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2022年12月15日 (木)

16か月連続の貿易赤字を記録した11月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+20.0%増の8兆838億円に対して、輸入額は+30.3%増の10兆8649億円、差引き貿易収支は▲2兆274億円の赤字となり、昨年2021年8月から16か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、11月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字2兆274億円、11月で最大 円安・資源高で
財務省が15日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆274億円の赤字だった。円安やエネルギー価格の高騰で輸入額が前年同月比30.3%増の10兆8649億円と大幅に増え、輸出額の伸びを上回った。11月としてはこれまで最大だった2013年11月を上回り、比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。
2013年11月は1兆3010億円の赤字だった。当時は東日本大震災後の原子力発電所停止によって火力発電用燃料の輸入が急増した影響が大きかった。11月以外を含めると、22年11月は単月で過去7番目に大きい赤字だった。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値は1兆6802億円の赤字だった。予測を大きく上回る赤字幅で、16カ月連続の貿易赤字となった。2兆円を超える赤字は4カ月連続となる。
輸入は原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの値上がりが影響した。原油の輸入価格は1キロリットルあたり9万2344円と前年同月比57.0%上昇した。ドル建て価格の上昇率は22.1%となっており、円安が輸入価格を大幅に引き上げた。
輸出は20.0%増の8兆8375億円だった。米国向けの自動車や韓国向けの半導体など電子部品が増えた。
荷動きを示す数量指数(2015年=100)は、輸入が前年同月比で4.6%低下した。輸出も3.6%下がった。中国向けの輸出は16.4%の大幅な低下。中国向けは半導体製造装置や自動車部品などの輸出が減少しており、中国経済の減速による影響が出たとみられる。
11月の貿易統計を季節調整値でみると、輸入は前月比5.3%減の10兆5196億円、輸出は1.3%減の8兆7873億円、貿易収支は1兆7322億円の赤字だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

photo

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6800億円近くの貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2.3兆円でしたので、実績の▲2兆円超の貿易赤字はやや下振れして下限に近い印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年11月までの16か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、20か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びも落ち着きつつあり、貿易赤字が拡大するテンポはかなり鈍ってきているのが上のグラフから見て取れます。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
11月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+8.1%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+69.7%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、先月10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、やや伸びは鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは▲5.4%減であるにかかわらず、金額ベースでは+51.9%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+8.9%増となっている一方で、金額ベースでは+51.4%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+6.1%増、金額ベースではこれが大きく膨らんで+47.4%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+10.3%増、輸出金額でも+38.3%増と大きく伸びています。また、一般機械+18.9%増、電気機器+11.4%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因です。

もはや、懐かしの経済学になってしまったのかもしれませんが、その昔は、「Jカーブ効果」なんて呼び方がありました。すなわち、円安初期には貿易赤字が増加する一方で、円安の価格効果の浸透とともに貿易赤字は減少して、貿易赤字縮小ないし貿易黒字拡大の方向に向かう、とされていたわけです。でも、最近では、各種の技術進歩によって波及や浸透のテンポが速くて、アッという間に進む一方で、国内産業の海外展開をベースにブローバル・バリューチェーンが複雑なネットワークを形成し、それほど単純ではないような気がします。

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