不平等は景気循環の振幅を大きくする?
先月9月に全米経済研究所(NBER)から 不平等と景気循環に関するInequality and Business Cycles と題するワーキングペーパーが明らかにされています。サイテーションは以下の通りです。
まず、NBERのサイトから論文のAbstractを引用すると以下の通りです。なお、下線は引用者が付け加えています。
Abstract
We quantify the connection between inequality and business cycles in a medium-scale New Keynesian model with tractable household heterogeneity, estimated with aggregate and cross-sectional data. We find that inequality substantially amplifies cyclical fluctuations. The primary source of this amplification is cyclical precautionary saving behavior. Savers reduce their consumption to insure themselves against the idiosyncratic risk of large income drops, which rises in recessions.
家計の異質性を捕捉できるようなニューケインジアン・モデルを用いて、不平等と景気循環を分析しています。その結果、不平等が景気循環の振幅を増幅するというファクトファインディングがあった、ことが明らかにされています。論文から Figure 8: No-inequality counterfactual: GDP growth and de-trended hours を引用すると以下の通りです。

青い折れ線グラフが実績の景気循環 actual なのですが、仮想現実 no-inequality counterfactual の赤い折れ線は、明らかに実績から山も谷も振幅が小さくなっているのが見て取れます。この増幅の大きな要因として、景気循環に応じた予備的貯蓄行動 precautionary saving behavior が上げられています。すなわち、不平等のレベルが高いと、経済的困難に見舞われた不運な世帯の潜在的な損失が拡大し、景気後退期に大幅な収入と消費の低下というリスクがが深刻になり、リスクの影響を軽減するために、流動性制約のない家計は景気循環の間に予防貯蓄を増加させ、逆に、この予備的貯蓄行動が景気循環の振幅を増幅させる、というメカニズムです。
ニューケインジアン・モデルにより不平等が景気循環の振幅を拡大させる点が実証された事実は重要だと私は考えています。マクロ経済政策の重要な目標のひとつは景気循環の平準化であり、そのためには格差や不平等を是正する政策が必要、ということになり、その実証的な根拠が得られたといえます。
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