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2022年12月 2日 (金)

11月の米国雇用統計から米国経済のオーバーヒートをどう見るか?

日本時間の今夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業部門雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の11月統計では+263千人増となり、失業率は前月から横ばいの3.7%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに8パラ引用すると以下の通りです。

November jobs report: Unemployment rate held steady at 3.7% with 263,000 jobs added
U.S. employers added 263,000 jobs in November as hiring remained sturdy despite rising interest rates, high inflation and mounting recession worries.
The unemployment rate held steady at 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg estimate that 200,000 jobs were added last month.
Job growth generally has moderated from a pace of about 450,000 for most of the year to under 300,000 in recent months. High inflation and aggressive interest rate hikes by the Federal Reserve have hobbled rate-sensitive sectors such as housing and technology.
Tech giants Meta, Twitter, Amazon, DoorDash and Lyft, among many others, have announced a total of more than 142,000 layoffs this year.
Stock futures dropped immediately following the report. Futures for the Dow Jones Industrial Average were down over 1%.
Overall, initial jobless claims, a reliable gauge of job cuts, rose modestly in November but remain historically low, averaging 221,000 a week, Goldman Sachs says. Pandemic-induced labor shortages have made companies reluctant to chop workers on concerns they won't be able to replace them when the economy bounces back.
Still, a labor market that was blistering earlier this year is losing some steam. Most economists are forecasting a recession next year as the Fed continues to hike rates, leading some companies to leave positions vacant when employees leave and freeze hiring. There were 10.3 million job openings in October, down from 10.7 million the previous month.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率も3%台半ばですので、人手不足は落ち着きつつあるものの、労働市場の過熱感はまだ残っていると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。ただし、引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はやや上振れた印象です。
私がいつも大学の授業で強調しているように、市場経済では価格をシグナルとする資源配分が効率的であるわけですから、インフレで価格シグナルに撹乱が生じるのは効率性を大きく阻害します。ですから、インフレを抑制すべく、極端にいえば、景気を犠牲にして景気後退を招くことをいとわず物価の安定を目指すべき、という経済政策運営上のコンセンサスがあります。ですから、私は、コトここに至っては、米国や英国をはじめとする他の先進諸国のうち、インフレ抑制=物価安定のために景気後退を覚悟の上で金融引締めを継続する国は決して少なくないと考えています。
他方で、日本経済は米国よりも中国経済の影響の方が強くなっていることから、米国のリセッションからデカップリングされる可能性はまだ残されていると期待しています。期待していますが、中国はゼロ・コロナ政策ですので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大次第、という面はあります。

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続いて、上のグラフは米国の時間当たり賃金と消費者物価の上昇率をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。コロナによる景気後退期に少しイレギュラーな動きを示していますが、米国では消費者物価上昇率は+10%近くの2ケタに迫り、賃金上昇率も軽く+5%を越えているのが見て取れます。ただ、足元では物価上昇も賃金上昇も高止まりしているとはいえ落ち着きを取り戻しており、12月13-14日の連邦公開市場委員会(FOMC)ではこれまでの75ベーシスではなく、50ベーシスの利上げにとどまる、との見方も出ています。ただ、強調しておきたいのは、賃金がほとんど上がらず、消費者物価上昇率も+3%台で推移している日本とは違うんです。ですから、米国をはじめとする諸外国が利上げをしたからといって、我が国でも利上げすべき、という議論はまったく成立しません。その利上げが円安防止を目的としたものであるなら、なおさら私は賛成できません。

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