世界における基礎的スキルの充足度はどれくらいか?
来年1月に刊行予定の学術誌で "Global universal basic skills: Current deficits and implications for world development" と題する論文が掲載予定と聞き及びました。まず、この論文の引用情報は以下の通りです。
この論文のAbstractを学術誌のサイトから引用すると以下の通りです。なお、下線は引用者が付しています。
Abstract
How far is the world away from ensuring that every child obtains the basic skills needed to be competitive in a modern economy? And what would accomplishing this mean for world development? We provide new approaches for estimating the lack of basic skills that allow mapping achievement across countries of the world onto a common (PISA) scale. We then estimate the share of children not achieving basic skills for 159 countries that cover 98% of world population and 99% of world GDP. We find that at least two-thirds of the world's youth do not reach basic skill levels, ranging from 24% in North America to 89% in South Asia and 94% in Sub-Saharan Africa. Our economic analysis suggests that the present value of lost world economic output due to missing the goal of global universal basic skills amounts to over $700 trillion over the remaining century, or 12% of discounted GDP.
この論文では、著者たちが学習ないしスキルの達成度を経済開発協力機構(OECD)で実施している学習到達度調査(PISA)のスケールに合わせてマッピングするアプローチを開発し、それを世界GDPの99%をカバーする159か国について推計しています。推計方法に注目するアカデミアも少なくなさそうですが、一般向けに結果に着目して、イメージをつかむために、そのマッピングされた世界地図 Fig. 3.World map of lack of basic skills: Share of children who do not reach basic skill levels を論文から引用すると以下の通りです。

基礎的スキルの欠如に従ってグラデーションさせていますので、黄色とかの色の薄い方が欠如の割合が小さく、したがって、習得あるいは到達の度合いが高い、ということになります。日本、韓国、中国、カナダ、英国、オランダなどが欠如率10-20%、ということで、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなどのいくつかの大陸欧州諸国、米国、ロシアなどがやや高く20-30%、もっとも高い地域はサブサハラ・アフリカや南アジアなどとなっています。おおよそ、世間一般の常識に合致する結果ではないかと思います。

続いて、論文から Table 3 Sensitivity of skill estimates: Restriction to higher layers of reliability and bounding of out-of-school children を引用すると上の通りです。タイトルには「学校教育外の子供たち」out-of-school children も表にあることが明記されていますが、日本では学校外教育が一般的ではないことやその他の諸般の事情により割愛しています。Abstract に下線を引いておいたように "at least two-thirds of the world's youth do not reach basic skill levels" なわけで、上のテーブルからは、基礎的スキルの欠如比率が67.2%に達していると結論されていることが理解できます。低所得国では95.6%、低位中所得国で85.8%、高位中所得国で42.3%、高所得国でも25.5%に上ります。なお、引用はしませんが、論文には Table A4. Student achievement on a global scale: Country data として基礎的スキルの欠如率の国別データも収録されています。日本は11.2%、中国が13.9%、米国が22.9%、などとなっています。
この論文から私が得た結論は以下の2点です。
- 世界ではまだまだ子供たちに基礎的スキルが不足していて、さらに教育を進めることにより、経済成長をはじめとする社会的・文化的・経済的な各国の発展につなげることができる。
- やっぱり、日本の子供たちは優秀であり、当然に、日本の労働者の潜在的な生産性は高いと考えられ、生産性が低いから賃金が上がらない、という経営者団体などの主張にはどこかに誤りがある。
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コメント
ということは、仕事のさせ方を含めたマネジメントが悪いということなのでしょうか。それとも企業風土?。高度成長期には、それなりに素晴らしかったと思うのですが。
投稿: kincyan | 2023年11月22日 (水) 19時58分
>kincyanさん
>
>ということは、仕事のさせ方を含めたマネジメントが悪いということなのでしょうか。それとも企業風土?。高度成長期には、それなりに素晴らしかったと思うのですが。
はい。経営スキルの低下がハードとソフトの両面で生じている可能性があります。まず、投資不足です。雇用者1人あたりの資本ストックが減少しているのは先進国では日本くらいです。1人当り資本ストックが伸びていないのは致命的です。加えて、経営者の資質の問題です。高度成長期には著名な経営者がいっぱいいました。高度成長期以降でも、ソニーのモリタ、パナソニックのマツシタ、ホンダのホンダ、東芝のドコウなどなど、カタカナのままで世界で通用する経営者がいました。21世紀に入ったてからの米国でいえば、GAFAのラリー・ペイジ、亡くなったスティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾスなどは学生でも名前が上がりますが、日本の傑出した経営者はなかなか思い浮かびません。こういったトップ経営者の欠如も、トップでない経営者のお手本がなくなった、という意味で、それなりに幅広い影響が及んでいる気がします。
投稿: ポケモンおとうさん | 2023年11月23日 (木) 15時38分