7四半期ぶりにヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善した6月調査の日銀短観をどう見るか?
本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+4ポイント改善して+5、また、大企業非製造業も+3ポイント下以前の+23となりました。大企業製造業では7四半期ぶりの改善だそうです。また、本年度2023年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+11.8%の大幅な増加が見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、7四半期ぶり改善 日銀6月短観
日銀が3日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の3月調査から4ポイント改善してプラス5だった。7四半期ぶりに改善に転じた。供給制約の影響が和らいだ。大企業非製造業は新型コロナウイルス禍から経済回復が進みプラス23と前回から3ポイント改善した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。6月調査の回答期間は5月29日~6月30日、回答基準日は6月13日だった。
大企業製造業の業況判断DIはプラス5と、QUICKが集計した市場予想の中央値(プラス3)を2ポイント上回った。半導体不足などの供給制約が緩和し、生産が回復している自動車がプラス5と前回から14ポイント改善した。資源価格やエネルギー価格の上昇も一服した。石油・石炭製品はマイナス6と40ポイント改善した。
一方、海外経済の減速で需要が低迷し、電気機械は前回から1ポイント悪化のプラス2となった。生産用機械もプラス20と前回から4ポイント悪化した。
先行きは大企業製造業全体でプラス9と足元からさらに4ポイントの改善を見込む。全体では価格転嫁が進んでいることや原材料コスト高の一服から好調となりそうだが、海外経済への懸念は根強く、一部業種では悪化予想もみられる。
非製造業は経済活動の正常化で景況感の改善が続く。大企業非製造業の業況判断DIはプラス23と、市場予想の中央値(プラス22)を1ポイント上回った。5四半期連続で改善した。
コロナ禍で落ち込んだ対個人サービスは、4ポイント改善のプラス28だった。訪日外国人(インバウンド)の増加で宿泊・飲食サービスは36ポイントと大きく改善しプラス36だった。改善幅、水準ともに2004年の調査開始以来最大となった。
先行きは大企業非製造業全体でプラス20と3ポイントの悪化を見込む。人手不足から来る人件費の上昇や、物価高で消費を手控える動きが広がる懸念が今後の景況感に影響しているもようだ。
販売価格が「上昇」と答えた割合から「下落」の割合を引いた販売価格判断DIは、大企業製造業でプラス34と3ポイント悪化した。仕入れ価格判断DIは大企業製造業が8ポイント悪化のプラス52だった。
いずれも2四半期連続の悪化となったが、水準はなお高い。日銀の担当者は「原材料の上昇を転嫁する動きはまだあり、もうしばらく動向を見ていく必要がありそうだ」と分析する。
物価上昇率の見通しは、全規模全産業の1年後の見通し平均で前回調査からわずかに低下し前年比2.6%上昇となった。3年後の見通しは2.2%、5年後の見通しは2.1%と、いずれも政府・日銀が掲げる2%の物価目標を上回って推移するとみる。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

先週水曜日の6月28日、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては7四半期ぶりに改善との予想であり、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回3月調査から+2ポイント改善の+3、非製造業も同じく+2ポイント改善の+22、となっています。実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが3月調査から+4ポイント改善、また、大企業非製造業でも+3ポイントの改善となりました。足元については小幅に上振れした印象なのです。ただし、先行きの景況感については、製造業については大企業・中堅企業・中小企業のすべての規模で、改善の方向が示唆されている一方で、非製造業では逆に大企業・中堅企業・中小企業のすべての規模で悪化が見込まれています。業種別に先行き景況感の方向性のバラツキが大きいと私は受け止めています。まず、製造業では、部品の供給制約緩和などにより自動車産業が上向きとなっていたり、総じて原材料価格の落ち着きによる先行き景況感の改善が見られる一方で、欧米先進国での中央銀行による利上げや金融引締めによる景気後退懸念が引き続き強まっているようです。同時に、中国のゼロコロナ政策の方向性も定まらず、輸出への影響が懸念されます。また、非製造業でもインフレによる消費の停滞といった需要面や人手不足の供給面で先行きの懸念が大きいのではないか、と私は考えています。

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではないのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。加えて、海外需要の方向や中国のゼロコロナ政策の動向に起因する不透明感は設備と雇用についても同様です。

日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業全産業で+10.1%増となっています。実績は大企業全産業の設備投資計画は+13.4%でしたので少し上振れました。日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。その意味で、3月調査では本年度2023年度の設備投資計画は全規模全産業で+3.9%増と、かなり高い水準から始まって、6月調査で+11.8%増と大きく情報修正されていますので、まあ、通常の動きの範囲ではなかろうか、と私は受け止めています。現時点では最後の着地点がどうなるか、これまた、先進国の金融引締めと景気動向を考え合わせると不透明です。
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