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2023年8月31日 (木)

2か月ぶりの減産となった鉱工業生産指数(IIP)と高い伸びが続く商業販売統計

本日は、経済産業省から7月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.0%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.8%増の13兆9240億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+2.1%の上昇を記録しています。まず、日経新聞のサイトロイターのサイトから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、7月は2.0%低下 2カ月ぶりのマイナス
経済産業省が31日発表した7月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は103.6となり、前月から2.0%下がった。2カ月ぶりのマイナスとなった。基調判断は「生産は一進一退で推移している」として、前月から下方修正した。
7月の生産は全15業種のうち10業種で低下した。半導体製造装置などの生産用機械工業では前月比で4.8%減った。海外受注の減少が影響した。
電子部品・デバイス工業は前月比で5.1%減った。スマートフォンの需要低迷を背景に半導体メモリーなどが低調に推移していることが影響した。エアコンなどの電気・情報通信機械工業は2.9%減った。
5業種は上昇し、自動車工業を除く輸送機械工業は前月比9.6%上がった。新型コロナウイルスの感染拡大時からの経済回復に伴い航空需要が高まり、緩やかに上昇傾向にある。自動車工業は半導体などの部材供給不足が一部残るものの改善傾向にある。
経産省は自動車工業は回復傾向にあるものの、米国の金利引き上げや中国経済の見通しが厳しい状況であることから先行きには注意が必要とした。
主要製造業の生産計画から算出する生産予測指数は8月を前月比2.6%の上昇と見込んだ。9月も2.4%の上昇を予測する。
小売業販売、7月は前年比6.8%増 値上げや猛暑で17カ月連続増
経済産業省が31日に発表した7月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比6.8%増と、17カ月連続でプラスとなった。値上げで飲食料品やガソリンの販売額が伸びたほか、猛暑の影響で衣類やエアコンなどの販売が増加した。
ロイターの事前予測調査では5.4%増が予想されていた。
業種別の前年比ではその他小売業が11.0%増、自動車が8.1%増、飲食料品が8.0%増、百貨店などの各種商品が6.3%増などだった。
業態別は百貨店7.6%増、スーパー5.2%増、コンビニ5.2%増、家電大型店5.0%増、ドラッグストア10.2%増、ホームセンター5.2%増だった。
外出機会が増加し、医薬品・化粧品などを押し上げた。自動車は半導体不足で納車が遅れた昨年の反動で販売が増加した。

長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲1.5%、下限で▲3.5%の減産でしたので、実績の▲2.0%の減産はコンセンサスよりもやや下振れしているとはいえ、レンジ内ということで大きなサプライズはありませんでした。ただし、上のグラフでも明らかな通り、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は一進一退で推移している」と、前月の「緩やかな持ち直しの動き」から1ノッチ下方修正しています。決して楽観できない先行き予測も考慮されていることと思います。すなわち、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足元の8月は補正なしで+2.6%の増産ながら、上方バイアスを除去した補正値なら▲1.4%の減産となっています。7月統計の減産の要因は、経済産業省の解説サイトによれば、「国内・海外の受注減少」ということになっています。欧米先進国ではインフレ抑制のために金融引締めを継続しており、たとえソフトランディングが可能としても、海外経済の減速確かであり、輸出に一定の依存をする生産には無視できない影響があります。ただ、自動車生産への半導体部品供給の制約などもあって、内外の需要要因とともに、供給要因も総合的に考え合わせる必要があります。加えて、トヨタ自動車が、私のようなシロートには理解し難いシステム不具合により、「トヨタ、国内工場の稼働停止」といった報道も見受けましたし、先行きの不確実性が大きくなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売に示された国内需要は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、5月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.9%の上昇、繰り返しになりますが、後方移動平均を取らない7月統計の前月比が+2.1%の上昇となり、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年7月統計では前年同月比で+3%超の上昇率となっていますが、小売業販売額の7月統計の6.8%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。もちろん、引用した記事にもあるように、値上げの波及により名目値が伸び、また、猛暑の影響もあったことは確実です。ただ、通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性がありますので、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、引用した記事にもあるように、ドラッグストアの伸びがとても高いのがインバウンドの象徴のような気もします。いずれにせよ、物価上昇率の落ち着きにより名目ベースでの小売業販売額の伸びは鈍化する可能性があります。したがって、昨日取り上げた消費者態度指数に見る消費者マインドは決して悪くないので、賃金の伸びがどこまで消費を支えるかがポイントになります。

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