一進一退続く鉱工業生産指数(IIP)と前月比でマイナスに転じた商業販売統計と前月から大きな変化ない雇用統計
本日は、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも9月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+0.2%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.8%増の13兆3570億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から▲0.1%の低下を記録しています。さらに、失業率は前月から▲0.1%ポイント改善して2.6%を記録し、有効求人倍率は前月から横ばいの1.29倍となっています。まず、日経新聞のサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産、9月は0.2%上昇 3カ月ぶりプラス
経済産業省が31日に発表した9月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は103.3となり、前月から0.2%上がった。自動車工業や窯業・土石製品工業がけん引し、3カ月ぶりのプラスになった。
生産の基調判断は「一進一退」として前月から据え置いた。
全15業種のうち9業種で上昇した。普通自動車やシャシー・車体部品などの自動車工業は6.0%伸びた。セメントなどの窯業・土石製品工業は3.5%上がった。
台風やシステム不具合などの影響で一部で工場稼働が停止し、8月の生産が落ち込んでいた自動車工業はその反動もあった。
トヨタ自動車など乗用車メーカー8社が30日に公表した4~9月の世界生産は1247万台となり、前年同期比で7.4%増えた。車載半導体などの部品不足が緩和されて生産が回復した。
残る6業種は低下した。産業用ロボットや金型などの生産用機械工業が3.4%下がった。国内外の受注が大きく減ったことが響いた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は10月に前月比3.9%のプラスを見込んだ。11月は2.8%のマイナスとなる見通し。
経産省は中国経済や米国の金利上昇、物価上昇などの動向について注視する必要があると指摘した。
小売業販売額9月は前年比5.8%増、食品・ガソリン値上げ続く
経済産業省が31日に発表した9月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比5.8%増となった。ロイターの事前予測調査では5.9%増と予想されていた。飲食料品など幅広い品目の値上げの影響が大きかった。
業種別ではガソリンスタンドなど燃料が前年比7.5%増、自動車小売と飲食料品がそれぞれ7.0%増、その他小売業が6.6%増、デパートなどの各種商品が5.6%増だった。一方、衣服・身の回り品は気温高で秋物衣料が不調だったため6.1%減だった。
業態別では百貨店が前年比8.1%増、スーパー3.7%増、コンビニ4.0%増、ドラッグストア10.2%増。コンビニは加工食品などが好調、ドラッグストアは医薬品やペット用品など幅広い品目が伸びるなか飲食料品が特に好調だった。
商業動態統計は金額ベースのため値上げによる販売数量の影響は把握できないが、スーパーなどからは「消費者の節約志向を感じる」などの声が出ているという。
9月求人倍率、横ばいの1.29倍 失業率は2.6%に改善
厚生労働省が31日発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.29倍で前月から横ばいだった。新型コロナウイルスで落ち込んだ需要が回復している宿泊や飲食・サービス業で求人が増えた。原材料費などの上昇で収益を圧迫された製造業や建設業は求人を抑えた。
総務省が同日発表した9月の完全失業率は2.6%で前月に比べて0.1ポイント下がった。
有効求人倍率は、全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。9月の有効求職者数は2カ月連続で減ったが、減少幅は0.1%と小幅にとどまった。有効求人数も横ばいだった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で3.4%減少した。原材料や光熱費が上がった影響を受け、製造業は12.7%減、建設業は8.1%減となった。宿泊・飲食サービス業は新型コロナからの消費持ち直しを背景に5.2%増えた。
完全失業者数は182万人で前年同月比で2.7%減った。就業者数は6787万人で0.3%伸び、14カ月連続の増加となった。男性は5万人、女性は16万人それぞれ増えた。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4040万人で31万人減った。
多くの統計を報じた記事ですので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で+2.5%、下限でも+0.5%の増産でしたので、実績の前月比+0.2%の増産は、3か月ぶりの増産ながら、コンセンサスよりも大きく下振れしています。上のグラフでも明らかな通り、まさに、生産は横ばい状態が続いていて、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「生産は一進一退で推移している」と前月から据え置いています。ただ、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足元の10月は補正なしで+3.9%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+1.1%の増産となっていて、先行きも決して悪くありません。11月については、減産が予想されていますが、現時点ではまだ何ともいえません。経済産業省の解説サイトによれば、9月統計の生産は、「自動車工業を中心に多くの業種が上昇」ということになっています。自動車工業では、普通乗用車の販売が好調であることなどを受けて、普通乗用車やシャシー・車体部品などが上昇しています。ただ、自動車工業については8月下旬のトヨタの工場停止に続いて、NHKの報道に見るように、10月16日に取引先のばねメーカー「中央発條」の工場で生産設備の爆発事故が発生したため部品が調達できなくなり、一部工場の生産ラインで稼働停止が続いていました。10月23日から宮城県や岩手県など4工場の5つの生産ラインで生産再開のようですが、レジリエンスに問題がありそうな気がして、生産への影響がやや懸念されます。こういった我が国リーディング産業であり自動車工業などにおける供給制約に加えて、欧米先進国ではインフレ抑制のために金融引締めを継続していることから、ソフトランディングが視野に入りつつあるとはいえ、海外経済が減速しているのは事実であり、輸出に一定の依存をする生産には無視できない影響があります。なお、ソフトランディングについては、9月26日に明らかにされたピーターソン国際経済研究所(PIIP)の経済見通しでは "PIIE projects global economy poised for soft landing" と見込んでいたりします。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売に示された国内需要は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、直近の9月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.7%の上昇となっていて、繰り返しになりますが、後方移動平均を取らない9月統計の前月比が▲0.1%と減少していますが、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年9月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+3%近いインフレを記録していますが、小売業販売額の9月統計の+5.8%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。ただ、インフレの影響は国内では消費の停滞をもたらす可能性が高く、したがって、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性がありますので、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、引用した記事にもあるように、百貨店やドラッグストアの伸びがスーパーなどよりも高いのが、インバウンドの象徴のような気もします。ただ、記事によれば加工食品や飲食料品が好調、とのことですので、インバウンドではなく国内消費に起因している気もしないでもありません。いずれにせよ、物価上昇率の落ち着きにより名目ベースでの小売業販売額の伸びは鈍化する可能性があります。というか、季節調整済み系列の前月比がマイナスに転じていますので、素手の前月からの比較では伸びの鈍化は始まっているようです。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から改善の2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについても、前月から改善の1.30倍と見込まれていました。実績では、失業率はコンセンサス通りでしたが、有効求人倍率は横ばいでした。しかし、予測レンジの範囲内でしたし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年の年末12月から直近の9月統計までで、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+32万人増加し、就業者は+30万人増、雇用者にいたっては+63万人増となっていて、逆に、非労働力人口は▲49万人の減少です。完全失業者も+6万人増加していますが、積極的な職探しの結果の増加も含まれているわけですから、すべてがネガな失業者増ではない、と想像しています。就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+42万人増の一方で、非正規が+11万人の増加にとどまっていますから、質的な雇用も決して悪くないと考えるべきです。ただし、雇用の先行きに関しては、それほど楽観できるわけではありません。というのも、インフレ抑制を目指した先進各国の金融引締めから世界経済は、ソフトランディングの可能性が高まっているとはいえ、いくぶんなりとも停滞色を強めると考えられますから、輸出への影響から生産が鈍化し、たとえ人口減少下での人手不足が広がっているとはいえ、生産からの派生需要である雇用にも影響が及ぶ可能性は否定できません。

最後に、本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。10月統計では、前月から+0.5ポイント上昇し42.1を記録しています。消費者態度指数を構成する5項目の消費者意識指標のうち、「雇用環境」を除く4項目で前月差で見て上昇しており、「暮らし向き」が+1.4ポイント上昇し33.4、「収入の増え方」が+0.4ポイント低下し39.1、「耐久消費財の買い時判断」も+0.4ポイント上昇し29.4となっています。「雇用環境」だけが▲0.4ポイント低下し40.7となりました。消費者態度指数は、8~9月統計では2か月連続で低下していましたが、10月統計では3か月ぶりの上昇となりました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に向けた動きに足踏みがみられる」と、先月から据え置いています。
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