昨年2022年10-12月期GDP統計速報1次QEに見る景気動向やいかに?
本日、内閣府から昨年2022年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.2%、年率では+0.6%と、2四半期ぶりのプラス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+1.1%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
日本のGDP年率0.6%増 10-12月、2四半期ぶりプラス
内閣府が14日発表した2022年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.2%増、年率換算で0.6%増だった。プラス成長は2四半期ぶり。22年の実質GDPは前年比1.1%増で、2年連続のプラスだった。新型コロナウイルス禍から経済の正常化が緩やかに進んでいる。
10~12月期の年率換算の成長率はQUICKが事前にまとめた市場予測の中心値(1.8%)を下回った。前期比で外需がプラス0.3ポイント、内需がマイナス0.2ポイントの寄与だった。
内需の柱でGDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%増えた。供給制約の緩和で自動車などの耐久財が伸び、政府の観光促進策「全国旅行支援」も追い風に宿泊や交通がプラスだった。飲料など非耐久財は10月の値上げを前に駆け込みがあった反動で減少した。
内需のもう一つの柱の設備投資は0.5%減と、3四半期ぶりにマイナスに転じた。半導体製造装置や一般機械などが減った。世界的な半導体需要の減少や海外経済の減速懸念が影響した可能性がある。
住宅投資は0.1%減で6四半期連続のマイナス。資材価格の高騰で持ち家の着工が鈍っている。コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は0.3%増だった。
民間在庫変動の寄与度は0.5ポイントのマイナスとなった。原油などの原材料の在庫積み増しが前期より減ったとみられる。
輸出は1.4%増えた。計算上、輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)消費が10月の入国規制の緩和に伴って伸びた。輸入は前期に海外への広告関連の支払いが大幅に増えた反動もあり、0.4%減った。輸出から輸入を差し引いて計算する外需はプラスの寄与となった。
名目GDPは前期比1.3%増、年率換算で5.2%増だった。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比1.1%上昇し、3四半期ぶりにプラスに転じた。輸入物価の上昇が一服したのに加え、国内で価格転嫁が徐々に広がり始めたことを示す。
雇用者報酬は名目で前年同期比2.9%増えた。実質は1.4%減で、5四半期連続でマイナスとなった。物価上昇に賃金が追いついていない。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、内閣府のリンク先からお願いします。
です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした需要項目 | 2021/10-12 | 2022/1-3 | 2022/4-6 | 2022/7-9 | 2022/10-12 |
国内総生産GDP | +1.1 | ▲0.4 | +1.1 | ▲0.3 | +0.2 |
民間消費 | +3.0 | ▲0.9 | +1.6 | +0.0 | +0.5 |
民間住宅 | ▲1.3 | ▲1.7 | ▲1.9 | ▲0.4 | ▲0.1 |
民間設備 | +0.6 | ▲0.3 | +2.1 | +1.5 | ▲0.5 |
民間在庫 * | (▲0.2) | (+0.8) | (▲0.3) | (+0.1) | (▲0.5) |
公的需要 | ▲1.5 | ▲0.3 | +0.7 | +0.1 | +0.3 |
内需寄与度 * | (+1.0) | (+0.1) | (+1.0) | (+0.4) | (▲0.2) |
外需(純輸出)寄与度 * | (+0.0) | (▲0.5) | (+0.1) | (▲0.6) | (+0.3) |
輸出 | +0.4 | +1.2 | +1.5 | +2.5 | +1.4 |
輸入 | +0.3 | +3.8 | +0.9 | +5.5 | ▲0.4 |
国内総所得 (GDI) | +0.3 | ▲0.7 | +0.4 | ▲1.0 | +0.4 |
国民総所得 (GNI) | +0.6 | ▲0.4 | +0.6 | ▲0.5 | +1.2 |
名目GDP | +0.7 | +0.2 | +1.0 | ▲0.8 | +1.3 |
雇用者報酬 (実質) | ▲0.3 | ▲0.8 | ▲0.4 | ▲0.0 | ▲0.2 |
GDPデフレータ | ▲0.3 | +0.4 | ▲0.3 | ▲0.4 | +1.1 |
国内需要デフレータ | +2.1 | +2.6 | +2.7 | +3.2 | +3.3 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2022年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤色の民間消費や黒の純輸出などがプラス寄与している一方で、灰色の民間在庫のマイナス寄与が目立っています。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+1.8%でしたので、やや下振れた印象ながら、大きなサプライズはありませんでした。先進国でインフレにより消費の伸びが大きく鈍化している一方で、下のグラフに見るように、デフレータの上昇率はかなり高まったものの、我が国では他の先進諸国と比べてインフレのダメージが少ない上に、引用した記事にもあるように、半導体などの供給成約で生産が停滞していた自動車などの耐久消費財が伸びており、また、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージが大きかった宿泊や交通が「全国旅行支援」もあって、10~12月期には消費の伸びが高まっています。民間消費を少し詳しく見ると、耐久財は前期比+2.7%増、前年同期比+11.1%増と大きく伸びましたし、サービスも前期比+1.4%増、前期比年率+5.6%増と、これも増加しています。前期の2022年7~9月期は、ややイレギュラーなサービス輸入の増加によるマイナス成長を記録しましたが、基本的に、景気判断としては引き続き堅調と考えてよさそうです。もちろん、統計の数字だけを見ると、2022年7~9月期に前期比で▲0.3%減の後、10~12月期は+0.2%ですから、7~9月期のマイナス分を10~12月期に取り戻せていないという見方もできますが、もう少し詳しくGDPコンポーネントを見ると、民間在庫の寄与度が2022年7~9月期に前期比成長率に対する寄与度が+0.1%と在庫が積み上がった後、10~12月期は▲0.5%ですから、成長率の足は引っ張ったものの在庫調整が進んだと考えると、決して悪い話ではないと私は受け止めています。加えて、インバウンドの消費に当たる「非居住者家計の購入額」はここ数四半期に渡って年率で500重億円足らずだったのですが、2022年10~12月期には1500十億円近くに達しました。既往でもっとも大きなだった時期に四半期単位で5000十億円弱ですので、⅓くらいまで回復したことになります。それなりに期待は膨らむのかもしれません。ただ、海外経済について留保すべき点もあり、輸出の寄与度が+0.3%ありますので、海外景気が失速する可能性が十分ある中で、今年は輸出にそれほど期待できないかもしれません。

堅調と考えるべき景気判断の根拠はもうひとつあり、資源高と円安による交易条件悪化=所得流出がピークアウトした可能性です。統計を詳しく見ると、2022年10~12月期のGDP成長率は前期比+0.2%、前期比年率+0.6%でしたが、より実感に近い国内総所得(GDI)の伸びは前期比+0.4%、前期比年率+1.6%、国民総所得(GNI)も前期比+1.2%、前期比年率+4.9%に達しています。繰り返しになりますが、家計や企業の景気実感はGDPよりもGDIやGNIに近いと私は考えていますので、昨年2022年10~12月期にはそれなりに経済が回復した、という感覚につながっている可能性が十分あります。ただし、欧米先進各国ほどではないとしても足元での物価上昇=インフレが進行しています。上のグラフは、GDPデフレータ、民間消費デフレータ、国内需要デフレータのそれぞれの季節調整していない原系列の前年同期比をプロットしています。GDPの控除項目である輸入物価に起因するインフレですから、GDPデフレータはそれほど上がっていませんが、民間消費と国内需要のそれぞれのデフレータはいずれも上昇率がグングン高まっています。資源高と円安による輸入価格の上昇に起因する交易条件の悪化や所得の流出から、ホームメードインフレの段階に達し、これをカバーするだけの賃上げが実現できるかどうかに消費の動向が左右されかねません。最初のテーブルで示したように、雇用者報酬は実質で5四半期連続で前期比マイナスを続けています。それだけに、今春闘における賃上げは日本経済の先行きの方向性に大きなな影響を及ぼす可能性があります。
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