)の値上がりが響いた。8月の原油の輸入価格は1バレルあたり112ドル41セントと前年同月比52.3%上がった。円建ては1キロリットルあたり9万5610円と87.5%の大幅な上昇だった。輸入物価の上昇に円安が拍車をかけている。

よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、3月21日でまん延防止等重点措置の行動制限が終了した後、4月50.4、5月54.0、6月52.9と50超の水準が続いたものの、COVID-19の感染拡大により7月は43.8へ大きく悪化した後、8月45.5、9月48.4と、緩やかに改善してきているものの、その前の水準には戻っていません。官庁である内閣府では、基調判断を6月の「緩やかに持ち直している」から、7~8月は「持ち直しに足踏みがみられる」と半ノッチ下方修正していました。しかし、9月もジワリと現状判断DIが改善したことから、「持ち直しの動きがみられる」に、またまた、細かく半ノッチ上方修正しています。ただし、先行き判断DIがやや低下したのは、引用した記事にもあるように、10月から食品を中心に値上げラッシュとなるためで、売上への影響は避けられない、という見方だろうと思います。現状判断DIに戻って、9月の統計を8月からの前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が+5.0ポイントの改善と、企業動向関連の▲2.0ポイントの悪化よりも大きく上昇しています。中でも、飲食関連が+19.6ポイントの上昇となっています。いかにも、COVID-19の感染拡大に対応した動きと私は考えています。何度か、このブログでも明らかにしているように、消費は所得とマインドの影響が大きく出ます。マインドは何といってもCOVID-19次第ということですから、エコノミストの手に負えません。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、8月統計ではかろうじて経常黒字を計上していますが、季節調整済みの系列では、先月7月統計に続いて7~8月と2か月連続で経常赤字を記録しています。季節調整済みの系列では、昨年2021年6月から本日公表された8月まで、15か月連続の貿易赤字を記録していますし、季節調整していない原系列の統計でも、昨年2021年7月から14か月連続の貿易赤字です。経常黒字の赤字化ないし黒字幅の縮小は、貿易収支の赤字が大きな要因です。しかし、広く報じられているのでついつい信じ込みやすくなるのですが、今年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は、この時系列的な流れからも理解しておくべきです。ただ、いつものことながら、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしていますので、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然であり、消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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最後に、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economc Outlook が公表されています。世界経済の成長率は、2022年の+3.2%から2023年は+2.7%に失速すると見込まれています。インフレ抑制のための金融引締めが経済失速の大きな要因と指摘されています。また、機会を見つつ日を改めて取り上げる予定です。上の画像はIMFのサイトから成長率見通しの総括表 Latest World Economc Outlook Growth Projections を引用しています。

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2022年10月10日 (月)

ノーベル経済学賞は銀行と金融危機の研究により米国連邦準備制度理事会のバーナンキ元議長ら3人に授与!!!

今年のノーベル経済学賞は、広く報じられている通り、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会の議長を務めたバーナンキ教授ら3人に授与されています。ノーベル財団のサイトから引用すると以下の通りです。

nameaffiliationmotivation
Ben S. Bernanke
Born: 13 December 1953, Augusta, GA, USA
The Brookings Institution, Washington, D.C., USAfor research on banks and financial crises
Douglas W. Diamond
Born: 1953
University of Chicago, Chicago, IL, USAfor research on banks and financial crises
Philip H. Dybvig
Born: 22 May 1955
Washington University, St. Louis, MO, USAfor research on banks and financial crises

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2022年10月 8日 (土)

今週の読書は地経学書をはじめとして計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、地経学書、安全保障に関する専門書、小説2冊で、うち1冊はミステリの計4冊です。お手軽に読める新書や文庫がなく、やや重厚な本が多かった上に、今週から大学の後期授業が本格的に始まって、読書量は少し減っているかもしれません。ただ、新刊書ではないので、このブログの読書感想文には取り上げませんが、太田愛『幻夏』(角川文庫)を読みましたので、Facebookでシェアしていたりします。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~9月の夏休みに66冊、10月に入って先週が6冊で、今週が4冊ですので、今年に入ってから182冊となりました。11月早々には200冊に達することと思います。

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まず、片田さおり『日本の地経学戦略』(日本経済新聞出版)です。著者は、一橋大学後出身の南カリフォルニア大学の研究者であり、英語の原題は Japan's New Regional Reality となっています。地経学=Geoeconomics はサブタイトルに Geoeconomic Strategy in the Asia-Pacific という形で入っています。原書は2020年の出版です。ということで、やや用語法などが私の感覚とは違うのですが、地経学のテキスト、というか、日本への応用ということで読んでみました。というのは、地経学ではなく、地政学として今世紀に入ってからの中国の台頭に関する分析はよく目にするのですが、地経学的な分析は十分ではないような気がするからです。用語法で少し違和感あるとしても、日本の場合は、地経学的には国家主導のリベラルな戦略への国際社会、というよりは、米国からの圧力を受けている、と本書では指摘しています。ここでの「リベラル」な戦略というのは、ネオリベとかに対置される用語ではなく、市場を活用した、とか、市場経済に基づく、といった形容詞に近くて、中国やロシアなどの権威主義的な政治体制の下での経済に対応しているようです。また、埋め込まれた=エンベッドされた重商主義というのも、実に的確に日本の地経学的なポジションを表していると受け止めています。いかにも、世界に出て稼いでこい、という感じです。そして、本書の指摘と私の感覚が一致するのは、地経学的な重要戦略は「世界に出て稼ぐ」ために国家間の経済交流、貿易という財・サービスの交易と資本移動に関するルールのセッティングである、という点です。TPPが当時のトランプ米国大統領により米国抜きでスタートした一方で、RCEPがかなり質の高い貿易投資協定として作用し始めています。こういった世界あるいは地域における経済活動の交流に関するルールの設定に対する関与、あるいは、場合によっては、単にナイーブに内外無差別のルールだけではなく、自国利益に沿ったルールのカッコ付きでの「押し付け」のできるパワーを保有するための戦略、ということです。古典派経済学的な自由貿易や自由な資本移動、というのも重要なのですが、それを、いわば口実として自国の都合を優先させたりするわけです。ただ、私は本書でやや物足りない点が3点あります。第1に、ODAをはじめとする国際開発援助を地経学的に以下に利用できるか、あるいは、利用するべきではないか、という点です。この国際開発援助については、中国がアフリカ諸国などに対してかなり強引に実行していて、スリランカなどでは借款が返済できずに検疫を中国に差し出している例があるとも報じられていたりします。私は日本が経済大国であることを授業で説明する際に、このODAの統計を示したりしています。地経学的な戦略でもひとつの指標として取り上げるべきではないかと考えています。第2に、サプライチェーンの形成です。レピュテーションも含めて、サステイナブルではないサプライチェーンの再構築は重要な問題だと思うのですが、サプライチェーンは企業任せ、でいいのか悪いのか、やや気にかかる点です。第3に、地政学的には覇権国に対して新興国が台頭するとツキディディスの罠によれば、武力衝突が生じる可能性が高まります。他方、地経学的に中国の台頭に対して米国はどのように反応するのか、あるいは、対応すべきなのか、本書では日本の地経学の分析ですから、ややスコープ外なのかもしれませんが、私は懸念しています。最後に、その昔の『レクサスとオリーブの木』では、マクドナルドが展開している国の間では武力衝突は起こらない、といった旨のグローバリズム礼賛が表明されていましたが、実際には、武力行使に及んだ国からはマクドナルドが撤退する、という事実がロシアのウクライナ侵攻により明らかにされました。地政学や地経学の戦略に関しては時々刻々とリアリティ=現実に基づいてアップデートされます。専門外とはいえ、武力行使がインフレや成長鈍化をもたらしているのも事実ですし、少し勉強しておきたい気がします。

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次に、森本敏・小原凡司[編著]『台湾有事のシナリオ』(ミネルヴァ書房)です。編著者は、民間から貿易大臣も経験した研究者と笹川平和財団の研究者です。本書も笹川平和財団の研究会の成果を取りまとめています。地経学に関する専門書を読んだのに合わせる形で本書も読んでみました。ただ、コチラは安全保障の専門書であり、基本的な中国の台湾観から勉強する必要がありそうな気すらします。すなわち、私のような安全保障戦略のシロートですら、「ひとつの中国」という原則に基づいて、台湾が独立国としての国家主権を認められていない一方で、香港などでは一国二制度といいながら、実は、香港を権威主義的な中国化する動きが急ピッチで進んでいる、という事実は見知っています。ただ、1980年代までの米ソを筆頭とする東西冷戦が終了したのは、経済力に基づくソ連の崩壊であり、決して武力により社会主義体制が崩壊したわけではない、という事実も明らかです。ですから、本書のタイトルのように、台湾有事として武力により中国が名目的な「ひとつの中国」を達成する方向にある、という点は理解が進みにくくなっています。しかも、台湾のバックには米国の武力が控えている、というのも、なかなか直感的には理由が明らかではありません。ただ、その背景はあくまで安全保障戦略に基づく地政学的な理由であり、台湾が中国に「併合」されると、経済的には何が生じるのかは、本書のスコープ外となっています。すなわち、香港については権威主義的な中国政府の圧力が高まると金融市場としての魅力が一気に低下するわけで、台湾の製造業とは少し経済的な影響が異なる気がします。もちろん、製造業としても金融業ほどではないとしても、市場に基づく自由で分権的な生産体制のほうが効率的であることは間違いありませんが、香港金融市場の魅力が低下するとシンガポール市場が相対的に浮上する可能性があるのと同じように、台湾が生産力を低下させると別の製造業エリアが代替するだけ、という点から情報処理産業という面が強い金融業よりも製造業のほうが大体はスムーズ、と考えるのは私のようなシロートだけなんでしょうか。まあ、それは別としても、本書では台湾有事の経済的な影響はスコープ外となっていて、武力衝突に関する分析が本書では取り上げられています。戦力比較た軍事的な体制などについては、私は理解が及びませんでしたが、中国の軍事的かつ経済的な台頭を受けて、台湾海峡に緊張感が高まっているという事実は感じ取ることができました。でも、実際に武力衝突が生じれば、日本の戦略なんて独自視点はまったく考慮されず、自衛隊は米軍指揮下に入って、米軍の軍事戦略に100パーセント従う形で台湾有事に対応することになるんではないか、とシロートながら私は想像しています。でも、それなりのシナリオ分析は必要かもしれません。

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次に、越谷オサム『たんぽぽ球場の決戦』(幻冬舎)です。著者は、ファンタジー・ノベルでデビューし、『陽だまりの彼女』文庫版がミリオンセラーとなった小説家なのですが、私は初読でした。表紙画像を見て理解できる通り、野球に関する小説です。埼玉県北あだち市を舞台にし、主人公は20代半ばのアルバイターなのですが、高校2年生まではいわゆる「超高校級」のピッチャーとして埼玉県内では大いに注目されていました。しかし、肩を壊して野球を止めた挫折してしまいました。ところが、20代半ばになって、市会議員をしている母親から勧められて野球チームを結成することになります。そして、主人公がとても社交性に欠けることから、主人公と同じ高校の同級生で野球部の主将も務めていた社交性バツグンのチームメイトにコーチ役の助っ人を頼み、2人で新チームを立ち上げます。何と募集のひとつの条件は野球で挫折した経験を上げていたりします。もちろん、大したチームが出来るわけではなく、老人とその孫とか、野球はマネージャーをやった経験があるだけという女子大生とか、まるっきり運動不足の大学生とか、いろいろとクセのある選手が、なんとか9人のチームが結成できるだけ集まります。他方で、主人公は高校時代にかなりの「ビッグマウス」であったらしく、他校の選手などから決して好意を持たれていたわけではなく、市営の河川敷球場のとなりのグラウンドで練習している草野球チームの主力投手から敵意むき出しで対応されたりします。そして、何と無謀にも、その草野球チームと対外試合を行うことになるわけです。まあ、タイトルの「決戦」というのはかなり大げさなのですが、許容範囲かもしれません。ただ、試合結果がやや疑問残るという読者もいるかも知れません。いかにも主人公チームの寄せた結果とみなす読者からは試合結果についての異議が出る可能性はあります。ギリギリ、ネタバレにならない範囲でこれくらいにしておきます。

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最後に、東川篤哉『うまたん』(PHP研究所)です。著者は、『謎解きはディナーのあとで』がミリオンセラーとなったミステリ作家です。単なるミステリ作家ではなく、「ユーモア・ミステリ作家」というべきかもしれません。ということで、この作品もユーモア・ミステリなのですが、同時に、特殊設定ミステリでもあります。私が最近読んだ中では方丈貴恵の作品がとびっきりの特殊設定だったのですが、それはそれとして、この作品では人間の言葉を理解するウマが推理して謎解きをします。主人公は房総半島にある牧場、牧牧場(まきぽくじょう)の牧場主の娘のJK牧陽子で15歳、他方、推理の謎解きをするウマ15歳で、函館大賞典優勝のサラブレッド、名はルイスです。ユーモア・ミステリですので、ウマ探偵のスイスは主人公のことを「マキバ子」ちゃん、すなわち、牧陽子ではなく、牧場子と呼んだりします。まあ、重賞優勝馬ではないので種牡馬としてではなく、馬主のご厚意によりウシ中心の房総半島にある牧場で悠々の老後の生活を送っているという設定です。しかも、このウマ、ルイスが人間の言葉を理解し、人間の言葉をしゃべります。というか、正しく表現すれば、主人公の牧場主の娘だけが聞き取れる言葉をしゃべり、他方、人間の言葉はすべからく理解できたりします。我が家からもほど近い栗東のトレセンで長らく過ごしたせいか、コテコテの関西弁をしゃべります。この作品は短編5話から編まれており、うち2話では殺人が起こります。ウマ探偵ルイスが真相を解き明かして、主人公の牧陽子に話して聞かせ、然るべく事件が解決する、というストーリーです。収録短編作品のタイトルだけ列挙すれば、「馬の耳に殺人」、「馬も歩けば馬券に当たる」、「タテガミはおウマの命」、「大山鳴動して跳ね馬一頭」、「馬も歩けば泥棒に当たる」となります。殺人事件は1作めと3作めであり、私がもっとも評価する短編は4作目です。ルイスの事件の取りまとめが秀逸だったりします。

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2022年10月 7日 (金)

3か月連続の上昇となった8月の景気動向指数と過熱感残る米国雇用統計をどう見るか?

本日、内閣府から8月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から+2.0ポイント上昇の100.9を示し、CI一致指数も+1.6ポイント上昇の101.7を記録しています。まず、やや長くなりますが、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

8月の景気動向指数 3年3カ月ぶり高水準
内閣府が7日発表した8月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比1.6ポイント高い101.7だった。改善は3カ月連続。19年5月(101.9)以来、3年3カ月ぶりの高い水準となった。中国・上海市の都市封鎖(ロックダウン)が6月に解除されて以降、半導体製造装置の生産などで回復が続く。
内閣府は指数をもとに機械的に作成する景気の基調判断を「改善を示している」のまま据え置いた。7カ月連続同じ判断とした。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目をみると、7項目が上昇、1項目が下落要因となった。半導体製造装置などの生産がプラスに寄与し、卸売業の販売額も伸びた。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は前月比2.0ポイント上がって100.9となった。4カ月ぶりに上昇した。新型コロナウイルス禍で行動制限がない夏となり、消費者態度指数が3カ月ぶりにプラスに寄与した。今後は足元で進む円安や、原材料高などが下振れリスクになる可能性がある。

いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、8月統計のCI一致指数については、3か月連続の上昇ながら、景気の山だった2018年10月統計は105.3に比べて、まだまだこの水準には達しません。景気動向指数CI一致指数は景気のボリューム感も表現しているハズですので、こういった比較は十分意味があります。ということで、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与が大きい順に、有効求人倍率(除学卒)+0.46ポイント、生産指数(鉱工業)+0.42ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)+0.41ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)+0.33ポイントなどとなっています。他方、マイナス寄与は、トレンド成分の労働投入量指数(調査産業計)を別にすれば、輸出数量指数▲0.29ポイントだけとなっています。CI一致指数の3か月後方移動平均、7か月後方移動平均はともにプラスであり、引用した記事にもある通り、基調判断は「改善」で据え置かれています。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については楽観的に私は見ています。例えば、CI先行指数は3か月ぶりに前月から上昇しました。もっとも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は何とも見通せませんし、円安も1ドル140円を突破してどこまで進むのかは不透明です。加えて、海外要因についても、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。ですから、全体としては、リスクは下方に厚い可能性を否定するのは難しい気がします。

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目を米国に転じると、米国労働省から9月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の7月統計では+263千人増となり、失業率は前月から▲0.2%ポイント低下の3.5%を記録しています。いつもの米国雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。
ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率も3%台半ばですので、人手不足は落ち着きつつあるものの、労働市場の過熱感はまだ残っていると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。なお、USA Todayのサイトで報じられているように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+250千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はほぼほぼジャストミートしたといえます。それだけに、FEDは金融引締を継続するでしょうから、米国経済はこのまま景気後退=リセッションに進む可能性が高い、と私自身は考えています。ただし、他方で、日本経済は米国よりも中国経済の影響の方が強くなっていることから、米国のリセッションからデカップリングされる可能性はまだ残されていると期待しています。ただ、中国はゼロ・コロナ政策ですので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大次第、という面はあります。

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ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の経済見通しやいかに?

日本時間の昨夜10月6日、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事が米国ジョージタウン大学で講演し、「世界経済の3分の1が来年までに2四半期連続のマイナス成長に陥る」、"We estimate that countries accounting for about one-third of the world economy will experience at least two consecutive quarters of contraction this or next year." との見方を示しました。近くIMFの「世界経済見通し」が公表されることと思いますが、これを後援しているピーターソン国際経済研究所(PIIE)から PIIE CHARTSのサイトGlobal growth outlook dims as recessions loom と題して以下のグラフが明らかにされています。たぶん、IMFの「世界経済見通し」を踏まえているのだと思いますので、取り急ぎ、ご紹介だけしておきます。日本については、「インフレは依然として緩やかだが、対外景気減速が需要の重しになる」 "Inflation still moderate, but external slowdown will weigh on demand" と、2022年+1.6%、2023年+1.3%の成長と評価しています。何ら、ご参考まで。

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2022年10月 6日 (木)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編を読む!!!

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook, October 2022 の分析編 Analytical Chaptersが公表されています。まず、チャプターのタイトルは以下の通りです。

ch2
Wage Dynamics Post-COVID-19 and Wage-price Spiral Risks
ch3
Near-term Macroeconomic Impact of Decarbonization Policies

私のこのブログでは国際機関のリポートを熱心に注目しており、ひとつの特徴となっています。従って、このリポートについても、図表とともに簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポート第2章から Figure 2.3. Changes in Wages, Prices, and Unemployment after Past Episodes with Accelerating Prices and Wages を引用しています。第2章では、インフレに焦点を当てていて、現在のインフレが賃金上昇とスパイラルを生じて、インフレ率が上昇するとともに、高インフレが長期に継続するリスクを分析しています。結論としては、過去のよく似た22の事例のエピソード分析により、そういった物価-賃金スパイラルを生じるリスクは大きくないとの検証結果が示されています。上のグラフでは、米国を例に、インフレ率、失業率、明国賃金上昇率、実質賃金上昇率について22のエピソードのメディアンをプロットしています。赤いラインだけはそれらのエピソードの中から、もっともインフレの厳しかった1973年の第1次石油危機の際のデータをプロットしています。第1次石油危機の際のインフレや失業率の上昇はたしかに大きいのですが、22のエピソードのメディアンはそれほどでもありません。その理由としては、インフレを引き起こしたショックが労働市場の外からもたらされていること、実質賃金の低下が物価上昇の抑制に役立っていること、中央銀行が積極的に金融引締め政策を取っていること、の3要因が物価-賃金スパイラルを生じさせるリスクを抑制している、と分析しています。

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次に、上のグラフはリポート第3章から Figure 3.3. Macroeconomic Impact of Different Recycling Options in the United States を引用しています。2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、この先10年間で温室効果ガスの排出量を少なくとも¼に削減する必要があるのですが、こういった温室効果ガスの大きな排出削減は、短期的には経済的コストを発生させる一方で、気候変動を遅らせるという長期的な利益に比べればわずかなものである、と指摘しています。上のグラフは、実質GDP、インフレ率、雇用、賃金、実質消費、実質投資について、短期的なコストによる下振れと労働税制や生産に対する補助金を組み合わせた効果をプロットしています。温室効果ガスの削減に起因する成長率の低下やインフレ率の上昇といったコストがかなりの程度に緩和されることが示されています。

もう少しすれば、国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」の見通し編も公表されることと期待しています。機会があれば、改めて取り上げたいと思います。

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2022年10月 5日 (水)

帝国データバンク「『食品主要105社』価格改定動向調査」の結果やいかに?

10月1日付けで、帝国データバンクから「『食品主要105社』価格改定動向調査」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、調査結果を3点帝国データバンクのサイトから引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 輸入小麦・原油価格など主な値上げ要因は沈静化の兆し、電気代など新たな値上げ要因に注目
  2. 10月は年内値上げのピークに 値上げ6700品目は今年最多規模
  3. 乳製品で11~12月に値上げ相次ぐ 生乳価格上昇でパック牛乳など対象

従来から、10月1日には大幅値上げが実施されるとされていて、とても気になるところです。リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 2022年の食品値上げ(9月30日時点)品目数/月別 を引用すると上の通りです。あくまで対象は主要飲食料品メーカー105社なのですが、それでも、10月の値上げ品目数は6,699品目となり、直前の8~9月に比べて2倍を超える品目が値上げされる予定です。なお、9月までに値上げされたのは1万3066品目あり、年内に値上げが予定・計画されているのが2万665品目となっています。加えて、平均値上げ率は14%に達しています。モノにもよりますが、一般に、食品は選択性が乏しく、逆に、必需性が高くて代替性が小さいことから、食品価格の上昇は家計に厳しく、しかも、低所得家計ほど逆進的に負担が大きい、と考えるべきです。

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リポートから 主な食品分野 価格改定の動向 を引用すると上の通りです。見れば明らかな通り、食品分野別に値上げとなった品目の中でもっとも多いのは加工食品で年内8,530品目に上ります。値上げ幅も16%と最大となっています。続いて、調味料では4,808品目、15%、酒類・飲料3,970品目、15%、菓子1,332品目、13%、そして、乳製品985品目、12%となっています。乳製品だけ少し文字色をつけているのは、前月から285品目の増加となっているほか、輸入飼料の価格高騰などを背景に、飲用・発酵乳用途向けの生乳取引価格が11月以降引き上げられる予定となっているからだそうです。

何度も繰り返しますが、インフレ対策としては、政府が市場価格に介入して、すなわち、供給サイドの企業に補助金を出す形で価格を抑制するのではなく、所得や消費に応じて需要サイドの中小企業や家計に必要な支援を行うのが望ましいと私は考えています。例えば、食料品ではなく燃料を考えれば明白ですが、価格を抑制するために化石燃料消費に補助を出すのは気候変動=地球温暖化に補助を出しているようなものです。こういった観点も必要です。

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2022年10月 4日 (火)

高等教育における社会人向け教育の必要性やいかに?

先週火曜日の9月27日に、経済協力開発機構(OECD)から The New Workplace in Japan と題するリポートが公表されています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大から、日本の雇用に必要とされるスキルが大きく変化し、特に、社会人の学び直しを重視する必要がある、という結論を示しています。まず、OECDのサイトからこのリポートの要約を引用すると以下の通りです。

The New Workplace in Japan: Skills for a Strong Recovery
In the context of a rapidly changing world of work, the COVID-19 pandemic has heightened pre-existing challenges to Japan's adult learning system and raised new ones. This report examines how skill requirements have been evolving in Japan prior to and during the COVID-19 crisis. It examines changes in the skills composition of Japan's workforce as well as policy efforts to improve the accessibility of career guidance, broaden training participation and foster the adoption of teleworking practices. The report also provides concrete recommendations to tackle inequalities in skills and training among socio-demographic groups. Finally, it provides suggestions for how to develop a labour market information system to feed real-time data into crucial policy and decision-making processes.

3章構成となっていて、以下の通りです。

Chap. 1
How the labour market and skills needs in Japan are changing during the COVID-19 crisis
Chap. 2
The policy response of the Japanese Government during the pandemic
Chap. 3
Looking ahead: Innovative skills policies for a strong recovery

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目次を見ても明らかな通り、どうしても、コロナに目が起きがちなのですが、私はもっと第3章に注目すべきと考えています。例えば、上のグラフは第3章p.73から Figure 3.2. Non-regular (temporary) workers are employed in generally lower-skilled jobs を引用しています。いくつかの分野では、期間の定めのない正規職員よりも臨時の非正規職員の方がスキルが低いとされています。もちろん、因果関係は複雑です。スキルが低いので非正規として働いているのか、それとも、非正規の職しかなかったのでスキルの伸びが十分でなかったのか、特に後者では、どうしても伝統的にOJTが充実してしまっている日本の職場においては格差拡大の方向に作用するおそれが十分あります。ですから、昨日の岸田総理大臣の所信表明演説にもあったリスキリングのような形も含めて、社会人向けの教育はそれなりに重要です。もちろん、学齢期の生徒や学生に対する教育も重要なのですが、新卒一括採用が一般的で初職から長期雇用につながるケースが少なくない日本の労働市場においては、入職時のつまずきが一生涯の長きにわたって残存し、あるいは、格差拡大の方向で作用しかねません。これを防止するためには社会人になってからの教育、特に、高等教育の果たすべき役割は重要です。

ひるがえって、我と我が身を見ると、私の勤務している大学では、海外からの留学生を大学院に受け入れる体制を整備・強化しようとしているように見えます。橋本内閣の時に国際協力については「重点化」の名のもとに実態的な削減が始まってもう25年になります。経済系の大学院の場合、日本人院生は極めて限られたトップ校に向かい、私の勤務している大学くらいであれば、留学生がほとんどです。そろそろ、社会人向けの大学院授業の充実を図らないと時代に取り残されそうな気がするのですが、東京に位置する大学と関西のそれも京阪神からやや距離のある大学のロケーションの差が埋めきれない可能性はあるのかもしれません。

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2022年10月 3日 (月)

業況判断DIが3期連続で悪化した9月調査の日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から▲3ポイント悪化し+14となりました。悪化は2020年6月調査以来、実に7四半期ぶりです。また、本年度2022年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+0.8%の増加が見込まれています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、3期連続悪化 9月日銀短観
日銀が3日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は前回の6月調査から1ポイント悪化し、プラス8となった。資源高と円安を背景とした原材料コストの増加が景況感を下押しし、3四半期連続で悪化した。大企業非製造業は新型コロナウイルスの影響が緩和したことから2四半期連続で改善し、プラス14となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値だ。9月調査の回答期間は8月29日~9月30日。回答基準日の9月12日までに企業の7割台半ばが答えた。
大企業製造業の業況判断DIはプラス8と、QUICKが集計した市場予想の中央値(プラス11)を下回った。中国のロックダウン(都市封鎖)が6月に解除されたことを受けて自動車産業を中心に景況感が改善した業種もみられたが、幅広い業種が原材料高の影響で悪化した。先行きは円安が業績の追い風になることなどから、プラス9と足元から小幅の改善を見込んでいる。
資源高と円安を背景とした原材料高が続くが、販売価格に価格転嫁する動きも進んでいる。大企業製造業の仕入れ価格判断DI(仕入れ価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」の割合を引いた値)はプラス65と、6月調査と並んで1980年5月以来の高水準にある。販売価格判断DIも6月から2ポイント上昇してプラス36と、仕入れ価格判断DIと同じ約42年ぶりの高水準だ。
企業の消費者物価見通しも上昇しており、全規模全産業の1年後の見通し平均は前年比2.6%上昇と、調査を始めた2014年以降で過去最高だ。3年後見通しは2.1%、5年後見通しは2.0%と、どれも2%台となっている。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス14と市場予想(プラス12)を上回った。7月から8月にかけて新型コロナの感染が拡大したが、厳しい行動制限措置がとられなかったことで改善の動きが続いた。宿泊・飲食サービスや不動産、通信などで改善がみられた。
企業の事業計画の前提となる22年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=125円71銭と、6月調査(118円96銭)から円安方向に修正された。ただ、足元の円相場は1ドル=144円台後半で推移しており、修正された想定レートよりも大幅な円安・ドル高水準にある。

とても長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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先週水曜日の9月28日に日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関してはほぼ横ばい圏内の動きであり、胆管のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが6月調査kラ▲1ポイント悪化、逆に、大企業非製造業は1ポイントの改善となりました。加えて、先行きの景況感も明確に改善する方向にあるとはいい難く、総じて停滞色が強い内容と私は受け止めています。製造業では半導体をはじめとする部品供給制約の緩和が、また、非製造業では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染拡大の落ち着きが、それぞれ好材料となっている一方で、原材料価格や資源価格の高騰が重荷になっている印象です。もちろん、欧米先進国での中央銀行による利上げや金融引締めによる景気後退懸念は引き続き強まっていますし、中国のゼロコロナ政策に基づく上海などにおけるロックダウンの可能性も不透明感を増しています。これらの要因を総合的に勘案すると、先行きも明るいとはとても思えません。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも不足感が広がる傾向にあります。DIの水準として、設備については、明らかに、不足感が広がる段階には達したといえます。また、雇用人員については足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があると私は考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。加えて、COVID-19の感染拡大の動向に起因する不透明感は設備と雇用についても同様です。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。その意味で、本日公表の9月調査では2022年度の設備投資計画は+16.4%増と、6月調査から大きく上方修正されました。やや大きすぎるように私には見えるのですが、COVID-19パンデミック以降に大きく抑制されていた設備投資の反動増という面が強い、と私は考えています。ただ、最後の着地点がどうなるか、これまた、COVID-19とウクライナ危機の動向に照らして不透明です。

繰り返しになりますが、今回公表された9月調査の結果は、6月調査から大きな変化はなく、停滞色の強い内容と考えるべきです。ただし、設備投資だけはCOVID-19パンデミック以来、抑制を続けていた反動と人口減少に伴う人手不足から、かなり大きく増加する、という結果になっています。また、図表は引用しませんでしたが、仕入価格判断DIや販売価格判断DIは引き続き歴史的な高水準に達しています。採算の改善に向けて、販売価格の引上げ努力は今後とも続くものと考えるべきです。

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2022年10月 2日 (日)

今年の紅葉の見ごろやいかに?

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先週9月29日に、気象協会から「2022年紅葉見頃予想」第1回が明らかにされています。上の画像はその気象協会のサイトから引用しています。
紅葉の見頃は、秋(9~11月)の気温が低いと早まり、高いと遅れるそうで、今年は気温が高かったことから、全国的に平年並みか遅めと予想されています。関西の代表である京都の嵐山は11月下旬の27日、という予想となっています。

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2022年10月 1日 (土)

コーヒーの日のコーヒーの旬を知る!!!

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60歳を過ぎても、まだまだ知らないことがいっぱいで、今年初めて知ったのですが、今日10月1日はコーヒーの日だそうです。そして、もっと知らなかったのですが、コーヒーには旬があるそうです。上の画像はそのコーヒーの旬に関して、ウェザーニュースのサイトから引用しています。
私はコーヒーにつけ、何につけ、特段、グルメでも何でもないので、こだわりなく、適当なブレンドコーヒーを楽しんでいます。私と違って、こだわりある方は、その昔は、ブルーマウンテンだったのかもしれませんが、今ではいっぱいいろんなブランドがあるんだろうと思います。海外生活は南米チリとインドネシアの首都ジャカルタでそれぞれ3年間ですから、その周辺の地域の馴染みあるコーヒーを楽しんでいます。

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今週の読書は経済書や海外ミステリをはじめとして計6冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り経済書やミステリをはじめとして計6冊です。
来週から本格的に大学の後期授業が始まりますので、これからは読書ペースがやや落ちるかもしれません。なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~9月で66冊、10月に入って今週が6冊ですので、今年に入ってから178冊となりました。10月中か、11月早々には200冊に達することと思います。

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まず、前田裕之『経済学の壁』(白水社)です。著者は、日経新聞のジャーナリストを長く務めています。本書では、第Ⅰ章で大学などのアカデミズムにいる経済学者と官庁や民間シンクタンクなどのエコノミストを比較するという、ハッキリいって、無意味な議論を展開した後、第Ⅱ章で経済学について、これまた、それほど意味があるとも思えない自説を持ち出しています。まあ、こういった思い込みの部分を書きたいのも本書を執筆する動機としてあったのかもしれません。そして、第Ⅲ章から経済学の各流派についての概観が始まります。経済学には経済史と経済学史という学問分野があり、本書は経済学史のような体系的な解説ではありませんし、もちろん、大学での講義の教科書として使えるハズもないのですが、いろんな経済学の流派について、ミクロ経済学とマクロ経済学に分けて並べています。私でも明確に認識していない学派についても詳細に特徴つけていて、その意味では、なかなかに参考にはなります。主流派に属するニュー・ケインジアンと異端とみなされるポストケインジアンなんて、一般には理解されにくい部分もそれなりにキチンと解説がなされています。その意味では、決して学術書ではありませんが、経済学の主流派とそれ以外の学派を概観するのには役立ちそうです。ただ、惜しむらくは、世間一般で注目を集め始めている現代貨幣理論(MMT)が抜け落ちています。理由はよく判りません。最後に、数年前に話題になったところで、ノーベル賞経済学者のカーネマン教授が『ファスト & スロー』を出版した際の目的として、オフィスでの井戸端会議での会話の話題提供を上げていた気がするのですが、本書も同様に、オフィスでの井戸端会議や飲み会の際に経済学の知識をペダンティックに示すためにはとても有益な役割を果たすと思います。

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次に、日本経済研究センター[編]『使える!経済学』(日本経済新聞出版)です。編者、というか、おそらく、日本経済研究センター(JCER)のスタッフがインタビューするか、講演会に招くいた際のお話を取りまとめていて、主として、マイクロな経済学をビジネスに活用している例が収録されています。一部に慶應義塾大学の例がありますが、ほとんどが東京大学です。そうなのかもしれません。因果推論や構造推計、あるいは、マーケット・デザインを基にしつつ、ダイナミック・プライシング、オークション理論、マッチング理論、などなどの経済学がビジネスにどのように応用されているかの実例がよく判ります。繰り返しになりますが、かなりマイクロな経済学の応用がほとんどで、マクロエコノミストの私に理解が難しい最新分野なのですが、それなりに、経済学の応用について理解が深まった気がします。ただし、こういった経済学を活かしたエコノミストのコンサルティング活動について、2点だけアサッテの方向から指摘しておくと、第1に、行動経済学も含めて、こういった分野の経済学は、厳密な再現性を求める科学としての経済学ではなく、ビジネスに応用されることは、ある意味で、本来の目的であり、とても相性がいいと私は考えています。第2に、こういったコンサルティング活動は、基本的に、コンサルタントを雇える大企業に有利な結果をもたらす、という点です。典型的にはダイナミック・プライシングとかで、消費者余剰をすべて企業のものにすることを目指す場合があったりします。もちろん、マッチング理論などはいろんな意味で有益ですし、経済学が保育園の待機児童の解消に応用されている例もあったりするのですが、基本、コンサルタントを雇える大企業にコンサルティング活動は向かいます。ですから、コンサルタントを雇えない消費者にも利益になるような経済学のビジネスへの活かし方も考慮されるともっといいんではないか、と私は考えています。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー『ファイナル・ツイスト』(講談社)です。著者は、セカイでももっともうrているミステリ作家の1人ではないかと思います。私もこの作者の作品のファンで、リンカーン・ライムのシリーズ、キャサリン・ダンスのシリーズなどの作品はほぼほぼすべて読んでいます。本書は、新しく始まったコルター・ショウのシリーズであり、『ネヴァー・ゲーム』、『魔の山』に続く第3巻です。邦訳の出版前は、このシリーズはこの第3回で終了、とウワサされていたのですが、どうも、シリーズ第1期の終了、ということらしいです。ということで、本書では、ショウの父親の死の謎に迫ります。1906年のカリフォルニア州法に関する文書、コードネーム「エンドゲーム・サンクション」をショウとともに、ショウの父をしに至らしめた民間諜報会社「ブラックブリッジ」が追います。この文書の桁外れの内容が明らかにされるとともに、この文書に絡んだトリックも、作者のディーヴァーらしいツイスト=どんでん返しで明らかにされます。このショウのシリーズは、ディーヴァーらしいどんでん返しの要素が少なく、特に、前作の『魔の山』にはほとんどなかったのですが、本書では、「アッ」とびっくりのどんでん返しが用意されています。私も読み終えて、「何だ、そうだったのか」と独り言をいってしまいました。このシリーズの先行きは、私はよく知りませんが、この作者のファンであれば本書は必読といえます。

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次に、佐藤千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書)と小島慶子『おっさん社会が生きづらい』(PHP新書)です。著者は、毎日新聞のジャーナリストとTBSアナウンサーからエッセイストやタレントになった女性です。ということで、本日10月1日付けの「朝日新聞」朝刊から天声人語に女性執筆者が初めて加わった、とありました。メディアのコラムでも男性の執筆陣で運営されていたことが明らかなわけです。私なんかはまごうことなくオッサンなわけです。ですから、これらの女性が感じるオッサン社会の生きづらさなんかは、ほとんど感じたことはないどころか、逆に、生きづらさを増幅させているところがあるんではないか、と反省しています。日本のビジネス社会では、おそらく、1990年のバブル崩壊くらいまで男性社会であり、しかも、年功序列が色濃く残っていましたから、年配男性=オッサンの天下だったわけです。女性は明示的に差別され、中年男性=オッサンを中核労働者としてメンバーシップ的に正規職員として雇用され、企業に無限定に奉仕させて働かせつつ、家庭は専業主婦がやりくりする、という世界だったわけです。ここで「家庭」には家事は当然、育児、場合によっては老親の介護まで含まれます。そして、子育てが一定ラクになった段階で、主婦層がパートなどの形で、あるいは、学生がアルバイトとして非正規の縁辺労働者として労働市場に参入するわけです。年功序列は当然のように年功賃金に基づいており、子育て期に年功賃金が支給されることから学校教育の費用については、中央・地方の政府ではなく家庭が学費を負担する、というシステムが出来上がっているわけです。ですから、現在の非正規雇用のように年功賃金でなくなってフラットな賃金プロファイルがドミナントなシステムに移行すれば、教育費は中央・地方の政府が負担すべきです。やや脱線しましたが、オッサン社会の弊害は、単に、女性進出やダイバーシティの推進を阻害しているだけでなく、あらゆるところで見られる気がします。

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最後に、万城目学『べらぼうくん』(文春文庫)です。著者は、私の母校である京都大学出身の小説家です。私自身も著者のデビュー作である『鴨川ホルモー』から始まって、最新作の『ヒトコブラクダ層ぜっと』まで、おおむね読破しているつもりです。独特の「万城目ワールド」といわれる世界観が私は好きだったりします。その小説家がご自分の半生を振り返るエッセイです。なぜか高校時代を終えた浪人時代から書き始めて、京都大学の学生だったころの海外旅行の経験、年齢的にバブル期ではなかったハズですが、海外旅行が通常生活に入り込んでいる世代だという気がします。そして、大学を卒業して就職して工場勤務となった後、離職して『バベル九朔』の作品そのままに、ビル管理人をしたりしています。というか、実体験が『バベル九朔』の作品として結実した、ということなのでしょう。なかなかに、興味ある作家の半生を知ることが出来るエッセイなのですが、最初に書いたように、私はこの作家の作品の世界観が好きなのですが、私の読解力がないせいなのか、このエッセイからは世界観の出どころのようなものは読み取ることができませんでした。私は三浦しをんなどは小説もエッセイもどちらも大好きなのですが、この万城目学の作品、というか、出版物としては、こういったノンフィクションのエッセイよりも、フィクションそのもの、というか、かなりファンタジーも入った小説の方が私は好きです。

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