生産が増産を示した鉱工業生産指数(IIP)と堅調な動きが続く商業販売統計の先行きをどう見るか?
本日は、経済産業省から6月の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.0%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.9%増の13兆2250億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から▲0.4%の減少を記録しています。まず、日経新聞のサイトとロイターのサイトから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産、6月は2.0%上昇 2カ月ぶり改善
経済産業省が31日発表した6月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は105.3となり、前月から2.0%上がった。上昇は2カ月ぶり。電子部品・デバイス工業や自動車工業がけん引した。
生産の基調判断は5月と変わらず「緩やかな持ち直しの動き」で維持した。企業の生産計画はこれから上昇する見通しだ。
全15業種のうち10業種が上昇した。コンデンサなどの電子部品・デバイス工業が6.8%上昇した。スマホ向けの需要が伸び、海外への輸出が増えた。半導体メモリーは5月の生産が少なかった反動があった。
普通トラックを中心に自動車工業は6.1%上がった。ギアやシャシー(車台)といった自動車部品が伸びた。トラックの生産も増え、輸出が好調だった。小型乗用車は半導体不足で生産が振るわなかった。
汎用・業務用機械工業は2.3%上昇した。新商品の投入を背景にカメラの生産が増えた。化学工業や金属製品工業もそれぞれ上がった。
残る5業種は低下した。ガソリンや軽油といった石油・石炭製品工業が5.3%下がった。パルプ・紙・紙加工品工業も2.1%低下した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は7月について前月比で0.2%の低下を見込んだ。8月は1.1%上昇と予測する。
小売販売6月は+5.9%、自動車など好調で16カ月連続増 値上げも影響
経済産業省が31日に発表した6月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比5.9%増となった。自動車や飲食料品が好調で、値上げの影響もあって16カ月連続で増加した。
ロイターの事前予測でも5.9%増と予想されていた。
業種別では、自動車が前年比19.3%増、医薬品・化粧品が9.5%増、その他小売業が7.6%増、飲食料品6.8%増などとなった。指数押し上げにもっとも寄与したのは自動車と飲食料品で、「価格上昇も影響した」(経産省)という。
一方、燃料は3.9%減、電気製品などの機械器具小売りは3.6%減だった。
業態別の前月比では、ドラッグストアが9.5%増、百貨店が5.8%増、スーパーが3.8%増、コンビニが3.6%増。
ドラッグストアは食品・ペット用品・医薬品いずれも好調だった。百貨店は高額品が好調で、外国人旅行客向けも復調した。スーパーは飲食料品、コンビニは加工食品が伸びた。
家電大型専門店は6.3%減となった。高温だった昨年の反動でエアコンの販売が振るわなかったほか、テレビや録画装置の需要減少が続いている。
長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で+2.4%、下限で+1.5%の増産でしたので、実績の+2.0%の増産はコンセンサスよりもやや下振れしているとはいえ、レンジ内ということでサプライズはありませんでした。ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」で据え置いています。ただし、先行きについては決して楽観できません。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を継続しており、海外景気は減速しており、輸出にいく分なりとも依存する生産には無視できない影響があります。ただ、自動車生産への半導体部品供給の制約などもあって、内外の需要要因とともに、供給要因も総合的に考え合わせる必要があります。特に、経済産業省の解説サイトを見る限り、6月統計の増産への寄与でもっとも大きいのは自動車工業であり、+0.80%の寄与を示しています。同様に、出荷の前月比+1.5%増への寄与についても、自動車工業が+0.94%の大きさを示しています。ですから、内外の堅調な需要を受けた自動車工業の増産がどこまで継続するかはやや不透明です。例えば、製造工業生産予測指数を見ると、足元の7月は補正なしで▲0.2%の減産、上方バイアスを除去した補正値なら▲2.7%の減産ですので、部品供給の制約とともに、輸出の占める割合の高い鉱工業生産ですから海外経済の減速は、先行きを考える上で要注意です。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売に示された国内需要は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、5月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が0.0%の横ばい、繰り返しになりますが、広報移動平均を取らない6月統計の前月比が▲0.4%減となり、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年6月統計では前年同月比で+3%超の上昇率となっていますが、小売業販売額の6月統計の5.9%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。ただし、通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性がありますので、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。もちろん、引用した記事にあるような自動車の販売増はインバウンドではない可能性が高いのは明らかです。他方で、石油価格が完全に反転したことを受けて、燃料小売業販売額が6月統計の前年同月比では▲3.9%の減少を示しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強い、と私は考えています。いずれにせよ、物価上昇率の落ち着きにより名目ベースでの小売業販売額の伸びは鈍化する可能性があります。したがって、後に詳しく見る消費者マインドは悪くないので、賃金の伸びがどこまで消費を支えるかがポイントになります。

最後に、本日、内閣府から7月の消費者態度指数が公表されています。7月統計では、前月から+0.9ポイント上昇し37.1を記録しています。指数を構成する4指標すべてが上昇しています。すなわち、前月からの上昇幅の大きい順に、「耐久消費財の買い時判断」が+1.2ポイント上昇し31.1、「暮らし向き」が+1.0ポイント上昇し33.9、「雇用環境」が+0.9ポイント上昇し44.0、「収入の増え方」が+0.3ポイント上昇し39.2となっています。「暮らし向き」が前月差+1.0と大きく上昇している一方で、「収入の増え方」が+0.3ポイントの上昇にとどまっています。物価上昇の影響の現れ方にやや不思議な気がします。「耐久消費財の買い時判断」についても、同様の感想を持ちます。ただ、統計に現れた消費者マインドは明らかに上向きですので、統計作成官庁である内閣府では基調判断について、先月までの「持ち直している」から、明確に1ノッチ引き上げて「改善に向けた動きがみられる」に上方改定しています。グラフを見ても、昨年暮れを底に消費者マインドがかなりのテンポで改善しているのが見て取れます。
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