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2022年10月20日 (木)

大きな赤字を記録した9月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+28.9%増の8兆8187億円、輸入額は+45.9%増の10兆9126億円、差引き貿易収支は▲2兆940億円の赤字となり、昨年2021年8月から14か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、9月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字、4-9月過去最大の11兆円 資源高・円安響く
財務省が20日発表した2022年度上期(4~9月)の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は11兆74億円の赤字だった。資源高と円安が響き、赤字額は比較可能な1979年度以降の半期で最大になった。
これまで最大だった2013年度下期の8兆7600億円の赤字を超えた。
22年度上期の輸入額は60兆5837億円で、前年同期比で44.5%増えた。中東からの原油のほか、オーストラリアの液化天然ガス(LNG)や石炭などの輸入額が国際価格の上昇と円安によって膨らんだ。原油やLNGといった鉱物性燃料の輸入額は2.2倍の17兆7145億円となり、全体の3割近くを占めた。
原油の輸入単価は1キロリットルあたり9万3106円と前年同期比で91.8%上がった。ドル建て価格の上昇率は59.1%で、円安が単価上昇に拍車をかけた。
輸出額は19.6%増の49兆5762億円だった。米国向けの自動車やアジア向けの鉄鋼などが増えた。
輸出入とも半期で最高額となったが、輸入の増加に比べて輸出は勢いを欠く。輸出の荷動きを示す数量指数(15年=100)は対世界全体で前年同期比で1.5%下がった。低下は新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した20年度上期以来となる。感染対策のための都市封鎖や不動産不況で経済が減速した中国向けは13.8%の大きな落ち込みとなった。世界からの輸入数量指数もわずかに下がり、2年ぶりの低下となった。
ウクライナに侵攻したロシア向けの輸出は前年同期比で46.9%減の2323億円だった。電子部品や通信機などの電気機器は経済制裁の影響でほぼゼロになった。輸入は36.0%増の9822億円だった。LNGの単価上昇が押し上げた。
9月単月の貿易収支は2兆939億円の赤字だった。9月として最大の赤字額となった。原油やLNGなどの値上がりと円安が響いた。

4~9月の2022年度上半期の記述が多くて、かなり長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲兆円超の貿易赤字が見込まれていて、実績の▲2兆940億円の貿易赤字はほぼほぼジャストミートしたといえます。加えて、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年9月までの14か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、16か月連続となります。しかも、少なくとも先月8月までは貿易赤字額がだんだんと拡大しているのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。
9月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+5.1%増に過ぎませんが、金額ベースでは+100.8%増と大きく水増しされて、輸入金額は倍増という結果になっています。LNGも同じで数量ベースでは▲1.6%減と減少しているにもかかわらず、金額ベースでは+164.2%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では▲15.2%減と減少しているにもかかわらず、金額ベースでは+32.2%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+41.3%増、金額ベースでも+31.6%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。さらに、輸出についても、輸送用機器の中の自動車は部品の供給制約が緩和されて輸出金額は季節調整していない原系列の前年同月比で+122.2%増と大きく伸びています。また、一般機械+28.3%増、電気機械+19.5%増と、我が国リーディング・インダストリーが高い輸出の伸びを示しています。

何度も繰り返しになりますが、輸出は世界経済の回復や半導体を始めとする部品の供給制約の緩和などが進んでそこそこ伸びています。それ以上に資源高や円安で輸入額が増加しているのが貿易赤字の大きな要因です。私はエコノミストとして、そもそも、貿易赤字や経常赤字は経済政策による何らかの是正の対象ではないと考えていますし、輸出が伸びている現状は評価すべきと考えています。ですから、貿易赤字「是正」のための経済政策、特に、金融引締めを含めて、円高を志向するような政策にはハッキリと反対です。もちろん、日銀もご同様のお考えのようで、例えば、日銀審議委員の安達誠司氏の最近における「富山県金融経済懇談会における挨拶要旨」(10月19日)では、極めて明解に「そもそも為替相場は金融政策が直接コントロールする対象ではありません」と指摘し、加えて、「金融政策を引き締め方向に修正することはマイナスの効果が大きい」との結論を示しています。もちろん、こういった判断は経済情勢により変化するものですが、少なくとも現時点では私の見方は日銀と大きく異なっていなと考えています。

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