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2023年1月31日 (火)

いよいよ球春到来、明日から始まるプロ野球のキャンプやいかに?

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いよいよ球春
明日から、西武ライオンズを除くプロ野球11球団がいっせいにキャンプインします。上の画像は朝日新聞のサイトから引用しています。
我がタイガースは例年通り沖縄県の宜野座村野球場です。岡田監督が返り咲いて、今年こそアレを目指してがんばってください。

リーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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弱含み続く鉱工業生産指数(IIP)と物価上昇に追いつかない商業販売統計と堅調な雇用統計ほか

本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2022年12月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.8%増の15兆1930億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.1%の増加を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.5%を記録し、有効求人倍率も前月から横ばいの1.35倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産2年ぶり低下 22年0.1%下落 コロナ前下回る
経済産業省が31日発表した2022年通年の鉱工業生産指数(15年=100)は前年比0.1%低下の95.6だった。2年ぶりに低下した。新型コロナウイルス流行前の19年(101.1)を下回っている。中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)が解除された22年6月以降、生産用機械工業や自動車工業が回復していた反動が影響した。
22年10~12月期は95.4(季節調整済み)と前期比で3.1%低下した。
22年12月の指数(同)速報値は前月比0.1%低下の95.4だった。2カ月ぶりに低下した。生産判断は「弱含み」を維持した。国内外での需要減が響き、幅広い業種で前月を下回った。
生産は全15業種のうち、10業種で低下した。汎用・業務用機械工業は前月比で6%マイナスだった。ボイラー部品で前月からの反動が出たほか、汎用内燃機関は搭載製品が他の部品の調達不足で生産が減少した。鉄鋼・非鉄金属工業は3%、電気・情報通信機械工業は1.2%、それぞれマイナスとなった。
4業種は増加した。航空機用発動機部品などの自動車工業を除く輸送機械工業は4.5%増えた。自動車工業は0.6%、生産用機械工業は0.7%、それぞれ増加した。無機・有機化学工業のみ横ばいだった。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は1月は前月比で横ばいを見込む。企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は4.2%のマイナスとなった。2月の予測指数は4.1%の増加を見込む。
経産省の担当者は今後の見通しに関して「コロナ感染拡大の国内外の経済への影響や、物価上昇について注視していく必要がある」と話した。
12月の小売販売額3.8%増 飲食料品の価格上昇も影響
経済産業省が31日発表した2022年12月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比3.8%増の15兆1930億円だった。10カ月連続で前年同月を上回った。飲食料品の価格上昇でコンビニエンスストアやスーパー、ドラッグストアなどで増加が目立った。
コンビニは前年同月比3.9%増の1兆1014億円、スーパーは4.2%増の1兆5490億円だった。ドラッグストアは11.1%増の7312億円。新型コロナウイルスの感染拡大で医薬品の販売が好調だったという。
百貨店は3.7%増の6776億円、家電大型専門店は2.5%増の4845億円となった。ホームセンターは2カ月ぶりに増加に転じ、2.8%増の3395億円だった。除雪用品がよく売れた。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると、1.1%の増加だった。基調判断は「持ち直している」で据え置いた。
22年の年間小売販売額は154兆4040億円に上り、前年比で2.6%の増加となった。
求人倍率1.28倍に上昇、失業率は2.6%に低下 2022年
厚生労働省が31日発表した2022年平均の有効求人倍率は1.28倍と、前年を0.15ポイント上回った。新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開に伴い求人が伸びた。総務省が同日発表した22年平均の完全失業率は2.6%と前年に比べて0.2ポイント低く、4年ぶりの低下となった。雇用状況は改善している。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。22年は平均の有効求人が前年比12.7%増となり、有効求人倍率の上昇に寄与した。
22年の雇用状況は月を追うごとに改善した。厚労省があわせて発表した22年12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍と前月比で横ばいだった。1月の1.20倍から上昇し、8月以降は1.3倍台で推移している。
コロナ禍前の19年平均(1.60倍)には届かないが、先行きは有効求人倍率の回復が続く可能性がある。先行指標となる新規求人倍率は22年平均が2.26倍と、前年を0.24ポイント上回った。22年12月も2.39倍と、コロナ禍前だった19年12月の2.41倍に近づいている。
22年平均の完全失業者数は179万人で前年比16万人減った。減少は3年ぶり。就業者数は6723万人と前年比10万人増えた。22年12月の完全失業率は2.5%で前月から横ばいだった。
15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率は22年平均が60.9%と、前年比0.5ポイント上昇した。上昇は2年連続で、25年ぶりの高水準となった。

とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲1.2%の減産という予想でしたので、実績の▲0.1%減にはサプライズはありませんでした。ただし、引用した記事にもある通り、減産は減産ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因から、7~9月期は季節調整済みの系列の前期比で見て+5.8%の増産でしたので、9~12月の▲3.1%の減産は反動の面もあるともいえます。もっとも、欧米先進国ではインフレ対応のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは「12月は、汎用・業務用機械工業を始めとして多くの業種で低下したことなどから、2か月ぶりに低下」と減産の要因を解説しています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の1月は12月から横ばい、2月は+4.1%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、1月の予想は前月比▲4.2%減となります。産業別に112月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは汎用・業務用機械工業の前月比▲6.0%減、寄与度▲0.47%、鉄鋼・非鉄金属工業の前月比▲3.0%減、寄与度▲0.18%、電気・情報通信機械工業の前月比▲1.2%減、寄与度▲0.11%などなどとなっていて、他方、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は輸送機械工業(除、自動車工業)の前月比+4.5%増、寄与度+0.09%、自動車工業の+0.6%増、寄与度+0.08%、生産用機械工業の前月比+0..7%減、寄与度+0.06%、となります。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、12月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.1%の上昇となり、ギリギリでプラスを維持していますので基調判断を「持ち直している」で据え置いています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、8~10月統計では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、CPIの上昇率を上回る伸びを示していたのですが、11~12月統計ではCPI上昇率に届かず、やや雲行きが怪しくなってきています。インフレの高進と同時に消費の停滞も始まっている可能性が否定できません。引用した記事では、ホームセンターの除雪用品の売上増はご愛嬌としても、インバウンドの増加もあって百貨店などの売上が増加しているようです。最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、11月統計の前年同月比では▲2.6%の減少に転じ、厳冬の12月統計でも+3.2%増にとどまっています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性があります。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、ヘッドラインも生鮮食品を除くコアCPIも、ともに前年同月比上昇率で+4.0%に達しており、名目の小売業販売額の+3.8%増はやや物価上昇を下回っています。ですから、この2点を考え合わせると、実質の小売業販売額は過大評価されている可能性には注意すべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分はほかのグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月から小幅改善の1.36倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ただし、休業者が12月統計では前年同月から+42万人増と、やや増え方が大きくなっている気がします。特に、製造業で+8万人となっている点は気がかりです。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、製造業が▲0.1%減とわずかながら減少に転じています。2022年は11月まで一貫してプラスでしたが、12月になって新規求人数がマイナスに転じたのは先進各国での景気の停滞を反映している可能性が高いと私は受け止めています。逆に、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業、など、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が増加しています。別の観点からすれば、雇用調整金などによりCOVID-19のダメージから労働市場を遮断する政策から、スムーズな労働移動が必要な段階に移った、のかもしれません。そうだとすれば、育休中かどうかは別として、リスキリングが必要になる可能性があると思います。

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以上に加えて、本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。1月統計では、前月から+0.7ポイント上昇し31.0を記録しています。指数を構成する4指標のうち、3指標が上昇しています。すなわち、「雇用環境」が+2.2ポイント上昇し37.2、「収入の増え方」が+0.5ポイント上昇し35.6、「暮らし向き」が+0.4ポイント上昇し27.8となっていますが、ただ、「耐久消費財の買い時判断」だけが▲0.2ポイント低下し23.5を記録しています。たぶん、「耐久消費財の買い時判断」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月12月統計の「弱まっている」から「弱い動きがみられる」と半ノッチ上方修正しています。従来、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と私は分析していたのですが、さすがに、消費者マインドは物価上昇と一定の連動性を高めつつある、と考え始めています。

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最後の最後に、本日午前、シンガポールにて国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。10月時点での見通しからやや上方改定となっています。すなわち、今年2023年の世界経済の成長率見通しは+0.2%ポイント上方改定されて+2.9%と見込まれています。また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2023年1月30日 (月)

Economist 誌の Big Mac Index に見る為替の均衡レートやいかに?

最新号の The Economist で恒例の Big Mac Index が取り上げられています。タイトルは What inflation means for the Big Mac index であり、まあ、この特集の本来趣旨ではありますが、やや動きが volatile になっている為替レートとの関係を探っています。

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まず、Economist のサイトから Big Mac Index のグラフを引用すると上の通りです。米国では他の先進国と比較してもインフレ率がかなり高くなっているのですが、為替については米ドルは増価しています。すなわち、Big Mac Index の理論的な根拠となっている購買力平価とは逆に動いているわけです。一例として、日米の為替に言及していて、"Two years ago, for example, the Big Mac was 26% cheaper in Japan than America. In principle, this suggests the yen was undervalued and should have risen against the dollar. In fact, the opposite occurred. A Big Mac is now more than 40% cheaper in Japan." 最近2年間で耐日本円で減価すべき米ドルが逆に増価していて、すなわち、円安が進んで価格差が拡大している、と指摘しています。まあ、上のグラフのように、米国では$5超のビッグマックが$3そこそこで食べられるのはオトクなのかもしれません。

最後に、本件とは関係なく、明日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update がシンガポールにて公表されます。また、そのうちに取り上げたいと考えています。

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2023年1月29日 (日)

日本気象協会による2023年桜開花予想やいかに?

2週間前の1月15日にウェザーニュースの桜開花予想2023を取り上げましたが、日本気象協会からも1月26日に2023年桜開花予想(第1回)が明らかにされています。

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上の画像は、日本気象協会のサイトから引用しています。全国的にサクラの開花は平年並みだそうです。関西の代表たる大阪市のサクラ開花は3月28日、東京や名古屋はそれに先立つ3月26日と予想されています。我が家の近くは大阪市から1~2日遅れるような印象があります。なお、どうでもいいことながら、2週間前に紹介したウェザーニュースの桜開花予想2023では、大阪市が3月25日で、東京は3月20日と予想されていました。

先週から今週にかけては、かなり寒いという天気予報なので、サクラの開花にも何らかの影響があるのかもしれません。もうすぐ1月が終わります。早く暖かな季節になってほしいという気がします。気候変動や地球温暖化はどうなっているのでしょうか?

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2023年1月28日 (土)

今週の読書は経済書なしで計3冊にとどまる

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、高野秀行『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)は、早大探検部出身のノンフィクションライターの語学学習に関するエピソードです。続いて新書が2冊で、猿島弘士『総合商社とはなにか』(平凡社新書)は、総合商社のマルチな活動に焦点を当てており、小鍜冶孝志『ルポ脱法マルチ』(ちくま新書)は、毎日新聞のジャーナリストがマルチ商法をルポしています。
ということで、今年の新刊書読書は1月中に計20冊になりました。なお、新刊書ならざる読書については、ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)、絲山秋子『逃亡くそたわけ』(講談社文庫)、さらに、萩尾望都『百億の昼と千億の夜』(小学館プチコミックス)も読みました。最後の萩尾望都の漫画はすでに昨日にこのブログで取り上げていますが、それ以外も順次 Facebook などでシェアしたいと予定しています。

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まず、高野秀行『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)です。著者は、早大探検部語出身の辺境ノンフィクション作家です。表紙画像の帯にあるように、学んだ言語は25以上だそうです。フランス語やスペイン語、ポルトガル語などの西欧言語、あるいは、中国語やタイ語、ビルマ語などのアジア言語のほか、本書の冒頭第2章ではアフリカ言語もリンガラ語の他、いくつか学習しています。もちろん、外国語学習の絶対的なモチベーションは現地に赴いて何らかの活動を行うことですから、本書の眼目としては、タイトル通りの語学学習、そして、辺境を含めた現地事情、の2点となります。後者の現地事情については、著者の他の著作でも広範に紹介されているようですのでサラリと流して、主として語学学習を取り上げたいと思います。というのも、私も在チリ大使館で3年間の勤務経験があり、スペイン語の理解は一応あります。今は今で、大学では英語の授業をいくつか受け持っています。本書の著者は語学学習の要諦として、ネイティブについて学ぶ、とか、ボキャブラリーを重視し、文法は会話するうちに自分で見つける、とかあるのですが、私もかなりの部分は同意します。私の知る限りでも、インドネシアのマレー語もそうで、アフリカの言語などでも動詞の活用がほとんどない言語があります。あるいは、主語と動詞と目的語の語順をそれほど神経質に考えなくてもいい言語もあります。ドイツ語のように助動詞が入れば動詞が語尾に来るとか、フランス語やスペイン語のように目的語が代名詞であれば動詞の前に来るとか、などなどです。ですから、私としてはボキャブラリーが重要と考えています。また、語学に限定せずに、いろんな勉強に当てはまるという示唆もいくつか本書には含まれています。例えば、第4章にあるのですが、近い場所、安い授業料、融通の利く時間帯、というのはよくない場合があり、高いお金を払って、遠い場所までわざわざ行って、固定された時間に最優先で授業を受ける勉強こそが身につく、というのは真実の一部を含んでいると思います。25年ほども前の大昔ながら、私は公務員試験委員として人事院に併任されて試験問題の作成を経験したことがあるので、今でも学生諸君から公務員試験のアドバイスを求められたりするのですが、公務員試験対策の講座は取った方がいいと思っています。たぶん、30万円以上かかると思います。でも、それくらいの金銭的時間的な負担をしてモチベーション低下を防止した方がいい場合も少なくありません。最後に、私も本書にあるような挨拶や感謝や謝罪のない言語というものは想像できませんでした。英語とスペイン語はもちろん、マレー語にも時間帯ごとの挨拶の言葉がありますし、感謝や謝罪の表現は何通りかあります。意思疎通というよりは、社会生活を送る上で困らないのか、と考えてしまいました。

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次に、猿島弘士『総合商社とはなにか』(平凡社新書)です。著者は、サービス・マーケティング研究家ということになっています。総合商社勤務の後、コンサルタントとして活動し、その後、大学教授もしているとされています。基本的には、総合商社の提灯持ちの本なのですが、実体の判りにくい業態だけにこういった解説書は有益です。副題にあるように、総合商社を「最強のビジネス創造企業」と位置づけています。まず、本書にもある通り、総合商社ではない専門商社という卸売業の企業も日本にはいっぱいあります。典型的に、私が知る範囲では鉄鋼商社や食品商社などです。しかし、本書でも指摘しているように、総合商社では単なる売買の商行為だけではなく、金融や投資も含めた幅広い活動をしています。私はこういった幅広い活動については、まさに、「マルチ」という用語を当てるのが適当だと考えます。マルチな活動をするだけに、本書では言及していませんが、英語で総合商社に相当する定訳がありません。というか、正しくは sogoshosha であって、サムライ、フジヤマ、ゲイシャなどと同じで日本語がそのまま英語になっています。それほど独特なマルチの活動を展開しているといえます。本書では、そのマルチな活動として、主として8つの活動をp.178以降で取り上げています。本書では、冒頭で社史をひも解いていて、まあ、それはそれでいいのですが、このあたりのマルチな活動はもっと早い段階で紹介しておくのも一案かと思います。そして、総合商社の活動の基本になっているのは、やはり、マルチな活動であるがゆえに業としての規制がほぼほぼないという点も忘れるべきではありません。私の学生時代には、大規模な製造業、日立とか、トヨタとか、当時の新日鉄とかに加えて、今でいうところのメガバンク、当時の表現でいえば都市銀行、総合商社などが人気の就職先でした。私のゼミの先輩で本書でも紹介している堅実経営の総合商社に就職したものの、ヘッジのための為替取引を担当し2-3年おきに胃潰瘍を患って入院をしていた人もいたりします。それなりに体力的には過酷な業務ながら、やりがいもあると聞き及んだことがあります。私のゼミの学生で総合商社に就職する学生が出るよう願っていたりします。

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最後に、小鍜冶孝志『ルポ脱法マルチ』(ちくま新書)です。著者は、毎日新聞のジャーナリストです。本書では、タイトル通りに、街中で「いい居酒屋知らない?」と声をかけて、マルチ商法のマインドコントロールに追い込んで、人間関係からカネを搾り取る脱法マルチについてルポしています。こういったマルチ商法は、基本的に、カルト宗教と同じで、人間関係からマインドコントロールに入って、基本的には、経済的に金銭を搾り取る、という形になります。マインドコントロールという点では宗教カルトと同じです。そして、カネを目的としている点も同じです。マルチ商法とは、経済学的にはすでに解明されていて、いわゆるポンジスキームという名称まで与えられています。ポンジースキームとは、マルチ商法の逆回りでいえば、借金で借金を返すという雪だるま式に借金が増えるだけで、サステイナブルであるハズもなく破綻に向かうだけです。合理性はまったくありません。このスキームは、それらしく、本書p.189に図解されていますが、ネズミ講=無限連鎖講と同じで、いつかは破綻します。なお、宗教については、合理性ないのは明らかなで「信ずる者は救われる」ので世界すが、マルチ商法のように一見経済行為と見える活動に対して合理性が働かないのは私はかねてからとても不思議に関していたのですが、マインドコントロールで宗教的に、というか、心理学的にコントロールされているのだとは知りませんでした。結局のところ、近づかないのが一番、という気がします。というのは、私が父親からいわれたのとほぼ同じ注意を倅どもが高校を卒業して大学に入る時にした記憶があり、第1に宗教は絶対にダメ、第2にマルチ商法は逃げられるのなら見極めて逃げるべし、第3に学生運動はホントに正しいと心から信じるのであればOK、というものです。しかし、マルチも宗教と同じでマインドコントロールされるのであれば逃げられない確率が高く、最初から手を出すべきではない、ということになりそうです。最後に、私は実は国民生活センターに勤務した経験があり、マルチ商法にはそれなりに知見があります。その目で見れば、やや取材が甘くて踏込み不足な点も見受けられます。でも、まったくマルチ商法について情報ない向きには、それなりに参考になると思います。

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2023年1月27日 (金)

萩尾望都『百億の昼と千億の夜』(小学館プチコミックス)を読む

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萩尾望都『百億の昼と千億の夜』(小学館プチコミックス)を読みました。1967年に出版された光瀬龍の同名のSF小説を原作として萩尾望都が漫画化しています。原作の小説にせよ、漫画にせよ、いくつかのバージョンがあるのですが、今回、私が読んだ漫画は小学館のプチコミックスから1985年に出版されたものでした。でも、この漫画が『少年チャンピオン』に連載されていたのは1970年代後半だと思います。どうでもいいことながら、1985年なんて大昔という印象がありますが、私はすでに公務員として働き始めていましたし、この年に阪神タイガースがセ・リーグで優勝し、日本シリーズも制しましたので、役所で祝勝会をやった記憶もあります。
ということで、なぜ読んだのかというと、先週の読書感想文ブログで、井上智洋『メタバースと経済の未来』(文春新書)を取り上げた際に、人類は肉体を棄てる、という結論を紹介しました。同時に、この『百億の昼と千億の夜』の漫画では、「A級市民はコンパートメントが提供されて、実体の肉体は惰眠するだけの存在になっていた」と不確かな記憶を引いておきました。その私の記憶を確認するために読みました。はい。私の記憶が正しかったです。ゼン・ゼン・シティではでっぷりと太ったA級市民はコンパートメントで眠っており、B級市民がコンパートメントを欲しがる、という部分があります。
またまた、どうでもいいことながら、いくつか不確かな知識を並べておくと、第1に、この1970年代から1980年代前半くらいまで、このころの日本の上流階級、というか、今でいうところの富裕層というのはゼンゼン・シティのA級市民のように、でっぷりと太っていた記憶があります。北朝鮮や中国の政権トップの体型は今でもそうなっているという気がします。40-50年くらい前までは日本の政権トップも似たようなものでした。ひょっとしたら、ある種のステータスであったのかもしれません。別のトピックながら、三島由紀夫が「人間というのは豚になる傾向をもっている」と予言したと、適菜収『日本人は豚になる』(KKベストセラーズ)では指摘しています。何かの関連があるかもしれません。ないのかもしれません。第2に、呼び方はともかく、A級市民とB級市民への階級分化については、ほかにもいろんな小説や映画などで扱われています。中でも、強烈に私の印象に残っているのが、貴志祐介『新世界より』(講談社文庫)です。人間とバケネズミの関係などで言及されています。さらに、どうでもいいことながら、この小説も及川徹が漫画化しています。

まったく新刊書読書でもなんでもないのですが、大学の授業や定期試験監督が一段落して、ややココロにゆとりがある週末の前に、冗長ながら、取り上げておきたいと思います。

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2023年1月26日 (木)

2022年12月統計に見る企業向けサービス価格指数(SPPI)は早くも上昇幅が縮小し始めたか?

本日、日銀から昨年2022年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.5%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.2%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、12月1.5%上昇
日銀が26日発表した2022年12月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.7と、前年同月比1.5%上昇した。22カ月連続のプラスとなり、2001年3月以来の高水準だった。22年の年間ベースの指数は106.9と2000年(109.2)以来の高水準となった。
値上げの動きがみられたタクシーや、年末に出稿需要が旺盛だったインターネット広告が指数を押し上げた。廃棄物処理では物流費上昇などの価格転嫁が進んだ。
一方、宿泊サービスでは観光振興策「全国旅行支援」が指数上昇を抑えた。日銀は全国旅行支援の影響がなければ、12月の前年比上昇幅は1.8%だったと推計する。
22年の年間ベースの前年比上昇幅は1.7%と、消費増税が影響した14年(2.6%)以来の高水準になった。日銀は「消費税(の影響)を除いたベースで仮にみると、1992年(1.9%)以来の伸びになると思う」とする。ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルスからの経済再開、コスト転嫁の動きなどが影響した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは93品目、下落したのは21品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、そして、本日公表された12月統計では+1.5%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い22か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、12月にようやく+1.3%に上昇幅を縮小させたに過ぎません。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近2022年12月統計のヘッドライン上昇率+1.5%への寄与度で見ると、機械修理や労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.43%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、国際航空貨物輸送、内航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.41%、リース・レンタルが+0.39%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.5%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も11月の+3.1%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+5.2%、広告の+1.7%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。また、引用した記事の3パラめで言及されている全国旅行支援の影響を見ると、2022年11月統計では諸サービスの中の宿泊サービスが前年同月比で+8.8%の上昇を記録していますが、12月には一気に+0.9%となっています。引用した記事でもインプリシットに寄与度が▲1%程度あるとの推計結果が指摘されています。

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2023年1月25日 (水)

伸井太一・鎌田タベア『笑え! ドイツ民主共和国』(教育評論社)を生協の書店に注文する

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今日は雪が融けずにキャンパうには近づけなかったのですが、今週に入って、伸井太一・鎌田タベア『笑え! ドイツ民主共和国』(教育評論社)を生協の書店に注文しました。先週末の朝日新聞の書評欄で紹介されていました。出版社の宣伝文句によれば、ドイツ語原文があるので語学学習も出来る、という方はそれほど評価しなかったのですが、図版資料約200点の方は大いに気に入りました。研究費というわけにもいかないので、私費での購入です。
旧ソ連や東欧の共産主義諸国が雪崩を打って崩壊した1989年から1990年代前半といえば、我が国ではバブル経済が爛熟し、さらにバブルが崩壊し、その後の景気後退期で、私の勤務していた役所でも経済対策の策定などで大忙し、加えて、1993年の冷夏長雨でコメが不作になって輸入米をみんなで食べる、といった時期だったのを記憶している40~50歳以上の人も少なくないと思います。実は、同じころ、私は南米はチリの日本大使館で優雅な外交官生活を送っており、旧ソ連や東欧の共産主義体制に関するジョークはいくつか聞き及んでいます。例えば、チリのタクシーの多くは旧ソ連製のラダだったので、ラダに置き換えられていたのですが、もともとは、上の本書の表紙画像にある旧東ドイツ製の自動車であるトラバントに関するジョークで、以下のような趣旨の小ネタがありました。

ロバ:
こんにちは、自動車くん。
トラバント:
こんにちは、ロバくん。
ロバ:
おいおい、私は君のことを「自動車」って格上げして呼んでるんだよ。君も私のことを「ウマ」くらいにお世辞をいえないものかね?

まあ、旧ソ連製のラダにせよ、旧東ドイツ製のトラバントにせよ、ロバがウマでないのと同じように、自動車かどうか怪しい、というジョークです。このジョークが収録されているのかどうか、未読の段階ですので不明ですが、表紙画像にトラバントが入っていますので、少なくとも、トラバントに関するジョークは豊富に含まれていそうな気がします。

本書は、来週には入手できるのではないかと期待しています。そのうちに、読書感想文をポストしたいと思います。未読ですので「読書感想文のブログ」に分類するのは心苦しく、「海外生活の思い出のブログ」に分類しておきます。

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2023年1月24日 (火)

いろいろあって大雪の中を2時間かけて帰宅する

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10年に1度の寒波による大雪の中、いつもは20分ほどの道のりを2時間かけてバスで大学から帰宅しました。上の写真は、我が家の近くの駐車場と道路です。疲れました。

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帝国データバンク「金利上昇による企業への影響アンケート」の調査結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、ちょうど1週間前の1月17日に帝国データバンクから「金利上昇による企業への影響アンケート」の調査結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 今後金利が上昇した場合、自社の事業に「プラスの影響の方が大きい」と見込む企業は8.5%にとどまった一方、「マイナスの影響の方が大きい」は40.0%で最も高くなった。他方、「どちらとも言えない(プラスとマイナス両方で相殺)」としている企業は31.4%だった
  2. 「大企業」において、「マイナスの影響の方が大きい」とした企業は全体より4.4ポイント高くなった。業界別では『不動産』における「マイナスの影響の方が大きい」割合は54.8%と突出して高く、全体を大幅に上回った
  3. 金利上昇で見込んでいる具体的な影響について、「借入金の支払利息が増える【マイナスの影響】」が56.5%でトップ。次いで、「輸入価格の低下(物価高騰の抑制)【プラスの影響】」が38.3%、「利息が高くなり資金調達しづらくなる【マイナスの影響】」が30.7%で続いた

私自身は、金利上昇は企業にとってはメリットは小さい、というか、デメリットのほうが大きいと考えているのですが、私の想像にマッチした結果が示されていると思います。ということで、リポートからいくつか図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 金利上昇による事業への影響 を問うた結果です。大雑把に、マイナスの影響が40%、プラスの影響が10%、プラス・マイナスで相殺が30%、となっています。当然、金利上昇が金利負担を増加させるので、マイナスの影響はそこから生じます。他方で、相殺というのは、このマイナスの影響を為替の動向が打ち消すからだという回答が多いようです。プラスの影響は為替の円高化による輸入価格の低下や為替安定が上げられていますが、何と、金融政策の正常化を上げる企業もあります。地銀や信金・信組なのではないかという気はします。というのは、利ざやの回復が収益につながる、といった趣旨の信用金庫・同連合会の回答が示されているからです。

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続いて、上のグラフはリポートから 金利上昇による事業へのマイナスの影響 を規模別と主要業界別に問うた結果です。グラフの順は逆になりますが、右側の主要業界別では、借入れの大きな業界が並んでいるのではないかと私は受け止めています。左側のグラフでやや不思議なのは、規模別で大企業ほど金利上昇のマイナスの影響が大きいと回答している点です。金利負担という点から考えれば、規模の小さい企業ほどマイナスの影響が大きいと、私は単純に考えていたのですが、どうも違うようです。私の勝手な解釈ですが、一般的な論調が金利引上げ、というか、我が国でも先進各国にならって金融引締め、という方向に傾いているので、世間一般の議論を受け入れている割合を示している可能性があるかもしれない、と考えないでもありません。まあ、違っているかもしれません。謎です。

伝統的な経済学では、マクロ経済を構成する4主体のそれぞれの貯蓄投資バランスは、政府と海外がバランス、家計が貯蓄超過、企業が投資超過、と考えられてきました。家計の貯蓄を企業が投資するわけです。でも、バブル経済崩壊後の日本では企業までが貯蓄超過になって、その分、政府が大赤字になっています。ですから、ひょとしたら、貯蓄超過の企業において金利受払いはネットで収益をもたらしている可能性がある、のかもしれません。

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2023年1月23日 (月)

ニッセイ基礎研究所「重要なSDGsゴールは何?」を読む

先週金曜日の1月20日に、ニッセイ基礎研究所から「重要なSDGsゴールは何?」と題するリポートが明らかにされています。私は木蓮の「ミレニアム開発目標(MDGs)」のころからフォローしているのですが、確かに、SDGsになってゴールが17、ターゲットが169と発散気味になったと考えないでもありません。ということで、なかなかに、興味深い論点を提供していますので簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、ニッセイ基礎研究所のサイトから 経済主体別、重要視するゴールのランキング を引用すると上の通りです。私は、実は、私のような開発経済学にそれなりの興味を持つエコノミストでなければ、貧困や飢餓については日本国民一般の関心はそう高くないと考えていたもので、個人のレベルで貧困が2番めにランクされているとは考えも及びませんでした。そうなんでしょうか。それとも、リポート執筆者の勘違いかなにかの思い込みがあるのでしょうか。よく判りません。ただ、気候変動=地球温暖化については、それなりに日本国民の意識が高い点は理解していたつもりです。もっとも、地方公共団体ではそれほどではない、という事実は知りませんでした。

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2023年1月22日 (日)

今シーズンの花粉の飛散やいかに?

先週水曜日の1月18日にウェザーニュースから「花粉飛散予想」が、また、木曜日の19日には日本気象協会から「2023年 春の花粉飛散予測」が、それぞれ明らかにされています。いずれの予報でも、関西地方の花粉の飛び始めは2月中下旬であり、飛散量は例年と比べても、昨シーズンと比べても多くなる、との予想となっています。

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どちらでもいいのですが、ひとまず、日本気象協会のサイトから 飛びはじめ予想 の画像を引用すると上の通りです。関西に引っ越す前の2020年シーズン、あるいはそのずっと前から感じていたことなのですが、東京って九州とそう変わりなく飛散開始の時期が早くなっています。関西とは1週間から10日くらいのズレがあります。おそらく、私の住んでいる琵琶湖沿岸地域では、大阪よりもさらに数日くらいのラグがあって飛散が始まるのではないかと、直感的に想像しています。

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続いて、同じく日本気象協会のサイトから 花粉の飛ぶ量は? の画像を引用すると上の通りです。上が例年比、下が前シーズン比です。昨シーズンはすでに忘却の彼方なのですが、今シーズンは例年と比べても、昨シーズンと比べても、関西ではかなり花粉が多くなりそうな予想となっています。私はとてもヘビーな花粉症ですので、「花粉」と聞くだけで、とても憂鬱です。

最後に、我が家で購読している朝日新聞をはじめとする各種報道で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染症法上の分類について、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」への変更を検討を開始したと報じられています。私は、実は、COVID-19前から花粉症がヘビーかつ通年性なもので、10年以上にわたって1年中マスクを着用していました。この観戦方上の分類変更により、少し前のマスク着用に対する同調圧力の真逆のマスク不着用の同調圧力が発生するのではないか、と危惧しています。日本社会は同調圧力が強いと評価されていて、多様性の受容に関して不寛容な部分も少なくありません。マスクについては、何とかならないものかと今から考え始めています。

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2023年1月21日 (土)

今週の読書は経済書のほかに新書4冊も含めて計6冊

今週の読書は以下の通りです。
まず、ロベール・ボワイエ『経済学の認識論』(藤原書店)では、古典派ないし新古典派への回帰を図るネオリベな経済理論を強く批判しています。井上智洋『メタバースと経済の未来』(文春新書)は、メタバースの基本を解説しつつ、メタバースで供給・消費されるデジタル財からなる経済について解説を試みています。中嶋洋平『社会主義前夜』(ちくま新書)では、いわゆる空想的社会主義のサン=シモン、オーウェン、フーリエの3人の思想や実践に焦点を当てています。牧野雅彦『ハンナ・アレント』(講談社現代新書)は、ナチスをはじめとする全体主義の恐怖を取り上げています。鈴木浩三『地形で見る江戸・東京発展史』(ちくま新書)は、徳川期から昭和期1970-80年代くらいまでの江戸・東京の発展史を地形にも注目しつつ跡付けています。辺見じゅん・林民夫『ラーゲリより愛を込めて』(文春文庫)は、終戦直後の過酷なシベリアでの捕虜収容所で未来への希望を失わなかった山本一等兵の物語です。
ということで、今年の新刊書読書は今週の6冊を含めて計17冊になります。
どうでもいいことながら、最近、ミステリを読んでいない気がします。ようやく、図書館の予約の順番が回ってきましたので、新刊ではないながらディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)を借りることができました。映画化もされ、話題になったミステリですので、早速、読んでみたいと思っています。

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まず、ロベール・ボワイエ『経済学の認識論』(藤原書店)です。著者は、フランスのエコノミストであり、レギュラシオン理論の第1人者でもあります。フランス語の現代は Une discipline sans réflexivité peut-elle être une science? であり、2021年の出版です。フランス語の現代を直訳すれば「再帰的反省なき学問は科学たり得るのか?」という意味だと思います。キーワードは「再帰的反省」であり、フランス語では "réflexivité" あるいは、英語にすれば "reflexivity" ということですから、英語の "recursivity" や "recursion" ではありません。訳注(p.15)では「研究対象に対する研究主体を客観的に反省すること」とされています。ただ、こういった議論は別にして、本書では20世紀終わりころから、そして、典型的には2008年のリーマン証券破綻からの金融危機、さらに、2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックにより混乱まで、レギュラシオン学派ならざる主流派経済学、特に、新自由主義=ネオリベな実物的景気循環理論(リアル・ビジネス・サイクル=RBC理論)の破綻について論じています。もちろん、その解決策がレギュラシオン理論、ということになります。ボワイエ教授の考えでは、本書に限らず他の著作などでも、理論は歴史の娘であって合理性の娘ではない、という点が強調されます。ケインジアンないしニュー・ケインジアンの経済理論を「ミクロ的基礎づけ」の観点から批判し、古典派ないし新古典派への回帰を図る経済理論を強く批判しています。特に、私が強く同意するのは経済学の数学化に関する第5章から第6章の議論であり、何度か私も主張しているように、エコノミストが用いている経済学のモデルは現実に合わせて修正されるのではなく、逆に、モデルに適合するように政策的に現実の経済社会が古典派の世界に近づけられている危惧が本書でも指摘されています。もちろん、どうしてエコノミストがそのようなインセンティブを持つかといえば、エコノミストのヒエラルキーがあるわけで、私のように上昇志向を持たない例外は別にして、トップ・ジャーナルへの掲載を志向すれば、いろいろと制約条件が重なるわけです。経済学が専門職業化し、さらに学問分野が細分化され、個々のエコノミストの視野狭窄が始まると、経済学が現実の経済社会の問題を解決する能力が低下しかねない、というのはその通りで、現実に生じていいるといえます。そして、経済学をもとから考え直すべき基礎は歴史である、と著者は強く主張します。私はこの点にも合意します。経済学があらぬ方向に向かってしまった今となっては、さまざまな観点からの経済学の再生めいたアクションが必要なのかもしれません。

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次に、井上智洋『メタバースと経済の未来』(文春新書)です。著者は、駒澤大学のエコノミストです。冒頭にタイトルとなっているメタバースの簡単な解説をした後、本書の主張はノッケから、将来の経済がスマート社会とメタバースに分岐する、というところから始まります。すなわち、どちらもAIやデジタル技術が大いに活用されるわけですが、現実社会がAIの活用などによって純粋機械経済に近づくのがスマート社会であり、後者のメタバースとは、大雑把に、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)が進化したものであり、通貨も仮想、あるいは、暗号通貨だったり、アバターで活動して生身の人間の所在が問われないわけです。もちろん、本書は現実社会の空間がスマート化していくことはスコープ外であって、後者の仮想・拡張空間の進化型の経済活動を対象にしています。ですから、メタバースにおける経済活動は純粋デジタル経済になります。そのココロは、純粋なデジタルな財とサービスだけが供給される経済、ということになります。実体経済のスマート化が進み、デジタルでない実体あるモノやサービスはスマート社会から供給され、メタバースで供給・消費されるデジタル財は実体のあるモノやサービスではありませんから、資本財は不要で、限界費用はコピーですからゼロになり、差別化された財の供給という意味で独占的競争が支配的になります。ですから、希少性に従って市場で価格付がなされ、その価格に応じて資源配分されれば効率的、という経済学ではなくなります。限界費用がゼロで供給が無限、というか、経済学的に正しくいえば、希少性がゼロになります。私のような単純エコノミストがパッと思い付きで考えれば、資本主義社会の次に来る社会主義を飛び越して共産主義になるようなものです。ですから、本書でも真剣に資本主義がどう変わるかを第5章で議論しています。現在の企業に代わって、分散型自立組織=DAO (Decentralized Autonomous Organization)が経済活動の中心になれば、資本家/経営者/労働者といった階級分化はなくなり、デジタル通貨により銀行支配が大きく縮小する可能性が示唆されます。同時に、格差についても、明らかに、地域格差は縮小、というか、消滅の方向に向かいます。気候変動=地球温暖化も緩和される可能性が示唆されます。そして、本書の最後の結論は人類は肉体を棄てる、というものです。ここまでくると、まるっきりSFチックなものですから、眉唾で懐疑的な見方が増えそうな気もします。この結論は別としても、メタバースないしメタバース経済に関する入門書としては適切ではないか、と私は考えます。最後の最後に、人類が肉体を棄てるかどうかについて、光瀬龍の原作を基にした萩尾望都の漫画『百億の昼と千億の夜』では、A級市民はコンパートメントが供されて、実体の肉体は惰眠するだけの存在になっていたように私は記憶しています。まあ、やや記憶が不確かなのは認めます。

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次に、中嶋洋平『社会主義前夜』(ちくま新書)です。著者は、同志社大学の研究者であり、専門は政治学です。本書でいうところの「社会主義」は、理論とか運動場の社会主義であって、しかも、その前夜ですのでマルクス主義的な科学的社会主義ではなく、サン=シモン、オーウェン、フーリエの3人を軸とする空想的社会主義について、経済社会の時代背景などとともに振り返っています。すなわち、資本主義社会黎明期としての19世紀初頭から半ばにかけて、フランス革命後の政治的、あるいは、産業革命期に不安定だった経済社会、資本家と労働者のはなはだしい貧富の格差、貧困層の劣悪な労働・生活環境といった問題に取り組んだ理論・思想・運動としての社会主義の誕生の時期にスポットを当てています。後には、暴力革命による体制変革を目指すマルクスとエンゲルスによって空想的社会主義と名付けられ、まあ、マルクス=エンゲルスの科学的社会主義よりもやや質落ちの印象が与えられましたが、オーウェンが米国で始めた労働協同村ニューハモニーとかの実践も本書では取り上げています。ただ、空想的社会主義のその後の歴史的な発展は本書ではややスコープ外とされているようで、英国ではフェビアン協会から労働党が組織されたり、あるいは、欧州各国で革命的な共産主義ではなく改良主義的な社会民主主義の正統が政権に参加したりといった活動は本書では取り上げられていません。もちろん、マルクス=エンゲルスによる科学的社会主義が現在の共産主義につながっていることは明確なのですが、空想的社会主義が社会民主主義につながっているのかどうかは私はよく判りません。ただ、病気の治療なんかもそうですが、経済社会の問題解決に当っては対症療法というのも決して無視してはいけない、と私は考えています。例えば、人類はほぼほぼ天然痘を地球上から駆逐したといわれていますし、こういった病気の克服というのは、もちろん、ある意味での最終目標なのかもしれませんが、熱を下げたり咳を止めたり痛みを緩和したりといった対症療法も必要な場合は少なくないと考えます。また、マルクス=エンゲルス的な社会主義/共産主義がソ連東欧で失敗したわけですし、対症療法として、あるいは、空想的とはいえ、こういったサン=シモン、オーウェン、フーリエの3人が果たした役割というのは決して小さくない、と私は考えています。

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次に、牧野雅彦『ハンナ・アレント』(講談社現代新書)です。著者は、広島大学名誉教授で専門は政治学や政治思想史です。タイトル通りに、ハンナ・アレント女史を反全体主義という観点から取り上げています。ハンナ・アレントといえば、アイヒマン裁判の傍聴から「悪の凡庸さ」を指摘した、くらいしか情報を持たない私のような専門外のエコノミストはちゃんと認識していなかったのですが、権威主義体制と暴政(専制)と全体主義を区別して、判りやすい概念図としてpp.40-41に示してあります。暴政(専制)は1人の暴君がその他すべてを等し並に支配するのでやや判りやすくなっています。他方で、権威主義では超越的な指導者から取り巻きがヒエラルキー=階層構造を成している一方で、全体主義では指導者から同心円的な構造をなしていて階層構造を成していない、という違いがあるそうです。そして、というか、なぜなら、ハンナ・アレントが喝破したように全体主義とは運動である、と考えるべきだからです。もちろん、ハンナ・アレントの全体主義はほぼほぼナチス/ヒトラーと同じと考えるべきですが、当然ながら、イタリアのファシズムや日本の戦前体制も同様の特徴を兼ね備えています。他方で、本書では反ユダヤ主義や全体主義について、かなり歴史的に古くまで概観しているのはいいとしても、同時に、特に、反ユダヤ主義的行為、というか、ユダヤ人虐殺が権威主義的なパーソナリティに基づいて実行されている点は軽く扱われているような気がします。トイウノハ、アイヒマン的にユダヤ人虐殺に対して何らの人道的な痛みも感じることなく、いわば「上司からの命令に基づく業務遂行」のような形で実行している点は私はそれなりに重要な点だと考えています。のちの、ジンバルドー教授によるスタンフォード監獄実験の結果と同じで、役割を割り振られれば良心に反する行為でも実行されかねない危うさは指摘してもしすぎることはないと思います。他方で、私のようなエコノミストの目からすれば、反ユダヤ主義がナチスの残虐行為の源泉とみなされるのも、やや危うさを感じます。ケインズ卿が「平和の経済的帰結」で指摘したような過酷な賠償という要因も忘れるべきではないからです。最後に、私の読み方が浅かったからかもしれませんが、やや読後感がよくなかったのは、どこまでがハンナ・アレントの考えで、どこからが著者自身の考えかが、必ずしも判然とはしなかった気がします。一般向けのコンパクトな新書ですから、学術論文的に引用や参考文献をどこまで示すかは議論あるところですが、少なくとも、ハンナ・アレントの主張と、それを基にした著者自身の考えは、もう少し判りやすく記述してほしかった気がします。

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次に、鈴木浩三『地形で見る江戸・東京発展史』(ちくま新書)(ちくま新書)です。著者は、東京都水道局ご勤務の公務員のようです。ただ、おそらくは技術者ではなく、ビジネス関係の大学のご卒業です。ということで、タイトルから明らかなのですが、近世徳川期から現代、大雑把に昭和の1970-80年代くらいまでの江戸・東京の発展を跡づけています。ただし、タイトルのように地形で跡づけているのは江戸期だけで、明治期以降の近現代はあまり地形には関係なく、というか、科学技術の進歩によって地形の制約が薄れた、ということなのだろうと思いますが、結果的に地形とは関係薄い東京の発展、ということになっています。お仕事柄なのかどうか、江戸期の上水道に関してはとても詳細な解説でした。でも、地形に即しているとはいえ、やや土木技術的な観点が多くて、専門外の私には判りにくかった気がします。他方で、社会科学的な観点から江戸・東京の発展史について、背景も含めて、判りやすく、かつ、多くの読者が興味を持てるように語られているわけでもないわけで、私の目から見て、やや辛い評価なのかもしれませんが、歴史書や事業史といった既存の参考文献をひもといて事実関係を羅列したに近い印象でした。まあ、私のように、浅草に使い下町から城北地区、世田谷区や杉並区といった山の手の住宅街、さらには多摩地区までいろいろと東京の中でも移り住んで、それなりの土地勘ある読者にはいいような気もしますが、それ以外の東京についての情報が少ない読者には大きな興味を持てる内容とは思えませんでした。私は年に何冊か「京都本」を読みますし、おそらく、それほど京都に土地勘ない読者にも興味を持てるように工夫されている感覚が判るのですが、本書については東京在住者の、しかも、読解力が一定の水準に達した、もしくは、マニア的な読者がターゲットなのかもしれません。でもまあ、それだけ東京や首都圏に人口が集中しているわけなので、読者も多数に上るのかもしれません。

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最後に、辺見じゅん・林民夫『ラーゲリより愛を込めて』(文春文庫)です。本書は映画のノベライズ小説です。著者は、映画の原作となった『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』の作者の小説家と映画の監督です。表紙画像にあるように林民夫監督作品として、二宮和也と北川景子の主演で昨年2022年12月に封切られています。私は不勉強にして映画は見ていません。まあ、何と申しましょうかで、映画は見なくてノベライズ小説を読んでおく、というのは、『すずめの戸締まり』と同じパターンだったりします。それはさておき、まず、「ラーゲリ」とはロシア語で強制収容所を意味します。そうです。この小説は、終戦直前に中国の旧満州から一家が帰国しようとする際に、家族と離れてシベリアの強制収容所に捕虜として抑留された山本幡男一等兵の物語、というか、映画のノベライズです。以下、ストーリーを追いますので、結末までネタバレと考えられる部分を含み、この先は自己責任で読み進むことをオススメします。ということで、十分な食事や休養も与えられずに、まったく国際法や基本的人権を無視されたまま強制労働に従事させられ、栄養失調や過酷な労働で病気や怪我をした上に、十分な治療もなされずに亡くなったり、あるいは、自ら命を断ったりする収容者が続出する中で、主人公の山本幡男一等兵は未来への希望、すなわち、家族の待つ日本への帰国の希望を持ち続け、人間らしい尊厳を保ちつつ、日々を過ごします。こういった人柄が収容所の周囲の人々にも伝播し、少しずつ収容者の気持ちにも変化が見られます。しかし、山本幡男一等兵を病魔が遅い十分な治療を受けられずに亡くなります。その直前に、長い長い遺書を書くわけですが、こういった遺書は収容所では許されず没収されるリスクがあることから、宛先別、すなわち、母宛、妻宛、子供達宛に分割して周囲の友人が記憶し、待ちに待った帰国の際の船中で文書に書き残し、帰国後に遺族を探し出して遺書を届ける、というストーリーです。私は感激しながらも涙なしで読み終わりましたが、読者、あるいは、映画の鑑賞者によっては滂沱の涙を流す人がかなりいそうな気がします。たぶん、泣きたい人にはオススメでしょう。

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2023年1月20日 (金)

とうとう+4%に達した2022年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から昨年2022年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+4.0%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、41年ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.0%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、22年12月4.0%上昇 41年ぶり上げ幅
総務省が20日発表した2022年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.1となり、前年同月比で4.0%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年12月(4.0%)以来、41年ぶりの上昇率となった。22年通年は生鮮食品を除く総合で102.1となり、前年比2.3%上がった。
上昇は22年12月まで16カ月連続になった。4.0%という伸び率は消費税の導入時や税率引き上げ時を上回り、日銀の物価上昇目標2%の2倍に達した。事前の市場予想におおむね沿う数字だった。
通年での上昇は19年(0.6%)以来3年ぶり。2%を超えるのは、消費税率を上げた14年(2.6%)を除くと1992年(2.2%)以来。消費増税時を除いた比較で、2022年の上昇率2.3%は1991年(2.9%)以来31年ぶりの高い水準になった。
2022年12月は調査対象の522品目のうち、前年同月より上がったのは約8割に相当する417品目。変化なしは47、下がったのが58だった。上昇した品目は11月の412から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は4.0%上がった。1991年1月(4.0%)以来、31年11カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.0%上がり、消費増税時を超えて91年8月(3.0%)以来31年4カ月ぶりの水準となった。
エネルギーや食料など生活に欠かせない品目で値上がりが続いている。品目別に上昇率を見ると、エネルギー関連が15.2%で全体を押し上げた。11月の13.3%を上回り、15カ月連続で2桁の伸び。都市ガス代は33.3%、電気代は21.3%上がった。
生鮮を除く食料の上昇率は7.4%で、76年8月(7.6%)以来46年4カ月ぶりの水準に達した。食料全体は7.0%だった。鳥インフルエンザ拡大の影響もあって鶏卵が7.8%上昇した。食用油が33.6%、炭酸飲料は15.9%、弁当や冷凍食品といった調理食品は7.3%伸びた。外食も5.8%と高い。
家庭用耐久財は10.8%上がった。原材料や輸送価格の高騰でルームエアコン(13.0%)などが値上がりしている。
日本経済研究センターが16日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では、2023年は物価上昇の勢いが鈍る。生鮮食品を除く消費者物価上昇率は23年1~3月期に前年同期比で2.71%になり、7~9月期(1.70%)に1%台になるという。
主要国の生鮮食品を含む総合指数は、22年12月の前年同月比の伸び率で日本を上回る。米国は6.5%、ユーロ圏は9.2%、英国は10.5%だった。

なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.0%の予想でしたので、ジャストミートしました。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、12月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+15.2%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.21%あります。このエネルギーの寄与度+1.21%のうち、電気代が+0.78%と過半を占め、次いで、都市ガス代の+0.33%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、10月統計+5.9%、11月統計+6.8%に続いて、12月統計では+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.67%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。12月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.8%の上昇率で+0.27%の寄与度、+10.4%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.3%で+0.26%の寄与度、+14.1%の上昇をを示したあんパンをはじめとする穀類が+9.6%の上昇率で+0.20%の寄与度、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は12月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.21%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.67%となっていますから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1%強なわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期は+2.71%になり、2023年7~9月期には道銀のインフレ目標を下回って+1.70%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「コアCPIは23年夏場以降に1%台後半まで伸びが鈍化すると予想している」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じ見方をしています。政府による物価高対策の影響が大きいといえます。

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2023年1月19日 (木)

千早茜『しろがねの葉』直木賞受賞おめでとうございます

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千早茜『しろがねの葉』(新潮社)、直木賞受賞おめでとうございます。作者は、我が勤務校の立命館大学OGだそうです。私は受賞直前に読んでおきました。

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2022年12月統計に見る貿易赤字はそろそろ反転し縮小に転じたか?

本日、財務省から昨年2022年12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+11.5%増の8兆7872億円に対して、輸入額は+20.6%増の10兆2357億円、差引き貿易収支は▲1兆4484億円の赤字となり、昨年2021年8月から17か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、2022年通年の貿易赤字は▲19兆9713億円に上り、統計として比較可能な1979年以降で最大の年間貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事の最後の2パラだけ引用すると以下の通りです。というのは、記事の多くの部分が2022年通年の統計で占められていますので、12月統計に言及している最後の2パラだけを引用します。

貿易赤字最大の19.9兆円 22年、円安と資源高響く
22年12月単月の貿易収支は1兆4484億円の赤字だった。赤字は17カ月連続で、12月としては最大の赤字となった。輸入は前年同月比20.6%増の10兆2357億円、輸出は11.5%増の8兆7872億円だった。石炭や原油などの輸入額が膨らみ、大幅な赤字が続いた。
12月は中国向けの輸出が1兆6178億円と前年同月比6.2%減った。減少は7カ月ぶり。自動車や自動車部品が減った。新型コロナウイルスの感染拡大などが影響したとみられる。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6800億円あまりの貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2兆円あまりでしたので、実績の▲1.4兆円あまりの貿易赤字は大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年11月までの17か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、21か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びは反転した可能性すらあり、貿易赤字がこのまま一本調子で拡大するとは考えにくく、むしろ、昨年2022年後半に毎月▲2兆円超の貿易赤字を記録していたころから赤字幅は着実に縮小しています。円安も一時に比べて落ち着きを取り戻しているのは多くのエコノミストの意見が一致するところです。ですので、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
11月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。しかし、前年同月比の伸び率は大きく縮小しました。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで+1.2%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+41.4%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、昨年2022年10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、伸びは大きく鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは▲13.8%減であるにかかわらず、金額ベースでは+36.8%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+2.3%増に過ぎませんが、金額ベースでは+33.2%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+26.5%増、金額ベースではこれが膨らんで+50.9%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は▲8.2%減ながら、輸出金額では+16.2%増と伸びています。また、一般機械+23.9%増、電気機器+12.4%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因であり、私はむしろ、少ない輸出で多くの輸入が出来ているお得感すらあると感じています。

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2023年1月18日 (水)

基調判断が下方修正された2022年11月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2022年11月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲8.3%減の8388億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注8.3%減 22年11月、2カ月ぶりマイナス
内閣府が18日発表した2022年11月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)は前月比8.3%減の8388億円だった。マイナスは2カ月ぶり。海外景気が減速するとの観測から、企業が設備投資に慎重になっている可能性がある。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値(0.9%のマイナス)を大きく下回った。
単月のぶれを除くため算出した22年9~11月の3カ月移動平均は前期比2.6%減だった。内閣府は基調判断を9~10月の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」に下方修正した。
業種別にみると、製造業からの受注は9.3%減った。半導体製造装置など電気機械関連は32.7%のマイナスだった。業務用機械関連も15.4%減った。世界経済が減速するとの懸念が背景にあるとみられる。
非製造業からの受注は3.0%減った。マイナスは3カ月ぶり。ITやインターネット関連企業といった情報サービス業は27.6%減少した。先月までの大きな伸びの反動もあったとみられる。リース業は7.6%減った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比▲1%に達しない程度の微減の予想で、予想レンジの下限では▲3.0%減でしたから、実績の▲8.3%減は大きく下振れた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」と明確に1ノッチ下方修正しています。上のグラフで見ても、増加のトレンドが反転した可能性が読み取れると思います。ただし、受注水準としても決して低くはない、と私は受け止めています。産業別に少しだけ詳しく見ると、製造業が▲9.3%減の3860億円、船舶と電力を除く非製造業も▲3.0%減の4698億円と、いずれも減少していますが、海外経済の減速の影響を受ける製造業のマイナス幅がより大きい形になっています。ですから、1ドル130円近い円安で価格競争力が増しているとはいえ、世界経済が先進国を中心にインフレ抑制を目指して金融引締めを継続し明らかに停滞色を強めている中で、輸出に依存する割合が高い製造業の減少幅が、新型コロナウィルス(COVID-19)の影響が大きいとはいえ内需に軸足を置く非製造業よりも大きくなっているわけです。
先行き機械受注を考えると、11月統計の非製造業のマイナスは、特に、9~10月に大きく増加した情報サービス業からの受注が11月には反動減で▲27.6%減となった影響が大きく、少なくとも非製造業については先行きの機械受注は底堅いと私は感じています。加えて、全国旅行支援やインバウンドの回復もサービス消費を後押しする可能性が高く、非製造業からの機械受注は緩やかながら増加する可能性が高いと見るべきです。他方、製造業については欧米先進国のインフレと景気にもよりますが、さらに受注が減少する可能性も排除できないと私は考えています。

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2023年1月17日 (火)

ニッセイ基礎研究所「もし日銀が利上げしたら日経平均はいくら下落するか」やいかに?

昨日1月16日にニッセイ基礎研究所から「もし日銀が利上げしたら日経平均はいくら下落するか」と題するリポートが明らかにされています。広く報じられているように、昨年2022 年12月20日に、日銀は0.25%程度であった長期金利の上限を0.5%程度に引き上げ、ここ数日、長期金利はほぼほぼこの上限金利で推移しています。

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まず、リポートから 上昇が止まらない日本の長期金利 のグラフを引用すると上の通りです。今日明日と開催されている日銀金融政策決定会合もにらみつつ、市場での長期金利上昇圧力が強くなっているのが読み取れます。

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金利上昇は、当然に、短期的には為替レートの増価、すなわち、円高に帰結しますので、景気の下押し圧力、そして、株価の下落要因となります。そして、結論としての 長期金利が上昇した場合の理論株価 (試算) をリポートから引用すると上のテーブルの通りです。テーブルの中にあるように、「イールドスプレッドと予想EPSを固定した場合の試算」の結果です。先週末の1月13日の時点で、長期金利は0.50%、PERの逆数である株式の収益利回りは8.18%、この両者の差であるイールドスプレッドは7.68%あります。もし、長期金利が1.00%に上昇した場合、株と国債のイールドスプレッドが変わらないと仮定すると、株式の収益利回りも国債に合わせる形で8.68%に上昇します。EPSで計測される株式のリターンが変わらない仮定の下で、株式の収益利回りが上昇するわけですので、株価水準が低下する必要があります。ですので、1月13日の株価水準に比べて、長期金利が1.00%になると日経平均株価は▲11.4%、▲2,981円下落する、という試算結果が示されています。

実は、このリポートでは、テーブルの数字を読み違えている、というか、テーブルからの転記ミスがあったりするのですが、秀逸なのはイールドカーブが日銀における操作対象となっている10年もの国債の部分でへこんでいて、10年を少し下回る満期の国債金利が0.5%を上回ったりしているグラフが示されたりしている点です。イールドカーブをスムーズにして金融市場での取引を正常化するために、イールドカーブに合わせて10年もの国債金利を上げる、というのは、本末転倒な気がしますが、ひょっとしたら、さらに上限金利が引き上げられる可能性はゼロではないかもしれません。

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2023年1月16日 (月)

とうとう2ケタ上昇となった12月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+10.2%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、22年12月10.2%上昇 年間では過去最高
日銀が16日発表した2022年12月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.5と前年同月比では10.2%上昇し、9月の10.3%以来の高水準になった。指数は9カ月連続で過去最高。22カ月連続で前年の水準を上回った。エネルギー価格の高騰を転嫁する動きが長期化し、電力や都市ガスが全体を押し上げる状況が続いている。22年の年間ベースの上昇幅は9.7%と1981年以降過去最高だった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。12月の上昇率は民間予測の中心値である9.5%を0.7ポイント上回った。10月の上昇率は9.6%と0.2ポイント、11月は9.7%と0.4ポイントそれぞれ上方に改定された。輸入物価の上昇率はドルなどの契約通貨ベースで8.1%だが、円ベースでは22.8%だった。
品目別では電力・都市ガス・水道が52.3%と、全体をけん引する姿が続く。電力や都市ガスは7~9月の燃料費を参照しており、原油価格などの高騰を背景にした価格改定の影響が足元でも残る。
公表している515品目のうち上昇したのは454品目と全体の88%に上り、高水準での推移が続いている。鉄鋼(20.9%)、飲食料品(7.7%)、農林水産物(6.9%)などの上昇が目立ち、サプライチェーン(供給網)の川中や川下でも価格転嫁が進む。
年間ベースでは指数は114.7と比較可能な1980年以降で最高、上昇率は9.7%と比較可能な81年以降で最高を更新した。資源価格の上昇により川上の上昇が目立った2021年と比べ、22年は川中・川下で上昇がみられた。
原油や天然ガスの高騰が時間差を伴って電力・都市ガス・水道や石油・石炭製品、化学製品を押し上げた。鉄鋼でも21年の鉄鉱石の価格上昇を反映する動きがみられ、自動車向けなどで価格転嫁が進んだ。鉄鉱石は日本に届くまでに時間がかかるため、足元の海外市況との差が生じやすい。原材料などのコスト上昇を背景に飲食料品も全体の押し上げに影響した。

注目の指標のひとつであり、やたらと長くなりましたが、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+9.5%と見込まれていましたので、実績の+10.2%はかなり上振れしレンジの上限+10.0%を超えて、ややサプライズとなりました。PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格やエネルギー価格の上昇とその波及を受けたの上昇です。ただ、この要因は、グラフからも明らかな通り、輸入物価上昇率が低下し始めている一方で国内物価がわずかながらも上昇幅を拡大していますので、国内への波及の方が主役となりつつあると私は考えています。さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、前年同月に比べて為替レートが減価している円安要因です。ただし、これも広く報じられている通り、日銀に金融政策スタンスの微妙な変更により、円安は一定修正され始めています。
品目別には、引用した記事にもあるように、前年同月比で見て、電力・都市ガス・水道+52.3%、鉱産物+33.9%のほか、鉄鋼+20.9%、パルプ・紙・同製品+13.3%、金属製品+12.8%、窯業・土石製品+11.0%が2ケタ上昇となっています。しかし、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品はとうとう▲4.7のマイナスに転じましたし、石油・石炭製品も+8.0%まで上昇幅を縮小させています。もちろん、上昇率は鈍化しても、価格としては高止まりしているわけですが、そろそろ、エネルギー価格についてはすでにピークアウトした可能性があるように見えなくもありません。例えば、上のグラフでは資源価格に牽引された輸入物価上昇率が最近時点で大きく上昇率を鈍化させているのが見て取れます。ただし、飲食料品については+7.7%とまだ高い上昇率ですし、インフレが輸入資源価格から国内に波及し、特に、飲食料品の値上げや高価格に主役を交代させているように見えます。
最後に、そうはいいつつも、エネルギー価格についてはシンクタンクなどのリポートを見ておきたいと思います。すなわち、日本総研の「原油市場展望」では「原油価格は振れを伴いながらも80ドル前後を中心に推移する見通し」と分析されており、また、みずほ証券「マーケット・フォーカス(商品:原油)」では「足元の原油価格は底堅い展開。世界景気減速による需要の冷え込みに加え、中国のコロナ感染拡大から一時年初来マイナス圏に沈んだ。一方、OPECプラスによる減産継続のほか、中国のゼロコロナ政策緩和等が支えに。」と指摘しています。ご参考まで。石油などの商品市況の先行きは私には判りませんし、為替相場の予想はもっと理解不能です。悪しからず。

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2023年1月15日 (日)

ウェザーニュースによるサクラの開花予想やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週木曜日の1月12日にウェザーニュースから桜開花予想2023が明らかにされています。下の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。

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2023年のソメイヨシノの開花は平年並みか平年より早いところが多い予想となっています。それにしても、東京って関西と比べてかなりサクラの開花が早い、という事実を今さらながらに実感しました。

昨日今日と大学入学共通テストが実施されていました。私も今日はキャンパスに出勤して、受験生の多さにややびっくりしたところです。少子化が進んでいるとはいえ、受験生の全員が「サクラサク」とはいきませんから、大学入学共通テストに続く各大学の試験では、後悔のないように全力を発揮してほしいと思います。

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2023年1月14日 (土)

今週の読書は経済書なしで小説を中心に計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、千早茜『しろがねの葉』(新潮社)は織豊政権末期から徳川初期にかけての石見銀山での女性の生き様を描き出しています。直木賞候補作であり、私は『光のとこにいてね』とともに、受賞を期待しています。なお、作者は私の勤務校である立命館大学文学部のOGです。続いて、石井幸孝『国鉄』(中公新書)は、国鉄に技術者として務め、国鉄の分割民営化後はJR九州の初代社長を務めた著者の国鉄に関する歴史や企業体としての記録です。そして、佐伯泰英『異変ありや』、『風に訊け』、『名乗らじ』(文春文庫)は、「居眠り磐音 江戸草紙」のシリーズを引き継ぐ「空也十番勝負」のシリーズです。九州での武者修行を終えた坂崎空也が東に向かいます。
ということで、今年の新刊書読書は、先週の6冊と合わせて11冊となります。

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まず、千早茜『しろがねの葉』(新潮社)です。著者は、もちろん、小説家なのですが、私の勤務校である立命館大学文学部のOGです。この作品『しろがねの葉』のほか、『あとかた』と『男ともだち』が直木賞候補作としてノミネートされています。ということで、時代背景は織豊政権末期から徳川期初期にかけて、地理的には石見銀山、ということになります。主人公はウメという女性であり、農村に生まれますが、逃散の途中で父母と生き別れになって山師の喜兵衛により、石見銀山で育てられます。時代が徳川の世になり、徳川御料地となっても石見銀山の活動に大きな変化はありません。ウメの育ての親である喜兵衛は石見銀山から佐渡に去りますが、ウメは石見銀山に残り、夫婦となって子をなします。しかし、銀山の鉱毒で夫は亡くなり、さまざまな試練に直面しながらも強い生き方が印象に残ります。ウメの生きざまが凛として美しい、と感じました。

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次に、石井幸孝『国鉄』(中公新書)です。著者は、技術者として国鉄に勤務し、分割民営化後はJR九州の初代社長も務めています。戦後の国鉄の公営企業としての社史を跡付けるとともに、技術上の革新や進歩、あるいは、経営上の問題点などを極めてコンパクトに取りまとめています。ただ、「コンパクト」とはいっても、そもそも国鉄は超巨大企業体でしたので、新書としては異例の400ページ近いボリュームとなっています。経済学的にいえば、電力などの多くのインフラ企業と同じで、大規模な鉄道はいわゆる限界費用低減産業であり、規模の経済が働きます。ですから、ある程度の規模を持たないと経営は成り立ちません。でも、国鉄の場合は巨大であっただけに経営も困難となった面があります。一般的には、鉄道から輸送手段がモータリゼーションによって自動車に転換したのが輸送量減少の一因とされますが、必ずしも輸送量が減少したからといって、あそこまでの赤字を計上するとは限らないわけで、どこかに非効率があったといわざるをえません。でも、「親方日の丸」の非効率だけですべての国鉄赤字を説明できるわけでもなく、さまざまな複合的な要因があるわけです。それを経営だけでなく技術や歴史も含めた新書くらいのボリュームで取りまとめた本書は、ある面では、ムリがある一方で、それなりにコンパクトで有り難い、という気もします。

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最後に、佐伯泰英『異変ありや』『風に訊け』『名乗らじ』(文春文庫)です。著者は、時代小説家です。というか、最初はスペインを舞台にした小説を書いていたようなのですが、サッパリ売れずに渋々時代小説に転じた、といったところのような気がします。この「空也十番勝負」のシリーズの主人公は坂崎空也なのですが、その父親の坂崎磐音を主人公にした「居眠り磐音 江戸草紙」シリーズが51巻に渡って続いていました。私はすべて読んでいます。親子で剣術家であり、時代は江戸期の田沼時代から少し下がったあたりです。「居眠り磐音」のシリーズは、双葉文庫で出版されていた後、文春文庫に移行しています。「空也十番勝負」のシリーズは最初から文春文庫だったのかもしれません。ということで、坂崎磐音の郷里である関前から武者修行に出た坂崎空也が、長崎での修行を終える際に、薩摩藩の刺客に襲われて、ほぼほぼ相討ちとなって大怪我を負い、長崎らしく蘭方医の手当を受けたところからこの第6巻が始まります。そして、、空也は東に向かい、萩藩城下、さらに、東に向かいます。武者修行の終わりは姥捨の里と決めているようです。「居眠り磐音」のシリーズと違って、この「空也十番勝負」のシリーズは剣劇ばっかりで、やや私は退屈しました。「居眠り磐音」のシリーズでは江戸を中心に侍だけでなく、町民の暮らしや政治向きのトピックなども豊富に取り上げられていましたので、退屈しませんでしたが、この「空也十番勝負」シリーズは剣術ばっかりです。なお、すでに第9巻の『荒ぶるや』が1月に出版されていて、3月に出版される第10巻で終結、というスケジュールのようですが、私はまだ第9巻は読んでいません。集結する第10巻と合わせて読みたいと予定しています。

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2023年1月13日 (金)

世界経済フォーラム Global Risk Report における Top 10 Risks やいかに?

一昨日の1月11日、世界経済フォーラムから Grobal Risks Report 2023 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、世界経済フォーラムのサイトから今後2年間と10年間のそれぞれの Top 10 Risks のテーブルを引用すると下の通りです。

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今後2年間のトップリスクは Cost of living crisis、そして、10年間では Falure to mitigate climate change、そして、10年間の2番めも同じように気候変動問題から、Falure of climate-change adaption となっています。気候変動問題はもう少し先かと思っていましたが、もう10年間のタイムスパンに入ってくるということなのでしょう。2年間でも10年間でも、ともに8番めにリストアップされているのは Widespread cybercrime and cyber insecurity となっています。そうかもしれません。エコノミストとして、興味深く見ていたのは、リスクのカテゴリーです。色分けの凡例として5カテゴリーがアルファベット順に示されていますが、Economy の水色のカテゴリーに入ると考えられるリスクはトップ10には見受けられません。もう、リーマン証券破綻二段を発した金融危機なんかは、それほど大きなリスクとは考えられなくなったのかもしれません。また、リポートにすべて目を通したわけではありませんから、上のトップ10のリストだけを見た感想ながら、感染症=Infection も見かけません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)もリスクとしては後景に退いたという見立てなのかもしれません。

ついでながら、お正月1月3日でしたのでスルーしたのですが、Eurasia Group からも Top Risks 2023 が明らかにされています。コチラもpdfの全文リポートはもちろん、日本語訳まで提供されています。リストアップされた項目だけ、以下の通り、引用しておきます。

  1. Rogue Russia ならず者国家ロシア
  2. Maximum Xi 「絶対的権力者」習近平
  3. Weapons of mass disruption 「大混乱生成兵器」
  4. Inflation shockwaves インフレショック
  5. Iran in a corner 追い詰められるイラン
  6. Energy crunch エネルギー危機
  7. Arrested global development 世界的発展の急停止
  8. Divided States of America 分断国家アメリカ
  9. Tik Tok boom TikTokなZ世代
  10. Water stress 逼迫する水問題

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2023年1月12日 (木)

2か月連続で悪化した景気ウォッチャーと黒字幅が拡大した経常収支をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2022年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から2022年11月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.2ポイント低下の47.9となった一方で、先行き判断DIは+1.9ポイント上昇の47.0を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆8036億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

22年12月の街角景気、2カ月連続悪化 原材料高などで
内閣府が12日発表した2022年12月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、3カ月前と比べた現状判断指数(DI、季節調整値)は47.9と、前月から0.2ポイント低下した。マイナスは2カ月連続。物価高や原材料価格の高騰で、景況感が悪化した。
調査期間は12月25~31日。好不況の分かれ目となる50は6カ月連続で下回った。経済社会活動が新型コロナウイルス禍から正常化しつつあるとの声もあり、内閣府は現状の景気の判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。4カ月連続で同じ表現となった。
項目別の判断指数をみると、企業動向関連は1.5ポイント下がり、45.8だった。製造業を中心に低下した。「中小企業では材料費や電気代・ガソリン価格の値上がりが激しく対応できていない」(南関東の経営コンサルタント)との声があった。
家計動向関連は0.3ポイントと小幅に改善し、48.6となった。旅行やイベント参加が増えてきたことから「外出用の婦人服の売り上げも回復基調にある」(近畿の百貨店)といった感触があるという。一方で「物価上昇による客の節約意識は根強い」(中国のスーパー)との懸念も聞かれた。
2~3カ月後の先行き判断指数は1.9ポイント上昇し、47.0だった。4カ月ぶりのプラスとなった。「観光や外出を積極的に楽しむムードが加速していく」(北海道の観光名所)との予測がある。「灯油や電気代といった冬の光熱費の上昇に伴い、特に食品の節約が顕著になる」(東北のスーパー)との見方もあった。
経常収支11月1.8兆円の黒字 海外からの配当が押し上げ
財務省が12日発表した2022年11月の国際収支統計(速報)によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は1兆8036億円の黒字だった。黒字額は前年同月から16.4%増え、11月として過去最大となった。前年同月を上回るのは8カ月ぶり。海外子会社からの配当金の増加や訪日外国人の急回復による黒字が貿易収支の赤字を上回った。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。22年10月は円安や資源高を受けた貿易赤字により、経常収支は9カ月ぶりの赤字となっていた。
11月の貿易収支は1兆5378億円の赤字で、11月としては過去最大だった。
輸出額は前年同月比20.7%増の9兆81億円だった。自動車や建設用・鉱山用機械などがけん引し、21カ月連続で前年同月を上回った。輸入額は33.8%増の10兆5460億円だった。エネルギー価格の高騰などで22カ月連続で増えた。
原油の輸入価格は1バレルあたり100ドル38セント、円建てで1キロリットルあたり9万2344円だった。前年同月比で2~5割高の水準ながら10月に比べ低下した。11月は対ドルの円相場も円高方向に動いたことで貿易赤字も10月に比べると縮小した。
第1次所得収支は3兆7245億円の黒字で、前年同月から53.9%増えた。黒字額は11月としては過去最大で、他の月を含めても過去3番目の水準となった。
内訳をみると海外子会社からの配当金などの直接投資収益が自動車関連や商社などで増えた。資源価格の高騰で海運やエネルギー関連の海外子会社の業績が好調だったほか、円安で円建ての評価額が膨らんだ。債券や株式投資の証券投資収益も、輸送関連で大口の配当金があった。
サービス収支は1664億円の赤字だった。赤字幅は前年同月比で300億円超、前月比で5000億円超縮小した。訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を引いた旅行収支の黒字が950億円と、前年同月比で6倍になったことが寄与した。政府が22年10月に水際対策を大幅に緩和したことで、訪日外国人は急回復してきた。

やたらと長くなりましたが、いつもながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、3月21日でまん延防止等重点措置の行動制限が終了した後、4月50.4、5月54.0、6月52.9と50超の水準が続いたものの、COVID-19の感染拡大により7月は43.8へ大きく悪化した後、8月45.5、9月48.4、10月49.9と、緩やかに改善してきていたものの、11月48.1、12月47.9と僅かながら低下しています。足元では、新型コロナウイルスの感染者数も、死者数もかなり大きくなっていて、加えて、食品やエネルギーを中心に物価上昇が続いていることから、現状判断指数もやや低下気味です。ただ、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという見方も出始めていて、先行き判断DIは12月統計で上昇しています。従って、統計作成官庁である内閣府では、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いています。12月統計の現状判断DIを前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が+0.3ポイントの改善となった一方で、企業動向関連は▲1.5ポイント悪化していて、差引きで▲0.2ポイントの悪化という結果になっています。しかし、12月統計の先行き判断DIを見ると、小売関連が前月から+3.0ポイント、飲食関連が+2.9ポイント、サービス関連が+2.3ポイント、それぞれ改善しており、物価上昇の先行きは不透明な一方で、繰り返しになりますが、全国旅行支援やインバウンドに対する期待が現れている可能性があります。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、最近の統計で、季節調整していない原系列、季節調整済みの系列ともに、ほぼほぼ経常黒字を記録しています。2015年以降で経常赤字を記録したのは、原系列の統計の昨年2022年10月統計▲6093億円だけです。ただし、この経常黒字の水準は大きく縮小しています。グラフから見て取れる通りです。その要因は貿易収支の赤字です。もっとも、注意しておくべき点があります。すなわち、広く報じられているのでついつい信じ込みやすくなるのですが、昨年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は理解しておくべきです。正確には、季節調整済みの系列で見て、貿易赤字は一昨年2021年8月から1年あまり16か月に渡って、ほぼほぼ継続しています。この期間に例外的に貿易収支が黒字を記録したのは2021年10月だけです。サービス収支も合わせた貿易サービス収支ではさらに1か月さかのぼって2021年7月から17か月連続の赤字が続いています。この期間で貿易サービス収支に黒字を記録した例外月はありません。季節調整していない原系列の貿易収支で見ても、昨年2021年11月から11か月連続の貿易赤字となっています。ですから、貿易赤字はウクライナ危機による資源高や円安の半年ほど前から始まっている点は見逃すべきではありません。もちろん、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしているのは事実であり、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然です。消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2023年1月11日 (水)

基調判断が「改善」で据え置かれた2022年11月統計の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から11月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.5ポイント下降の99.1を示した一方で、CI一致指数は▲1.0ポイント下降の97.6を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

22年11月の景気一致指数、0.5ポイント低下 基調判断は据え置き
内閣府が11日発表した2022年11月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.5ポイント低下の99.1となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.5ポイント低下だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.0ポイント低下の97.6だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。

いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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11月統計のCI一致指数については、3か月連続の下降ながら、7か月後方移動平均はまだ上昇を続けています。したがって、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。ただし、3か月後方移動平均は10月統計から下降に転じています。また、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、生産指数(鉱工業)▲0.42ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.30ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)と輸出数量指数がともに▲0.21ポイントなどとなっています。他方、プラス寄与は、大きなものでは耐久消費財出荷指数+0.41ポイントが上げられます。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については中立的に私は見ています。ただし、CI先行指数の3か月後方移動平均も7か月連続後方移動平均も、ともに、2022年9月統計から3か月連続でマイナスに転じています。加えて、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は明らかに増加に転じた可能性が高く、第8波に入っていると考えるべきです。国内要因は中立的としても、海外要因については、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。ですから、全体としては、先行きリスクは中立というよりも下方に厚い可能性があると考えるべきです。
例えば、第一生命経済研究所のリポートでは、「12月分で基調判断が『足踏み』に下方修正される可能性」があると指摘するとともに、「海外経済の減速から輸出が落ち込む展開となれば、基調判断は『足踏み』にとどまらず、『下方への局面変化』、『悪化』へと進んでいく可能性がある」と結論しています。私もいくぶんなりとも合意します。

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2023年1月10日 (火)

人工知能AIはヒトの労働を補完するのか代替するのか?

先週1月6日に、労働政策研究・研修機構(JILPT)から「製造業におけるAI技術の活用が職場に与える影響」と題する資料シリーズNo.262が明らかにされています。経済開発協力機構(OECD)との共同研究の成果であり、昨年2022年3月の「金融業におけるAI技術の活用が職場に与える影響」(資料シリーズNo.253)の続編となるものです。どちらもpdfの全文リポートが以下の通りアップロードされています。

AIの導入に関しては、英国オックスフォード大学のFrey and Osborne (2013) "The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation"で分析されているように、かなりの職種がAI+ロボットに代替される可能性が指摘されています。しかし、この2本の調査結果では、いずれも「AI技術が仕事を代替した事実はみられなかった。実態は、AI技術による仕事の補完であった。」(製造業編、p.118)、「AI技術による人の代替については、現時点においては生じておらず、AI技術は人の仕事を補完する役割を果たしていた。」(金融業編、p.104)と結論されています。製造業編では、ごていねいにも、「加えて、仕事の代替として、正規従業員の仕事を非正規従業員の仕事へと代替する事実についてもみられなかった。」(製造業編、p.118)とまで言い切っています。

この調査はあくまで基礎調査であり、OECDの共同研究の一貫なわけですので、日本だけでなく世界の先進各国から調査結果が寄せられて、OECDでそれなりに分析されることと思います。より詳細で深い議論を私は期待しています。

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2023年1月 9日 (月)

カフェインの過剰摂取にご注意

今週末には大学入学共通テストがあり、そろそろ、大学受験の最終場に差しかかっている、ということもあって、昨日1月8日のウェザーニュースで「受験シーズンや多忙期には要注意! 身近なカフェインで中毒症に?」と題するコラムを見かけました。まあ、当然なのですが、薬にせよ何にせよ、適度な量を心がけねばならないわけで、過ぎれば毒にもなりかねません。コラムでも「手軽に摂取可能なカフェインですが、摂取し過ぎると中毒症状を起こしたり、場合によっては死に至るほどの悪影響を体に及ぼすこともあるそうです。」と注意を喚起しています。その昔に役所に勤務していた時、朝出勤すると残業した若手職員の机にRed Bullの空き缶がいくつも転がっていたりすると、少し心配になったりしたものです。

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上のテーブルはウェザーニュースのサイトから 食品中のカフェイン濃度 の一覧を引用しています。私はコーヒーは飲むのですが、ほぼほぼ朝だけです。そして、それまでのウーロン茶に代えて、ノンカフェインをひとつの売り物にしたルイボス茶を昨年から家では愛飲しています。そして、ウェザーニュースのサイトでは、欧州食品安全機関(EFSA)の2015年のカフェインの安全性に関する科学的意見書を引いて、「健康な成人では、カフェイン摂取量が1回に体重1kgあたり約3mg以下であれば、急性中毒症の懸念は生じない」と指摘しています。これだと、コーヒーは1回に300mlくらいまで、ということなのかもしれません。

もう10年近くも前になりますが、米国の首都ワシントンDCにある世銀で開催された会議に出席した折には、コーヒーブレイクの時にノンカフェインのコーヒー、すなわち、デカフェが供されていたのを見たこともあります。私自身は、ノンアルコールのビールとか、カフェインの入っていないデカフェなんてシロモノにはまったく興味がないのですが、どうしてもコーヒーを飲みたいが、カフェインは取りたくない、という出席者もいるのかもしれません。

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2023年1月 8日 (日)

富田勲の The Planets Ultimate Edition を聞く

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富田勲 The Planets Ultimate Edition を聞きました。日本コロムビア創設100周年記念アルバムだったりします。
冨田勲ですからシンセサイザーの「惑星」になります。当然、作曲者はグスターヴ・ホルストであり、作品番号32です。クラッシックの名曲ですから、私は佐渡裕指揮でNHK交響楽団演奏のアルバムも持っています。でも、やっぱり、印象的なのは冨田勲のこのアルバムです。組曲ですから、フツーは以下の7楽章から成っています。

  1. 火星 Mars
  2. 金星 Venus
  3. 水星 Mercury
  4. 木星 Jupiter
  5. 土星 Saturn
  6. 天王星 Uranus
  7. 海王星 Neputune

ちなみに、ホルストは英国人ですので、英語表記が正しいと私は考えています。もうひとつちなみに、平原綾香が「木星 Jupiter」に日本語の歌詞をつけて歌っていた記憶があります。脱線してしまったのでアルバム紹介に戻ると、冨田勲のこのアルバムでは、「木星」と「土星」の間に「イトカワとはやぶさ」というオリジナル曲が収録されています。聞けば明らかな通り、組曲の中の曲としてはやや違和感あるのですが、まあ、2011年発売のアルバムですから、時代背景を含めて理解しておくことにします。
最後に、この組曲「惑星」には冥王星 Pluto が入っていません。実は、冥王星の発見は1930年です。ホルストがこの組曲「惑星」を作曲したのが1916年で、初演は1918年ですから、作曲時や初演時にはまだ冥王星は発見されていなかったわけです。他方、ホルスト自身は1934年に60歳で亡くなっていますので、冥王星の発見時は存命でした。ですから、知力・体力・創造力の観点は不明ながら、組曲「惑星」に冥王星を付け加えることは不可能ではなかった気がします。しかしながら、広く知られている通り、冥王星は2006年に惑星 planet から準惑星 dwarf planet に格下げされています。ひょっとしたら、ホルストには先見の明があったのかもしれません。

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2023年1月 7日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ウォルター・アイザックソン『コード・ブレーカー』(文藝春秋)は、伝記作家としても著名なジャーナリストが生命科学の最前線をルポしています。梨『かわいそ笑』(イースト・プレス)は、インターネットに関連するホラー短編を収録しています。佐藤洋一郎『京都の食文化』(中公新書)は、かなりの高級趣味ながら幅広く京都の食文化について紹介しています。山本文緒『自転しながら公転する』(新潮文庫)は、とても美しくも貫一おみやのラブストーリーです。最後に、瀬名秀明『ポロック生命体』(新潮文庫)は、AIと将棋、小説、絵画などの文化や芸術の関係についてのSF短編集です。
ということで、今年の新刊書読書は、まず、6冊から始まります。

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まず、ウォルター・アイザックソン『コード・ブレーカー』上下(文藝春秋)です。著者はジャーナリストであり、米国の『TIME』誌の編集長やCNNのCEOなどを務めています。また、ノンフィクション・ライター、特に、伝記作者として有名であり、『スティーブ・ジョブズ』は世界的なベストセラーとなりました。私は、この作者の伝記モノでは『イノベーターズ』を読んだ記憶があります。ということで、本書の副題は「生命科学革命と人類の未来」となっていて、伝記ではありませんが、2020年にノーベル化学賞を受賞した米国カリフォルニア大学バークレイ校のジェニファー・ダウドナ教授を主人公に据えています。生命科学、特にゲノム編集に関する科学史にもなっています。ダウドナ教授のノーベル賞受賞の基となった貢献はゲノム編集技術キルスパー・キャス9です。そして、本書では必ずしも方向性すら示されていませんが、ゲノム編集により医療行為を超えて、例えば、デザイナー・ベビーについてどう考えるのか、という生命倫理的な課題を含んでいることは明らかです。邦訳本の表紙もそう暗示しているのではないでしょうか。私は、基本的に、ナチュラリストなのですが、医療行為一般は「ナチュラル」の範囲を超える部分も含むと考えています。ですから、それほど単純かつ原理主義的なナチュラリストではありません。私のことはどうでもいいので、医療行為に戻ると、信仰の力による回復を信じて医療行為を、投薬も含めて拒否する宗教は存在します。クリスチャン・サイエンスがそうですし、多くの信者がいると聞き及びます。決して、カルトとは見なされていません。ただ、行き過ぎるとエホバの証人のようにカルトに近いと見なされる場合もあります。ですから、盲腸を手術で切除する医療行為は許容できて、ゲノム編集によるデザイナー・ベビーはダメな理由は何か、と問われれば、社会的通念と回答するしかありません。例えば、マリファナについて、現時点でも、許容する社会と許容しない社会があります。おそらく、時代の流れとして、カッコ付きの「ナチュラル」な部分が減少して行き、そうでない人為的な部分、あるいは、人為的な範囲を超える神の領域まで踏み込んだ人間の行為が許容される部分が拡大するのが現在までの方向性であるように私には見えます。ただし、経済における事象でいえば、日本の人口減少や世界経済のグローバル化などといっしょで、私自身としてはどこかで反転する可能性は否定できない、と考えています。他方で、キチンと考えておかねばならないのは、生命科学の実践的な応用は反転縮小する可能性があるとしても、科学としての真実の解明の方向は決して反転することはないだろう、というか、科学的な真実の追求はその応用技術が社会的にストップさせられたとしても、継続されるべき場合が十分に考えられる、と私は考えています。そのあたりの基礎研究によす真実の追求と応用や適用による実践活動とは、キチンと分けて考えるべきです。その応用については、例えば、医療行為について、まあ、反転するとしても、盲腸の手術や解熱剤の投薬などが否定されるところまで戻りはしないと思いますが、決して、一直線にナチュラルな部分が減少して、人為的・超人為的な部分が拡大していくとは私は考えていません。おそらく、私の寿命が先に尽きるだけだと思います。真実の追求ではなく応用技術としての生命科学の拡大が反転するのを見届けるだけの寿命は、私には残されていないように思います。

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次に、梨『かわいそ笑』(イースト・プレス)です。著者は、インターネットを中心に活動する怪談作家となっています。本書は連作短編5編から成っています。年代的には2000年代、トイウカ、ゼロゼロ年代の末から2010年前後にかけての時期です。ですから、その時期には国産SNSのmixiが主流だったりします。もっとも、mixiは私はまだ使っています。そして、インターネット、というか、デジタル技術的に分類すれば、最初の短編はワープロファイル、2番めは画像ファイル、3番めが電子メールのテキスト、そして、4番目の短編で前3話が一挙に、というか、やや乱暴に結合された形になります。小説としては、怪談、というか、ホラー小説なのですが、死体描写や虫描写はちょっとリアルでグロいですし、ゴア表現なども含まれているものの、直球のホラー小説ではありません。まあ、テレビ番組で年末年始よりは夏休みに放送するタイプの「ホントにあった怖い話」みたいなホラー小説という気がします。個々の短編は、それ自体としても怪談であって、ひょっとしたら、私なんぞが知らないだけで、ホントにネットで流されている部分もあるのかもしれませんが、全体として、すべてのお話が第1話のタイトルに入っている横次鈴という人物、女性を憎んで呪う、という目的のために書かれているのが読み取れると思います。ネット上にある噂話的なネタを集めた体裁を取っているので、実際に作者ないし作品中の語り手が体験したわけではない、という表現がいくつかあり、それはそれで何ともいえない不気味さを漂わせていました。また、最後の謎解き、というか、種明かしは秀逸でした。私自身はほぼほぼ信じていない心霊現象ばっかりなのですが、それなりに説得力ある表現も少なくなく、ホラー小説としての仕上がりは悪くないと思います。最後に、これもネットに取材したホラー小説というひとつの試みとして、何か所かにQRコードが貼り付けられています。たぶん、どこかのサイトにつながるんではないかと思いますが、私は本書のQRコードを読み取ってはいません。

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次に、佐藤洋一郎『京都の食文化』(中公新書)です。著者は、よく判らないのですが、農学博士であり農学を専門分野とする研究者ではないかと思います。タイトル通りの本であり、私が年に何冊か読む「京都本」です。本書冒頭には4ページにわたって和菓子などの何枚かのカラー写真があり、見た目にも気を配っているようなのですが、本書の中身にはそれほど京料理の見た目にはこだわっていないようです。ということで、料理だけではなく、和菓子や野菜なども含めて、タイトル通りに、食文化一般を対象に含めています。ただし、私の読後感では基本的にグルメ本であって、料理人やお店などを固有名詞で紹介していますので、そういったグルメ本としての価値も追求しているように見えます。私自身は京都の洛外もいいところのうじの出身で、現在の大学キャンパス近くに引っ越すまでは六地蔵という宇治と伏見の境い目に近いところに住んでいました。ということで、食文化をタイトルにしているだけあって、お店や食文化関係者の固有名詞の他にも、食材や調理・処理方法、さらには、消費や生活まで幅広くカバーしています。ただ、グルメ本ですので高級なところが中心で、長らく京都の洛外に住んだ私なんぞは知っていても口には入りそうもない高級品がズラリと並びます。私としては、この高級趣味を別にすれば、なかなかいい京都食の指南書だろうと受け止めています。その高評価を前提に、ただ、3点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、京都の酒蔵は洛中が中心であって、伏見に移ったのは明治期以降との記述はホントなのでしょうか。何で見たのかは忘れましたが、まったく逆の酒蔵の伏見中心説も読んだ記憶があるからです。少なくとも、江戸期には地の利がよくなかったというのは疑問です。淀川の水運を無視しているような気がします。薩摩藩をはじめとして伏見に半屋敷を置いていた大藩は少なくありません。第2に、農学の研究者なのですから、文化的な方面もさることながら、京野菜についてもう少し丁寧な解説が欲しかったです。鹿ヶ谷カボチャは結構なのですが、聖護院ダイコン、九条ネギのほかにもいっぱいあると思います。最後に第3に、京都の範囲として府下を考えるのであれば、宇治の普茶料理もスコープに入るような気がします。

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次に、山本文緒『自転しながら公転する』(新潮文庫)です。著者は、2001年『プラナリア』で直木賞を受賞した小説家です。2021年に膵臓がんで亡くなっています。私はバブル経済期に集英社コバルト文庫で少年少女向けの作品をいくつか読んだ記憶がありますが、もう30年以上も前のことですので、不純な動機で読んだこともあって、タイトルも中身もすっかり忘れました。本書は、2020年に単行本として出版されていますが、昨年2022年に文庫化されましたので読んでみました。単行本と文庫の表紙はほぼほぼ同じではないか、と思います。ということで、この作品は、一言でいえば、『金色夜叉』ではありませんが、貫一おみやの恋愛小説です。主人公の都は30歳を少し過ぎて、東京のアパレルで働いていたのですが、母親の看病のため茨城の実家に戻り、地元のアウトレットのショップで店員として働き始めます。しかし、職場ではセクハラなど問題続出、実家では母親の更年期障害に続いて父親も体調を崩してしまうなど、難題続きのところに、通勤用の軽自動車のバッテリが上がって、寿司職人である貫一と知り合って付き合い始めます。しかし、実際のところ、貫一はとってもナイスガイなのですが、経済力や生活力に欠けていて、なかなか結婚には踏み切れません。といった、まあ、ありがちな恋愛小説なのですが、繰り返しになるものの、貫一がとってもナイスガイです。性差別をするつもりは毛頭ありませんが、魅力ある男性だと私ですら思います。ただ、文庫本ですから解説のあとがきがあり、そこでも指摘されているところで、少し読者をミスリードするようなプロローグとエピローグが入っています。私はこれはないほうがずっと作品としての出来がよくなるような気がしました。私は一時松戸に住んでいたことがあり、一応、少しくらいであれば、常磐線沿線の土地勘もあります。でも、そういった要素がなくても、なかなかに質の高い恋愛小説でした。

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最後に、瀬名秀明『ポロック生命体』(新潮文庫)です。著者は、ホラー小説作家であり、『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞しています。薬学の分野で博士号を持っていたりします。どうでもいいことながら、私の好きなホラー・ミステリ作家の綾辻行人も教育学の博士号を取得していたと記憶しています。2020年に単行本が出版されていますが、昨年2022年に文庫化されましたので読んでみました。表紙デザインは単行本と文庫本でかなり異なっていたりします。ということで、この作品はAIに関するSF短編4編から編まれています。収録作品は、「負ける」、「144C」、「きみに読む物語」、そして、タイトル編の「ポロック生命体」となっています。AIが応用される分野は、将棋、小説、そして絵画です。有名なIBMのディープブルーがカスパロフをチェスで破ったり、AlphaGoが囲碁のイ・セドルに勝ったりして、チェス・将棋・囲碁といった対戦型のボードゲームの世界でのAIの活用・活躍は広く報じられていますが、この短編集では、死んだ芸術家の小説や絵画の新作が世に現れる、という世界を描き出しています。そして、興味深いことに、小説の作品のSQ=共感指数のレベルが高すぎず低すぎない作品がベストセラーになってよく売れる、という、極めてもっともらしい発見が紹介されたりしています。それはともかく、おそらく、指紋や声紋のほかにも、文体や絵画の特徴、はては、キーボードの打ち方、しゃべり方や歩き方に至るまで、かなり確度高く個人を識別する方法はいっぱいあって、極めて大量の情報を短時間で処理できるAIであれば、小説や絵画に限定せずに、いろんな個人あるいは故人の特徴を真似ることが出来るのだろうと思います。ただ、生命科学と同じで、こういったAIの模倣による芸術作品をどう考えるのか、という点に関しては、少なくとも私が見る限り、現時点では社会的なコンセンサスは出来ていないような気がします。こういったSF小説などを通じて、肯定的・否定的ないろんな認識が醸成されるのもいいことか、と私自身考えています。

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2023年1月 6日 (金)

米国雇用統計は堅調だが賃金と物価の上昇は一段落か?

日本時間の今夜、米国労働省から昨年2022年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業部門雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の12月統計では+223千人増となり、失業率は前月からさらに低下し3.5%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を6パラ引用すると以下の通りです。

Live updates: Jobs report is out today. Economy added 223,000 jobs in December.
Hiring slowed modestly in December as employers added 223,000 jobs to close out an otherwise booming year, possibly foreshadowing the deeper pullback and recession that many economists expect in 2023.
The unemployment rate fell from 3.7% to 3.5%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 200,000 jobs were added last month.
For all of 2022, the U.S. added 4.5 million jobs, second most behind the 6.7 million gained the previous year, as the nation continued to heal from record job losses in the early days of the COVID-19 pandemic.
What the Fed really wants:Putting the brakes on runaway wage growth could help avoid a recession in 2023, but it won't be easy.
Job gains for October and November were revised down by a total 28,000. October's was revised from 284,000 to 263,0000 and November's, from 263,000 to 256,000, painting a slightly weaker portrait of job growth in the fall.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がった2020年4月からの雇用統計は、やたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率もさらに低下して3%台半ばのここ50年来の水準を続けているわけですので、労働市場の過熱感は継続していると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。ただし、引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はやや上振れた印象です。加えて、失業率も金融政策が決定される米国連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーが長期的な均衡水準と考える+4%を下回った状態が続いています。

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続いて、上のグラフは、米国における時間あたり賃金上昇率と消費者物価上昇率の推移です。連邦準備制度理事会(FED)による強力な金融引き締めに従って、賃金上昇率も、消費者物価上昇率も、ともにピークを超えた印象ですが、消費者物価指数の伸びで計測したインフレ率は、FEDが目標とする+2%をと比較して高い水準にあり、金融引締めが終了する段階に達したとは見受けられません。私がいつも大学の授業で強調しているように、市場経済では価格をシグナルとする資源配分が効率的であるわけですから、インフレで価格シグナルに撹乱が生じるのは効率性を大きく阻害します。ですから、インフレを抑制すべく、極端にいえば、景気を犠牲にして景気後退を招くことをいとわず物価の安定を目指すべき、という経済政策運営上のコンセンサスがあります。ですから、私は、コトここに至っては、米国や英国をはじめとする他の先進諸国のうち、インフレ抑制=物価安定のために景気後退を覚悟の上で金融引締めを継続する国は決して少なくないと考えています。

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2023年1月 5日 (木)

ようやく体重が少し低下する

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上の画像は毎日つけている体重、というか、BMIの推移です。年末の連夜の忘年会から、正月2日の高校の同窓会まで、急激に体重の増加を見せています。何と、私にしては久しぶりにBMIが一瞬22を上回りましたが、ようやく、昨日になってホンの少しだけBMI22を下回る水準まで回帰しました。グラフを見ていると、昨年は6月下旬と8月くらいに体重が落ちた時期がありました。今年は65歳になります。お仕事次第で、年金生活に入ってもいいような気がしますが、果たして今年の体重と体調やいかに?

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2023年1月 4日 (水)

お正月はいつまでか?

今日は、役所に勤務していたころならご用始めですから、仕事始めのサラリーマンも少なくないと思います。その昔であれば、晴れ着姿の女性もいたりして、仕事はせずに酒を飲んで、昼過ぎにはあいさつ回りと称して帰宅、なんてこともなくはありませんでした。現在ではご用始めからビッシリ仕事、というのがフツーだと思います。
私の場合、大学に再就職してから当然に冬休みはもう少し長く、まだ授業は始まっていません。特に、大学の場合は毎年1月の成人の日はその年ごろの学生もいますので重要な節目であり、他の授業を行う祝日と違って授業はしません。年末年始から郷里に帰省して成人の日の式典に出席してから大学近くの下宿に戻る、という学生もいると思います。

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ということで、上の画像は、お正月はいつまでか、に関するウェザーニュースのサイトから引用しています。私もサラリーマンだった50代までは「3日頃まで」と回答したかもしれませんが、60代になった今となっては「7日頃まで」と考えるようになりつつあります。

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2023年1月 3日 (火)

昨年9月に書いた紀要論文が公刊される

昨年9月に書いた紀要論文 "Identifying Trough of Recent COVID-19 Recession in Japan: An Application of Dynamic Factor Model" が昨年末に公刊され、今日、紀要のサイトを見てみるとちゃんとアップロードされていました。一応、昨年末の段階で抜刷は50部受け取っていたのですが、pdfに変換されてアップロードされているのを確認しました。めでたいことです。

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Yoshioka, Shinji (2022) "Identifying Trough of Recent COVID-19 Recession in Japan: An Application of Dynamic Factor Model," Ritsumeikan Evonomic Review 71(2-3), Sep. 2022, pp.107-25

論文の引用情報は上の通りです。

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2023年1月 2日 (月)

高校の同窓会に出席する

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高校の同窓会に出席するために大阪に行ってきました。高校とはいっても、中学・高校と6年間いっしょで、冬至は男ばっかり2クラス100人足らずの小規模な学校でしたので、ほぼほぼ顔を名前は一致します。でも卒業から50年近くを経て、私は60歳の定年まで東京勤務でしたので、何と、初めての同窓会でした。
何といっても、全国でも屈指の進学校、というか、両手両足を使えば、という前提での屈指の進学校ですので、多士済々の卒業生ばかりです。100人足らずの卒業生のうちでちょうど20人の出席でしたが、医者も弁護士も大学教授も複数いますし、大学教授の中の1人は東京6大学の中の名門校の学長だか、総長だかだったりします。私以外にもキャリアの国家公務員がいて、課長クラスで定年になった私と違って、事務次官まで勤め上げた同窓生もいます。でも、多数派は一部上場大企業に就職して、60歳前後で一線を退いて関連会社の社長をしている同窓生が多かったような気がします。私は社長とか、会長とかの役職に縁遠い組織の勤務でしたので、「社長さん」と聞けばエラいと思ってしまいます。もちろん、もう64歳ですので、年金生活に入っている同窓生もいました。
上の写真は公開していいものかどうか、あるいは、著作権なんかの疑問は残るものの、Facebookの我が同窓会のサイトにあったものです。もしも、クレームがあったら、その時点で対処方法を考えます。実は、そのFacebookのページで、欠席者から質問が出ていて、部活の仲間だった同窓生から私のことを指して「アレは誰だ」という質問でした。まあ、高校生のころの長髪と違うので判らなかった、ということのようです。

2年に1度の同窓会です。さ来年も機会があれば出席したいと思います。

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2023年1月 1日 (日)

アニメ『SPY×FAMILY』を見つつコミックスも読む

改めまして、
あけましておめでとうございます

本日、元旦の正午からBSテレ東でイッキ見放送「SPY×FAMILY」と称して、アニメ第1話から延々と放送しています。それを見ながら、コミックス「SPY×FAMILY」第10巻までを読み終えたところです。アニメはほぼ原作に忠実だと感じています。

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明日は高校の同窓会があって大阪に行く予定です。

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あけましておめでとうございます

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あけましておめでとうございます

今年1年がみなさまによい年であることを願っております。
うさぎポケモンはプラスルとマイナンしか思いつきませんでした。
NHK「紅白歌合戦」は白組優勝でしたが、私だけは、石川さゆりの「天城越え」が相変わらずよかったです。イチローがバッターボックスに立つんではないか、と思ってしまいました。

それでは、おやすみなさい。

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