明治安田総研のリポート「上昇を続ける国民負担率」を読む
先週7月19日の水曜日に明治安田総研から「上昇を続ける国民負担率」と題するリポートが明らかにされています。先月終わりに、いくつかのニュースで税収が3年連続で過去最高を記録し、昨年度は70兆円超え、といったのがありましたし、まさに、国民負担は上がり続けています。先日の読書感想文では森永卓郎『ザイム真理教』を紹介したところですし、このリポートも簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポートから 国民負担率(対国民所得)の推移 のグラフを引用すると上の通りです。凡例の通りで、租税負担と社会保障負担の合計と参考までに財政赤字に伴う潜在的負担もプロットしてあります。特に、何のヒネリもなく財務省サイト「負担率に関する資料」のデータの通りです。バブル末期の1990年度には租税負担率27.7%、社会保障負担率10.6%の合計35.4%だったのが、2010年度は租税負担率は21.4%と低下したものの、社会保障負担率が15.8%に上昇し、合計37.2%となっています。そして、足元の2023年度は租税負担率が28.1%に上昇し、社会保障負担率は18.7%と大きく上昇し、合計46.8%と、近年は国民負担率が50%近くに達しています。なお、財政赤字を含めた潜在的負担率はコロナの2020年度から軽く50%を超えています。
続いて、リポートから 主要国の再分配前後のジニ係数 及び 主要国の再分配後相対的貧困率 を引用すると上の通りです。上のパネルに示されたジニ係数は不平等の度合いを測っていて、英米に比べればまだ平等の度合いが高いものの、大陸欧州、特に北欧と比べれば再分配前はフランスやドイツよりも低かったジニ係数が、再分配後は逆転していて、折れ線で示されている再分配による改善度がもっとも小さくなっているのが見て取れます。加えて、したのパネルに示された相対的貧困率についても、日本は再分配後でありながらも、英国を上回っていて、米国に次いで高い貧困率となっています。50%近い国民負担を求めておきながら、再分配による格差是正や貧困解消の効果が小さいわけです。

最後は、私が作成して授業で使っているグラフです。いずれも政府の支出の一定の分野についてGDP比を取ってもので、上のパネルは社会支出のうちの家族向けの額、下は公共投資です。カッコ内に示してあるように、上のグラフは福祉国家の度合いを示し、下のグラフは土建国家の度合いを示している、と学生諸君には教えています。最近はあまりアップデートしていないのですが、おおよその傾向は把握できると思います。すなわち、今世紀初頭まで、我が国では国民負担を求めて徴収した税金と社会保障負担を、家族向けの社会支出で国民に還元するのではなく、公共事業を通じて分配していたわけです。今世紀に入ってから、日本の土建国家ぶりは改善されつつありますが、まだ、欧州各国には及びません。そして、公共事業を通じた再分配に対して不満があることから、日本では増税に対する反対が根強いわけです。政府への信任も、例えば、経済協力開発機構(OECD)の Trust in Government のデータなんかを見ると、決して高くないのが理解できます。
最後に、言及した財務省サイト「負担率に関する資料」は、おそらく、このリポートのデータソースの一部をなしていると思いますし、大学生くらいの夏休みの宿題には参考になるかもしれません。
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