米国経済学会のサイトから就業経験あるいはOJTの重要性に関するグラフ
少し旧文に属するトピックですが、8月16日に米国経済学会のサイトに人的資本の形成に関する就業経験あるいはOJTの重要性に関する論文からグラフ relationship between returns to experience and GDP が引用されています。論文タイトルとサイテーションは以下の通りです。
論文では、145か国の1990年から2016年における家計に対する調査や人口センサスの結果、1,000を超えるサンプルを基に、教育へのリターンは就業経験へのリターンよりも4倍高い一方で、就業経験へのリターンは経済発展と強い相関があり、収入により直接的な影響を与えることを発見しています。
上のグラフは、米国経済学会のサイトから引用しています。横軸は、購買力平価および2011年固定米ドルでの1人当たりGDPの対数を、そして、縦軸は、1年間の追加的な就業経験による月給の推定増加率を、それぞれ取って、国別にプロットしています。U字型の相関が見て取れると思います。すなわち、低所得国が中所得国よりも就業経験の収益=リターンが高く、高所得国がもっともリターンが大きい、という結果です。
全体として、低所得国および中所得国における平均収益は就業経験1年当たり+1.7%でした。他方で、高所得国ではこれが+3.2%と高くなります。この分析結果は、職務経験が学校教育と同じくらい所得に貢献する可能性があることを示唆しています。従来は、所得の増加には教育が重要であり、特に、高等教育のリターンはかなり高いと経験的に考えられてきました。たしかにこの研究でも教育の方が就業経験よりもリターンが高いことが実証されています。しかし、ひょっとしたら、学校教育を早くに切り上げて就業経験を積むことの利益を考えれば、学校教育制度の改革と労働市場の改革の間にトレードオフがあるのかもしれません。
繰り返しになりますが、理論的、というよりは、実証的、経験的に学校教育のリターンはとても高く、特に高等教育の高リターンは貧困脱出からの有効性を示している、と考えられてきましたし、この研究でもその結論は支持されています。特に、私のような大学の研究者は強く教育の効果を信じてきています。しかし、就業経験・職務経験、ある意味で、日本的なOJTに相当する経験は学校教育の¼ながら、それなりに高いリターンがあるとの結果が明らかにされています。これは、理論的、というよりは実証的な研究テーマであろうと私は受け止めています。
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