« 2022年11月 | トップページ | 2023年1月 »

2022年12月31日 (土)

今年読んだ本の総集編やいかに?

私のバーチャルな知り合いで、毎月の月末にその月に読んだ本をランキングにして日記にしている人がいます。そのマネッこながら、月単位での読書量は私の場合たかが知れていますので、1年かけて今年の読書で印象に残った本をジャンル別に上げて、今年2022年の読書の総集編としたいと思います。特に印象的だった本は強調しておきます。

(1) 経済書部門
オリヴィエ・ブランシャール&ダニ・ロドリック[編]『格差と闘え』(慶應義塾大学出版会)
ヤニス・バルファキス『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(講談社)
マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)
平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』(上智大学出版)
大門実紀史『やさしく強い経済』(新日本出版社)
(2) 教養書部門
スティーブン・ピンカー『人はどこまで合理的か』上下(草思社)
ジェイク・ローゼンフェルド『給料はあなたの価値なのか』(みすず書房)
ジェフリー S. ローゼンタール『それはあくまで偶然です』(早川書房)
(3) 純文学部門
吉田修一『ミス・サンシャイン』(文藝春秋)
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)
(4) エンタメ小説部門
万城目学『あの子とQ』(新潮社)
三浦しをん『エレジーは流れない』(双葉社)
(5) ミステリ部門
莫理斯(トレヴァー・モリス)『辮髪のシャーロック・ホームズ』(文藝春秋)
シヴォーン・ダウド『ロンドン・アイの謎』(東京創元社)
織守きょうや『花束は毒』(文藝春秋)
有栖川有栖『捜査線上の夕映え』(文藝春秋)
方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』(東京創元社)
(6) SF小説部門
アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下(早川書房)
(7) 時代小説部門
周防柳『身もこがれつつ』(中央公論新社)
宮部みゆき『子宝船』(PHP研究所)
(8) ノンフィクション部門
平野啓一郎『死刑について』(岩波書店)
佐藤明彦『非正規教員の研究』(時事通信社)
鳥谷敬『明日、野球やめます』(集英社)
上原彩子『指先から、世界とつながる』(ヤマハ)
(9) 新書部門
倉山満『ウルトラマンの伝言』(PHP新書)
笹山敬輔『ドリフターズとその時代』(文春新書)
小野善康『資本主義の方程式』(中公新書)
小林美希『年収443万円』(講談社現代新書)
橋場弦『古代ギリシアの民主政』(岩波新書)
(10) 番外部門
松尾匡『コロナショック・ドクトリン』(論創社)

まず、(1)経済書ですが、左派リベラルの経済書が並びます。日本共産党の経済論客の経済書もあったりします。どうしても、マイクロな経済学よりもマクロ経済学の本が多くなります。(2)教養書はこんなもんでしょう。専門のマクロ経済に近い分野の本が多いのは当然ですが、今年は歴史書に恵まれなかった気がします。(3)純文学はそれほど読まないのですが、勤務校OGの芥川賞受賞作は敬意を表して入っています。(4)エンタメ小説もミステリ以外はそれほど読んでいません。(5)ミステリ部門は『辮髪のシャーロック・ホームズ』がピカイチです。今年といわず、ここ数年の中でも最高の一作です。(6)SFもあまり読んでいないのですが、ウィアーは『火星の人』から一貫して評価しています。(7)時代小説はあさのあつこの「小舞藩シリーズ」も考えないでもなかったのですが、この2作にします。(8)ノンフィクションは死刑反対の私の意見に似通った本のほか、野球とピアノを入れました。(9)新書部門は大量に読んでいますので、このセレクションには自信があります。(10)9部門では中途半端なので第10部門を入れて、勤務校の同僚からご恵投いただいた本を取り上げておきます。
この中でたった1冊だけを選ぶとすれば、ミステリ部門の『辮髪のシャーロック・ホームズ』といいたいところですが、同じ趣味の分野ながら、新書部門の『ウルトラマンの伝言』を上げたいと思います。今年もっとも印象に残った本といえます。

みなさま、よいお年をお迎えください。

photo

| | コメント (0)

2022年12月30日 (金)

今週の読書は大物読書もあって年間245冊の新刊書読書の集大成

今週の読書感想文は以下の通りです。年末年始休みに入って、大物読書がいくつかあります。
まず、ゲオルク・フリードリヒ・クナップ『貨幣の国家理論』(日本経済新聞出版)は1905年の出版であり、話題の現代貨幣理論(MMT)に理論的な影響を及ぼしているとされています。オデッド・ガロー『格差の起源』(NHK出版)は、ホモ・サピエンスの出アフリカ以降の歴史をひも解いて、人類の成長・繁栄と格差についての統一理論の構築を試みています。岩波講座世界歴史『構造化される世界』第11巻(岩波書店)では、ポストモンゴルの14-19世紀の近世を対象にグローバル・ヒストリーによる歴史分析を試みています。万城目学『あの子とQ』(新潮社)は、人気作家が吸血鬼の青春物語を展開しています。太田肇『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)は、挑戦をリスクとして考える消極的利己主義に代わって、積極的な挑戦を可能にする組織を考えています。及川順『非科学主義信仰』(集英社新書)は、NHKのジャーナリストが米国における非科学主義信仰の実態をルポしています。そして、秦正樹『陰謀論』(中公新書)では、計量政治学の専門家が陰謀論を親和性のある属性について定量的な分析を試みています。
本年も残すところ後2日となりました。この2日で、可能であれば、ウォルター・アイザックソン『コード・ブレーカー』上下(文藝春秋)を読み切って、お正月からはマンガなどの軽い読み物に切り替えたいと思っています。

ということで、今年2022年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10~11月に合わせて49冊、12月に入って先週までに17冊、今週は7冊ですので新刊書読書合計は245冊となりました。今さらながら、もう少しがんばれば250冊だったのか、と思わないでもありません。

photo

まず、ゲオルク・フリードリヒ・クナップ『貨幣の国家理論』(日本経済新聞出版)です。著者は、ドイツのエコノミストであり、マックス・ウェーバーに高い評価を与えて学界での登用を促した慧眼の経済学者としても有名です。そして、本書は1905年、すなわち、100年以上も前の出版であり、ドイツ語の原題は Staatlische Theorie des Gelds となっています。英語なら State Theory of Money といったところでしょうか。本書が今ごろになって注目されるのは、異端の経済学とされつつも注目を集める現代貨幣理論(MMT)の核心となる貨幣理論の基礎を提供しているからです。その基礎とは、タイトル通りに、「貨幣は法制の創造物である」、すなわち、貨幣は国家の強制力によって通用している、というものです。MMTでは少し言い換えて、国民が租税を納める際に使う手段として、国家あるいは政府が貨幣を定めている、といった定義にしていると私は記憶しています。参考までに、MMTの財政理論の基礎となっているのは Lerner A.P. (1943) "Functional Finance and the Federal Debt" といえます。というか、私が大学院の授業でリポートさせているフランス銀行のワーキングペーパー "The Meaning of MMT" ではそのように解説しています。MMTから戻ると、本書では「表券理論」として現れます。そもそも、ミクロ経済学では貨幣は交換においては本来的に必要とされるものではなく、物々交換では不便だから便宜的に流通しているにすぎず、したがって、古典派的な貨幣ベール論とか、貨幣数量説とかが幅を利かせるわけです。他方で、ケインズ理論によるマクロ経済学では交換や支払いの尺度だけではなく、価値保蔵手段などとしての貨幣の役割が付加されます。そして、またまたMMTのトピックとなりますが、クナップの本書はケインズ理論につながり、ラーナー的な機能的財政理論は実はケインズ経済学をやや極端なまでに強調した内容であることは明らかで、少なくともラーナー教授は一貫してケインズ経済学を支持し続けています。私はフォーマルな大学院教育を受けていないので、経済学史についてはそれほど詳しくありませんが、MMTはいわゆるポストケインジアンであって、ニューケインジアンではないと理解されています。ですから、MMTはケインズ的なマクロ経済学の正当な末裔ではないと考えられているわけですが、少なくとも本書を通読した私の感想としては、MMTも異端ながらマクロ経済学のひとつの支流につながるものと考えるべきです。その根拠のひとつとしては、本書では「貨幣のセット」、すなわち、本位貨幣と補助貨幣、制限貨幣と無制限貨幣、正貨と非正貨、また、国庫証券、銀行券などなど、「セット」としての貨幣を考えています。古典派的な交換や支払いだけを考えるのであれば、こういったセットの理論は出てきません。加えて、第3章では外国為替を取り上げて、国定貨幣の間での交換を考えています。なかなかに、短い書評では書き尽くせませんが、おそらく、金本位制という時代の制約の中で貨幣理論の教科書を書こうと試みた結果であると考えれば、極めて明快かつ正確、すなわち、金本位制に限定されない科学的な貨幣理論の提供を試みた、という意味で、画期的な存在であったろうと思います。ただ、惜しむらくはドイツ語で書かれています。邦訳書である本書でも、何箇所かドイツ語の原語で補っている部分が散見されますが、私は英語とスペイン語は理解するものの、ドイツ語は英語と比べて、あるいは、スペイン語と比べてさえもマイナーな言語です。私は去年も今年も年1本しか書かない論文は英語で書いています。大昔の ECONOMETRICA なんぞにはフランス語の論文が収録されていたりしますが、言語としてのドイツ語の不利な点、日本語ならもっと不利、であろう点は、止むを得ないながらも、心しておきたいと思います。

photo

次に、オデッド・ガロー『格差の起源』(NHK出版)です。著者は、米国の名門校アイビーリーグの一角を成すブラウン大学の研究者です。英語の原題は The Journey of Humanity であり、2022年今年の出版です。邦訳タイトルは原書の副題を取っているようです。本書は2部構成であり、第1部では、何が成長をもたらし、人類は繁栄したのか、を解き明かし、第2部では、その背景で何が格差をもたらしたのかを考えています。ですから、成長=反映と格差の発生・拡大をコインの両面のように考えて、この2つを統一的に、しかも、ホモ・サピエンスの誕生=出アフリカから長期にわたって理論的に跡づけようと試みています。まあ、ハラリ『サピエンス全史』あたりからの影響ではなかろうか、と思わないでもありません。まず、成長=繁栄の基礎としては、いわゆるマルサスの罠からの脱却が重点となります。すなわち、何らかの技術革新、このころは農業の収穫の増大にむすびつく技術革新が生じると、その農業収穫の増大に応じて人口も増えてしまい、結局、1人あたりの豊かさはもとに戻ってしまうというのがマルサスの罠なわけですが、この罠からの脱出がひとつのキーポイントとなります。そして、このマルサスの罠からの脱出による成長と繁栄、及び、格差の発生と拡大も同じ原因からであり、ともに、制度的・文化的・地理的要因を基礎にしつつも、結局のところ、人的資本への投資がキーポイントとなると結論しています。ただし、この人的資本への投資の重要性については、そう目新しい論点ではなく、例えば、本書第2部の格差拡大の観点からはサンデル教授の『実力も運のうち 能力主義は正義か?』はまさにそういった議論を展開しています。大学卒業という学歴は自分の実力だけではない、という結論だったと記憶しています。本書に戻ると、本書の大きな特徴のひとつは地理的な環境を重視している点です。ホモ・サピエンスという集団が長期にわたって分裂しつつ全地球規模で拡散・移動してきた中で、マルサスの罠から脱する「特異点」のひとつの要因として地理的な要素を考えているわけです。これは、私なんかからすれば、ややズルい論点であって、その「特異点」がどうして、そこで、その地理的条件で生じたかについて、すなわち、具体的に事例を上げると、18-19世紀のイングランドで産業革命が始まったのか、を解明しないと回答にならないような気がするからです。ただ、逆に、経済学の見方からすれば、収斂という変化が生じていることも事実です。すなわち、新興国・途上国の成長率は先進国よりも高く、1人綾理GDPは多くの国で収斂する可能性も理論的・実証的に示唆されています。はたして、こういった「収斂理論」に対して、本書が打ち出した成長=繁栄と格差を説明するグランドセオリーが適用されるのか、あるいは、「収斂理論」が幻想なのか、私の残された寿命では見届けることが難しそうな気がしますが、とても興味あるポイントです。

photo

次に、岩波講座世界歴史『構造化される世界』第11巻(岩波書店)です。「岩波講座世界歴史」のシリーズの最新配本のひとつです。なお、全24館の構成については、本書の巻末にも提示されていますが、岩波書店のサイトでも見ることが出来ます。その全24巻構成の中にあって、本書第11巻『構造化される世界』は、まさに、グローバル・ヒストリーの典型的な分析として14~19世紀という長い期間、そして、地理的にも全世界を包括的に対象としています。すなわち、ポストモンゴルが始まる14世紀、そして、近代の幕開けとなる19せいきまで、いわゆる「近世」を対象としています。かなり長い期間ですが、いわゆる封建制の残滓を残しつつ、絶対王政のもとで近代につながる期間です。英語では early modern と称される場合が多いのです、本書では近代の直前という西洋中心史観を配して「近世」という用語を用いています。我が国でいえば、室町期から戦国時代を経て織豊政権や江戸期に渡る期間です。これをまず、問題群-Inquiryとして、グローバル・ヒストリーの観点から、政治的な動向、まさにキリスト教の宗教改革に当たる時期ですので宗教の観点、そして、奴隷制から農奴制、さらに近代的な身分制を廃した時代への展望を含めて、奴隷についての世界史を概観しています。加えて、焦点-Focusとして、アジア海域における近世的国際秩序、近世スペインのユダヤ人とコンベルソのグローバルなネットワーク、インド綿布と奴隷貿易といった商品連鎖のなかの西アフリカ、感染症・検疫・国際社会にまさに焦点を当てつつ歴史的な考察を進め、最後に、高校世界史を取り上げてグローバル・ヒストリーのの授業実践などを取り上げています。さらに、5点ほどのテーマで短いコラムも収録しています。本巻の対象が極めて多岐多様にわたり、何とも書評としては取りまとめにくいのですが、専門外の私の目から見ても高水準の歴史分析が並んでいます。まあ、全24回をすべて読破することは到底叶いませんが、いくつかは読んでおきたい気がします。ただ、惜しむらくは、このシリーズを蔵書している公立図書館はそう多くないような気がします。私は大学の図書館で借りましたが、府立県立あるいは政令指定市クラスの図書館でなければ、利用可能ではないかもしれません。

photo

次に、万城目学『あの子とQ』(新潮社)です。著者は、人気の小説家です。我が後輩で京都大学のご出身だと記憶しています。本書では、吸血鬼、でも、昔ながらの吸血鬼ではなく、もはや吸血行為はせずに人間世界に同化しようと努力している吸血鬼を主人公にしています。ということで、主人公は嵐野弓子という17歳の誕生日を直前に控えたJKの吸血鬼です。弓子は「ハリー・ポッター」のハーマイオニと違って純血の吸血鬼であって、両親ともに吸血鬼の一家に生まれ育っています。この弓子にQが現れて監視が始まります。17歳の誕生日までに、「血の渇き」を覚えて人間を襲うことがないかどうかを監視しています。Qとは、たぶん、固有名詞ではなく、集団名詞というか、そういった何匹・何人かのQがいるようで、姿形としては直径60センチほどでウニみたいなトゲトゲの異形で浮かんでいるのですが、その後に明らかになるところからすれば、何らかの罰を受けた吸血鬼の成れの果てであり、吸血鬼の大親分であるブラドに命じられて、こういった役目をこなしているようです。弓子はJKですので、部活もすれば、友人もいますし、その友人の恋の橋渡しをしたりもします。そして、その友人との恋の橋渡しの一環で4人のダブルデートをするのですが、その4人が乗ったバスが大事故を起こします。4人とも結果的には命に別状なく助かるのですが、何かが起こっていて弓子のQが吸血鬼界で査問を受けることになり、弓子が吸血鬼の世界に乗り込む、というストーリーです。もちろん、人間と同化して脱・吸血鬼化しようという吸血鬼もいれば、昔ながらのエターナル=不死の吸血鬼であって、今でも人間の血液を吸血している吸血鬼も登場します。そして、明らかに、続編があるような終わり方をします。いままで、私は万城目作品はエッセイも含めてほぼほぼすべて読んだつもりなのですが、続編があるシリーズものは初めてです。この作品自体が極めてテンポよく。小説というよりはラノベに近く、しかもキャラがハッキリとしていて、ストーリーも万城目作品らしくファンタジーの要素がふんだんにあり、とてもクオリティ高く仕上がっています。私もそうですが、万城目作品の中でも最高傑作のひとつに上げる読者も少なくないと思います。いろんな意味で、とってもオススメです。続編が出たら私は読みたいと思います。

photo

次に、太田肇『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)です。著者は、同志社大学の研究者であり、組織研究で有名です。そして、本書では、企業のエラいさんなんかがチャレンジを推奨する一方で、実は、チャレンジして起業したりするのはリスキーだと考えて、何もしないことを選択する社員が多いことを取り上げています。今月12月10日付けの読書感想文で取り上げた野村総研の『日本の消費者はどう変わったか』でも同じ論点が入っていて、「挑戦=チャレンジというのは積極果敢なアニマル・スピリットの現れであって、起業家精神を肯定的に表現する言葉ではなく、むしろ、リスキーでギャンブル的なネガな言葉」と考える消費者が多くなっている、という指摘がありました。本書でも独自に実施した「2022年ウェブ調査」を基に、同様の分析結果が示されています。特に、本書冒頭では公務員の行動原理としてコロナ禍で多くの施設が閉鎖され、イベントなども中止になった点に着目し、公務員だけではなく、一般の民間企業の従業員も同じという視点から分析を進めています。特に、日本ではワーク・エンゲージメントが低く、ヤル気がない社員が多い点も明らかにされています。そして、おそらく、エコノミストとして私も同意しますが、それが個人の行動原理としては合理的なのだろうと考えられます。挑戦よりも保身が重視される制度的な根拠があるわけです。それを「消極的利己主義」と呼んでいます。結論としては、「するほうが得」な仕組みにするためにはどうするか、ということで、p.200で組織再設計の「民主化の3原則」として、自由参加、最小負担、選択の3点を上げています。経済学はアダム・スミスの古典派の時代から、有名な例で、パン屋の慈悲心ではなく利己心に基づく行為が社会全体の利益につながる、と考えてきました。しかし、本書では個人と社会全体の利益が一致しない世界を前提しています。それだけで、私には少し違和感あるのですが、もちろん、理解できないでもありません。シンプルにベーシック・インカムを導入するのが大きな解決策ではないか、と実は私は考えないでもないのですが、そういった解決策はもう少し先の時代にならないと議論にすらならないのかもしれません。

photo

次に、及川順『非科学主義信仰』(集英社新書)です。著者は、NHKのジャーナリストです。米国の実情をていねいに取材して、トランプ大統領登場の前後から、いったい米国社会に何が起きているのかを明らかにしようと試みています。基本的に、個別の取材結果のルポを収録していますが、最終章で、非科学主義との向かい合い方にも言及しています。実際の取材結果として、第1章で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して、ワクチン接種の拒否、マスク着用の拒否、から始まって、気候変動=地球温暖化の否定、さらに横断的な現象として、Qアノンの陰謀説、ヘイトクライムの増加を上げています。そして、第2章で、こういった非科学主義が政治家を巻き込んで影響力を増している現状を取り上げ、第3章では、非科学主義の背景として、所得格差の拡大、メディアや宗教の暴走などに着目しています。そして、最後の第4章では非科学主義とどう向かい合うか、について議論しています。すなわち、非科学主義を排除するのではなく、むしろ、いかにお付き合いするか、という観点なのかと私は受け止めました。私自身は基本的に経済学という科学を専門分野にしていて、非科学主義は右派の戦略である面が強い、と感じています。すなわち、事実から社会の目をそらせて、自分たちの主張に盲目的に従わせようとしている可能性がある、と感じています。逆に、こういった非科学的な主張をどうして信じる、あるいは、信仰するかという疑問があります。SNSがフェイクを撒き散らしている可能性は否定しませんが、そのフェイクを信じるのはなぜか、という疑問です。単に、非科学的な考えや行動を盲目的に信じているのか、あるいは、何らかの付随する利益を感じているのか、私には謎です。

photo

最後に、秦正樹『陰謀論』(中公新書)です。著者は、京都府立大学の研究者であり、専門は計量政治学なんだろうと思います。ということで、非科学的な信仰、陰謀論に対する信頼感などが発生するバックグラウンドについて定量的な分析を試みています。ですから、陰謀論が右派の何らかの戦略であるということではなく、例えば、左派の信じている日米合同会議の謎についても対象にしています。要するに、陰謀論は何かの客観的な裏付けのある事実に基づいているわけではなく、信じるかどうかはその人次第であって、陰謀論を信じる人はどのような属性を有しているか、に付いての科学的なデータ分析を試みています。その中で、いくつか、興味深い結論が導かれています。その最大の結論は、どんな人でも心理的な不安感があるわけであって、自分の信念に合致していれば、非科学的な陰謀論でも信じてしまう、ということになります。もちろん、他方で、SNSから情報を得ている人とマスメディアの情報に接している人との間に違いはあるのは当然ですし、特に、SNS利用者は第3者効果と密接なリンクが見られます。「第3者効果」とは、自分以外の人はフェイク情報や陰謀論に左右されやすい、とする見方です。まあ、逆から考えれば、自分は大丈夫、ということなのかもしれませんが、まったくこれは反対の結果となっていることも本書では明らかにされています。すなわち、自分は大丈夫という人ほどでいく情報に踊らされたり、陰謀論を信じたりする傾向がある、ということです。ただ、私自身の実感としては、SNSやネット情報はもともとある情報受領者の傾向を増幅するだけであって、方向転換することはレアである、という気がしています。この点は本書でも支持されていると思います。では、もともとある傾向とはなにか、という点が問題になるのですが、本書ではこの点についてそれほどクリアにされていません。おそらく、バックグラウンドとして、所得、学歴、年齢、地域などが関係している、というか、私の目から見て逆に、これら以外の関係すべき要因は見当たらない、と思っています。例えば、私が知る限りでは、BREXIT投票において、初発の Politico の Guàrdia リポート、あるいは、もっとフォーマルな学術論文なら Parliamentary Affairs に投稿された Clarke et al (2017) "Why Britain Voted for Brexit: An Individual-Level Analysis of the 2016 Referendum Vote" などでも、経済状態が悪化しているほど、年齢が高いほど、学歴が低いほど BREXIT に賛成していることが明らかにされていますし、2020年の米国大統領選挙でも同様に年齢が高くてほど、学歴が高い低いほどトランプ候補に投票している、との記事を見かけたことがあります。まあ、BREXITに賛成し、トランプ候補に投票する人が陰謀論を信じやすいかどうかは議論あるところですが、一定の傾向は見て取れるような気がします。出来れば、我が国でもこういったレベルの研究や分析が欲しい気がします。もっとも、専門外の私が知らないだけで、もうしっかりと分析されているのかもしれません。

| | コメント (0)

2022年12月29日 (木)

年始休みに読む SPY×FAMILY

photo

新年のお正月休みに読むつもりで SPY×FAMILY を最新第10巻まで買い求めました。遠藤達哉作品、集英社『少年ジャンプ+』連載です。2年前の年末には『鬼滅の刃』を買って、年末年始休みに読んだように記憶しています。
12月に入って、大学生協でオンライン購入をすると15%引き、というキャンペーンがあり、通常の10%引きよりもさらに安いので、何か買おうと考えていたのですが、結局、こうなりました。実は、洋書で Building Markets: Distributional Consequences of Social Policy in East Asia が第1希望だったのですが、GB£90 が日本では軽く20,000円を超えてしまいます。もう今年度の研究費は1万円ほどしか残っていませんので、涙を飲んで来年度に回すこととし、SPY×FAMILY を買うことにしました。コミックよりは、まあ、テレ東系列でのテレビ・アニメの方が話題なのでしょうが、取りあえず、読んで見ることにします。

| | コメント (2)

2022年12月28日 (水)

3か月連続の減産で基調判断が下方修正された11月の鉱工業生産指数(IIP)をどう見るか?

本日、経済産業省から11月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。9~10月統計に続いて、3か月連続の減産です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

11月の鉱工業生産0.1%低下 基調判断「弱含み」に下げ
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は95.2となり、前月から0.1%下がった。低下は3カ月連続。国内外での需要減少を受け、半導体製造装置やスマートフォン向けのディスプレー製造装置などが落ち込んだ。
生産の基調判断は「緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」から「生産は弱含み」に引き下げた。下方修正は2カ月連続となる。
生産は全15業種のうち、8業種で低下した。半導体製造装置やフラットパネル・ディスプレー製造装置といった生産用機械工業は前月比5.7%のマイナスだった。国内外での半導体やスマホの需要減を映し出した。
汎用・業務用機械工業は7.9%減だった。コンベヤや運搬用クレーンで10月に大型案件があった反動減となった。合成ゴムやポリエチレンなどの無機・有機化学工業は3.9%のマイナスだった。
残る7業種は上昇した。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は5.7%のプラスだった。新型コロナウイルスの感染拡大の谷間で外出する人が増え、乳液や化粧水類が増えた。プラスチック製品工業は2.5%、電気・情報通信機械工業は1.1%それぞれ上昇した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は12月に前月比で2.8%の上昇を見込む。ただ、企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のマイナスとなった。23年1月の予測指数は0.6%の低下となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「変異タイプのコロナ感染拡大や部材供給不足、物価上昇の影響を注視する必要がある」と説明した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲0.3%の減産という予想でしたので、実績の▲0.1%減にはサプライズはありませんでした。ただし、引用した記事にもある通り、3か月連続の減産ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」から「生産は弱含んでいる」と、明確に1ノッチ下方修正しています。2月連続の下方修正です。中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因から、7~9月期は季節調整済みの系列の前期比で見て+5.8%の増産でしたので、9~11月の減産は反動の面もあるともいえます。もっとも、欧米先進国ではインフレ対応のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは「11月は、国内・海外需要の減少等を受けて、汎用・業務用機械工業や生産用機械工業などが低下したことから、3か月連続で低下」と減産の要因を解説しています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の12月は+2.8%の増産、来年2023年1月は▲0.6%の減産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、12月の予想は前月比▲1.3%減となります。
産業別に11月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは汎用・業務用機械工業の前月比▲7.9%減、寄与度▲0.68%、生産用機械工業の前月比▲5.7%減、寄与度▲0.56%、無機・有機化学工業の前月比▲3.9%減、寄与度▲0.17%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+5.7%増、寄与度+0.23%、プラスチック製品工業+2.5%増、寄与度+0.11%、電気・情報通信機械工業の前月比+1.1%増、寄与度+0.10%となります。
鉱工業生産の先行きに関しては、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、欧米先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、景気後退まで突き進む可能性が十分あると私は見ています。すなわち、外需の動向が懸念されます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大も冬を迎えて第8波に入ったとする向きもあり、生産の先行きは不透明といわざるを得ません。

| | コメント (0)

2022年12月27日 (火)

伸びが鈍化した11月の商業販売統計と堅調な伸びが続く雇用統計

本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月統計です。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.6%増の13兆1430億円でした。季節調整済み指数では前月から▲1.1%減を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から小幅に低下して2.5%を記録し、有効求人倍率は前月から横ばいの1.35倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

小売販売額2.6%増 11月、9カ月連続プラス
経済産業省が27日発表した11月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比2.6%増の13兆1430億円だった。9カ月連続で前年同月を上回った。気温が高く外出の機会が増えたことなどが寄与したとみられる。
業態別でみると、コンビニエンスストアは前年同月比7.9%増の1兆324億円だった。プラスは12カ月連続。行楽需要が伸びたほか、観光地を中心にインバウンド(訪日外国人客)消費の回復も進んだようだ。地域振興クーポンの販売も好調だった。
ドラッグストアは7.9%増の6377億円。百貨店はインバウンド効果もあって4.1%増の5177億円だった。スーパーは2.6%増の1兆2416億円、家電大型専門店は0.3%増の3589億円だった。ホームセンターは1.3%減の2673億円だった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は105.7で、前月から1.1%低下した。経産省は基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
求人倍率横ばい1.35倍、11月 失業率は2.5%に低下
雇用の持ち直しが続いている。厚生労働省が27日発表した11月の有効求人倍率は季節調整値で1.35倍と前月から横ばいだった。新規求人倍率は2.42倍と0.09ポイント上昇し、新型コロナウイルス禍前の2019年8月以来の高水準になった。訪日外国人消費の回復などで宿泊・飲食サービスを中心に求人が増えた。総務省が同日発表した11月の完全失業率は2.5%と0.1ポイント下がった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど企業の人手が足りず、職を得やすい状況ということになる。コロナ前のピークの18年9月には1.64倍まで高まった。感染拡大後は20年9月の1.04倍で底を打ち、徐々に回復してきた。
今回11月は景気の先行指標とされる新規求人数が86万5294人と前年同月比8.7%増えた。業種別では宿泊・飲食サービス(21.2%増)の伸びが大きかった。水際対策の緩和でインバウンド(訪日客)需要が拡大し、ドラッグストアなどの卸・小売り(13.0%増)も堅調だった。
就業者数は6724万人と前年同月比で28万人増え、4カ月連続で増加した。完全失業者数は前月比で5万人減って173万人となった。

やや長くなったものの、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo

ということで、小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移していたのですが、11月統計では少しブレーキがかかったように見えます。上のグラフを見ても明らかな通り、一時的なものかもしれませんが、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びが低下しています。ただし、季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、10月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.2%の上昇となり、ギリギリでプラスを維持していますので基調判断を「持ち直している」で据え置いています。他方で、8~10月統計では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、消費者物価指数(CPI)の上昇率を上回ゆの日を示していたのですが、本日公表の11月統計では雲行きが怪しくなってきています。インフレの高進と同時に消費の停滞も始まっているかのようです。引用した記事では、インバウンドの増加もあって百貨店などの売上が増加しているように報じていますが、百貨店もスーパーも季節調整済みの系列で見た11月統計では前月比で減少しています。加えて、先月の10月統計まで増加を示していた燃料小売業が11月統計の前年同月比では▲2.6%の減少に転じています。値上げ幅が縮小するとともに、おそらく、数量ベースではかなりの減少という結果なのだろうと私は考えています。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、11月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.8%に達しており、名目の小売業販売額の+2.6%増は物価上昇を下回っています。ですから、この2点を考え合わせると、実質の小売業販売額は過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

photo

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は商業販売統計のグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からやや低下して2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月からやや改善の1.36倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ですので、休業者も11月統計では前年同月から+20万人増と、増加したものの微増にとどまりました。季節調整していない原系列の統計ながら、実数として7~8月ともに250万人を超えていた休業者が、9~11月には各月とも200万人を下回っていることも事実です。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、宿泊業、飲食サービス業(+21.2%増)、卸売業、小売業(+13.0%増)、学術研究、専門・技術サービス業(+10.6%増)が2ケタ増と伸びが大きくなっています。最後の学術研究、専門・技術サービス業は別でしょうが、宿泊業、飲食サービス業及び卸売業、小売業については、明らかに、インバウンドの回復とともに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が増加しているのが確認できます。

| | コメント (0)

2022年12月26日 (月)

21か月連続の上昇が続く11月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から11月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.7%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.3%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、21カ月連続上昇 11月1.7%
日銀が26日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.6と、前年同月比1.7%上昇した。21カ月連続のプラス。指数は2001年3月以来の高水準が続くが、上昇幅は前月から0.1ポイント縮小した。宿泊サービスや損害保険が押し下げた。タクシーなどの道路旅客輸送やリースは上昇した。
損害保険は鉄鉱石などの価格下落が影響した。宿泊サービスのマイナスは、10月に始まった政府の観光促進策「全国旅行支援」による割引が背景にある。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは95品目、下落したのは19品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

photo

上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年3月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+0.7%の上昇となった後、2021年4月には+1.1%に上昇率が高まり、本日公表された今年2022年9月統計まで、21か月連続の前年同期比プラスを続けています。しかし、9月統計で+2.0%を記録した後、10月統計では+1.8%、そして、本日公表の11月統計では+1.7%と、ジワジワと上昇幅を縮小させています。すなわち、上昇率がグングン加速するというわけではありませんが、高止まりしている印象です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく11月統計のヘッドライン上昇率+1.7%への寄与度で見ると、土木建築サービス、機械修理、労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.51%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、国際航空貨物輸送、内航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.50%、リース・レンタルが+0.41%、テレビ広告、インターネット広告、その他の広告など景気に敏感な広告が+0.13%、損害保険や金融手数料などの金融・保険が+0.11%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+3.1%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+5.4%、広告の+2.6%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

| | コメント (0)

2022年12月25日 (日)

年賀状の印刷を終える

昨年は母の往生がありましたので、通例に従って、年賀状は出さなかったのですが、今年は年賀状を準備しています。特に、現在の勤務校に赴任してから初めてゼミからの卒業生を出しますので、親戚と合わせて卒業生にも出そうと考えています。私が卒業生諸君に望むのは、(1) 世のため人のために役立つこと、(2) 出来ることであれば楽をすること、ただし、正しく楽をすること、(3) 結婚すること、出来れば、ヘテロで異性と結婚すること、の3点です。これだけです。
デザインは下の通りです。卒業予定者諸君に出す関係から、富士山の端っこに大学のロゴをあしらっておきました。例年通り、もう電話番号を入れることはなく、大学と私用の2つのメールアドレスを入れておきました。住所とメアドがあれば十分連絡が取れると思います。明日にかけて宛先を自書し投函したいと予定しています。

photo

| | コメント (2)

2022年12月24日 (土)

今週の読書は文庫が多くて計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、玉木俊明『手数料と物流の経済全史』(東洋経済)では、出アフリカからの人類の歴史を壮大に追って、プラットフォームを構築して手数料を取るというコミッション・キャピタリズムを跡づけようと試みています。残念ながら、この試みは失敗しているように私には見えます。岸見一郎『エーリッヒ・フロム』(講談社現代新書)では、『自由からの逃走』などで有名な社会学者の思想について哲学的に解明を試みています。新海誠『小説 すずめの戸締まり』(角川文庫)は、アニメ映画の監督自らが映画のノベライズを行っています。松井今朝子『江戸の夢びらき』(文春文庫)では、初代市川團十郎の一代記を妻の恵以の視点から描き出しています。望月麻衣『満月珈琲店の星詠み ライオンズゲートの奇跡』と『満月珈琲店の星詠み メタモルフォーゼの調べ』(文春文庫)は、三毛猫のマスターが注文を取ることなく差し出す飲み物やスイーツで登場人物が癒やされるラノベのファンタジーです。順次、Facebookとmixiでシェアしてゆきたいと予定しています。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10~11月に合わせて49冊、12月に入って先々週が6冊、先週が5冊、今週は6冊ですので、今年に入ってから238冊となりました。

photo

まず、玉木俊明『手数料と物流の経済全史』(東洋経済)です。著者は、京都産業大学の研究者です。専門は経済史なのですが、私の記憶が正しければ、経済学部の経済史ではなく、文学部の歴史学科のご出身ではないかと思います。大きな違いはありません。私の勤務校の西洋経済史担当の准教授もこの著者を高く評価していると聞き及んだことがあります。ということで、本書は「覇権」をキーワードとしつつ、プラットフォームの形成者が手数料を徴収するという観点からの経済史、なんと、出アフリカ out-of-Africa からの歴史をひも解こうとしています。たぶん、私の勝手な想像では、ニーアル・ファーガソン『スクエア・アンド・タワー』のネットワークの歴史に対抗して、プラットフォームの歴史に挑戦したのではないか、という気がします。でも、残念ながら、長い歴史を概観しているだけで、覇権はともかく、プラットフォームの形成者が手数料を徴収する経済史、という試みは失敗している、としかいいようがありません。最後の方の第13章と第14章でコミッション・キャピタリズムについて少しだけ言及されているに過ぎません。悪いですが、ファーガソン教授と玉木教授の差なのかもしれません。ただ、長い経済史を概観することについては成功していますし、ややピンボケとはいえ一読の価値はあります。流通の輸送経路を掌握するという観点も、まあ、なくはないのですが、かなり希薄です。覇権の基礎となったプラットフォームとは、本書ではいくつか提示されていて、私も理解し同意する部分が少なくありません。例えば、文字で記録する、あるいは、現在では英語がプラットフォームになっていますし、会計的な記録では複式簿記がプラットフォームになっています。特に会計についてはIFRS何ぞという国際的な基準が作成されていますが、これらの言語や会計記録方式が手数料を徴収できるわけはありません。内容についても、明代の海禁政策によって中国が欧州のような産業革命を経験しなかった一因、とか、イングランドないしええ異国の戦争遂行の原動力は金融にあり、戦時に国債を発行して資金調達し平時に償還する、なんてのはもう言い古されているわけですから、それほど目新しさがあるわけでもありません。イングランドから始まった産業革命にしても、英国が海路を押さえているのも、確かに、工業化を大いにサポートしたとは思うのですが、それが工業化の推進要因のひとつであったとしても、主要な要因とは考えるべきではありません。例えば、21世紀の中国は「世界の工場」として製造業の振興が著しいわけですが、中国が輸送路を押さえているのかどうか、やや疑問だったりします。ただ、いわゆる「一帯一路」政策により、そういった志向が見られるのはその通りです。どうも、最近のギグ・エコノミーのAirbnbとかUberとか、あるいは、日本のメルカリなんかを注目しつつ、繰り返しになりますが、ニーアル・ファーガソン『スクエア・アンド・タワー』のネットワークに対抗しようと試みたのはいいのですが、どづも違うと感じます。総合的包括的な歴史を考えたいのであれば、ボリュームは大いに違いますが、岩波講座「世界歴史」のシリーズがいいように感じてしまいました。玉木先生のご著書に関しては、次の小ネタの新書などを期待したいと思います。

photo

次に、岸見一郎『エーリッヒ・フロム』(講談社現代新書)です。著者は、よく判らないのですが、京都大学系の哲学者ではないかと想像しています。ですから、本書の対象としているエーリッヒ・フロムとは少しズレがあるわけで、かなり難しい内容になっています。本書の対象であるフロムは社会学者、特に、『自由からの逃走』によるナチス分析で有名かと思います。私も読んだ記憶があります。本書は、100ページ少々のボリュームなのですが、繰り返すと、かなり難しい内容です。たとえb、個人の性格というマイクロな心理学については、フロイトの影響を受けつつも、マルクス主義的な経済の下部構造というものをフロムの思想の中に見出していたりします。ただし、フロムの主眼は「技術」=artであり、まあ、さすがに、テクニックではないのでっすが、決して哲学を主眼としているわけではないと強調されています。ですから、本書の副題のように、自由に生きるためには孤独を恐れてはいけない、ということになります。孤高に生きる自由という技術なわけです。その上で、いろんなものを分類しようと試みています。このあたりが、フロム由来の思想なのか、それとも、著者による分類なのか、という点は私にはイマイチ不明でした。例えば、実人的二分性と歴史的二分性、合理的権威と非合理的権威、権威主義的権威とヒューマニズム的権威、などなどです。基本的に第4章自由からの逃走が読ませどころなのでしょうが、第5章のフロムの性格論もマルクスとフロイトの融合的な内容で、それなりに読ませるものがあります。しかも、現在目の前にある日本では、まさに、軍事費の議論などを聞いている限り、何かの権威に自分自身の自由を委ねて、あるいは、故意は無作為家は別にして、日本という国の先行きを決めかねない重要な議論から耳をふさいで、関知しないところまで逃走して、その意味で、自由から逃走している日本人がかなり多いと私は感じています。そして、そういった権威主義的な民主主義の否定について論じるとすれば、個々人で「孤独を恐れない自由」を求めるのではなく、経済社会のシステムとして国民生活を支えて、そして重要な決定に国民の目が向かう余裕ができるようにスルノガ、ホントの政治的なリーダーシップではないか、と考えています。戦争が個々人の善意で回避できるとは私は考えていませんし、国民が広く自由を、あるいは、基本的人権を享受できるようにするためには、マルクス主義的な経済の下部構造をしっかりと構築することが必要です。

photo

次に、新海誠『小説 すずめの戸締まり』(角川文庫)です。著者は、アニメの映画監督であり、本書も映画バージョンを小説にしたもの、と考えてよさそうです。というのは、不勉強ん敷いて、私はアニメ映画の方を見ていないからです。ということで、これだけ話題になって流行しているアニメ映画ですので、荒っぽくは知っている人が多いかと思います。宮崎のJKすずめが閉じ師の草太とともに、というか、草太が呪文をかけられた子供用の椅子とともに、宮崎を出て、白猫のダイジンを追って四国は宇和島、神戸、東京、福島と旅をして、地震を引き起こすみみずを閉じ込めるべく努力する、というストーリーです。繰り返しになりますが、鳥の雀ではなく、このJKの名前がすずめ、なわけです。ファンタジーですので、何と申しましょうかで、大きなみみずが地震を起こすわけですから、決して科学的ではありませんし、ある意味で、荒唐無稽なわけで、どうして宮崎のJKがこれに巻き込まれるかというのは、私も理解がはかどりませんでした。ただ、主人公のすずめは母子家庭で暮らしていた福島で東日本大震災に遭遇し、母親を亡くしています。そして、この戸締まりの旅の最後には福島にたどり着きます。みみずが地震を引き起こすという点からも、東日本大震災がこの映画や小説の大きなモチーフになっている点は明らかです。アニメ映画ですが、ポケモンのロケット団のような敵役は登場しません。まあ、強いていえば、宮崎から逃げ出した要石のダイジンがそうなのかもしれませんが、少なくとも、すずめと草太の旅路を邪魔するような悪役めいた登場人物はいません。というか、すべての登場人物、宇和島で民宿に泊めてくれるJK、神戸までヒチハイカーのすずめを運んでくれるスナックのオーナーママ、そして、東京から福島までBMWを走らせる草太の同級生などなど、草太やすずめを力強く応援してくれる人であふれています。そうした人々に支えられ、常世と現世を行き来したりして、大災害を不正で、しかも、椅子に変えられた草太を救出するというミッションをすずめはやり遂げるわけです。そういったいろんな人々の強力や援助の大切さを感じられ、人のつながりでピンチを乗り越えるすばらしさを感じることのできる名作でした。ただ、チャンスがあれば、ビジュアルの感じることのできるアニメ映画も見ておいたほうがいいような気がします。なお、映画のポスターはドラえもんの「どこでもドア」を思い出させる図柄となっています。

photo

次に、松井今朝子『江戸の夢びらき』(文春文庫)です。著者は、時代小説家にして、直木賞受賞作家です。私はとても時代小説が好きなのですが、この作者の作品は直木賞を受賞した『吉原手引草』は読んだものの、ほかは歌舞伎をテーマに取り入れたものが多いせいか、それほど読んでいません。本書は2020年に単行本として出版されたものを今年文庫化されましたので読んでみました。ということで、一言でいえば、本書は初代市川團十郎の一代記です。團十郎の妻である恵以の視点で書かれています。すなわち、10才そこそこの恵以、当時は浪人の娘だったころに、目黒で團十郎と出会ってから、団十郎が舞台で刺殺され、2人の長男が2代目團十郎を継ぐあたりまでがとても簡潔に取りまとめられています。まさに、お江戸の花の盛りの元禄時代ころから、大地震や大火や、果ては富士山の噴火まで、いろいろな事件が江戸周辺に起こる中で、初代市川團十郎が年700両の契約を取り付けたり、あるいは、私生活では次男坊を舞台稽古の事故で亡くすとか、京都に團十郎とともに出向くとか、いろんなイベントが盛り込まれています。その中でも、特徴的なのが、まだ團十郎が若手のころにある殿様のお城で芝居を披露し、豪華なふすまをずたずたにしたとか、江戸の地震や大火の後に團十郎が辻々で舞台小屋復興の資金集めに精を出したとか、やっぱり、個人的な生活とともに、歌舞伎の芸術としての発展を跡づけているのが印象に残ります。舞台での荒業の大立ち回りの「荒事」を完成させ、京に上っては坂田藤十郎と座談したり、成田山への信心熱くて「成田屋」の屋号をつけられたりと、初代市川團十郎の魅力が余すところなく描き出されています。ただ、逆から見て、かなり團十郎が美化されているおそれがないか、と危惧します。例えば、信心が強いにもかかわらず僧にはならず、その理由として欲が強く、特に女性に対する欲望が強いと言わしめておきながら、妻の恵以の視点を借りているという理由もあるとはいえ、女性遍歴がまったく言及されていません。「芸の肥やし」くらいの女性遍歴があってもいいような気まそますが、そこは省略されてしまっています。ただ、芸術としての歌舞伎の発展や進化の過程については、よく追っている気がします。

photo

photo

最後に、望月麻衣『満月珈琲店の星詠み ライオンズゲートの奇跡』『満月珈琲店の星詠み メタモルフォーゼの調べ』(文春文庫)です。著者は、京都在住のラノベ作家です。この2冊は、「満月珈琲店の星詠み」シリーズの第3巻と第4巻ということになります。なかなかに、私や我が家の構成員のように平々凡々とした人生を送ってきた人ではなく、かなり得意な人生で、いかにも小説になりそうな人生が描き出されています。その意味で、私は決して高く評価するわけではありませんが、時間つぶしにはこういったラノベがぴったりです。それから、私は料理という嗜みは持っていませんが、本書では三毛猫のマスターが言うに、注文は取らずに店側で飲み物やスイーツを用意する、ということになっていて、私は不勉強で知りませんでしたが、このシリーズで出てくる喫茶店のメニューがレシピとともに紹介されているサイトや本があるらしいです。つい最近、聞き及びました。主婦の友社から『満月珈琲店のレシピ帖』として、本書のイラストを書いている方が出版されているそうです。私はもう食べたり飲んだりする方の欲はすっかり抜けてしまいましたが、確かの本書冒頭のイラストなどを見ていると、そういったレシピ本の需要もありそうな気がします。本格的に隠居生活に入ったら、料理も趣味のひとつとして始めてみようかと思わないでもありません。

| | コメント (2)

2022年12月23日 (金)

+4%近くに達した11月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.7%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、40年11か月ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+3.8%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+2.8%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えて、+2.8%に達しています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、11月3.7%上昇 40年11カ月ぶり水準
総務省が23日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が103.8となり、前年同月比で3.7%上昇した。第2次石油危機の影響で物価高が続いていた1981年12月の4.0%以来、40年11カ月ぶりの伸び率となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目が値上がりしている。
15カ月連続で上昇した。政府・日銀が定める2%の物価目標を上回る物価高が続く。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.7%)と同じだった。消費税の導入時や増税時も上回っている。
調査対象の522品目のうち、前年同月より上がったのは412、変化なしは42、下がったのは68だった。上昇した品目は10月の406から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は3.8%上がった。91年1月(4.0%)以来、31年10カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は2.8%上がり、消費増税の影響を除くと92年4月(2.8%)以来、30年7カ月ぶりの水準となった。
品目別に上昇率を見ると、生鮮を除く食料は6.8%、食料全体は6.9%だった。食品メーカーが相次ぎ値上げを表明した食用油は35.0%、牛乳は9.5%、弁当や冷凍品といった調理食品は6.8%伸びた。外食も5.3%と高い伸び率だった。
エネルギー関連は13.3%だった。10月の15.2%を下回ったものの、14カ月連続で2桁の伸びとなった。都市ガス代は28.9%、電気代は20.1%上がった。ガソリンは価格抑制の補助金効果もあって1.0%のマイナスと1年9カ月ぶりに下落した。
家庭用耐久財は10.7%上がった。原材料や輸送価格の高騰でルームエアコン(12.7%)などが値上がりしている。
日本経済研究センターが15日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均は、生鮮食品を除く消費者物価上昇率が2022年10~12月期に前年同期比で3.61%となっている。23年1~3月期は2.57%になり、1%台になるのは同7~9月期(1.63%)と予想する。
主要国の生鮮食品を含む総合指数は、11月の前年同月比の伸び率で日本より高い。米国は7.1%、ユーロ圏は10.1%、英国は10.7%となっている。

やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

photo

まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.7%の予想でしたので、ジャストミートしました。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、11月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は10月統計の+15.2%から少しだけ縮小して、それでも、2ケタの+13.3%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.06%あります。このエネルギーの寄与度+1.06%のうち、電気代が+0.72%と大半を占め、次いで、都市ガス代の+0.25%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、ジワジワと上昇率が縮小し続けていて、10月統計では+15.2%、そして、直近で利用可能な11月統計では+13.3%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているようにも見えます。他方で、生鮮食品を除く食料の上昇率は拡大を続けていて、4月統計+2.6%から一貫して上昇幅を拡大し、9月統計+4.6%、10月統計+5.9%に続いて、11月統計では+6.8%の上昇を示しており、+1.54%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。11月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を細かく品目別に見ると、引用した記事にもある通り、食用油が+35.0%の上昇率で+0.05%の寄与度、牛乳が+9.5%の上昇率で+0.04%の寄与度、+11.6%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+6.8%で+0.24%の寄与度、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.3%の上昇率で+0.25%の寄与度、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は11月統計で、どちらも+3%台後半ですから、エネルギーの寄与度が+1.06%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.54%となっています。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、12月統計か、あるいは、来年2023年1月統計で+4%をつける可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは来年2023年1~3月期は+2.57%になり、2023年7~9月期には+1.63%まで上昇幅を縮小させると予想されています。政府による物価高対策の影響が大きいといえます。例えば、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「物価高対策に伴うエネルギー価格の抑制によるコアCPI上昇率の押し下げ効果は足もとの▲0.6%程度から、23年2月以降は▲1.5%程度まで拡大する」と指摘しています。私が見た限りでも、大和総研のリポート第一生命経済研究所のリポートでも同じ論調です。従って、繰り返しになりますが、来年2023年4~6月期から7~7月期あたりには、インフレ目標の+2%を下回る可能性が十分にあると考えるべきです。政府が中央銀行の物価目標の達成を邪魔しているわけで、決して、経済政策のあるべき姿とは私には考えられませんが、国民の意見がそうなっているのかもしれません。

| | コメント (0)

2022年12月22日 (木)

賃金と生産性とスキルについての雑感

先日、2022年度下期の直木三十五賞の候補作が5点公表されています。以下の通りです。

  • 一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)
  • 小川哲『地図と拳』(集英社)
  • 雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』(文藝春秋)
  • 千早茜『しろがねの葉』(新潮社)
  • 凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)

もちろん、直木賞候補作品ですから、それなりに名の知れた有名作家ばかりです。昨日、私は大学の生協に 千早茜『しろがねの葉』(新潮社) を注文に行きました。文学部のOGで、今年上半期の芥川賞を受賞した 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社) と同じパターンで、生協の書店では売り切れることが確実と考えました。
生協の書店で注文すると、いきなり、「『しろがねのは』って、どんな漢字ですか」と質問され、挙げ句に、「売切れで版元にもなくて、人気なんですかね」と言われてしまいました。版元に電話までしながら、「重版も近々出るのですが、すべて予約でいっぱい」と言い放たれてしまいます。私は少しびっくりしました。そうすると、奥から別の書店員さんが出て来て言うに、「明日の12月23日に重版が出来上がって、1冊だけ予約して確保してあります」とのことでしたので、私の方に取り置きをお願いしておきました。まあ、GDP統計や消費者物価指数などの経済指標のニュースに無関心な経済学部の学生さんが少なくないように私は感じていますので、たとえOG作家さんであっても、有名文学賞のニュースに無関心な書店員さんもいるのだろうとは思います。他方で、世の中には、「本屋大賞」とかあって、書店員さんが選ぶ賞もあります。それなりに「本の目利き」のような書店員さんはいっぱいいるんだろうとも想像しています。例えば、「目利き」ほど大げさではないとしても、10年以上も昔ながら、長崎大学の生協の書店での実体験として、「村上春樹の『1Q84 BOOK3』を予約できるのですが、先生はお好きだったようなので取っておきますか」と聞かれたことがあります。当時は、というか、今でも村上作品は好きですので取り置きをお願いしました。他方で、「先生が買わなくても人気の本ですし、売れ残ることはないでしょうから、予約はしておきます」ということでした。まあ、順当な経営判断だという気がした記憶があります。
極めて限定されたサンプルしか見ていませんし、ここ10年で書店員さんのスキルが大きく落ちたとは私は決して思いません。でも、通常、経済界のおエラい社長さんなんかが言うように「スキルアップして生産性を上げないと賃上げができない」という関係は、もちろん、一定正しいとはいえ、同時に、逆の因果関係で、賃上げがなされないがために、その低い賃金に適合したスキルしか身につけられず、従って、生産性も上がらず、低賃金と低スキルと低生産性のトラップに陥っている、という関係も無視できないような気がします。ひょっとしたら、非正規雇用の書店員さんはそういった可能性が高いのかも知れません。私の想像ですから、間違っているかもしれません。

最後に、2022年度下期の直木賞にお話しを戻すと、勤務大学のOGの作品ながら、『しろがねの葉』の受賞はどこまで期待できるかどうか不透明です。直木賞候補ですので、ほかにも人気作家が並んでいますし、『しろがねの葉』は戦国時代末期の石見銀山を舞台にしていて、やや地味な時代小説、とも聞き及んでいます。まあ、間もなく入手できるでしょうから実際に読んでみたいと思います。

| | コメント (0)

2022年12月21日 (水)

インテージによる「年末・年始の旅行や帰省」の調査結果やいかに?

photo

週刊『ダイヤモンド』12/24・31合併号が送られていました。「ベスト経済書」の記事が組まれています。私は今年2022年はオリヴィエ・ブランシャール&ダニ・ロドリック『格差と闘え』(慶應義塾大学出版会)で決まりだと思っていたのですが、何と、5位までのランキングは以下の通りでした。

1
渡辺努『物価とは何か』(講談社メチエ)
2
植杉威一郎『中小企業金融の経済学』(日本経済新聞出版)
3
猪木武徳『経済社会の学び方』(中公新書)
3
加藤雅俊『スタートアップの経済学』(有斐閣)
5
翁邦雄『人の心に働きかける経済政策』(岩波新書)

私の推したマリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)は19位で、まさにこれくらいのラインを狙っていたのでOKなのですが、何と、トップだと予想していた『格差と闘え』は21位に沈みました。トップテンのうちの半分くらいしか読んでいないのは、それはそれでOKなのですが、トップ経済書の予想の点に関しては、少しショックでした。まだまだ、読書家としても、エコノミストとしても、力不足を感じさせられました。来年からはさらに精進します。

| | コメント (0)

2022年12月20日 (火)

週刊『ダイヤモンド』のベスト経済書やいかに?

photo

週刊『ダイヤモンド』12/24・31合併号が送られていました。「ベスト経済書」の記事が組まれています。私は今年2022年はオリヴィエ・ブランシャール&ダニ・ロドリック『格差と闘え』(慶應義塾大学出版会)で決まりだと思っていたのですが、何と、5位までのランキングは以下の通りでした。

1
渡辺努『物価とは何か』(講談社メチエ)
2
植杉威一郎『中小企業金融の経済学』(日本経済新聞出版)
3
猪木武徳『経済社会の学び方』(中公新書)
3
加藤雅俊『スタートアップの経済学』(有斐閣)
5
翁邦雄『人の心に働きかける経済政策』(岩波新書)

私の推したマリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)は19位で、まさにこれくらいのラインを狙っていたのでOKなのですが、何と、トップだと予想していた『格差と闘え』は21位に沈みました。トップテンのうちの半分くらいしか読んでいないのは、それはそれでOKなのですが、トップ経済書の予想の点に関しては、少しショックでした。まだまだ、読書家としても、エコノミストとしても、力不足を感じさせられました。来年からはさらに精進します。

| | コメント (0)

2022年12月19日 (月)

今年2022年の Best books of 2022 in Economics やいかに?

私がよく閲覧する海外ニュースのサイトで、クリスマス休暇前に相次いで今年2022年の図書 Best Book 2022 の紹介がなされています。以下の通りです。

このどちらにも取り上げられているのが、J. Bradford DeLong Slouching Towards Utopia: An Economic History of the Twentieth Century, Basic Books, $35/£30 です。Economist 誌によれば、"this book places the successes and disasters of the 20th century in their economic context" だそうです。来年になれば邦訳が出版されることと思います。邦訳を待って、読みたいと考えています。

| | コメント (0)

2022年12月18日 (日)

クリスチャン・リース・ラッセンの特別展に行く

今日は、クリスチャン・リース・ラッセンの特別展に行きました。県内では2回開催されるようですが、この週末が初回となります。
よく知られたように、ラッセンはマリン・アートの画家です。私くらいの年代になれば、バブル期に話題になったのを記憶しています。まあ、30年以上も前のことで、かなり懐かしくはあります。ヒロ・ヤマガタと同じで、画壇からは無視されているような気もしますが、その昔の竹久夢二もそうではなかったかと思います。ただし、画壇では生前は見向きもされなかったにもかかわらず、セザンヌ、ゴッホはいうにおよばず、死後になって強烈に評価が高まった例はいっぱいあります。音楽界ではモーツァルトなんかがそうだと思います。逆に、生きている間に評価が高く、死後に評価が落ちた芸術家もいるんだろうと思います。
まあ、それはともかく、当然ながら、特別展というよりは、展示即売会の様相を呈していました。

photo

さすがに、バブル期にはやったッラッセン作品は忘れてしまいましたので、会場にあった Parenthesis in Eternity とおぼしき絵だけネットのどこかから引用しておきたいと思います。

| | コメント (2)

2022年12月17日 (土)

2023年シーズンの阪神タイガースのチームスローガンはA.R.E.

photo

来季2023年シーズンにおける阪神タイガースのチームスローガンはA.R.E.に決まったそうです。個人・チームとして明確な目標(Aim!)に向かって、野球というスポーツや諸先輩方に対して敬いの気持ち(Respect)を持って取り組み、個々がさらにパワーアップ(Empower!)することで最高の結果を残していく、という想いが込められている、ということです。

来シーズンこそ2005年以来の優勝目指して、
がんばれタイガース!

| | コメント (0)

今週の読書は経済書とミステリと新書を合わせて計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、島倉原『MMT講義ノート』(白水社)は、異端ながら話題の経済理論である現代貨幣理論(MMT)の解説書です。荒木あかね『此の世の果ての殺人』(講談社)は、第68回江戸川乱歩賞受賞作です。そして、安倍元総理の銃撃・暗殺事件に関連して、島田裕巳『新宗教と政治と金』(宝島社新書)、文藝春秋[編]『統一教会 何が問題なのか』(文春新書)、福田充『政治と暴力』(PHP新書)の新書3冊です。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10~11月に合わせて49冊、12月に入って先週6冊に今週5冊を合わせて、今年に入ってから232冊となりました。やっぱり、年250冊はムリそうです。

photo

まず、島倉原『MMT講義ノート』(白水社)です。著者は、クレディセゾンの研究者です。研究費で購入した記憶がないにもかかわらず、なぜか研究室にあったので読んでみました。基本的に現代貨幣理論(MMT)の概説で、かなり忠実にMMTの理論概要を伝えるとともに、著者独自の観点も提供されています。たぶん、コンパクトに論文を読みたいのであれば、我が勤務校の起用論文が一番と考えるのですが、まあ、短い起用論文では抜けがあるかもしれませんので、これくらいのボリュームの本を読むのも一案です。たぶん、元祖のレイ『MMT現代貨幣理論入門』よりも日本人的には判りやすいような気がします。ということで、MMTの理論的な柱はいくつかあって、(1) Knapp の State Theory of Money に基づく貨幣理論、(2) Lerner の Functional Financial Theory に基づく財政理論、(3) Job Guarantee Program を中心とする構造政策、をメインとして、ほかにも、Monetary Circuit Theory と Debt Hierarchy (Pyramid)、などです。ただ、Stock-Flow Consistent Model については、部門別の貯蓄投資バランスが相殺されてゼロになる、と言うのは主流派でも同じだと思います。私はこういった柱となる理論のうち、かなりのものに賛同するわけですが、必ずしもすべてのMMT理論に合意するわけではありません。まず、MMTではほぼほぼ金融政策を無視していて、まるで、Real Business Cycle (RBC) 理論みたいだと初期に感じましたが、せっかくある政策ツールを使わないのはもったいないと考えています。いわゆるティンバーゲンの定理から政策目標の数だけ政策ツールが必要なわけですし、金融政策は決して有効性が低いわけではありませんから、「使えるものは親でも使え」の精神でOKだと考えています。第2に、Job Guarantee Program (JGB) がもっとも怪しいと感じていて、政府が現在の最低賃金と変わらない賃金水準で、しかも、かなりフレキシブルな雇用量を確保できるような decent job があるのかどうか、それを運営できる主体があるのかどうか、やや疑問です。日本でやれば、またぞろ、多額の委託金で持って電通あたりが運営することになりかねないと危惧しています。最後に、本書を好ましいと私が感じた点は、MMT理論を決して鵜呑みにすることなく、同時に、決して強く否定するわけでもなく、ビミョーなバランスでこれから先のMMTの理論的な彫琢の方向を示している点です。例えば、私が読んだ中で、昨年出されたフランス銀行のワーキングペーパーでは、MMTについて "a more that of a political manifesto than of a genuine economic theory" と評価しています。まあ、その昔の「共産党宣言」と同じ意味合いなのかもしれません。私もMMTの今後の理論的展開に期待しています。

photo

次に、荒木あかね『此の世の果ての殺人』(講談社)です。著者は、デビューしたてのミステリ作家であり、本作は第68回江戸川乱歩賞受賞作です。ということで、ややトリッキーな設定ながら、地球滅亡前夜の殺人事件の謎解きが展開されます。すなわち、小惑星「テロス」が日本の九州に衝突することが2022年9月に発表され、半年後の2023年3月には地球上の生物の大部分が絶滅する、人類も生き延びられない、ということで世界は大混乱に陥ってしまいます。当然です。ムダだといわれていても、日本から離れた南米に向かって逃げる人も少なくなく、特に九州ではほぼほぼすべての人が脱出し、警察や消防といった公共サービスも機能せず、事実上の無法地帯となっています。そんなパニックをよそに、主人公の20代女性である小春は、淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受け続けていたりします。もちろん、小春を教えている教官のイサガワも九州を脱出せずにいるわけで、刑事を退職した女性だったりします。タイミング的に、あるいは、状況的に、なぜ自動車教習所に通うのかという疑問はありますが、かの名作『渚にて』でも、タイピストを目指してモイラは学校に通い続けるわけですし、少なくとも私はこういった心情は理解できます。そして、年末になって教習を受けるためにトランクを開けると女性の刺殺死体を発見してしまいます。もはや、警察もほとんど機能していない中、女性2人で殺人事件の解決を目指して独自捜査が始まります。交通手段としては、まだガソリンが残っている自動車教習所のクルマしかなく、ほぼほぼすべての人が九州から脱出してしまっていますが、まだ、ごく一部のコミュニティには集団で身を寄せ合って生活している数人単位のグループが北部九州には残っています。そういった出会いがあったり、イサガワが刑事だった時の後輩警察官がまだ活動していたり、それほど不自然ではない状況が作り出され、その中で、おそらく同一犯によるであろう第2,第3の死体も発見されます。人類が絶滅して、そもそも、地球が滅び、社会秩序はほぼほぼ完全に崩壊している中で、いったい誰が殺人に走り、しかも、それを捜査して真相を突き止めようとする人がいる、というのか、とても特殊な設定といえます。もちろん、殺人犯も操作する小春やイサガワなども、滅亡する地球の中で、真っ先に消えてなくなる日本の九州に、それを知りつつ残っている人たちですから、メンタルが強いというよりは、むしろ、冷めているというか割り切って覚悟を決めている人たちです。ただ、謎解きはかなり本格的であり、誰が殺されて、同時に、誰がなぜ殺したのか、がキチンと論理的な回答として示されます。

photo

次に、島田裕巳『新宗教と政治と金』(宝島社新書)です。著者は、日本女子大学教授などを歴任した宗教研究者です。ヤマギシ会に入ったご経験もあるようです。ということで、本書のモチーフは、当然ながら、旧統一協会信者の2世が安倍元総理を銃撃暗殺した事件となっています。そして、本編は、1948年のクリスマスイブに岸信介、笹川良一、児玉誉士夫の3人が釈放されたところから始まり、岸~安倍家の統一協会とのつながりなどを示唆しつつも、この方面はそれほど深く分析検討がんされているわけではありません。他方で、私が考えるに、20世紀半ばからのお話でなくても、また、日本に限らなくても、その昔は祭政一致だったわけで、政治と宗教は一体であった期間が長いのはいうまでもありません。もちろん、時代が下って、祭政一致でなくても、江戸期には寺請制度で戸籍を仏教寺院が把握していたわけですし、明治期には国家神道が昭和に入って暴走した面があったりもします。そして、本書では昭和期の創価学会から始まって、生長の家や今もいくつかの選挙に挑戦していると聞き及ぶ幸福の科学などの新宗教の実態を明らかにしようと試みています。そして、タイトル通りに、政治に食い込んできた宗教団体の代表として創価学会が取り上げられています。そして、創価学会とは関係なく津地鎮祭訴訟から政教分離が進んだ経緯を解説し、でも、政治と宗教の分離に議論が進み、最後には、政教分離はともかくも、ホントに日本人的な無宗教はいいことなのかどうか、という議論がなされています。じつは、本書冒頭で著者ご本人のヤマギシ会の経験が明らかにされていて、やや引っかかるものがあったのですが、読んでみると、とてもニュートラルで一方的な偏りのないバランスの取れた内容の良書です。新宗教を考える基礎的な知識を得る上でとてもオススメできる内容です。フランスにおけるカルト規制についても取り上げています。最後に、本書の最終章は「『無宗教』であることの問題」と題されていて、無宗教について議論しています。実は、私が家族とともに海外暮らしをしたインドネシアでは無宗教は許容されません。役所への届出では、家族4人ともに仏教徒であると明記しておきました。なぜ、無宗教が許されないか、というと、無宗教は共産主義者に近い存在と見なされるからです。その基本的な論点は本書でも共有されています。そして、旧統一協会の別働隊、というか、同一なのかもしれませんが、勝共連合というのがあります。韓国本拠ですから、北朝鮮都の関係で共産主義への意識が高いのかもしれませんが、日本では宗教に縁薄い人たちが共産主義に近いかといえば、決してそうではありません。そのあたりの日本の実情についても、本書ではしっかりとスポットを当てています。

photo

次に、文藝春秋[編]『統一教会 何が問題なのか』(文春新書)です。本書のモチーフもご同樣で、旧統一協会の2世信者による安倍元総理の銃撃・暗殺事件に基づいて、月刊誌の「文藝春秋」2022年9月号と10月号の特集記事を基に、8編のルポと論考、最後は座談会という構成で新書として編まれています。本書のタイトルに基づいて、冒頭の記事で、旧統一協会の中核となる宗教行為、すなわち、伝道と強化の方法、献金と物品購入の強制、合同結婚式への勧誘の3点がすべて違法であるとする判例が確定していることが明らかにされています。この冒頭章に続いて、「山上容疑者はなぜ安倍元首相を狙ったのか」がもっともボリュームがあり、実に詳細に渡る山上容疑者の意識や行動が明らかにされています。さらに、献金問題にもスポットが当てられていて、信者の高額献金により苦しむ家族の姿も浮き彫りにされています。また、献金だけでなく、合同結婚式で海を渡った日本人花嫁の実態も取材に基づいて明らかにされています。最後の座談会の前には、教義を解明しつつ、その中で、創始者の文鮮明の位置づけも言及されています。最後の座談会では元信者も含めて、いろんな意見が交換されています。本書は、タイトル通りに、新宗教一般ではなく、安倍元総理との関係で旧統一協会だけにスポットを当てています。ただ、その見方はかなり冷めていて、旧統一協会の主張が自民党に取り入れられたのではなく、むしろ、イベントの盛上げ役、あるいは、そういう表現はありませんが、「人寄せパンダ」としての有名政治家の価値を明確に認めた上で、むしろ、旧統一協会の方で家族観などについては自民党の方にすり寄ったのではないか、との見方が示されています。もっとも、考えるべきポイントとしては、旧統一協会については、宗教という側面からアクセスする政治家よりも、むしろ、勝共連合との関係で反共の立場からつながりを持つ政治家も少なくないのではないか、という点です。加えて、選挙における固定票というのは政治家にとって魅力的であったろうというのは私にも理解できます。逆に、昨今のように投票率が大きな低下を示して、固定票としての宗教票が投票の中で占めるウェイトが結果として高まってきている、というのが実態でしょう。もしも、政治に宗教団体の意見を持ち込ませるのを阻止したいのであれば、直接に宗教団体に批判・非難をするのではなく、宗教団体の意向ではなく自分の判断で投票する有権者を増やすことが必要だと思います。最後に、ネトウヨの世界で、ハングルを駅などの街中で見かけるだけで気分を害するような嫌韓・嫌中の人たちが、どうしてここまで旧統一協会に寛容なのか、私には謎です。

photo

最後に、福田充『政治と暴力』(PHP新書)です。著者は、日本大学の研究者であり、専門は危機管理学とリスク・コミュニケーション、テロ対策です。本書では前の2書と違って、宗教は無関係にタイトル通りに政治と宗教の関係について、特に、テロ防止の観点から議論を展開しています。まあ、安倍元首相の銃撃・暗殺事件をモチーフにしながらも、「テロリズムとはなにか?」と題された第3章から、ほぼほぼ、一般的なテロのお話に終止している印象があります。ということで、第3章ではテロリズムの定義や分類などに言及され、プロパガンダ機能を持った心理的な武器であり、その意味で政治的なコミュニケーションの一種であることが明らかにされます。第4章では日本でのテロリズムの歴史が解き明かされ、そもそも、大化の改新につながる乙巳の変、すなわち、中大兄皇子と藤原鎌足による蘇我入鹿の暗殺がテロリズムであるとされ、日本では歴史的に要人が暗殺されてきた歴史がある、ということになります。まあ、私も5.15や2.26は正規陸軍部隊による武装蜂起とはいえ、決して内戦ではなくテロリズムだとは思いますが、いわゆる「拡大自殺」的な大量殺人、京アニ事件とか、大阪のクリニック放火事件とか、これらまでテロリズムというのであれば、あまりにも幅広くテロリズムを拡大しているような気がしないでもありませんでした。自分の専門分野ですから大きく考えるのは通常のバイアスだろうとは思います。経済学についても、極めて幅広い適用を志向する経済学帝国主義のような傾向は否定できません。ただし、仇討ちが一種の文化的伝統となっている点は、私も否定できません。そのために復讐心が強くて、先進国の中では数少なく死刑を廃止できない国民性であることは確かです。こういった議論の上で、第7章と第8章のテロリズム対策が議論されて、本書を締めくくっています。すなわち、オール・ハザード対応としてのテロリズム対策としては4点あり、(1) 情報の収集・分析・共有からなるインテリジェンス、(2) 事前対策のリスク・マネジメントと事後対応のクライシス・マネジメントを合わせたセキュリティ、(3) 対応に必要な物資、人員、組織の整備といったロジスティックス、最後に、(4) 社会一般に情報を伝達し、共有することで合意形成を図るリスク・コミュニケーション、となります。ただ、本書でも十分に意識されていますが、テロリズムへの根本的な対応、というかテロリズムの根絶のためには、民主主義がキチンと機能する基礎が必要です。正しく確実な民主主義の運営こそがテロリズムの芽を摘み取るもっとも重要な事前予防策であろうと私は考えます。

| | コメント (2)

2022年12月16日 (金)

インテージ「コロナ禍で過ごすクリスマス」調査結果やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、今週火曜日の12月13日、ネット調査大手のインテージから「コロナ禍で過ごすクリスマス」と題するリポートが明らかにされています。昨年に比べて、まあ、値上がりした結果というのも含めてかもしれませんが、クリスマスの支出は増えそうです。まず、インテージのサイトからポイントを4点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • クリスマス関連の予定支出額は2万円。前年比109%。
  • プレゼントの購入(31%)と自宅でのパーティ(27%)が2大イベント。一番お金をかけるものは「自宅での パーティ」。プレゼントの贈り先は子どもや夫婦間。自分へのご褒美プレゼントも定着。
  • 一番高いプレゼント、子どもには「ゲーム」、夫・妻へは「服飾品(洋服・靴・マフラーなど)」が一番人気
  • 一方で、「家族や恋人と少人数で会食」といった形で「安心・安全」に楽しむといった警戒心は強い

とても興味あるところですが、取りあえず、マクロエコノミストの観点ということで、クリスマスの平均支出に着目したいと思います。インテージのサイトから クリスマス関連の平均支出金額 を引用すると以下の通りです。

photo

クリスマスにプレゼントや食事、旅行といったイベントにどのくらいの支出をするかの質問に対して、回答された平均金額は20,009円と前年2021年から+1,720円、+9%増とのことです。男性は21,077円、前年比+11%増、女性は19,152円、+8%増となっており、男女ともに昨年より増加しそうです。インテージでは、この調査結果と15~79歳の推定人口を基に試算を行い、2022年のクリスマス関連市場規模は1兆9,526億円、前年比+9.4%増と予想しています。
マクロの支出以外で注目すれば、具体的なクリスマスの予定については「プレゼントの購入(自分用を含む)(31%)」と「自宅でのパーティ(27%)」の2項目が他を大きく引き離して2大イベントとなっています。ただし、いずれも男性より女性の方が予定者が多くなっています。また、今年のクリスマスの過ごし方に関する考えや行動についての質問に対しては、「家族や恋人など少人数で会食程度に留めたい」が3割弱を占め、同時に、「少人数でも会食などはしない(10%)」や「繁華街など人の多い場所には近づかない(21%)」といった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染への警戒心からの行動抑制も垣間見えます。背景としては、「感染不安もあるので浮かれるべきではない(25%)」という警戒心がまだ強い一方で、先行きの不安などから、「あまりお金をかけずに過ごしたい」も3割弱に上り、「それなりにお金を使って楽しみたい(11%)」を大きく上回る結果となっています。軍事費の大幅増や増税がこれだけ話題になると、クリスマス関連支出は予定よりもしぼんでしまう可能性もありそうです。

| | コメント (0)

2022年12月15日 (木)

16か月連続の貿易赤字を記録した11月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+20.0%増の8兆838億円に対して、輸入額は+30.3%増の10兆8649億円、差引き貿易収支は▲2兆274億円の赤字となり、昨年2021年8月から16か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、11月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字2兆274億円、11月で最大 円安・資源高で
財務省が15日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆274億円の赤字だった。円安やエネルギー価格の高騰で輸入額が前年同月比30.3%増の10兆8649億円と大幅に増え、輸出額の伸びを上回った。11月としてはこれまで最大だった2013年11月を上回り、比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。
2013年11月は1兆3010億円の赤字だった。当時は東日本大震災後の原子力発電所停止によって火力発電用燃料の輸入が急増した影響が大きかった。11月以外を含めると、22年11月は単月で過去7番目に大きい赤字だった。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値は1兆6802億円の赤字だった。予測を大きく上回る赤字幅で、16カ月連続の貿易赤字となった。2兆円を超える赤字は4カ月連続となる。
輸入は原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの値上がりが影響した。原油の輸入価格は1キロリットルあたり9万2344円と前年同月比57.0%上昇した。ドル建て価格の上昇率は22.1%となっており、円安が輸入価格を大幅に引き上げた。
輸出は20.0%増の8兆8375億円だった。米国向けの自動車や韓国向けの半導体など電子部品が増えた。
荷動きを示す数量指数(2015年=100)は、輸入が前年同月比で4.6%低下した。輸出も3.6%下がった。中国向けの輸出は16.4%の大幅な低下。中国向けは半導体製造装置や自動車部品などの輸出が減少しており、中国経済の減速による影響が出たとみられる。
11月の貿易統計を季節調整値でみると、輸入は前月比5.3%減の10兆5196億円、輸出は1.3%減の8兆7873億円、貿易収支は1兆7322億円の赤字だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

photo

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6800億円近くの貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2.3兆円でしたので、実績の▲2兆円超の貿易赤字はやや下振れして下限に近い印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年11月までの16か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、20か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びも落ち着きつつあり、貿易赤字が拡大するテンポはかなり鈍ってきているのが上のグラフから見て取れます。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
11月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+8.1%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+69.7%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、先月10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、やや伸びは鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは▲5.4%減であるにかかわらず、金額ベースでは+51.9%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+8.9%増となっている一方で、金額ベースでは+51.4%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+6.1%増、金額ベースではこれが大きく膨らんで+47.4%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+10.3%増、輸出金額でも+38.3%増と大きく伸びています。また、一般機械+18.9%増、電気機器+11.4%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因です。

もはや、懐かしの経済学になってしまったのかもしれませんが、その昔は、「Jカーブ効果」なんて呼び方がありました。すなわち、円安初期には貿易赤字が増加する一方で、円安の価格効果の浸透とともに貿易赤字は減少して、貿易赤字縮小ないし貿易黒字拡大の方向に向かう、とされていたわけです。でも、最近では、各種の技術進歩によって波及や浸透のテンポが速くて、アッという間に進む一方で、国内産業の海外展開をベースにブローバル・バリューチェーンが複雑なネットワークを形成し、それほど単純ではないような気がします。

| | コメント (0)

2022年12月14日 (水)

大企業製造業の業況判断DIが4四半期連続で悪化した12月調査の日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から▲1ポイント悪化し+7、逆に、大企業非製造業は+5ポイント下以前の19となりました。大企業製造業では4四半期連続の悪化です。また、本年度2022年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+15.1%の大幅な増加が見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、4期連続で悪化 12月日銀短観
日銀が14日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は前回の9月調査から1ポイント悪化し、プラス7となった。海外経済の減速と長引く物価高が景況感を下押しし、4四半期連続で悪化した。大企業非製造業は新型コロナウイルスの影響緩和から3期連続で改善し、プラス19となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値だ。12月調査の回答期間は11月10日~12月13日。回答基準日の11月28日までに企業の7割台半ばが答えた。
大企業製造業の業況判断DIはプラス7と、QUICKが集計した市場予想の中心値(プラス6)をやや上回った。サプライチェーン(供給網)の改善から自動車を中心に景況感が上向いた業種もみられたが、原材料コスト高などの要因から石油・石炭製品や紙・パルプでは景況感が悪化した。先行きは海外経済の減速懸念も強く、プラス6と足元から小幅の悪化を見込んでいる。
非製造業では新型コロナの感染抑制と経済活動の両立が進んだことで景況感の改善が続く。大企業非製造業の業況判断DIはプラス19と市場予想(プラス17)を上回った。政府の観光促進策「全国旅行支援」や新型コロナの水際対策の緩和も後押しになり、対個人サービスや宿泊・飲食サービスなどが改善した。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo

昨日、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関してはほぼ横ばい圏内の動きであり、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から▲2ポイント悪化の+8、非製造業は逆に+3ポイント改善の+17、となっています。実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが9月調査から▲1ポイント悪化、逆に、大企業非製造業は+5ポイントの改善となりました。足元については小幅に上振れした印象なのですが、先行きの景況感については、製造業・非製造業ともに、また、大企業・中堅企業・中小企業のすべての規模で、悪化の方向が示唆されており、総じて停滞色が強い内容と私は受け止めています。まず、製造業では、欧米先進国での中央銀行による利上げや金融引締めによる景気後退懸念が引き続き強まっていて、同時に、中国のゼロコロナ政策の方向性も定まらず、輸出への影響が懸念されます。続いて、非製造業でも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が第8波に入った可能性があり、足元では水際措置の緩和によってインバウンド消費の増加が見込まれていますが、内需の先行きが不透明である点は否定できません。

photo

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではないのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。加えて、海外需要の方向やCOVID-19の感染拡大の動向に起因する不透明感は設備と雇用についても同様です。

photo

日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。その意味で、以前の9月調査では2022年度の設備投資計画は+16.4%増と、6月調査から大きく上方修正されたのですが、本日公表の12月調査では+15.1%増と小幅に下方修正されています。ただこれは、COVID-19パンデミック以降に大きく抑制されていた設備投資の反動増という面が強い、と私は考えています。ただ、最後の着地点がどうなるか、これまた、先進国の景気動向とCOVID-19の感染拡大を考え合わせると不透明です。

最後に、図表は示しませんが、今回公表された12月調査の結果のうち、売上・収益計画について注目すると、売上は2022年度通期でも上期でも下期でもほぼほぼ増収が見込まれています。しかし、経常利益は2022年通期では増益計画となっている一方で、下期には減益ないし下方修正が幅広く見込まれています。特に製造業ではそうなっています。これが、先行きの業況判断に影響を及ぼしている可能性が強いと私は考えています。実際に経常利益が減益となった場合には、ひょっとして、設備投資計画にも悪影響が及ぶ可能性もあります。ヘッドラインの業況判断DIの動向とともに気がかりです。

| | コメント (0)

2022年12月13日 (火)

明日公表予定の12月調査日銀短観予想やいかに?

明日12月14日の公表を控えて、シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2022年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックやウクライナ危機といった経済外要因の動向次第という面があり、シンクタンクにより大きく見方が異なることになってしまいました。それでも、景況感が低下するのは明らかだという予想です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+8
+14
<+16.4%>
n.a.
日本総研+6
+17
<+15.3%>
先行き(2023年3月調査)は、全規模・全産業で12月調査対比▲1%ポイントの小幅な悪化を予想。製造業では、既往の資源高や円安によるコスト増、海外経済の減速による需要の減少などを背景に収益悪化の懸念が重石に。非製造業では、外食や旅行などのリバウンド需要や外国人観光客の増加を背景に、サービス業を中心に景況感は改善する見通し。
大和総研+7
+20
<+16.8%>
大企業製造業では、供給制約の更なる緩和による生産拡大を見込む「自動車」の業況判断DI(先行き)が上昇するとみている。大企業非製造業については、観光需要喚起策によって旅行需要の回復が引き続き後押しされることや、水際対策の大幅緩和によるインバウンドの急回復への期待感から、「対個人サービス」、「宿泊・飲食サービス」、「小売」といった業種で業況判断DI(先行き)が上昇すると予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+6
+17
<+16.5%>
製造業・業況判断DIの先行きは、3ポイントの悪化を予測する。2023年からは、金融引き締めに伴う海外経済の悪化が本格化し、輸出の下押し圧力が高まると見込まれる。
欧米経済は、インフレ率の上昇と急速な金融引き締めにより、景気の下振れ懸念が高まっている。米国では、2023年入り後に利上げの影響が経済全体に波及し、景気の落ち込みが鮮明になると見ている。住宅投資・設備投資の更なる下振れに加えて、個人消費も年央にかけて減少する見込みである。ユーロ圏は、天然ガスの需給ひっ迫に伴うガス価格高止まりを受けて、暖房費がかさむ来年の1~3月期まで個人消費が下押しされるだろう。中国では足元でゼロコロナ政策が緩和されつつあるが、不動産市況の低迷などから、景気には当面停滞感が残るとみられる。全体として海外経済の見通しは厳しさを増しており、輸出企業を中心に業況改善への期待はやや低下している可能性が高い。
非製造業・業況判断DIの先行きは横ばいを予想する。11月以降、新規感染者数が増加傾向にあることを受けて、サービス消費の下振れ懸念が業況の改善を阻害すると考えられる。ただし、ワクチン接種の広がりや自然免疫の獲得を背景に、感染第7波ほどの経済活動の下押し要因にはならないとみている。また、政府は全国旅行支援を年明け以降も継続する方針であり、サービス消費を下支えすると見込まれる。インバウンドについても、10月の訪日外客数は2019年同月比約20%と回復の余地はまだ大きい。
ニッセイ基礎研+6
+17
<+16.2%>
先行きの景況感は総じて悪化し、先行きへの警戒感が示されると予想。製造業では世界経済の減速に対する懸念が景況感を圧迫しそうだ。また、非製造業ではコロナ再拡大による人出の減少や物価上昇に伴う国内消費の減退に対する警戒感が重荷となるだろう。
第一生命経済研+3
+13
<大企業製造業+20.5%>
大企業・製造業の業況判断DIは、前回(8)から▲5ポイント悪化して、3の「良い」超になると予想する。米国経済は、利上げ効果が浸透している。ISM製造業景況指数も、11月に遂に節目の50を割り込んだ。中国経済も悪化しており、輸出環境は厳しさを増している。
三菱総研+7
+16
<+16.2%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業が12月時点から横ばいの+7%ポイント、非製造業は同+1%ポイント上昇の+17%ポイントと予測する。製造業では、外需の減少が下押し要因となるものの、内需の緩やかな回復による下支えが期待され、業況は横ばいを維持するとみる。非製造業では、個人消費が底堅く推移するなか、インバウンド需要の回復の本格化もあり、小幅上昇を見込む。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+8
+17
<大企業全産業+20.8%>
る日銀短観(2022年12月調査)の業況判断DI(最近)は、大企業製造業で、前回調査(2022年9月調査)から横ばいの8になると予測する。堅調な輸出、国内での設備投資需要の持ち直し、輸出企業における円安メリット等のプラス材料はあるが、多くの業種で輸入コストの増加が利益を圧迫するため、製造業の業況感は足踏み状態となるだろう。先行きは、半導体等の部品不足による自動車等の生産制約が和らぐと期待される一方、多くの業種で世界経済の減速による需要の下振れリスクが意識され、製造業全体では1ポイント悪化の7と予測する。
農林中金総研+6
+16
<+16.0%>
先行きに関しては、一次産品価格の高止まりや円安定着によるコスト高が収益圧迫につながるとの懸念が強いほか、世界的なスタグフレーションへの警戒、ゼロ・コロナ政策を続ける中国経済の足踏み、欧州のエネルギー危機リスクなどが景況悪化につながるとみられる。以上から、製造業では大企業が4、中小企業が▲9と、今回予測からともに▲2ポイントの悪化予想と見込む。非製造業でも大企業が15、中小企業では2と、今回予測からそれぞれ▲1ポイント、▲2ポイントと、悪化を予想する。
明治安田総研+6
+16
<+16.9%>
12月の先行きDIに関しては、大企業・非製造業は2ポイント悪化の+14、中小企業は3ポイント悪化の+1を見込む。インバウンド需要の増加や政府の観光促進策により、旅行・外出需要が引き続き見込まれることから、対面サービス業を中心に業況の改善傾向が続くとみるが、仕入れコスト上昇に伴う価格転嫁が今後一段と進むことで、個人消費が抑制され、全体として業況は悪化すると予想する。

大雑把な平均的見方として、12月調査の日銀短観の業況判断DIでは大企業製造業では悪化、大企業非製造業では改善、ただし、いずれも変化幅は前回9月調査から±2~3ポイントと小幅で、日銀短観の統計としてのヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは悪化するとはいえ、まだプラス圏内にとどまる、といったところでしょうか。例えば、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から▲2ポイント悪化の+8、非製造業は逆に+3ポイント改善の+17、となっています。しかも、大企業製造業の下限でも+3ですから、マイナスに落ち込むことは想定されていない、というように私は解釈しています。加えて、設備投資計画についてもよく似た予想となっていて、例えば、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業全産業で昨年度比+20.4%増と前回9月調査の+21.5%から小幅に下方修正されるものの、+20%は超えるとの見方が多く、レンジの下限は+18.2%だったりします。
製造業の業況判断DIが前回調査から落ちる要因としては海外経済ということになります。すなわち、先進各国でインフレ抑制のために金融引締めが続いており、米国をはじめとして景気後退に入ることを覚悟する必要があるからです。また、中国のゼロ・コロナ政策の先行きも不透明です。いずれも、製造業の輸出には影響が出ます。他方、非製造業については新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大がすでに第8波に入ったとしても、ワクチン接種の広がりなどから第7波やそれ以前ほどの影響は出ない可能性がある上に、インバウンド消費の拡大も見込めることから、横ばいないし小幅の改善と見込むシンクタンクが多くなっています。まあ、そうなのかもしれません。
最後に、下のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから業況判断DIの推移を引用しています。

photo

| | コメント (0)

2022年12月12日 (月)

本日のほかのニュースから

photo

漢字検定協会によると、2022年「今年の漢字」第1位は「戦」で、223,768票を集めたということです。

さらに、我が阪神タイガースでは2023年度新人選手入団発表会があり、なんと、かの鳥谷敬遊撃手がつけていた背番号1がドラフト1位の森下翔太外野手に引き継がれることに決まりました。ぜひとも、来年からがんばっていただきたいと思います。強く思います。

| | コメント (0)

2ケタ近い企業物価指数(PPI)もそろそろピークアウトか?

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は9.3%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価、11月9.3%上昇 電力・ガス価格が高騰
日銀が12日発表した11月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は118.5と8カ月連続で過去最高を更新した。前年同月比で9.3%上昇。21カ月連続で前年の水準を上回ったものの、伸び率では9月をピークに鈍化している。ロシアのウクライナ侵攻による資源価格の上昇を背景に、電力やガスなどが大幅な価格転嫁に動いた。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示している。11月の上昇率は民間予測の中心値である8.9%を0.4ポイント上回った。
同日改定された9月の上昇率は10.3%上昇と1980年12月以来で過去最高を更新した。10月も9.4%上昇に引き上げた。
11月の品目別では電力・都市ガス・水道(49.7%上昇)の伸びが顕著だった。電力や都市ガスは6~8月の燃料費を踏まえて値決めしており、時間差で企業物価を押し上げている。
パルプ・紙・同製品(10.4%)なども伸びが目立つ。鉱産物(32.9%)や鉄鋼(20.9%)、金属製品(12.7%)は高止まりが続くものの、10月比では伸びが鈍化しており、価格転嫁の動きに一服感が出ている。
円安も物価の上昇に寄与している。11月の外国為替市場では一時1ドル=148円台後半まで円安が進んだ。
輸入物価の上昇率は、ドルなどの契約通貨ベースでは8.6%だが、円ベースでは28.2%に達した。輸入物価に占める為替要因は約7割と、高水準で推移している。
公表している515品目のうち、上昇したのは438品目、下落したのは62品目だった。

いつもの通り、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

photo

引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+8.9%と見込まれていましたので、実績の+9.3%はやや上振れしたとはいえ、レンジの上限が+9.4%でしたので、ほぼコンセンサスの範囲かという気がします。PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇とその波及を受けたエネルギー価格の上昇、さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、為替レートが減価している円安要因です。
品目別には、引用した記事の4~5パラめにあるように、前年同月比で見て、電力・都市ガス・水道+49.7%、鉱産物+32.9%のほか、鉄鋼+20.9%、金属製品+12.7%、窯業・土石製品+10.5%、パルプ・紙・同製品+10.4%が2ケタ上昇となっています。しかし、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品はとうとう▲0.1%のマイナスに転じましたし、石油・石炭製品も10月の+2.8%に続いて、11月にはわずかに+0.5%まで上昇幅を縮小させています。もちろん、上昇率は鈍化しても、価格としては高止まりしているわけですが、そろそろ、エネルギー価格についてはすでにピークアウトした可能性があるように見えなくもありません。例えば、上のグラフでは資源価格に牽引された輸入物価上昇率が最近時点で大きく上昇率を鈍化させているのが見て取れます。ただし、飲食料品については+7.2%とマダ高い上昇率ですし、インフレが輸入資源価格から国内に波及し、特に、飲食料品の値上げや高価格に主役を交代させているように見えます。
最後に、そうはいいつつも、エネルギー価格についてはシンクタンクなどのリポートを見ておきたいと思います。すなわち、日本総研の「原油市場展望」では「原油価格は振れを伴いながらも80ドル前後を中心に推移する見通し」と分析し、また、みずほ証券「マーケット・フォーカス(商品:原油)」では「足元の原油価格は底堅い展開。世界景気減速による需要の冷え込みに加え、中国のコロナ感染拡大から一時年初来マイナス圏に沈んだ。一方、OPECプラスによる減産継続のほか、中国のゼロコロナ政策緩和等が支えに。」と指摘しています。ご参考まで。石油などの商品市況の先行きは私には判りませんし、為替相場の予想はもっと理解不能です。悪しからず。

| | コメント (0)

2022年12月11日 (日)

今日は大学祭にお出かけ

photo

今日の午後は大学祭にやって来ました。今の大学に再就職してから3年目にして初めてです。入り口でいきなり「予約のQRコードを見せて下さい」とチェックされます。そうです。予約制なのでした。入り口にたまたま見知った職員さんがいて、「センセ、こっちこっち」といわれて、無事ゲートを通過したのですが、「17時から研究棟は閉鎖されます」と注意されます。
キャンパスの平日は、いつも学生でいっぱいなのですが、今日は学生だけでなく家族連れやカップルでいっぱいでした。こういったイベントがフツーに出来る世の中を早く取り戻したいと願わずにはいられませんでした。

| | コメント (0)

2022年12月10日 (土)

今週の読書はカーネマンほか『NOIZE』を中心に計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ダニエル・カーネマン & オリヴィエ・シボニー & キャス R. サンスティーン『NOIZE』上(早川書房)では、人間の判断におけるエラーのうちのノイズを取り上げて、アルゴリズムに沿った、あるいは、ルールに基づく決定の方がノイズが少ないと主張しています。野村総合研究所『日本の消費者はどう変わったか』(東洋経済)では3年ごとの1万人アンケート調査に基づき、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック後の消費者のマインドや行動パターンなどの変化をリポートしています。小林美希『年収443万円』(講談社現代新書)では平均的な収入があってもなお生活が苦しい国民生活の実態をリポートしています。高山正也『図書館の日本文化史』(ちくま新書)では図書館が文化的な豊かさに果たした役割を歴史的にひも解いています。貴志祐介『罪人の選択』(文春文庫)はSFとミステリの4編の短編を収録し、特にSFとではこの作者独特の世界観が味わえます。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10~月には49冊、12月に入って今週は6冊ですので、今年に入ってから227冊となりました。ひょっとしたら、今年は250冊に届くかもしれません。

photo

photo

まず、ダニエル・カーネマン & オリヴィエ・シボニー & キャス R. サンスティーン『NOIZE』上下(早川書房)です。著者は基本的に3人ともエコノミストといえますが、カーネマン教授がノーベル経済学賞を受賞した経済心理学や行動科学の専門家、シボニー教授はマッキンゼー出身の経営学者で意思決定などの専門家、サンスティーン教授は法哲学や行動経済学の専門家です。英語の原題も NOIZE であり、2021年の出版です。ということで、基本的にカーネマン教授の前著『ファスト&スロー』の続編といえます。最初に、エラーをもたらす2つの要因としてバイアスとノイズを上げ、射的の結果から直感的に判りやすく解説しています。すなわち、精度高く的の近くに着弾したシグナル中心のいい例がある一方で、外している2例をもとに、一貫性なくアチコチにばらつきがあるのがノイズ、ばらつきはないがどこか・どちらかに偏っているのがバイアス、と分類しています。当然ながら、本書は前者のノイズを分析対象とし、標準偏差でもって計測される、と定義します。そのノイズの実例として、裁判での量刑、保険の査定結果、医師の診断、採用を含めた人事の評価などを上げて、実に多くのノイズで満ちた判断が下されていることを強調しています。そして、直感的にも理解できますが、バイアスは一方向に偏っていますから、例えば、裁判の量刑で厳しい/甘い、などの偏りを排除することはそれほど難しくない一方で、ノイズのばらつきは、いわば、一貫性なくアチコチの方向にばらついていますので修正が困難といえます。そのノイズを除去するために、本書では「判断ハイジーン」、すなわち、判断の事前にハイジーン=衛生管理をするイメージで、いくつかの手法を提案しています。そのひとつが、まさにAI時代にふさわしくアルゴリズムを用いた人間による解釈の裁量の余地の少ない方法です。逆にいえば、人間がその裁量で判断している限り、カスケード効果によりノイズが連鎖する可能性も十分あるわけです。要するに、ルールを設定して裁量の余地を狭めることが重要なわけです。その例としては、産婦人科のアプガー・ガイドラインを上げています。そして、私が考える中では金融政策のインフレ目標がこれに当たります。インフレ目標を採用する前の日銀が裁量政策にこだわって、日本経済にデフレをもたらし、ひどいトラック・レコードを記録して世界から笑いものにされていたのは記憶に新しいところです。最後に、私が読み進むうちに強い既視感に襲われました。すなわち、本書でノイズを除去すべく提案されているいくつかの方法は、ウェーバー的な官僚制に通ずる手段であるという点です。そして、最終第28章で、著者たちもそれを認めています。官僚制とは前例踏襲で融通が利かず、個別案件の特殊性を考慮せずに、一律にルールを適用する、と考えられていますが、まさにその通りです。おそらく、全部ではないとしても、エラーだらけの専制君主の判断に対して、ルールを議会で設定し、そのルースに従った執行体制を求めた結果が官僚制なのだろうと私は認識しています。本書ではノイズを削減・除去するためには、そういった官僚制のような融通の利かないルールの厳格な適用が必要、と主張しています。この点は忘れるべきではありません。

photo

次に、野村総合研究所『日本の消費者はどう変わったか』(東洋経済)です。著者は、いうまでもなく我が国でも最大のコンサルタント会社のひとつです。本書では1997年から開始され、3年おきに実施されている「生活者1万人アンケート」のい2021年調査結果を中心にタイトル通りの調査結果が示されています。主として、マーケターを主たる読者に想定していて、当然、マーケティング活動への活用に主眼が置かれています。でも、私のようなエコノミストにも十分活用できる結果ではないかと思います。特に、今回調査では2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、どのような消費者の志向や行動の変化が現れたかを追跡調査しています。とても興味深い結果なのですが、一言でいえば、まあ、常識的な結果と私は受け止めています。まず、私が就職してキャリアの国家公務員となってから、大きな経済社会的な変化がいくつかありました。バブル崩壊(1990年)、阪神・淡路大震災(1995年)、リーマン証券破綻(2008年)、東日本大震災(2011年)、そして、COVID-19パンデミック(2020年)です。おそらく、こういったイベントにかかわりなくトレンドとして進んでいく変化もあれば、循環的な変化もあります。そういった中で、私は消費者の意識や行動に強く影響をおよぼすのは雇用だと考えています。まず、1990年代から進んだのは非正規雇用の拡大です。これを基礎として結婚せずに子供も少ない流れが一気に加速したと考えるべきです。そして、COVID-19パンデミックはこの流れを加速したといえます。ですから、本書でも指摘されているように、挑戦=チャレンジというのは積極果敢なアニマル・スピリットの現れであって、起業家精神を肯定的に表現する言葉ではなく、むしろ、リスキーでギャンブル的なネガな言葉に受け止められたりしています。加えて、COVID-19パンデミックの最大の影響はテレワークの普及にあります。おそらく、特に日本では非公式な同僚との横の連絡が失われた結果として、かなりの生産性の低下を見たのだろうと思いますが、パンデミックを過ぎたとしても、100パーセント元の対面就業に戻るわけではありません。もともとテレワークに親和性があって生産性が確保できている産業・職業や、あるいは、テレワークに習熟して生産性の低下が食い止められている企業などでは、引き続きテレワークが継続されるのはいうまでもありません。その意味で、働き方のダイバーシティが進みましたので、幸福度は決して大きく低下したわけではありません。他方で、渡辺教授の『世界インフレの謎』で主張されていた宿泊や飲食などのサービス消費の低迷とモノ消費への回帰については、少なくとも本書では外食への需要については決してCOVID-19によってダメージを受けているわけではない、と指摘しています。そして、デジタル化については一気に進んだのは従来から指摘されている通りです。本書では「半ば強制的に」という表現を使っています。いずれにせよ、政府統計などに現れる消費のバックグラウンドを知る上では貴重な資料です。ただ、最後に、SNS誘発消費についてはそれほど重視されていません。インフルエンサーの影響については、私は雇用環境よりずいぶん弱いと考えているので、ある意味でOKなのですが、本書ではまったく無視しています。

photo

次に、小林美希『年収443万円』(講談社現代新書)です。著者は、ジャーナリストです。タイトルの年収443万円というのは、国税庁の「民間給与実態統計調査」における2021年給与所得者の平均年収となっています。ハッキリいって、とても低い額なのですが、これはあくまで平均であって、平均はトップモストの層に引っ張られますので、中央値はもっと低いことになります。バブルが崩壊した後、ここ30年でお給料はほとんど上がっていないわけです。3部構成となっていて、第1部と第2部はインタビュー内容を1人称で取りまとめています。第1部が平均年収がっても生活が苦しい人たち、第2部は平均年収以下のインタビュー結果です。第3部で著者の視点が示されます。ということで、平均的に、というか平均以上の年収1000万円でも生活が苦しいという訴えに満ちています。子供の教育費であったり、老親の介護であったり、あるいは、非正規雇用の不安定さと所得の低さであったり、生活が苦しい原因は必ずしも同じではありませんが、収入と支出のバランスの間で、30年以上前のバブル崩壊から苦しみ続けている国民の姿が浮き彫りにされています。私は何をどこから見ても、明らかに、収入の不足であると考えています。読者によっては家計の節約不足やムダな出費を指摘する向きがあるかもしれませんが、そうではありません。現代の技術水準に基づく豊かな生活を送ろうとすれば、それ相応の出費が必要です。テレビや自動車は文化的な生活には必要性高いといわざるを得ませんし、生活が苦しいからといって、インターネットへの接続の出費を切り詰めるのは、ひょっとしたら、選挙などで基本的人権の正当な行使が出来なくなるおそれすらあります。あるいは、権力者にはそれが狙いなのかもしれないと勘ぐったりもします。ですから、支出を切り詰めるのではなく、収入を増加させる必要が力いっぱいあるわけです。しかし、他方で、本書もやや踏み込み不足といえます。収入の増加や所得の確保には何といっても雇用がもっとも重要な要因なのですが、本書ではやや雇用についてアサッテの見方しか示されていません。すなわち、まず第1にマクロの視点で、経済の拡大を目指す必要がスッポリと抜け落ちています。気候変動=地球温暖化の抑制やほかのSDGsについて考えれば、脱成長とか、ゼロ成長とかが目標になりかねませんが、まず、経済の拡大による雇用の確保が大前提と考えるべきです。しかし、本書ではそこには目がつけられていません。第2にマイクロな視点では、安定した高収入の雇用のためにはスキルの向上が何よりも必要です。大学に戻ってのリカレント教育などにも目を向ける必要がありますが、本書では残念ながら、採用面接の際のテクニックだけが重視されている印象です。この2点をしっかりと政策的に支えて、国民を貧困状態から引き上げる措置が必要です。そして、何度も繰り返しましたが、国民生活の基礎は雇用にあります。まず、短期的には手始めに非正規雇用に対する規制緩和の行き過ぎの是正が必要です。本書にも「非正規雇用の拡大によるコストカット」といった旨企業サイドの見方が批判的に紹介されていますが、正規雇用の拡大という雇用者サイドの政策のためには、非正規雇用の行き過ぎた規制緩和の是正が現時点では必要です。非正規雇用を悪者視するわけではありませんが、正規雇用を求める雇用者に非正規の職しかないという現状は、行き過ぎた規制緩和の是正により改める必要があります。

photo

次に、高山正也『図書館の日本文化史』(ちくま新書)です。著者は、慶応大学の図書館学の研究者です。国立公文書館の館長も経験しているようです。ということで、本書では、図書館文化を中心に据えつつ、その前提としての文字文化、書籍の歴史なども押さえています。ですから、大陸からの漢字文字の導入なども重要かもしれませんが、やや著者の歴史認識に歪みがあるように私は感じましたので、それほど重視する必要もないかと思います。というのも、本書では何度かハティントンの『文明の衝突』を引いて、日本は中国漢字文化とは少し異なる独自の文明圏を形成していて、その日本の文明の発展を図書館が担っている、という説を何度か主張しています。ということで、私が図書館の役割として重要と考えているのは、文書の保存と利用者への提供です。しかし、この2点はある意味でトレードオフである点を、著者は暗黙裡にしか理解していないような気がします。私は国立国会図書館の図書カードも持っていましたし、東京では日比谷図書館をはじめとして、公立図書館も大学などの研究機関の図書館も、かなり数多くの図書館を利用してきました。ハッキリいって、図書館のヘビーユーザだろうと思います。おそらく、私が接してきた国公立の図書館では、主として文書・図書の保存を主眼に置かれているタイプと、逆に、利用者への提供を主眼に置いているタイプがあります。私自身は各図書館ごとにバランスが重要と考えているわけではなく、図書館によってその役割を特化させてもいいくらいに考えています。すなわち、利用者への提供はほとんどせずに図書や文書の保存を主眼にした図書館もそれなりに重要です。現時点では、図書ではなく文書に関する国立公文書館がこれに当たります。国会図書館もこれに近いような気がします。逆に、おそらく、多くの市区町村レベルの公立図書館が貸出に精を出すシステムになっており、適宜古い図書を処分しつつ地域住民へのサービスに努めているわけで、本書では「無料の貸本屋」とやや揶揄した表現を用いている部分もありますが、行政サービスとして重要な役割を果たし、良識ある市民層の形成にて大いに役立っていることはいうまでもありません。ただ、本書でも指摘しているように、図書館に関する政策が文教政策には入っておらず、国会図書館という頂点を持った立法府に属しているため、政策的な重点がぼやけているのは事実だろうと思います。最後に、本書では電子図書の役割、あるいはさらに進んで電子図書を図書館でどのように扱うか、については、p.267で「時間がかかる」としか述べられておらず、少し不満が残ります。この先、デジタル本が比率を高めていくことは明らかなのわけですし、実は、私自身は図書館のヘビーユーザでありながら確たる見識は現時点では持ち合わせていませんから、本書の著者には何らかの見識を持った見方を示してほしかった気がします。

photo

最後に、貴志祐介『罪人の選択』(文春文庫)です。著者は、私と同世代で、京都大学経済学部出身の小説家です。本書では短編4話から構成されており、ハッキリいって、やや寄せ集めの感があります。単行本は2020年に発行されていますが、今年になって文庫本が出版されましたので読んでみました。収録されている短編は、「夜の記憶」、「呪文」、「罪人の選択」、「赤い雨」であり、タイトル編となっている「罪人の選択」はミステリですが、ほかの3話はSFです。特に、冒頭に置かれている「夜の記憶」は『十三番目の人格 -ISOLA-』や『黒い家』で著者が本格デビューする前に書かれた貴重な一編といえます。節が交互になっていて、人間ならざる生物と人間がそれぞれ登場し、人間編の方では、男女の結婚前カップルが南の島のバカンスで太陽系脱出前の最後の時を楽しんでいます。浅い読み方しかできない私のような読者には、かなり難しいSFだと感じさせられました。第2話の「呪文」では、主人公は文化調査で植民惑星『まほろば』に派遣され、諸悪根源神信仰を調べ、集団自殺や大事故などを引き起こす危険な信仰を防止することを目的にしています。唯一のミステリである「罪人の選択」では、1946年と1964年の2時点を舞台に、罪人が選択を迫られます。すなわち、焼酎の入った一升瓶とフグの卵巣の缶詰を前に、どちらかに猛毒が入っていて、他方は無害、という選択です。最後の「赤い雨」は遺伝子組換え生物として誕生したらしいチミドロによって汚染された世界と選ばれた人間だけが入れるドームの世界を対比し、以下に破局的な終末を阻止するかという研究をしている男性とチミドロが引き起こすRAINという病気の治療を研究する女性を主人公にしています。何といっても、私は最後のSF「赤い雨」を高く評価します。私が貴志祐介のSF作品としては最高傑作と考える『新世界より』にやや近い世界観、すなわち、分断され上下関係に支配されつつも、協力し合う2つのグループが、地球という狭い世界でいかに生きるか、という観点が示されています。ミステリの「罪人の選択」は、まあ、標準的なレベルという気がしますが、繰り返しになるものの、冒頭の「夜の記憶」は私の理解がはかどりませんでした。「呪文」も短いストーリーにいろんな要素を詰め込んだSFをの好編です。長編小説のようなスケールはありませんが、なかなかに中身の濃い短編が収録されています。ただし、まあ、一貫したテーマはなく寄せ集めです。

最後に、最新号の ECONOMIST 誌にて年末特集のひとつだろうと思いますが、以下の今年の読書的な2つの記事を見かけました。雑誌としてのオススメと寄稿者のオススメのようです。中身はまだそれほど詳しく見ていませんが、面白そうであれば取り上げてみたいと思います。

| | コメント (2)

2022年12月 9日 (金)

今年はクリスマスケーキも値上げされるのか?

インフレが続いて、食品の値上がりが大きくなっていますが、今週火曜日12月6日に、帝国データバンクから「2022年冬シーズン『クリスマスケーキ』価格調査」の結果が明らかにされています。今年2023年シーズンでは昨年から約200円アップとの結果となっています。リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

photo

調査対象の100社のうち、価格据置きは21社、ですから、残り79社が値上げということになります。値上げ幅は、100円未満が6社、100円台が16社、200円台が23社、300円台が19社、400円台が5社、500円以上が10社の平均209円との調査結果です、2022年シーズンの価格は平均3831円だったのが、今シーズンは4040円へ値上げされるということです。上の画像は、リポートから引用していますが、見ての通りで、小麦粉をはじめとして原材料価格が引き上げられています。

帝国データバンクのリポートによれば、「クリスマスケーキは2~3日で多くの販売量が確保できるなど収益面でメリットも多い反面、イチゴなど生もので日持ちしない原材料が多く、事前の量産が難しい面もある。そのため、昨今続く物価高の影響など、原材料価格の動向が読めないなかでの価格設定は難しく、価格を据え置いたケーキと値上げを実施したケーキ、値上げ幅などで動向にばらつきがみられた。」ということです。

| | コメント (0)

2022年12月 8日 (木)

上の倅の誕生日

photo

今日は、上の倅の誕生日です。
もう大学を卒業して就職し、親が再就職で関西に引越してしまったので、東京に1人で残してきてしまいました。でも、元気にしていることと思います。そろそろ、結婚してほしい気もしますが、私が彼の年齢のころはバブル景気まっただ中で、結婚なんてまったく考えもしませんでした。ですから、強いことはいえません。

| | コメント (0)

7-9月期GDP統計速報2次QEはマイナス成長ながらわずかに上方改定

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.2%、年率では▲0.8%と、先月公表の1次QEの前期比▲0.3%、前期比年率▲1.2%から上方改定されています。なお、国内需要デフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.2%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の7-9月GDP、年率0.8%減 改定値で上方修正
内閣府が8日発表した2022年7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.2%減、年率0.8%減だった。11月に公表した速報値(前期比0.3%減、年率1.2%減)から上方修正した。最新の経済統計を反映させた結果、個人消費は下振れしたものの、民間企業による在庫積み増しが押し上げ要因となった。
民間在庫は速報段階ではGDPに対し0.1ポイントの押し下げ要因だった。1日に財務省が公表した7~9月期の法人企業統計を踏まえ原油など原材料の在庫投資が上振れした。改定値では0.1ポイントの押し上げ要因に変わった。
季節ごとの要因をならす調整手法の見直しにより、速報値で1.9%増だった輸出は改定値では2.1%増となった。7~9月期のマイナス成長の主因である輸入は5.2%増と変化はなかった。
内需の柱である個人消費は前期比0.3%増から0.1%増に下方修正した。7~9月期は第7波とされる新型コロナウイルスの感染拡大期にあたり、外食やサービス消費などが伸び悩んだ。外食などの最新の統計結果が速報段階の推計よりも弱かった。
設備投資は前期比1.5%増と速報値と同じだった。業績改善や経済社会活動の正常化を背景に、民間企業は一定の投資を続けている。
今回の発表にあわせた過去分の修正により、前期比年率で0.2%増のプラス成長だった22年1~3月期は同1.8%減となった。4~6月期のプラス成長は維持された。結果として、7~9月期は2四半期ぶりのマイナス成長となった。
21年度の実質成長率はこれまでの2.3%から2.5%に上方修正された。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2021/7-92021/10-122022/1-32022/4-62022/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.5+1.2▲0.5+1.1▲0.3▲0.2
民間消費▲1.3+3.2▲1.0+1.7+0.3+0.1
民間住宅▲1.6▲1.3▲1.7▲1.9▲0.4▲0.5
民間設備▲1.8+0.7▲0.4+2.0+1.5+1.5
民間在庫 *(+0.3)(▲0.2)(+0.8)(▲0.3)(▲0.1)(+0.1)
公的需要+0.4▲1.6▲0.2+0.7+0.2+0.2
内需寄与度 *(▲0.6)(+1.2)(+0.0)(+1.0)(+0.4)(+0.4)
外需寄与度 *(+0.1)(+0.0)(▲0.5)(+0.1)(▲0.7)(▲0.6)
輸出▲0.3+0.6+1.2+1.5+1.9+2.1
輸入▲1.2+0.3+3.7+1.0+5.2+5.2
国内総所得 (GDI)▲1.2+0.5▲0.8+0.3▲1.0▲0.9
国民総所得 (GNI)▲1.3+0.9▲0.4+0.5▲0.7▲0.6
名目GDP▲0.6+0.9+0.2+1.0▲0.5▲0.7
雇用者報酬+0.1▲0.1▲0.9▲0.3▲0.8▲0.2
GDPデフレータ▲0.2▲0.3+0.4▲0.2▲0.5▲0.3
内需デフレータ+1.5+2.1+2.6+2.8+3.0+3.2

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された今年2022年7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、水色の設備投資などがプラス寄与している一方で、黒の純輸出のマイナス寄与が目立っています。

photo

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が▲1.1%でしたので、やや上振れた印象ながら、大きなサプライズはありませんでした。先進国でインフレにより消費がダメージを受けていて、我が国でも同様に消費が4~6月期の前期比+1.7%増から7~9月期1次QEでは+0.3%増、そして、本日公表の2次QEでは+0.1%増と伸びが大きく鈍っています。もちろん、全体としては、ややイレギュラーなサービス輸入の増加によるマイナス成長を記録した面がある、と考えるべきです。ですから、こういった特殊要因を別にすれば、緩やかな回復が継続しているという景気に対する基本的な認識を変更する必要はないものと私は考えています。ただし、GDP成長率としては1次QEから2次QEで上方改定されていますが、それほど中身はよくありません。すなわち、繰り返しになりますが、消費が前期比+0.3%増から+0.1%増へと伸びが鈍化し、逆に、在庫の寄与度は▲0.1%から+0.1%へと高まっています。成長率へはプラス寄与なのですが、売れ残りの在庫が積み上がっている可能性は否定できません。

photo

いずれにせよ、2次QEで上方改定されたとはいえ、マイナス成長は続いているわけですし、何よりも、資源高と円安による交易条件悪化=所得流出は継続しています。ですから、GDPと国内総所得(GDI)や国民総所得(GNI)を見ると、▲0.3%とか、▲0.2%とかのGDPのマイナス幅に比べて、GDIは▲0.9%減ですし、GNIも▲0.6%となっています。おそらく、家計や企業の景気実感はGDPよりもGDIやGNIに近いと私は考えていますので、それほど経済が回復していない、という感覚につながっている可能性が十分あります。加えて、欧米先進各国ほどではないとしても足元での物価上昇=インフレが進行しています。上のグラフは、GDPデフレータ、民間消費デフレータ、国内需要デフレータのそれぞれの季節調整していない原系列の前年同期比をプロットしています。GDPの控除項目である輸入物価に起因するインフレですから、GDPデフレータはほとんど上がっていませんが、消費と国内需要はいずれも上昇率を高めています。こういった資源高と円安による交易条件の悪化、所得の流出により、国民の実感としては、実質GDP成長率ほどには景気の回復が感じられず、むしろ、景気が停滞、ないし、悪化していると受け止められている可能性があり、経済政策の策定においては十分考慮すべきです。

photo

GDP統計速報2次QEに加えて、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲1.8ポイント低下の48.1、先行き判断DIも▲1.3ポイント低下の45.1と、いずれも悪化しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」としています。また、経常収支は、季節調整していない原系列で▲641億円の赤字を計上しています。資源価格の高騰などにより、貿易収支が▲1兆8754億円の赤字となったことから、経常黒字は赤字に転じています。グラフだけ、いつもの通り、上に示しておきます。

| | コメント (0)

2022年12月 7日 (水)

2か月連続で下降を示した景気動向指数CI一致指数をどう考えるか?

本日、内閣府から10月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から+0.8ポイント上昇の99.0を示した一方で、CI一致指数は▲0.9ポイント下降の99.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月景気動向指数、2カ月連続悪化 電子機械振るわず
内閣府が7日発表した10月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済状況を示す一致指数が前月比0.9ポイント低い99.9だった。悪化は2カ月連続となった。
中国・上海市の都市封鎖(ロックダウン)が6月に解除されて以降、部品不足の解消で回復が続いたが、電子機械などで反動が出た。海外経済減速への警戒感も影響した。
内閣府は指数をもとに機械的に作成する景気の基調判断を「改善を示している」のまま据え置いた。9カ月連続で同じ判断とした。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目を見ると、5項目が下落、3項目が上昇要因となった。電子機械や半導体製造装置などで生産と出荷ともにマイナスに寄与した。
小売業と卸売業の販売も低下した。10月は食料品を中心に幅広い品目で値上がりがあったことが影響したとみられる。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は0.8ポイント上昇し99.0だった。改善は2カ月ぶり。
乗用車などで出荷が進み最終需要財の在庫の減少が指数の上昇に寄与した。今後は米欧の金融引き締めによる海外景気の減速などが下振れリスクになる可能性がある。

いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

photo

10月統計のCI一致指数については、2月連続の下降ながら、3か月後方移動平均も7か月後方移動平均も、ともに、上昇を続けています。したがって、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。また、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、生産指数(鉱工業)▲0.42ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.34ポイント、耐久消費財出荷指数▲0.18ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.18ポイントなどとなっています。他方、プラス寄与は、大きなものでは有効求人倍率(除学卒)+0.16ポイントくらいです。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については楽観的に私は見ています。特に、CI先行指数は上昇していますので、たとえ、CI一致指数が2か月連続で下降していても、決して悲観する必要はないと受け止めています。ただし、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は反転増加した可能性が指摘され、第8波に入っているかもしれません。海外要因についても、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。ですから、全体としては、先行きリスクは下方に厚い可能性があると考えるべきです。

| | コメント (0)

2022年12月 6日 (火)

7-9月期GDP統計速報2次QE予想やいかに?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明後日の12月8日に7~9月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。1次QEでは予想に反して一時的なサービス輸入の増加から、4四半期ぶりのマイナス成長を記録しましたが、2次QEではマイナス成長という基調は変わりないものの、少し上方改定されるとの見方が多くなっている印象です。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の10~12月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。しかしながら、エコノミスト界の恒例で、2次QEは法人企業統計のオマケ的な扱いも少なくありません。正面切って取り上げているのは、みずほリサーチ&テクノロジーズと明治安田総研くらいなものであり、私の方でも意識的に長々と引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.3%
(▲1.2%)
n.a.
日本総研▲0.3%
(▲1.1%)
7~9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が上方改定される見込み。その結果、成長率は前期比年率▲1.1%(前期比▲0.3%)と、1次QE(前期比年率▲1.2%、前期比▲0.3%)から小幅に上方改定される見込み。
大和総研▲0.3%
(▲1.1%)
2次速報では、一時的とみられるサービス輸入の大幅な増加がGDPを下押ししたものの、個人消費や設備投資、輸出は底堅く推移したことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.3%
(▲1.2%)
10~12月期以降については、後述の物価高が財を中心に個人消費の下押し要因になる一方、感染第7波の収束に加えて政府による「全国旅行支援」が実施されることで対人サービスを中心に個人消費の増加が見込まれる。JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」で対人サービス消費(新系列基準、みずほリサーチ&テクノロジーズによる季節調整値)の推移をみると、10~11月前半平均の対人サービス消費は7~9月期対比+7.2%と大きく増加している(特に旅行は同+52.0%、宿泊は同+11.5%と大幅に増加している)。娯楽はコロナ禍前水準を大幅超過している一方で旅行や宿泊はまだ回復途上だが、水準は2020年のGoToキャンペーン実施時を上回る(10~11月前半平均の対人サービス消費全体でみて2019年平均対比▲5.8%と、コロナ前の水準近くまで回復してきている)。みずほリサーチ&テクノロジーズは、全国旅行支援について1~3月期までの延長を想定した上で、経済効果は波及効果を含めて約1.1兆円(2022年度GDPを+0.2%押し上げ)と試算している。
ニッセイ基礎研▲0.1%
(▲0.4%)
12/8公表予定の22年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.1%(前期比年率▲0.4%)となり、1次速報の前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)から上方修正されるだろう。
第一生命経済研▲0.2%
(▲0.8%)
2022年7-9月期実質GDP(2次速報)は前期比年率▲0.8%(前期比▲0.2%)と、1次速報の前期比年率▲1.2%(前期比▲0.3%)から小幅上方修正されると予想する。
伊藤忠総研▲0.4%
(▲1.7%)
7~9月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比▲0.4%(年率▲1.7%)と1次速報から下方修正される見通し。需要は拡大も供給面でマイナス成長という姿は変わらず。設備投資が下方修正、在庫投資と公共投資が上方修正される見込み。企業業績は製造業で改善、労働分配率は低下、賃上げ・雇用拡大余地は十分。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.3%
(▲1.2%)
2022年7~9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比-0.3%(前期比年率換算-1.2%)と1次速報値から修正はない見込みである。サービス輸入の大幅増加によって外需の前期比寄与度のマイナス幅が急拡大したため、1次速報値では4四半期ぶりのマイナス成長に陥ったが、一時的な要因によるものであり、景気の緩やかな回復基調は維持されている。
三菱総研▲0.3%
(▲1.3%)
2022年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比▲0.3%(年率▲1.3%)と、1次速報値(同▲0.3%(年率▲1.2%))からほぼ変更なしを予測する。
明治安田総研▲0.3%
(▲1.0%)
10-12月期に関しては、「全国旅行支援」をはじめとする政府の観光促進事業などを追い風に、個人消費が持ち直すとみる。また、底堅いデジタル・脱炭素関連投資需要などを下支えに設備投資も堅調な推移が見込まれ、実質GDP成長率はプラスに転じると予想する。
もっとも、来年前半は、物価高が個人消費の足枷になると見込まれる。エネルギーや穀物の先物価格は、一時に比べれば落ち着きを取り戻しているものの、原燃料コストの上昇が時間差を伴いながら各種小売価格に転嫁されることを考えれば、食品メーカーなどを中心にさらなる値上げが予想される。
海外経済の不透明感の高まりも日本の景気下振れリスクになる。FRB(米連邦準備制度理事会)による累積的な利上げの効果が波及することなどから、春先にも米国景気は後退局面入りする可能性が高い。中国では、1日当たりの新規感染者数が過去最多を更新しており、厳しい行動制限が経済の重石になっている。共同富裕の理念を掲げるなかで、不動産市況の早期回復も考えにくく、景気は停滞気味の推移が続くとみられ、日本の輸出は腰折れを余儀なくされる可能性が高い。設備投資も短期的には輸出に連動する性格が強いことから、減速が見込まれる。水際対策の緩和に伴うインバウンド需要の回復や、政府の経済対策は下支えになるものの、米中経済の低迷が続くなかでは、日本の景気が回復基調を続けるのは難しいと予想する。

見れば明らかな通り、7~9月期のGDP統計速報2次QEは、1次QEと大きな変更なく、マイナス成長を続けるものの、サービス輸入の一時的な増加という特殊要因によるものであり、日本経済が緩やかに回復しているという基調に変化はない、と考えられているようです。そして、足元の10~12月期は、おそらく、プラス成長に回帰するものと見込まれています。みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートではJCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」に言及されていますが、私の方でも東京財団政策研の12月2日付けの「GDPナウキャスティング」を確認すると、10~12月期の成長率は季節調整済み系列の前期比で0.24%、年率0.97%との結果が示されています。しかし、その先の来年以降ということになると、決して楽観はできないと私は受け止めています。おそらく、日本経済は欧米に比較してかなり出遅れていて、その分、キャッチアップの余地は残されている一方で、その欧米先進国はインフレ抑制のために強烈な金融引締を実施していて、特に、米国はこのまま景気後退に入る可能性が十分ある、と私は見ています。加えて、国内で反対デモまで起こしている中国のゼロコロナ政策の行方も不透明です。とすれば、内需だけで成長を牽引するにはまだ力不足、外需は7~9月期のような特殊要因なくても期待ができない、しかも、政府はそうたいして景気に寄与しない軍事費/防衛費の増加のために増税を実施して国民負担増を求める、ということになれば、先行き日本経済の見通しは決して明るくない、と考えざるを得ません。
最後に、下のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

photo

| | コメント (0)

2022年12月 5日 (月)

サムライブルーに染まった京都タワー

今日は京都に出かけましたが、京都タワーがサムライブルーで青く染まっていました。写真がヘタで申し訳ない。

photo

といいつつも、ワールドカップのサッカーにはまったく興味ないので、私はもう寝ます。

| | コメント (0)

帝国データバンク「食品主要105社」価格改定動向調査(12月)の結果やいかに?

先週12月1日、帝国データバンクから「食品主要105社」価格改定動向調査(12月)の結果が明らかにされています。pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果のポイントを3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 来年2月は今年10月級の記録的値上げとなる可能性、今月中に5000品目到達も
  2. 2023年も値上げラッシュ続く 「3000品目」2月に集中、今年を上回る
  3. 輸入ウィスキーなど洋酒、焼酎など「酒類・飲料」の値上げが先行 円安で輸入コスト増響く

食品の値上げは国民生活に直結し、とても気になるところです。図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

photo

まず、リポートから 2022-23年の食品値上げ(11月30日時点)品目数/月別 を引用すると上の通りです。12月の値上げ品目数は175品目と流石に、年度下半期始まりの10月の6,699品目に比べればグッと少なくなっています。でも、2022年を通して2万品目を超えて平均で14%もの値上げが続いたことは、近年ありませんでしたから、国民生活への影響は大きなものがあったと考えるべきです。加えて、来年2023年が明けてからも食品の値上げラッシュは継続されるようで、1~4月で4,400品目を超え、特に、2023年2月には3,200品目を超える値上げが予定されています。11月末時点で、2023年の値上げが判明している食品の値上げ率平均は+17%に達しており、今年2022年通年の+14%に比べても+3%ポイント高くなっています。

photo

続いて、リポートから 主な食品分野価格改定の動向 のテーブルを引用すると上の通りです。2023年1~4月の値上げでもっとも多い食品分野は加工食品の2,128品目で、全体の値上げ予定総数4,425品目のうち半数近くを占めています。冷凍食品類のほか、小麦製品や水産缶詰といった品目での値上げが目立っているようです。ドレッシングやソースなどの調味料1,065品目では、主に食用油価格の高騰が影響しているのではないかと考えられます。酒類・飲料は949品目で、輸入ウィスキーやワイン、焼酎など主に酒類の値上げが中心です。特に、輸入洋酒は円安にともなう輸入価格の上昇の影響も加わって、大きな値げ幅となっています。

今年2022年も来年2023年も、値上げされる食品の値上げ幅は2ケタに達しています。もちろん、値上げされない食品もあるわけですあkら、食品への支出は2ケタ増となるわけではありませんが、石油元売りや電力会社への補助金のような政策はムリがあります。国民生活を防衛するためには、軍事費倍増を取りやめて5兆円の財源を確保し、消費税率を5%に戻すのがもっともシンプルで有効だと私は考えています。

| | コメント (0)

2022年12月 4日 (日)

ユーキャン新語・流行語大賞は「村神様」

photo

12月1日に発表があり、今年2022年のユーキャン新語・流行語大賞は「村神様」でした。
誠におめでとうございます。
来年は阪神タイガースにちなんだ新語・流行語が大賞を勝ち取れるよう、私もがんばって応援したいと思います。どうでもいいことながら、「悪い円安」もトップテンに入っていたりします。アッという間に消えた流行語はいっぱいありますが、まあ、そのうちのひとつに将来数えられるかもしれません。

| | コメント (2)

2022年12月 3日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ブレット・キング & リチャード・ペテイ『テクノソーシャリズムの世紀』(東洋経済)では、やや私には確信の持てない未来社会について著者たちの強い信念が展開されています。米澤穂信『黒牢城』(角川書店)は、今さら感強いとはいえ、直木賞も受賞した時代ミステリ小説です。浜田敬子『男性中心企業の終焉』(文春新書)は、女性ジャーナリストが企業における女性登用の重要性を解明しています。佐々木実『宇沢弘文』(講談社現代新書)は、これもジャーナリストが宇沢教授の人となりを解明しようと試みています。橋場弦『古代ギリシアの民主政』(岩波新書)では、広く市民生活に影響を及ぼしていたギリシアの民主政について歴史家が議論を展開しています。最後に、村上春樹『猫を棄てる』(文春文庫)は、我が国最高峰の小説家が父親について語るエッセイです。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10月には25冊、11月に入って先週までで18冊で今週は6冊ですので、今年に入ってから221冊となりました。

photo

まず、ブレット・キング & リチャード・ペテイ『テクノソーシャリズムの世紀』(東洋経済)です。著者は、世界的な起業家・未来学者・テクノロジスト、そして、政府政策アドバイザー・起業家と紹介されています。私にはよく判りません。英語の原題は The Rise of Technosocialism であり、2021年の出版です。著者から本書の前に『拡張の世紀』と『BANK 4.0』が出版されているそうですが、不勉強にして私は前者の『拡張の世紀』だけしか読んでいないと思います。『拡張の世紀』については、本書とともに壮大な未来予想を展開していますが、どこまで現実化されるのかはまったく判らない、と感じたことを記憶しています。というのも、著者たちの強い信念に基づく情報だけが取捨選択されて、その上で未来予想がなされていますので、それほど客観性があるとは思えません。すなわち、本書ではp.53とp.235に同じ4つの未来シナリオを示しており、本書のタイトル「テクノソーシャリズム」では、テクノロジーが普及して自動化が進み、公平性や幅広い繁栄を謳歌できるそうです。別に3つのシナリオがあります。新封建主義」では、格差拡大が極限にまで達し、富裕層はゲーテッド・コミュニティで生活することが予想されています。「ラッダイト世界」では、科学やテクノロジーは拒絶され、法により制限されるらしいです。最後に、「失敗世界」では、気候変動が極限まで達して気候が崩壊し、経済的には不況となり、全面的な独裁政治が世界を支配するとされています。私には、賛同できる論点は少なかったとしかいいようがありません。著者2人の見方はこうですと、かなり強引に示されていて、その方向性に賛同できる読者には、まあ、「内輪褒め」のような形で、それなりに受け入れられやすいのかもしれませんが、議論の進め方はかなり強引かつ独断的で、しかも、翻訳も決してよくないし、さらに、原著の段階で構成なんかも私の理解を超えていて、第7章で革命リスクの緩和について論じられているのは、何の話なのだろう、と思ってしまいました。何よりも私が節s技に感じたのは、AIによる自動化が進み、公平性が担保されるテクノソーシャリズムが未来のひとつの姿である点は、決して拒否しないとしても、その実現可能性、というか、未来への分岐点が何なのかについては、まったく理解できませんでした。何がどうなれば、どのシナリオの実現性が高まるのか、現時点でまったく公平性が担保されていないのはなぜなのか、必要な問いに対する回答はまったくなく、「ボクたちはこう考える」に関して、「将来こうなればいいね」というのが示されているだけな気がする。しかも、その未来社会の中身はアチコチで広く論じられていて、ほとんど著者たちの新たな視点というものは含まれていません。まあ、分厚い本でしたが、それほどタメにならない読書だった気がします。

photo

次に、米澤穂信『黒牢城』(角川書店)です。著者は、日本でもっとも注目されているミステリ作家の1人であり、本書により直木賞を受賞しています。したがって、というか、何というか、出版社もご褒美的に特設サイトを開設していたりします。舞台は有岡城で、主人公は荒木村重です。これだけでは不親切ですので、もう少し詳しく書くと、時代は戦国時代末期、あるいは、織豊政権の成立前夜というくらいで、荒木村重とは毛利と通じて織田信長に反旗を翻した北摂の戦国武将です。その荒木村重が立てこもるのが有岡城というわけです。そして、その有岡城に織田方の使者として黒田官兵衛が来て、殺されもせず、帰されもせずに、有岡城の土牢に閉じ込められてしまいます。なお、細かいことながら、この当時、黒田官兵衛は黒田姓ではなく小寺姓を名乗っています。そして、本書は4偏の連作短編から構成されています。いずれも、有岡城内、あるいは、城下で不可思議な出来事が起こり、それを官兵衛の知恵を引き出しながら解決する、というものです。第1章では牢の人質が殺され、第2章では戦陣で討ち取った敵将の首の特定が困難を極め、第3章では使者と頼んだ旅の僧が殺された犯人を考え、そして、第4章では第3章の僧殺しの犯人に鉄砲を発射した者を特定します。それぞれの謎解きは興味深くて、それなりに感心しますが、私には少し物足りません。というのは、やはり、馴染みのない時代背景では謎解きに対して感情移入するのが、渡しの場合ということですが、難しいのだろうと思います。不器用なミステリ読者なのかもしれません。その意味で、早く『栞と嘘の季節』図書館の予約が回ってくるのを待っています。古典部シリーズも再開しないものでしょうかね。

photo

次に、浜田敬子『男性中心企業の終焉』(文春新書)です。著者は、朝日新聞や『AERA』の記者を務めたジャーナリストで、特に、『AERA』に関しては編集長の経験もあるようです。そして、タイトル通りの内容です。ジャーナリストらしく、大きの企業関係者に取材して、あるいは、ご自身の体験も踏まえながら、男性中心企業の終焉を見越しています。まったく、私もその通りと感じています。エコノミストとしてキチンと論理的に説明できないながら、私も、日本企業が女性をクリティカル・マスを超えて、例えば、30%の管理職を女性にすれば、かなり大きく生産性が上がるのではないか、と考えています。そして、何よりも強調すべきであるのは、この女性管理職大幅増の起点となるのは企業サイドである、という点です。何かと、企業での女性活躍が進まない口実として、家庭における男女の役割分担が上げられます。しかし、おそらく因果関係は反対なのだろうと私は考えています。まあ、因果関係などと小難しい議論をせずとも、女性が企業の管理職の半分くらいを占めて、それにともなってお給料が大いに稼げるようになれば、時間がかかる可能性はあるにしても、家庭内の役割分担も必ず地滑り的な変化が生じることは明らかです。マルキストでなくても、経済が社会の下部構造をなしていることは実感しており、その経済の中でも雇用関係が最重要な規定的要因であることは明らかです。家庭内で伝統的な男女の役割分担がなされているから、男性が企業で無限定に働いているわけではなく、男性が企業で無限定に働かされているために、家庭内の家事育児や介護まで女性が担わざるを得なかったのではないでしょうか。ですから、雇用関係で女性の管理職登用が進めば、家庭内でも性別に基づく役割分担が変化すると考えるべきです。日本経済にはそういった女性管理職の大幅増を、逆差別を押してでも進める必要があります。経済政策の切り札だろうと私は考えています。

photo

次に、佐々木実『宇沢弘文』(講談社現代新書)です。著者は、ジャーナリストであり、前著『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』は私も読みました。前著の感想文でも書きましたが、私の極めて大雑把な宇沢教授に対する印象としては、米国時代はアカデミアの1人として経済学研究に励み、東大、というか、日本に帰国してからは、アカデミックな分野ではなく、むしろ、アクティビストとしてご自身の信念に基づいた活動家としての方にも、もちろん、東大教授としての学術面での活動に加えて、という意味ですが、アクティビストの面も強かったのではないか、と考えています。私とは時代が違いますし、親しいわけでもありませんから、単なる印象ながら、帰国して学術面での貢献がストップしたわけではありませんが、宇沢教授による本当の経済社会への貢献としては、アクティビストとしての活動ではなかったか、と思う次第です。ですから、本書では、生い立ちから始まって、米国における研究での宇沢の2部門モデルの理論的貢献、もちろん、帰国してからの社会的共通資本の研究も重要な論点ですが、米国のベトナム戦争、日本の水俣病などの外部不経済など、宇沢教授の経済学に基づく実践行動にもスポットが当てられています。ただし、止むを得ない面は理解するとしても、やや宇沢教授を美化している面は否定できません。すなっわち、バイアスあるものの、それはそういうもの、と割り切って読むことも必要かもしれません。

photo

次に、橋場弦『古代ギリシアの民主政』(岩波新書)です。著者は、東大の研究者であり、専門は古代ギリシア史です。本書のあとがきにある著者の思いを引用すると、「古代ギリシアの民主政を、政治のしくみとしてだけではなく、そこに生きた人びとの生業・社会・文化・宗教が織りなす一つの全体として描きたい。そのような願いに衝き動かされて書いたのが本書である。」ということであり、新書というややボリューム不足な出版物という点を考慮すれば、十分に目的が達せられていると私は評価しています。というのも、民主政は単なる多数決による決定方式ではなく、平等の原則に基づく幅広い思考様式や行動様式の中心となるシステムだからです。その意味で、本書では議会活動や行政活動だけではなく、裁判までも民主政の中に含めて考え、市民裁判という解説を加えているのは、ある意味で、自然なことだと私は受け止めました。その他にも、ギリシアでも中心となるアテナイでは、国家としての最盛期を過ぎてから、民主政が成熟して最盛期を迎えた、とか、区単位で民主政が実践され、もちろん、奴隷という身分制であって、近代的な国民すべてが市民というわけではないとしても、市民が生涯の間に何らかの民主制における役割を担うとか、いろいろと私自身も不勉強で知らなかった事実がいっぱいありました。決して大上段に振りかぶって、現代の民主主義に対する何らかの示唆を得るというわけではなく、民主主義発祥のギリシアにおけるシステムや暮らしのあり方を教養として身につけておくのも必要なことではないでしょうか?

photo

最後に、村上春樹『猫を棄てる』(文春文庫)です。著者は、日本を代表する作家であり、日本人としてもっともノーベル文学賞に近い存在であることは、多くの読者が認めるところだろうと思います。本書は、猫を棄てるという行為を起点として、著者が父親について、そのパーソナル・ヒストリーを簡単に取りまとめるとともに、親子関係を語っています。明示してはいませんが、フィクションではなく、ノンフィクションなんだろうと思います。著者は、何だったかは忘れましたが、エディプス・コンプレックスについて語っていますが、本書ではご自分から父に対するエディプス・コンプレックスは、少なくともその言葉と関連付けては出てきません。父親のパーソナル・ヒストリーを語る際、どうしても時代背景から軍役の関係が多くなります。そして、著者は大学入学とともに親元を離れていますので、大きな段差を感じたりもしますが、父親と倅との間には何らかの確執があるのは当然ですし、確執がありながら淡々と父親について調べて、それを出版物にするというのは、かなり大きな作業なのだろうと感じます。

| | コメント (2)

2022年12月 2日 (金)

11月の米国雇用統計から米国経済のオーバーヒートをどう見るか?

日本時間の今夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業部門雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の11月統計では+263千人増となり、失業率は前月から横ばいの3.7%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに8パラ引用すると以下の通りです。

November jobs report: Unemployment rate held steady at 3.7% with 263,000 jobs added
U.S. employers added 263,000 jobs in November as hiring remained sturdy despite rising interest rates, high inflation and mounting recession worries.
The unemployment rate held steady at 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg estimate that 200,000 jobs were added last month.
Job growth generally has moderated from a pace of about 450,000 for most of the year to under 300,000 in recent months. High inflation and aggressive interest rate hikes by the Federal Reserve have hobbled rate-sensitive sectors such as housing and technology.
Tech giants Meta, Twitter, Amazon, DoorDash and Lyft, among many others, have announced a total of more than 142,000 layoffs this year.
Stock futures dropped immediately following the report. Futures for the Dow Jones Industrial Average were down over 1%.
Overall, initial jobless claims, a reliable gauge of job cuts, rose modestly in November but remain historically low, averaging 221,000 a week, Goldman Sachs says. Pandemic-induced labor shortages have made companies reluctant to chop workers on concerns they won't be able to replace them when the economy bounces back.
Still, a labor market that was blistering earlier this year is losing some steam. Most economists are forecasting a recession next year as the Fed continues to hike rates, leading some companies to leave positions vacant when employees leave and freeze hiring. There were 10.3 million job openings in October, down from 10.7 million the previous month.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

photo

ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率も3%台半ばですので、人手不足は落ち着きつつあるものの、労働市場の過熱感はまだ残っていると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。ただし、引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はやや上振れた印象です。
私がいつも大学の授業で強調しているように、市場経済では価格をシグナルとする資源配分が効率的であるわけですから、インフレで価格シグナルに撹乱が生じるのは効率性を大きく阻害します。ですから、インフレを抑制すべく、極端にいえば、景気を犠牲にして景気後退を招くことをいとわず物価の安定を目指すべき、という経済政策運営上のコンセンサスがあります。ですから、私は、コトここに至っては、米国や英国をはじめとする他の先進諸国のうち、インフレ抑制=物価安定のために景気後退を覚悟の上で金融引締めを継続する国は決して少なくないと考えています。
他方で、日本経済は米国よりも中国経済の影響の方が強くなっていることから、米国のリセッションからデカップリングされる可能性はまだ残されていると期待しています。期待していますが、中国はゼロ・コロナ政策ですので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大次第、という面はあります。

photo

続いて、上のグラフは米国の時間当たり賃金と消費者物価の上昇率をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。コロナによる景気後退期に少しイレギュラーな動きを示していますが、米国では消費者物価上昇率は+10%近くの2ケタに迫り、賃金上昇率も軽く+5%を越えているのが見て取れます。ただ、足元では物価上昇も賃金上昇も高止まりしているとはいえ落ち着きを取り戻しており、12月13-14日の連邦公開市場委員会(FOMC)ではこれまでの75ベーシスではなく、50ベーシスの利上げにとどまる、との見方も出ています。ただ、強調しておきたいのは、賃金がほとんど上がらず、消費者物価上昇率も+3%台で推移している日本とは違うんです。ですから、米国をはじめとする諸外国が利上げをしたからといって、我が国でも利上げすべき、という議論はまったく成立しません。その利上げが円安防止を目的としたものであるなら、なおさら私は賛成できません。

| | コメント (0)

2022年12月 1日 (木)

法人企業統計に見る企業活動は活発ながら消費者態度指数に見る消費者マインドは低下を続ける

本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+8.3%増の350兆3671億円、経常利益も+18.3%増の19兆8098億円、売上高・経常利益とも製造業では2ケタ増、非製造業でも+5%超の伸びとなっています。そして、設備投資は+9.8%増の12兆17億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても、売上高、経常利益、設備投資とも軒並み前期比プラスを記録していて、特に、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+8.0%増となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、経常益18.3%増 7-9月で過去最高
財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比18.3%増の19兆8098億円だった。前年を7期連続で上回り、7~9月期としては利益額が過去最高を更新した。資源高などの影響が事業の重荷になっているが、部品など供給制約の緩和や新型コロナウイルス禍からの社会活動の回復が企業業績の改善を後押しした。
財務省は「緩やかに持ち直している景気の状況を反映した」と説明した。経常利益の金額はすべての四半期で過去15番目だった。
業種別の経常利益を見ると、製造業は35.4%増で全体の伸びをけん引した。中国・上海市の都市封鎖(ロックダウン)が6月に解除されたこともあって部品不足の状況が緩和され、自動車関連などで増産が進み、輸送用機械部門の経常利益は2.7倍になった。電気機械も73.4%増えた。円安で輸出関連の押し上げ効果もあった。
非製造業は前年同期比5.6%増だった。サービス業で59.8%増、運輸・郵便業では8.4倍に伸びた。コロナ禍からの社会活動の正常化で、前年に比べて人流が極端に増えたことが影響したもようだ。
設備投資は9.8%伸びた。企業は部品不足などで先送りにしていた投資を再開しており、2桁増に迫った。2018年4~6月期の12.8%以来、4年余りぶりの高い増加率だった。
製造業は8.2%増だった。情報通信機械が27.2%、化学が16.3%投資額を増やした。自動車関連などで半導体の需要が増え、半導体製造装置などへの投資額が増えた。非製造業は10.7%増。都市開発などにかかる設備投資をした不動産業で77.1%増加した。
売上高は8.3%増の350兆3671億円だった。業種別では製造業が12.1%増。石油・石炭は原油価格の高騰などで65.8%増えた。非製造業は6.7%増で、電気料金の高騰を背景に電気業の伸びが目立った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

photo

ということで、法人企業統計の結果について、今年2022年に入って1~3月期から物価上昇と円安が大きく進んだにもかかわらず、引用した記事にもあるように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限がなく、半導体などの供給制約も緩和され、円安は製造業などにはむしろ追い風で影響したことなどから、企業業績が好調であることを示していると私は受け止めています。前年同期比で見る限り、売上高については2021年4~6月期から5期連続の増収であり、営業利益・経常利益とも2021年1~3月期から6期連続の増益となっています。ただし、季節調整済みの系列で見ると、やや企業活動の景色が違って見えます。すなわち、売上高は製造業が円安の影響もあって前期比+3.0%増の増収を記録したのに対して、非製造業では▲0.1%とわずかながら減収となりました。同様に、経常利益についても、製造業が前期比+6.9%と好調を維持しているのに対して、非製造業では▲13.3%と大きく落ち込みました。このあたりの産業別の跛行性については、おそらく、円安に起因すると私は考えていますが、キチンと把握しておく必要があります。同時に、上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」をいえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかりが溜め込まれるのがどこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、ほとんどGDPも成長せず賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのがいいのかどうか、疑問とする意見もありそうな気がします。

photo

続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中で労働分配率とともに設備投資/キャッシュフロー比率が大きく低下を示しています。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準をすでに超えています。ですから、この利益剰余金にも本格的に課税する必要性が高まっていると考えるべきです。先月11月22日に「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」報告書が明らかにされています。軍事費=防衛費をGDP比2%まで引き上げるよう提言するとともに、その財源については「防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである。」(p.18)としつつも、同時に、「成長と分配の好循環の実現に向け、多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいるなか、こうした企業の努力に水を差すことのないよう、議論を深めていくべきである。」と、ここまで賃金上昇が見られない雇用者ではなく、大幅に利益を溜め込んでいる企業には防衛費負担を配慮するムチャな内容となっています。よくよく考えるべきポイントではないでしょうか?

photo

法人企業統計から目を転じると、本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲1.3ポイント低下し28.6を記録しています。指数を構成する4指標すべてが低下を示しています。すなわち、「雇用環境」が▲1.9ポイント低下し32.4、「収入の増え方」が▲1.1ポイント低下し34.2、「耐久消費財の買い時判断」も▲1.1ポイント低下し21.4、「暮らし向き」が▲0.8ポイント低下し26.5となっています。「暮らし向き」と「耐久消費財の買い時判断」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月10月統計で「弱含んでいる」から「弱い動きが見られる」と下方修正した後、今月11月統計でも「弱まっている」と連続で下方修正しています。従来、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と私は分析していたのですが、さすがに、この9~11月統計から消費者マインドは物価上昇と一定の連動性を高めつつある、と考え始めています。ということで、消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

なお、本日の法人企業統計を受けて、来週12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私は1次QEから設備投資を中心として小幅に上方修正されるであろうと考えていますが、マイナス成長であることに変わりなく、大きな修正ではなかろうと予想しています。この2次QE予想については、また、日を改めて取り上げたいと思います。

| | コメント (0)

« 2022年11月 | トップページ | 2023年1月 »