日本総研リポート「円安による貿易収支の黒字効果は消失」やいかに?
やや旧聞に属するトピックながら、先週火曜日10月18日に日本総研から「円安による貿易収支の黒字効果は消失」と題するリポートが明らかにされています。その昔は、円安の進行とともに、Jカーブ効果などのラグを伴いつつも、貿易収支は黒字が増加する方向に動くと考えられていましたが、現下の円安局面では貿易赤字が膨らんでいるもの事実です。すなわち、円安が貿易赤字を促進し、その貿易赤字がさらに円安につばがるという正のフィードバック効果が観察されています。リポートでは、価格面からも数量面からも、為替から輸出数量への影響が限定的になっていると指摘しています。
上のグラフは、リポートから 1%の円安による輸出入数量の変化率 を引用しています。私も授業で教えているのですが、通常、円安は外貨建ての輸出価格を引き下げる効果があり、当然ながら、価格が安くなった輸出品が競争力を増しますので輸出数量は増加します。輸入品にはこの逆のことが生じます。すなわち、国内通貨だけの輸入品価格が上昇して価格競争力が低下し輸入数量が減少します。輸出画像化して輸入が減少しますので、当然ながら、その結果として、貿易黒字の方向に均衡が移動します。しかし、上のグラフで示されているように、2000-09年の期間に比べて2010-19年の期間では、この輸出と輸入のどちらの円安効果もかなり低下しています。リポートからでは、この要因について、「低付加価値品の生産拠点の海外シフトとともに、わが国で生産する輸出財の高付加価値化が進展した」と指摘しています。まあ、そうなのかもしれませんが、直感的には前者の生産拠点の海外シフトではなかろうか、という気がします。ただ、これは短期的な減少であって、円安がそれなりの長期に継続されれば、生産拠点は国内復帰する可能性が十分ある、と考えられます。
上のグラフは、リポートから 1%の円安に対する輸出数量の反応 を引用しています。見れば明らかな通り、産業別に輸出数量の反応を見ていて、繊維、一般機械、電気機器といった産業で2010-19年の輸出数量の反応が鈍くなっています。逆から見れば、これらの産業がかなり積極的に生産拠点の海外シフトを進めた、ということです。そして、円安が長期に継続すれば、これらの産業の生産拠点が国内回帰する可能性も十分ある、と考えるべきです。
3変数VARモデルのインパルス応答関数からの試算となっていますが、5%信頼区間などがどうなっているのかの詳細についても知りたいところだったりします。でも、結果はおおむね多くのエコノミストが受け入れられるものとなっている気がします。
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