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2023年8月31日 (木)

西武池袋本店のストライキを支持し連帯します

本日、大手百貨店そごう・西武の旗艦店である西武池袋本店でストライキが始まっています。下の動画はYouTubeのサイトで朝日新聞がアップしたものを共有しています。

親会社のセブン&アイHDが臨時取締役会を開き、米国投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループへ売却する結果、西武池袋本店の低層階に家電量販大手ヨドバシHDが出店する計画に対して、雇用維持を求める労働組合がスト権を確立してストに入っています。

ストライキは労働者の権利です。
ストライキを支持し、強く連帯します。

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2か月ぶりの減産となった鉱工業生産指数(IIP)と高い伸びが続く商業販売統計

本日は、経済産業省から7月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.0%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.8%増の13兆9240億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+2.1%の上昇を記録しています。まず、日経新聞のサイトロイターのサイトから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、7月は2.0%低下 2カ月ぶりのマイナス
経済産業省が31日発表した7月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は103.6となり、前月から2.0%下がった。2カ月ぶりのマイナスとなった。基調判断は「生産は一進一退で推移している」として、前月から下方修正した。
7月の生産は全15業種のうち10業種で低下した。半導体製造装置などの生産用機械工業では前月比で4.8%減った。海外受注の減少が影響した。
電子部品・デバイス工業は前月比で5.1%減った。スマートフォンの需要低迷を背景に半導体メモリーなどが低調に推移していることが影響した。エアコンなどの電気・情報通信機械工業は2.9%減った。
5業種は上昇し、自動車工業を除く輸送機械工業は前月比9.6%上がった。新型コロナウイルスの感染拡大時からの経済回復に伴い航空需要が高まり、緩やかに上昇傾向にある。自動車工業は半導体などの部材供給不足が一部残るものの改善傾向にある。
経産省は自動車工業は回復傾向にあるものの、米国の金利引き上げや中国経済の見通しが厳しい状況であることから先行きには注意が必要とした。
主要製造業の生産計画から算出する生産予測指数は8月を前月比2.6%の上昇と見込んだ。9月も2.4%の上昇を予測する。
小売業販売、7月は前年比6.8%増 値上げや猛暑で17カ月連続増
経済産業省が31日に発表した7月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比6.8%増と、17カ月連続でプラスとなった。値上げで飲食料品やガソリンの販売額が伸びたほか、猛暑の影響で衣類やエアコンなどの販売が増加した。
ロイターの事前予測調査では5.4%増が予想されていた。
業種別の前年比ではその他小売業が11.0%増、自動車が8.1%増、飲食料品が8.0%増、百貨店などの各種商品が6.3%増などだった。
業態別は百貨店7.6%増、スーパー5.2%増、コンビニ5.2%増、家電大型店5.0%増、ドラッグストア10.2%増、ホームセンター5.2%増だった。
外出機会が増加し、医薬品・化粧品などを押し上げた。自動車は半導体不足で納車が遅れた昨年の反動で販売が増加した。

長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲1.5%、下限で▲3.5%の減産でしたので、実績の▲2.0%の減産はコンセンサスよりもやや下振れしているとはいえ、レンジ内ということで大きなサプライズはありませんでした。ただし、上のグラフでも明らかな通り、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は一進一退で推移している」と、前月の「緩やかな持ち直しの動き」から1ノッチ下方修正しています。決して楽観できない先行き予測も考慮されていることと思います。すなわち、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足元の8月は補正なしで+2.6%の増産ながら、上方バイアスを除去した補正値なら▲1.4%の減産となっています。7月統計の減産の要因は、経済産業省の解説サイトによれば、「国内・海外の受注減少」ということになっています。欧米先進国ではインフレ抑制のために金融引締めを継続しており、たとえソフトランディングが可能としても、海外経済の減速確かであり、輸出に一定の依存をする生産には無視できない影響があります。ただ、自動車生産への半導体部品供給の制約などもあって、内外の需要要因とともに、供給要因も総合的に考え合わせる必要があります。加えて、トヨタ自動車が、私のようなシロートには理解し難いシステム不具合により、「トヨタ、国内工場の稼働停止」といった報道も見受けましたし、先行きの不確実性が大きくなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売に示された国内需要は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、5月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.9%の上昇、繰り返しになりますが、後方移動平均を取らない7月統計の前月比が+2.1%の上昇となり、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年7月統計では前年同月比で+3%超の上昇率となっていますが、小売業販売額の7月統計の6.8%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。もちろん、引用した記事にもあるように、値上げの波及により名目値が伸び、また、猛暑の影響もあったことは確実です。ただ、通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性がありますので、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、引用した記事にもあるように、ドラッグストアの伸びがとても高いのがインバウンドの象徴のような気もします。いずれにせよ、物価上昇率の落ち着きにより名目ベースでの小売業販売額の伸びは鈍化する可能性があります。したがって、昨日取り上げた消費者態度指数に見る消費者マインドは決して悪くないので、賃金の伸びがどこまで消費を支えるかがポイントになります。

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2023年8月30日 (水)

ひさしぶりに前月差マイナスとなった8月の消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から8月の消費者態度指数が公表されています。8月統計では、前月から▲0.9ポイント低下し36.2を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数、8月は9カ月ぶりマイナス 雇用環境など悪化
内閣府が30日に発表した8月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以の世帯・季節調整値)は前月比0.9ポイント低下の36.2で、昨年11月以来9カ月ぶりにマイナスとなった。基調判断は「改善に向けた動きがみられる」で、前月から据え置いた。
8月は9カ月ぶりに4項目の指標がそろってマイナスとなった。雇用環境が1.3ポイント低下したほか、耐久消費財の買い時判断も1.1ポイント低下。暮らし向きは1.0ポイント、収入の増え方は0.2ポイントそれぞれ低下した。
1年後の物価が上昇すると回答した世帯の比率は93.7%で前月比0.9ポイント増えた。上昇幅が5%以上との回答比率は7月の51.2%から51.1%に微減となった。一方2%以上5%未満との回答が7月の31.7%から32.5%に増えた。

的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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指数を構成する4指標すべてが低下しています。すなわち、前月からの低下幅の大きい順に、「雇用環境」が▲1.3ポイント低下し42.7、「耐久消費財の買い時判断」が▲1.1ポイント低下し30.0、「暮らし向き」が▲1.0ポイント低下し32.9、「収入の増え方」が▲0.2ポイント低下し39.0となっています。「収入の増え方」が前月から▲0.2ポイントの低下にとどまっている一方で、「暮らし向き」が▲1.0と大きく低下しています。インフレの影響のため、賃金をはじめとする名目所得はそれほどのダメージではない一方で、購買力という意味での実質所得がインフレのために低下しているわけです。「耐久消費財の買い時判断」についても、同様の感想を持ちます。ただ、「雇用環境」については、前月差で見ると大きく低下しているように見えますが、水準が42.7と飛び抜けて高いので評価はビミョーだという気がします。グラフを見ても判るように、8月統計に現れた消費者マインドはやや一休みの感がありますが、統計作成官庁である内閣府では基調判断について、先月と同じ「改善に向けた動きがみられる」に据え置いています。消費者マインドは決して悪くないものの、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更に従って、経済社会や国民生活がポストコロナに向かう中で、グングンと改善するという段階は過ぎたようです。

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2023年8月29日 (火)

「経済財政白書」を大雑把に読む

本日、「令和5年度年次経済財政報告」閣議に配布されて、内閣府から公表されています。副題は「」となっています。まず、私が見た限りでの通信者や新聞などのメディアでのニュースを順不同で取りまとめると以下の通りです。

各章のポイント
  • 第1章 マクロ経済の動向と課題
    • 5月に感染症が5類相当となる中、コロナ禍後の経済へと移行。
    • 物価と賃金は動き始めている。サービス物価の上昇は緩やかだが、30年ぶりの賃上げが進むとともに価格改定頻度は上昇。来年度も高い賃上げを継続することにより「賃金と物価の好循環」を実現し、我が国経済の四半世紀の桎梏である「デフレ」からの脱却を実現・定着させていくことが重要。
    • 経済政策は、財政出動による景気や生活の下支えから潜在成長率の上昇に軸足を移し、DX・GX等の民間投資の誘発や少子化対策等の中長期的な成長に資する取組が不可欠。
  • 第2章 家計の所得向上と少子化傾向の反転に向けた課題
    • 家計所得が着実に増加する環境を構築するためには、労働移動の活発化、副業・兼業の拡大や女性・高齢者の活躍促進に加え、資産形成を通じた所得の引上げも重要。
    • 少子化対策の観点でも、①将来の所得上昇期待を高めて、結婚・出産の後押しをすることが重要。加えて、②住宅・教育費などの子育て負担の軽減策や、③出産後の女性の労働所得が下がりにくい環境を整備し、「共働き・共育て」を支援する仕組みとして、保育所整備・男性育休やベビーシッター利用の促進も必要。
  • 第3章 企業の収益性向上に向けた課題
    • マークアップ率(企業の価格設定力)の向上には、研究開発投資や人への投資などの無形資産投資が鍵。無形資産には正の外部性があるため、官民投資による後押しが必要。マークアップ率向上は、企業の収益性を改善させ、投資や賃上げ余力を高めるため、経済の好循環の観点からも重要。
    • 無形資産投資によって、生産性を高める効果や、対外競争力のある製品の輸出拡大効果も期待できる。輸出の開始は生産性を更に高め、収益性向上にプラスの効果。

内閣府の説明資料の最後のページにある各章のポイントを引用すると上の通りです。全文を読み通したわけではないので、1点だけ指摘しておきたいと思います。下のグラフは「経済財政白書」第1章の p.23 第1-1-6図 収入階層別にみた消費支出 を引用しています。

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消費支出全体の2020年度から2021年度にかけての動向を見ると、一番上のパネルに見える通り、高収入世帯の実質消費が横ばいで推移している一方で、低収入世帯の消費が減少を示しています。その下の6つのパネルに消費の内訳が示してあり、食料、食料以外の基礎的財、基礎的サービス、選択的財、通信除く選択的サービスの実質と名目、となっています。食料への実質消費が減少しているのはインフレの影響です。そして、食料以外の基礎的財の消費は高所得世帯と低所得世帯で大きくは違いません。高所得と低所得の2つのカテゴリーの世帯の消費で違いがあるのは、基礎的サービスと選択的財となります。低所得世帯で消費を減らしているわけですので、この大きな要因は選択的財への支出ということになります。ですから、基礎的財、あるいは、別の表現をすれば必需品ではなく、選択的なやや贅沢品への支出で所得による差が出ていると考えるべきです。消費の拡大、そして、景気の回復のためのひとつのキーポイントとなるのが低所得世帯での所得の回復、ということになります。低所得世帯ですので、第1に、中小企業の雇用者である可能性、また、第2に、非正規雇用である可能性も、ともに十分あり、賃上げが広く均霑することが重要といえます。

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失業率や有効求人倍率がやや下ぶれした7月の雇用統計をどう見るか?

本日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも7月統計です。失業率は前月から0.2%ポイント悪化して2.7%を記録し、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化して1.29倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

7月の求人倍率、1.29倍に低下 失業率は2.7%に
厚生労働省が29日発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.29倍で、前月から0.01ポイント低下した。物価高の影響で転職や兼業を目指す動きもあり求職者が増える一方、求人数は横ばいだった。3カ月連続で前月を下回った。
総務省が同日発表した7月の完全失業率は2.7%だった。前月から0.2ポイント上昇した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人当たりの求人数を示す。7月の有効求職者数は前月と比べ0.9%増加したが、有効求人数は横ばいで求人倍率の低下につながった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で2.5%減となった。原材料費や光熱費高騰の影響を受けた製造業で11.4%減、建設業では8.0%減少した。
一方で新型コロナウイルスの5類移行をうけ外国人を含む旅行客が増加したことにより、宿泊・飲食サービス業が2.1%の増加となった。
失業率の上昇は4カ月ぶり。完全失業者数は183万人と前年同月比で4.0%増えた。就業者数は6772万人で前年同月に比べ0.3%伸び、12カ月連続の増加となった。男性は1万人減の3713万人、女性は18万人増の3059万人だった。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4065万人で20万人減った。
会社などに雇われている雇用者のうち、正規の職員・従業員数は3608万人だった。前年同月比で0.02%減り、4カ月ぶりの減少となった。非正規は2143万人で1.8%増と、2カ月連続の増加だった。

続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、これまた、前月と同じ1.30倍と見込まれていました。実績では、失業率も、有効求人倍率も市場予想からやや下振れしました。ただし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の7月統計までの半年少々で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+30万人増加し、就業者は+19万人増、雇用者にいたっては+29万人増となっていて、逆に、非労働力人口は▲30万人の減少です。完全失業者は+13万人増加していますが、積極的な職探しの結果の増加も含まれているわけですから、すべてがネガな失業者増ではない、と想像しています。また、季節調整していない原系列の統計ながら、休業者数に着目すると、今年2023年に入ってから休業者は前年同月比で6月統計を唯一の例外として、本日公表の7月統計までまで減少を続けていて、特に7月統計では▲61万人減とと大きく減少しています。1~5月の各月の休業者数の減少を合計すると▲178万人となっていて、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更から経済活動が正常化しつつあり、同時にインバウンドの拡大もみられる、と私は考えています。エビデンスのひとつは、マイクロな産業別の雇用の先行指標とみなされている新規求人数に現れています。すなわち、宿泊業・飲食サービス業では前年同月比で今年2023年に入ってか、1月統計から直近の7月統計まで一貫して増加を続けていて、7月統計でも前年同月比+2.1%増を記録しています。ただし、雇用の先行きに関しては、それほど楽観できるわけではありません。というのも、インフレ抑制を目指した先進各国の金融引締めから世界経済は停滞色を今後強めると考えられますから、輸出への影響から生産が鈍化し、たとえ人口減少下での人手不足が広がっているとはいえ、生産からの派生需要である雇用にも影響が及ぶ可能性は否定できません。ただ、米国経済をはじめとして、インフレ抑制に成功してソフトランディングの可能性も出始めており、楽観的ではないとしても、それほど悲観的になる必要もないと思いっています。

最後に、ロイター日経新聞のサイトを見る限り、本日の閣議で「経済財政白書」が公表されたようです。できれば、本日中に軽く見ておきたいと考えています。

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2023年8月28日 (月)

研究への公的助成は「選択と集中」よりも「広く薄く」が効果的

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研究活動への公的な助成は「選択と集中」では効率化出来ず、「広く薄く」配分する方が好ましい、という研究成果が米国のジャーナル Plos One で明らかにされています。pdfバージョンもオープンアクセスの利用可能です。サイテーションは以下の通りです。

私が国内メディアで見たのは、以下の毎日新聞だけですが、ほかにもあるかもしれません。

タイトルからも判るように、生命科学と医学 life science and medicine 分野に限った分析で、私の専門である経済学は含まれていません。でも、イノベーションもそうですが、研究についても、必要なリソースについては、政府や特定の団体、あるいは、経営者や企業の経営部局が判断する「選択と集中」の分野に特に厚く配分するよりも、「広く浅く」配分した方が、むしろ効率的であろうというのは理解できるところです。
この論文の分野があまりにも違いすぎるので、適当に Conclusion and implications だけを拾い読みしたのですが、"Both the amount range- and category-dependent analyses demonstrated that grants of less than 5 million JPY are more effective at generating ETs." とあり、500万円未満の小規模な助成が ETs (Emeging Topics) を生み出すのに効果的、とか、"Public support to young and/or early career researchers is considered a keystone factor in their future performance and careers." 若手やキャリアの浅い研究者に対する公的支援が重要な要素である、とかの指摘がいっぱいです。

日本政府では、私がいるころから EBPM=Evidence Based Policy Making 証拠に基づく政策立案を推進すべく取組みを進めている、といろんなところで表明していますが、こういったエビデンスは無視するんでしょうね、たぶん。そして、結果として、キャリアの長い年配の研究者がゴソッと多額の研究費を獲得するんでしょうね。

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2023年8月27日 (日)

お気に入りの Osaka Jazz Channel のピアノトリオによる Cute

先週に続いて、お気に入りの Osaka Jazz Channel の中の Cute です。Neal Hefti の作曲だと記憶しています。ピアノトリオのコラボレーションが楽しい仕上がりです。やっぱり、夜遅くになってから聞きたい音楽です。

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長期ロード最終戦はジャイアンツに負ける

  RHE
阪  神011000000 241
読  売00000202x 471

高校野球に甲子園を明け渡しての長期ロード最終戦は、猛虎打線が4安打に沈黙して、ジャイアンツに敗戦でした。
前半は阪神ペースで、特に、3回の2点目なんかは草野球並みの守備による得点でしたから、やや酷いなと思いつつの観戦でした。後半に入って、いかにも東京ドームらしいホームランもありましたし、明後日からジャイアンツはカープ戦ですから、今日の敗戦はカープ戦にがんばっていただくためのご祝儀といったところでしょうか。

甲子園に戻っての横浜戦は
がんばれタイガース!

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2023年8月26日 (土)

ジャイアンツに打ち勝ってマジック21

  RHE
阪  神010120500 9110
読  売010200300 690

激しい打ち合いでジャイアンツを下して、マジック21です。
先発青柳晃洋投手は6回途中まで3失点、そして、抜群の安定感を誇ったリリーフの桐敷投手や加治屋投手も今夜は打ち込まれて3失点と、ジャイアンツに6得点を許しながらも、佐藤輝明選手の先制ソロや「恐怖の8番打者」木浪遊撃手のグランドスラムなど、9得点を叩き出して逃げ切りました。広島がまったく負けそうにないながら、マジックは着実に減ってきています。

明日も、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書をいっぱい読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、渡辺努・清水千弘[編]『日本の物価・資産価格』(東京大学出版会)では、主として研究者を対象に物価や資産価格の決定について分析しています。リンダ・スコット『性差別の損失』(柏書房)は、主として途上国における男女格差に基づいて性差別が大きな経済損失をもたらしていると主張しています。道重一郎『イギリス消費社会の生成』(丸善出版)は、産業革命前夜の近世の長い18世紀における英国の消費社会の成り立ちについて、産業革命を主眼に据えた生産面からではなく、需要や消費の面から歴史的に後付けています。櫻本健・濱本真一・西林勝吾『日本の公的統計・統計調査 第3版』(三恵社)は、統計調査士の資格試験テキストなのですが、公的統計についてコンパクトに取りまとめています。柏原光太郎『ニッポン美食立国論』(日刊現代)は、ガストロノミー・ツーリズムについて、ほぼケーススタディで個別の成功例を取り上げています。ミシェル・ビュッシ『恐るべき太陽』(集英社文庫)は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をモチーフにしており、仏領ポリネシアのヒバオア島で「創作アトリエ」に集まった作家志望の女性が次々に殺さるミステリです。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊、6~7月に48冊、8月に入って先週までに21冊の後、本日ポストする6冊を合わせて119冊となります。
最後に、新刊本ではないので、このブログでは取り上げませんが、森村誠一『高層の死角』を再読しました。そのうちに、Facebookあたりでシェアしたいと予定しています。ただし、どうでもいいことながら、奥田英朗の『コメンテーター』の予約が回ってくる前にと、精神科医・伊良部シリーズの前作『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』、『町長選挙』を先週のうちに読んでいるのですが、この3冊は未だにFacebookでシェアできていません。

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まず、渡辺努・清水千弘[編]『日本の物価・資産価格』(東京大学出版会)です。編者はそれぞれ、東京大学と一橋大学の研究者です。本書は、30年余り前の1990年に同じ東京大学出版会から公刊された西村清彦・三輪芳明[編]『日本の株価・地価』の後を受けて編集されています。タイトルに合わせて2部構成であり、第Ⅰ部全7章で物価を、第Ⅱ部全6章で資産価格を取り上げています。出版社から考えても、ほぼほぼ完全な学術書であり、ビジネスパーソンというよりも研究者を対象にしている印象です。すべてのチャプターを取り上げることが出来ませんので、第Ⅰ部を中心に私の印象に残った分析について考えたいと思います。第1章では日本の価格硬直性を取り上げ、フィリップス曲線がフラットになり、企業が価格形成力(プライシングパワー)を喪失したとしています。なぜかというと、需要曲線が屈折し、価格据置きが長引く中で、小売店で買回り品が値上げされている場合、別の小売店に回る、という消費者行動が一般的になったためである、と指摘しています。もしも、緩やかな物価上昇が継続しているのであれば、別の小売店に行っても同じように価格が上昇している可能性が高いのですが、価格据置きが長く継続しているのであれば、別の小売店では従来通りの据え置かれた価格で販売している可能性が高い、と消費者が考えるから、と説明されています。ただ、これは購買対象がかなり幅広く存在する都会部ではそうかも知れませんが、地方圏でも当てはまるかどうか、私はやや疑問です。また、第2章では貨幣量と物価の関係について、インフレ率や貨幣成長率が高い経済では古典派的な貨幣数量説に近い状態となって、物価と貨幣量に正の相関がある一方で、日本のようにインフレ率や貨幣成長率が低い経済では特に相関はない、と指摘しています。これは私もそうかもしれないと思います。また、第Ⅰ部最後の第7章では、人口高齢化がインフレにどのような影響を及ぼすかを分析していて、貯蓄-投資バランスから自然利子率に影響するとともに、政治経済学的な要因、すなわち、高齢者が名目貯蓄額を維持するために低インフレを選好するのに対して、労働年齢階層は雇用や賃金のために高インフレを志向することから、年齢構成が高齢化すると低インフレが好まれ、中央銀行がインフレ目標を低位にする可能性がある、と指摘してます。これもそうかもしれません。第Ⅱ部の資産価格については、第12章で日本が、と明記していませんが、キャッチアップ型の成長が終わって世界経済の中でトップランナーとなった段階で、銀行がリスク回避型の貨幣や国債などの安全資産を需要するようになり、現在の日本のような安全資産の膨張が志向される可能性があると示唆しています。まあ、それぞれに説得力ある分析なのですが、3点だけ私から指摘しおきたいと思います。まず第1に、物価上昇率ないしインフレ率とは積上げで各消費財の価格を計算する、と言う暗黙の前提があるような気がするのですが、果たしてそうなのでしょうか。逆から考える見方も分析目的によっては必要そうな気がします。すなわち、物価とは貨幣価値の逆数であるという見方です。デフレで価格が低下する、というのは、逆から見て貨幣価値が上昇している、という意味である、という点が忘れられている気がします。ですから、円が希少性を高めてデフレになるのと、円高が進むのは表裏一体の同じ現象なのではないか、ということです。そして第2に、物価を計測するに際して、母集団、というか、真の物価水準をどう考えるかです。本書で見第3章で建築物価指数をアウトプット型で計測する試みがなされていますが、現状の消費者物価指数(CPI)がラスパイレス式で上方バイアスあるのは広く知られていますが、それでは、真の物価水準は何なのか、という視点も必要です。例えば、景気動向については、観測できない真の景気指標が存在して、それを観測可能な指標から状態空間モデルで計測しようとする試みもなされていますし、真の物価が何なのかについて考えるのもムダではないと私は考えています。最後に第3に、本書のように、財サービスの、いわゆる物価と資産価格を分割することの意味です。昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻から、石油や穀物の価格が上昇してコストプッシュ・インフレが進行していることは広く報じられています。しかし、石油や穀物は原材料となって財価格に波及するだけでなく、国際商品市況で取引される資産でもあります。原価のインフレの大きな特徴は、このように石油や穀物といった資産でもあり財の原材料でもある物資が資産価格と財・サービスのインフレをリンクする点だと私は考えています。でも、この点に着目した分析はそれほどなされているようには見えません。少なくとも、本書には含まれていません。本来でしたら、マクロエコノミストである私自身が取り組まねばならない課題なのかもしれず、それほど無責任な態度は取れませんので、私も勉強を進めたいと思います。

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次に、リンダ・スコット『性差別の損失』(柏書房)です。著者は、米国生まれで現在は英国オックスフォード大学やチャタムハウスの研究者をしています。世界的に有名な経済開発の専門家です。英語の原題は The Cost of Sexism であり、2020年の出版です。ということで、私の従来からの主張は、女性の経済社会への進出が大きく画期的に進めば、まだまだ日本経済も成長の余地が十分残されている、というものです。そして、いうまでもなく、日本での女性に対する不平等の度合いは先進国の中では飛び抜けて高く、6月21日に世界経済フォーラムから発表されたジェンダーギャップ指数でも世界146か国中の125位に位置しています。健康や教育はまだしも、政治経済の分野での男女格差がひどくなっています。本書では、その経済的な性的格差が大きな損失に結びついていると指摘しています。その前提として、本書から2点指摘しておきたいと思います。第1に、p.205に示されているルーカス-トンプソンほかのメタ分析、すなわち、Lucas-Thompson et al. (2010) "Maternal Work Early in the Lives of Children and Its Distal Associations With Achievement and Behavior Problems: A Meta-Analysis" により、1970年代ながら働く母親と専業主婦の母親の子供たちには行動面でも学業面でも何らの違いがないことが明らかにされています。加えて、p.224に示されているハネット・ハイドほかの分析、すなわち、Hyde, Janet S. et al. (1990) "Gender Differences in Mathematics Performance: A Meta-Analysis" により、少年少女の数学の成績に性差がないことが明らかにされてています。これらは、第1に、専業主婦のほうが子育てに有利であるとか、第2に、女子は男子より数学の能力が劣っているとかの俗っぽい迷信を否定するものです。その上で、女性を高等教育からは除していることにより世界経済がこうむっている損失が30億ドルに達するとかの統計的なエビデンスを提供しています。ただ、専門分野のために途上国における例が多く、先進国のエコノミストからすればかなり極端に見える事例が多いことも確かです。ただ、こういった女性を教育から、そして、経済から排除することのコストが極めて大きい点は理解すべきです。そして、一面では、地球上の耕作可能地の80%が男性所有である、あるいは、マルクス経済学を持ち出している点など、本書でも十分に意識しているように、女性が生産手段を持たないことが原因になっているケースがかなり多く見受けられます。この男女格差の課題解決はかなり難しいことは事実です。私は何らかのクオータを設ける必要を感じていますが、本書では第14章が救済への道と題されているものの極めて短い章になっていますし、エピローグでは米国が取り組むべき優先課題6点に加えて、世界や個人ができることをいくつか上げています。これまた、私が常に主張しているように、男女格差是正に限らず、個人のココロや意識改革に訴えるだけでは解決につながりません。制度的に、あるいは、法令によっても何らかの強制力ある措置が必要です。強力な政治的リーダーシップの基で、女性のクオータを設けるのが私はベストだと思いますが、その政治的リーダーシップがいつまでも実現されないおそれもあります。そうでなければ、英国のサフラジェットのような直接的な行動に出ることを厭わない人々が現れる可能性も否定できません。

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次に、道重一郎『イギリス消費社会の生成』(丸善出版)です。著者は、東洋大学の研究者であり、専門は経済史です。歴史学ではなく経済史がご専門です。本書では、イギリス消費社会の経済史について、生産関係や供給サイドから後付けるのではなく、消費・支出や需要サイドからの歴史を明らかにする試みです。対象となる地域は英国であり、英国の中のイングランドには限定していません。そして、時代としては、本書でいう長い18世紀であり、17世紀後半から19世紀初頭の時期を指しています。この時期には都市化の進行とともに、ひと目で見て洗練されているとか、上品であるとか行った文化的な価値が重んじられるようになり、英国で消費社会が実現された、と指摘しています。そして、それを裏付ける史料として、都市における女性向け服飾品消費を破産したメアリー・ホールの目録から、また、都市における男子服飾品消費をセイヤー文書から、そして、農村における消費活動をハッチ家文書から、それぞれひも解いています。小売業者が残した経営文書を史料として活用しているわけです。もちろん、会計的な商店サイドの史料だけでなく、トーマス・ターナーなど個人の日記も大いに援用されています。そこから垣間見えるのは、現在と少し違って、店舗は店先のカウンターで売るだけではなく、カーテンで仕切られた奥にはテーブルと椅子があって、馴染客にとってはお茶を飲みながらの社交の場でもあった、といったあたりです。本書では、ほとんど意識されていませんが、おそらく public と private の違いがカーテンの仕切りだったのだろうと私は認識しています。他方で、英国が世界の工場となり、20世紀初頭まで世界の覇権国となったのは産業革命をいち早く開始したからであることは明白なのですが、本書が指摘するように、ここでは英国ではなくイングランドにおける消費社会の実現は、その産業革命に歴史的に先行していた、という事実は重要です。供給サイドからの産業革命の重要性はいうまでもありませんが、消費社会の実現という需要サイドから産業革命を導いたの要因も見逃すべきではありません。そして、本書でも指摘しているように、都市化に伴って見た目で判る上品さや洗練などの消費に対しては、女性的であるとか、フランスかぶれとかの批判もありましたが、18世紀後半の啓蒙主義を待たねば克服されなかった、との本書の指摘は重要だという気がします。いずれにせよ、中性的な自給自足に近い生活から、本書でターゲットにする近世=アーリー・モダンの時期は、分業の発達とともに生産力が伸びて、個人がひとつの職業に特化して剰余物を販売するとともに、自分で生産しない物資を商品として購入するという意味で、市場経済の成立に向かう時期です。その最先端を走る英国の消費社会について、とても勉強になるいい本でした。経済学や経済史を専門にしていなくても、多くの方が楽しめると思います。

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次に、櫻本健・濱本真一・西林勝吾『日本の公的統計・統計調査 第3版』(三恵社)です。著者は、立教大学社会情報教育研究センターの研究者や研究アシスタントです。本書は、立教大学社会情報教育研究センター(CSI)の統計調査士の資格試験テキストとして開発されています。したがって、その資格試験の練習問題が各部の最後の方に収録されていたりします。この統計調査士の資格は、社会調査士などとともに、どちらかというと、経済学部学生よりも、マーケティングなどを学んでいる経営学部や商学部の学生に馴染みあるように思います。それはともかく、本書は、資格試験を志す学生はテキストとして通して読むのでしょうが、一応、手元に置いて辞書的に活用する場合も多そうな気がします。pp.130-33にかけての見開きには政府が取り組んでいる基幹統計の一覧表が掲載されています。ただし、統計局を中心とする調査統計が主となっており、業務統計は含まれていません。ですから、何と申しましょうかで、調査票を作ってわざわざ統計として調査するわけです。そうでないものは主として業務統計です。ハローワークのお仕事から有効求人倍率を弾き出したり、通関業務から貿易統計が出来たりするわけです。主要な統計は、人口統計、雇用統計、生活関連統計、物価統計、産業・企業統計、国民経済計算の各章に分かれています。差以後の国民経済計算だけが、いわゆる加工統計で2次統計とも呼ばれます。調査票を配布して調査する1次統計をいくつか組み合わせて加工して統計を作ります。そして、基礎的な統計データ分析も収録しています。クロスセクションの分布を見たり、時系列の変化を追ったりという分析です。おそらく、表計算ソフトでできるレベルの分析であって、それほど高度な計量経済学的な分析ではありません。記述統計が主となっていますが、いくつかの統計には必要とされるので、季節調整についてはそれなりの解説がなされています。いずれにせよ、夏休みの宿題とか、何かの機会に、手元にある、あるいは、近くの図書館で借りることができると便利そうな気がします。

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次に、柏原光太郎『ニッポン美食立国論』(日刊現代)です。著者は、60歳の定年まで文藝春秋社で編集に携わった後、現在は美食倶楽部「日本ガストロノミー協会」を設立し会長を務めています。本書では、「立国論」と銘打っているものの、まあ、そこまで大きな風呂敷を広げているわけではなく、具体的な個別のガストロノミー・ツーリズムの成功例を取り上げています。インバウンドとともに国内富裕層のガストロノミー・ツーリズムだけでなく、いわゆるラグジュアリー・ツーリズムへの示唆も豊富に含んでいます。ただし、成功例から演繹して、部分的に、より一般的なコンサルのような方向性も示していますが、ガストロノミー=美食の関係はあまりにも好みが分かれているため、一般論の展開は難しそうな気もします。ということで、私自身はガストロノミーにはまったくご縁がありません。食事とは基本的に体力維持や活動のためのエネルギー補給だと考えていて、もちろん、マズい食事よりは美味しい方がいいに決まっていますが、それほどのこだわりはありません。富裕層、というよりも、超富裕層のツーリズム、ガストロノミーだけを主眼とするものだけではなく、ガストロノミーも含めてラグジュアリーなツーリズムは、私のような庶民の目から見てもツーリズムの多様性を広げるには大いに有効だと見えます。例えば、本書でも第4章で「7.30.100」の壁として指摘していますが、1泊2食付きの高級旅館でも1泊7万円の値段を付けるには心理的な抵抗がある、というもので、それでも、インバウンドも含めて超富裕層であれば、例えば、JR九州の「ななつ星」で1泊30万円の実例はありますし、さらにその上を行く1泊100万円もあり得る、と指摘しています。私はこういった超富裕層からの波及効果、本書では、特に食に関しては「ヘンタイ」と呼んでいるフーディーから滴り落ちるという意味で、「トリクルダウン」というやや評判の悪い言葉を使っていますが、何らかの超富裕層からの波及は考えるべきだと思います。もちろん、インバウンドはともかく、国内の超富裕層からの波及は、できれば、政府がキチンと徴税した上で所得の再配分を実施するというのがもっとも好ましいのですが、現実にできていないのであれば、ビジネスでこういった同じ効果を模索するのも一案かもしれません。例は違いますが、私が経験した範囲では、スポーツジムが典型的に高齢者から若年層への所得移転を実行しているように見えました。高齢者が会費という形でおカネを払ってスポーツに励む一方で、インストラクターやスタッフの年齢は若くて、量的に十分かどうかはともかく、一定の所得の移転ないし再配分されている気がします。本書では、ガストロノミーだけでなくアートも含めて、ラグジュアリー・ツーリズムの成功例をいくつも上げています。私の従来からの指摘で、こういった成功例の裏側にはその数倍以上の失敗例があるのだと思いますが、行政によるフォーマルな所得再配分に加えて、富裕層・超富裕層からの所得の移転を受けるよう、ビジネス面からの何らかの方策も合わせて考える価値があると思います。

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次に、ミシェル・ビュッシ『恐るべき太陽』(集英社文庫)です。著者は、地質学者で、元ルーアン大学教授、2006年に作家デビューしています。私は、たぶん、『黒い睡蓮』と『彼女のいない飛行機』を読んでいるのではないかと思いますが、すっかり忘れ去っていたりします。本書は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をモチーフにしたミステリです。舞台は画家ポール・ゴーギャンやシャンソン歌手ジャック・ブレルが愛した南太平洋仏領ポリネシアのヒバオア島です。日本ではその近くのタヒチ島やパペーテの方が有名かもしれません。実は、私もタヒチ島には行ったことがあります。また、アルファベットの表記では Hiva Oa ですので、「ヒバ・オア島」とカタカナ表記した方が一般には通用しやすいかもしれません。それはともかく、謎めいた石像ティキたちが見守るこのヒバオア島在住のカリスマ的な人気ベストセラー作家であるピエール=イヴ・フランソワ(PYF)が、彼の熱烈なファンでもある作家志望の女性5人とその同行者を招いて、「創作アトリエ」なる7日間のセミナーを開催します。彼女たちの宿泊すバンガローがタイトルの「恐るべき太陽」荘、ということになります。しかし、ここからが『そして誰もいなくなった』的なストーリーが始まります。招かれたのは、野心的な作家志望の女性、ベルギーの人気ブロガーの老婦人、パリ警察の主任警部には夫の憲兵隊長が同行し、黒真珠養殖業者の夫人にも娘が同行し、謎の多い寡黙な美女、ということになります。加えて、バンガローのオーナーと娘やパリの出版社の編集者なども重要な登場人物を構成します。ストーリーの冒頭でまずホストのPYFが疾走した上に、招かれた女性が次々に殺されます。タヒチからの警察は到着が期待されながら、まったく現れません。その意味で、「恐るべき太陽」荘ではなく、ヒバオア島が全体としてクローズド・サークルを形成しています。ストーリーの進行とともに、パリでの昔の殺人事件など、登場人物の黒歴史、というか、いろんな秘密が明かされ、人間関係の交錯した、また、決してきれいごとで済まない部分が明らかにされていきます。ただ、徐々に真実が明らかにされるタイプのミステリではなく、最後の最後に大きなどんでん返しの大仕掛けがあります。中には、冒頭から再読するミステリファンもいそうな気がします。明示されるとはいえ、語り手が時折変わる点は、私にはマイナス点と映りますが、決して『そして誰もいなくなった』のいわゆる二番煎じではありませんし、本書を高く評価するミステリファンもいっぱいいそうです。私もそうです。ひょっとしたら、ミステリの中では今年一番の収穫かもしれません。

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2023年8月25日 (金)

投打にジャイアンツを圧倒してマジック22

  RHE
阪  神002131010 8121
読  売001000000 161

投打に圧倒しジャイアンツを下して、マジック22です。
先発村上頌樹投手は6回1失点ながら、自責点はゼロというナイスピッチングでした。7回からは、島本投手、岩貞投手、そして新戦力のブルワー投手とつないでゼロを並べました。このところ好調の桐敷投手は温存した、というべきなのだと思います。打つ方は、ドラ1トリオのクリンナップをはじめとした乱れ打ちの8得点でした。3番森下選手が先制ツーラン、佐藤輝選手もホームランこそありませんでしたが、スリーベース・ツーベースと長打をかっ飛ばしています。

明日も、
がんばれタイガース!

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上昇が再加速した7月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から7月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.7%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIは+2.1%の上昇を示しています。ヘッドライン上昇率は先月6月統計の+1.4%から上昇幅を縮小させ再加速しています。また、2年半近く29か月連続の前年比プラスを継続しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、7月1.7%上昇 伸び率再加速
日銀が25日発表した7月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は109.1と、前年同月比1.7%上昇した。29カ月連続で前年同月を上回り、企業の出稿控えで広告価格などが下落した6月(1.4%)から伸び率が再加速した。新型コロナウイルス禍からの経済回復やインバウンド(訪日外国人)の増加を背景に宿泊サービスが大きく上昇した。
宿泊サービスは前年同月比で35.6%上がり、6月(26.7%上昇)より上昇幅が拡大した。観光需要が回復したことが影響した。多くの自治体で政府の観光支援策「全国旅行支援」が終わり、割引の影響が縮小したことも伸び幅の拡大に寄与した。
情報通信も上昇した。4~6月ごろからシステムエンジニア(SE)職で人件費の上昇を価格に転嫁する動きがあり、上昇傾向が続いているという。外航貨物輸送は22年7月にそれまで急ピッチだった燃料費の上昇が落ち着いたことから、前年同月比でみると下落幅が縮んだ。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは93品目、下落したのは27品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の昨年2022年以降の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、今年2023年に入って先月6月統計で+1.4%まで縮小しましたが、本日公表された7月統計では+1.7%と再加速しました。再加速したとはいえ、大雑把な流れとしては、ジワジワと上昇幅を縮小させているように見えます。もちろん、+1%を超える上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高い、と私は受け止めています。ただし、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速するわけではなく、むしろ、上昇幅を縮小させる段階に入っている、といえそうです。しかも、繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台を続けています。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて7月統計のヘッドライン上昇率+1.7%への寄与度で見ると、引用した記事にもある通り、インバウンド需要に支えられた宿泊サービスや土木建築サービスや機械修理などの諸サービスが+1.05%ともっとも大きな寄与を示し、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどの情報通信が+0.35%、リース・レンタルが+0.28%、その他の不動産賃貸や不動産仲介・管理や事務所賃貸などの不動産が+0.12%などとなっています。逆に、石油価格の影響が大きい外航貨物輸送や国際航空貨物輸送や国内航空貨物輸送などの運輸・郵便は▲0.07%のマイナス寄与となっています。寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、運輸・郵便は▲0.4%の下落となっています。また、マイナス寄与の中に、テレビ広告やインターネット広告、新聞広告などの広告も▲0.11%のマイナス寄与、大類別の系列の前年同月比で▲2.2%となっています。広告は景気敏感指標だけに、注視したいと思います。エネルギー価格の上昇はほぼ反転したように見えます。他方で、現在の物価上昇については、エネルギーなどの資源価格からの波及に加えて、インバウンドも含めて需要サイドからの圧力による物価上昇も始まりつつある、と考えるべきです。

最後に、本日、総務省統計局から8月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)が公表されています。いつもは注目しないのですが、8月の生鮮食品を除く東京都区部コアCPIの前年同月比上昇率は+2.8%、ヘッドライン上昇率も+2.9%と、2か月連続で上昇率が縮小しています。+2%台の上昇率は昨年2022年9月以来11か月振りです。

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2023年8月24日 (木)

ニッセイ基礎研究所のリポート「FRBは巨額の債務超過もドルの信認は揺るがず」を読む

今週月曜日の8月21日、ニッセイ基礎研究所から「FRBは巨額の債務超過もドルの信認は揺るがず」と題するリポートが明らかにされています。副題は「日銀の出口戦略への参考となるか」とされています。まず、リポートから要旨5点のうちの3点目と4点目だけ引用すると以下の通りです。

要旨
  • 市場への資金供給量が拡大した中で政策金利を誘導するため、FRBは準備預金への付利水準を引き上げる等して対応している。この負債サイドの資金調達コストが利上げに伴い急上昇する一方、保有する米国債やMBSは固定利付で低金利のものが大半で、逆鞘が拡大する中、2022年決算で、事実上の債務超過額に相当する繰延資産は188億ドルとなった。
  • FRBは繰延資産を計上した他、保有する有価証券の評価損も1兆ドルを超えることを公表していたが、その後の赤字幅の拡大ともども、大きな話題にはなっていない。ドルの実質実効為替レート、対円の相場ともに影響は受けておらず、中央銀行の財務の悪化により通貨の信認が揺らぐような事態には至っていない。

中央銀行の財務状況、特に、債務超過については、日銀の異次元緩和の出口を考える上でとても興味あるポイントです。まあ、何と申しましょうかで、リポートのタイトルから結論は明らかなのですが、確認のためにも、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから FRBのバランスシート のグラフを引用すると上の通りです。ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、米国債が約4,255.2十億ドル、政府系の住宅ローン担保証券(MBS)が約2,509.1十億ドルで、残高で加重平均した利回りはそれぞれ2.31%、2.51%となっていて、利払いは年率換算で161十億ドルに上りる一方で、負債側は付利された準備預金が3,229.0十億ドル、翌日物のリバース・レポが2,096.7十億ドルで、利回りは5.4%と5.3%になります。インフレ抑制のための利上げにより金利上昇が大きくなっているからです。ですので、いわゆる逆ざやが▲124.4十億ドルに上っています。

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続いて、リポートから FRBの国庫納付額の推移 のグラフを引用すると上の通りです。ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、昨年2022年は76十億ドルを国庫納付していますが、昨年から利上げが始まり逆ざやのため、2022年9月以降はほとんどの連銀が財務省への送金を停止しています。そして、今年2023年1月には事実上の債務超過額に相当する繰延資産は▲18.8十億ドルに上るとの前年2022年の決算を発表しています。

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続いて、リポートから FRBが保有する有価証券の評価損益 のグラフを引用すると上の通りです。ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、日銀もFRBもともに保有している国債の評価方法については償却原価法を採用しており、たとえ、長期金利が上昇して国債の市場価格が下落したとしても決算上の期間損益に影響は出ません。上のグラフのように、FRBの評価損は10兆ドルを上回っています。しかし、フィッチの米国債ダウングレードはそれなりに話題になりましたが、このFRBの評価損はほとんどニュースにもなりませんでした。日銀も、今年2023年5月29日に「第138回事業年度(令和4年度)決算等について」の中で、9.保有有価証券の時価情報において、国債の評価損益が▲1,571億円に達すると明らかにしています。少なくとも、FRBの財務悪化により米ドルの信認が損なわれているとの評価は見受けません。ですので、日銀の財務内容が金融政策運営に、あるいは、円の信認にそれほど大きな影響を及ぼすとは考えるべきではありません。

ニッセイ基礎研究所のリポートでも指摘していますが、豪州の中央銀行である Reserve Bank of Australia=RBA は債務超過に陥っています。すなわち、2022年6月末に終了する2022年度終了時点の Total assets が A$ 613,774 million に対して Total liabilities が A$ 626,217 million となり、債務超過額は A$ 12,443 million となっています。私は、日銀の国庫納付金が減少しようと、また、短期間であれば債務超過に陥ろうと、それほど大きな影響はなく、円の信認もそれほど損なわれるとは考えません。

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2023年8月23日 (水)

米国経済学会のサイトから就業経験あるいはOJTの重要性に関するグラフ

少し旧文に属するトピックですが、8月16日に米国経済学会のサイトに人的資本の形成に関する就業経験あるいはOJTの重要性に関する論文からグラフ relationship between returns to experience and GDP が引用されています。論文タイトルとサイテーションは以下の通りです。

論文では、145か国の1990年から2016年における家計に対する調査や人口センサスの結果、1,000を超えるサンプルを基に、教育へのリターンは就業経験へのリターンよりも4倍高い一方で、就業経験へのリターンは経済発展と強い相関があり、収入により直接的な影響を与えることを発見しています。

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上のグラフは、米国経済学会のサイトから引用しています。横軸は、購買力平価および2011年固定米ドルでの1人当たりGDPの対数を、そして、縦軸は、1年間の追加的な就業経験による月給の推定増加率を、それぞれ取って、国別にプロットしています。U字型の相関が見て取れると思います。すなわち、低所得国が中所得国よりも就業経験の収益=リターンが高く、高所得国がもっともリターンが大きい、という結果です。
全体として、低所得国および中所得国における平均収益は就業経験1年当たり+1.7%でした。他方で、高所得国ではこれが+3.2%と高くなります。この分析結果は、職務経験が学校教育と同じくらい所得に貢献する可能性があることを示唆しています。従来は、所得の増加には教育が重要であり、特に、高等教育のリターンはかなり高いと経験的に考えられてきました。たしかにこの研究でも教育の方が就業経験よりもリターンが高いことが実証されています。しかし、ひょっとしたら、学校教育を早くに切り上げて就業経験を積むことの利益を考えれば、学校教育制度の改革と労働市場の改革の間にトレードオフがあるのかもしれません。

繰り返しになりますが、理論的、というよりは、実証的、経験的に学校教育のリターンはとても高く、特に高等教育の高リターンは貧困脱出からの有効性を示している、と考えられてきましたし、この研究でもその結論は支持されています。特に、私のような大学の研究者は強く教育の効果を信じてきています。しかし、就業経験・職務経験、ある意味で、日本的なOJTに相当する経験は学校教育の¼ながら、それなりに高いリターンがあるとの結果が明らかにされています。これは、理論的、というよりは実証的な研究テーマであろうと私は受け止めています。

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2023年8月22日 (火)

大山選手のサヨナラ打で中日を下してマジック25

  RHE
中  日0100020000 381
阪  神0011001001x 4112

不動の4番バッター大山選手のサヨナラ打で中日を下して、マジック25です。
先発西勇輝投手は5回途中まで自責点2でまずまずの復活のピッチングでした。イニングまたぎの桐敷投手から鉄壁のリリーフ陣で中日打線をゼロに抑え、3番森下選手の同点タイムリー、最後は大山選手のサヨナラ打でした。

明日の中日戦も、
がんばれタイガース!

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映画「リボルバー・リリー」を見る

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昨日8月21日、京都に出て、映画「リボルバー・リリー」を見て来ました。原作は、長浦京『リボルバー・リリー』(講談社文庫)で、私は、もちろん、映画を見る前に単行本の方の原作を読んでいます。
舞台は大正時代、関東大震災の翌年を舞台にしています。痛快なアクション映画であり、陸軍と巨大な暴力団という敵から中学生の少年を守るリリー、こと、小曽根百合の逃避行という、一言でいえば、そういうことなのですが、なぜ逃げるのかという部分は、原作では非常に深い謎であり、私はむしろミステリに分類すべきであろうと考えています。ただ、原作と違って映画では、弁護士の岩見がごく軽く情報を仕入れてきたりします。
原作の小説を読んだ上で、映画を見るに当たっての不安、というか、疑問が2点ありました。第1に、原作ではリリーこと小曽根百合がアラサーなのに、アラフォーの綾瀬はるか主演でいいのか、という点と、喫煙シーンがやたらと多いのをどう処理しているか、でした。結論からいって、よく判りませんでした。
綾瀬はるか主演に関しては、まあ、人生50年時代の大正時代の物語ですので、10歳くらいふけた役者さんでもいのかな、という気はします。そして、私の不勉強のため、アラサーで綾瀬はるかに代わる女優は誰がいいのか、と問われれば、回答を持ち合わせません。したがって、合格点ながら、100点では決してなく、まあ、75点か80点か、といったあたりです。第2に喫煙シーンについては、私なら喫煙シーンはすべてカットするのですが、監督のお考えなのか、ほぼほぼ原作通りに役者さんが喫煙していた気がします。ここまで堂々と喫煙シーンを盛り込むと、まあ、大正時代という時代背景からして仕方ない、と考える人が多そうな気がします。これも75点か80点くらいの処理だと思います。アクションシーンは、前々から想像していた通り、訓練された陸軍部隊に少数の民間人が挑むわけで、荒唐無稽としか思えませんでしたが、それをいいだせば、ドラえもんの道具だってそうです。そこはスルーするしかないと思います。

そういう意味で、興行成績が第1週の7位くらいで、やや振るわない、という報道を見かけたのですが、まあそうだろうと思います。私も映画化はされたものの、原作をしっかり読んでおけば十分、映画を見るのはオマケのようなもので、決して原作の読書にプラスアルファが大きいわけではない、と結論しておきます。

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2023年8月21日 (月)

やっぱりリモート学習は到達度が低いのか?

今月8月に入って、NBERから "Who Benefits from Remote Schooling? Self-Selection and Match Effects" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。リモート学習/オンライン授業に関して米国ロサンゼルスのデータを基に、a negative average effect of remote learning と結論しています。

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上のテーブルは、ワーキングペーパーから Table 1: Effects of Remote Learning を引用しています。一応、念のため、黄色のハイライトは引用者によるものです。まあ、日本ではオンライン授業と呼ばれていますが、このペーパーではリモート学習 Remote Learning と呼んでいます。結論として、日本の科目でいえば国語に近いリーディングでは▲0.144標準偏差分、数学では▲0.168標準偏差分ベースラインを下回っている、という結果です。日本的な偏差値に引き直せば、リーディングで▲1.44、数学で▲1.68だけリモート学習/オンライン授業の到達度が低い、という結果です。もっとも、平均的にはこのような結果で、それはそれとして理解できるところですが、リモート学習に対する要求がもっとも強い親を持つ子供 children whose parents have the strongest demand for remote learning については、逆のポジティブで高い到達度を達成するという結果が出ています。一般的・平均的には、リモート学習/オンライン授業だと到達度が低くなるというのは、それなりに理解できることですが、逆に何らかのメリットを享受しているグループもあるわけです。この研究でのスコープ外ですが、リモート学習/オンライン授業を十分に活用するためには何が必要か、という研究が今後求められることになります。

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2023年8月20日 (日)

伊藤投手が完封勝利でマジック26

  RHE
阪  神010100000 290
横  浜000000000 050

伊藤将司投手の完封勝利で、マジック26です。
伊藤投手は5安打完封のほぼ完璧なピッチングでした。しかも、4回にはみずからのタイムリーで2点目を上げ、ピッチングも楽になたのかもしれません。

次の中日戦も、
がんばれタイガース!

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最近のお気に入りの Osaka Jazz Channel

最近のお気に入りの Osaka Jazz Channel の中の Take Five です。いうまでもありませんが、Paul Desmond の作曲になり、Dave Brubeck Quartet の演奏であまりにも有名な5拍子ジャズの名曲です。たぶん、最後の英文コメントは私だったりします。
この Osaka Jazz Channel の演奏は、大阪にある Brooklyn Parlor Osaka で収録されているようです。新宿3丁目のマルイアネックスにある Brooklyn Parlor Shinjuku は知っているのですが、大阪は土地勘がありません。調べると心斎橋にあるようです。我が家は、子どもたちが小学校を出るころまで東京の南青山に住まいしていて、東京のジャズのライブの有名なお店のひとつである Blue Note Tokyo には2ブロックくらいでした。全盛期のジャンボ尾崎のドライバーなら届くかもしれない、くらいの距離感です。でも、小学生のいる時期でしたのでまったくご無沙汰でした。大阪の心斎橋のライブも、行きたくはあるのですが、'Round Midnight まで聞いていると帰宅できないおそれがあります。

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2023年8月19日 (土)

ベイスターズに快勝してマジックを着実に減らすタイガース

  RHE
阪  神000002121 6130
横  浜100000100 290

昨夜は悔しい負けでしたが、今夜は勝ってマジック減らしに成功です。

先発青柳投手は5回まで1失点と、横浜打線をスミイチで抑え、桐敷以下のリリーフ陣に後続を託します。打っては、ヒーローインタビュー小野寺選手の同点スリーベースに、頼れる4番大山選手の犠牲フライで逆転し、そのまま押し切りました。

明日も、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済所2冊をはじめ計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、大塚節雄『インフレ・ニッポン』(日本経済新聞出版)は、日経新聞ジャーナリストが我が国と世界のインフレについて考えていますが、小売店や消費者にはまったく取材せず、日銀当局の「大本営発表」みたいな公式見解をそのまま右から左に流すという形で、ジャーナリズムとして日経新聞のリテラシーの低さが垣間見える仕上がりになっています。メアリー L. グレイ & シッダールタ・スリ『ゴースト・ワーク』(晶文社)では、アマゾンのMタークというプラットフォームに象徴されるようなweb上で仕事を請け負い、ソフトやアルゴリズムを補完する仕事に関して、人的資本や雇用の観点から強い警鐘を鳴らしています。綿矢りさ『嫌いなら呼ぶなよ』(河出書房新社)は、作者の芥川賞受賞作家の独特の軽妙でコミカルな語り口を堪能できる短編が収録されています。宮永健太郎『持続可能な発展の話』(岩波新書)では、SDGsなどに集大成されているサステイナビリティの議論を幅広く解説していますが、残念ながら、解決策や政策対応が抜け落ちていて物足りない印象です。有村俊秀・日引聡『入門 環境経済学 新版』(中公新書)は、20年余り前の旧版を改定した新版であり、環境経済学の理論を第1部で解説した後、第2部では日本の環境問題の実践編を展開しています。山形辰史『入門 開発経済学』(中公新書)では、マクロの開発経済学を基礎にし、資本蓄積や技術の応用、そして、国際開発援助まで幅広く論じています。一穂ミチほか『二周目の恋』(文春文庫)では、7人の豪華な執筆陣が短編、タイトル通りに成熟した「二週目の恋」の短編を収録したアンソロジーです。最後に、織守きょうやほか『ほろよい読書』(双葉文庫)は5人の作家によるお酒にまつわる短編を収録しています。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊、6~7月に48冊、8月に入って先週までに13冊、そして、今週ポストする8冊を合わせて113冊となります。
なお、新刊本ではないので、この読書感想文のブログには取り上げていませんが、奥田英朗『コメンテーター』の図書館予約待ちの間に、その前の精神科医・伊良部シリーズ3冊、すなわち、『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』、『町長選挙』も読んでいたりします。新刊書読書とともにFacebookあたりでシェアしたいと予定しています。

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まず、大塚節雄『インフレ・ニッポン』(日本経済新聞出版)です。著者は、日経新聞のジャーナリストです。冒頭のプロローグで、日本の異常性について指摘があり、物価上昇を異常だと考えること自体が世界的には異常である、と喝破しています。まさにその通りだと思います。そして、ウクライナ危機の少し前2021年秋以降の物価上昇について、輸入インフレから企業間インフレ、そして消費者インフレに波及していったとし、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による需給両面からのインフレ圧力、交易条件悪化による所得の海外流出、などなど、かなり的確な指摘だと思います。しかし、そう思ったのはこのあたりまでであり、ジャーナリストらしく、メディアで大きく取り上げられたトピックに引きずられている印象もあります。典型的には、当時の黒田総裁の「インフレ許容度」発言で、強制貯蓄の積上がりを根拠にした発言を、メディアといっしょになって議論するのはいかがなものかという気はします。また、タイトルと違って、物価やインフレに直接に向き合うのではなく、ニュースソースである金融政策当局に焦点を当てるのも、やや違和感を覚えます。マクロ経済学的には金融政策はとても重要なのですが、メディアのジャーナリストとしては金融政策当局に取材するだけではなく、企業行動や消費者マインドなどのマイクロな視点ももう少し欲しかった気がします。その意味で、本書は強烈に物足りません。金融政策当局の動向に着目するとしても、日銀をはじめとする多くの中央銀行と違って、米国の連邦準備制度理事会(FED)は物価安定とともに最大雇用の達成も、いわゆるデュアルマンデートにしているわけですので、そのあたりはもう少していねいに書き分けて欲しかった気がします。いずれにせよ、民間部門、というか、繰り返しになりますが、価格戦略をはじめとする企業活動、小売店の価格対応、購買や支出の基となる所得や消費行動や消費者マインド、こういったジャーナリストが本来得意とすべき個別の分野で地道な取材をした上での分析ではありません。私はもともと日経新聞の報道姿勢については懐疑的なのですが、財政政策については財務省に取材して、また、物価については金融政策当局に取材して、それぞれの政策当局の公式見解を鵜呑みにして政府や日銀の広報活動を補完するようなジャーナリズム成り下がっているような気がします。やや悪い意味で「大本営発表」に近いと感じてしまいました。国民や企業、メーカーや小売店や消費者に取材したりはせず、日銀での取材結果をそのまま取りまとめている印象で、たぶん、その方がジャーナリストとしてはラクなんでしょうし、そういった公式発表の寄集めが「勉強になる」と感じる読者がいるのは判らないでもありません。そこは理解しますが、それでも、ジャーナリズムとしては独自のニュース・ソースを持って、それらに当たる取材をすべきであると私は考えています。例えば、東大の渡辺教授がプライシングパワーと呼んでいる価格形成力、というか、コストプッシュ・インフレの価格転嫁力を企業が持っているのかどうか、企業に取材して真実に迫るような方向性はジャーナリズムとして持っていてほしい気がします。その意味で、本書は記者クラブに流される政策当局の公式発表を寄せ集めたり、政策当局、特に、政権幹部のウラ情報を有り難がったりするばかりで、国民や中小零細企業に目を向けて取材しているのかどうか疑わしい日本のジャーナリズムのリテラシーの低さが詰まっていて、それほどオススメ出来ないと感じてしまいました。

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次に、メアリー L. グレイ & シッダールタ・スリ『ゴースト・ワーク』(晶文社)です。著者は、2人ともマイクロソフトリサーチの研究者であり、専門分野は経済学ではなく人類学、メディア学、社会学などだそうです。英語の原題は Ghost Work であり、2019年の出版です。まず、タイトルのゴースト・ワークなのですが、典型的には、アマゾンのメカニカル・ターク(Mターク)というWebインターフェースやAPIを通じて、色々な仕事を世界中の人に依頼することができるクラウドソーシングサービスで仕事を請け負う人達のこなすお仕事です。Mターク以外にもこういったプラットフォームがあるのかもしれません。本書でも指摘されていますが、現時点の人工知能(AI)やアルゴリズムでは、すべてをソフトとマシンで仕上げることは出来ず、アンケート、美しさの評価、ニュースの分類などを人力でやっているわけで、こういったお仕事です。リクエスターがMタークに仕事内容と報酬や納期などの条件をアップロードし、そのゴースト・ワークを請け負うのがワーカー、というわけです。リクエスターは主要にはGAFAなどのIT大手らしいです。たぶん、それなりにリクエスターとして発注している側のマイクロソフトの研究所の研究者が、こういった問題点を研究できるのですから、私はやや驚いています。60歳の定年まで国家公務員をしていた私には馴染みのない世界なのですが、馴染みなくても、容易に問題点は理解できます。まず、雇用関係ではありませんから、日本語のニュアンスでいえば、独立請負契約ということになり、当然ながら、最低賃金や労働災害などは適用されず、何らの雇用者保護も受けられませんし、必要なPCやネット接続などもワーカー側の負担となります。いろんなゴースト・ワークの実態を紹介し、問題点を指摘するとともに、18世紀産業革命からの雇用と労働の大雑把な歴史についても概観していたりします。たぶん、不勉強な私だけでなく、こういった働き方については知らない人が少なくないでしょうから、米国とインドだけながら、事実関係を情報として集めただけでもそれなりの価値があると私は受け止めています。最後に解決策を10点、社会的変化を起こすための技術的解決策5策と技術的な専門知識を必要とする社会的解決策5策です。これらの解決策については、私には評価が難しいのですが、AIやアルゴリズムが広く活用されるに従って、こういった働き方も増えていくことは明らかだと思います。私は雇用をもっとも重視するエコノミストであり、現在の日本経済の停滞は派遣やパートをはじめとする非正規雇用の拡大を深く関係していると考えていて、たとえ「規制強化」になるとしても、非正規雇用の拡大を食い止めたいと考えています。おそらく、現在の政権や経済界は私と真逆の方向性なのだろうということは認識しています。それだけに、近い将来の日本の問題として考えておくべき問題かもしれません。

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次に、綿矢りさ『嫌いなら呼ぶなよ』(河出書房新社)です。著者は、芥川賞作家です。本書には、関連のない、というか、独立した4話の短編を収録しています。順に、「眼帯のミニーマウス」、「神田タ」、表題作の「嫌いなら呼ぶなよ」、唯一の書下ろし「老は害で若も輩」となります。この作者は私は不勉強にしてそれほど読んでいないのですが、なかなかに軽妙な文章のテンポとクセのある登場人物が魅力だと考えています。本書では、そのどちらも楽しめます。「眼帯のミニーマウス」では、学生のころのファッション趣味から、社会人になってちょっとした美容整形を繰り返すようになり、その事実を職場でカミングアウトし、仲間内で話題になる、というストーリーです。なお、作者のデビュー20周年記念作の『オーラの発表会』の主人公の1人だった海松子が端役で登場します。「神田タ」では、飲食店のアルバイト女性から素人ユーチューバー神田への応援コメントが過熱していくさまがコミカルに描かれています。表題作の「嫌いなら呼ぶなよ」では、不倫を突き止められて、結婚前からの親しい友人宅の落成パーティーで吊るし上げられる男性を主人公に、口から出る謝罪の言葉と心の声である本音の対比が、どちらもありえないくらいに自然だったりします。最後の唯一の書下ろし「老は害で若も輩」では、女性作家にインタビューした女性ライターの原稿が女性作家に大きく手直しされ、男性編集者が間に板挟みになって苦しみつつ、でも、三者三様にバトルを展開します。なお、「老」を代表する女性作家の名字は作者と同じ綿矢だったりします。いずれの短編も、ある意味で設定はとても怖い毒なのですが、決してその怖さや毒を前面に打ち出すのではなく、コミカルで軽妙なテンポで文章が進み、さすがに芥川賞作家の筆力を感じさせます。私は『オーラの発表会』を読んでからこの作品を読むようにと、その昔の文学少女にオススメされたのですが、『オーラの発表会』を読まずにこの作品を読みました。オススメに従っておけばよかったかもしれません。

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次に、宮永健太郎『持続可能な発展の話』(岩波新書)です。著者は、京都産業大学の研究者であり、専門は環境ガバナンス論だそうです。ということで、本書は環境に限定せずに、いわゆるSDGsに集約されているサステイナビリティに関する概説書です。ですので、地球環境問題、あるいは、環境の一部と考えられがちな廃棄物問題、生物多様性、水資源問題などを幅広く扱っています。当然ながら、現在のサステイナビリティ問題の元凶は人新世=Anthropocene であり、人間活動です。まあ、広い意味での経済活動といっていいと思います。本書では、私の見方に比較的近くて、環境サービスや生態系サービスが提供されていて、価格が付けられていないことから市場の失敗が生じている、というのが基礎にあります。ただし、私は Steffen 教授の Planetary boundaries と同じで、何らかの限界を越えると不可逆的な変化をもたらす、と考えていますが、そのあたりは本書では不明です。SDGsについては、その前のMDGsがほぼほぼ政府に責任を限定していた一方で、責任論をひとまず棚上げして、先進国だけでなく新興国や途上国も含めた「全員参加型」の目標設定になっていますが、それだけに、というか、逆に、参加意識の希薄なグループも少なくない、というのが私の印象です。でも、2030年に向かってもうSDGsの中間年を過ぎて、本書では、まだ、解決編が示されていないのが最大の弱点です。問題の指摘はいっぱいあって、いかにも岩波新書らしい気がしますし、研究者でなくてもジャーナリストでもこの程度の指摘はできそうな気がしますので、問題はSDGsの最終目標年である2030年に向けて、どういった行動が必要なのか、政府や企業の活動はどうあるべきか、という点はほのかに明らかになっていますが、そのためにどのような対策や解決策があるのか、そして、それらの評価やいかに、といった重要なポイントが本書ではスッポリと抜け落ちていて、外宇宙から地球を見た宇宙人の評論家のような視点しか提供されていません。その意味で、とても物足りないと感じる読者が多そうな気がします。

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次に、有村俊秀・日引聡『入門 環境経済学 新版』(中公新書)です。著者は、いずれも大学の研究者です。本書は「新版」とあるように、20年余り前に出版されたものを改版しています。ということで、本書は2部構成であり、第1部は理論的な環境経済学について解説し、第2部で日本の環境問題についての実例を引いています。本書では、環境経済学はやや狭く外部性で解説しようと試みています。私は大学の講義で環境経済学とは自然環境から得られる環境サービスに関する経済学であり、いくつかの特徴として、外部性とともに不可逆性についても付け加えています。すなわち、経済学においても、いくつか不可逆的な動きは観察されるのですが、自然環境から得られる環境サービスについては不可逆性があると考えています。例えば、気候変動が進んで極地の氷が溶けるともう元通りにすることが出来ない、といった点です。ただ、本書第1部の経済理論については、不可逆性を持ち出すことなく外部経済だけで極めて明快に解説されています。この方がいいのかもしれないとついつい考えてしまいました。私の専門はマクロ経済学ですので、マイクロな経済学から環境を説明しようとすれば、本書のようなやり方がいいそかもしれません。第2部では、廃棄物問題、大気汚染、気候変動について現実の問題とその解決方法について解説しています。ただ、経済学の弱点なのかもしれませんし、むしろ長所かもしれませんが、ゴミなどの廃棄物も含めて、汚染物質とかほかの何らかの排出をゼロにしようとすれば、経済活動をストップさせて生産をゼロにしなければならないわけで、結局、本書でも重視されている費用便益分析で最適点を探る、ということになりますが、実はこれはそう簡単ではなく、経済学のような不確定な学問に基礎を置くと、それぞれの主張者に都合のいい結果が示されかねません。他方で、政府に委任しても政府の失敗も無視できません。あまりにこういった点を強調すると、不可知論に陥ってしまいますが、環境をどの程度重視し、それとのトレード・オフの関係にある経済活動をどの程度重視するか、これにかかってきますし、場合によっては党派性もむき出しになります。理論的には可能でも、実践がどこまでできるかは疑問、というのが、環境経済学かもしれません。

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次に、山形辰史『入門 開発経済学』(中公新書)です。著者は、私の所属する国際開発学会の会長も経験したエコノミストであり、当然ながら、開発経済学の専門家です。本書で扱っている開発経済学はあえて分類すればマクロの開発経済学であり、大塚啓二郎教授の最近の出版『「革新と発展」の開発経済学』が個別の政策や国際協力案件の評価といったマイクロな開発経済学を主たる眼目にしているのとかなり趣が違っています。ですから、本書で何度か強調されているのが公平や平等の観点であり、「理不尽な悲惨さ」を低減させ回避することを本書では主たる眼目のひとつにしているようです。ですので、私が一昨年の夏休みに書き上げた紀要論文 "Mathematical Analytics of Lewisian Dual-Economy Model: How Capital Accumulation and Labor Migration Promote Development" と同じように、二重経済における資本蓄積や成長からお話が始まっています。ただ、私も何度か強調していますが、この21世紀になっても、というか、戦後80年近くを経過して、途上国から先進国レベルの所得を達成した国はそれほど多くありません。おそらく、産業革命以降で欧州と北米を除いて、いわゆる先進国レベルの所得を実現したのは、日本のほかはシンガポールと韓国くらいなのだろうと思います。その意味で、大塚教授の本と同じ用に、本書でもイノベーションの重要性が強調されていますが、私はそこまで大上段に振りかぶらなくても、先進国へのキャッチアップを主眼にした開発が可能なのではないか、という気がしています。もちろん、日本の場合は、当時の欧米から技術を導入し、それを洗練された、というか、日本流に変化・変形させて対応する、という方法を取ったわけですが、途上国ではまだまだ応用可能なキャッチアップがあるのではないかと考えています。最後に、私はインドネシアの首都ジャカルタでのお仕事だった国際協力の虚しさを感じています。本書では最終第4章で取り上げています。日本ではJICAが受け持っている国際援助や国際協力なのですが、ホントにこれらを活用して先進国並みの所得を実現できるのでしょうか。本書では、「外交の視点」という名の国益重視を批判していますが、批判、ないし、反省すべきは、それだけではない気がするのは私だけでしょうか。

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次に、一穂ミチほか『二周目の恋』(文春文庫)です。7人の作家によるアンソロジーです。収録作品は順に、島本理生「最悪よりは平凡」、綿谷りさ「深夜のスパチュラ」、波木銅「フェイクファー」、一穂ミチ「カーマンライン」、遠田潤子「道具屋筋の旅立ち」、桜木志乃「無事に、行きなさい」、窪美澄「海鳴り遠くに」となります。「最悪よりは平凡」は、魔美という特別な名を持つ平凡な容姿の女性を主人公に、家庭のトラブルと恋愛遍歴を描き出しています。「深夜のスパチュラ」は、合コンで気の合った男性に対してバレンタインの手作りチョコを渡すべく悪戦苦闘する女性のコミカルな騒動を題材にしています。タイトルは料理とかお菓子作りに使うヘラのことのようです。「フェイクファー」では、大学の手芸サークルに入ったものの、実は着ぐるみの愛好家が集まっていて、その魅力に引かれた男性の数年後の物語です。「カーマンライン」では、19歳の女子大生が日米で分かれて育った双子の男性が来日して再会します。タイトルのカーマンラインとは地球と宇宙を分けるラインだそうで、私は線=ラインじゃなくて平面=プレーンじゃないの、と思ってしまいました。「道具屋筋の旅立ち」では、年下でありながらファッションや化粧まで口出しする横暴で強引な恋人に、かつての太っていたころの自分を思い出す女性の物語です。「無事に、行きなさい」では、アイヌの血を引くインテリア・デザイナーとレストランのシェフの恋物語です。最後の「海鳴り遠くに」では、夫を早くに亡くした女性が別荘に隠棲して自分の性に目覚める、というストーリーです。本書のタイトルの「二周目」からも理解できるように、初恋の物語ではなく、やや年齢を重ねた雰囲気があり、成熟したラブストーリーを集めています。しかも、作者を見ただけでも理解できるように、豪華執筆陣です。決して女性向けとか、もちろん、女性限定というわけではなく、私のような年齢のいった男も含めて楽しめる短編集だと思います。

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最後に、織守きょうやほか『ほろよい読書』(双葉文庫)です。5人の作家によるアンソロジーです。収録作品は順に、織守きょうや「ショコラと秘密は彼女に香る」、坂井希久子「初恋ソーダ」、額賀澪「醸造学科の宇一くん」、原田ひ香「定食屋「雑」」、柚木麻子「barきりんぐみ」です。表題から理解できるように、何らかのお酒にまつわる短編を収録しています。一応、双葉社の発行する月刊誌『小説推理』に掲載されていた作品を集めているのですが、まったくミステリではありません。念のため。ということで、まず、「ショコラと秘密は彼女に香る」では、チョコレートボンボンが取り上げられます。海外勤務もしたカッコいい独身の叔母の登和子を姪のひなきが語ります。叔母が姪の自宅である実家を訪れる際に定番のお土産で持ってきてくれたのがチョコレートボンボンです。その思い出を追って、主人公ひなきは神戸に旅して叔母の過去の友人さくらを訪ねます。「初恋ソーダ」では、果実酒が取り上げられます。主人公の果歩は自分でも果実酒を漬けるとともに、果実酒のバーにも通います。そこで同じ常連の中年バツイチ男が果歩のアパートに寄って来たりします。「醸造学科の宇一くん」では日本酒です。同じ一族の親戚ながら、仲のよくないご両家の酒造一家の娘と息子が同じ大学の醸造学科に相次いで入学し、しかも同じ学生寮の男子寮と女子寮で生活するという青春物語です。「定食屋「雑」」では、たぶん、ビールなのだと思いますが、酒類は特定せずに食事と飲酒をテーマにします。新婚ながら、亭主が食事時に飲酒するのが我慢できない女性沙也加が主人公です。結局、沙也加の主人公は気詰まりで家を出ていってしまうのですが、主人公は亭主が通っていた定食屋でアルバイトを始め、いろいろな発見をしたりします。最後の「barきりんぐみ」では、名門カクテルバーkilling meのバーテンダー有野は、コロナ禍で店が立ち行かなくなった時、大学の同級生である大塚からオンライン飲み会でシェーカーを振る腕前を披露してくれと、かなり破格のギャラで誘われます。しかし、そこは、コロナ陽性の疑いある保育士を出して一時的に閉鎖されている保育園きりん組の保護者がオンラインで集まってストレス発散を図っている場でした。そこで、主人公の有野はありあわせの材料でできるカクテル、モクテル、お料理を紹介する。というストーリーです。私のような酒好きには、とっても身にしみるような短編集です。

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2023年8月18日 (金)

11か月連続で+3%を超える上昇率を示した7月消費者物価指数(CPI)の先行きをどう見るか?

本日、総務省統計局から7月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.1%を記録しています。前年比プラスの上昇は23か月連続で、日銀のインフレ目標を大きく上回る高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+3.3%に達している一方で、エネルギー価格の高騰が一巡したことから、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+4.3%に達しています。コアCPIはもちろん、エネルギーと生鮮食品を除くコアコアCPIでも日銀のインフレ目標である+2%を超えています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、7月3.1%上昇 11カ月連続で3%超え
総務省が18日公表した7月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が105.4となり、前年同月比で3.1%上昇した。上昇率が3%を上回るのは11カ月連続となる。電気・ガス代が押し下げ、3.3%プラスだった6月と比べて伸びは2カ月ぶりに鈍化した。
QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値の3.1%と同水準だった。上昇は23カ月連続となる。引き続き日銀の物価目標である2%を上回る状況で、食品や日用品では高い伸びが続いた。生鮮食品を含む総合指数は3.3%上昇した。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.3%上がった。伸びは2カ月ぶりに拡大した。5月に並び、第2次石油危機の影響で物価が上昇した1981年6月の4.5%以来の高い上昇率となった。
総務省は政府の電気・ガス料金の抑制策と観光支援策「全国旅行支援」が共になければ、生鮮食品を除く総合が4.2%上昇だったと試算した。単純計算すると、政策効果で伸びは1.1ポイント抑えられた。
品目別でみると、エネルギーは前年同月比で8.7%マイナスだった。電気代が16.6%低下した。燃料価格の下落により6月の12.4%から下げ幅を拡大した。都市ガス代も9.0%下がった。
政府が石油元売りなどへの補助を段階的に縮小しているガソリンは1.1%上昇した。前年同月と比べてプラスになるのは1月以来6カ月ぶりとなる。
生鮮食品を除く食料は9.2%上昇した。伸びは5月から3カ月連続で横ばいで、高止まりが続いている。鳥インフルエンザの影響などで鶏卵が36.2%上がった。原材料費や人件費の上昇で外食のハンバーガーは14.0%プラスだった。
宿泊料は15.1%上がった。新型コロナウイルス禍からの回復で観光需要が増えた。携帯電話の通信料も10.2%プラスだった。比較可能な2001年1月以降で最大の上げ幅となった。一部の通信事業者が料金プランを改定した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.1%の予想でしたので、実績の+3.1%の上昇率はジャストミートでした。まず、エネルギー価格については、2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された7月統計では前年同月比で▲8.7%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲0.74%の大きさを示しています。したがって、7月統計でコアCPI上昇率が6月統計から▲0.2%ポイント縮小した背景はエネルギー価格にあります。すなわち、6月統計ではエネルギーの寄与度が▲0.56%あったのですが、7月統計では▲0.74%へと▲0.19%ポイントの寄与度差となっています。たぶん、四捨五入の関係で寄与度差は寄与度の引き算と合致しません。悪しからず。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、6月統計では電気代の寄与度が▲0.49%あったのですが、7月統計では▲0.67%へと▲0.18%ポイントの寄与度差を示しています。しかしながら、統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.83%に達しており、この政府対策を除けば値上がりしているという結果です。電力会社の利益が大きく積み上がっているわけです。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、6月統計で前年同月比▲1.6%だったガソリン価格は7月統計で+1.1%の上昇に転じていたりします。ということで、エネルギーに代わって食料がインフレの主役となった感があります。すなわち、変動の大きな生鮮食品を除く食料は7月統計で前年同月比で+9.2%と、2ケタに迫る上昇率を示し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も+2.08%に達しています。ですから、食料を除く消費者物価上昇率は+2%強の日銀物価目標にほぼほぼ近くなります。さらに細かく食料の内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、からあげなどの調理食品が+0.36%、アイスクリームなどの菓子類が+0.28%、外食ハンバーガーなどの外食が+0.26%、そしてメディアでの注目度も高い鶏卵などの乳卵類が+0.22%、国産豚肉などの肉類も+0.19%、などなどとなっています。

最後に、従来からもう何度も主張しているように、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率はそれほど長続きしません。日本だけでなく、世界的なコンテクストにおいてインフレが長引くことなない、と私は考えています。日本国内のインフレについては、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年7~9月期には+2.83%と+3%を下回り、その後、緩やかに上昇率を低下させ、ほぼ1年後の来年2024年年央には+2%近傍に達します。すなわち、2024年4~6月期には+2.17%と日銀の物価目標である+2%近くまで低下し、その後、7~9月期には+1.86%と+2%を下回る、と予想されています。さらのその後も、+1%台前半へと緩やかにインフレ率は低下すると見込まれています。ふたたび、日銀の物価目標+2%を下回ると予想されているわけです。繰り返しになりますが、7月統計では消費者物価上昇率が6月統計から縮小していますし、インフレが再加速する可能性はほとんどないと考えるべきです。

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2023年8月17日 (木)

赤字に戻った7月の貿易統計と力強さに欠ける6月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から7月の貿易統計が、また、内閣府から6月の機械受注が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、貿易統計については、季節調整していない原系列で見て、輸出額が▲0.3%減の8兆7249億円に対して、輸入額は▲13.5%減の8兆8036億円、差引き貿易収支は▲787億円の赤字を記録しています。機械受注については、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+2.7%増の8540億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2カ月ぶり貿易赤字 7月、赤字幅は前年比94.5%縮小
財務省が17日発表した7月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は787億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶりだが、赤字幅は前年同月に比べて94.5%縮小した。資源価格の高騰が落ち着いて輸入額が減った。半導体製造装置などが不調で輸出額も微減となった。
貿易収支は6月に23カ月ぶりの黒字となったが再び赤字に転落した。中国向け輸出などが減って輸出額は2021年2月以来、29カ月ぶりの減少となった。
輸入は前年同月比で13.5%減の8兆8036億円だった。原粗油は29.7%減の8032億円、液化天然ガス(LNG)は42.3%減の4533億円で輸入額を引き下げた。主にアラブ首長国連邦(UAE)やマレーシアからの輸入が減った。
原粗油はドル建て価格は1バレル当たり80.5ドルと前年同月から30.8%下がった。為替レートは4.6%の円安に振れたが、円建て価格は1キロリットル当たり約7万2000円と27.6%下がった。
世界銀行によると7月のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の月平均価格は1バレル当たり76ドルで、前年同月の99ドルから23%下がっている。
輸入を地域別でみると中国が1兆9205億円と13.9%減少した。電話機や電算機類、医薬品の減少額が大きい。米国は9453億円で11.2%減だった。LNGや半導体等電子部品の輸入が振るわなかった。
輸出は8兆7249億円と0.3%の微減だった。半導体等製造装置の輸出額が26.6%減の2882億円だった。半導体不足の解消で自動車の輸出額は1兆5904億円の28.2%増となったものの、輸出額全体を引き上げるには至らなかった。
輸出を地域別でみると中国向けは13.4%減の1兆5433億円だった。自動車や半導体等電子部品などが減少した。米国向けは1兆7912億円で前年同月比で13.5%増えた。自動車の輸出が34.1%増の5650億円となった。
7月単月の貿易収支を季節調整値でみると5571億円の赤字だった。輸入が前月比2%増の9兆178億円、輸出も2%増の8兆4606億円だった。貿易収支の赤字幅は3.1%拡大した。
機械受注3.2%減 4-6月、2四半期ぶりマイナス
内閣府が17日発表した4~6月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比3.2%減の2兆5855億円だった。マイナスは2四半期ぶりで、船舶と電力を除く非製造業からの受注が減少した。
船舶と電力を除く非製造業は前期比8.8%減で、3四半期ぶりのマイナスとなった。製造業は前期比1.1%増と、2四半期連続で拡大した。内閣府は実績を見通しで割った「達成率」を公表しており4~6月期は89.8%だった。
業種別でみると非製造業では建設機械や電子計算機の発注が減った建設業が38.6%減だった。通信機などが減った通信業も30.5%マイナスだった。建設業、通信業ともに大きく伸びた1~3月期の反動で減少した。
製造業ではその他輸送用機械が54.5%増えた。鉄道車両や関係する部品などの発注が増えた。
6月末時点の7~9月期の受注額見通しは前期比2.6%減だった。見込み通りなら2四半期連続のマイナスとなる。
17日に発表した6月の民需(船舶・電力を除く季節調整済み)の受注額は前月比2.7%増の8540億円だった。プラスは2カ月ぶりとなる。船舶と電力を除く非製造業は9.8%増、製造業は1.6%増と、ともにプラスだった。
製造業では化学工業や自動車・同付属品からの受注が増えた。非製造業は金融業・保険業がプラスとなった。全体の基調判断は「足踏みがみられる」で8カ月連続で同じ表現とした。

とてつもなく長くなってしまいましたが、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、小幅な貿易黒字が見込まれていたのですが、実績の▲800億円近い貿易赤字となり、貿易黒字から赤字への転換とはいえ、予想レンジの下限は▲1300オゥ園でしたから、大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事の最後のパラにもあるように、季節調整済みの系列の統計で見て、まだ7月統計でも貿易赤字は継続しているわけで、赤字幅は縮小したとはいえ▲5000億円を超えています。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額はそれほど大きく伸びているわけではなく、輸入が大きく減少したのが貿易収支の赤字縮小の原因です。ただし、円安については足元でまたまた1ドル140円半ばに達して、昨秋の介入水準に近くなっていることは事実です。私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
7月の貿易統計は引用した記事にも少し言及されていますが、品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。単価と数量のいずれでも減少していると考えられます。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲2.9%減に過ぎませんが、金額ベースでは▲29.7%減となっています。LNGも同じで数量ベースでは▲17.4%減であるにかかわらず、金額ベースでは▲42.3%減となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、価格と数量の両面から輸入額が減少していると考えるべきです。少しタイムラグを置いて、価格低下に見合った輸入の増加が生じる可能性は否定できません。それが見られるのは食料品であり、穀物類は数量ベースのトン数では+4.7%増となっているにもかかわらず、金額ベースでは▲4.9%減と価格の下落により輸入額が減少しています。輸出に着目すると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+30.6%増、金額ベースでは+49.7%増と伸びています。自動車輸出は半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与して台数ベースの数量で前年同月比+18.1%増、輸出額も+28.2%増と伸びています。ただし、一般機械▲4.5%減、電気機器▲7.3%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出はやや停滞しています。これは、先進各国がインフレ抑制のために金融引締めを継続していて、景気が停滞していることが背景にあります。ただ、輸出額が北米や西欧向けで大きく減少しているわけではありません。むしろ、7月統計を見る限り、ゼロコロナ政策を継続している中国向け輸出額の減少が大きく、前年同月比で▲13.4%減と2ケタ減を記録しています。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+3.8%増の予想でしたから、実績+2.7%増はやや下振れた印象です。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。8か月連続での基調判断の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、トレンドとして下向きとなっている可能性が読み取れると思います。ただし、受注水準としてはまだ8,000億円を超えており決して低くはありません。ただし、4~6月期の見通しでは、前期比+4.6%増の2兆7926億円と見込まれていたところ、実績では3.2%減の2兆5855億円にとどまりました。加えて、7~9月期の見通しは、製造業・非製造業ともに減少し、コア機械受注で見て▲2.6%減の2兆5,174億円と見込まれていますので、景気局面が回復ないし拡大の後半に差しかかっていることも事実ですから、機械受注のような先行指標は下向きに反転したとしてもおかしくないと、私は考えています。また、引用したい記事にもある通り、4~6月期のコア機械受注の達成率が89.8%まで低下しています。エコノミストの経験則として、この達成率が90%ラインを下回れば景気後退局面に入る、というのがあります。日銀が金融緩和を終了し、長期金利の上昇を容認する姿勢を取っていることから、金融政策ですのでかなり長いラグがあるとはいえ、何らかの景気下押し圧力があると考えるべきですから、景気はゆっくりと下降に向かい可能性が強くなっていると私は受け止めています。

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2023年8月16日 (水)

広島に勝ってマジック29点灯

  RHE
阪  神040000001 5121
広  島110001000 382

10連勝は昨日でストップしましたが、今日は広島に勝ってマジック29点灯です。

先発大竹投手は6回途中まで2失点とまずまず好投し、リードを保ったまま桐敷投手がイニング跨ぎのリリーフでゼロに抑え、8回はセットアッパー岩貞投手、9回はクローザーの岩崎投手がピシャリと抑え切りました。打つ方は、とうとう佐藤輝選手がスタメンから外れ、代打ですら起用されないながら、今夜も1番近本選手と2番中野選手がよく出塁し、「恐怖の8番打者」木浪選手、また、代打の切り札原口選手がチャンスで打点を上げています。
繰り返しになりますが、佐藤輝選手がスタメンから外れ、昨日先発の西純矢投手がファームに落とされで、岡田監督の厳しい姿勢が目につきますが、私はそれなりに評価しています。ややもすれば、人気に溺れてチヤホヤされ、ぬるま湯といわれるような阪神タイガースの体制にあって、厳しい態度で選手に臨むのは監督としてひとつのあり方かもしれません。まあ、行き過ぎると何事もよろしくないのでしょうが、今までのところは吉と出ているような気がします。

明日の広島戦も、
がんばれタイガース!

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世界銀行リポート Resilient Industries in Japan を読む

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上の表紙画像は、世銀のリポート Resilient Industries in Japan です。まず、世銀のサイトからリポートを紹介する最初の1センテンスだけ引用すると以下の通りです。

Industries create jobs, catalyze investments, and bring technological advancement to a country. However, as industries expand across borders and become increasingly complex, so do their risks, including impacts from disasters and climate change.

サイテーションは以下の通りです。

世銀のリポートですので、一般的で幅広く世界経済にすべて当てはまるようなタイプの経済分析ではなく、途上国・新興国へのアドバイスとなっています。ですので、産業化は雇用を促進し、投資の触媒となり、技術進歩をもたらす、という世銀らしいシークエンスの分析から始まっています。ただ、タイトルからも想像される通り、基本的には、産業化≅製造業振興というよりは、自然災害や気候変動も含めたリスクへの耐性強化を図る内容となっています。
英文で200ページ近いボリュームですので、全部を読み通したわけではありません。なぜ読んだのかというと、数年前に私が役所の研究所にいたころに同僚と共著で書いた論文が引用されているからです。日本の1962年の全国総合開発計画(全総)に関して、p.27で引用されていて、p.48の参考文献リストに掲載されています。実は、私が担当した部分ではなく、共著者に書いてもらった部分です。それでも、一応の学術的な業績になるのではないか、と考えて確認のために該当部分だけ読んでみた次第です。来年には大学教員として定年を迎えるわけで、それほど強くはないものの、まだ、学術的な面での向上心や欲といったものをまったく捨て去ったわけではありません。

今日は外出して映画でも見ようかと考えないでもなかったのですが、昨日の台風の後の今日ですから、いろんなエンタメ施設が混み合っているような気がして、ついつい家でゴロゴロしています。

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2023年8月15日 (火)

年率+6%の高い成長率を示した4-6月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4~6月期のGDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.2%、年率では+0.6%と、3四半期連続のプラス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+1.1%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率6.0%増 4-6月、輸出復調も個人消費は弱含み
内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増だった。プラス成長は3四半期連続となる。個人消費が弱含む一方で、輸出の復調が全体を押し上げた。
GDP実額は560.7兆円、コロナ前も上回り過去最高
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率3.1%増で、大幅に上回った。前期比年率で内需がマイナス1.2ポイント、外需がプラス7.2ポイントの寄与度だった。
年率の成長率が6.0%を超えるのは、新型コロナウイルス禍の落ち込みから一時的に回復していた20年10~12月期(7.9%増)以来となる。GDPの実額は実質年換算で560.7兆円と、過去最高となった。コロナ前のピークの19年7~9月期の557.4兆円を超えた。
輸出は前期比3.2%増で2四半期ぶりのプラスとなった。半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引した。インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与した。インバウンド消費は計算上、輸出に分類される。
輸入は4.3%減で3四半期連続のマイナスだった。マイナス幅は1~3月期の2.3%減から拡大した。原油など鉱物性燃料やコロナワクチンなどの医薬品、携帯電話の減少が全体を下押しした。輸入の減少はGDPの押し上げ要因となる。
個人消費は前期比0.5%減、3四半期ぶりマイナス
内需に関連する項目は落ち込みや鈍りが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%減と、3四半期ぶりのマイナスとなった。
コロナ禍からの正常化で外食や宿泊が伸び、自動車やゲームソフトの販売も増加した。一方で長引く物価高で食品や飲料が落ち込み、コロナ禍での巣ごもり需要が一巡した白物家電も下押し要因となった。
設備投資は0.0%増と、2四半期連続プラスを維持したものの、横ばいだった。ソフトウエアがプラスに寄与したが、企業の研究開発費などが落ち込んだ。住宅投資は1.9%増で3四半期連続のプラスだった。
公共投資は1.2%増で、5四半期連続のプラスだった。ワクチン接種などコロナ対策が落ち着き、政府消費は0.1%増と横ばいだった。
民間在庫変動の寄与度は0.2ポイントのマイナスだった。
名目GDPは年率換算で12%増、インフレが名目値を押し上げ
名目GDPは前期比2.9%増、年率換算で12.0%増だった。年換算の実額は590.7兆円と前期(574.2兆円)を上回り、過去最高を更新した。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇し、3四半期連続のプラスとなった。輸入物価の上昇が一服し、食品や生活用品など国内での価格転嫁が広がっている。
雇用者報酬は名目で前年同期比2.6%増えた。実質では0.9%減で7四半期連続のマイナスとなった。物価の上昇に賃金が追いついていない。
世界をみると、米国は4~6月期のGDPが前期比年率2.4%増と前の期から加速した。ユーロ圏も前期比年率1.1%増と3四半期ぶりにプラス成長となっていた。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/4-62022/7-92022/10-122022/1-32023/4-6
国内総生産GDP+1.1▲0.3+0.0+0.9+1.5
民間消費+1.8▲0.0+0.2+0.6▲0.5
民間住宅▲1.8▲0.1+0.9+0.7+1.9
民間設備+1.7+1.7▲0.7+1.8+0.0
民間在庫 *(▲0.1)(+0.0)(▲0.4)(+0.4)(▲0.2)
公的需要+0.3+0.0+0.4+0.4+0.3
内需寄与度 *(+1.1)(+0.3)(▲0.3)(+1.2)(▲0.3)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.1)(▲0.6)(+0.3)(▲0.3)(+1.8)
輸出+1.9+2.5+1.5▲3.8+3.2
輸入+1.1+5.5▲0.1▲2.3▲4.3
国内総所得 (GDI)+0.5▲1.1+0.4+0.3+0.3
国民総所得 (GNI)+0.5▲1.1+0.3+1.6+2.3
名目GDP+0.5▲0.6+0.9+0.4+2.
雇用者報酬 (実質)▲0.5▲0.2▲0.5▲0.9+0.6
GDPデフレータ▲0.3▲0.4+1.2+2.0+3.4
国内需要デフレータ+2.7+3.2+3.4+2.8+2.3

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2022年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、黒の純輸出などがプラス寄与している一方で、赤色の民間消費などのマイナス寄与が目立っています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+3.1%でしたし、私もそんなもんと考えていましたので、実績の+6.0%は予測レンジ上限の+4.5%を大きく上回って、ややサプライズだったと私は受け止めています。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが大きく鈍化して、内需は前期比成長率+1.5%に対する寄与度で▲3.0%のマイナス寄与を示した一方で、半導体などの供給制約が緩和され、生産が伸びた自動車などの輸出が増加しており、外需寄与度が+1.8%と大きくなって、内外需のバランスは決して好ましいとはいえないものの、プラス成長となり、しかも、3四半期連続のプラス成長ですので、基本的に、景気判断としては引き続き堅調と考えてよさそうです。しかも、引用した記事にもあるように、GDPの実額は実質年換算で560.7兆円と、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前のピークである2019年7~9月期の557.4兆円を超えています。以下、少しグラフを加えておきたいと思います。

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まず、上のグラフはGDP, GDIと交易利得の実額をプロットしています。GDPとGDI=国内総所得は折れ線で、交易利得は棒グラフとなっています。まず、赤い折れ線のGDPに比べて、水色のGDIのほうが最近時点で傾きが大きくなっているのが読み取れます。これは、まだマイナスながら交易利得で計測される海外への所得の流出がマイナス幅を縮小させている影響ですから、GDP成長率よりもGDIの伸びの方が高く、また、企業や消費者などの国民の経済活動については、GDPよりもGDIの方が実感に近いといわれていますので、海外への所得流出が減少して、景気実感がGDP成長率以上に上向いているのではないか、と私は受け止めています。

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続いて、上のグラフはデフレータの上昇率をプロットしています。取っているのは、GDPデフレータ、国内需要デフレータ、民間消費デフレータで、色分けは凡例の通りです。また、影をつけた期間は景気後退期です。最近時点で、消費者物価指数(CPI)にも現れている通り、国内ではインフレ率が高進していますが、グラフを見ても判るように、本日公表の4~6月期GDP統計でGDPデフレータの上昇率が国内需要デフレータや民間消費デフレータを上回りました。輸入インフレによるコストプッシュで始まった今回の物価上昇が、国内に波及してホームメード・インフレになりつつあることが理解できます。ですから、いよいよ賃上げ、所得の上昇が必要な局面に差しかかった、と考えるべきです。

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最後に、上のグラフは非居住者の購入額、すなわち、インバウンド消費をプロットしています。いよいよ、中国からの観光客についても団体旅行が解禁されましたが、GDP統計では3四半期前、すなわち、2022年10~12月期から本格的なインバウンド消費の盛り上がりが観測されます。このインバウンド消費については、早々にCOVID-19前のピークに達する可能性があります。

台風被害にあわれた方々には心よりお見舞い申し上げます。
3か月前の1~4月期のGDP統計の公表時は、まだ交通事故のために入院しており、半年ぶりのGDP統計に対する解説でしたので、グラフもいつもより少し加えて、それなりにていねいに見ておきたいと思います。

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2023年8月14日 (月)

4-6月期GDP統計速報1次QEは外需の寄与でプラス成長か?

7月末の鉱工業生産指数(IIP)をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日8月15日に4~6月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である4~6月期ではなく、足元の7~9月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。三菱を冠したシンクタンク2社だけを例外として、ほぼすべてのシンクタンクで先行きに関する言及があります。その中で、大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズについては需要項目のうちの消費だけを引用しましたが、下のテーブルに引用しただけではなく、実は、もっと長々と足元から先行きの見通しについて言及されています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.5%
(+1.8%)
7~9月期の実質GDPもプラス成長が続く見通し。経済活動の正常化によるサービス消費やインバウンド需要の回復が続くほか、供給制約やコスト高から先送りされてきた設備投資の増加が景気回復のけん引役に。
大和総研+1.0%
(+4.2%)
2023年7-9月期の日本経済は、緩やかながらも回復基調が継続する見込みだ。自動車の挽回生産や経済活動の正常化の進展が個人消費や輸出などを下支えするとみられる。設備投資や公共投資なども緩やかな増加傾向をたどることで、実質GDPは4四半期連続のプラス成長になると見込んでいる。
個人消費は緩やかな回復基調をたどろう。旅行や外食などサービス消費の回復が継続するほか、自動車の挽回生産が本格化すれば、耐久財消費の一段の増加が期待できる。食料品や電力料金などの値上げには注意が必要だが、2023年春闘では30年ぶりの高水準の賃上げ率が実現したこともあり、先行きの個人消費は堅調に推移するとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.6%
(+2.5%)
7~9月期以降についても、日本経済は内需を中心に回復継続を見込んでいる。個人消費については、名目賃金が2%台半ば程度で推移する一方、輸入物価の低下を受けて消費者物価の上昇率が年後半は鈍化に向かう見通しであり、引き続き実質賃金の前年比マイナス幅が縮小傾向で推移することが好材料だ。感染懸念の後退に加えて夏のボーナスの増加が押し上げ要因となり、夏場の旅行需要も期待出来そうだ。JTBの「2023年夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向」によれば、国内旅行者数はコロナ禍前と同水準まで回復するほか、国内旅行平均費用もコロナ禍前対比で1割弱の増加が見込まれている。前年に引き続き国内旅行は長期化・遠距離化が加速しているほか、同行者も近しい家族から友人・知人に拡大する傾向が続いており、コロナ禍前の観光風景に戻りつつある。もっとも、円安や人件費の上昇、ガソリン補助金の縮小等により消費者物価の鈍化ペースは緩やかであるとみられる。実質賃金の前年比マイナスは2024年度まで続く可能性が高く、引き続き物価高が個人消費の下押し要因になることに変わりはない(電気・ガス代の価格抑制策については10月以降も延長される可能性が高いが、補助額が縮小されることも考えられる。補助額が半減されれば、CPIの押し下げ幅は現状の▲1.0%Ptから▲0.5%Ptまで縮小することになる)。年後半にかけて全国旅行支援が終了する自治体が増加していく(個人旅行は7月末、団体旅行は9月末までに多くの自治体で終了予定)こと等を受けて、感染懸念後退に伴うサービス分野の回復も徐々に一服に向かうとみられることから、年度後半の個人消費の回復ペースは緩やかなものになる可能性が高いだろう。
ニッセイ基礎研+0.8%
(+3.1%)
2023年7-9月期は、欧米を中心とした海外経済の減速を背景に輸出が伸び悩む一方、経済社会活動の正常化に伴い民間消費が増加することなどから、現時点では年率1%程度のプラス成長を予想している。
第一生命経済研+1.0%
(+3.9%)
2四半期連続の高成長ではあるものの内容は冴えず、ある程度割り引いて考える必要があるだろう。実態としては、景気の緩やかな回復傾向が続いているといった評価が妥当と思われる。先行きについても、均してみれば経済活動正常化の流れが続くことで景気は持ち直し傾向で推移するものの、低調な外需が足を引っ張ることで、回復ペースは緩やかなものにとどまると予想している。
伊藤忠総研+0.5%
(+2.1%)
続く2023年7~9月期は、輸出が欧米景気の減速などから伸び悩むものの、個人消費は物価上昇率の鈍化と賃金上昇の加速を受けて拡大を続け、設備投資も旺盛な企業の投資意欲を背景に増加に転じると見込まれる。その結果、実質GDP成長率は前期比でプラスを維持しよう。今年終盤には欧米景気の底入れから輸出の復調も期待されるため、日本経済は来年にかけて景気の回復傾向が続き、雇用は拡大、来春闘でも高い賃上げ率が続き、デフレ脱却を確実にすると予想される。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+1.0%
(+4.2%)
2023年4~6月期の実質GDP成長率は、前期比+1.0%(年率換算+4.2%)と3四半期連続でのプラス成長が見込まれる。
三菱総研+0.6%
(+2.4%)
2023年4-6月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.6%(年率+2.4%)とプラス成長を予測する。
明治安田総研+0.7%
(+2.7%)
先行きの景気は人流回復と賃上げ、インバウンドの回復等が支えになるほか、秋口以降は物価上昇率がピークアウトに向かうことで、実質所得の安定的なプラス転換が個人消費を押し上げると予想する。
一方、海外景気の動向は不安材料となる。今年の中国景気は冴えない不動産市場が足枷となり、力強さに欠ける推移が続く可能性が高い。米国景気は予想以上の底堅さを見せているものの、今後はFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げの効果が時間差を伴って顕在化することから、減速に向かうと見込まれる。
2023年後半の日本景気は、インバウンドを除く外需が下押し要因となるものの、内需が底堅く推移することで緩やかな回復基調をたどると予想する。

ということで、すべてのシンクタンクが4~6月期の成長率はプラスと予想しています。ただし、中身の方はイマイチで、消費の伸びはマイナスで、設備投資もひょっとしたらマイナスか、あるいは、プラスでも1~3月期の前期比+1.9%の伸びを大きく縮小させる、と予想されています。ですので、内需寄与度はマイナスながら外需寄与度のプラスが大きくて、仕上がりとしてのGDPはプラス成長、という形が予想されています。外需については、自動車産業で部品の供給制約が緩和されたため生産が伸びたことによる輸出増が寄与しています。こういった部品供給の制約を考慮すると、昨年の「通商白書」ではありませんが、経済安全保障について懸念するのは理解できる気がします。でも、理解するとしても、サプライチェーンから中国のウェイトを減じるというのが、どこまで可能なのかは疑問が残ります。
足元の7~9月期についても、引き続きプラス成長を見込むシンクタンクが多くなっています。米国をはじめとして欧米先進各国はインフレの抑制のために金融引締めを継続しおり、4~6月期とは逆に外需がマイナスとなることが予想されています。しかし、5月のゴールデンウィーク明けからの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更に伴って、国民生活の正常化が進んで消費が回復して、ひょっとしたら、4~6月期を上回る成長率も期待できる、と見込むエコノミストもいます。特に、中国からの団体旅行受入れ再開によるインバウンド期待も盛り上がっています。ただし、さらにその先となると、私自身は日銀の金融緩和終了に伴って景気回復のテンポは大きくスローダウンする可能性が十分ある、と考えています。ただし、金融政策のラグは長いですから、7~9月期、あるいは10~12月期に早くもスローダウンが現実になるかどうかは判りません。
最後に、下のグラフは、日本総研のリポートから引用しています。外需のプラス寄与が大きい点が見て取れます。

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2023年8月13日 (日)

横浜と巨人に続いて昨年の覇者ヤクルトも3タテして10連勝

  RHE
ヤクルト010020000 3101
阪  神00310010x 5120

横浜と巨人に続いて、ヤクルトも3タテして10連勝でした。
先発伊藤将投手は5回途中まで3失点とまずまず好投し、リードを保ったまま桐敷投手、加治屋投手、岩貞投手とつないで、最終回は岩崎投手が締めました。打っては、3回ウラの攻撃で5番起用に応えた小野寺選手のタイムリーで逆転し、7回にはデッドボールを受けて交代した梅野捕手に代わる坂本捕手のタイムリーで差を広げました。毎日のようにヒーローインタビューを受ける選手が代わって、日替わりヒーローが出るのは強い証拠ではないでしょうか。

次の広島戦も、
がんばれタイガース!

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経済協力開発機構(OECD)のTwitterのグラフ

昨日8月12日は国連の定める International Youth Day でした。

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上のグラフは経済協力開発機構(OECD)の Twitter サイトから引用しています。タイトルは、Children who report high satisfaction with their life as a whole、すなわち、生活全般で高い満足を示している子供の割合、ということになります。左端で子供の満足度がもっとも低いのが日本、ということになります。やっぱりね、というカンジでしょうか。

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2023年8月12日 (土)

今週の読書はケインズ卿の伝記やミステリなど計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ロバート・スキデルスキー『ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946』上下(日本経済新聞出版)は、マクロ経済学の偉大なる創始者のケインズ卿の伝記といえます。リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』と『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』(ハヤカワ・ミステリ)は、英国の高級高齢者施設による殺人事件などの謎解きを取り上げたミステリです。ゴジキ『戦略で読む高校野球』(集英社新書)は、たけなわとなった高校野球の戦略について2000年以降の甲子園覇者の高校を分析しています。青崎有吾『11文字の檻』(創元推理文庫)は、表題作のミステリをはじめとする短編集です。最後に、アリス・フィーニー『彼は彼女の顔が見えない』(創元推理文庫)はスコットランドの廃チャペルを舞台にして読者をミスリードし大きなどんでん返しを作者が用意しています。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊、6~7月に48冊の後、8月に入って先週6冊、そして、今週7冊を合わせると計105冊となります。
なお、新刊本ではないので、この読書感想文のブログには取り上げていませんが、綾瀬はるか主演で映画化されて昨日封切られた長浦京『リボルバー・リリー』も読んでいたりします。新刊書読書とともにFacebookあたりでシェアしたいと考えています。

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まず、ロバート・スキデルスキー『ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946』上下(日本経済新聞出版)です。著者は、英国の研究者であり、経済学というよりは歴史の専門家です。英語の原題は John Maynard Keynes 1883-1946: Economist, Philosopher, Statesman であり、2007年の出版です。いくつかのバージョンがありますが、マクロ経済学を切り開いたケインズ卿の伝記です。家系をたどり、死後の経済学の広がりまで広範に取り上げています。1年近く前の昨年2022年11月末の読書感想文で、平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』(上智大学出版)を取り上げた際に、第2次世界対戦開戦前の段階で「1人IMF」としてのケインズ卿の活躍を実感しましたが、本書では国際舞台のみならず、1929年の米国ウォール街の崩壊から始まった世界不況において、英国内の緊縮派の大蔵省やイングランド銀行と対決する「1人リフレ派」の実践行動もスポットが当てられています。もっとも、国際舞台はまだしも、英国内では経済学に限定されないブルームズベリー・グループ、あるいは、経済学に限定しても、著者がケインズ・サーカスと呼ぶグループの支援はあったように感じますが、まあ、ケインズ卿のご活躍が本書の主たる眼目です。また、スラッファのように第1次大戦中は「敵性外国人」として収容所に入れられていたエコノミストがいることも確かです。私の関心は、もちろん、経済学、特にマクロ経済学であり、その中でも、不況期の経済博の実践です。この観点からケインズ派の特筆すべき点を著者は5点に取りまとめています。すなわち、本書下巻p.154からのパートを要約すると、1) 循環的な予算均衡、として、単年度で予算を均衡させるのではなく、不況期に債務を増やして好況期に返済すべき、2) 当時の英国は総和では需要不足ではないが、産業構造が硬直的で、産業や地域ごとに大きな需要不足が見られる場合がある、3) 幅広く公共投資の必要性を強調し、4) 需要管理のために国民所得統計の整備が必要、5) 恒久的な低金利が必要、という5点です。いわゆる長期不況=secular stagnation の下で、我が国にも当てはまる点だろうと私は受け止めています。しかし、日銀総裁の交代があって、「アンシャンレジーム復活」と称されるような金融政策の変更がなされ、財政も軍事費や少子高齢化対策のために着々と増税が模索され、日本の行く末を危惧する数少ないエコノミストに私は成り果てたのかもしれません。

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次に、リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』(ハヤカワ・ミステリ)です。著者は、英国のコメディアンなのですが、第1作の『木曜殺人クラブ』からミステリの執筆を始めています。英語の原題は The Thursday Murder Club であり、2007年の出版です。タイトルはミス・マープルを主人公にしたアガサ・クリスティーの『火曜クラブ』を踏まえたものである、という点はミステリ・ファンであれば、すぐに気づくことと思います。なお、本シリーズ第3作の『木曜殺人クラブ 逸れた銃弾』も同じ出版社から邦訳が出版されています。ということで、このシリーズが英国の高級高齢者施設クーパーズ・チェイスを舞台に、70代の高齢者が施設の中のいくつかあるサークルのひとつである木曜殺人クラブの活動により、過去の殺人事件の解決に乗り出すことから、現在進行形の身近な殺人事件や謎解きに迫る、というものです。まあ、高齢者施設のサークル活動ですので、この木曜殺人クラブに限らず、基本的にヒマ潰しの活動なのですが、実際の事件の解決や謎解きに貢献するわけです。クラブのメンバーは、主人公で第1作では過去に関して謎の多いエリザベス、元看護師のジョイス、元精神科医のイブラハム、元労働運動家のロンの4人となっています。しかし、この4人には入っていないものの、エリザベスと2人でクラブを結成した時のメンバーのペニー元刑事がいて、退職直前に警察から未解決事件のファイルを持ち出して情報提供した、ということが素地になっています。第1作では、クーパーズ・チェイスを建設した業者であり、施設の経営にも携わるトニー・カランが自宅で何者かに撲殺されるという殺人事件が起こります。そして、施設の共同経営者であるイアン・ヴェンサムが容疑者と見なされますが、このヴェンサムも殺されてしまいます。しかも、約50年前の事件も浮かび上がり、これらの謎を木曜殺人クラブのメンバーが解き明かす、ということになります。第2作の『二度死んだ男』では、主人公のエリザベスの過去が元諜報員と明かされます。そして、エリザベツのところに離婚した元夫であり、同じく諜報員でもあるダグラスが助けを求めて連絡を取ります。ダグラスは米国のマフィアから2000万ポンドもの多額のダイヤモンドを失敬した、というのです。しかしそのダグラスが殺されてしまいます。加えて、クラブのメンバーであるイブラハムが地元のストリートギャングの強盗によりスマートフォンを奪われます。この2作では、ミステリよりもマフィアとか、ストリートギャングが絡むサスペンスの色彩が強くなり、ミステリとしての謎解きもさることながら、ダイヤモンドを巡っての騒動もひとつの読ませどころとなっています。whodunnit のミステリの謎解きとしては第1作の方が評価できるような気がします。でも、この2作については、単なるミステリとしての謎解きだけでなく、登場人物の会話の間合い、高齢者のコミカルな志向や行動、といった要素も十分加味すべきですから、2作品ともかなり水準の高いエンタメ小説に仕上がっています。加えて、邦訳がよく出来ていて、たぶん、原作のコミカルなタッチをちゃんと表現できている気がします。また、いろんなところで紹介されていますが、平文は3人称で書かれているのですが、いくつかのパートではジョイスと明記して、メンバーであるジョイスの1人称、というか、日記やモノローグの形でストーリーを進めています。私自身はこういった形式はそれほど評価しませんが、視点が移動する妙を感じる読者がいるかもしれません。いずれにせよ、私は第3作も読んでみたいと思います。

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次に、ゴジキ『戦略で読む高校野球』(集英社新書)です。著者は、野球著作家と紹介されていますが、私は本書が初読でした。高校野球を題材にしていて、いろんなデータも豊富に収録しています。広く知られたように、ブラッド・ピット主演で映画化もされたビリー・ビーンの『マネーボール』で野球のデータ分析であるセイバーメトリクスが、というか、その一部が紹介されていて、収益につながるプロ野球だけでなく、高校野球でもデータ分析を生かした戦略が幅広く採用されていることはいうまでもありません。しかし、本書ではデータ分析の実態を明らかにするというよりは、2000年以降の高校野球の、しかも、春夏の甲子園大会というトップレベルの高校野球で日本一になる戦略を分析しようと試みています。ただ、実際には、私は我が家で購読している朝日新聞の記事「立命館宇治を支える教諭4人の分析チーム 選手の成長率をグラフに」なんぞを見て、テレビ観戦していたりして、勤務校の系列校であり、私の出身地を代表する高校でもあって、熱烈に応援していたのですが、あえなく大敗してしまったわけですから、まあ、それほど重視すべきでもないかな、という気もします。第2章と第3章ではいくつかの典型的な強豪校が甲子園大会で勝ち進んで優勝するまでの軌跡を後付けています。ただ、戦略とまでいえるかどうか、かつては三沢高校の太田幸司投手が典型で、1人のエースが大会を通じて投げ抜く、あるいは、超高校級の選手が投げてはエースで、打っては4番打者で、スターに頼って勝ち抜く、という程度のレベルであった高校野球が、投手は分業体制を敷き、打者もいくつかのポジションをこなす、というふうに変化しているのも事実です。その意味で、夏の高校野球まっただ中、野球をテレビ観戦しながら楽しむにはいい1冊かもしれません。

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次に、青崎有吾『11文字の檻』(創元推理文庫)です。著者は、ミステリ作家であり、本書は表題作をはじめとする短編集です。特に統一的なテーマの設定はありません。巻末に作者自身による作品ごとの解説が付されています。収録されている作品は、「加速してゆく」、「噤ヶ森の硝子屋敷」、「前髪は空を向いている」、「your name」、「飽くまで」、「クレープまでは終わらせない」、「恋澤姉妹」、最後に表題作の「11文字の檻」、ということになります。繰り返しになりますが、巻末に著者人による解説があり、特に、著者から「前髪は空を向いている」については解説を先に読んだ方がいいというオススメがあります。私はオススメにより先に解説を読んだのですが、それでも十分な理解が出来ませんでした。海浜幕張駅前の地理などについて詳しくないからかもしれません。それから、「噤ヶ森の硝子屋敷」と「飽くまで」は既読でした。前者は文芸第三出版部[編]『謎の館へようこそ 黒』(講談社)に、後者は講談社[編]『黒猫を飼い始めた』にそれぞれ収録されています。ということで、実は、恥ずかしながら、私はこの著者の著作は初読でした。というのは、前に上げた2短編だけでなく、いくつかの短編をアンソロジーで読んだ記憶はあるのですが、本として取りまとめられているのは初めてでした。ということで、8話の短編すべてを取り上げることはしませんが、かなりミステリ色の強いのが「噤ヶ森の硝子屋敷」と表題作の「11文字の檻」、ということになります。でも、さすがに冒頭に置いた「加速してゆく」もいい出来です。JR西日本の福知山線脱線事故を題材として、地方紙の報道カメラマンが、現場に隣接する駅で見かけた高校生に関する謎を解き明かします。3年B組金八先生の第6シリーズがキーワードです。続く「噤ヶ森の硝子屋敷」は、見取り図付きで密室殺人の謎解きを展開します。少し省略して、「クレープまでは終わらせない」は、ガンダムを思わせる巨大ロボットにまつわるSFなのですが、戦闘ではなく整備に関するストーリーです。「恋澤姉妹」は作者自身が百合小説と称していますが、これこそ接近戦を含む戦闘小説です。師匠を殺害された主人公が、中東を舞台に恋澤姉妹に挑みます。そして、本格ミステリとして評価が高いのが最後の表題作「11文字の檻」です。近い将来でファシスト国家となった日本を舞台にしたディストピア小説です。言論統制国家である東土で敵性思想により収監された主人公らが、当てれば釈放されるという日本語の11文字のキーワードを論理的に推理しようと挑戦します。この最後の短編だけでも読む値打があるような気がします。

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次に、アリス・フィーニー『彼は彼女の顔が見えない』(創元推理文庫)です。著者は、英国のミステリ作家であり、2年前に同じ出版社から前作『彼と彼女の衝撃の瞬間』というミステリも出ていますが、私は未読です。ということで、私のような頭の回転が鈍い田舎者はすっかり本作には騙されました。主要な登場人物はたった3人であり、40歳を少し過ぎた中年夫婦であるアダムとアメリアと、それに、ロビンという名の同じ年ごろの女性です。アダムは脚本家であり、アメリアは動物愛護団体で働いています。取りあえず、ロビンは謎の人物です。タイトルになっているのは、相貌失認という病気をアダムが持っていて、顔が見分けられない、という病気だそうです。もちろん、これがストーリー展開のカギになります。この相貌失認も一因で、夫婦関係がうまく行かない夫婦がコンサルタントに勧められて、2020年2月の真冬に2人で旅行する、というのが主たるストーリーで、その旅行先というのがスコットランドの雪の積もる廃チャペルを改造したところ、ということになります。着いた途端に、窓の外を人の顔が通り過ぎ、それが近くに住むロビンということになります。チャペルの方では停電や断水したり、また、夫婦が乗って来た自動車のタイヤがすべてパンクさせられていたり、と、さまざまな不気味な出来事が起こります。その中で、主としてアダムの過去について、ただし、アラサーで結婚して以降の人生遍歴、作品の映像化をまったく許可しない人気作家から指名を受けて、その作品の脚本を執筆し、当然ながら、注目を集めて脚本家として充実した活動に入る、という点が明らかにされます。そして、繰り返しになりますが、私がすっかり騙された点がp.318から明らかにされます。そこは読んでのお楽しみ、ということになります。殺人事件が起こって、その謎、すなわち、whodunnit 誰が、あるいは、whydunnit どうして、あるいは、howdunnit どのように、といった謎を解き明かすタイプのミステリではありませんが、読者をミスリードし、隠されていた事実を明らかにするどんでん返しの作品です。

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2023年8月11日 (金)

インドネシアの夕べで買い物する

本日午後、京都の蹴上にある国際交流会館で開催されていたインドネシアの夕べで買い物してきました。物産バザーの半分以上は食べ物だったのですが、私はコットン製のエコバッグを買い求めました。国際会館ロビーでの受付とアクセサリなどのお店の写真は以下の通りです。

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京都国際交流会館のインドネシアの夕べ

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今日の午後は、京都に出て国際交流会館で開催されているインドネシアの夕べ Malam Indonesia に行く予定です。大学院修士課程で論文指導をしている院生からお誘いがあって、私だけでなく、カミさんも行きます。まあ、もう2人とも還暦を超えた夫婦ですので、適当に別行動です。
インドネシア物産バザーを少し見て買い物をするかもしれませんし、1500円は高いと思いつつカルチャーショーも見ようかな、と思っています。今日から3連休という人も少なくないでしょうし、来週はお盆休み、という世間一般の認識ですから休日らしい催しではないでしょうか。
なお、上のポスターは日本語バージョンですが、院生からお誘いのメールに添付してあったのは英語バージョンでした。どこかにあるんだろうと思います。

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2023年8月10日 (木)

ジャイアンツを3タテして7連勝

  RHE
阪  神000000302 571
読  売001000010 291

先行されながらも力強く逆転し、ジャイアンツを3タテして7連勝でした。
先発才木投手は8回途中まで2失点と好投し、リードを保ったまま加治屋投手、島本投手が8回を抑え、最終回はケラー投手が締めました。2試合連続でセーブを上げた岩崎投手をベンチから外して帰阪させた余裕の継投でした。打っては、ラッキーセブンに近本選手のツーランで逆転し、9回にはまるで代打糸原選手を疑似餌にしたように左腕投手を引っ張り出して、代打の代打原口選手が初球をツーランで仕留め、ジャイアンツにとどめを刺しました。最後に、どうでもいいことながら、ヒーローインタビューは才木投手でお願いしたかったです。

京セラドームに戻ってのヤクルト戦も、
がんばれタイガース!

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7か月連続で上昇率が鈍化した7月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から7月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で+4.1%上昇したものの、伸び率は6か月連続で鈍化しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、7月3.6%上昇 7カ月連続で伸び鈍化
日銀が10日発表した7月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.3と、前年同月比で3.6%上昇した。6月(4.3%)から0.7ポイント低下し、上昇率は7カ月連続で鈍化した。21年3月(1.0%)以来の低い水準になった。輸入物価の上昇を主因とする押し上げは弱まっているが、コスト高を価格に転嫁する動きが続いている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。7月の上昇率は民間予測の中央値である3.5%を0.1ポイント上回った。公表している515品目のうち全体の8割にあたる436品目が値上がりした。
品目別にみると、電力・都市ガス・水道(マイナス3.3%)は鈍化が続き、前年同月比で下落に転じた。事業用電力や都市ガスで2~4月を参照する燃料費調整単価の下落が影響した。政府が2月から実施する電気・ガスの価格抑制策は「前年同月比を0.6ポイント押し下げている」(日銀)。農林水産物(8.8%)では鶏卵が鳥インフルエンザによる供給制約が緩和して低下した。
石油・石炭製品は1.7%上昇と6月(マイナス2.5%)から上昇した。原油相場の上昇が効いた。飲食料品(6.1%)では穀物価格や包装資材などのコスト高を価格に転嫁する動きがみられた。電気機器(5.3%)や金属製品(7.3%)でも原材料やエネルギーなどの価格上昇を受けた値上げが進んだ。
輸入物価は円ベースで前年同月比14.1%下落し、4カ月連続のマイナス圏になった。6月(マイナス11.4)から低下幅が拡大した。

注目の指標のひとつであり、やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+3.5%と見込まれていましたので、実績の+3.6%はややこれを上回ったものの、ほとんどジャストミートに近い、と私は受け止めています。引用した記事には、「伸び率は7カ月連続で鈍化」となっていますが、特に輸入物価は4月統計から前年同月比で、また、輸出物価も今日発表の7月統計から、それぞれマイナスに転じ、7月統計では輸入物価▲14.1%、輸出物価▲0.2%の下落となっています。私が調べた限りでも、輸入物価のうちの原油については、これも4月統計から前年同月比マイナスに転じており、7月統計では▲28.5%まで下落幅を拡大しています。輸入物価は先月6月統計から2ケタマイナスとなっていて。したがって、今後は、資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及がインフレの主役となる局面に入ると私は考えています。消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価の前年同月比を少し詳しく見ると、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品が▲23.1%の大きな下落を記録しており、本日公表の7月統計から電力・都市ガス・水道も▲3.3%の下落に転じました。前年同月比で上昇している品目でも、農林水産物+8.38%、鉱産物が+7.8%の上昇のほか、窯業・土石製品+15.6%、パルプ・紙・同製品+14.9%、金属製品+7.3%、非鉄金属+5.8%、鉄鋼+4.0%となっていて、数か月前まで2ケタ上昇の品目がズラリと並んでいたころからは少し様相が違ってきています。もちろん、上昇率は鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決してインフレを軽視することはできません。特に、農林水産物はまだ2ケタ近い上昇率ですし、その影響から飲食料品についても+6.1%と高い上昇率を続けています。生活に不可欠な飲食料品ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように市場価格に直接的に介入するよりは、消費税率の引下げとか、所得の増加などが市場メカニズムを生かすのが望ましい、と私は考えています。

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2023年8月 9日 (水)

延長11回にジャイアンツを突き放して6連勝

 十一 RHE
阪  神00000011003 591
読  売00000020000 260

一度は逆転されながらも、下位打線の活躍で延長に入ってジャイアンツを突き放して6連勝でした。
先発ビーズリー投手は5回2安打無失点と好投し、6回から継投に入り桐敷投手が踏ん張るものの、7回ウラにエラーが出た後、逆転ホームランを喫しましたが、直後の8回に中野選手が同点ホームランを打ち返し延長戦に入ります。最後は、梅野捕手のセンターゴロで勝ち越し、さらに、木浪遊撃手の長打でダメを押しました。

明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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今年2023年7月は史上もっとも暑かった

コペルニクス気候変動サービスのサイトによれば、今年2023年7月は史上もっとも暑かった July 2023 sees multiple global temperature records broken とのことです。ロイターのサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

7月の世界気温は史上最高、陸海で異常高温に=EU機関
気象情報を分析する欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスは8日、7月は陸上と海上で異常な高温が観測され、この月としては史上最も暑かったと報告した。
科学者らは先月末、通常は16度前後の7月平均気温が今年は17度に迫っていると警告していた。
コペルニクスのサマンサ・バージェス副所長は、年初来の期間では今年は過去3番目の暑さと指摘。「7月には地球の大気と海面温度がともに過去最高を記録した。こうした記録は地球温暖化ガス排出が主因で、これを減らす野心的な取り組みが緊急に必要であることが示された」と述べた。
6月も過去最高気温の記録を更新していた。

この7月は、我が日本だけではなく、世界的に高温だったようです。関西方面では台風の影響下、昨日今日は雲が広がって、それほど気温は上がっていませんが、こういったデータを見る限り、明らかに、気候変動/地球温暖化が進行していることを実感します。なお、コペルニクス気候変動サービスのサイトからグラフを引用すると以下の通りです。

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日本は福祉国家なのか、それとも土建国家なのか?

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上のグラフは、経済協力開発機構(OECD)東京センターのtwittterサイト「OECD加盟国の家族手当への公的支出を比較」から Public spending on family benefits を引用しています。一昨日の8月7日にポストされています。社会保障支出のうち家族分類への支出のGDP比をプロットしています。見れば明らかな通り、日本の支出はGDP比で1.9%であり、OECD平均の2.3%から▲0.4%ポイントの差があります。日本のGDPは500兆円をかなり超えていますので、0.4%のGDPということになれば、2-3兆円ということになります。先進国平均からして日本の家族向けの社会保障支出が2-3兆円も少ないわけです。

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上のグラフは、私が大学の授業で使っているものです。上のパネルはOECD東京センターのグラフを同じベースの家族手当の公的支出のGDP比、下のパネルは公共投資のGDP比です。家族手当は、ごく最近には少しずつ増額されていますが、今世紀初頭まで低福祉国家の米国すら下回る水準でした。他方で、同じころまで公共投資は先進国の中ではとんでもない水準だったことが判ります。要するに、日本は税金や社会保険料で徴収したお金をどのように国民に還元しているか、を考えているわけです。上のパネルは福祉国家の度合いを象徴しています。下は土建国家なわけです。まだまだ、日本は土建国家であって福祉国家かどうか疑わしい、とOECD東京センターのグラフからもその一端がうかがえるのではないでしょうか。

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2023年8月 8日 (火)

上昇示す7月の景気ウォッチャーと黒字を計上した6月の経常収支

本日、内閣府から7月の景気ウォッチャーが、また、財務省から6月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.8ポイント上昇の54.4となった一方で、先行き判断DIも+1.3ポイント上昇の54.1を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆5088億円の黒字を計上しています。まず、読売新聞のサイトから景気ウォッチャーの記事を、日経新聞のサイトから経常収支の記事の最後の3パラを、それぞれ引用すると以下の通りです。

小売店主らに聞いた「街角景気」、前月より0.8ポイント高い54.4…7月調査
内閣府が8日発表した7月の景気ウォッチャー調査によると、小売店主らに聞いた「街角景気」を3か月前と比べた現状判断指数(DI、季節調整値)は、前月より0.8ポイント高い54.4だった。
経常黒字11%増の8兆円 1-6月、資源高が一服
同日発表した6月の経常収支は1兆5088億円の黒字となった。黒字は5カ月連続で、黒字額は前年同月の約3倍だった。
貿易収支は3287億円の黒字だった。黒字になったのは20カ月ぶりだ。原油価格の下落を受けて輸入額は8兆3016億円と14.3%縮小した。原油価格は円ベースで1キロリットルあたり7万1831円と前年同月比で25%下がっている。
輸出額は8兆6302億円と0.5%伸びた。自動車などの輸出が増えた。

シンプルによく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、今年2023年に入ってから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限が徐々にフェイドアウトするとともに、ウクライナ戦争に伴う資源高もほぼ昨年2022年10~12月期にピークを過ぎたことから、緩やかな上昇を見せていました。ただ、6月統計については、COVID-19の感染法上の扱いが5月の連休明けに5類へ移行され、行動制限の緩和がほぼほぼ終了するとともに、景気の改善テンポに一服感が出始め、前月比でマイナスに転じています。7月統計でも、飲食関連やサービス関連では前月か低下したものの、小売関連が大きく上昇したことから家計動向関連が前月から上昇しています。先行き判断DIについては、すでに、先月5月統計でピークとなっており、7月統計では前月6月統計からほぼ横ばいとなっています。ただ、現状判断DIも、先行き判断DIも、ともに50をかなり大きく上回っており高い水準にあると私は受け止めています。統計作成官庁である内閣府もよく似た見方なのか、基調判断は基本的に据え置かれています。すなわち、「景気は、緩やかに回復している。先行きについても、緩やかな回復が続くとみている。」ということです。景気判断理由について近畿を見ると、「インバウンド効果に支えられ、当社の都市部の店舗は絶好調である。郊外店でも、今月の来客数は前年比で3.2%の増加となり、店頭売上も29日までで1.4%の増加となるなど、底堅さがみられる (百貨店)。」といったインバウンドへの言及とか、「3か月前と比較しても、建設資材価格の上昇傾向が続いている (その他住宅)。」といったインフレ関連の意見に私は目が止まってしまいました。もう少しすれば、猛暑の影響が見られるようになるかもしれません。猛暑が景気にプラスなのか、マイナスなのか、気にかかるところです。それはともかく、インバウンドの伸びはいいとしても、インフレについては、本日公表の6月の毎月勤労統計でも実質賃金は前年同月比で▲1.6%減ですので当然です。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て、昨年2022年10月統計▲3419億円だけです。もちろん、ウクライナ戦争後の資源価格の上昇が大きな要因です。したがって、赤字ではないとしても、経常黒字の水準は大きく縮小してたのですが、この経常収支の変動は主として貿易収支に起因しています。その経常赤字を計上した2022年10月の翌月の11月には+1兆6,045億円の黒字に転じていますし、その後、直近の2023年5月統計までほぼほぼ一貫して経常黒字は+1兆円を超えています。ですから、経常黒字の水準はウクライナ戦争の前の状態に戻っているとはいえ、たとえ赤字であっても経常収支についてもなんら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2023年8月 7日 (月)

改善を続ける6月の景気動向指数はどこまで持続するか?

本日、内閣府から6月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.2ポイント下降の108.9を示した一方で、CI一致指数は0.9ポイント上昇の115.2を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を時事通信のサイトから引用すると以下の通りです。

景気動向指数、0.9ポイント上昇 6月
内閣府が7日発表した6月の景気動向指数(2020年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.9ポイント上昇し、3カ月連続で改善した。基調判断は「改善を示している」に据え置いた。

とてもシンプルに取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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6月統計のCI一致指数については、3か月連続の上昇であり、3か月後方移動平均は5か月連続、7か月後方移動平均でも2か月連続の上昇ですので、統計作成官庁である内閣府が基調判断を「改善」で据え置いています。ただし、先月の速報時点ではCI一致指数が▲0.4ポイントの下降でしたので、私は先月5月統計公表の際のこのブログでホントに改善でいいのだろうかと疑問を示し、いつ景気後退局面に入ってもおかしくないとコメントしました。その5月のCI一致指数は前月から速報男系の▲0.4ポイントの下降から、先月末の確報で+0.1ポイントの上昇に修正されています。5月統計のCI一致指数がプラスなのであれば問題はないのでしょうが、速報から確報に修正されるとに符号が変わるというのも統計の信頼性からして、ややどうかなという疑問は感じます。もっとも、CI先行指数を見る限り下降が続いている印象ですから、このブログで何度も繰り返しますが、我が国の景気回復・拡大は局面の後半に入っていると考えるべきです。ただし、来週公表予定の4~6月期GDP統計速報1次QEでは明らかにプラス成長となるか蓋然性が高いと私は考えており、まだ今年年央くらいの段階では景気後退には入らないのかもしれません。
ということで、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与が大きい順に、鉱工業用生産財出荷指数+0.44ポイント、輸出数量指数+0.42ポイント、生産指数(鉱工業)+0.37ポイント、耐久消費財出荷指数+0.07ポイント、などとなっており、逆に、マイナス寄与が大きい系列は、商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.28ポイント、有効求人倍率(除学卒)▲0.13ポイント、などが上げられます。景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響などの国内要因はについては中立的、少なくとも、大きなマイナス要因とは考えていませんが、海外要因については、インバウンドを別にすれば、先進各国がインフレ対応のために金融政策が引締めを継続していてややマイナスかもしれない、と考えています。ただ、少し前までは米国などは景気後退局面入りがほぼほぼ確実と考えていましたが、ひょっとしたらソフトランディングも十分可能、というふうに上方修正して考えていたりします。

少し前までは、ひょっとしたら、昨年2022年10~12月期を山として、我が国は景気後退局面に入っているのではないか、とすら考えていたのですが、今年2023年4~6月期に長らく入院して情報に接する機会が少なく、今ではかなり判断を変更しています。ケインズ卿の次の言葉を引用しておきたいと思います。
"When the facts change, I change my mind - what do you do, sir?"

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2023年8月 6日 (日)

公的債務のサステナビリティに関する紀要論文を書き上げる

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紀要論文 "An Essay on Public Debt Sustainability: Why Japanese Government Does Not Go Bankrupt?" を書き上げて提出しておきました。章構成は以下の通りです。

1
Introduction
2
Overview of Discussion on Public Debt Sustainability
3
Method ology for Public Debt Sustainability Test Using Time s eries Data
4
Exceptional Two Cases for Public Debt Sustainability
5
Why Japanese Government Doe s Not G o B ankrupt?
6
Conclusion

結論としては、やや強引ながら、以下の2点を強調しています。

Conclusion
  1. public debt sustainability in Japan has been supported by difference between interest rate and growth and the primary surplus but mainly by the former
  2. public debt sustainability can be analyzed adopting the mainstream economics

要するに、(1) 日本の公的債務は、利子率と成長率の差、及び、基礎的財政収支=プライマリー・バランスの両方によって維持されているが、主要には前者である、加えて、(2) 公的債務のサステイナビリティは現代貨幣理論(MMT)のような異端的な経済学を援用せずとも、主流派経済学で分析可能である、ということになります。特に、第1の点については、マイナカードの保険証との紐づけなどとともに、現岸田内閣が強力に基礎的財政収支の黒字化を経済政策のひとつの目標に推しているだけに、批判的観点から取り上げています。まあ、英文で書きましたし、一応、学術論文なもので、さらに詳しい解説はムリがあります。

現在の勤務校では、実に不熱心にも、毎年夏休みに1本だけ紀要論文を書くことを目標にしています。それも、理論モデルの解析と計量経済学を応用した実証分析を1年ごとに取り上げています。今年は理論モデル解析の年だったりします。10年余り前に長崎大学に現役出向した際には、出向の2年間で紀要に掲載された公刊論文だけでも15本くらい書いて、その後の再就職に備えていたのですが、私は来年にはもう一度定年を迎えますし、もう、研究成果はそれほど必要ないという合理的判断で研究には手を抜いています。

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2023年8月 5日 (土)

猛虎打線が14安打7得点でハマスタで横浜に快勝

  RHE
阪  神302000110 7141
横  浜000012000 382

先発青柳投手が序盤から猛虎打線の活発な援護を受けて横浜に快勝でした。あれほど、ハマスタで勝てなかったのが冗談のように見える昨日今日の戦いぶりです。
青柳投手は6回3失点ながら自責点は1で止めた一方で、初回から4番大山選手のスリーランなど猛虎打線が得点を重ねました。まあ、何と申しましょうかで、14安打にしては7得点はやや少ないというぜいたくな悩みもありますが、1番近本選手の4安打、2番中野選手の5四死球をしっかりと得点に結びつけた印象です。

明日も3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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今週の読書は大御所による経済書をはじめミステリも含めて計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、大塚啓二郎『「革新と発展」の開発経済学』(東洋経済)は、開発経済学の第1人者がご自身の自慢話も交えつつ、途上国の経済発展における農業と工業での革新と集積の重要性を解き明かしています。平野啓一郎『三島由紀夫論』(新潮社)は、芥川賞作家が我が国の作家として川端康成などとともにノーベル賞候補に擬せられていた三島由紀夫の文学について論じています。近藤史恵『ホテル・カイザリン』(光文社)は、既発表の短編8話を収録しています。各作品は基本的に独立で関連はありません。紫金陳『知能犯の時空トリック』(行舟文化)は、中国の人気ミステリ作家が法執行機関のトップに対する復讐劇を倒叙ミステリの作品にまとめています。田中圭太郎『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書)では、ガバナンスが崩壊し、危機にある大学の現状をルポしています。坂上泉『インビジブル』(文春文庫)では、昭和29年1954年の大阪を舞台に、政治家の秘書が刺殺される殺人事件をはじめ、3件の殺人事件の謎が解明されます。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、6~7月に48冊の後、今週ポストする6冊を合わせると計98冊となります。

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まず、大塚啓二郎『「革新と発展」の開発経済学』(東洋経済)です。著者は、開発経済学を専門とするエコノミストです。英文論文146本とか、あるいは、本文中にも研究者としてのアドバイスなんかがあったりして、いかにも年配の方の自慢話がいろいろと盛り込まれています。それはさておき、本書はかなりレベルの高い学術書に仕上がっています。はしがきには、学部4年生から大学院修士課程の院生、そして経済学の基礎がある実務家が読者として想定されている旨が記されています。まあ、私のような研究者も入っているんだろうと思いますが、一般のビジネスパーソンは含まれていない可能性があります。ということで、本書のスコープは農業と製造業(工業)であり、いわゆるペティ-クラークの法則で示されている第1次産業から第2次産業、そして第3次産業へと付加価値生産や雇用者がシフトするという第3次産業はスコープに入っていません。まあ、開発経済学ですからそうなのだろうと思います。タイトルにも示されているように、農業にせよ工業にせよ革新が重要であると強調しています。ただし、人口に膾炙したシュンペーター的な創造的破壊までのマグニチュードを持った革新でなくても、もっと普通の革新、本書では日本のQCサークル的な「カイゼン」まで含めて考慮されているように見受けられます。そして、もうひとつのキーワードが発展なのですが、これは、本書を読む限りでは発展というよりは集積のほうが適当そうな気がします。編集者の目から落ちたのか、著者の強力な思い入れ7日、私には判りかねます。集積については、平屋的集積という表現で繊維産業などで同じような生産関数を持った小規模零細企業が一定の地域に集まる集積に加えて、ピラミッド型の集積、すなわち、自動車産業のようにトップのアセンブラーに対して、部品を供給する1次サプライヤー、さらに2次サプライヤー、あるいは、3次、4次とあるのかもしれませんが、そういったピラミッド構造の集積を想定しています。そして、当然ながら、途上国の特性に応じた技術が採用されるべきであり、まずは、繊維産業やアパレルなどの平屋的な集積を分析の対象としています。さらに、「キャッチアップ」という用語は見かけませんが、当然、先進国からの直接投資(FDI)を受け入れ、あるいは、グローバル・バリュー。チェーン(GVC)に組み入れられ、何らかのスピルオーバーを受けて発展する、ということなのだろうと思います。ただ、日韓のように国内貯蓄を活用してライセンス的に技術だけを導入するケースと東南アジアや中国のように技術とともに資本も含めて受け入れる場合の違いについては、私自身は興味あるのですが、本書ではそれほど重視していないような印象でした。いずれにせよ、とてもレベルの高い議論が展開され、経済史と開発経済学のリンケージも指摘されていて、私にはとても勉強になりました。本書で強調しているように、開発経済学は戦後の新しい経済学の領域であって、まあ、財政学とか金融論とかの政府の経済政策を分析したり、あるいは、ミクロ経済学やマクロ経済学のようにいわゆる経済原論的な学問領域ではありませんので、私のような官庁エコノミストにも開かれている部分が少なくなく、したがって、私もマクロの開発経済学についてはそれなりに馴染みないこともないのですが、途上国の経済実態も含めてマイクロな開発の現場についてはよく知りません。これもとっても勉強になりました。大くの読者が対象になるわけではないのでしょうが、それでもできるだけ多くの方に読んでほしい気がします。

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次に、平野啓一郎『三島由紀夫論』(新潮社)です。著者は、芥川賞作家であり、本書でも明らかにしているように、三島由紀夫に深く傾倒しているようです。700ページ近い本書は、序論、結論、あとがきを除いて4部構成であり、それぞれ三島の代表作を年代順に取り上げています。すなわち、『仮面の告白』論、『金閣寺』論、『英霊の声』論、『豊饒の海』論、となります。もちろん、これ以外にも三島作品は数多く取り上げられていて、私が読んだ印象では小説では『禁色』や『鏡子の家』、戯曲では『サド侯爵夫人』への言及が多かった気がします。実は、恥ずかしながら、私はこの4冊の中では『金閣寺』しか頭に残っていません。ほのかな記憶として『仮面の告白』は読んだ記憶があるのですが、中身は記憶からスッポリと抜け落ちています。一応、我が家には『豊饒の海』4冊の箱入りの本があって、カミさんのものなのですが、上の倅の中学校・高校の文化祭に行くたびにこの箱入り4巻セットの『豊饒の海』がバザーに毎年出されていて、4冊で500円というお値段でしたので、売れ残っている上に大した価格ではない、という印象しかありませんでした。まあ、それはともかく、大雑把に650ページ強のコンテンツで、最初の3部、すなわち、『仮面の告白』論、『金閣寺』論、『英霊の声』論がそれぞれ、これも大雑把に100ペジくらいなのですが、第4部の『豊饒の海』論は残り300ページ強あります。『豊饒の海』を構成する4巻、『春の雪』、『奔馬』、『暁の寺』、『天人五衰』については、ごていねいにもpp.326-27であらすじを紹介していたりします。でも、最後の第4部『豊饒の海』論については、p.350過ぎあたりから仏教のご説明があり、阿頼耶識、説一切有部の存在論、唯識や唯識における輪廻が三島論とともに展開され、私はその後は文字を追うだけで、中身が頭に入りつつも理解が及ばない、という状態になってしまいました。三島の文学をきちんと読んでいる読者でしたら、もっと理解がはかどったのだろうと思います。ただ、ひとつだけ指摘しておきたいのは、三島由紀夫は1970年に市ヶ谷で割腹自殺を遂げた右翼的な行動の人なのですが、平野啓一郎はツイッタのつぶやきを見ても理解できるように、我が京都大学の後輩らしく極めて左派リベラルな志向を示している文化人です。私も同じ方向性ですので、私自身は三島由紀夫や石原慎太郎の作品はそれほど多く読んでいません。文字や文学を用いて表現する創作活動と肉体や姿勢を持って表現する行動とは別物と考えるべきなのでしょうか、それとも、基本は同じとみなすべきなのでしょうか。私には不明です。三島の割腹自殺は1970年で、私自身はまだ小学生でした。しかし、政治的な行動に嫌悪感を覚えた記憶がありますし、その直後の1972年のあさま山荘事件の極左の行動にも同じく嫌悪と恐怖しかありませんでした。他方、石原慎太郎については私自身も投票した東京都知事としての政治的姿勢や活動は、一定の評価ができると考えていて、少なくとも、私の目から見て現在の小池都知事よりは「マシ」泣きがします。話を元に戻すと、三島についてはノーベル賞候補にも擬せられた文学者とシテの高い評価、それに対して、楯の会を組織し右翼として行動する政治的な面、本書については、後者はかなりの程度に捨象した上で前者の文学を論じていると考えてよさそうです。ただし、最後の最後に、本書の三島論は著者である平野啓一郎の「読書感想文」です。学術的な文学論と考えて読むのは適当ではないように私は受け止めています。

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次に、近藤史恵『ホテル・カイザリン』(光文社)です。著者は、ミステリ作家であり、ホラー超の小説も少なくない作家です。ほとんどハズレがないですし、私は大好きです。本書は短編集であり、悪くいえばやや寄せ集めの感があります。出版社のサイトでは、「失ったものと手に入らなかったものについて」という統一的なテーマが設定されているかのような宣伝なのですが、統一したテーマは私には感じられませんでした。まあ、よく考えれば、バラエティにとんだ短編8話が収録されている、ということです。さらに、アミの会のアンソロジーなどにすでに収録されている短編もいくつかありますので、買う前には確認をオススメします。収録されているのは、「降霊会」、「金色の風」、「迷宮の松露」、「甘い生活」、「未事故物件」、「ホテル・カイザリン」、「孤独の谷」、「老いた犬のように」です。「降霊会」では、高校の文化祭でやらせの降霊会を仕組んだ女生徒なのですが、友人の大姿勢との妹が亡くなった死因について、知りたくもない事実が明らかになったりすして、ややホラーテイストに仕上がっています。「金色の風」では、短期の留学でパリに来た女性がチェコ人の女性と犬と知り合って成長するというストーリーで、モロッコに感傷旅行する女性を主人公にした「迷宮の松露」とともに、それほどミステリでもなく、ホラーでもなく、この作者にしては純文学的な作品ではなかろうかと思います。「甘い生活」は幼少のころから人も持ち物を欲しがる女性を主人公にして、甘い生活を意味するイタリア語のネーミングがなされたボールペンにまつわる少しホラーな作品です。「未事故物件」とは、アパートなどで自殺などがあった部屋を指す「事故物件」に「未」がついた物件で、空室なのに人がいる気配のする部屋にまつわる事件を未然に回避した女性の物語です。表題作の「ホテル・カイザリン」は、その名もホテル・カイザリンで出会って友情を深める女性2人なのですが、会えなくなった事情が生じた際に、そのうちの1人が取った行動がとってもホラーでした。「孤独の谷」では、まあ、SF調のホラーというか、その昔に「読者が犯人」という謳い文句のミステリがありましたが、そんなことで人は死ぬのか、というカンジで私は読んでいました。最後の「老いた犬のように」では、主人公の男性小説家を中心にして、離婚した妻と男性の作品のファンの若い女性と、ある日突然に態度が豹変する女性に対して戸惑う男性を描き出しています。2話ほど既読の短編があり、どれもまずまずの作品なのですが、最後の「老いた犬のように」はちょっと何だかなあ、というカンジで、男性を主人公にするストーリーの面白みはなかったです。ただ、逆に、というか、何というか、「金色の風」、「迷宮の松露」あるいは表題作の「ホテル・カイザリン」などで、女性を主人公にした旅を題材にする作品はとってもよかったです。特にミステリファン必読、とまでは思いませんが、この作者のファンであれば読んでもいいのではないかという気がします。

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次に、紫金陳『知能犯の時空トリック』(行舟文化)です。著者は、中国のミステリ作家であり、官僚謀殺シリーズや推理の王シリーズがヒットしているそうで、映像化されている作品も多いと聞き及んでいます。でも残念ながら、日本で邦訳されている作品は多くないようです。なお、表紙画像に見えるように、本書は前者の官僚謀殺シリーズの作品です。舞台は中国の寧県で、当然、ミステリですので殺人です。寧県検察院のトップである検察長が喉をかき切られて殺害された後、寧県人民法院の裁判長が自宅マンションの入り口で落下してきた敷石の直撃を受けて死亡し、さらに、寧県公安局長が海岸から投身自殺をしたように見える死に方をします。最初の殺人事件は市公安局の刑事捜査担当の副局長である高棟が捜査に当たります。そして、高副局長は事故死に見える人民法院裁判長や自殺に見える公安局長の死についても捜査を進め、かなり真相に近いラインに到達します。すなわち、最初の検察長の殺人とその後の2人の事故死ないし自殺に見える事件は犯人が異なっていて、特に後者については、物理学や力学の知識を十分持った教師とかエンジニアとかによる計画犯罪ではないか、という見立てです。ということで、小説としては、いわゆる倒叙ミステリの形を取っています。ですから、私が読んだ感想としては、日本のミステリである貴志祐介『青の炎』とよく似た印象でした。でも、犯人の犯行に及ぶ知的レベルが極めて高く、逆に、というか、捜査側の高副局長もかなり真相に迫るのですが、最後は、犯人の自供を持ってしかホントの真相にはたどり着けません。しかも、これまた、日本のミステリになぞらえると、東野圭吾『容疑者Xの献身』に似た方法でDNAなどを偽装した上で、犯人は逃げ切ったのではないか、と示唆する終わり方になっています。犯人と捜査側の知恵比べ、心理戦という色彩もあります。その上で、シリーズ名になっている官僚謀殺に示されているように、国家公務員として定年まで長らく勤務した私には心苦しいながら、中国の治安当局トップの官僚の実に腐敗にまみれた実態も明らかにされています。同じ作者と邦訳者のコンビで、この作品の前作に『知能犯之罠』というタイトルのミステリがあると紹介されていますので、読んでみたいという気にさせられました。ただし、邦訳がそれほどこなれていません。やや読みにくい、と感じる読者もいるかも知れませんが、それを補って余りあるプロットやストーリー展開の素晴らしさを感じます。中国の小説としてはSF作品で『三体』が余りに有名ですが、ミステリもいくつかいい出来の作品が出始めているように感じます。

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次に、田中圭太郎『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書)です。著者は、ジャーナリスト、ライターであり、大学の雇用崩壊やガバナンス、ハラスメントなどを執筆しているようです。本書では、タイトル通りに大学の崩壊について、国立大学、私立大学、ハラスメント、雇用崩壊、文部科学省からの天下りの5章の章立てで論じています。我が母校の京都大学が突端で吉田寮の問題や立て看板の撤去などの大学の自由と自治の観点から始めています。ただ、最終的には文科省からの天下りで大学の自治がおかしくなったり、教職員の人事が専断されたりといった観点からの結論になっているように感じて、少し違和感があります。本書の観点はすべてに重要なのですが、3点ほど抜けているように思うからです。第1は学問の自由、第2に人事と絡めた業務分担、第3に大学院の過剰な定員です。まず、学問の自由については、軍事研究の観点からチョッピリ触れられているだけで、例えば、日本学術会議の任命拒否問題などもう忘れ去られている印象です。次に、大学の観点ばかりで、学部の観点も入っていません。というのは、教員人事など、最終的には大学評議会的な全学の会議で決定されるとはいえ、学部教授会の権限である場合が少なくないわけで、私のようなヒラ教員は学部執行部が直接の「上司」筋に当たることから、大学執行部というよりは学部執行部からのハラスメントなんぞの可能性の方が高いわけです。たしかに、初等教育や中等教育の場での教師の負担が大きくなっている点は報道などで注目されていますが、大学などの高等教育機関でも同じです。ですから、サバティカルで1年間の研究休暇をチラつかせて「やりがい搾取」まがいの業務割当てがあったり、何らかの人事的な扱いを眼目に授業の担当を増やしたりといった行為はハッキリとあります。私の経験からも、授業の担当コマ数を割り当てすぎたので、むしろ、学部執行部の方から減らすべく働きかけを受けた教員もいたりします。最後に、本書で忘れられている点は大学院です。バブル経済崩壊後、1990年代半ばの就職氷河期・超氷河期あたりから、就職の先延ばしのために大学院の定員がやたらと増員されています。ですから、経済学部だけなのかもしれませんが、15年ほど前の長崎大学でも、現在の勤務校でも、日本人学生だけでは定員に達せず外国人留学生を大量に受け入れている大学があります。というか、それが経済学部に関しては大半だろうと思います。教員サイドでどこまで英語での大学院授業や論文指導をできるのか、そうでなければ、院生サイドでどこまで日本語授業を消化できるのか、不安に感じる場合すらあります。そういった点も含めて、本書だけではカバーしきれていない分野で大学は崩壊を始めているのかもしれません。

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次に、坂上泉『インビジブル』(文春文庫)です。2021年に単行本が出版され、大藪春彦賞と長編および連作短編部門の日本推理作家協会賞を受賞しています。今年2023年になって文庫化されて私も読んでみました。著者は、ミステリ作家であり、社会派の骨太でサスペンスフルな作品が多い印象です。私は、沖縄返還直前のドル円交換を題材に盛り込んだ『渚の螢火』を読んだ記憶が鮮明に残っています。ということで、この作品は、まだ戦争の記憶が色濃く残っている昭和29年1954年の大阪を舞台にしています。このころは、現在の自衛隊はもちろん、警察組織もまだ完全に整備されているとはいいがたく、自治体警察と国家警察が並立されていて、大阪市の自治体警察は警視庁と呼ばれていたころです。まあ、国家警察というのは、米国の連邦捜査局=FBIになぞらえた組織だったのでしょう。そして、その大阪、シンボルの大阪城付近で代議士の秘書が頭に麻袋を被せられた刺殺体となって発見されます。中卒の若手ノンキャリアながら刑事になっている20歳そこそこの新城は初めての殺人事件捜査に意気込み、国家警察の東京帝大卒のキャリア警察官である守屋と組んで捜査することになります。その後、同じように頭に麻袋を被せられた殺人が2件連続して発生します。そして、刺殺体の凶器は軍の武器である銃剣で刺された痕であることが判明します。さらに、冒頭から満州開拓団の挿話が挟まれたり、街中で覚醒剤の使用による犯罪が発生したり、華僑を顧客とする金融機関でのマネロンまがいの金融取引があったり、なぜか、えびす信仰が注目されたりと、いろいろな伏線がばらまかれます。ついでながら、ストーリーの本筋にはあまり関係ありませんが、競艇事業を手がける大物フィクサーの笹川という人物も登場したりします。そして、大阪市警視庁の刑事部長が政治家を巻き込んだ汚職事件の匂いを嗅ぎつけて、大いにやる気を出したりした後、少しずつ少しずつ真相が明らかになります。これまた、最後の最後で名探偵が真相を一気に明らかにするタイプのミステリではなく、少しずつtラマネギの皮を剥くように真相が明らかになっていくタイプの、私の好きなミステリです。ホームズやポアロなどのようなたった1人の名探偵はこの作品には存在しません。ミステリとしての謎解きだけでなく、当時の経済社会情勢もふんだんに盛り込まれて、大いに雰囲気を盛り上げます。政治家の汚職だけでなく、太田愛『天上の葦』を思わせるような戦争に関する壮大な社会的テーマを底流に秘めています。

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2023年8月 4日 (金)

まだ人手不足と賃上げ圧力の継続を示す7月の米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の今夜、米国労働省から7月の米国雇用統計が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、非農業部門雇用者数の前月差は本日公表の7月統計でも+187千人増となり、失業率は前月からさらに▲0.1%ポイント低下して3.5%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を最初から7パラだけ引用すると以下の通りです。

187,000 jobs added in July as unemployment falls to 3.5%
Hiring roughly held steady in July as employers added 187,000 jobs despite high interest rates and inflation.
The unemployment rate, which is calculated from a separate survey of households, dipped from 3.6% to 3.5%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 200,000 jobs were added last month.
Payroll gains for May and June were revised down by a total of 49,000, portraying a somewhat softer spring labor market than believed. The June rise in employment was downgraded to 185,000 from 209,000. As a result, June and July mark the first months of sub-200,000 job gains since December 2020.
Average hourly earnings rose 14 cents to $33.74, keeping the yearly increase at 4.4%. Although pay increases have slowed from more than 5% last year, they’re still too high for a Federal Reserve seeking to push them down to 3.5% or lower to align with its 2% overall inflation target.
Private sector-job growth rebounded to 172,00 from a meager 128,000 in June while federal, state and local governments added 15,000 jobs, a slowdown from recent month.
In July, health care led the job gains with 63,000. Financial activities and construction both added 19,000. Leisure and hospitality added 21,000, its fourth straight month of relatively modest advances after driving job growth during the recovery from the pandemic as restaurants and bars ramped up hiring.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がった2020年4月からの雇用統計は、やたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、引用した記事の3パラめにあるように、米国非農業部門雇用者の増加について市場の事前コンセンサスでは+200千人増くらいとされていただけに、実績の+187千人増はやや下振れしたとはいえ、ほぼ「こんなもん」と受け止められているようです。下振れ説の背景には、6月の統計が速報値の+209千人増から+185千人増に下方修正されている点も考慮されています。ただし、失業率も少し跳ねた5月から6月統計に続いて低下して3%台半ばで、ここ50年来の水準を続けているわけですので、米国労働市場の過熱感は継続し、人手不足に基づく賃上げ圧力はまだ強いと考えるべきです。もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により労働市場から退出した一定部分がまだ戻っていないという背景はありますし、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が強力な金融引締めを実施していますが、FEDは6月の連邦公開市場委員会(FOMC)では1回だけ利上げを見送り、7月のFOMCでは25ベーシスの利上げを再開しています。ラグも含めて、金融引締めの効果を見極めたいところなのですが、この雇用統計を見る限り、現状ではさらなる引締めが必要という見方が優勢となりそうな気がしています。ただ、次の金融引締に進む前に、フィッチ・レーティングによる米国債のダウングレードの影響がどこまで広がるか、もう少し見極める必要があるのではないか、という気がします。

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2023年8月 3日 (木)

がんばれ郷土の代表、立命館宇治高校

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夏の甲子園、第105回全国高校野球選手権記念大会の組合せが決まりました。
私は圧倒的に郷土の代表である立命館宇治高校を応援しています。私の出身地であるだけでなく、現在の勤務校の系列高校です。たぶん、私も知らない間にこの高校の出身学生を経済学部の授業で教えているのだろうと想像しています。誰でもが臨める舞台ではありません。悔いのないように力を出し切ってがんばって下さい。

がんばれ立命館宇治高校!

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やっぱり日本は政治分野での女性活躍が遅れているのか?

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少し前から、自民党女性局の面々のフランスへの海外研修の写真がSNSで話題を呼んでいますが、上のグラフは、先進国をメンバーとする経済協力開発機構(OECD)のTwitterサイトで示されたものを引用しています。Gender Equality in Cabinet Ministerial Positions 2023 ということですから、閣僚職における男女平等、すなわち、閣僚に占める女性の比率をプロットしているようです。我が日本はドンジリの右から3番めに位置しています。まあ、与党自民党の女性局のフランスへの海外研修の写真を見ていると、我が国内閣における女性閣僚が少ないのも理解できるのかもしれませんが…

なお、同じように女性閣僚に関して、さらに詳しくほとんど世界各国を網羅しているような資料も国連から明らかにされています。以下のリンクです。ご参考まで。

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2023年8月 2日 (水)

内閣府による「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」を読む

さて、そろそろ、「経済財政白書」が公表されるタイミングではないかと考えて、閣議がある火曜日と金曜日は内閣府のサイトを見るようにしているのですが、昨日8月1日(火)の定例閣議にはまだ「経済財政白書」は案件に入っていませんでした。その副産物というか、何というか、やや旧聞に属するトピックながら、先週月曜日の7月24日に内閣府から「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」が公表されているのを目にしました。全文リポートもアップロードされていますが、概要リポートからいくつかグラフを引用して、まあ、「経済財政白書」が公表されるまでのつなぎといっては、何なんですが、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、概要リポートから p.3 図表1-4「生活満足度」の推移 (雇用形態別) を引用すると上の通りです。毎年2月の調査ですので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は2021年に明瞭に出ていますが、正規・非正規の雇用形態別の生活満足度は、常に正規の方が高く、しかも、COVID-19のネガティブな影響は非正規の方に大きく出ている、と考えるべきです。逆の方向から見れば、COVID-19の影響緩和に対する政府や企業の取組みは、特に、非正規雇用向けには不十分だった、と見られます。

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まず、概要リポートから p.6 図表4-1世帯構成と「生活満足度」 の性別のグラフを引用すると上の通りです。40-64歳の単身世帯の男性のコーホートで極端なくらいまでに生活満足度が低くなっているのが見て取れます。一般に、男女とも単身世帯の生活満足度は低いのですが、特に中年男性のコーホートではそうなっているわけです。

もちろん、この単身世帯の中年男性はすべて非正規雇用であると主張するつもりはありませんが、生活満足度も考え合わせれば、非正規雇用の比率が高い可能性が想像されるのではないでしょうか。また、別の面を考えると、私自身は少子高齢化との関係で、婚外子の割合が極端に少ない我が国では、少なくとも、現在の政府が考えているような結婚しているカップルに対する子育て支援よりは、結婚していない男女に対して結婚へ進む支援、その前提として、男女ともに正規の職につける支援が少子化対策として有効である可能性が高いのではないか。と考えています。男女ともに正規雇用の職に就くことにより所得を確保し、同時に、生活満足度も引き上げられ、もちろん、結婚に進み少子化の進行に歯止めをかける、という政策はいかがなもんなんでしょうか?

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2023年8月 1日 (火)

堅調に推移する6月雇用統計の先行きををどう見るか?

本日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも6月統計です。失業率は前月からわずかに改善して2.5%を記録し、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化して1.30倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

求人倍率1.30倍、求職者増で低下 失業率は2.5%に改善
厚生労働省が1日発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.30倍で、前月から0.01ポイント下がった。物価高騰による家計圧迫などで仕事を探す人が増加した一方、求人数が横ばいだった。2カ月連続で前月を下回った。
総務省が同日発表した6月の完全失業率は2.5%だった。前月から0.1ポイント下がった。労働市場に復帰する人が増加している。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたりの求人数を示す。6月の有効求人数は横ばい、有効求職者数は0.6%増えた。
物価上昇によって家計の負担は高まっている。消費者物価指数は22年9月から3%以上の伸びが続く。職についていなかった人が就職活動を始めたり、兼業先を探したりする動きがある。
新型コロナウイルス感染に対応するため医療職についていた人が足元で飲食業に転職するといった例もあるとされる。
景気の先行指標とされる6月の新規求人数(原数値)は前年同月比で2.1%減少した。新型コロナの5類移行で外出が活発になってきたことを受けて、宿泊・飲食サービス業が1.3%増えた。医療・福祉も0.9%増加した

続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からやや改善の2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、これまた、前月からやや改善の1.32倍と見込まれていました。実績では、失業率はコンセンサス通りながら、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。ただし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の6月統計までの半年間で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+28万人増加し、就業者も+29万人増、雇用者にいたっては+56万人増となっていて、逆に、非労働力人口は▲26万人の減少です。完全失業者は+2万人増加していますが、積極的な職探しの結果の増加も含まれているわけですから、すべてがネガな失業者増ではない、と想像しています。また、季節調整していない原系列の統計ながら、休業者数に着目すると、今年2023年に入ってから休業者は前年同月比で5月統計まで減少を続けていて、6月は+6万人とわずかに増加していますが、1~5月の各月の休業者数の減少を合計すると▲130万人を超えていますので、大きく休業者が増加したとは私は考えていません。。マイクロに見て産業別では、雇用の先行指標とみなされている新規求人数について見ると、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更などを背景に、宿泊業・飲食サービス業では前年同月比で今年2023年に入ってから増加を続けています。
ただし、雇用の先行きに関しては、それほど楽観できるわけではありません。というのも、インフレ抑制を目指した先進各国の金融引締めから世界経済は停滞色を今後強めると考えられますから、輸出への影響から生産が鈍化し、たとえ人口減少下での人手不足が広がっているとはいえ、生産からの派生需要である雇用にも影響が及ぶ可能性は否定できません。エコノミストとしての私の直感ながら、我が国景気は回復ないし拡大局面の後半期に入っている可能性が高い、と考えられるからです。

最後に、そろそろ、今年2023年の「経済財政白書」が公表されるのではないかと期待しています。昨年は2022年7月29日の閣議に配布されています。本日の閣議は10時からのようで、もうすでに公表されているのかもしれませんが、もう少し待ちたいと思います。

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