« 東京商工リサーチによる価格転嫁と賃上げの相関分析の結果やいかに? | トップページ | 日銀ワーキングペーパー「わが国の賃金動向に関する論点整理」やいかに? »

2023年2月16日 (木)

赤字が定着しつつある貿易統計と2四半期連続マイナスの機械受注をどう見るか?

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から昨年2022年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。季節調整していない原系列で見て、貿易統計では、輸出額が+3.5%増の6兆5511億円に対して、輸入額は+17.8%増の10兆477億円、差引き貿易収支は▲3兆4966億円の赤字となり、一昨年2021年8月から18か月連続で貿易赤字を計上しています。次に、機械受注では、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+1.6%増の8519億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字最大の3.4兆円 1月、対中輸出停滞や円安響く
財務省が16日発表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3兆4966億円の赤字だった。単月として比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高で輸入が増えた。中国向けの輸出の停滞も響いた。
2022年8月の2兆8248億円の赤字を上回った。赤字は18カ月連続となる。15年2月まで32カ月続けて赤字になったとき以来の長さだ。
輸入は前年同月比17.8%増の10兆477億円だった。値上がりした石炭や液化天然ガス(LNG)、原油などの輸入額が増えた。原油の輸入価格は1キロリットルあたり7万3234円と前年同月比27.1%上がった。ドル建て価格の上昇率は10.5%で、円安が輸入価格をさらに押し上げた。
輸出は3.5%増の6兆5511億円だった。米国向けの自動車などが増えた。
輸出の増加は輸入に比べて小幅にとどまった。地域別にみると、中国向けの輸出は17.1%減の9674億円だった。1兆円を下回るのは新型コロナウイルスの感染が最初に広がった20年1月以来となる。自動車や自動車部品のギアボックス、半導体製造装置などが減った。
大幅な減少は「春節(旧正月)が早まったことが影響した」(財務省)。今年の春節は1月22日で、22年の2月1日より早かった。中国の物流や工場が止まる春節休みの間は日本からの輸出は減る。同国での新型コロナウイルスの感染拡大も響いたとみられる。
荷動きを示す輸出数量指数(15年=100)は対世界全体が77.2と前年同月比11.5%下がった。対中国が30.7%の大幅な落ち込みとなり、全体を押し下げた。対中国の低下率は09年2月以来の大きさだった。
円安や資源高による輸入の押し上げは一時期より和らいできたが、輸出の停滞が記録的な貿易赤字につながった。1月は日本の正月休みで輸出が減る一方、春節前の在庫確保のため中国からの輸入が増えやすい。赤字になりやすい季節性がある。
季節調整値でみると、輸入は前月比5.1%減の9兆6093億円、輸出は6.3%減の7兆7880億円だった。収支は1兆8212億円の赤字となった。
機械受注5.0%減 22年10-12月、2四半期連続マイナス
内閣府が16日発表した2022年10~12月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)は前期比5.0%減の2兆6054億円だった。マイナスは2四半期連続。海外景気の減速への懸念から、企業が設備投資に慎重になっている可能性がある。
製造業が前期比14.0%減となり、2四半期連続でマイナスだった。半導体製造装置などの発注者となる電気機械の製造業は14.6%、情報通信機械の製造業は13.5%それぞれ減った。海外経済が減速し、輸出が減るとの観測が背景にあった。
船舶と電力を除く非製造業は4.7%増で、2四半期ぶりのプラスだった。卸売業・小売業では10.0%、ソフトウエアやインターネット関係といった情報サービス業では13.6%それぞれ増加した。デジタル化のための投資意欲が高かった。
12月末時点での23年1~3月期の受注見通しは、22年10~12月期から4.3%増とした。海外経済の状況変化をにらみ、いったん見送った投資を1~3月期に実施するとみる。
同日発表した12月の「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)の受注額は前月比1.6%増で、2カ月ぶりのプラス。内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いた。22年通年の受注額は前年比5.2%増の10兆7418億円で、2年連続の増加だった。
12月は、船舶と電力を除く非製造業からの受注は2.5%減った。製造業は2.1%増加し、4カ月ぶりのプラスとなった。

どうしても長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

photo

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▴兆円近い貿易赤字が見込まれていて、実績の▲3.5兆円台半ばの貿易赤字は大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2023年1月までの18か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、22か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びは反転した可能性すらあり、貿易赤字がこのまま一本調子で拡大するとは考えにくく、むしろ、昨年2022年後半に毎月▲2兆円超の貿易赤字を記録していたころから赤字幅はやや縮小しています。円安も一時に比べて落ち着きを取り戻しているのは多くのエコノミストの意見が一致するところです。ですので、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
1月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。しかし、前年同月比の伸び率は大きく鈍化しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで+6.4%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+48.4%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、昨年2022年10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、伸びはやや鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは0.5%増であるにかかわらず、金額ベースでは+57.0%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+4.1%増に過ぎませんが、金額ベースでは+24.1%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も数量ベースと金額ベースで違いが際立っています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで▲0.8%減と減少していますが、金額ベースでは+3.7%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+1.8%増にすぎないながら、金額ベースでは+13.7%増と伸びています。また、いずれも金額ベースで一般機械+4.3%増、電気機器▲1.5%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出の伸びはやや停滞しています。これは、先進各国がインフレ抑制のために金融引締めを継続していて、景気が停滞していることが背景にあります。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因であり、私はむしろ、少ない輸出で多くの輸入が出来ているお得感すらあると感じています。

photo

引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+3.0%増の予想でしたから、実績の+1.6%増はやや下振れた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。上のグラフで見ても、増加のトレンドが反転した可能性が読み取れると思います。ただし、受注水準としては決して低くはない、と私は受け止めています。また、今年2023年1~3月期の見通しでは、前期比+4.3%増の2兆7179億円と見込まれていますので、海外景気が停滞していることを反映していることは確かですが、国内からの受注も含めれば、まだトレンドが反転したと見ることはないと考えています。昨年2022年12月統計について産業別に少しだけ詳しく見ると、製造業が+2.1%増の3,941億円、船舶と電力を除く非製造業は▲2.5%減の4,581億円となっています。

|

« 東京商工リサーチによる価格転嫁と賃上げの相関分析の結果やいかに? | トップページ | 日銀ワーキングペーパー「わが国の賃金動向に関する論点整理」やいかに? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 東京商工リサーチによる価格転嫁と賃上げの相関分析の結果やいかに? | トップページ | 日銀ワーキングペーパー「わが国の賃金動向に関する論点整理」やいかに? »