メルカリの男女賃金格差の是正姿勢を考える
メルカリの男女の賃金格差に関するメルカンの記事「『説明できない格差』を埋めてより良い社会にしていきたい - 男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション」を見て、思わずツイッタでつぶやいてしまいましたが、ちょっと間違った部分がありましたので、訂正の意味も含めて、取り上げておきたいと思います。というのは、ミンザー型の賃金関数を用いてBlinder-Oaxaca分解していると思っていたのですが、どうも、階層ベイズモデルを用いているようです。「重回帰分析では全体平均的な補正値しか出せませんが、階層ベイズモデルではグループ差や個人差を考慮できる」とありますから、重回帰分析がミンサー型の賃金関数なのかもしれません。私は階層ベイズモデルの研究成果はありませんが、ミンサー型の賃金関数を基にBlinder-Oaxaca分解を用いた賃金格差分析のディスカッションペーパーを書いたことがありますので、改めて、私の研究成果ともあわせて簡単にコメントしたいと思います。
ということで、私が役所にいたころの研究成果で「ミンサー型賃金関数の推計とBlinder-Oaxaca分解による賃金格差の分析」と題するディスカッションペーパーがあります。何をしているかは、ありきたりな研究なので、詳しくは書きたくもないのですが、タイトル通りに、ミンサー型の賃金関数モデルに厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の個票データをインプットして賃金の決定要因を分析しています。さらに、Blinder-Oaxaca分解という手法を適用して、賃金に関して、産業間格差、地域間格差、企業規模別格差などとともに、もちろん、男女の性別格差についても分析をしています。2015年の研究ですので、データは2011年の震災年を外して、2007年、2010年、2013年の3年ごとの個票データを用いています。
男女の性別賃金格差は、学歴や役職などの詳細属性を含むデータで、各年35~40%と計測しています。そして、階層ベイズモデルを用いてメルカンで「説明できない格差」と呼んでいるのは、ミンサー型賃金関数を基にしたBlinder-Oaxaca分解では、通常、非属性格差と呼ばれています。これは、例えば、女性の場合は男性よりも大卒比率が低いとか、パートタイム比率が高いとか、勤続年数が短いとか、年齢が若いとか、こういった属性に起因する格差と、こういった明示的な属性の違いに起因しているわけではない非属性格差に分解するのが、Blinder-Oaxaca分解と呼ばれる手法です。ですから、非属性格差は人的資本の研究で有名なシカゴ大学のベッカー教授などはズバリ「差別」discrimination と呼んでいます。
私がメルカンの記事で驚いたのは、メルカリにおける男女間賃金格差37.5%は、私の研究成果に比べて平均的といえるのですが、非属性格差に近いと私がみなしている「説明できない格差」がわずかに7%しかない、という点です。すなわち、私の研究成果によれば、35~40%の男女間性別賃金格差のうち、18~20%くらい、すなわち、半分強が非属性格差であったのですが、メルカリの場合はわずかに⅕の7%というのは驚きでした。
まったく別のテーマながら、阪神タイガース優勝パレードはものすごい盛り上がりでした。感激しました。
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