4か月ぶりに減産に転じた5月の鉱工業生産指数(IIP)と堅調に推移する雇用統計の先行きをどう見るか?
本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも5月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.6%の減産でした。雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.6%を記録し、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化して1.31倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
5月の鉱工業生産、1.6%低下 4カ月ぶり悪化
経済産業省が30日発表した5月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は103.8となり、前月から1.6%低下した。低下は4カ月ぶり。半導体などの部材不足で自動車工業の生産が大きく減った。
4月の確報値から、算定の基準値を20年の平均に変えた。これまでは15年を基準としていた。20年は新型コロナウイルス流行の影響で生産が落ち込んでいたため、15年を基準とするよりも指数が上振れしやすくなる。
生産の基調判断は前月と同じで「緩やかな持ち直しの動き」とした。足元で部材不足は続くものの、回復する見通しがある。
全15業種のうち12業種で下落した。普通乗用車や軽トラックといった自動車工業が8.9%減った。ブレーキ用など半導体の部材不足が影響し、生産や輸出が鈍った。
リチウムイオン蓄電池などの電気・情報通信機械工業は4.4%減だった。車載用の蓄電池の海外輸出が減った。ポリエチレンなどの無機・有機化学工業は4.6%減、トランジスタなどの電子部品・デバイス工業は4%減だった。
3業種が上昇し、生産用機械工業が3.6%増えた。半導体製造装置の需要が国内外で伸びているためだ。繊維機械も海外輸出が増えた。航空機部品などの輸送機械工業も3.6%増えた。コロナ禍での行動制限が緩和し、航空機の需要が戻ってきている。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は6月を前月比5.6%増と見込んだ。7月は前月比で0.6%減と予測する。
5月の求人倍率、1.31倍に低下 失業率は横ばいの2.6%
厚生労働省が30日発表した5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.31倍で前月から0.01ポイント下がった。低下は2カ月ぶり。原材料高による収益悪化で、製造業や建設業で求人を控える動きがあった。
総務省が同日発表した5月の完全失業率は2.6%で、前月と同じだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。5月は有効求人数が前月から0.7%減少した。有効求職者数は前月から0.1%増えており、求人倍率の低下につながった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で3.8%増えた。新型コロナウイルスの5類移行を受け、サービス業で求人が活発になっている。新規求人数は宿泊・飲食サービス業が13.5%、卸売業・小売業が5.5%それぞれ増えた。
労働時間規制の強化によってトラック運転手の不足が懸念される「2024年問題」を前に、運輸・郵便業も3.5%増加した。
就業者数は6745万人と前年同月比で0.2%増えた。男性は3697万人で0.2%減少、女性は3047万人で0.7%増加となった。
会社などに雇われている雇用者のうち、正規の職員・従業員数は3655万人と前年同月比で0.8%増え、2カ月連続で増加した。非正規は2074万人で0.1%減と、2カ月連続の減少となった。
完全失業者数は188万人と前年同月比で1.6%減った。
とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
まず、引用した記事にもある通り、先月の4月統計の各方から指数の基準を2020年にアップデートしています。というのも、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲1.0%、下限で▲3.0%の減産でしたので、実績の▲1.6%減はコンセンサスよりもやや下振れしているのは、基準改定の影響もあり得ると私は考えているからあです。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」で据え置いています。ただし、先行きについては決して楽観できません。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速しています。私は生産の先行きについては内外の需要要因が大きいと私は考えています。しかし、経済産業省の解説サイトでは、5月統計の解説で「これまでの上昇の反動に加えて、部材供給不足の影響などを受けて、自動車工業等が低下したことなど」と解説していて、供給サイドからの減産の側面が強調されているように見受けられます。もちろん、製造工業生産予測指数を見ると、足元の6月は補正なしで+5.6%の増産、上方バイアスを除去した補正値でも+3.4%の増産と、それぞれ予想されていますが、輸出の占める割合の高い鉱工業生産ですから海外経済の減速は、先行きを考える上で要注意です。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は鉱工業生産指数(IIP)と同じで景気後退期を示しています。まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、これまた、前月から横ばい1.32倍と見込まれていました。ともに前月から横ばいと予想されていましたが、実績では、失業率はコンセンサス通りながら、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。ただし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月かた直近の5月統計まで、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+14万人増加し、就業者も+10万人増、うち雇用者は+25万人増となっていて、逆に、非労働力人口は▲20万人の減少です。完全失業者は+6万人増加していますが、積極的な職探しの結果ではないかと想像しています。また、季節調整していない原系列の統計ながら、休業者数に着目すると、今年2023年に入ってから休業者は前年同月比で減少を続けています。マイクロに見て産業別では、雇用の先行指標とみなされている新規求人数で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更などを背景に宿泊業・飲食サービス業では前年同月比で+13.5%増と大きく伸びており、さらに、その+13.5%の内訳でもパートタイムの+13.1%増に対してパートを除く常用雇用は+14.3%増ですから、質的な中身も決して悪くないと考えるべきです。
ただし、雇用の先行きに関しては、それほど楽観できるわけではありません。というのも、インフレ抑制を目指した先進各国の金融引締めから世界経済は停滞色を今後強めると考えられますから、輸出への影響から生産が鈍化し、たとえ人口減少下での人手不足が広がっているとはいえ、生産からの派生需要である雇用にも影響が及ぶ可能性は否定できません。エコノミストの直感ながら、我が国景気は回復ないし拡大局面の後半期に入っている可能性が高い、と考えられるからです。
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