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2023年7月11日 (火)

今さらながらに「通商白書2023」に見るインフレの分析やいかに?

今さらながらで旧聞に属するトピックなのですが、先月6月27日に経済産業省から「通商白書2023」が公表されています。動向編、構造編、施策編の3部構成となっており、第Ⅰ部では世界経済の動向と課題、第Ⅱ部では日本経済が抱える課題について分析しており、第Ⅲ部では通商分野に係る政府の取組みについて報告しています。いつもながら興味深い分析で目白押しなのですが、特に、、私が興味を引かれたのが第Ⅰ部同行編の第2章のインフレに関する極めて初歩的な分析です。

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まず、「通商白書2023」p.79から 需要曲線と供給曲線から見た価格変動メカニズム(イメージ) と インフレ抑制に向けた方策 の2つのグラフを引用すると上の通りです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前の均衡から3段階の均衡点の移動が表されています。すなわち、① パンデミックで需要、供給ともに減少、② 徐々に需要が回復するも供給は戻らず、③ ロシアによるウクライナ侵略で供給制約が高まる、ということになります。たぶん、②の段階で供給もいく分なりとも戻ったのでしょうが、「通商白書2023」では無視できる範囲と考えているようで、そのように作図されています。まあ、この②の段階での供給サイドの軽視はいいとしても、問題は下のパネルのインフレ抑制に向けた方策で、金融引締めによる需要の抑制とともに、設備投資の促進による供給サイドの強化は、同時には成り立たないのではないか、という気がしてなりません。

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その無理やりさは、上のグラフ 労働者一人当たり資本ストック・全要素生産性のインフレ抑制効果 への導入なのだと思います。これも「通商白書2023」p.81から引用しています。明らかに、労働者1人当たり資本ストック=資本装備率とインフレの間には負の相関があり、さらに、全要素生産性とインフレの間にも負の相関があることから、資本装備率を高めて、全要素生産性(TFP)を高めることのインフレ抑制効果を強調しようとしているようです。これはこれで正しいのですが、このグラフの直後のp.81にある要因分解ふうの式が妙ちくりんです。最終的には、「労働生産性は全要素生産性と、資本装備率と資本分配率の積に分解することができる。」としていて、これまた、それはその通りなのですが、わざわざ②と③の式を持ち出さなくても、①の式から労働生産性が全要素生産性と資本分配率と資本装備率の積に分解されることは、初歩的な経済学で習うような気もします。加えて、この要因分解からすれば、資本分配率を高めれば労働生産性が高まる、という結果が得られます。残念ながら、資本分配率と労働生産性のグラフは「通商白書2023」には取り上げられていないようです。この資本分配率とインフレの関係は何らかの政策インプリケーションをもたせようと意図されているのでしょうか? 私には謎です。

インフレ抑制のためには労働生産性を引き上げることが必要です。それが単位労働コストの引き下げをもたらすからです。そして、先週の読書感想文で取り上げた『入門・日本の経済成長』でも明らかにされていたように、労働生産性が伸びないのは投資が進まずに労働者あたりの資本ストックが増えないという要因も大いに関係しています。繰り返しになりますが、低賃金が資本と労働の間で資本蓄積に対してネガな要因となって投資が進まず、投資が進まないために資本装備率が上昇せずに労働生産性が向上せず、またまた、この労働生産性の低さが低賃金をもたらす、という極めて低レベルな悪循環に陥っているわけです。ここ数年ないし10年ほどで資本装備率が主要国で低下しているのは『入門・日本の経済成長』p.74のグラフにもある通り日本だけです。生産性を高めるためには資本分配率ではなく労働の資本装備率を引き上げる事が必要で、そのためには投資が必要で、その投資を促進するためには金融を引き締めたり、円高を目指したりするのは真逆の政策だと私は感じています。

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