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2023年11月25日 (土)

今週の読書はグローバル化の変質を論じた経済書をはじめ計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、馬場啓一・浦田秀次郎・木村福成[編著]『変質するグローバル化と世界経済秩序の行方』(文眞堂)では、かつてのグローバル化の方向が、最近では米中の対立に始まって、ロシアのウクライナ侵攻などに起因して、分断=デカップリングの方向に進んでいることから、地政学や経済安全保障の観点も含めたグローバル化の進展を論じています。東野圭吾『あなたが誰かを殺した』(講談社)では、人気のミステリ作家による作品で、警視庁刑事の加賀恭一郎が避暑地の夏のパーティーの夜に起こった連続殺人事件の謎を解き明かします。吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)では、会話を台無しにする思い込みや決めつけを排して、観察に基づくコミュニケーションを論じています。新堂冬樹『ホームズ四世』(中公文庫)では、ホームズの曾孫に当たる歌舞伎町のホストがワトソンの曽孫と2人で行方不明の質屋の経営者を捜索します。伊坂幸太郎ほか『短編宝箱』(集英社文庫)は短編集であり、特に、米澤穂信「ロックオンロッカー」で、図書委員の高校生2人がケメルマンの「9マイルは遠すぎる」ばりの推理を披露します。最後に、青山美智子ほか『ほろよい読書 おかわり』(双葉文庫)も短編集で、冒頭に収録されている青山美智子「きのこルクテル」では、作家を目指す青年がライターとして雑誌のアルバイトで、下戸にもかかわらず、取材のためにバーを訪れます。
ということで、今年の新刊書読書は交通事故前の1~3月に44冊でしたが、6~10月に130冊を読みました。11月に入って、先週までに17冊、今週ポストする6冊を合わせて197冊となります。どうやら、例年と同じ年間200冊の新刊書を読めそうな気がしてきました。

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まず、馬場啓一・浦田秀次郎・木村福成[編著]『変質するグローバル化と世界経済秩序の行方』(文眞堂)を読みました。編著者は、順に、杏林大学・早稲田大学・慶応大学の研究者であり、専門分野は国際経済学や貿易論などです。本書では、従来のグローバル化、すなわち、世界経済に網を広げたサプライチェーンやグローバル・バリューチェーンが、米中対立や、さらに、ロシアによるウクライナ侵攻などにより分断ないしデカップリングを生じ、地政学や経済安全保障の観点もグローバル化の分析に必要となった段階の国際経済分析を展開しています。時系列的にガザ地区での軍事衝突は本書のスコープ外ですし、現時点では明白なな石油供給などにおける制約は出ていませんが、パレスチナとイスラエルの対立も深刻さを増しています。本書は5部構成であり、第Ⅰ部ではサプライチェーンやグローバル・バリューチェーン、第Ⅱ部ではロシアによるウクライナ侵攻に対する経済制裁、第Ⅲ部では自由貿易協定などの地域連携の進展、第Ⅳ部では経済安全保障について、それぞれ議論を展開しています。渡しの場合は、特に、サプライチェーンやグローバル・バリューチェーン、さらに、経済安全保障との関連で、私自身が弱くて等閑視していた分野ですので、授業準備も含めて勉強のために読みました。まず、冒頭から明らかなのですが、私の大きな疑問は、WTOドーハ・ラウンドでのシアトル会合が失敗した原因は反グローバル化の直接的な行動だったのですが、それと同様に、米国的なフレンド・ショアリング、すなわち、自由と民主主義といった価値観を同じくする友好国の間で経済関係を進化させ、場合によっては、自由と民主主義ではない専制的ないし権威主義的な国と分断してもしょうがない、あるいは、積極的に分断でカップリングする、という経済政策は、ブロック化のリスクが大いにある、ということです。第2次世界大戦の前における世界経済のブロック化から戦争に至った経緯を反省して、すべての国が平等に加盟する国際連合=国連が発足し、経済分野でも貿易に関してはGATT、その後のWTOがマルチの場を提供し、ラウンド交渉により最恵国待遇をテコにして世界全体での貿易や投資の拡大、ブロック化しないマルチの世界経済全体での繁栄を目指していたハズなのですが、ドーハ・ラウンドの失敗とその後のマルチの場での貿易交渉の停滞により、ブロック経済化が進んでいるように、私には見えます。ブロック経済化の背景には価値観を同じくする友好国でグループを結成し、分断ないしデカップリングが経済的にも政治外交的にも進んでいる、という事実があります。そして、世界経済だけでなく、先進国の国内経済や政治的な面でも分断が進んでいるおそれが散見されます。米国では前のトランプ政権の誕生がそうですし、英国のEUからの脱退、BREXITもそうです。大陸欧州諸国ではポピュリスト政党の躍進が見られましたし、アルゼンチンではとうとう極右の大統領が誕生しました。国内レベルでの分断は本書の分析とは少し離れますが、本書で着目する世界経済レベルでの分断を背景に、サプライチェーンの安全保障が、例えば、私が知る限りでも昨年の「通商白書2022」あたりから明示的に議論され始めています。日本の場合、米中対立においては、同盟関係から米国サイドに立つわけですし、自由と民主主義という価値観と専制的ないし権威主義的な価値観でも前者に属すると考えられるのですが、政治・外交的な見地からサプライチェーンやグローバル・バリューチェーンを構築するのか、あるいは、逆に、サプライチェーンやグローバル・バリューチェーン構築の必要から政治・外交の立場を決めるのか、難しい選択なのかもしれません。少なくとも、第1次及び第2次石油危機の際には、日本は後者の選択を取ろうとしたと見られる動きもあったと記憶しています。世界における日本のプレゼンスが大きく低下し、外交における発言力も小さくなっていますが、日本が世界に対して何らかの発信をする必要があるのかもしれません。

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次に、東野圭吾『あなたが誰かを殺した』(講談社)を読みました。著者は、我が国を代表するミステリ作家の1人であり、私がクドクドと述べるまでもありません。本書も最近よく売れているミステリですから、簡単に紹介しておきたいと思います。謎解きは、警視庁刑事である加賀恭一郎で、リフレッシュ休暇っぽい長期休暇中の行動です。事件は8月上旬に、いかにも軽井沢を思わせる別荘地のパーティーの夜に起こった連続殺人事件です。犯人はすぐに捕まりますが、自供が得られずに真相が不明のまま2か月ほど経過します。この殺人事件を加賀恭一郎が、現場での遺族による事件後に開かれた検証会に出席して、少し現場を見て回りはするものの、安楽椅子探偵のように解決します。ただ、純粋に安楽椅子探偵ではなく、殺害現場で実に重要な発見をしたりします。地元県警所轄署の担当課長もこの検証会に出席しているのですが、ここまで重要な発見を警視庁刑事にされてしまうのも、大きな困りものだという気が私はしました。関係者、というか、殺された被害者や負傷者をはじめとするパーティー出席者は軽井沢を思わせる別荘地に別荘を持っているわけですから、いわゆる「別荘族」であり、お金持ちです。ある意味では、その昔にはやった言葉で「勝ち組」ともいえます。小説の登場人物は主要にはパーティーの出席者であり、その中で被害者はナイフで殺されたり怪我を負ったりしますが、順不同で私が記憶している登場人物は以下の通りです。第1に、公認会計士の夫と美容院経営の妻とその中学生の娘の一家は、夫婦2人が殺されます。第2に、病院経営の院長とその妻と夫婦の娘とその娘の婚約者の一家は、病院院長が殺され、娘の婚約者が軽傷を負います。第3に、企業のオーナー経営者夫妻が殺人事件が起こった夜のパーティーを主催しているのですが、夫人の方が実は夫よりも陰の実力者で「女帝」とされています。第3のオマケとして、従業員夫妻と小学生の子供もパーティーに出席しています。「女帝」の経営者夫人が殺害されます。第4に、夫を早くに亡くして東京から別荘に移り住んだ40代の女性とその姪と姪の夫の一家は、姪の夫が殺されます。加えて、登場人物ではあるもののパーティー出席者ではない登場人物が2人います。すなわち、まず加賀です。最後の家族の姪は看護師をしていて職場の同僚から加賀を紹介されて、検証会に加賀の同行を求めます。最後に、繰り返しになりますが、地元所轄署の刑事課長も検証会に同席します。検証会は2日に及び、初日は検証会出席者が宿泊するホテルの会議室、2日めは現場を歩いて回ります。謎解きは東野作品らしく鮮やかですが、まあ、特別なところはありません。でも、最後の最後にどんでん返しが待っています。これは鮮やかなものです。もっとも、『方舟』のような反転してひっくり返るような turnover のどんでん返しではなく、チョコっと付加されるヒネリという意味での twist のどんでん返しです。ミステリですので、謎解きは読んでいただくしかありませんが、最後に私個人の感想として、別荘を持つくらいのお金持ちであれば、やっぱり、こういった裏の顔があることは、人生60年余り生きて来てそうだろうと実感しています。その昔の公務員をしていて統計局に勤務していたころ、統計局には非常にナイーブな人が多く、役所で出世して局長だとか課長になっている人は人格も高潔なのだろうと考えている人ばっかりで大いにびっくりしたことがあります。国家公務員として役所で出世している人の中には、全員とはいいませんが、たぶん、腹黒さでは世の中の平均よりも腹黒い、というのが私の実感です。ひょっとしたら、大企業でもそういった例が決して少なくない可能性は感じます。平均的なキャリア公務員よりも出世できなかった私自身が自分で人格高潔と主張するつもりはありませんが、人並み以上に出世している公務員なんて、ロクなものではないと思うのが通常のケースではないかという気もします。このミステリでは、主目的ではないのは当然としても、そういった世間の「勝ち組」の裏の顔を見ることができます。

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次に、吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)を読みました。著者は、ANA(全日本)、証券会社、人材コンサルティング会社などを経てコミュニケーションを専門とするコンサルタントとして独立した活動をしている、ということです。いろんな職業の中で、噺家と教員ではしゃべるスキルが重要です。本書はよりインタラクティブな会話に焦点を当てていて、噺家や教員に必要とされる一方的なおしゃべりとは違うのですが、まあ、何と申しましょうかで、授業の改善に役立つかと考えて読んでみました。本書で主張されているのは、先入観に基づく何らかの思い込みや決めつけが会話を台無しにし、コミュニケーションを阻害する、ということで、これを防止して心地よい会話にするためには会話の相手をしっかり観察する必要がある、ということにつきます。ただ、それができないから苦労しているのではないか、という気もします。ゴルフで、ティーグラウンドでドライバーを振って、フェアウェイ真ん中に250ヤード飛ばせ、というアドバイスと同じで、それをするために何が必要かという点が必要になる、という意味です。加えて、会話ではないでしょうが、大学の講義の場合、数百人の学生を相手にするわけで、出席学生全員を正確に観察することも不可能に近いものがあります。ということで、私が公務員のころに政治家のいわゆる「失言」をいくつか見てきましたが、その大きな原因のひとつはウケ狙いでジョークを飛ばそうとして滑るケースです。ですから、それを避けるためには、ウケ狙いをせずに面白くなくていいので正確な表現を旨とすることです。そうです。そうすれば、役人言葉に満ちていて正確だが何の面白味もない会話が出来上がるわけです。基本的に、大学の授業とはそれでOKだと私は考えています。少し前に強調された「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」というのがありますが、大学の授業、少人数で顔と名前が一致してそれなりの親しい間柄といえるゼミなどでは、あるいはOKかもしれないと思うものの、数百人が出席する大規模な講義などでは差別的な発言などのポリコレに反した発言を含む授業はすべきではありません。これはいうまでもありません。でも、そうすると、繰り返しになりますが、正確かもしれない反面、面白味がなくて印象に残らず、したがって、専門知識や教養として身につかない授業になる恐れすらあるわけで、そこは公務員とは違って教員として面白くかつ印象に残る授業を模索する毎日です。長い旅かもしれません。

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次に、新堂冬樹『ホームズ四世』(中公文庫)を読みました。著者は、小説家です。タイトル通りに、シャーロック・ホームズの子孫が活躍するミステリ・サスペンス小説です。歌舞伎町ホストクラブ「ポアゾン」ナンバーワン・ホストである木塚響はホームズの曾孫、ひ孫に当たります。ホームズの孫に当たる父親は探偵事務所を経営しています。ホームズの子供、すなわち、主人公である木塚響の祖父が、ホームズ物語でも言及されているバリツ=柔術を極める目的で来日し、そのまま日本に居着いた、ということになっています。そして、この主人公のホストクラブの太客である加奈という質屋の経営者が行方不明になり、質屋の店長から捜索の依頼が入ります。そして、なぜか、その質屋の店長は別の探偵事務所の女性探偵である桐島檸檬にも同じ依頼をしていて、2人が共同で捜査に当たります。そして、この桐島檸檬はワトソン医師のひ孫であり、彼女の父親も探偵事務所を経営しています。桐島檸檬はとてもタカビーなキャラに設定されています。他方で、木塚響は割合と謙虚なキャラに設定されています。そして、ジェームズ・モリアティ教授の孫と称するする女性ラブリーが敵役キャラとして登場し、ついでに、モラン大佐の孫も登場したりします。ということで、とても突飛であり得なくも、ぶっ飛んだ設定のミステリ、サスペンス小説です。一応、失踪人捜索で謎解きの要素はそれなりにありますのでミステリといえます。ただ、登場人物がすべてホームズ物語の子孫というあり得なさの上に、モリアティ教授の孫と称するラブリーは世界政府のように、世界を裏で牛耳る組織の日本支部長で、政治家からヤクザの裏社会まで、すべてを動かせる権力を持っている、という、これまた、不可解かつ荒唐無稽な設定になっています。ただ、殺人や暴力の要素はほとんどなく、男女が入り乱れますが、エロの要素もほとんどありません。荒唐無稽な設定とはいえ、それは「ドラえもん」の道具と同じで、それなりに夢を感じる読者もいるかも知れませんし、そもそも、ホームズその人がフィクションの世界にいるわけですので、そういった設定を難じるのは野暮というものです。もちろん、ミステリですので、謎解きや事件の真相などは読んでいただくしかなく、あらすじなどもここまでとしますが、まあ、面白かったですし、それなりに記憶にも残る内容です。個人的な事情を明らかにすると、私は基本的に学術書を中心に据えた読書なのですが、町田その子の『52ヘルツのクジラたち』と『魚卵』を読んだ上に、辺見庸『月』でとどめを刺された形になって、先週までの重い読書のために、メンタルに変調を来す恐れすらあると自覚していたので、この小説を手に取りました。そういった軽い読書を求める目的、あるいは、それなりにページ数もありますので、時間つぶしにはもってこいです。その意味で、いい本でしたし、オススメです。

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次に、伊坂幸太郎ほか『短編宝箱』(集英社文庫)を読みました。著者と短編タイトル、さらに、簡単な紹介は以下の通りです。伊坂幸太郎「小さな兵隊」では、小学校4年生の岡田くんが教室にある他児童のランドセルに印をつけたり、学校の門にペンキをかけたりする問題行動を取るのは深いわけがありました。でも、その背景までは岡田くんには理解できていませんでした。奥田英朗「正雄の秋」では、ライバルとの局長への出世競争に破れた50歳過ぎのサラリーマンは総務局勤務あるいは関連会社の役員としての出向の選択肢を示されますが、妻とともに人生の進路についていろいろと考えを巡らせます。米澤穂信「ロックオンロッカー」では、図書委員の高校生2人がケメルマンの「9マイルは遠すぎる」ばりに、美容店店長の「貴重品は、必ず、お手元におもちくださいね」の「必ず」から推理を働かせます。東野圭吾「それぞれの仮面」では、ホテル・コルテシア東京の山岸尚美が元カレのトラブルを解決します。桜木紫乃「星を見ていた」でが、ホテル・ローヤルの従業員の女性に次男坊から優しい手紙が現金といっしょに送られて来ましたが、その稼ぎ方は本人が主張するように左官として働いたからではなく、犯罪行為に関与している疑いがあると報道されます。道尾秀介「きえない花の声」では、主人公の母親は夫、すなわち、主人公の父親が職場の若い女性と浮気しているのではないかと長らく疑っていましたが、後年、昔の勤務先近くに主人公といっしょに旅行した際に、職場での夫の秘密の行動の真相が明かされます。島本理生「足跡」では、人妻の不倫について、「治療院」と称する場で働く男性と主人公の関係から、この作者らしく、うまくいきそうでうまくいかない男女のビミョーな関係を描き出しています。西條奈加「閨仏」は江戸時代が舞台の時代小説で、青物卸商が妾4人を同じ家に住まわせるている中の1人、おりくが木製の仏像作成を始めますが、それが寝室=閨で使うものだったりします。荻原浩「遠くから来た手紙」では、30代で子供ができたばかりの女性が夫婦喧嘩で乳飲み子を連れて実家の静岡に帰って来ると、旧漢字で文字化けするメールが来るようになりますが、何と、差出人は戦争で亡くなった祖父からでした。浅田次郎「無言歌」では、戦争中に大学生から学徒動員された即席士官が海軍に入隊し、仲間や部下の下士官とともに短かった人生を語り合います。朝井リョウ「エンドロールが始まる」では、卒業式の日の女子高校生が図書室で高校生活を思い返すのですが、卒業する母校は他校と合併してなくなってゆくため、エンドロールのように思いが湧き上がります。ということで、長くなりましたが、かなり水準の高い著者による出来のいい短編集です。ただし、それだけに、私の場合は既読の作品が多かったです。直感的員、⅔くらいは既読だったような気がします。でも、再読であったとしても、水準高い短編ですので、特に、私のような記憶力のキャパが小さい人間には、とてもいい時間つぶしだと思います。


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次に、青山美智子ほか『ほろよい読書 おかわり』(双葉文庫)を読みました。なお、おかわり前の『ほろよい読書』も私は読んでいます。短編集で、作者はすべて女性小説家です。タイトルから理解できるように、お酒にまつわるエピソードを集めたアンソロジーです。収録順に、著者と短編タイトルとあらすじは以下の通りです。青山美智子「きのこルクテル」では、大好きな女性小説家の作品を目標に作家を目指す青年が、ライターとして雑誌のアルバイトで、下戸にもかかわらず、取材のためにバーを訪れると、美人バーテンダーがいて酒も飲まずにキノコの話題で盛り上がります。でも、その美人バーテンダーの正体が、何と…、というストーリーです。朱野帰子「オイスター・ウォーズ」では、高偏差値大学出身の女性とベンチャー企業の男性オーナーが、SNSを通じて知り合って、というか女性の方から男性を狙って、かつての復讐のために牡蠣を食べにオイスター・バーで2人で腹のさぐりあいを展開します。一穂ミチ「ホンサイホンベー」では、主人公の父親が死んで、再婚相手のベトナム人とベトナムのジンを飲んで、かつてのわだかまりを解消させる女性の心情を描き出しています。タイトルはベトナム語であり、Không Say Không V'ê と綴ります。「酔わずに帰れるか!」という意味だそうです。ただ、正確にベトナム語を写していないので、似たような記号を使っています。悪しからず。奥田亜希子「きみはアガベ」では、中学生の女子のあるべき姿への童貞と恋の物語をテキーラの原料となるリュウゼツランにからませて展開します。西條奈加「タイムスリップ」はちょっと不思議な体験で、主人公の女性がふらりと入った居酒屋で若い店員から薦められた日本酒をいくつか味わうのですが、別の日に同じ場所にある居酒屋に行くと、店の名が変わっている上に、働いているのもかなり年配のオジサンばかり、という経験をします。繰り返しになりますが、タイトル通りに、すべてお酒にまつわる短編で、作者のラインナップを見ても理解できるように、出来のいい上質な短編が収録されています。これはこれで、オススメです。

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