15か月連続で赤字を続ける10月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+25.3%増の9兆15億円に対して、輸入額は+53.5%増の11兆1637億円、差引き貿易収支は▲2兆1622億円の赤字となり、昨年2021年8月から15か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、10月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日本の貿易赤字2.1兆円、10月で最大 円安・資源高響く
財務省が17日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆1622億円の赤字だった。10月としては、比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高により、輸入額が前年同月比で大幅に増えた。
貿易赤字は15カ月連続で、3カ月続けて2兆円を超える赤字となった。10月以外を含めると、過去5番目に大きい赤字だった。
輸入は11兆1637億円で、前年同月比で53.5%増えた。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの値上がりが響いた。原油の輸入価格は1キロリットル当たり9万6684円と79.4%上昇した。ドル建て価格の上昇率は37.7%だった。円安が輸入価格の上昇に拍車をかけている。
輸出は25.3%増の9兆15億円だった。米国向けの自動車や韓国向けのIC(集積回路)などが増えた。
輸入は8カ月連続で、輸出は2カ月連続でそれぞれ過去最大を更新した。輸入の増加ペースが輸出を大きく上回り、赤字が拡大している。
荷動きを示す数量指数(2015年=100)は、輸入が前年同月比で5.6%上がったのに対し、輸出は0.3%下がった。中国向けの輸出は16.0%の急激な落ち込みとなった。消費不振や住宅不況による中国経済の減速が響いたとみられる。
10月の貿易統計を季節調整値でみると、輸入は前月比4.2%増の11兆2054億円、輸出は2.2%増の8兆9063億円、貿易収支は2兆2991億円の赤字だった。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6200億円の貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2兆円でしたので、実績の▲2兆円超の貿易赤字は大きく下振れした印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年9月までの15か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、17か月連続となります。しかも、直近時点まで貿易赤字額が傾向的にだんだんと拡大しているのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。明らかに、青い折れ線の輸出よりも赤い輸入の方の伸び方の傾きが大きいのが上のグラフから見て取れます。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
10月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+9.9%増なのですが、金額ベースでは+97.1%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされて、輸入金額はほぼほぼ倍増という結果になっています。LNGも同じで数量ベースでは+9.9%増であるにかかわらず、金額ベースでは+150.9%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+18.2%増となっている一方で、金額ベースでは+81.4%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+9.3%増、金額ベースではこれが大きく膨らんで+74.3%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は部品の供給制約が緩和されて、季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+27.6%増、輸出金額でも+81.0%増と大きく伸びています。また、一般機械+17.6%増、電気機器+17.9%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因です。
円ドル為替の市場価格は、一時は、150円まで円安が進みましたが、今日の時点では140円近傍の水準で推移しているように見えます。私は為替レートの先行きに関しては特段の見識を持ちませんが、円安は輸出に有利である点は忘れるべきではありません。
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