予想を上回る業況判断の改善を見せた日銀短観9月調査の結果をどう見るか?
本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは36月調査から+4ポイント改善して+9、また、大企業非製造業も+4ポイント改善の+27となりました。大企業製造業では2四半期連続の改善です。また、本年度2023年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+13.0%の大きな増加が見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、2期連続で改善 9月日銀短観
日銀が2日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の6月調査(プラス5)から4ポイント改善してプラス9だった。2期連続で改善した。自動車生産が回復し、非製造業も新型コロナウイルスの影響が和らいで幅広い業種で改善が続いた。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。9月調査の回答期間は8月29日~9月29日。回答率は99.4%だった。
大企業製造業の業況判断DIはプラス9と、QUICKが集計した民間予想の中心値(プラス6)を3ポイント上回った。供給制約の緩和で生産の回復が進む自動車が10ポイント改善しプラス15、石油・石炭製品は20ポイント改善しプラス14となった。紙・パルプや化学など幅広い業種で価格転嫁の進展も聞かれたという。
一方、海外経済の減速による需要の低迷が響いた業種もあった。はん用機械は7ポイント悪化しプラス11、生産用機械も6ポイント悪化のプラス14だった。半導体関連の需要が弱く、電気機械は4ポイント悪化した。
非製造業はコロナ禍からの経済再開やインバウンド(訪日外国人)の増加で景況感の改善が続く。大企業非製造業の業況判断DIは4ポイント改善しプラス27と市場予想(プラス24)を3ポイント上回った。6期連続で改善し、1991年11月調査以来の高水準となった。
先行きの見通しは大企業製造業は1ポイント改善しプラス10、大企業非製造業は6ポイント悪化しプラス21を見込む。製造業では自動車生産の回復が他の業種にも波及する期待がある一方、非製造業では足元の円安・原油高などを受けて原材料コスト高の懸念がくすぶる。
企業が原材料などのコストを販売価格に転嫁する動きは鈍化してきた。販売価格が「上昇」との回答から「下落」の割合を引いた販売価格判断DIは大企業製造業で2ポイント悪化しプラス32だった。仕入れ価格判断DIも大企業製造業で4ポイント悪化のプラス48と落ち着きを見せる。
企業の消費者物価見通しはなお高水準だ。全規模全産業の1年後の見通し平均は前年比2.5%上昇だった。3年後見通しは2.2%、5年後見通しは2.1%となった。いずれも6月調査からほぼ横ばいで、政府・日銀が目標としている2%の水準を上回る。
企業の事業計画の前提となる2023年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=135円75銭と、6月調査の132円43銭から円安方向に傾く。足元の円相場は1ドル=149円台で推移する。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
先週月曜日の9月25日のエントリーで日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては横ばい圏内ないしは小幅ながら2四半期連続の改善との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回6月調査から+1ポイント改善の+6、非製造業も同じく+1ポイント改善の+24、となっています。実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが6月調査から+4ポイント改善、また、大企業非製造業でも+4ポイントの改善となりました。レンジの上限が、大企業製造業で+9、大企業非製造業で+26でしたので、この上限ギリギリか、あるいは、少し超えた、ということですので、足元についてはやや上振れした印象なのです。ただし、先行きの景況感については、製造業については大企業・中堅企業・中小企業のすべての規模で、改善の方向が示唆されている一方で、非製造業では逆に大企業・中堅企業・中小企業のすべての規模で悪化が見込まれています。業種別に先行き景況感の方向性のバラツキが大きく、明暗が分かれた印象、と私は受け止めています。大企業の先行き業況判断DIを詳しく見ると、まず製造業では、はん用機械、生産用機械、電気機械などが先行き景況感の改善を見込んでいる一方で、自動車、業務用機械、食料品が悪化となっています。特に、食料品は物価上昇による消費へのダメージが意識されているものと私は想像しています。また、非製造業でも卸売や小売が悪化を見込んでおり、インフレによる消費の停滞といった懸念が大きいのではないか、と私は考えています。別の角度から見て、製造業で先行きの景況感が改善するには、足元の円安効果が反映されていると考えるべきです。2023年度の事業計画の前提としている想定為替レートは、6月調査時点では132.43\/$だったのですが、9月調査ではジワリと135.75\/$に修正されています。輸入インフレを招くとメディアで評判の悪い円安ですが、いく分なりとも輸出に依存する製造業にとってはマインド改善のひとつの要因でもあります。
続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではないのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感にまで突入していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素感で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れと考えられます。私も授業向けにデータをチェックしましたが、Penn World Table のデータでは、就業者当たりの資本ストックで見て日本はG5で最低水準にあり、しかも、ここ10年ほどで減少していることは明らかです。これは、平口良司『入門・日本の経済成長』(日本経済新聞出版)p.74図4-4に触発されて調べてみたので確実です。日本では低賃金と投資不足が負のスパイラルに陥っているわけです。賃金が低水準にあるので資本ストックではなく低賃金労働者で代替し、投資が進まないので資本装備率が高まらず、したがって、労働生産性も上がらない、という悪循環です。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業全産業で+13.7%増となっています。実績は大企業全産業の設備投資計画は+13.6%でしたので少し下振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が+13.6%増、そして、中堅企業が+15.9%増、中小企業が+8.0%増と見込んでいます。大企業よりも中堅企業の方が設備投資のより大きな増加を見込んでいるわけです。雇用と資本の生産要素間の代替関係が垣間見えます。大企業は雇用者を増加しやすいのに対して、ch空拳企業では雇用者の応募が少ないリスクが有り、資本で代替するのかもしれません。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。その意味で、まあ、通常の動きの範囲ではなかろうか、と私は受け止めています。現時点では最後の着地点がどうなるか、これまた、先進国の金融引締めと景気動向を考え合わせると不透明です。
最後に、引用した記事の最後から2パラ目にあるように、依然として物価予想が高止まりしています。全規模全産業で見て、1年後の消費者物価上昇率は前年比+2.5%上昇3年後+2.2%、5年後+2.1%となっています。ただ、自社の販売価格については、現在の価格と比較して、1年後+2.8%、3年後+3.8%、5年後+4.4%ですから、少なくとも足元の1年間は、自社製品の販売価格の値上げの方が平均的な物価上昇よりも高い、と見込んでいるようです。
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