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2023年10月19日 (木)

黒字を計上した9月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+4.3%増の9兆1981億円に対して、輸入額は▲16.3%減の9兆1357億円、差引き貿易収支は+624億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

4-9月の貿易赤字2.7兆円、75%縮小 輸出が半期で最高
財務省が19日発表した2023年度上期(4~9月)の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆7183億円の赤字だった。赤字幅は前年同期から75.1%縮小した。自動車の輸出が好調で輸出額が半期で過去最高となり、資源高が一服して輸入額が減少した。
22年度上期の貿易収支は10兆9074億円の赤字だった。資源高と円安で、比較可能な1979年度以降で半期では過去最大の赤字となっていた。
23年度上期の輸出額は50兆2418億円で前年同期と比べて1.4%増えた。半期で初めて50兆円を超えた。半導体不足の解消で自動車の輸出額が半期で過去最高の8兆7406億円と37.9%増えた。
地域別で見ると、米国向けは10.6%増の10兆753億円となった。自動車輸出が43.1%増と全体を押し上げた。中国向けは8.2%減の8兆9073億円。このうち食料品の輸出額は1110億円で17.2%減った。日本産水産物の輸入停止措置が影響したとみられる。
輸入額は52兆9602億円で前年同期と比べて12.4%減った。原粗油が28.1%減、液化天然ガス(LNG)が37.9%減となり、輸入額を押し下げた。サウジアラビアやオーストラリアからの輸入減が目立つ。
同じ期間の原粗油はドル建ての平均価格が1バレルあたり83.5ドルと25.4%下がった。為替レートは5.6%円安に振れたが、円建て価格は1キロリットルあたり7万3000円程度で2割下がった。
23年9月単月の貿易収支は624億円の黒字だった。黒字は3か月ぶり。中国向けの食料品の輸出額は98億円と前年同月比で58%減少している。

4~9月の年度半期の記事がほとんどを占めたために、やたらと長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲4000億円の貿易赤字が見込まれていたのですが、大きな額ではないとはいえ、実績の+600億円超の貿易黒字は、予測レンジの上限を超えて少し驚きでした。ただし、季節調整済みの系列の統計で見て、まだ9月統計でも貿易赤字は継続しているわけで、赤字幅は縮小したとはいえ▲4000億円を超えています。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額の伸びではなく輸入の大きな減少が貿易赤字縮小の原因です。ただし、注意すべきは為替水準であり、円安については足元でまたまた1ドル150円近くに達しています。ただ、これも、米国の政策金利が次の連邦公開市場委員会(FOMC)で、ひょっとしたら、利上げ見送りの可能性も市場でウワサされていて、さらなる円安方向に大きく動くとも思えません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
9月の貿易統計について、季節調整していない系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲16.7%減、金額ベースで▲32.0%減となっています。LNGは原油からの代替が進んだのか、数量ベースでは+3.8%増ながら、金額ベースでは▲44.8%減となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、原油からの代替が進んだ可能性のあるLNGは別としても、価格と数量の両面から輸入額が減少していると考えるべきです。ただ、少しタイムラグを置いて、価格低下に見合って逆方向の輸入の増加が先行き生じる可能性は否定できません。エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲4.0%減にとどまっている一方で、金額ベースでは▲16.4%減と数量の減少を超えて輸入額が減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+19.0%増、金額ベースでは+30.4%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与していますが、日経新聞のニュースによれば、車用ばねを手掛ける取引先の中央発条で発生した爆発事故の影響により今月10月18~20日の間、8工場・計13ラインを止める予定と報じられています。半導体とは別の供給制約が発生しているようです。ジェレミー・リフキン『レジリエンスの時代』で指摘されていたように、効率一辺倒の経営にほころびが出始めている可能性がありますが、エコノミストには予測の難しい経済外要因による生産への影響であると私は受け止めています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械▲1.4%減、電気機器▲4.0%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出はやや停滞しています。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出の停滞はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国に起因するものではなく、むしろ、9月統計を見る限り、中国向け輸出額の減少が大きく、前年同月比で▲6.2%減を記録しています。国際通貨基金(IMF)の「地域経済見通し アジア太平洋編」でも指摘しているように、中国の不動産セクターの動向が気にかかるところです。

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