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2023年1月28日 (土)

今週の読書は経済書なしで計3冊にとどまる

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、高野秀行『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)は、早大探検部出身のノンフィクションライターの語学学習に関するエピソードです。続いて新書が2冊で、猿島弘士『総合商社とはなにか』(平凡社新書)は、総合商社のマルチな活動に焦点を当てており、小鍜冶孝志『ルポ脱法マルチ』(ちくま新書)は、毎日新聞のジャーナリストがマルチ商法をルポしています。
ということで、今年の新刊書読書は1月中に計20冊になりました。なお、新刊書ならざる読書については、ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)、絲山秋子『逃亡くそたわけ』(講談社文庫)、さらに、萩尾望都『百億の昼と千億の夜』(小学館プチコミックス)も読みました。最後の萩尾望都の漫画はすでに昨日にこのブログで取り上げていますが、それ以外も順次 Facebook などでシェアしたいと予定しています。

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まず、高野秀行『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)です。著者は、早大探検部語出身の辺境ノンフィクション作家です。表紙画像の帯にあるように、学んだ言語は25以上だそうです。フランス語やスペイン語、ポルトガル語などの西欧言語、あるいは、中国語やタイ語、ビルマ語などのアジア言語のほか、本書の冒頭第2章ではアフリカ言語もリンガラ語の他、いくつか学習しています。もちろん、外国語学習の絶対的なモチベーションは現地に赴いて何らかの活動を行うことですから、本書の眼目としては、タイトル通りの語学学習、そして、辺境を含めた現地事情、の2点となります。後者の現地事情については、著者の他の著作でも広範に紹介されているようですのでサラリと流して、主として語学学習を取り上げたいと思います。というのも、私も在チリ大使館で3年間の勤務経験があり、スペイン語の理解は一応あります。今は今で、大学では英語の授業をいくつか受け持っています。本書の著者は語学学習の要諦として、ネイティブについて学ぶ、とか、ボキャブラリーを重視し、文法は会話するうちに自分で見つける、とかあるのですが、私もかなりの部分は同意します。私の知る限りでも、インドネシアのマレー語もそうで、アフリカの言語などでも動詞の活用がほとんどない言語があります。あるいは、主語と動詞と目的語の語順をそれほど神経質に考えなくてもいい言語もあります。ドイツ語のように助動詞が入れば動詞が語尾に来るとか、フランス語やスペイン語のように目的語が代名詞であれば動詞の前に来るとか、などなどです。ですから、私としてはボキャブラリーが重要と考えています。また、語学に限定せずに、いろんな勉強に当てはまるという示唆もいくつか本書には含まれています。例えば、第4章にあるのですが、近い場所、安い授業料、融通の利く時間帯、というのはよくない場合があり、高いお金を払って、遠い場所までわざわざ行って、固定された時間に最優先で授業を受ける勉強こそが身につく、というのは真実の一部を含んでいると思います。25年ほども前の大昔ながら、私は公務員試験委員として人事院に併任されて試験問題の作成を経験したことがあるので、今でも学生諸君から公務員試験のアドバイスを求められたりするのですが、公務員試験対策の講座は取った方がいいと思っています。たぶん、30万円以上かかると思います。でも、それくらいの金銭的時間的な負担をしてモチベーション低下を防止した方がいい場合も少なくありません。最後に、私も本書にあるような挨拶や感謝や謝罪のない言語というものは想像できませんでした。英語とスペイン語はもちろん、マレー語にも時間帯ごとの挨拶の言葉がありますし、感謝や謝罪の表現は何通りかあります。意思疎通というよりは、社会生活を送る上で困らないのか、と考えてしまいました。

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次に、猿島弘士『総合商社とはなにか』(平凡社新書)です。著者は、サービス・マーケティング研究家ということになっています。総合商社勤務の後、コンサルタントとして活動し、その後、大学教授もしているとされています。基本的には、総合商社の提灯持ちの本なのですが、実体の判りにくい業態だけにこういった解説書は有益です。副題にあるように、総合商社を「最強のビジネス創造企業」と位置づけています。まず、本書にもある通り、総合商社ではない専門商社という卸売業の企業も日本にはいっぱいあります。典型的に、私が知る範囲では鉄鋼商社や食品商社などです。しかし、本書でも指摘しているように、総合商社では単なる売買の商行為だけではなく、金融や投資も含めた幅広い活動をしています。私はこういった幅広い活動については、まさに、「マルチ」という用語を当てるのが適当だと考えます。マルチな活動をするだけに、本書では言及していませんが、英語で総合商社に相当する定訳がありません。というか、正しくは sogoshosha であって、サムライ、フジヤマ、ゲイシャなどと同じで日本語がそのまま英語になっています。それほど独特なマルチの活動を展開しているといえます。本書では、そのマルチな活動として、主として8つの活動をp.178以降で取り上げています。本書では、冒頭で社史をひも解いていて、まあ、それはそれでいいのですが、このあたりのマルチな活動はもっと早い段階で紹介しておくのも一案かと思います。そして、総合商社の活動の基本になっているのは、やはり、マルチな活動であるがゆえに業としての規制がほぼほぼないという点も忘れるべきではありません。私の学生時代には、大規模な製造業、日立とか、トヨタとか、当時の新日鉄とかに加えて、今でいうところのメガバンク、当時の表現でいえば都市銀行、総合商社などが人気の就職先でした。私のゼミの先輩で本書でも紹介している堅実経営の総合商社に就職したものの、ヘッジのための為替取引を担当し2-3年おきに胃潰瘍を患って入院をしていた人もいたりします。それなりに体力的には過酷な業務ながら、やりがいもあると聞き及んだことがあります。私のゼミの学生で総合商社に就職する学生が出るよう願っていたりします。

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最後に、小鍜冶孝志『ルポ脱法マルチ』(ちくま新書)です。著者は、毎日新聞のジャーナリストです。本書では、タイトル通りに、街中で「いい居酒屋知らない?」と声をかけて、マルチ商法のマインドコントロールに追い込んで、人間関係からカネを搾り取る脱法マルチについてルポしています。こういったマルチ商法は、基本的に、カルト宗教と同じで、人間関係からマインドコントロールに入って、基本的には、経済的に金銭を搾り取る、という形になります。マインドコントロールという点では宗教カルトと同じです。そして、カネを目的としている点も同じです。マルチ商法とは、経済学的にはすでに解明されていて、いわゆるポンジスキームという名称まで与えられています。ポンジースキームとは、マルチ商法の逆回りでいえば、借金で借金を返すという雪だるま式に借金が増えるだけで、サステイナブルであるハズもなく破綻に向かうだけです。合理性はまったくありません。このスキームは、それらしく、本書p.189に図解されていますが、ネズミ講=無限連鎖講と同じで、いつかは破綻します。なお、宗教については、合理性ないのは明らかなで「信ずる者は救われる」ので世界すが、マルチ商法のように一見経済行為と見える活動に対して合理性が働かないのは私はかねてからとても不思議に関していたのですが、マインドコントロールで宗教的に、というか、心理学的にコントロールされているのだとは知りませんでした。結局のところ、近づかないのが一番、という気がします。というのは、私が父親からいわれたのとほぼ同じ注意を倅どもが高校を卒業して大学に入る時にした記憶があり、第1に宗教は絶対にダメ、第2にマルチ商法は逃げられるのなら見極めて逃げるべし、第3に学生運動はホントに正しいと心から信じるのであればOK、というものです。しかし、マルチも宗教と同じでマインドコントロールされるのであれば逃げられない確率が高く、最初から手を出すべきではない、ということになりそうです。最後に、私は実は国民生活センターに勤務した経験があり、マルチ商法にはそれなりに知見があります。その目で見れば、やや取材が甘くて踏込み不足な点も見受けられます。でも、まったくマルチ商法について情報ない向きには、それなりに参考になると思います。

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