賃上げと企業利益とインフレの関係を考える IMF Blog やいかに?
とても旧聞に属する話題かもしれませんが、先週月曜日の6月26日の IMF Blog で Europe's Inflation Outlook Depends on How Corporate Profits Absorb Wage Gains と題する記事が先週の Chart of the Week として掲載されています。
上のグラフも IMF Blog のサイトから引用しています。IMFの分析によれば、"Rising corporate profits account for almost half the increase in Europe's inflation over the past two years as companies increased prices by more than spiking costs of imported energy." すなわち、欧州企業は輸入エネルギーの高騰した価格以上の値上げをしたために、ここ2年間の欧州のインフレの上昇のほぼ半分は企業利益の増加に帰せられる、ということです。もちろん、労働者はインフレに見合う賃金上昇を求めているわけで、"companies may have to accept a smaller profit share if inflation is to remain on track to reach the European Central Bank's 2-percent target in 2025" 欧州中央銀行(ECB)のインフレ目標である+2%に到達する起動を維持するためには、企業に対する利益分配はより小さくならねばならない、と結論しています。
もちろん、この分析は欧州経済に対するものであって、日本や米国では欧州とは違う経済状況であるという点は忘れるべきではありません。しかしながら、ウクライナ戦争から激しくなった輸入物価の上昇に対する反応しては、基本的に、世界中で同じことがいえます。すなわち、私は決してマルキストではありませんが、物価上昇を中央銀行のインフレ目標の範囲にアンカーしようとすれば、企業と労働者の間には何らかの階級対立に近い関係があって、両者の取り分はゼロサムになる可能性があります。ネオリベな経済政策の下で、株価が経済政策運営のターゲットのように見なされたり、トリクルダウンの思想に基づいてまず企業利益を優先する方向性が打ち出されたりしていましたが、今こそ、IMFのお考えに基づいて、でもないのでしょうが、企業利益への配分を労働者よりも優先して考えるのはヤメにすべき時期に差しかかっている、と私も思います。
最後に、とてもこじつけなのですが、上のInfoGraphは経済協力開発機構(OECD)のサイトから引用しています。何のInfoGraphかといえば、Beyond Applause? Improving Working Conditions in Long-Term Care と題するリポートを簡単に1枚の画像で説明しようとするInfoGraphです。何のリポートかというと、タイトル通り、Long-Term Care、すなわち、介護で働く労働者の労働条件については、単に拍手を送って称えるだけでなく、キチンと待遇改善がなされねばならない、という趣旨です。私がこのブログで何度も指摘しているように、ココロや優しい気持ち、あるいは、拍手で称えるだけではダメなんです。ちゃんと制度的、あるいは法令に基づく手当が必要です。ということで、このInfoGraphの2行目の左側のパネルに注目です。OECDのような国際機関に加盟する先進国でも、平均時給で見て介護職は▲12%も低くなっています。おそらく、直感的には日本ではもっと低い気がしているのは私だけではないと思います。介護職といった重要なエッセンシャルワーカーのお給料を引き上げるためにも、企業優遇の政策を改める必要がある、という点をやや強引に付け加えておきたいと思います。
| 固定リンク
« 7四半期ぶりにヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善した6月調査の日銀短観をどう見るか? | トップページ | 帝国データバンクによる「『食品主要195社』価格改定動向調査 (2023年7月)」やいかに? »
コメント