国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し分析編」World Economic Outlook Analytical Chapters やいかに?
10月3日、国際通貨基金(IMF)からIMF・世銀総会に向けて「世界経済見通し」World Economic Outlook の分析編 Analytical Chapters が明らかにされています。昨日のエントリーの繰り返しになりますが、各章のタイトルは以下の通りです。
- Chapter 2
- Managing Expectations: Inflation and Monetary Policy
- Chapter 3
- Fragmentation and Commodity Markets: Vulnerabilities and Risks
ただし、公表されたのが第3章が先で10月3日、第2章が後で10月4日、となっています。国際機関のこういったリポートに着目してメディアの報道といった2時資料ではなく1時資料に当たるのが私のこのブログの特徴のひとつですので、リポートからグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポート第2章から Figure 2.3. Cross-Economy Distribution of Mean Inflation Expectations over Time を引用すると上の通りです。上の2つのパネルは先進国と新興国・途上国のそれぞれの12か月先の短期インフレ期待、下は5年先の長期インフレ期待です。短期インフレ期待は2021年から2022年にかけて大きく上昇しましたが、すでに反転してピークを打った可能性もあります。長期インフレ期待もジワジワと上昇し始めていますが、少なくとも中央銀行のインフレ目標にはアンカーされているのが読み取れます。
続いて、同じくリポート第2章から Figure 2.8. Contributors to Recent Inflation Dynamics を引用すると上の通りです。インフレへの寄与について先進国と新興国に分けて分析しています。先進国ではフォワード・ルッキングな短期期待の寄与が大きく、新興国ではバックワード・ルッキングというか、静学的な期待による寄与が大きい、とかなりクッキリと差を生じているのが判ります。先進国では中央銀行から金融市場や国民へののコミュニケーションが的確に作用している、ということができます。
さらに、リポート第3章から Figure 3.2. Commodities: Key Characteristics を引用すると上の通りです。石油や食料などの商品についてはいくつかの特徴がありますが、産出できる国が限定されており、IMFのいうように「分断」fragmentation というよりは、「集中」concentration あるいは「独占」monopoly に近い産品が少なくありません。その観点から、産出の多い上位3か国の生産集中度を見ています。3か国といわずとも、鉱物資源、特に、グリーン経済への移行に必要な非鉄金属についてはトップ生産国のシェアが大きいのが見て取れます。
続いて、同じくリポート第3章から Figure 3.4. Signs of Fragmentation を引用すると上の通りです。ロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーや食料といった1次産品の地経学的な分断が深刻化しています。特に、グラフに示されているように2022年にはその分断化をさらに悪化させるような貿易制限が急増しているのが見て取れます。日本のように、エネルギーも食料も十分な国内生産のない資源小国では深刻な経済安全保障上の問題が生じる可能性も否定できません。
続いて、同じくリポート第3章から Figure 3.9. Impact of Fragmentation on Real GDP and Inflation を引用すると上の通りです。こういった生産分断が、GDP、すなわち、成長へ及ぼす影響とインフレへの影響を経済モデルにより試算しています。1次産品7品目の分断によりGDPは▲0.3%の損失を受ける "Trade fragmentation of all seven commodities would be associated with a global GDP loss of about 0.3 percent." と指摘しています。
最後に、「世界経済見通し」の見通し編は来週の10月10日に公表される予定となっています。
| 固定リンク
コメント