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2023年2月28日 (火)

大きな減産となった鉱工業生産指数(IIP)とインバウンドで堅調な伸び続く商業販売統計をどう見るか?

本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲4.6%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.3%増の13兆150億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.9%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産4.6%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は91.4となり、前月から4.6%下がった。低下は3カ月ぶり。中国・上海市がロックダウン(都市封鎖)されていた22年5月(88.0)以来の低水準となった。半導体不足で自動車工業が落ち込み、半導体産業の設備投資の先送りで生産用機械工業も振るわなかった。
新型コロナウイルス流行前の19年平均(101.1)を下回る水準となった。生産の基調判断は「弱含み」を維持した。
生産は全15業種のうち、12業種で低下した。普通乗用車や駆動伝導部品といった自動車工業は前月比で10.1%のマイナスだった。半導体不足を受け、米国や中国向けの輸出が減少した。大雪の影響で工場生産も滞っていた。
半導体製造装置などの生産用機械工業は13.5%のマイナスだった。国内外で設備投資を延期する動きがあったという。スマートフォンの需要低迷を背景に、メモリ半導体といった電子部品・デバイス工業も4.2%のマイナスとなった。
残る3業種は上昇した。汎用・業務用機械工業はコンベヤーで国内大型案件が成立し、5.1%のプラスだった。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は3.9%上昇した。新製品発売を受け、頭髪用化粧品などが伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は2月に前月比8.0%の上昇を見込む。企業の予測は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のプラスとした。部材供給不足の緩和で、生産用機械工業や輸送機械工業が伸びるとみる。3月の予測指数は0.7%上昇となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「コロナ感染の拡大状況や物価上昇の影響に加え、企業が先送りした投資計画が2~3月に実施されるか注目する必要がある」と話した。
小売販売額6.3%増 1月、11カ月連続でプラス
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比6.3%増の13兆150億円だった。11カ月連続で前年同月を上回った。インバウンド(訪日外国人)の復調や飲食料品の価格上昇などが寄与した。
業態別でみると、百貨店は前年同月比14.4%増の4764億円と大きく伸びた。スーパーは3.1%増の1兆2989億円、コンビニエンスストアは4.1%増の9924億円、ドラッグストアは4.9%増の6479億円だった。
一方、家電大型専門店は1.2%減の4184億円、ホームセンターは1.7%減の2462億円とマイナスだった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は108.7で、前月から1.9%上昇した。経産省は基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向にある」に引き上げた。

とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲2.7%、下限で▲4.2%の減産でしたので、実績の▲4.6%減は加減を下回って、少しサプライズだったかもしれません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは、昨年後半からの精算動向について、7-8月は「部材供給不足の影響が緩和」して増産、9-10月は増産の「反動」により減産、11-12月は「化学工業(除.無機・有機化学工業)や食料品・たばこ工業などが堅調」であり増産、と要因を解説しています。1月には、「自動車工業や生産用機械工業を始めとして多くの業種」で減産となっています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の2月は+8.0%、3月も+0.7%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、2月の予想は前月比+1.3%となります。産業別に1月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは自動車工業の前月比▲10.1%減、寄与度▲1.45%、生産用機械工業の前月比▲13.5%減、寄与度▲1.23%減、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.2%減、寄与度▲0.25%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は汎用・業務用機械工業の前月比+5.1%増、寄与度+0.37%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+3.9%増、寄与度+0.17%、石油・石炭製品工業の前月比+6.6%増、寄与度+0.06%、などとなります。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では、インバウンドも含めて追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、1月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.6%の上昇となり、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向」に引き上げています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年1月統計では前年同月比で+4%超のインフレ率となっており、小売業販売額の1月統計の+6.3%の増加はこれを超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられてい可能性があります。ですから、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。他方で、最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、1月統計の前年同月比では+0.7%の増加にまで縮小しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強いと私は考えています。

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2023年2月27日 (月)

今日はポケモンデー2023、もう27周年なんですね

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今日はポケモンデー2023です。もう27周年です。
我が家の子供たちはポケモンとハリー・ポッターで大きくなったZ世代といえます。

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リクルートによる1月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

今週金曜日3月3日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、昨年2022年11月+2.3%増、12月+3.3%増の後、今年2023年1月も+2.9%増と順調に伸びています。ただし、足元でやや伸びが鈍化している上に、+4%を超える消費者物価指数(CPI)の上昇率には追いついておらず、実質賃金はマイナスと想像されますので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は昨年2022年11月+1.8%増、12月+2.0%増の後、今年2023年1月も+2.2%増と、伸びを加速させていますが、こちらも消費者物価指数(CPI)の上昇率を下回っています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より2.9%、+32円増加の1,142円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+37円、+3.3%)、「専門職系」(37円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+27円、+2.5%)で上昇を示した一方で、「事務系」(▲13円、▲1.1%)、「営業系」(▲73円、▲5.7%)、では減少しています。「フード系」では過去最高額になっています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+2.2%、+35円増加の1,602円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+87円、+4.8%)、「製造・物流・清掃系」(+53円、+4.0%)、「IT・技術系」(+78円、+3.7%)、「営業・販売・サービス系」(+37円、+2.6%)、「オフィスワーク系」(+4円、+0.3%)、「医療介護・教育系」(+4円、+0.3%)、とすべてプラスとなっています。「営業・販売・サービス系」、「製造・物流・清掃系」、「クリエイティブ系」、「IT・技術系」の4職種では過去最高を記録しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調といえますが、物価上昇を下回っていて実質賃金は減少していると考えるべきです。加えて、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの金融引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。

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2023年2月26日 (日)

今年初めての野球観戦は打撃戦で日本ハムに競り負ける

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阪  神310010010 6121
日本ハム11100131x 8111

今年初めての野球観戦でした。
まだ2月ですから、勝敗はこだわるべきではありませんし、選手の調子は仕上がり次第ですから、それほど神経質になる必要もないと思います。ゆったりとした野球観戦です。目についた選手は、日本ハムにトレードで出した江越選手です。守備では、阪神ドラ1ルーキーの森下選手の左中間の当たりをスライディング・キャッチしてシングルで止めたり、打つ方でも、レフト線の当たりで送球ミスもあったとはいえ一気にホームを駆け抜けたりと、本来の能力が発揮されている気がしました。ソフトバンクにトレードされた中谷選手が引退というニュースを聞きましたが、江越選手とともに阪神で育て切れなかった恨みが募ります。米国大リーグに渡った藤浪投手も頑張って欲しいと思います。

今年こそリーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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2023年2月25日 (土)

今週の読書は不平等に関する教科書をはじめとしてミステリ小説まで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、平沢和司『格差の社会学入門[第2版]』(北海道大学出版会)では、社会学ないし経済学の教科書として執筆されていて、格差や不平等について、特に、現在の日本で機会の平等はホントに確保されているのか、について議論しています。続いて、鮫島浩『朝日新聞政治部』(講談社)では、東日本大震災の際の福島第1原発の運営にかんする「吉田調書」の「誤報」事件の際にデスクだったジャーナリストが、ご自分の半生を振り返るとともに、メディアと権力の関係などについて論じています。続いて、トニ・マウント『中世イングランドの日常生活』(原書房)では、中世イングランドにタイムトラベルするとすれば、どのように生き残るか、について解説しています。続いて、今村夏子『とんこつQ&A』(講談社)は、芥川賞を受賞した小説家が、持ち前のやや不気味な雰囲気ある短編小説4話を収録しています。続いて、五十嵐彰・迫田さやか『不倫』(中公新書)では、社会学者と経済学者が不倫という婚外性交症について定量的な分析を加えています。最後に、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)は、英国を舞台に女子高校生が行方不明になった友人の兄を探すというミステリです。シリーズの第2作です。
ということで、今年の新刊書読書は、先月1月中に20冊、そして、2月に入って先週まで14冊、今週の6冊を含めて計40冊となっています。これらの新刊書読書のほかにも何冊か読んでいますので、順次、Facebookやmixiでシェアしたいと思います。

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まず、平沢和司『格差の社会学入門[第2版]』(北海道大学出版会)です。著者は、北海道大学の研究者であり、専門分野は社会学です。第2版であり、しかも、2021年年末の出版で1年余りを経過していますが、私の興味分野のひとつである格差や不平等に関する学術書ですので、まあ、いいとしておきます。繰り返しになりますが、出版社から軽く想像されるように、学術書です。しかし、本書冒頭にあるように、教科書としての役割を期待されているように、学生諸君にも理解しやすいような工夫がなされており、定量分析のいくつかのテクニカル・タームを別にすれば、一般ビジネスパーソンにも判りやすい内容となっている気がします。やや先進的な部分は「発展」として別枠で記述されていますし、「コラム」も適切に配置されています。ということで、本書の結論として、おそらくは社会学の観点から、平等と不平等を論じる際にもっとも重要な観点である「機会の平等」が現代日本では必ずしも確保されていない、という点が重要であると私は考えます。経済学的には、ついつい、平等と不平等を結果としての所得を代理変数として考えますが、社会学ですので排除や包摂とも考え合わせて、まあ、複雑ながら経済学よりも深みのある議論が展開されています。そして、平等と不平等を考える際に、原因から結果に向かう中間経路として、本書では教育ないし学歴を大きなポイントに据えています。要するに、制度上はあくまで義務教育ではないにも関わらず、ほぼほぼ事実上の全入制となった高校進学を前提として、ホントに機会の平等が保証されているのであれば、誰でもが大学に進学する機会を平等に有しているかどうか、について定量分析も含めて考察を加えています。そして、その結論は否定的といわざるを得ません。すなわち、日本では大学進学における機会の平等は確保されていない、ということになります。その詳細な議論は本書を読むしかないのですが、私は少なくとも機会の平等を考える上で、あるいは、貧困からの脱出を考える上で、大学進学は重要なポイントになると考えています。その点は本書の著者と基本的によく似た見方をしています。米国の「大統領経済報告」ではじめて示されたグレート・ギャッツビー曲線を援用したりして、定量的なパネル分析からも大学進学が「親ガチャ」からは独立ではありえない、という分析結果です。本書は社会学的な分析ですが、経済学的に私が授業で教えているポイントは、その昔の高度成長期に広く観察された雇用慣行である年功賃金制にあります。チョット見では、いかにも子供達が大きくなって大学進学などで教育費がかかる時期にお給料が上がるのは好ましく思えますが、実はそうではありません。というのは、親が大学授業料を負担できる給与体系である年功賃金をもらっているがために、いわば、行政がサボって大学の学費を低く抑える必要がなかったわけです。すべてではありませんが、米国などの一部を除いて欧州諸国、特に北欧諸国では大学の学費を極めて低く、しばしば無料にしている点は広く知られているとおりです。

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次に、鮫島浩『朝日新聞政治部』』(講談社)です。作者は、長らく朝日新聞で記者をし、政治部を主にキャリアを積んだジャーナリストです。東日本大震災の折の福島第1原発の吉田調書に関する報道で処分を受けて、現在ではネットメディアを主催しているようです。本書では、基本的に著者自身の経験とある程度の憶測を交えながら、著者の半生の自伝を語りつつ、同時に、メディア論についても展開しています。すなわち、権力とメディアの距離感、そして、メディアの企業としてのあり方、などです。まず、よく知られたように、著者は朝日新聞特別報道部のデスクとして「吉田調書」を入手した部下とともに読み解き、吉田所長の待機命令に反して福島第1から第2に退避した職員がいたことを明らかにするスクープをモノにします。「新聞協会賞」に相当する快挙として社内ではもちろん、広く称賛されますが、実は、吉田所長の待機命令に反してではなく、その命令を知らずに避難した職員がいたのではないか、また、実際に退避した職員への取材がなされておらず、裏付けが取れていない、などといった疑問が持ち上がって、逆に「捏造」としてバッシングを受けます。社長が辞任し、現場の記者やデスクだった著者も処分を受けます。そして、同時に慰安婦問題に関する「吉田証言」も虚偽であったことなどをはじめとして、著者はここで朝日新聞は死んだと表現します。すなわち、権力の対するチェック機能とか、「社会の木鐸」と呼ばれる存在でなくなった、という意味なのだろうと私は考えています。そして、大手全国紙が横並びで東京オリンピックのスポンサーとなり、オリンピック開催反対の意見はしぼんでゆきます。現在では、大手メディアは権力と癒着し提灯持ちの記事が多くなっていることも事実です。本書に関して、私から2点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、問題の「吉田調書」の読み方ですが、「待機命令に反して退避」というのは、「命令違反」というコンポーネントと「退避」というコンポーネントの2つの要素があり、私は報じられた当時から前者の「命令違反」がどこまで重要かを疑問視していました。むしろ、重点は「退避」の方にあるのではないか、という気がしていたからです。すなわち、現場を放棄して退避することが問題なのであって、命令違反というのはその退避という行動の悪質さをより重くするものであることは確かです。しかし、現場を放棄しての退避が重要と私が考えるにもかかわらず、本書でも「命令違反」の方に重点が置かれています。不思議です。この重心おき方を誤らなければ、この問題はここまでこじれることはなかったような気がします。本書で指摘する朝日新聞社内の危機管理体制以前の報道の問題です。第2に、本書の著者もそうですが、メディアと権力との距離感に関しては、記者クラブ制というシステムを考慮する必要があります。記者クラブという極めて特殊で排他的なシステムを、おそらく、全国紙やテレビのキー局の記者は当然のように考えているのでしょうが、地方紙や海外メディアからすれば、とてつもない特権としか見えません。こういった特権を与えたれているわけですから、全国紙やテレビなどのキー局が権力に近いという印象を持たれるのは当然です。私は、役所が主催する閣僚の出席する会議の写真を撮ろうとして、写真を撮れるのは記者クラブ所属のカメラマンだけ、といわれて諦めざるを得なかったことがあります。会議の事務方の公務員ですら写真が撮れなかったわけです。こういったべらぼうな特権を与えられている記者クラブ制がある限り、メディアの権力依存は続く、あるいは、少なくとも眉に唾つけて見る国民がいるような気がします。

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次に、トニ・マウント『中世イングランドの日常生活』(原書房)です。著者は、歴史家、作家となっています。英語の原題は How to Survive in Medieval England であり、2021年の出版です。原題からほのかに理解できるように、21世紀の現代人が中世、本書では1154-1485年のプランタジネット王朝のころのイングランドにタイムトラベルしたとすれば、どのように生き残るか、という観点で記述されています。単純な修正の歴史書ではありません。まず、中世ですから、私が時折主張するように、英国=イギリスあるいは連合王国とイングランドが区別すべきです。本書でも、イングランドはスコットランドと戦争したりしています。おそらむ、本書の対象とする中世初期にはイングランドとウェールズでは言語がビミョーに違っていたのではないかと私は想像しています。そういった意味からも現代的にイングランドを英国やイギリスと同一視するべきではありません。ただ、細かい点ながら、タイトルに "survive" を用いているにも関わらず、以下に生計を維持するか、稼ぎを得るか、という観点は本書では極めて希薄であり、もっと原始的、というか、まるで無人島で生き残るかのような観点が支配的である点は申し述べておきたいと思います。まず、今もってそうなのですが、欧州諸国、というか、日本以外の多くの国は階級社会であって、所属する階級によっていかに生活するかは大きく異なります。最初の第2章の社会構造や住宅事情などは本書でもその観点がありますが、食べ物や医療事情になると、かなりの程度に忘れられている気がします。おそらく、電話や鉄道などはいかんともしがたいと思いますが、居宅近くでの日常生活では上流階級の人々は現在とそう遜色ない生活を送っていたのではないか、と私は想像します。だた、第2章の社会構造に次に第3章に信仰や宗教に関する歴史を持ってきているのは秀逸です。私はイングランドに限らず、おそらく、日本でも前近代においては宗教の果たしていた役割がかなり大きいと考えています。本書の対象とする期間のイングランドの宗教は、いうまでもなく、キリスト教の中でもカトリックなのですが、普段の日常生活を律するのは死後の天国と地獄ではなかったか、と私は想像しています。日本の中世のひとつの時代区分である鎌倉時代に仏教の新宗教が浄土宗や日蓮宗のように日本地場で起こるとともに、禅宗の臨済宗や曹洞宗が中国から持ち込まれたように、中世の12世紀から15世紀くらいまでは宗教の役割は大きかったですし、変化もありました。私の勝手な想像では、ゲーテが「もっと光を」といって死んだように、光が不足する、というか、夜が暗かったのが地獄をはじめとする異世界を想像たくましくさせたような気がします。今でも都会に比べて夜が暗い、というか、早くに暗くなる地方部では必ずしも宗教に限らず信心深い気がします。

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次に、今村夏子『とんこつQ&A』(講談社)です。著者は、芥川賞を受賞した純文学の作家です。この作品は短編集であり、4話を収録しています。まず、表題作の「とんこつQ&A」では、大将と坊っちゃんで切り盛りする中華料理店「とんこつ」で30代半ばの独身女性である主人公が働き始めます。しかし、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」すらいえなかったため、しゃべるのではなくメモを読み上げることで克服します。それから、挨拶をはじめとする店内で発するあらゆる会話、例えば、店の名前の由来、おすすめメニューなどをメモに記入し、「とんこつQ&A」を作り上げます。おしゃべりではなく、メモを読むことで対応するわけです。そこにもうひとり、主人公よりももっと鈍なアルバイトの丘崎さんが働き始めることになり、いろいろとお話が展開します。最後の結末は、思いもしなかったものでびっくりです。続いて、「嘘の道」では、小学校でのイジメられっ子の与田正のクラスメートの少女を主人公に、いじめられていた与田正が「イジメはよくない」という教師の指導などもあって、逆に、チヤホヤされるようになります。でも、おばあさんが教えられた近道でケガを負うという事件があり、濡れ衣を着せられた与田正が再びイジメにあいます。でも、おばあさんにその近道を教えたのが誰であるか、という真相は別のところにあるわけです。「良夫婦」では、小学生のタムに親切にする若妻を主人公に、タムがその主人公の家の庭にあるサクランボを取りに来て期から落ちて大怪我する時間があった際、すべてを処理する夫の事件処理のやり方を描き出しています。それは、夫婦が結婚前にそろって勤務していた介護サービス事業所での妻が起こした不都合な出来事の処理方法と同じでした。最後に、「冷たい大根の煮物」では、高校を卒業してひとり暮らしの工場勤務を始めた女性を主人公に、同じ工場の同僚で中年女性の柴山さんとの人間関係を描き出しています。柴山さんには寸借詐欺のウワサあるにも関わらず、主人公にはそれなりに親切で料理してくれたり、レシピを教えてくれたりします。でも、結局、柴山さんは工場を辞めることになります。あらすじは以上の通りですが、読者としては、主人公とそれ以外の登場人物の間のズレをどう考えるか、という点がポイントになります。ある意味で、ものすごく深い読み方をしなければ、この作者の作品をホントに味わうことが出来ないと私は考えており、その意味で、この短編集はこの作者の典型的な作品ともいえます。特に、4話の短編の中でも短めな「嘘の道」と「良夫婦」はホラーとすらいえる内容ですが、スラッと読めばホラーでも何でもなく読めてしまう可能性もあります。最後に、私もこの作者の作品をすべて読んだわけではありませんが、この作品の理解を進めるためには、『あひる』を読んでおくと参考になりそうな気がします。

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次に、五十嵐彰・迫田さやか『不倫』(中公新書)です。著者は、社会学の研究者と経済学の研究者であり、おそらく、ともに計量分野のご経験が豊富と思います。本書ではタイトル通りに、不倫、本書では婚外性交渉と定義されている行為について定量的な分析を試みています。ただし、婚外性交渉とはいっても風俗店での行為や風俗店できっかけの出来たものは除外されています。定量的な分析ですから、その基礎となる情報を得るために、NTTコムオンラインでアンケート調査を実施しています。ただし、選挙におけるブラッドリー効果のように、アンケート調査で真の結果を得られていない可能性もありますから、そのあたりはリスト実験などの工夫がなされています。ということで、構成として、第1章で不倫とは何かを考え、第2章でどれくらいの人が不倫しているのかの把握に努め、p.31表2-1のような結果を得ています。すなわち、既婚男性の半分近く、既婚女性の15%ほどが、結婚後に現在進行形も含めて何処かの段階で不倫の経験あり、という結論です。第3章で、不倫しやすい属性を検討し、第4章で誰と不倫するのかを解明しています。軽く想像される通り、男性の場合は職場で不倫相手が見つかりやすい、ということがいえます。第5章で不倫の終わり方、あるいは、なぜ終わらないのか、を検討し、不倫行為に関する定量的な分析はここまでなのですが、最後の第6章で社会的に不倫を非難する人たちについても考察を進めています。本書でも言及されているように、シカゴ大学のノーベル経済賞を受賞したベッカー教授などの「経済学帝国主義者」が結婚の経済学を分析したことは有名ですが、本書は経済学的なアプローチもなくはないですが、基本的に、社会学的なアプローチを取っていると私はみなしています。日本においては、ほぼほぼ先行研究のない分野ですし、本書も新書とはいえ、定量分析の手法の選択や参考文献の渉猟など、学術書とみなしていいと私は考えます。いくつかの章の終わりに置かれている補論は学術書っぽくなないですが、まあ、いいとします。ですから、基本的に、本書の不倫に関する分析結果は、諸外国、特に、米国の先行研究との整合性も考えると、十分に受入れ可能なものだといえます。分析結果は本書を読んでいただくしかありませんが、十分に評価するという私の基本を踏まえた上で、たった1点だけ指摘したのは、不倫においてマッチング・サービスの果たす役割です。基本的に、マッチング・サービスは結婚を希望する人々に開かれていて、私のような高齢の既婚者には関係ないと考えていますので、私はまったく情報がありませんが、おそらく、あくまでおそらくですが、既婚者の不倫行動に対して何らかのポジティブな役割を果たしている可能性が否定できません。でも、本書では、それについてはまったく無視しているように見えます。

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最後に、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)です。著者は、英国のミステリ作家です。この作品は、英国のリトル・キルトンのグラマー・スクール最上級生のピップ(ピッパ)が探偵役を務めるシリーズの第2作であり、前作は『自由研究には向かない殺人』であり、3部作といわれています。英語の原題は Good Girl, Bad Blood であり、2020年の出版です。3部作最後の As Good As Dead もそのうちに邦訳されることと私は想像しています。ということで、この作品では、主人公のピップに友人のコナー・レノルズから兄のジェイミーが失踪したので行方を探して欲しいと依頼が入ります。ほぼほぼ1週間7日が経過してもジェイミーは見つかりません。その間に、ピップは着々とリサーチを進めるわけです。前作と違って、この作品ではPodCastが多用されます。ミステリですので、あらすじも早々に、5点ほど指摘しておきたいと思います。第1に、前作では主人公のピップはきわめて強気に捜索を進めたのですが、この作品では少なくとも前作に比べれば控えめです。最後の方に、ピップの仲間、すなわち、前作で相棒になったラヴィ・シンとこの作品の依頼者のコナー・レノルズが家宅侵入をしたりしますが、まあ、強気な捜索というよりは控えめといっていいと思います。第2に、前作でも女子高生(当時)の行方不明事件であって、殺人事件とは確定していませんでしたが、本作品でもやっぱり行方不明事件です。ただ、この作品では最後の最後に殺人事件が起こります。主人公のピップの目前での銃撃殺人ですので犯人探しは不要ですが、生々しい殺人が描かれていることは確かです。第3に、この作品では有色人種に対する差別はそれほど大きく扱われていません。記者のスタンリーは前作では差別意識が激しい人物とされていたように私は記憶していますが、別の事情もあって、この作品ではとても好意的に、しかも、主人公のピップも同情を寄せるように描かれています。やや矛盾を感じる読者は私だけではないと思います。第4に、先週レビューした『罪の壁』で少し言及しましたが、このシリーズは登場人物が多岐に渡り、隠れた顔がいっぱいあります。それを「深みがある」と称するかどうかはともかく、極めて複雑なミステリ作品に仕上がっていることは確かです。第5に、最初の作品である『自由研究には向かない殺人』に比較して、この作品はミステリとしてクオリティは大きく落ちます。3部作の最後の作品がやや心配です。最後に、おそらく、作者はまったくあずかり知らぬことなのでしょうが、日本人であれば神戸の連続児童殺傷事件、俗にいう「酒鬼薔薇事件」を強く思い起こさせる可能性があります。

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2023年2月24日 (金)

+4%台の上昇続く消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+4.0%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、41年ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.0%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、1月4.2%上昇 41年4カ月ぶり伸び
総務省が24日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.3となり、前年同月比で4.2%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年9月(4.2%)以来、41年4カ月ぶりの上昇率だった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりしている。
上昇は17カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(4.3%)は下回った。消費税の導入時や税率の引き上げ時も上回り、日銀の物価上昇率目標2%の2倍以上となっている。
調査品目の522品目のうち、前年同月より上がったのは414、変化なしは44、下がったのは64だった。
生鮮食品を含む総合指数は4.3%上がった。81年12月(4.3%)以来、41年1カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.2%上昇し、消費税導入の影響を除くと82年4月(3.2%)以来40年9カ月ぶりの伸び率となった。
品目別に上昇率をみると、生鮮を除く食料が7.4%上昇し全体を押し上げた。食料全体は7.3%だった。食品メーカーが相次いで値上げに踏み切っており、食用油が31.7%、牛乳が10.0%、弁当や冷凍食品といった調理食品は7.7%伸びた。
エネルギー関連は14.6%上がった。都市ガスは35.2%、電気代は20.2%の上昇だった。
宿泊料は2022年12月のマイナス18.8%からマイナス3.0%となり、指数全体を押し下げる効果は小さくなった。政府が観光支援策「全国旅行支援」の割引率を縮小した影響が表れた。

なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやや長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.3%の予想でしたので、実績の4.2%の上昇率はほぼほぼ予想通りと考えられます。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルが主因となっている物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、1月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+14.6%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.17%あります。このエネルギーの寄与度+1.17%のうち、電気代が+0.75%と大きな部分を占め、次いで、都市ガス代の+0.35%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、昨年2022年10月統計+5.9%、11月統計+6.8%、12月統計+7.4%に続いて、今年2023年1月統計でも+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.66%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。1月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.9%の上昇率で+0.27%の寄与、+9.9%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.7%で+0.27%の寄与、+10.0%の上昇を示した豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+7.6%で+0.19%の寄与、+11.5%の上昇をを示した食パンをはじめとする穀類が+8.1%の上昇率で+0.17%の寄与度、+16.1%の上昇を示したポテトチップスをはじめとする菓子類が+7.0%の上昇で+0.17%の寄与、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は1月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.17%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.66%ですから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1.5%ほどなわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期+2.95%、4~6月期+2.51%の後、7~9月期には日銀のインフレ目標を下回って+1.82%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「23年1月のコアCPIは前年比4.2%と41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなったが、2月には電気・都市ガス代の負担緩和策が実施されることから、一気に3%程度まで伸びが低下する可能性が高い。」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じように物価上昇率は高止まりしつつも鈍化するという見方をしています。加えて、引用した記事の最後のパラにあるように、「全国旅行支援」が宿泊料に及ぼす影響も無視できず、需給や通貨供給ではない政府による物価の撹乱が大きいといえます。

最後に、現在の物価上昇がなぜ家計へのダメージ大きいかについてグラフを追加しておきます。以下の通りです。上のパネルは購入頻度別消費者物価上昇率、下は基礎的・選択的支出別消費者物価上昇率です。見れば明らかなように、購入頻度が高くて、基礎的な生活必需品である品目ほど物価上昇率が大きくなっています。ですから、平均的な家計では+4%を上回る物価上昇の実感を持っている可能性が高いと考えるべきです。

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2023年2月23日 (木)

京都に行ってフェアトレードのオーガニック・チョコを買う

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今日ではないのですが、今週になってから京都に出かける機会があって、第3世界ショップの系列のシサム工房というお店でウィンターチョコレートというフェアトレードのオーガニック・チョコレートを買い求めました。
とっても高かったです。100gの板チョコであればフツーは100円少々で売られていると思いますが、上の写真のチョコレートはケタは違わないものの、数倍のお値段でした。ですから、私のような公務員や教員といった薄給の勤め人には、いつもいつもというわけにはいきません。でも、時には、別の贅沢をしたつもりになって、こういったフェアトレードのオーガニック食品を買い求めるのもいいのではないか、と考えています。
ただし、何度かこのブログでも主張しましたが、人の意識だけでフェアトレードやオーガニック製品の普及が進むとはエコノミストは考えません。もっと、法律を含めた制度的あるいは組織的な裏付けが必要です。そのために、何が出来るかは、ひょっとしたら、個々人の意識の問題かもしれません。

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2023年2月22日 (水)

企業向けサービス価格指数(SPPI)はそろそろピークアウトするのか?

本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.6%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、1月1.6%上昇 23カ月連続プラス
日銀が22日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.4と、前年同月比1.6%上昇した。23カ月連続でプラスだった。観光振興策「全国旅行支援」の割引率縮小やインバウンド(訪日外国人)需要の回復を背景に、宿泊サービスが全体を押し上げた。
機械修理サービスも価格が上がった。光熱費や人件費の上昇を転嫁する動きがみられる。新聞広告も旅行関連の出稿需要の高まりで押し上げられた。
タンカーなどの国際運輸は下落した。海運市況の悪化や円高傾向が影響した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは98品目、下落したのは16品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、12月1.5%、そして、本日公表された1月統計では+1.6%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い23か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、1月でもまだ+1.5%を記録しています。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、ヘッドラインSPPI上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇が円安と相まってサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近1月統計のヘッドライン上昇率+1.6%への寄与度で見ると、引用した記事にもある通り、機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+0.71%と大きな寄与を示し、ほかに、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.32%、リース・レンタルが+0.32%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も昨年2022年12月の+2.5%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.1%、広告の+2.8%の上昇など、ヘッドライン上昇率を超える上昇幅を示している項目は、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。

最後に、本日公表された企業向けサービス価格指数(SPPI)だけでなく、幅広く物価動向について一般的に考えると、第1に、私はクルーグマン教授がニューヨーク・タイムズで述べているように、一貫して Team Transitory の一員、すなわち、高インフレは一時的とみなしています。第2に、物価上昇が中小企業の価格転嫁を認めないという大企業の過酷な取引慣行によって阻害されるのは好ましくないと考えています。例えば、朝日新聞NHKで報じられているように、中小企業庁では「価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査の結果について」と題して、中小企業10社以上から名指しされた発注元150社の実名を公表しています。こういった点を考え合わせると、あるいは、下請けに対する価格転嫁の受入れ拒否などの不当な取引慣行によって物価が上昇しないのも、日本経済の弱点のひとつかもしれません。ただし、これは企業担当者や経営者の気持ちの問題ではなく、価格転嫁のシステムに関して制度的な裏付けが必要です。

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2023年2月21日 (火)

第一生命経済研究所のリポート「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」やいかに?

昨日2月20日に第一生命経済研究所から「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」と題するリポートが明らかにされています。やや、際物っぽい気もしますが、今年の花粉飛散で苦しんでいる身としては切実なものもあります。まあ、何と申しましょうかで、それほど真面目に考えるべき分析ではありませんが、まあ、面白半分に取り上げておきます。

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まず、リポートから 1-3月期の家計消費と前年7-9月期の気温の関係 の散布図グラフを引用すると上の通りです。決定係数が極めて低いので、基本的に無相関なのですが、順相関か逆相関か、といわれれば、一応、夏季の気温とその半年後の家計消費の間には負の相関関係が観察されています。そして、この相関関係は、時間をさかのぼって因果関係となることはない、という絶対的な真理により、夏季の気温から半年後の家計消費への因果関係は考えられなくはないものの、その逆はあり得ません。家計消費が半年前の夏季の気温の原因となることは絶対にありえません。当然です。

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続いて、リポートから 1-3月期の消費支出と前年7-9月期の平均気温の相関関係 のグラフを引用すると上の通りです。保健医療に正の相関があるのは、「あるいは」という気を起こさせます。また、通常の食料や被覆及び履物と負の相関があるのは、花粉飛散による外出手控えが関係している可能性もあり得ます。

まあ、何と申しましょうかで、バックグラウンドに理論モデルがほぼほぼ存在せず、単純な回帰分析の計測で終わっているわけですので学術論文にはなり得ませんが、十分に遊び心は感じられます。

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2023年2月20日 (月)

帝国データバンク「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」結果やいかに?

先週水曜日2月15日に帝国データバンクから「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。調査対象起業の過半数となる56%で賃上げが見込まれている一方で、中小企業では人件費負担から厳しい部分も予想されています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の用紙を4項目ヘッドラインだけ引用すると以下のとおりです。

調査結果
  1. 2023年度、企業の56.5%で賃金改善見込み、ベアは過去最高
  2. 賃金改善の理由、「物価動向」が急増。「従業員の生活を支えるため」も7割超
  3. 総人件費は平均3.99%増加見込みも、従業員給与は平均2.10%増と試算
  4. 非正社員は企業の25.9%で賃金改善「あり」

2023年度に賃金改善があると見込む企業は56.5%に上っており、昨年2022年度の同じ時点から+1.9%ポイント増加しています。他方、賃金改善が「ない」企業は17.3%となり、前年から▲2.2%ポイント減となっています。賃金改善の具体的な内容では、「ベースアップ」が49.1%、「賞与(一時金)」が27.1%となり、「賞与(一時金)」が昨年の27.7%から低下し、「ベースアップ」は前年の46.4%を上回っています。
また、規模別に少し詳しく見ると、「6~20人」、「21~50人」、「51~100人」で賃金改善があると見込む企業は6割を超えているものの、「5人以下」の小規模企業では39.6%「1,000人超」の大企業でも39.4%と、小規模と大規模の両端の企業で賃金改善を行う割合が低くなっています。加えて、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」(33.1%)が突出して高くなっています。大規模企業はすでに賃金が高水準にあって、賃金改善の必要性が小さい可能性あるものの、従業員が5人以下の小規模企業では環境が厳しくなっている可能性があります。
2023年度の賃金改善見込みのグラフをpdfの全文リポートから引用しておきます。

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2023年2月19日 (日)

サクラの開花予想はやや早まるのか、それとも遅くなるのか?

先週2月16日に、ウェザーニュースと日本気象協会から相次いでサクラの開花予想が明らかにされています。以下の通りです。

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やや雑に日本気象協会とウェザーニュースの桜開花予想の画像を連結した結果は上の通りです。前回の桜開花予想と比較すると、日本気象協会では東京3月26日、大阪3月28日、ウェザーニュースでは東京3月20日、大阪3月25日でした。それが、日本気象協会の予想については東京3月22日、大阪3月25日に少し早まった一方で、ウェザーニュースでは東京と大阪については見直しありませんでした。しかし、ウェザーニュースでも、名古屋と広島は1日ずつ早まっていますので、チョッピリ桜の開花予想は早まっている印象です。ただ、桜開花の前に、今年は花粉が多いでの、私はとっても苦しんでいます。例年になく目の症状がキツいです。

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2023年2月18日 (土)

今週の読書は経済書や人類学書のほかミステリも合わせて計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ジェフリー・ガーテン『ブレトンウッズ体制の終焉』(勁草書房)は、1971年8月の米国ニクソン政権による金ドルの交換停止を決定したキャンプ・デービッドでの会議をルポしています。続いて、里見龍樹『不穏な熱帯』(河出書房新社)は、ソロモン諸島におけるフィールド・ワークに基づき、人類学の新しい方向などにつき論じています。続いて、鵜林伸也『秘境駅のクローズド・サークル』(東京創元社)は、正面からのプロット勝負の本格ミステリの短編5話を収録しています。続いて、半藤一利『昭和史の人間学』(文春新書)は、昭和期の主として第2次世界対戦前後の陸海軍の軍人を中心とする人物評伝を編集しています。最後に、ウィンストン・グレアム『罪の壁』(新潮文庫)は、後にゴールドダガー賞として親しまれる英国推理作家協会 (The Crime Writers' Association)最優秀長篇賞の第1回受賞作品であり、兄の死の真相を弟が解明するものです。
ということで、今年の新刊書読書は、今年の新刊書読書は、先月1月中に20冊、そして、2月に入って先週まで9冊、今週の5冊を含めて計34冊となっています。

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まず、ジェフリー・ガーテン『ブレトンウッズ体制の終焉』(勁草書房)です。著者は、米国イェール大学経営大学院の名誉学長ということですが、この著書からはジャーナリストなのかと思わせるものがあります。副題が「キャンプ・デービッドの3日間」となっているように、米国ニクソン政権において米ドルの金との交換停止を決断した会議のルポとなっています。エコノミストの間ではよく知られているように、1944年に米国東海岸の保養地であるブレトンウッズにおいて議論・決定された国際金融体制が崩壊し、終焉したわけです。ブレトンウッズ体制とは、本書では米ドルを金にリンクさせ、35ドルと1オンスの金との交換を保証しつつ、米ドルと各国通貨の間に固定為替相場制を敷いたものです。他方、こういった国際金融制度をサポートするために、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった組織を設立しているのですが、コチラの方は本書ではほぼほぼ無視されています。もちろん、同時に戦後経済体制を形作ったGATTについても、ここまで米国の貿易収支に注目しながらもほぼほぼ無視しています。ですので、本書は4部構成で、幕開け、配役、その週末、終幕、となっています。中心となる読ませどころは第3部でクロノロジカルに詳述されるルポだと思いますが、第2部ではエコノミストはほとんど注目しない会議参加者のパーソナリティなどが紹介されています。逆に、貿易収支以外の客観的な経済情勢はかなりの程度に省略されています。私と同じように、物足りないと感じるエコノミストは少なくないと思います。もちろん、エコノミストが注目していない点で、いくつか興味をそそられる事実も明らかにされています。そのひとつは、このニクソン政権の決定、訪中とその結果としての米中の国交樹立と並んでニクソン・ショックと称されるブレトンウッズ体制の崩壊、あるいは、一連の経済政策、すなわち、金ドル交換停止以外にも物価と賃金の凍結などが、米国民から熱狂的に支持された、という点は私も知りませんでした。その支持の強さは「パールハーバー以来」と表現されています。もっとも、私は1971年当時は中学生でしたので、言い訳しておきます。株式市場は株高で支持を表明し、米国以外の、特に日本の株価市場が大きく下げたのとは対象的です。加えて、1971年8月15日の当時のニクソン大統領のスピーチが、かなり詳細な脚注を付して紹介されているのは、それなりの資料的な価値もあると私は考えます。私が本書を読んで不可解なのは、著者が金ドル交換に大きな重点を置いている点です。ブレトンウッズ体制が終焉したのは、金ドル交換が停止されたからではなく、固定為替制が崩壊したからです。スミソニアン合意という一時しのぎではどうしようもなく、変動相場制に移行したのは歴史的事実です。その点まで、どうも、著者の理解が進んでいない気がします。経済学的な理解を基にするのではなく、むしろ、ジャーナリスティック、というか、インナー・サークルのセレブしか知りえない事実に対するのぞき見趣味的な満足感を得ようとするのは、私はどうも違和感あります。むしろ、巻末の「解題」が経済学的な興味を満たしてくれるような気がします。しかし、解題が判りやすいのは本文が判りにくいともいえ、いく分なりとも邦訳がそれほど上質ではない点は指摘しておきたいと思います。

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次に、里見龍樹『不穏な熱帯』(河出書房新社)です。著者は、早稲田大学の研究者であり、専門は文化人類学です。本書は3部構成であり、他者、歴史、自然、から構成されています。2011年7~9月における著者のフィールドワーク、ソロモン諸島マライタ島におけるフィールドワークを中心に、幅広く人類学の方法論や学説史にまで言及されています。タイトルは、当然ながら、レヴィ-ストロースによる Tristes Tropiques を念頭に置いているんだろうと思います。「不穏な熱帯」だったら、"Inquiétantes Tropiques" とでもなるんでしょうか。私はスペイン語はともかく、フランス語はサッパリですので、自信はありません。なお、私の専門は、もちろん、経済学なのですが、経営学なんぞよりも人類学などの方が、より、経済学に近い隣接領域だと考えています。終章「おわりに」のエピグラフにあるように、精神分析と文化人類学は人間という概念なしで済ませられる、といいますが、経済学はもっとです。人間が出てきません。合理的な経済活動を営むのであれば、人間でなくても動植物やロボットでもOKです。そういう意味で、本書もとても刺激的でした。例えば、民族誌的な記述と自然概念についての哲学的な思索という両極端を本書の中で統合させようとした著者の試みは、高く評価されるべきだと考えます。しかし、いかに隣接領域とはいえ、私は人類学にはトンと専門性がありませんので、人類学の方法論について、少し論じたいと思います。すなわち、本書で「存在論的転回」と称されている人類学の転換とか、自然/文化の二分法については、私はマイクロな学問/観察とマクロな学問/観察の違いではないか、と考えています。自然科学は別にして、社会科学ないし人文科学で学問領域をマイクロとマクロに分割する二分法が明快に確立しているのは経済学と心理学であると私は受け止めています。経済学ではモロにミクロ経済学とマクロ経済学が併置されています。心理学でも、フロイト的な個人を対象とする臨床心理学とツベルスキー=カーネマンに代表される社会心理学が並立しています。おそらく、人類学でも従来の民族誌的なエキゾチシズムに立脚する多文化の研究、という側面と、もっとマクロに自然と人類の間のインタラクティブな関係を考察する学問領域が出来るのではないか、という気がしています。本書でいうところの「岩が育つ」、「岩が死ぬ」といった自然を外部と考えるのではなく、人類の活動の内なる対象と考える人類学がありそうな気がします。というのは、ごく当たり前に考えている労働について、経済学では自然に対する働きかけ、と定義する場合が少なくありません。もちろん、英語表現で2種類ある "made of" と "made from" の違いはあるとしても、少なくとも製造業においては、自然に存在する原料や燃料を基にして、労働という人間作業を加えて製品を作り出す過程であると考えられます。サービス業で少し製造業とは違う側面があることは否定しませんが、ごく一部の例外を除けば、自然にはあり得ないサービスの提供であることは間違いありません。例えば、理美容というサービスについて考えると、こういったサービスなしに自然のままでは髪の毛は伸び放題だったりします。そして、いうまでもなく、労働という人間作業がサービスを生み出しているわけです。本書の幅広い論点をカバーし切るだけの能力が私にはありませんが、少なくとも自然/文化の二分法については、人類学よりは経済学の方が新たな論点を提供できる可能性が高い、と考えています。最後の最後に、数多くのソロモン諸島とおぼしき写真が収録されていますが、何の説明もなく、ランドスケープの横長写真がポートレートの縦長に回転させて配置されています。何とかならなかったものでしょうか?

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次に、鵜林伸也『秘境駅のクローズド・サークル』(東京創元社)です。著者は、ミステリ作家です。そして、昨年の芥川賞受賞の高瀬隼子、今年の直木賞受賞の千早茜と同じように、というか、何というか、私の勤務校の卒業生です。3人とも文学部のご主審であり、経済学部ではありませんが、私は実は文学部や法学部などでも授業を持っていたりします。琵琶湖キャンパスから京都の衣笠キャンパスに週イチとはいえ、通勤するのはなかなかタイヘンだったりします。ということで、本書は、5編の短編が収録されていて、堂々の王道ミステリです。ホラーの要素はほぼほぼなく、倒叙ミステリや叙述ミステリでもって、表現で読者をミスリードするわけではなく、正面からプロットでもってパズルを解こうとします。不勉強にして、この作者の作品は初めて読んだので、ほかの作品もそうなのかは不明です。あらすじを収録順に追うと以下の通りです。「ボールがない」は、そこそこ名門、というか、古豪の高校野球部の新入生を主人公とし、上級生が対外試合に出かけた際の居残り練習で、練習開始時に100個あったボールが練習終了時には1個不足し、消えたボールを探し出そうと論理的に考えます。記念ボールの扱いが上手です。「夢も死体も湧き出る温泉」は、ひなびた温泉の食堂の倅が主人公で、川原の手掘り温泉で突如として死体が発見され、その犯人はもちろん、死体出現のトリックについても解き明かそうと試みます。この作品と最後の表題作は行きずりの旅人っぽい登場人物が謎解きをします。「宇宙倶楽部へようこそ」は、10年前を振り返るという形で、その当時の高校の宇宙倶楽部=天文部を舞台に、相談に来た高校新入生を主人公に、主人公宛てに届いたナゾのメールについての解明が天文部員によって試みられます。なかなか、カッコいい終わり方です。「ベッドの下でタップダンスを」は、会社社長の奥さんに間男をする従業員を主人公に、社長が思わぬ時刻に帰宅したためベッドの下に逃げ込んだものの、見張りをしている社長がいるために抜けでられないうちに居眠りしてしまいますが、何と、その居眠りの間にベッドを見張っていたハズの社長が撲殺され、その犯人と方法が主人公によって解明されます。「秘境駅のクローズド・サークル」は大阪にある大学の鉄道研究会の新歓イベントで土讃線の秘境駅を旅行している新入生を主人公に、周囲に何もない秘境駅のクローズドサークルで先輩の女性部員が殺される事件を、これまた、通りすがりの別の鉄道オタクが解明します。繰り返しになりますが、正面から堂々のトリック勝負の本格ミステリです。すべてではありませんが、最初の作品の記念ボール、あるいは、最後の表題作の鉄研OB/OGの登場などのように、短い作品ながら、キチンと伏線が張られている作品もあり、それなりに読み応えはあります。5篇の短編のうち、いかにもミステリらしい殺人は3話、高校生の日常の謎解きが2話、まあ、バランスも考えられています。ただ、高校生や大学生、あるいは、社会人でも若い主人公が多いことは確かです。いずれにせよ、私の勤務校の卒業でもあり、これからも応援したいと思います。

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次に、半藤一利『昭和史の人間学』(文春新書)です。著者は、昨年なくなった『文藝春秋』の編集者であり、昭和市に関する書籍も多数出版しています。まあ、昭和史の研究者といっていいかもしれません。本書は、タイトルが人間学ですから、多くの人物が議論されています。ただ、年代としてはタイトルにある昭和全体というよりは、第2次対戦前後に限定されています。ですから、本書の構成は7章構成なのですが、最後の章の政治家と官僚を別にして軍人で占められています。すなわち、卓抜、残念、その他の3カテゴリーかつ陸軍と海軍で2×3の6章となります。もちろん、著者はすでに亡くなっているわけですので、既発表の雑誌記事などを編集しています。私自身は本書に取り上げられている人物については、もりとん、あったこともなければ、それほど評伝のようなものを読んでいるわけでもないので、本書の人物評については何とも評価し難いのですが、巷間いわれている評価にかなり近い、というか、本書の著者などの評価が広く人口に膾炙している、という気がします。ただ、軍人については軍事作戦や軍事行動に関しては、何とも評価は難しいのだろうと想像しています。卓抜の軍人について褒めちぎるわけではありませんが、残念な軍人については容赦なく批判を加えています。中には、戦争が終わってからインタビューをした対象者もいますが、それほどインタビューの有無が人物評の中心となっている印象は読み取れませんでした。ただ、私の直感としては、ある意味で、異常な状態だった戦時ではなく、歴史として戦争を振り返る時点でのインタビューに、それほど大きな意味があるようには思えません。もちろん、粉飾のおそれもありますから、むしろ、古文書のような考えで資料をひも解くのが一番かという気もします。本書は、それほど取りまとめられた文献とは思えませんが、だんだんと遠ざかる昭和、特に、戦争に関するひとつの見方を提供してくれる貴重な資料だと思います。

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最後に、ウィンストン・グレアム『罪の壁』(新潮文庫)です。著者は、英国人作家であり、本作品は後にゴールドダガー賞として親しまれる英国推理作家協会 (The Crime Writers' Association=CWA)最優秀長篇賞の第1回受賞作品です。しかも、出版社の宣伝文句では本邦初訳のオリジナル作品、ということです。1950年代なかば、戦争の影がまだ残り、同時に東西冷戦の対立が厳しい英国から欧州大陸、オランダとイタリアを舞台にしています。主人公は、ターナー兄弟末弟3番めのフィリップです。米国カリフォルニアで航空機の開発の仕事をしていましたが、考古学者としてジャカルタで発掘作業をしていた次兄グレヴィルが帰国途上のオランダで死んだと知らされて、家業を継いだ長兄のもとに帰国します。兄グレヴィルは優秀な物理学者であったにもかかわらず、マンハッタン計画の原爆開発に関与することから逃れるために考古学に転じています。しかし、フィリップはグレヴィルがオランダの運河に身を投げて自殺したと知らされて、到底信じることが出来ず、自ら真相を解明すべくオランダに乗り込みます。その際、レオニーという謎の女性とバッキンガムという英国人が関係している疑いがあると聞き及び、バッキンガムを知ると紹介されたコクソンに動向を依頼します。コクソンはスコットランド貴族の血筋の英国人です。そして、当地警察で、レオニーという名の女性との恋愛に敗れて自殺したらしい、と聞き込みます。さらに、レオニーがイタリアに滞在しているとの情報があり、事情で同行できないコクソンと別行動し、単身でイタリアに向かいます。もちろん、最後に兄グレヴィルの死の真相を解明します。いかにも、大時代的ではありますが、驚愕の真相です。思っても見なかった人物がバッキンガムだったりします。また、繰り返しになりますが、1950年代半ばの時代背景ながら、古さをまったく感じさせません。どうしても、電報での連絡が出て来たりしますが、飛行機での移動などは現在と同じです。ただ、オランダとイタリアの違いがどこまで書き分けられているのか、やや疑問がありました。ジャカルタでの考古学の発掘作業、ということで、旧宗主国のオランダということになったのでしょうが、せっかくですから、国情や警察の対応の違いなんかも言及した方がいいような気もしないでもありませんでした。私の知る範囲では、同じラテンの国でスペインとイタリアならよく似ているのに、とついつい思ってしまいました。

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2023年2月17日 (金)

日銀ワーキングペーパー「わが国の賃金動向に関する論点整理」やいかに?

一昨日の2月15日に日銀調査統計局から「わが国の賃金動向に関する論点整理」と題するワーキングペーパーが明らかにされています。もちろん、ペーパー本体のpdfファイルもアップされています。まず、日銀のサイトから論文の要旨を引用すると以下の通りです。

要旨
本稿では、日本の名目賃金を上がりにくくしていた様々な要因について米欧と比較しつつ整理し、それらの一部については感染症拡大の前後において変化の兆しがみられることを示す。具体的には、人口動態も反映した労働供給面から生じる労働需給の引き締まり、パート労働者比率の上昇トレンドの頭打ち、転職市場が賃金上昇を伴う形で活発化する兆し、賃上げ交渉における物価上昇への意識の高まり、といった点を指摘する。今後の日本の賃金上昇のペースや持続性を展望するうえで重要な論点としては、(A)一般労働者の中でも相対的に雇用流動性が低い労働者も含めて賃金が幅広く上昇するか、(B)企業の成長期待が高まって投資活動が活発化し労働生産性の上昇につながるか、(C)スキルアップを通じた労働移動が円滑に行われるか、(D)低インフレのノルムのもとで賃上げが抑制されていた状況が変わって物価と名目賃金が共に上昇していくか、といった点が挙げられる。

少しややこしくて混乱を来すのですが、上に引用した要旨の(A)から(D)までと同じ表章で、以下の4点が、「コロナ前から日本の名目賃金を上がりにくくしていたと考えられる要因」として論文p.4に上げられています。

  1. 家計の労働供給、労働市場の二重構造
  2. 企業の労働需要・賃金設定行動
  3. 業種別の要因、雇用流動性
  4. 低インフレの定着

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上のグラフ2枚はワーキングペーパーのp.5から引用しています。ここでは「パート」ということで非正規雇用全体を代理させていますが、明らかに、正規職員と非正規職員の賃金格差に基づいて非正規雇用の拡大が図られた事実が示されています。しかも、賃金が低い非正規雇用の方が、いわゆる「雇用の流動性」が高くなっているのが日本の労働市場の特徴でもあります。経営者が「雇用の流動性」を高めたいと考えているのは、同時に低賃金の非正規職員の雇用を拡大したいということです。賃金上サポートするためには、何らかの非正規雇用の歯止めが必要だと私は考えます。

5年ほど前の玄田教授の編集による『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会)も読みましたが、やっぱり、非正規雇用の増加が原因、そして、それを許容した「労働者派遣法」の対象拡大も一因であるとしか、私には考えられません。例えば、この日銀ワーキングペーパーには「派遣」という用語はp.5の脚注に1か所現れるだけです。もちろん、本論文は政府や日銀の公式見解ではあり得ないのですが、「派遣」は賃金について分析する際に言及したくない用語のひとつかもしれません。

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2023年2月16日 (木)

赤字が定着しつつある貿易統計と2四半期連続マイナスの機械受注をどう見るか?

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から昨年2022年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。季節調整していない原系列で見て、貿易統計では、輸出額が+3.5%増の6兆5511億円に対して、輸入額は+17.8%増の10兆477億円、差引き貿易収支は▲3兆4966億円の赤字となり、一昨年2021年8月から18か月連続で貿易赤字を計上しています。次に、機械受注では、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+1.6%増の8519億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字最大の3.4兆円 1月、対中輸出停滞や円安響く
財務省が16日発表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3兆4966億円の赤字だった。単月として比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高で輸入が増えた。中国向けの輸出の停滞も響いた。
2022年8月の2兆8248億円の赤字を上回った。赤字は18カ月連続となる。15年2月まで32カ月続けて赤字になったとき以来の長さだ。
輸入は前年同月比17.8%増の10兆477億円だった。値上がりした石炭や液化天然ガス(LNG)、原油などの輸入額が増えた。原油の輸入価格は1キロリットルあたり7万3234円と前年同月比27.1%上がった。ドル建て価格の上昇率は10.5%で、円安が輸入価格をさらに押し上げた。
輸出は3.5%増の6兆5511億円だった。米国向けの自動車などが増えた。
輸出の増加は輸入に比べて小幅にとどまった。地域別にみると、中国向けの輸出は17.1%減の9674億円だった。1兆円を下回るのは新型コロナウイルスの感染が最初に広がった20年1月以来となる。自動車や自動車部品のギアボックス、半導体製造装置などが減った。
大幅な減少は「春節(旧正月)が早まったことが影響した」(財務省)。今年の春節は1月22日で、22年の2月1日より早かった。中国の物流や工場が止まる春節休みの間は日本からの輸出は減る。同国での新型コロナウイルスの感染拡大も響いたとみられる。
荷動きを示す輸出数量指数(15年=100)は対世界全体が77.2と前年同月比11.5%下がった。対中国が30.7%の大幅な落ち込みとなり、全体を押し下げた。対中国の低下率は09年2月以来の大きさだった。
円安や資源高による輸入の押し上げは一時期より和らいできたが、輸出の停滞が記録的な貿易赤字につながった。1月は日本の正月休みで輸出が減る一方、春節前の在庫確保のため中国からの輸入が増えやすい。赤字になりやすい季節性がある。
季節調整値でみると、輸入は前月比5.1%減の9兆6093億円、輸出は6.3%減の7兆7880億円だった。収支は1兆8212億円の赤字となった。
機械受注5.0%減 22年10-12月、2四半期連続マイナス
内閣府が16日発表した2022年10~12月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)は前期比5.0%減の2兆6054億円だった。マイナスは2四半期連続。海外景気の減速への懸念から、企業が設備投資に慎重になっている可能性がある。
製造業が前期比14.0%減となり、2四半期連続でマイナスだった。半導体製造装置などの発注者となる電気機械の製造業は14.6%、情報通信機械の製造業は13.5%それぞれ減った。海外経済が減速し、輸出が減るとの観測が背景にあった。
船舶と電力を除く非製造業は4.7%増で、2四半期ぶりのプラスだった。卸売業・小売業では10.0%、ソフトウエアやインターネット関係といった情報サービス業では13.6%それぞれ増加した。デジタル化のための投資意欲が高かった。
12月末時点での23年1~3月期の受注見通しは、22年10~12月期から4.3%増とした。海外経済の状況変化をにらみ、いったん見送った投資を1~3月期に実施するとみる。
同日発表した12月の「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)の受注額は前月比1.6%増で、2カ月ぶりのプラス。内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いた。22年通年の受注額は前年比5.2%増の10兆7418億円で、2年連続の増加だった。
12月は、船舶と電力を除く非製造業からの受注は2.5%減った。製造業は2.1%増加し、4カ月ぶりのプラスとなった。

どうしても長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▴兆円近い貿易赤字が見込まれていて、実績の▲3.5兆円台半ばの貿易赤字は大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2023年1月までの18か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、22か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びは反転した可能性すらあり、貿易赤字がこのまま一本調子で拡大するとは考えにくく、むしろ、昨年2022年後半に毎月▲2兆円超の貿易赤字を記録していたころから赤字幅はやや縮小しています。円安も一時に比べて落ち着きを取り戻しているのは多くのエコノミストの意見が一致するところです。ですので、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
1月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。しかし、前年同月比の伸び率は大きく鈍化しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで+6.4%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+48.4%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、昨年2022年10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、伸びはやや鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは0.5%増であるにかかわらず、金額ベースでは+57.0%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+4.1%増に過ぎませんが、金額ベースでは+24.1%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も数量ベースと金額ベースで違いが際立っています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで▲0.8%減と減少していますが、金額ベースでは+3.7%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+1.8%増にすぎないながら、金額ベースでは+13.7%増と伸びています。また、いずれも金額ベースで一般機械+4.3%増、電気機器▲1.5%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出の伸びはやや停滞しています。これは、先進各国がインフレ抑制のために金融引締めを継続していて、景気が停滞していることが背景にあります。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因であり、私はむしろ、少ない輸出で多くの輸入が出来ているお得感すらあると感じています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+3.0%増の予想でしたから、実績の+1.6%増はやや下振れた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。上のグラフで見ても、増加のトレンドが反転した可能性が読み取れると思います。ただし、受注水準としては決して低くはない、と私は受け止めています。また、今年2023年1~3月期の見通しでは、前期比+4.3%増の2兆7179億円と見込まれていますので、海外景気が停滞していることを反映していることは確かですが、国内からの受注も含めれば、まだトレンドが反転したと見ることはないと考えています。昨年2022年12月統計について産業別に少しだけ詳しく見ると、製造業が+2.1%増の3,941億円、船舶と電力を除く非製造業は▲2.5%減の4,581億円となっています。

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2023年2月15日 (水)

東京商工リサーチによる価格転嫁と賃上げの相関分析の結果やいかに?

日曜日なのですが、さる2月12日付けで東京商工リサーチから価格転嫁と賃上げの相関分析の結果が明らかにされています。下のグラフに見られるように、資本金1億円で区分した中小企業では、相関係数0.87と強い正の相関を示した一方で、大企業では▲0.49と負の相関を示した、との結果が示されています。

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もちろん、賃上げを決定する要因は価格転嫁だけではありませんから、ここまで単純化した短回帰分析にどれだけの意味があるかは疑問なしとしませんが、資本金1億円で区分した中小企業と大企業とで規模別に対象的な結果が出たことは、エコノミストとしては興味あるところです。
渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)でも指摘されていたように、賃上げと物価のスパイラルは、企業が製品価格引上げ⇒生計費上昇分の賃上げ要求⇒賃金引上げ⇒コストアップ分の価格転嫁⇒製品価格引上げ、のサイクルで進みます。鶏と卵の関係ですが、製品価格引上げ=物価上昇と賃上げとは両建てで進みますが、中小企業ではこれが成立する一方で、大企業ではそうでないわけです。まあ、、単純に考えれば、中小企業の製品、というか、サービスも含めて、コストに占める人件費の比率が高い一方で、大企業の製品・サービスでは人件費比率が低い、ということなのでしょう。大企業の製品・サービスには人件費以外の付加価値が多く含まれている、ということです。

経済学的な含意としては、下請けの比率が高いであろう中小企業からの部品供給に対して、大企業が価格転嫁に対して不寛容であるからデフレ脱却が進みにくい、といういかにも日本的な企業慣行がバックグラウンドになっている気がします。

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2023年2月14日 (火)

昨年2022年10-12月期GDP統計速報1次QEに見る景気動向やいかに?

本日、内閣府から昨年2022年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.2%、年率では+0.6%と、2四半期ぶりのプラス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+1.1%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本のGDP年率0.6%増 10-12月、2四半期ぶりプラス
内閣府が14日発表した2022年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.2%増、年率換算で0.6%増だった。プラス成長は2四半期ぶり。22年の実質GDPは前年比1.1%増で、2年連続のプラスだった。新型コロナウイルス禍から経済の正常化が緩やかに進んでいる。
10~12月期の年率換算の成長率はQUICKが事前にまとめた市場予測の中心値(1.8%)を下回った。前期比で外需がプラス0.3ポイント、内需がマイナス0.2ポイントの寄与だった。
内需の柱でGDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%増えた。供給制約の緩和で自動車などの耐久財が伸び、政府の観光促進策「全国旅行支援」も追い風に宿泊や交通がプラスだった。飲料など非耐久財は10月の値上げを前に駆け込みがあった反動で減少した。
内需のもう一つの柱の設備投資は0.5%減と、3四半期ぶりにマイナスに転じた。半導体製造装置や一般機械などが減った。世界的な半導体需要の減少や海外経済の減速懸念が影響した可能性がある。
住宅投資は0.1%減で6四半期連続のマイナス。資材価格の高騰で持ち家の着工が鈍っている。コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は0.3%増だった。
民間在庫変動の寄与度は0.5ポイントのマイナスとなった。原油などの原材料の在庫積み増しが前期より減ったとみられる。
輸出は1.4%増えた。計算上、輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)消費が10月の入国規制の緩和に伴って伸びた。輸入は前期に海外への広告関連の支払いが大幅に増えた反動もあり、0.4%減った。輸出から輸入を差し引いて計算する外需はプラスの寄与となった。
名目GDPは前期比1.3%増、年率換算で5.2%増だった。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比1.1%上昇し、3四半期ぶりにプラスに転じた。輸入物価の上昇が一服したのに加え、国内で価格転嫁が徐々に広がり始めたことを示す。
雇用者報酬は名目で前年同期比2.9%増えた。実質は1.4%減で、5四半期連続でマイナスとなった。物価上昇に賃金が追いついていない。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2021/10-122022/1-32022/4-62022/7-92022/10-12
国内総生産GDP+1.1▲0.4+1.1▲0.3+0.2
民間消費+3.0▲0.9+1.6+0.0+0.5
民間住宅▲1.3▲1.7▲1.9▲0.4▲0.1
民間設備+0.6▲0.3+2.1+1.5▲0.5
民間在庫 *(▲0.2)(+0.8)(▲0.3)(+0.1)(▲0.5)
公的需要▲1.5▲0.3+0.7+0.1+0.3
内需寄与度 *(+1.0)(+0.1)(+1.0)(+0.4)(▲0.2)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.0)(▲0.5)(+0.1)(▲0.6)(+0.3)
輸出+0.4+1.2+1.5+2.5+1.4
輸入+0.3+3.8+0.9+5.5▲0.4
国内総所得 (GDI)+0.3▲0.7+0.4▲1.0+0.4
国民総所得 (GNI)+0.6▲0.4+0.6▲0.5+1.2
名目GDP+0.7+0.2+1.0▲0.8+1.3
雇用者報酬 (実質)▲0.3▲0.8▲0.4▲0.0▲0.2
GDPデフレータ▲0.3+0.4▲0.3▲0.4+1.1
国内需要デフレータ+2.1+2.6+2.7+3.2+3.3

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2022年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤色の民間消費や黒の純輸出などがプラス寄与している一方で、灰色の民間在庫のマイナス寄与が目立っています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+1.8%でしたので、やや下振れた印象ながら、大きなサプライズはありませんでした。先進国でインフレにより消費の伸びが大きく鈍化している一方で、下のグラフに見るように、デフレータの上昇率はかなり高まったものの、我が国では他の先進諸国と比べてインフレのダメージが少ない上に、引用した記事にもあるように、半導体などの供給成約で生産が停滞していた自動車などの耐久消費財が伸びており、また、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージが大きかった宿泊や交通が「全国旅行支援」もあって、10~12月期には消費の伸びが高まっています。民間消費を少し詳しく見ると、耐久財は前期比+2.7%増、前年同期比+11.1%増と大きく伸びましたし、サービスも前期比+1.4%増、前期比年率+5.6%増と、これも増加しています。前期の2022年7~9月期は、ややイレギュラーなサービス輸入の増加によるマイナス成長を記録しましたが、基本的に、景気判断としては引き続き堅調と考えてよさそうです。もちろん、統計の数字だけを見ると、2022年7~9月期に前期比で▲0.3%減の後、10~12月期は+0.2%ですから、7~9月期のマイナス分を10~12月期に取り戻せていないという見方もできますが、もう少し詳しくGDPコンポーネントを見ると、民間在庫の寄与度が2022年7~9月期に前期比成長率に対する寄与度が+0.1%と在庫が積み上がった後、10~12月期は▲0.5%ですから、成長率の足は引っ張ったものの在庫調整が進んだと考えると、決して悪い話ではないと私は受け止めています。加えて、インバウンドの消費に当たる「非居住者家計の購入額」はここ数四半期に渡って年率で500重億円足らずだったのですが、2022年10~12月期には1500十億円近くに達しました。既往でもっとも大きなだった時期に四半期単位で5000十億円弱ですので、⅓くらいまで回復したことになります。それなりに期待は膨らむのかもしれません。ただ、海外経済について留保すべき点もあり、輸出の寄与度が+0.3%ありますので、海外景気が失速する可能性が十分ある中で、今年は輸出にそれほど期待できないかもしれません。

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堅調と考えるべき景気判断の根拠はもうひとつあり、資源高と円安による交易条件悪化=所得流出がピークアウトした可能性です。統計を詳しく見ると、2022年10~12月期のGDP成長率は前期比+0.2%、前期比年率+0.6%でしたが、より実感に近い国内総所得(GDI)の伸びは前期比+0.4%、前期比年率+1.6%、国民総所得(GNI)も前期比+1.2%、前期比年率+4.9%に達しています。繰り返しになりますが、家計や企業の景気実感はGDPよりもGDIやGNIに近いと私は考えていますので、昨年2022年10~12月期にはそれなりに経済が回復した、という感覚につながっている可能性が十分あります。ただし、欧米先進各国ほどではないとしても足元での物価上昇=インフレが進行しています。上のグラフは、GDPデフレータ、民間消費デフレータ、国内需要デフレータのそれぞれの季節調整していない原系列の前年同期比をプロットしています。GDPの控除項目である輸入物価に起因するインフレですから、GDPデフレータはそれほど上がっていませんが、民間消費と国内需要のそれぞれのデフレータはいずれも上昇率がグングン高まっています。資源高と円安による輸入価格の上昇に起因する交易条件の悪化や所得の流出から、ホームメードインフレの段階に達し、これをカバーするだけの賃上げが実現できるかどうかに消費の動向が左右されかねません。最初のテーブルで示したように、雇用者報酬は実質で5四半期連続で前期比マイナスを続けています。それだけに、今春闘における賃上げは日本経済の先行きの方向性に大きなな影響を及ぼす可能性があります。

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2023年2月13日 (月)

昨年2022年10~12月期GDP統計速報1次QE予想はわずかながらプラス成長か?

先週の鉱工業生産指数や商業販売統計や雇用統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日の2月14日に昨年2022年10~12月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。2022年7~9月期は一時的なサービス輸入の増加のために小幅ながらマイナス成長を記録しましたが、10~12月期はプラス成長を予測するシンクタンクが多くなっている印象です。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である2022年10~12月期ではなく、足元の2023年1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。三菱系の2機関を除いて、多くのシンクタンクで言及があり、特に、大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズについては長々と引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.7%
(+2.7%)
1~3月期もプラス成長が続く見通し。新型コロナ感染者数の減少を背景に、人流の回復や全国旅行支援の継続に支えられ、サービスを中心に個人消費が増加する見込み。また、インバウンド需要の回復が続くことで、サービス輸出も底堅く推移する見込み。
大和総研+0.4%
(+1.8%)
2023年1-3月期の日本経済は、感染状況が落ち着く中で経済活動の正常化が一段と進み、個人消費や輸出などを中心に回復基調が強まる見込みだ。設備投資や公共投資も増加することで、実質GDPは2四半期連続のプラス成長(前期比年率+4.4%)になると見込んでいる。
個人消費は緩やかな回復基調を辿ろう。感染「第8波」は落ち着きつつあり、サービス消費の回復は加速するだろう。他方、1月以降も食品などの値上げが予定されており、家計の消費マインドが一段と悪化すれば、個人消費の回復が遅れる可能性もある。
なお、自動車生産は1-3月期に一段と増加しよう。トヨタ自動車が2月に見込む国内生産台数は約30万台と、1月(約20万台)から増加した。繰越需要に対応した大幅な挽回生産の発現が期待され、個人消費や設備投資、輸出を後押しするだろう。
住宅投資は緩やかな増加傾向に転じるだろう。引き続き、住宅価格の上昇は住宅投資の重しとなるものの、住宅ローン減税の制度変更に伴う反動減が一巡することで持ち直すとみられる。
設備投資は緩やかながらも増加傾向が続くだろう。機械設備投資に先行する機械受注は均して見ると減少傾向にある。ただし、国内ではサービス消費の回復余地が大きく、今後はとりわけ非製造業で設備投資の回復が見込まれる。他方、グリーン化、デジタル化に関連したソフトウェア投資や研究・開発投資は底堅く推移するとみられ、設備投資全体を下支えしよう。
公共投資は緩やかな回復傾向に転じるだろう。前述した「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするものの、人手不足や資材価格の高騰が影響することで、回復ペースは緩やかなものとなろう。政府消費は、医療費の増加が下支えするものの、オミクロン株対応ワクチン接種が一服することでしばらくは足踏みするとみられる。
輸出は、中国経済の正常化に沿って増加基調に転じるだろう。サービス輸出に含まれるインバウンド(訪日外客)消費は、堅調に回復するとみられる。また、中国政府は12月に実質的な「ウィズコロナ」政策に転換した。感染状況次第ではあるものの、今後は幅広い財の輸出の増加が見込まれる。他方、米欧における利上げの影響には引き続き注意が必要だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.5%
(+2.0%)
1~3月期以降についても、対人サービスを中心に個人消費の回復継続が見込まれる。物価高が引き続き下押し要因になることで、大幅なリベンジ消費までは期待出来ないものの、政府による全国旅行支援が1月以降も延長されたことがサービス消費の押し上げ要因になろう。みずほリサーチ&テクノロジーズは、全国旅行支援について1~3月期までの延長を想定した上で、経済効果は波及効果を含めて約1兆円(2022年度GDPを+0.2%押し上げ)と試算している。全国旅行支援終了後は一時的に反動減が出ることが想定されるが、感染懸念の後退に伴い、均してみれば回復基調を維持するだろう。
インバウンドの回復が続くことも経済活動の押し上げに寄与するだろう。中国からの訪日客については、当面は日中間の国際便回復が停滞する中で大幅な回復は期待しにくいものの(2022年11月~2023年3月の冬ダイヤ時点で、日中間の国際便数はコロナ前の4%程度にとどまる)、中国で感染影響の収束が見込まれる春以降には、日本側の水際対策(出入国時の検査、日中間の国際便の増便抑制)も緩和されることで回復の本格化が見込まれる。特に関西・中部地方はインバウンド消費に占める中国人観光客への依存度が高く、回復に期待が高まる状況だ。
懸念されるのがサービス業における人手不足であり、宿泊業等の稼働率の抑制要因になるだろう。「売り」となるサービスの明確化等による客単価の引き上げが収益確保の鍵になる。高付加価値型施設(リゾートホテルや高級レストラン等)は国内外の高所得者を中心とした一部のリベンジ消費を取り込むことで客単価を引き上げ、収益を確保できる余地があるとみられる一方、競争力に乏しく客単価を引き上げにくい業態・企業は苦境に立たされる公算が大きい点には留意が必要だ。
一方で、これまでの根強いインフレ圧力を受けた急速な利上げの影響などにより、欧米経済は今後、一段の景気減速が見込まれる(特に米国は足元で財消費や企業の生産活動に弱含みの動きがみられるなど、景気下振れの兆候が出ている)。日本からの輸送用機械、電気・電子、設備機器などの輸出が下振れるほか、製造業の設備投資も下押しされる公算が大きい。足元のグローバル製造業PMIは既に50を割り込んでおり、欧米を中心とした海外経済のさらなる冷え込みが先行きの日本経済の最大の逆風になるだろう(現時点で今後の実質GDP調整幅については、米国が▲1.8%、欧州が▲1.6%と過去の景気後退期の平均並を想定している。なお、中国については一部地域の感染がピークアウトした1月以降に経済活動の底打ちの動きがみられるが、当面はサービス消費が回復の中心になるとみられ、財需要への波及効果は限定的だろう。中国経済が2023年に盛り返したとしても、欧米を中心とした世界経済の低迷をカバーすることは出来ないとみている)。需給軟化に伴う単価下落・調達抑制による出荷数量減少を受けてメモリを中心に世界的な半導体市況の悪化が続くことも、半導体製造装置や電子部品等の生産活動を下押ししよう。
コロナ禍の影響が長引く中、日本はこれまで欧米対比で経済活動の回復が遅れてきたが、その分回復余地が残されている状況だ。前述したとおりサービス分野の回復が下支えすることで、日本経済は景気後退入りを免れるとみているが、それでも海外経済の減速が逆風となることで回復ペースは緩やかにならざるを得ないだろう。現時点で、1~3月期は前期比年率+1%程度の成長に鈍化すると予測している。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.0%)
2023年1-3月期は、民間消費、設備投資などの国内需要は底堅い動きが続く一方、欧米を中心とした海外経済の減速を主因として輸出が減少に転じることから、現時点では年率ゼロ%台の低成長を予想している。
第一生命経済研
その 2
+0.2%
(+0.7%)
海外経済の悪化に伴う輸出の下振れが23年の景気を下押しする。金融引き締めの実体経済への悪影響が本格化することで、23年の米国経済の下振れ懸念は大きい。中国経済の持ち直しが見込まれることは好材料だが、世界経済は全体として下押し圧力が強まる可能性が高いだろう。コロナ禍からの正常化に向けた回復の動きが続くことから、国内における景気回復の動きが頓挫するとまではみていないが、23年前半の景気は輸出の下振れを主因として減速感が強まると予想している。
PwC Intelligence+0.7%
(+2.7%)
2022年10-12月期は、輸出・消費によりプラス成長となるものの、設備投資は減少に転じる見込みである。2023年以降は、海外経済の減速を受けて設備投資の減少が進展するか、その下方圧力を国内消費およびインバウンド需要の回復がどこまで打ち返せるか、というのが日本経済を見通す上での注目点となろう。また、賃上げがベースアップのみで3%にまで上昇する環境を維持できるかも重要となろう。
伊藤忠総研+0.6%
(+2.3%)
続く2023年1~3月期も、インバウンド需要の増加は期待できそうであるが、物価上昇の加速により個人消費は伸び悩むとみられるため、一定の前期比プラス成長を維持できるかどうかは、財輸出がどの程度落ち込むのか、設備投資の様子見姿勢がいつまで続くのかが重要であり、加えて政府の「総合経済対策」で追加された公共投資がどの程度進捗するかもカギを握るとみられる。なお、当社は現時点では、若干減速するもののプラス成長を維持すると予想している。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.7%
(+3.0%)
2022年10~12月期の実質GDP成長率は、前期比+0.7%(年率換算+3.0%)と2四半期ぶりのプラス成長が見込まれる。感染第7波の影響が一巡したうえ、全国旅行支援など政策支援も追い風に個人消費の増加が続いたほか、欧米向け輸出の増加や水際対策緩和によるインバウンドの回復などを背景とした輸出の増加がプラス成長の要因となったとみられる。
三菱総研+0.5%
(+1.8%)
2022年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.5%(年率+1.8%)と予測します。
明治安田総研+0.6%
(+2.2%)
2023年前半は、物価高が引き続き個人消費の足を引っ張ると予想される。1月の東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年比+4.3%と、41年8ヵ月ぶりの高い伸びとなった。食品メーカーは年明け以降も値上げを実施しているほか、「燃料費調整制度」に基づく電気料金が早ければ4月にも引き上げられることから、消費者物価は当面の間、高い伸びとなる可能性が高い。
海外景気の低迷も輸出の下押し要因となる。米国では、これまでの累積的な利上げの効果が発現することもあって、早ければ春先にも景気後退局面に陥る可能性がある。中国景気は、感染者数がこのままピークアウトに向かえば持ち直す展開が期待できるが、不動産市場の低迷が続くことで、回復の勢いは鈍くなると見込まれる。インバウンド需要の回復などが下支え要因となるものの、海外景気の不振が続くようなら、日本景気が回復基調を続けるのは難しい。
東京財団政策研+0.47%
(+1.89%)
2023年1-3月期のGDPについて、モデルは、海外経済の減速等を背景に弱さが見られる今年1月の製造工業生産予測指数(補正値)や景気ウォッチャー調査を反映することにより、引き続き、マイナス成長を予測。ソフトデータに基づく情報ではあるが、足もとで見られる経済の変化が年初のGDPを下振れさせる可能性を示唆している。

ということで、すべてのシンクタンクが昨年2022年10~12月期の成長率はプラスと予想しています。欧米先進各国は2ケタもしくは2ケタ近いインフレの抑制のために金融引締めを継続しおり、かなりの確率で米国や英国は景気後退に陥ると私は考えています。もちろん、市場における価格を資源配分のシグナルとしているわけですので、現在の資本主義経済においてはインフレが高進した場合、景気を犠牲にしてでもインフレを抑制するというのが、いわば、セオリーとなっています。他方で、全国旅行支援やインバウンド、あるいは、3月からマスクの着用が個人判断となり、5月と少し咲きながら新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が季節性インフルエンザと同じ5類にカテゴリー変更されることなどから、「リベンジ消費」とまではいいませんが、消費が一定の回復を見せるかどうか、こういったプラス要因が海外経済のマイナス要因とどちらが大きいか、ということなのだろうと私は考えています。
ただし、先行き景気について注意すべき政策上の要因、国民のマインドにも影響を及ぼしかねない2点を指摘しておきたいと思います。第1に、国政選挙がほぼほぼない、いわゆる「黄金の3年」において、岸田内閣が財政政策を大きく緊縮路線に舵を切ろうとしているように私には見えてなりません。軍事費をGDP比2%に上げるだけでも、私はどうかと考えています。私はアベノミクスをそれなりに評価しているのですが、新規性を打ち出そうとココロがはやる岸田内閣は「逆コース」を志向する可能性なしとはしません。第2に、日銀総裁・副総裁人事と関連して金融政策の方向性です。明日の国会提示と報じられています。新総裁候補とされる植田教授は「金融緩和の継続が必要」と発言したと報じられていますが、それは植田教授の考える「金融緩和」であって、現在のアベノミクスの第1の矢となった金融政策の継続を意味しません。例えば、昨年、日銀がイールド・カーブ・コントロール(YCC)で長期金利の上限を25ベーシスから50ベーシスへと、バンドの拡大という形で修正した際、金融緩和の姿勢に変わりなくバンドの拡大だけ、と指摘するエコノミストもいましたが、市場はハッキリと金融引締めの第1歩と受け止めました。こういった黒田総裁による異次元緩和の事実上の修正が「金融緩和の継続」の名の下に実行される可能性があります。そして、市場はそれを「異次元緩和の終了」とみなす可能性は否定できません。ひいては、国民のマインドも下振れする可能性を指摘しておきたいと思います。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研究所のリポートから引用しています。

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2023年2月12日 (日)

第一生命のサラリーマン川柳やいかに?

第一生命が主催するわたしの川柳コンクールの投票が始まっています。以前の「サラリーマン川柳」から名称を変更しています。まあ、サラリーマンというよりも、サラリーマンを引退した高齢者のほうが応募が多いような気すらしますから、そうなんでしょう。ということで、第一生命のサイトから優秀100句を画像で引用すると以下の通りです。さて、5月下旬に発表されるベスト10やいかに?

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2023年2月11日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計4冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、加藤雅俊『スタートアップの経済学』(有斐閣)は、イノベーションの期待大きいスタートアップ企業に関する教科書的な分析を取りまとめています。続いて、降田天『事件は終わった』(集英社)は、地下鉄内無差別殺人事件に関わった人々の後日譚を短編で収録するミステリです。続いて、軽部謙介『アフター・アベノミクス』(岩波新書)は、安倍内閣から菅内閣まで続いたアベノミクスについて金融政策から財政政策へのシフトをドキュメンタリとして追跡しています。最後に、神谷悠一『差別は思いやりでは解決しない』(集英社新書)は、LGBTQへの差別に関して、キチンとした制度的な担保が必要であって、思いやりや優しさでは解決しないと主張しています。そして、この4冊に加えて、今週は、アンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死』(創元推理文庫)と松尾由美『バルーン・タウンの殺人』、『バルーン・タウンの手品師』、『バルーン・タウンの手毬唄』(創元推理文庫)のバルーン・タウン3部作を読みました。新刊書ではないのでこのブログでは取り上げませんが、Facebookでシェアしたいと思います。というか、『その裁きは死』はすでにシェアしてあります。Facebokkでは続編が『殺しへのライン』というのは明記したつもりですが、「もう新作出てますよ」という残念なコメントをもちょうだいしたりしています。バルーン・タウン3部作は、たぶん、一気にFacebookでシェアするのではないか、と思います。
ということで、今年の新刊書読書は、先月1月中に20冊、そして、2月に入って先週の5冊と今週の4冊の計29冊となっています。

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まず、加藤雅俊『スタートアップの経済学』(有斐閣)です。著者は、関西学院大学の研究者です。通常の企業に関するマイクロな経済学と違って、スタートアップに関する経済学は、外部性や情報の非対称性が強く作用し、ある種の特別経済学を必要とします。もちろん、マクロ経済学におけるイノベーションについても、スタートアップ企業が担う部分が少なくないわけですから、ここでも通常の企業や産業に関する経済学とは別の経済学研究が進められるべきです。本書はそういったニーズに即してスタートアップの経済学に特化した研究成果を集めています。まず、スタートアップ企業では市場の失敗が通常の企業や産業と比べて大きいと私も認識しています。本書では「新規性の不利益」としています。というのは、おそらく、従来ある業態でのスタートアップというよりは、新しいニッチを探してのスタートアップに重点が置かれているためであろうと私は推測します。例えば、フランチャイジーとしてコンビニを新規に出店するとか、クリーニングの取次店を開くというスタートアップよりは、何らかのイノベーションを利用した新い製品とか、新しい製造方法に即した生産とか、いわゆるシュンペーター的なイノベーションを実用化するスタートアップに重点が置かれています。ですから、かなり外部性が大きいにもかかわらず市場では評価されず、また、新規性故に情報の非対称が大きい、といったことがあります。その上で、スタートアップ企業を起業するアントレプレナーの個人的な資質を論じ、スタートアップ企業を取り巻く企業環境について明らかにしています。ただ、本書でも指摘されているところですが、スタートアップ企業については成功例ばかりが注目される一方で、じつは、その背後には失敗して市場から退出するスタートアップが大量にある、という点は忘れるべきではありません。最も、本書では特に第8章で、スタートアップ企業の退出は決して常にバッド・ニュースであるわけではない、と指摘しています。そして、スタートアップに対する公的支援については、市場の失敗に起因する創業支援や資金不足に対する支援は、もちろん、あり得るとしても、企業のハードルを一律に低下させる公的支援については大いに否定的です。その意味で、アントレプレナーシップ教育の重要性が浮き彫りになります。日本では、リスクを取った挑戦ということが、積極的・肯定的な受け止めをなされず、むしろ、ギャンブルのようなムチャで好ましくない「暴挙」のようにみなされる意識が、デフレ経済下で高まっています。逆に、そいうか、それだけに、中央・地方の政府を上げてスタートアップ支援については大盤振る舞いされる傾向もあります。また、大企業のほうがイノベーションには有利であるとするシュンペーター仮説を無視して、スタートアップ企業に対して過大にイノベーションを期待する向きもあります。私自身はマクロ経済学を専門としていて、本書のようなマイクロな経済学はややや苦手なのですが、こういったキチンと学術的な分析を基にした議論がなされるよう期待したいと思います。ただ、ひとつだけ本書の難点を上げると、データ・研究成果ともにやや古いキライがあります。私は専門外だけに印象論となってしまいますが、「ホントにこれが最新データで、最新の研究論文なのか。もっと新しいのはないのか?」といった疑問を感じないでもない部分がいくつかありました。

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次に、降田天『事件は終わった』(集英社)です。著者は、ミステリ作家なのですが、その昔のエラリー・クイーンや岡嶋二人よろしく、執筆担当の鮎川颯とプロット担当の萩野瑛の2人による作家ユニットです。ということで、本書は12月20日という年の瀬も迫った折に起こった地下鉄内無差別殺人事件、すなわち、犯人がナイフで妊婦に切りつけようとして、止めに入った老人を刺殺するという事件について、冒頭の「00 事件」で短く紹介した後、その後日譚として始まります。「00 事件」を除いて6編の連作短編を収録してます。各短編でクローズアップされる事件関係者はまず、「01 音」では、一目散に事件現場から逃げ出したことをSNSにさらされて、その行為から非難されたことにより、職を失って引きこもりとなった20代の元サラリーマンは、毎日のように正体不明の音に悩まされます。続いて、「02 水の香」では、切りつけられた妊婦は幸いにも軽症ですみましたが、事件後に「霊が見える」といい出し、水の腐った匂いに悩まされます。続いて、「03 顔」では、事件発生の車両に乗っていたという高校テニス部員がケガを克服してインターハイに出場する過程を、同じ高校の報道部員が取材します。続いて、「04 英雄の鏡」は、私のような浅い読み方の読者は、少し理解に苦しんだのですが、ホストを主人公にしています。詳しく書くと叙述トリックのネタバレになりますのでヤメにしておきます。続いて、「05 扉」では、「03 顔」の高校テニス部員と報道部員が、未来を知ることが出来る「未来ドア」のインチキを暴きます。最後の、「06 壁の男」では妊婦を守って刺殺された老人が、どういった人となりで、なぜ妊婦を守ろうとしたのかの理由が明らかにされます。ということで、世間的には一般的にいって事件が終わった、と考えられるつつも、じつは、事件に何らかの形で関わった関係者には、決して事件は終わっていない、ということです。そして、私は、基本的に、ミステリとして読みましたが、隣接ジャンルで、かなり、オカルトやホラーの要素も含んでいます。でも、そういった超自然現象は、本書では科学で解明されます。そういった観点では、エドワード・ホックのサイモン・アークのシリーズに似ているかもしれません。

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次に、軽部謙介『アフター・アベノミクス』(岩波新書)です。著者は、時事通信をホームグラウンドとしていたジャーナリストです。岩波新書から、本書の前に『官僚たちのアベノミクス』、『ドキュメント 強権の経済政策』を出版していて、本書で3部作の完成、ということのようです。私自身は『官僚たちのアベノミクス』は既読ですが、『ドキュメント 強権の経済政策』は読んでいません。ということで、ジャーナリストによるアベノミクスの記録、といえそうです。そして、もちろん、アベノミクスが変化していったさまをあとづけています。ジャーナリストらしく、政治家の影響力を中心に変化の要因を考えていますので、客観的、というか、政策変更の背景となる経済動向については、それほど詳細な観察がなされているわけではないような印象を持ちました。あるいは、逆から見て、私は政策変更の背景の政治家の影響力についてはほぼ無視していますので、私の目から見て経済動向が軽視されているようにみえるだけかもしれません。ということで、私は政治家や官僚あるいは中央銀行幹部のインタラクティブな関係や影響力の行使などにはそれほど興味はありませんので、経済動向との関係で政策変更を考えると、何といっても本書でも指摘しているように、金融政策と財政政策のバランスだろうと考えます。2012年年末の政権交代から、本格的にアベノミクスが始まった2013年には、金融政策も財政政策も、どちらも脱デフレに向けて景気拡大的に運営されていた一方で、2014年4月に消費税率引上げが実施され、軽減品目無しで5%から8%になりました。そして、この緊縮的に運営された財政政策がアベノミクス最大の失敗であった、と私は考えています。ただ、本書でも指摘されているように、震災からの復興税の増税には国民が好意的であることが世論調査の結果などから明らかにされた点も政治的には考慮されたんだろうと思います。加えて、浜田教授をはじめとしてシムズ論文から「物価水準の財政理論」に関心が移ったのは事実かもしれません。でも、安倍内閣の後の菅内閣まで含めたアベノミクスを考えるとしても、私は2014年4月と2019年10月の2度に渡る消費税率引上げを見る限り、財政政策はアベノミクスのしたので緊縮的に運営された、と考えています。ですから、財政政策が緊縮的であっただけに、金融政策が過剰に緩和的に運営される必要があったと考えるべきです。ちょうど、来週に日銀総裁・副総裁の候補が国会に示されると報じられていますが、黒田総裁の異次元緩和という記入政策だけを取り出して議論するのではなく、アベノミクスの下で緊縮的に運営された財政政策とセットとして経済政策、アベノミクス、あるいは、現在の岸田内閣の下でのポストアベノミクスについて、評価する必要があります。

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最後に、神谷悠一『差別は思いやりでは解決しない』(集英社新書)です。著者は、LGBT法連合会事務局長ということですが、市民活動家のカテゴリーに当てはまるのではないか、と私は考えています。本書の副題が「ジェンダーやLGBTQから考える」となっており、いろんな差別がある中で、LGBTQから見た差別を中心に議論していますが、それ以外にも当てはまる論点が提示されていると私は考えています。LGBTQの問題に関しては、私自身はしす現だ~のヘテロセクシュアルであって、しかも、中年・初老の男性として、ある意味で、もっとも保守的と考えられるクラスに属しています。ですから、頑迷固陋な意見を持つ同僚や友人はいっぱいいます。ただ、私自身は基本的にリベラルなナチュラリストであって、ご本人や周囲がよければ構わない、と考えています。よく引用する文句は「いいじゃないの、幸せならば」だったりします。ただ、本書に関して2点付け加えたいと思います。第1に、私はエコノミストとして、大学生向けに経済学の授業をする際に、基本的に、「思いやりでは解決しない」と同じことをいっています。すなわち、「経済学とは政策科学であって、ひとのココロの問題ではない」ということです。小学生レベルであれば、「人のココロから憎しみがなくなれば戦争しない」なんてのもいいのですが、経済学を学ぶ大学生に対しては、キチンと制度的な対策や組織的な政策が必要と教えるべきだと私は考えています。反論する学生は今までいませんが、反論されたら、「交通安全を願うココロだけでは交通事故はなくならない。信号や横断歩道や速度制限などの交通ルールが必要」と回答します。第2に、総理秘書官の放言や辞任問題と関連して、岸田総理自身の「社会が変わってしまう」発言が問題視されていますが、私は別の意味で「社会を変えたい」という観点も必要と考えています。直接にLGBTQではないのですが、私は女性の管理職を大幅に降らすことが出来れば、日本の経済成長を大いに加速することが出来ると期待しています。それはまさに、「社会が変わるほどのインパクト」を持った大変革であるべきです。繰り返しになりますが、LGBTQには詳しくありませんが、まさに、保守的な人々が「社会が変わる」と思うくらいの大変革をもたらすインパクトある制度を構築する必要があるのではないか、と考えています。そうすれば、保守的な人々の「ココロ」の持ちようも変わると期待できます。

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2023年2月10日 (金)

1月統計に見る企業物価指数(PPI)上昇率はピークアウトしたか?

本日、日銀から1月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+9.5%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、1月9.5%上昇 企業の価格転嫁続く
日銀が10日発表した1月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.8と、前年同月比9.5%上昇した。指数は過去最高だった前月から横ばいだった。上昇率は前月の10.5%から鈍化したものの、高水準で推移している。エネルギー関連を中心に企業が原材料コストの負担を価格転嫁する動きが続いている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。上昇率は民間予測の中央値である9.6%を0.1ポイント下回った。22年12月の上昇率は10.2%から10.5%に上方修正され、1980年11月(11.8%)以来の高水準となった。
品目別にみると、電力・都市ガス・水道や金属製品などで高い伸び率が続く。電力・都市ガス・水道は49.7%上昇、金属製品は12.8%上昇した。消費者に近い飲食料品(8.0%上昇)などでも上昇が目立つ。公表している515品目のうち前年同月比で上昇した品目は88%と、幅広い品目で値上がりがみられる。
一方、国際商品価格の下落や円安進行の一服を背景に、サプライチェーン(供給網)の川上に近い品目では価格が下落している。石油・石炭製品は12月に前年同月比8.1%上昇していたが、1月は0.5%の下落に転じた。木材・木製品も1月は8.2%下落と、12月(4.8%下落)からマイナス幅を拡大させた。
輸入物価の伸びも減速している。輸入物価指数の円ベースの上昇率は17.8%と高水準ではあるものの、直近ピークの22年7月(49.2%)からは大きく低下している。

注目の指標のひとつであり、やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+9.6%と見込まれていましたので、実績の+9.5%はほぼほぼジャストミートしたと私は受け止めています。PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格やエネルギー価格の上昇とその波及を受けたの上昇です。ただ、この要因は、グラフからも明らかな通り、輸入物価上昇率がピークアウトしたのは明らかで、国内物価についても上昇幅が縮小しはじめたように見えますが、現段階では、国内への波及の方が主役となりつつあると私は考えています。消費者物価への反映はまだしも、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、前年同月に比べて為替レートが減価している円安要因です。ただし、これも広く報じられている通り、日銀に金融政策スタンスの微妙な変更により、円安は一定修正され始めています。
品目別には、引用した記事にもあるように、前年同月比で見て、電力・都市ガス・水道+49.7%、鉱産物+35.4%のほか、鉄鋼+19.2%、パルプ・紙・同製品+14.6%、金属製品+12.8%、窯業・土石製品+11.7%が2ケタ上昇となっています。しかし、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品は先月統計からマイナスに転じて、1月統計でも▲8.2%の大きな下落を記録していますし、石油・石炭製品もとうとう▲0.5%のマイナスに転じました。もちろん、上昇率は鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格としては高止まりしているわけですが、そろそろ、エネルギー価格についてはすでにピークアウトした可能性があると考えるエコノミストが多いと私は考えています。例えば、上のグラフでは資源価格に牽引された輸入物価上昇率が最近時点で大きく上昇率を鈍化させているのが見て取れます。ただし、飲食料品については+8.0%とまだ高い上昇率です。生活に不可欠な飲食料品ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、市場価格に直接的に介入するよりは、消費税率の引き下げとか、所得の増加などが市場メカニズムを生かした望ましい政策と私は考えています。

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2023年2月 9日 (木)

今年はバレンタインのチョコもやっぱり値上げの影響を受けるのか?

食料品などの値上げが相次ぐ中、一昨日2月7日に帝国データバンクから「2023年シーズン『バレンタインチョコレート』価格調査」の結果が明らかにされています。チョコ1粒の平均価格は7%値上げされ、1粒365円から390円へと、+25円の上昇になるとしています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 「7%の値上げ」以上に水面下で広がる物価高と円安の影響 「ホワイトデー」商戦にも注目
  2. チョコレートにも物価高じわり 1粒価格は昨年から約7%上昇 砂糖などの価格高騰響く
  3. 国内ブランドに比べ、インポートブランドのチョコレートで大幅な値上げ 円安も影響

来週はバレンタイデーもあり、pdfの全文リポートから簡単にグラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。

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上のグラフは、リポートから バレンタインチョコ(1粒)の価格推移 を引用しています。ブランド全体では1粒当たりの平均値上げ幅は+25円なのですが、国内ブランドが+18円である一方で、輸入ブランドは+33円となっています。もとrん、昨年後半以降に急激に進んだ円高を反映していると考えてよさそうです。ただ、何といってもデフレマインドの払拭がまだ進んでいないためか、価格改定幅を詳しく見ると、前年から据え置きが国内ブランド・輸入ブランドを通じてもっとも多く40.7%、55ブランドとなっています。うちわけは、国内ブランドが48.6%、36ブランド、輸入ブランドが31.1%、19ブランドとなっています。円安の影響下、あるいは、輸入ブランドの価格付が強気なのか、デフレマインドの払拭にも「外圧」が必要、との説もあって、やや気にかかるところです。

はてさて、今年のバレンタイン商戦やいかに?

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2023年2月 8日 (水)

先行き期待が垣間見える景気ウォッチャーと黒字幅縮小続く経常収支

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2022年12月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.2ポイント低下の47.9となった一方で、先行き判断DIは+1.9ポイント上昇の47.0を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆8036億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、現状判断指数は3カ月連続悪化
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は48.5、前の月より0.2ポイント低下(悪化)した。悪化は3カ月連続。家計動向が悪化した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は49.3で、2.5ポイント上昇した。上昇は2カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
内閣府は景気の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
22年12月の経常収支、334億円の黒字 民間予測984億円の黒字
財務省が8日発表した2022年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は334億円の黒字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は984億円の黒字だった。
貿易収支は1兆2256億円の赤字、第1次所得収支は1兆7952億円の黒字だった。
同時に発表した22年の国際収支状況(速報)によると経常収支は11兆4432億円の黒字だった。

いつもながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、COVID-19の感染拡大により、昨年2022年8月45.5、9月48.9、10月50.8と、緩やかに改善してきていたものの、11月49.4、12月48.7の後、今年2023年1月48.5とわずかながら低下しています。足元では、新型コロナウイルスの感染者数も、死者数もピークを超えたと見られるものの、食品やエネルギーを中心に物価上昇が続いていることから、現状判断指数もやや低下気味です。ただ、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという見方も出始めていて、先行き判断DIは昨年2022年12月統計でも1月統計でも上昇しています。従って、統計作成官庁である内閣府では、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いています。1月統計の現状判断DIを前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が▲0.6ポイントの悪化となった一方で、企業動向関連は+0.4ポイントの改善を示しており、差引きで▲0.2ポイントの悪化という結果になっています。しかし、1月統計の先行き判断DIを見ると、小売関連・飲食関連ともに前月から+2.8ポイント改善しており、物価上昇の先行きは不透明な一方で、繰り返しになりますが、全国旅行支援やインバウンドに対する期待が現れている可能性があります。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て昨年2022年10月統計▲6093億円だけです。ただし、赤字ではないとしても、経常黒字の水準は大きく縮小しています。グラフから見て取れる通りです。その要因は貿易収支の赤字です。もっとも、注意しておくべき点があります。すなわち、広く報じられているのでついつい信じてしまうのですが、昨年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は理解しておくべきです。正確には、季節調整済みの系列で見て、貿易赤字は一昨年2021年8月から2022年12月まで1年半近くに渡って継続しています。サービス収支も合わせた貿易サービス収支ではさらに2か月さかのぼって2021年6月から一貫して赤字が続いています。この期間で貿易収支も、貿易サービス収支も、黒字を記録した月はありません。季節調整していない原系列の貿易収支で見ても、一昨年2021年11月から1年余り連続して貿易赤字となっています。ですから、貿易赤字はウクライナ危機による資源高や円安の半年近く前から始まっている点は見逃すべきではありません。もちろん、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしているのは事実であり、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然です。消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2023年2月 7日 (火)

とうとう基調判断が下方修正された12月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2022年12月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.5ポイント下降の97.2を示した一方で、CI一致指数は▲0.4ポイント下降の98.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

景気「足踏み」に下方修正 22年12月の動向指数
内閣府が7日発表した2022年12月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比0.4ポイント低い98.9だった。4カ月連続のマイナスとなった。海外経済の減速を背景に、ボイラーといった機械の出荷や、アジア向けの輸出が落ち込んだ。
内閣府は指数をもとに機械的に作成する景気の基調判断を「足踏みを示している」と下方修正した。22年1月以来11カ月ぶりの表現で、下方修正は21年9月以来、1年3カ月ぶりとなった。

いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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202年12月統計のCI一致指数については、7か月後方移動平均はまだ上昇を続けていますが、4か月連続の下降であり、3か月後方移動平均でも3か月連続の下降となっています。従って、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」から「足踏み」に下方修正しています。また、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、輸出数量指数▲0.50ポイント、鉱工業用生産財出荷指数▲0.22ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.11ポイントなどとなっています。他方、プラス寄与は、大きなものでは耐久消費財出荷指数+0.23ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)+0.15ポイントなどが上げられます。景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については中立的と、私は見ています。ただし、国内要因は中立的としても、海外要因については、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。景気動向指数の観点からして、輸出数量指数が最大のマイナス寄与を示している点に現れています。ですから、全体としては、先行きリスクは中立というよりも下方に厚い可能性があると考えるべきです。

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2023年2月 6日 (月)

メディアをザッピングした本日の雑感

なかなかリポート採点が終わらない無間地獄に陥りつつも余裕を失いたくない今日このごろです。メディアをザッピングして簡単に2点だけ、そして、別件から1点だけ記録しておきたいと思います。

日経新聞のサイトで、「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診 政府・与党が最終調整」と題する記事を見ました。記事のポイントを3点引用すると以下の通りです。注目は3番めのポイントでしょう。さらに、頭の回転が鈍い私にはよく理解できないジェンダー論を振りかざして、日銀OGである日本総研理事長が副総裁に就任したりすれば、アベノミクスはこれで完全に終了し、デフレに逆戻りした上で新たな景気停滞の10年が始まると私は予想します。他方で、「新しい戦前」にならないよう願っています。

【この記事のポイント】
  • 日銀次期総裁に雨宮正佳副総裁を充てる案で政府が調整
  • 2人の副総裁も含めた人事案を2月中に国会に提示
  • 異次元緩和の副作用をふまえ金融政策の正常化が使命に

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Economist 誌から The world's most, and least, democratic countries in 2022 の画像を引用すると上の通りです。いくつかの段階に分けて民主主義と権威主義が色分けされています。米国はもはや full democracies のではなくなり、西欧以外では、日本・韓国、チリなどのごく限られた国しか残らなくなってしまったのかもしれません。私の直感的な印象で、当然ながら、ヘリテージ財団の Index of Economic Freedom と強く相関しています。ただし、ヘリテージ財団は日本の経済的自由度は韓国よりも低い、とランキングしています。まあ、中国についてはもっとも権威主義レジームが強くて、経済的自由度も低い、というのは衆目の一致するところかもしれません。

最後に、どうでもいい点をひとつだけ、リポートの採点をしていて気づきの点です。というのは、当然ながら、学生番号と指名をチェックしながら採点しているわけですが、伝統的な名前が少なくなっている気がします。何が伝統的な名前かといえば、名前の最後の文字です。すなわち、男子学生の名前で「x男」、「x雄」、「x夫」と書いて、「xxお」と読ませる名前はほとんど見かけなくなりました。女子学生の方では「x子」が、これもほとんどいません。むしろ、いわゆるキラキラネームの方が目につくくらいです。漢字も凝ったものが多いです。我が家では小学校2年生とか3年生で初めて自分の名前を漢字で書く時に苦労しないように考えて、子供達の名前には10画未満の漢字を使いましたが、恐ろしく複雑な漢字を使っている名前も見かけます。実は、私が東京にいた時に師事した書道の先生から、お勤めが定年になった後に非常勤で近くの都立高校の書道教員をして、卒業証書の名前を400人とか500人分書く時、もう60歳を過ぎた書道のお師匠さんでも初めて見る漢字が必ず2-3人はあった、と聞かされた記憶があります。私は多様化はそれそのものとしてはいいことだと考えていますが、社会的な混乱をもたらすまでに多様化するケースはどうか、とも思っており、それくらい年齢を重ねてしまったのかもしれません。

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2023年2月 5日 (日)

昨年の映画のヒット作やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、1月31日に、日本映画製作者連盟から「日本映画産業統計」が明らかにされています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が徐々にフェイドアウトし、興行収入はCOVID-19前の水準に戻りつつあるように見えます。pdfのプレスリリースもアップされています。まず、朝日新聞のサイトからニュースの最初のパラだけを引用すると以下の通りです。

100億円超えメガヒットが4作、3本は日本アニメ 昨年の映画興収
大手映画4社で作る日本映画製作者連盟(映連)は31日、昨年の興行収入が前年比31.6%増の2131億1100万円だったと発表した。現在の発表形式になった2000年以降では7位の数字。コロナ禍で大きく落ち込んだが、19年以前の水準にほぼ戻った。

ということで、100億円超のメガヒット4本をはじめとして、邦画と洋画を取り混ぜたトップ5は以下の通りです。洋画の「トップガン マーヴェリック」以外、すなわち、トップ5に入った邦画はすべてアニメ、ということになります。

  1. One Piece Film Red (197.0億円)
  2. 劇場版 呪術廻戦 0 (138.0億円)
  3. トップガン マーヴェリック (135.7億円)
  4. すずめの戸締まり (131.5億円)
  5. 名探偵コナン ハロウィンの花嫁 (97.8億円)

最後に、私は映画は見ていませんが、ノベライズされた小説を読んだ「すずめの戸締まり」のポスターは以下の通りです。

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2023年2月 4日 (土)

今週の読書はまたまた経済書なしで計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、伸井太一・鎌田タベア『笑え! ドイツ民主共和国』(教育評論社)は、社会主義時代の旧東ドイツのジョークを収録しています。あさのあつこ『乱鴉の空』(光文社)は、小暮進次郎と遠野屋清之介が主人公となる弥勒シリーズの時代小説で、シリーズ第11巻目となります。絲山秋子『まっとうな人生』(河出書房新社)は、十数年前の『逃亡くそたわけ』の続編であり、富山県を舞台にしています。保阪正康『昭和史の核心』(PHP新書)は、太平洋戦争を中心に昭和史をひも解いています。最後に、中村淳彦『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社新書)は、新宿歌舞伎町を舞台に中年男性から風俗産業で資金を得た女性がホストに貢ぐというエコシステムを貧困女性に対するインタビューをてこに明らかにしています。
ということで、今年の新刊書読書は、先月1月中に20冊、そして、2月に入って今週の5冊の計25冊となっています。後期の授業を終えて、何となくだらけて経済書を読んでいないのは別としても、『乱鴉の空』は私はミステリと考えていますが、最近の読書では極めてミステリが少なくなっています。来週こそはしっかりとミステリも読みたいと思います。

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まず、伸井太一・鎌田タベア『笑え! ドイツ民主共和国』(教育評論社)です。著者は、ドイツ製品文化・サブカルライターと東ベルリン生まれでドイツ語ネイティブのフリーライターです。実は、1月21日付けの朝日新聞の読書欄で紹介されていて大学の生協で買い求めました。日本人的な観点からすると、欧州のジョークは英国が一番であって、ドイツ人はそれほどジョークを得意としているわkではない、特に、社会主義体制下の旧東ドイツは尚さら、という見方がありそうな気がしますが、私はそれなりに外国生活を経験して、旧ソ連や社会主義だったころの東欧圏でもジョークはいっぱいあるのは知っていました。例えば、先日のブログでも取り上げましたが、東ドイツ製の自動車トラバント(あるいは、ソ連製のラダでも何でもOK)とロバが道で出会った際の会話で、ロバがトラバントに対して「自動車くん」っと挨拶を呼びかけるのに対して、トラナbトが挨拶を返して「ロバくん」と呼びかけると、ロバが不機嫌になり、ロバの方はトラバントに対して「自動車」とサバを読んで格上げしているのだから、トラバントもロバのことを「ウマ」くらいにお世辞をいえないのか、と文句を垂れる、といったものです。トラバントは「自動車」ではない、それは、ロバがウマではないのと同じ、という趣旨です。もっとも、私の知っているこのトラバントに関するジョークは本書には収録されていませんでした。ただし、本書でも、そういった種類の旧東ドイツに関するジョークが、ドイツ、ないし、東ドイツの概要の解説から始まって、政治ジョーク、お役人ジョーク、生活ジョーク、インターナショナルなジョーク、ブラックなジョーク、などと分類されて収録されています。ドイツ語の表現とともに収録されていて、当然に、邦訳するよりもドイツ語そのままの方がヒネリが利いている、というジョークが少なくありません。実は、私は大学生の頃は第2外国語はドイツ語を取った記憶が鮮明にあるのですが、まったくドイツ語は理解しません。むしろ、在チリ大使館に3年間勤務しましたので、スペイン語の方が理解がはかどります。でも、東欧のスラブ語ではなく、西欧のラテン語から派生した言語はそれなりに共通性があります。英語で clear は日本でも理解されやすい外来語ですが、ドイツ語では klar、スペイン語では claro になります。英語では限られた意味しか持ちませんが、ドイツ語やスペイン語では単独で使うと「もちろん」という肯定の回答になったりします。おそらく、イタリア語とスペイン語は大元のラテン語にもっとも近いんではないか、と私は想像しています。でも、他の言語をそれほど理解しませんし、パリに行った際にはフランス語ではなくスペイン語ですべて済ませていた程度の語学力ですので、詳細は不明です。脱線しましたので本書に戻ると、私も知っている範囲で、モノ不足をモチーフにしたジョークと情報制限や情報操作をモチーフにしたジョークが印象的でした。前者では、資本主義地獄に対して社会主義地獄では生産が不足して針山ができない、とかですし、後者ではナポレオンが東ドイツの製品でもっとも欲しがるのはご当地の新聞で、ワーテルローで破れたことを知られずに済む、というものです。ナポレオンについては、本書では言及していませんが、ロスチャイルドがワーテルローで英国勝利の情報をいち早く得て巨利を得た、という史実を踏まえています。本書で欠けている最後のポイントなど、もう少しドイツから視野を広げた方がジョークをより楽しめる、という些細な難点はありますが、まあ、面白い本でした。

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次に、あさのあつこ『乱鴉の空』(光文社)です。著者は、『バッテリー』などの青春小説でも有名な小説家です。本書は「弥勒」シリーズの最新刊であり、シリーズ第11作めに当たります。私は、たぶん、全部読んでいると思います。主人公は、極めてニヒルですべてを見通したかのような八丁堀同心の小暮進次郎、そして、国元では刺客・暗殺者として育てられながら江戸に出て商人として成功した遠野屋清之介ですが、小暮進次郎の手下の岡っ引きである伊佐治も重要や役回りを演じます。ということで、本書では、小暮進次郎の屋敷が奉行所の探索にあって小暮進次郎が姿をくらますとともに、手下の伊佐治が大番屋にしょっぴかれて取調べを受けるところからストーリーが始まります。まずは、遠野屋清之介が伊佐治の店である梅屋に現れて、商いのツテから伊佐治の釈放に努めます。そして、小暮進次郎の行方は遠野屋清之介がつきとめ、別の案件に見えた鍛冶職人やその関係者が襲われるという事件から、謎が解かれていきます。実に大きな天下国家にかかわる事案であることが明らかにされます。本書では、最後の方に遠野屋清之介に発見されるまで、ほぼほぼ小暮進次郎が不在なので、いつもとは違う雰囲気のストーリー展開です。その分、というわけでもないのでしょうが、伊佐治の家族、というか、梅屋の一家の様々な面を垣間見ることができます。また、このシリーズは時代小説ながら、基本的にはミステリだと私は理解しており、これまた、小暮進次郎の頭の中だけで謎解きがなされる、というのもこのシリーズの特徴です。ある意味で、このシリーズの終りが近いことを感じさせた作品でした。というのは、このシリーズは町方の小さな事件から始まって、少し前には抜け荷=密輸のお話が出てきましたし、この作品では、繰り返しになりますが、公儀を揺るがせかねないほどの天下国家の大事件が背景に控えている可能性が示唆されます。同心と岡っ引きの事件探索に実は凄腕の剣術家の商人が関わってストーリーが展開される、という基本ラインはほぼほぼ終了した気がします。でも、少なくとも遠野屋に手妻遣いの新たな人物が送り込まれてきましたし、少なくとも次回作には続くんだろうと思います。まあ、何と申しましょうかで、シリーズ終了まで私は読み続けそうな予感があります。最後の最後に、有栖川有栖の本格ミステリに『乱鴉の島』というのがあります。大丈夫と思いますが、お間違えにならないようご注意です。

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次に、絲山秋子『まっとうな人生』(河出書房新社)です。著者は、小説家であり、「沖で待つ」により芥川賞を受賞しています。たぶん、私はこの「沖で待つ」と、本書の前作に当たる『逃亡くそたわけ』とか、やや限られた作品しか読んでいません。ということで、前作に当たる『逃亡くそたわけ』は福岡の精神病院から20歳過ぎの女子大生の花ちゃんが、名古屋出身で慶応ボーイの20代後半サラリーマンのなごやんが脱走して、阿蘇や鹿児島までクルマで逃走する、というストーリーでした。本書は、何と、その花ちゃんとなごやんが十数年を経て富山県で再会し、ともに家族持ち、というか、結婚して配偶者を得、さらに、子供もともに1人ずつもうけるという舞台設定での続編です。ですから、前作で何度も登場したマルクス『資本論』からの一節はまったく出てきません。そして、前作では、まだ精神病が治り切っていない段階でも逃亡劇でしたが、本作では薬の服用はあるものの、ライオンめいた精神科医に飛び込んで診察して薬の処方箋を出してもらう、といったシーンはありません。ストーリーは、2人が富山県で再会して家族ぐるみのお付き合いが始まる、というところから始まり、共通の趣味であるキャンプに行ってなごやんの家の犬が行方不明になって探したり、さまざまな人生、もちろん、タイトル通りのまっとうな人生に起こり得るイベントへの対応で進みます。最後の方で、なごやんが音楽フェスに行くかどうかで、絶対に行くというなごやんと反対する花ちゃんやなごやんの奥さんが仲違いしそうになったり、といったクライマックスに向かって進みます。このあたりは、コロナ文学の一部が現れています。実に、作者の筆力がよく出ている優れた作品です。ストーリー、というか、大衆文学に求められがちなプロットの面白さ、あるいは、結末の意外性などをまったく持たなくても、これだけ書ければ読者は満足する、という意味での純文学のパワーが感じ取れます。まあ、シロートが書いているわけでもないですし、芥川賞作家なのですから当然といえます。ただ、プロットではないかもしれませんが、「沖で待つ」にせよ、前作『逃亡くそたわけ』にせよ、この作品でも、恋愛関係にない男女の仲、というか、関係や心の動きなどを実にうまく表現しています。他の作品をそれほど読んでいるわけではありませんが、この作者の真骨頂を増す部分かもしれない、と思ったりしています。男女の機微も含めて、本書では風景や情景というよりも、登場人物の心の動きが実に繊細かつ美的に描写されています。それらを表現する言葉を選ぶセンスが抜群です。まあ、これも当然です。最後に、2011年3月の東日本大震災やそれに起因した原発事故の後には、震災文学と呼ばれる作品がいくつか発表されました。本書は、その意味でいえば、コロナ文学といえるかもしれません。私は不勉強にして、ほぼほぼ初めてコロナ文学を読んだ気がします。なごやんの音楽フェス待望論ではないですが、コロナとの付き合い方を登場人物が正面から考え、小説としてコロナのある日常を描こうという試みの小説は、他にもあるとは思うものの、その中心をなす作品かもしれない、と思ったりも足ます。

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次に、保阪正康『昭和史の核心』(PHP新書)です。著者は、作家、評論家とされていますが、私は基本的にジャーナリストに近いラインと考えています。ですから、文藝春秋の半藤一利と同じような属性、と考えていたりします。なお、本書の最終第5章のそれも最後の方で半藤一利が言及されていて、本書の著者はそれに対して「作家の」という形容詞を付けていて、やや笑ってしまいました。他方で、著者は太平洋戦争当時の軍部に対してき分けて批判的な見解を本書でも明らかにしており、ある意味で、リベラルなのかもしれない、と思ったりします。まあ、違うかもしれません。ということですので、本書のタイトルに即していえば、昭和史の最大重視されるべき史実は太平洋戦争、ということになります。ただ、それは本書の著者でなくても大部分の日本国民は同意することと思います。ですから、ハッキリいって、本書はそれほど歴史の勉強になるものではありません。著者独自の見解がいくつか見られますが、たぶん、平均的な日本人と大きくは違わないものと私は受け止めています。加えて、本書巻末で示されているように、本書に初出の論考はありません。すべて、毎日新聞、信濃毎日新聞、共同通信から配信されたコラムなどを編集し直したものですので、新たに発見された歴史的事実が示されているわけでもありません。ただ、いくつか考えるべき論点は示されています。すなわち、著者の最も関心深い戦争についてで、本書では軍部が日清戦争の教訓から戦争を「儲かるもの」として捉え、太平洋戦争でも勝つまで遂行する、という姿勢を崩さなかった、と指摘していますが、私は違うと思います。というのは、基本的に儲かるかどうかを経済学的に考えると、設備投資と同じで投資とリターンの収益性を考えることになりますので、「勝つまで止めない」ではなく、そもそも「始めるかどうか」についてキチンと原価計算する、ということが要諦です。ですから、原価計算が出来ていなかった、というのが真相ではなかろうか、あるいは、原価計算を判断する主体がいなかった、ということだろうと思います。後者から考えるに、本書でも指摘しているシビリアン・コントロールが欠如していた、ということになります。日清戦争や日露戦争では、明らかに、政府首脳が戦争をやるかやらないか、あるいは、どこで止めるか、についてしっかりと判断を下しています。まあ、第1次世界対戦が欧州の勝手で始まって、勝手で終わってしまったために、やや感覚がおかしくなった面はあると思います。でも、経済計算や原価計算で戦争を考えるのは限界、というか、軍部の態度がそうだったとするのにはムリがあります。加えて、ほぼほぼ日本国内で議論が尽きていて、海外の反応という要素がまったく欠落しています。このあたりを批判的に考えながら読み進み必要があります。

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最後に、中村淳彦『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社新書)です。著者は、ノンフィクション・ライターで、少し前までは風俗ライターだったと本書では自ら記しています。本書は、タイトル通りに、新宿歌舞伎町、特に、ゴジラヘッドが特徴的な新宿東宝ビルができた2018年以降に、そのあたりに集まり出したトー横キッズなどを中心に、風俗産業や街娼などで中年男性から得た資金をホストに貢ぐといった使い方をする貧困女性などを取材して取りまとめた結果です。なお、おそらく、本書では言及されていませんが、プレジデントオンラインにて本書と同じタイトル、同じ著者による『歌舞伎町と貧困女子』という連載がありますので、おそらく、かなりの程度には連動しているのだろうと想像されます。取材対象はあくまで歌舞伎町貧困女子であり、繰り返しになりますが、表裏を問わず風俗産業で男性から得た資金を持って、多くの場合はホストに貢いだり、何らかの暴力的な要因も含みつつ男性に奪取されたり、といったために貧困に陥っている女性です。そして、中には月収100万円超の女性もいますが、それをホストに貢ぐために稼いでいるのであって、自分の消費に回す部分は極めて小さい、ということが想像されます。加えて、こういったインタビュー対象の女性の中には、何らかの精神的な疾患や障害を抱えている人もいます。個別のインタビィーは本書を読むか、プレジデントオンラインを見るのがベストですので、個々では詳細には言及しませんが、とても悲惨な現状が明らかにされています。まあ、合いの手に、警察の規制が厳しくなって活動範囲が大きく制限されるようになったヤクザの現状なども、まあ、歌舞伎町のエコシステムの一部でしょうから、簡単にルポされていたりします。私は性産業で搾取される女性に極めてシンパシーを感じていて、一般社団法人Colaboの活動などは強く支持していますが、ただ、本書でも例外があって、パパ活の定期19人で月に150万円以上稼いで、ホストに入れあげることもなくガッチリ貯金している女子大生がいましたので、こういうのをクローズアップしてColaboの活動などに反論したりするする連中もいるのだろうと思います。何と申しましょうかで、60歳の定年まで公務員だった私のような凡庸な人間には、なかなか目につかない世界なのだという気はしますが、こういった現実がまだまだある点は忘れるべきではないと思います。最後に、歌舞伎町における資金の流れ、というか、中年男性から風俗産業の女性が資金を得て、それがホストに貢がれる、という歌舞伎町のエコシステムに何度か言及されていますが、その食物連鎖の底辺の男性にはインタビューがなされている一方で、頂点のホストへのインタビューはありません。少し物足りないと感じる読者もいそうな気がします。

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2023年2月 3日 (金)

1月の米国雇用統計はちょっとびっくりの+517千人増を記録

日本時間の今夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、非農業部門雇用者数の前月差は直近の1月統計でも+517千人増となり、失業率は前月からさらに低下して3.4%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に5パラ引用すると以下の通りです。

U.S. jobs report today: Economy added 517,000 jobs despite recession risk; unemployment fell to 3.4%
Employers added a booming 517,000 jobs in January as hiring unexpectedly surged despite high inflation, rising interest rates and the prospect of a weakening economy.
The unemployment rate fell from 3.5% to 3.4%, lowest since 1969, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had forecast 185,000 job gain.
The blockbuster jobs total will likely not be welcomed by a Federal Reserve looking for job gains and wage growth to slow to further reduce high inflation and bolster its plan to pause its aggressive interest rate hike campaign in coming months.
As a result, futures traded for the Dow Jones Industrial Average dropped by nearly 80 points after the report was released.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がった2020年4月からの雇用統計は、やたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ちょっとびっくりの+517千人蔵を記録しました。加えて、失業率もさらに低下して3%台半ばのここ50年来の水準を続けているわけですので、労働市場の過熱感は継続していると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が強力な金融引締めを実施していますが、それでも、直近の連邦公開市場委員会(FOMC)では、従来の利上げ幅から大きく縮小させて25ベーシスポイントにとどめました。私自身は米国経済はインフレ抑制のコストとして景気後退に陥るであろうと考えていましたが、1月の雇用統計を見る限り、雇用はまだまだ強いとしか言いようがありません。例えば、引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人を下回る+185千人程度の雇用増との見通しだったので、実績は上振れた印象です。加えて、失業率も前月からさらに低下しています。明らかに、米国連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーが長期的な均衡水準と考える+4%を下回った状態が続いています。私が知る限り、昨年2022年も、一昨年2021年も、なぜか、1月の雇用者数増加幅は大きく跳ねる傾向があるのですが、毎年1月には季節調整をかけ直すので、何らかの統計のクセが出ている可能性は否定できませんが、それにしても、+500千人超の雇用増はちょっとしたサプライズです。ですので、USA Todayの記事の5パラめにあるように、FEDのさらなる強力な金融引締めを予想して株式市場は下落するという反応を見せました。他方で、米国のメタなどの大手IT企業が相次いで大幅な人員整理を打ち出していると報じられており、こういった動きが統計に反映されるのには少し時間がかかるのかもしれません。他方で、量的には失業率も雇用者数も加熱気味なのですが、同じ米国労働省の統計で見る限り、賃金上昇もインフレもピークを越えたように見受けられるのも事実です。下のグラフは、時間あたり賃金の伸びと消費者物価の前年同月比上昇率をプロットしています。少なくとも、パッと見ではすでにピークを超えた印象があります。

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節分にまくのは大豆ではない???

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昨日2月2日付けのウェザーニュースのコラムで、「節分といえば大豆?」と題するコラムがあり、北日本などでは大豆ではなく落花生をまく、という事実を、何と、60代半ばになって初めて知りました。上の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。
ウェザーニュースでは全国落花生協会にインタビューし、私が判断する限り合理的な理由としては、「雪の中に撒いた豆を拾うのは落花生の方が楽ですし、後で食べることを考えると殻に入った豆の方が衛生的である」と指摘されています。私は平均的な日本人よりは合理的であろうと自負していますが、まあ、ご指摘の通りなのかもしれません。でも、逆に、私は日本一の落花生の産地である千葉県民を3年ほどしていたことがありますが、千葉県では落花生ではなく大豆を使っていたように記憶しています。

まだまだ、人生で知らないことはいっぱいあるようで、年齢がいくつになっても勉強です。

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2023年2月 2日 (木)

帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査」やいかに?

一昨日1月31日に、帝国データバンクから「『食品主要195社』価格改定動向調査」の結果が明らかにされています。リポートでは、今年2023年に値上げする食品は調査対象となった主要食品メーカー195社で、4月までに1万品目を超え、足元で値上げの動きが収まる気配は見られない、としています。まず、帝国データバンクのサイトから主要な結論を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 月間2000品目超の値上げ、夏まで常態化の可能性も 今後注目は「輸入小麦」と「飲料」
  2. 年内値上げは食品主要195社で1万品目突破 前年より3カ月早く到達
  3. 2月は加工食品で昨年以降最多の「値上げラッシュ」 3月には菓子が月間最多に

もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。物価が上昇する中で、特に食品価格の動向は注目されるところですので、リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 2023年の食品値上げの品目数/月別 を引用すると上の通りです。2023年1月末までに決定した今年中の飲食料品値上げ品目数は、上場する主要105 社で1万482品目、非上場の主要90社で1572品目がそれぞれ予定されており、累計で1万2000品目を超え、4月1日までに累計で1万品目を突破します。特に、4月には輸入小麦の価格改定が控えており、その結果がどのように反映されるかは必ずしも十分に確定されていないものの、大きな注目の的となっています。当然に、改定幅次第では現在のところ値上げの動きが比較的沈静化しているパンなどの製品価格に波及する可能性が十分あります。ほかに、物流などのコスト増が続いていますので、かさ張って重い酒類や飲料の値上げ動向も注意が必要です。値上げの原因としては、原材料高を理由とするものが99.5%に達し、加えて、原油高などのエネルギー88%、プラスチック容器などの包装・資材71%、などが理由に上げられています。

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続いて、リポートから 主な食品分野 価格改定の動向 を引用すると上の通りです。品目別では、加工食品6657品目がもっとも多く、チルド麺や缶詰製品のほか、ウィンナー製品などの値上げが目立っています。次いで、ドレッシングや醤油、ポン酢製品を中心とした調味料2236品目、焼酎や輸入ワイン・ウイスキーなど酒類を中心にした酒類・飲料1810品目が続きます。

消費者サイドでは、値上げは消費抑制にしか働きませんが、企業サイドでは収益が改善される場合もありえます。それが従業員の所得に還元されれば、消費の停滞はいく分なりとも緩和される可能性もあります。コストダウンのための設備投資の動向も気にかかるところです。製品値上げの背景とした従業員への賃上げや設備投資など、企業行動に注目が集まります。

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2023年2月 1日 (水)

民主党政権下での子ども手当をどう評価すべきか?

我が家で購読してい朝日新聞を読んでいると、「子ども手当への『愚か者』発言に立憲民主反撃 『罵詈雑言言われた』」と題する記事があり、民主党政権下での子ども手当に関する評価に対して岸田総理が反省を示した、と報じられています。朝日新聞のサイトから記事の最初のパラだけを引用すると以下の通りです。

子ども手当への「愚か者」発言に立憲民主反撃 「罵詈雑言言われた」
立憲民主党は、民主党当時に児童手当の代わりとして所得制限のない「子ども手当」を創設した際、自民党から受けた攻撃に対する逆襲に出た。所得制限がないことを理由に丸川珠代参院議員から「この愚か者めが」との批判を受けたことに強く反発。丸川氏も岸田文雄首相も「反省」に追い込まれた。

はい。私も当時の子ども手当には評価すべき点があると分析し、長崎大学の紀要論文「子ども手当に関するノート: 世代間格差是正の視点から」を取りまとめています。そして、最後に、 "This study reviews circumstances of Japanese nurturing from the viewpoint of its cost and concludes that redressing the inter-generational inequality between the working and the retired generations should be one of the most effective measures to pick up birth rate." と、訳せば「本研究は、日本の子育て事情をコストの観点から見直し、現役世代と引退世代の世代間格差を是正することが、出生率を引き上げるためのもっとも有効な手段のひとつであると結論付けた。」と結論しています。まあ、私の論文の中では割と出来のいい方で、法政大学の林教授の論文で引用されたりしています。誰も見ないだろうと思いますが、参照先は以下の通りです。

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国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し改定」やいかに?

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昨日、シンガポールにおいて国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。IMFのサイトから成長率見通しの総括表を引用すると上の通りです。
現在のインフレは2023~24年にかけて低下するものの、平均的な成長率には達しない、と見込まれています。世界経済の成長率は今年2023年+2.9%と、昨年2022年10月時点の見通しから+0.2%ポイント上方改定されています。日本の成長率見通しも同じように、2023年1.8%と前回見通しよりも+0.2%ポイントの上方改定となっています。2023年の成長率見通しを国別に見ると、米国が+0.4%ポイント上方改定されて+1.4%、また、中国が+0.8%ポイント上方改定されて+5.2%となったあたりが寄与度が大きそうです。特に中国は0コロナ制作からの転換が成長率の上昇をもたらしている可能性があります。以下、リポートから少し引用しつつ、私なりに重点を振り返りたいと思います。
世界経済のインフレ率は、現在の+10%近い水準から、2023年+6.6%、2024年+4.3%に低下すると見込んでいますが、まだ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前と比較すると+3.5%ポイント高い、と指摘しています。加えて、先行きに関しては、"The balance of risks remains tilted to the downside" としており、インフレ率は低下するとしつつも、生計費危機については、"amid the cost-of-living crisis, the priority remains achieving sustained disinflation" であると指摘しています。

最後に、私は、実は、「危機」crisis というのであれば、生計費もさることながら、現在の金融引締めが流動性供給や資金調達に影響して、小規模なものかもしれないとしても、何らかの金融的な不安定につながる懸念を持っているのですが、リポートでも "With tighter monetary conditions and lower growth potentially affecting financial and debt stability" と指摘しています。これはご参考です。

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