利益ばかりが積み上がる4-6月期法人企業統計をどう見るか?
本日、財務省から4~6月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+6.1%増の372兆5850億円だったものの、経常利益は▲2.8%減の22兆3768億円と8四半期ぶりのマイナスを記録しました。そして、設備投資は+7.7%増の12兆4417億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と設備投資は前期比プラスながら、経常利益はマイナスとなっています。ただ、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+0.5%増にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
4-6月設備投資1.2%減 法人企業統計、経常利益は最高
財務省が1日発表した4~6月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の設備投資は前年同期比4.5%増の11兆927億円だった。伸びは1~3月期の11.0%から鈍化した。季節調整済みの前期比でみると1.2%減だった。非製造業の減少が響いた。
全産業の経常利益は前年同期比11.6%増の31兆6061億円だった。統計上、さかのぼることができる1954年4~6月以降で過去最高となった。製造業、非製造業ともに増益を確保した。
経常利益を業種別に見ると、供給制約の緩和による増産のあった輸送用機械が前年同期比56.5%増えた。海外向けの受注が増えた生産用機械も29.9%のプラスだった。非製造業では人流の増加やインバウンド(訪日外国人)需要で客数が回復したサービス業が20.2%増加した。
設備投資は季節調整済みの前期比で製造業が1.2%増、非製造業が2.5%減だった。財務省は「設備投資は業種によってばらつきがみられるものの、全体では前年同期比で増加した」と総括した。
業種別にみると製造業は金属製品が前年同期比82.6%増、業務用機械が83.3%増だった。生産能力増強のための投資があった。情報通信機械は11.4%減った。売り上げの減少に伴い、設備投資計画を見直したとの声があった。
非製造業では物流施設や新規店舗の建設があった卸売業、小売業が22.4%増えた。前年に増えた反動で、不動産業は13.2%減った。前年にあった大型投資が終わった電気業も10.6%減った。
財務省は今回の法人企業統計について「景気が緩やかな持ち直しから回復へと進んでいる状況を反映した」と説明している。先行きでは海外景気の下振れや物価上昇の影響などを注視したいとの考えを示した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。
ということで、法人企業統計の結果について、3つの要因が作用しています。すなわち、第1に、製造業、特に、自動車産業における半導体部品などの供給制約、第2に、金融引締めに転じている先進各国をはじめとする海外景気の動向、そして、第3に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更に伴う行動制限の撤廃、特に、インバウンドの動向、の3点です。加えて、売上高にせよ、営業利益や経常利益にせよ、名目で計測される統計ですので、インフレによる水増しの影響は無視できません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは不明です。少し産業別に詳しく見ると、4~6月期の前年同期比で見て、供給制約が緩和された輸送機械が売上高でも経常利益でも大きな増収・増益となっています。他方、石油・石炭が売上高で大きな減収となっているのは、数量ベースというよりもエネルギー価格の動向に起因するものであろうと理解すべきです。また、政府からの補助金の影響が現れたのが電気業であり、昨年2022年は10~12月期まで営業利益も経常利益も赤字でしたが、今年2023年に入って1~3月期には黒字に転じ、4~6月期には営業利益も経常利益も1兆円を超える黒字を計上しています。
上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」といえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかり溜め込まれるのが、どこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように右肩上がりの拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、ほとん経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問と私は考えています。
続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率が大きく低下を示しています。設備投資/キャッシュフロー比率もようやく底ばいから上昇し始めたところです。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?
最後に、ずいぶんと前の7月26日付けの IMF Blog の Chart of the Week で、日米ではなく欧州の分析ながら、Europe's Inflation Outlook Depends on How Corporate Profits Absorb Wage Gains と題する記事がありました。そのサイトから上のグラフを引用しています。欧州のインフレを企業利益、労働コスト、税、輸入価格の4要因に分解していて、2022年からは企業利益の取り分が大きくなってインフレを加速させている、と分析しています。繰り返しになりますが、日米の分析ではないながら、昔の用語でいえば「便乗値上げ」のような形で企業がインフレにより利益を溜め込んでいる姿が浮き彫りになっています。本日の法人企業統計の過去最高の利益を見て、日本ではどうなのでしょうか、気がかりです。
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