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2023年8月18日 (金)

11か月連続で+3%を超える上昇率を示した7月消費者物価指数(CPI)の先行きをどう見るか?

本日、総務省統計局から7月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.1%を記録しています。前年比プラスの上昇は23か月連続で、日銀のインフレ目標を大きく上回る高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+3.3%に達している一方で、エネルギー価格の高騰が一巡したことから、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+4.3%に達しています。コアCPIはもちろん、エネルギーと生鮮食品を除くコアコアCPIでも日銀のインフレ目標である+2%を超えています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、7月3.1%上昇 11カ月連続で3%超え
総務省が18日公表した7月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が105.4となり、前年同月比で3.1%上昇した。上昇率が3%を上回るのは11カ月連続となる。電気・ガス代が押し下げ、3.3%プラスだった6月と比べて伸びは2カ月ぶりに鈍化した。
QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値の3.1%と同水準だった。上昇は23カ月連続となる。引き続き日銀の物価目標である2%を上回る状況で、食品や日用品では高い伸びが続いた。生鮮食品を含む総合指数は3.3%上昇した。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.3%上がった。伸びは2カ月ぶりに拡大した。5月に並び、第2次石油危機の影響で物価が上昇した1981年6月の4.5%以来の高い上昇率となった。
総務省は政府の電気・ガス料金の抑制策と観光支援策「全国旅行支援」が共になければ、生鮮食品を除く総合が4.2%上昇だったと試算した。単純計算すると、政策効果で伸びは1.1ポイント抑えられた。
品目別でみると、エネルギーは前年同月比で8.7%マイナスだった。電気代が16.6%低下した。燃料価格の下落により6月の12.4%から下げ幅を拡大した。都市ガス代も9.0%下がった。
政府が石油元売りなどへの補助を段階的に縮小しているガソリンは1.1%上昇した。前年同月と比べてプラスになるのは1月以来6カ月ぶりとなる。
生鮮食品を除く食料は9.2%上昇した。伸びは5月から3カ月連続で横ばいで、高止まりが続いている。鳥インフルエンザの影響などで鶏卵が36.2%上がった。原材料費や人件費の上昇で外食のハンバーガーは14.0%プラスだった。
宿泊料は15.1%上がった。新型コロナウイルス禍からの回復で観光需要が増えた。携帯電話の通信料も10.2%プラスだった。比較可能な2001年1月以降で最大の上げ幅となった。一部の通信事業者が料金プランを改定した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.1%の予想でしたので、実績の+3.1%の上昇率はジャストミートでした。まず、エネルギー価格については、2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された7月統計では前年同月比で▲8.7%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲0.74%の大きさを示しています。したがって、7月統計でコアCPI上昇率が6月統計から▲0.2%ポイント縮小した背景はエネルギー価格にあります。すなわち、6月統計ではエネルギーの寄与度が▲0.56%あったのですが、7月統計では▲0.74%へと▲0.19%ポイントの寄与度差となっています。たぶん、四捨五入の関係で寄与度差は寄与度の引き算と合致しません。悪しからず。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、6月統計では電気代の寄与度が▲0.49%あったのですが、7月統計では▲0.67%へと▲0.18%ポイントの寄与度差を示しています。しかしながら、統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.83%に達しており、この政府対策を除けば値上がりしているという結果です。電力会社の利益が大きく積み上がっているわけです。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、6月統計で前年同月比▲1.6%だったガソリン価格は7月統計で+1.1%の上昇に転じていたりします。ということで、エネルギーに代わって食料がインフレの主役となった感があります。すなわち、変動の大きな生鮮食品を除く食料は7月統計で前年同月比で+9.2%と、2ケタに迫る上昇率を示し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も+2.08%に達しています。ですから、食料を除く消費者物価上昇率は+2%強の日銀物価目標にほぼほぼ近くなります。さらに細かく食料の内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、からあげなどの調理食品が+0.36%、アイスクリームなどの菓子類が+0.28%、外食ハンバーガーなどの外食が+0.26%、そしてメディアでの注目度も高い鶏卵などの乳卵類が+0.22%、国産豚肉などの肉類も+0.19%、などなどとなっています。

最後に、従来からもう何度も主張しているように、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率はそれほど長続きしません。日本だけでなく、世界的なコンテクストにおいてインフレが長引くことなない、と私は考えています。日本国内のインフレについては、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年7~9月期には+2.83%と+3%を下回り、その後、緩やかに上昇率を低下させ、ほぼ1年後の来年2024年年央には+2%近傍に達します。すなわち、2024年4~6月期には+2.17%と日銀の物価目標である+2%近くまで低下し、その後、7~9月期には+1.86%と+2%を下回る、と予想されています。さらのその後も、+1%台前半へと緩やかにインフレ率は低下すると見込まれています。ふたたび、日銀の物価目標+2%を下回ると予想されているわけです。繰り返しになりますが、7月統計では消費者物価上昇率が6月統計から縮小していますし、インフレが再加速する可能性はほとんどないと考えるべきです。

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